1,式典(ギフト授与)
15Rになっていますが、そんなに残虐な表現はありません。
そんなにエロはないですが、ホモくさい表現は多いです。しかし、ガチホモというほどではありません。
戦術や戦略など、本格的な戦記ものだと思っています。
執筆の頻度はスローペースになると思いますが、よろしくお願いします。
礼拝堂の大広間では、シルバニア中央国家が主催した士官養成学校の卒業式が行われていた。
天井近くに取り付けてある小さな窓からは、春の昼過ぎの淡い日差しが入って大理石の床を照らし、それが乱反射して広間で起立している大勢の出席者の表情をあらわす。
広間の西側の壇上にはシルバニアのブランドン首相をはじめ、国家運営にかかわる重鎮たちが並び、古いテーブルを前に直立している9人の若者を見つめている。
テーブルの横には80歳を超えるシュバーセン校長が立ち、白くて長いひげをさすりながら、左手に持った卒業生の目録を確認していた。
横一列に並ぶ9人のうち、右端に立つタケル・テンドウは広間を見回す。
シルバニアの偉い人たちと、タケルの横に並ぶ従属国の王子、王女たち。しかし、シルバニアの従属国だったのは過去のこと。実際には完全な自治国であり、現在はシルバニアのコントールからは外れていた。
「ねえ、タケル。礼儀正しくしなさいよ」
左に立つアリサが彼をたしなめた。
アリサ姫は170センチのタケルよりも少し背が低い。しかし、運動神経はずば抜けていて、戦闘訓練の教科ではトップクラス。ショートカットの黒髪に黒い瞳、細身だが胸は大きい方でスタイルは良く、表情も整っている美少女だった。
「分かっているよ。信用ないなあ、俺も……」
苦笑いで答えたタケルは剣技や弓の技術は最下位だった。だが、その代わりに戦略や戦術などの座学は得意でペーパーテストでは常に上位だった。彼は平凡なスタイルで、幼さを残す童顔であった。しかし、時が過ぎれば男前になるだろうなと言う人は多い。
タケル以外の8人は豪華な自国の軍服や優雅なドレスをまとっていた。だが、姫の従者であるタケルは普通の礼服を着ていた。
「ガルガント大帝国、第一王子バウンティ・フォン・ノルトハイム殿、前へ」
校長の低くて通る声に、大柄な男が「はっ」と強く返事をしてテーブルの前に進み出た。
バウンティは肩幅の広いガッシリとした体で、角ばった顔が無骨さを示している。15歳の時に入学し、それから3年の養成期間は彼を一人前の軍人に仕立て上げていた。ガルガントの黒い軍服を身に着け、それには光り輝く勲章がいくつも飾られていた。
「この者に神の贈り物を与え給え」
そう言って校長はテーブルの端にあるガラスの半球の上に手をかざした。
するとテーブルの上がぼんやりと光りだして、次第に箱の形に収束した。
「バウンティ殿には、聖なる鎧『ネミア』が与えられた」
神からのギフトと言われている聖なる武具を校長が紹介する。バウンティはテーブルに近づき、細かな象眼が施された木の箱をうやうやしく持ち上げた。ふたがないので中に入っている銀色のプレートアーマーが確認できた。
彼は30キロもある木の箱を軽々と持ったまま元の場所に下がっていく。
「バウンティ王子、万歳! ガルガント大帝国、万歳!」
列席者の中から祝福の声が響く。それは本国から付いてきたバウンティの従者たち。シルバニアに次ぐ大国なので列席者も多い。
今、行われているのは百年に一度だけ可能になるという神からのギフトの授与式だった。
神事を行う聖なる机の上に、選ばれた者たちの能力に相当する神からの贈り物が現れる。その聖なる武具と名誉を士官学校の教育を終えた、各国の行く末を担う若者に与えて、主催国であるシルバニア中央国家に対する忠誠心を高めようとする思惑だった。
形式的には大陸の支配国はシルバニア中央国家だが、その求心力は時代とともに衰えてきている。そのために大陸は群雄割拠の状態におちいっていたので、それを何とかするために考えられたのが、ギフトを餌にした士官養成学校であり、シルバニアに対する敬意を植え付けようとする教育だった。
「続いて、マクドリア王国の第一王女、ベアトリス・マーレイ姫、前へ」
進み出たのは、長い黒髪が背中まで流れている発育のよい美少女。黒く染められたシルクのドレスを着ている。彼女も18歳になるまで士官学校で教育を受けていた。皮肉が得意そうな笑顔を浮かべて、その細い目に宿る光は気位が高いことを物語っていた。
校長が神に願ってガラス球を操作すると、今度はテーブルの上に鉄製のショートソードが現れた。
「ベアトリス姫には、聖なる短剣『ビジブル』が与えられた」
校長が説明すると、彼女はニヤついた表情で短剣を両手で掲げたまま後退した。
「姫君、おめでとうございます! マクドリア王国に栄光あれ!」
今度はベアトリスの従者たちの歓喜だった。
「次はベルナール公国の第一王女、ビアンカ・ド・ベルナール殿、前に」
白いドレスの裾をつまみ、静々と進み出たのは小柄で幼い顔をした少女。長い銀髪を背中で結び、茶色の瞳は不安そうにテーブルの上を見ている。
校長の操作により、テーブルの上に30センチくらいの金属の盾が現出した。
「ビアンカ殿には、聖なる盾『アイギス』が贈られた」
その声に、ビアンカの従者たちの拍手が広間に響く。
「では、コスタリカ王国の第一王子、アレクサンドル・ド・シャトレ殿、神の前に進まれよ」
のしのしと歩いてきたのは、180センチを超えるガッシリとした体格のアレクサンドル。
目が細く鋭い視線。頬には傷があり、まだ18歳なのに過去において戦いを経験したことを物語っている。
校長が聖具を呼び出す。すると、テーブルの上に表れたのは黒くて長い、こん棒のようなメイスだった。
「アレクサンドル殿には、聖なる武器「ダークメイス」が贈られた」
その長さは80センチくらいで重さは2キロを超える。常人を超える筋力がなければ威力を発揮できな武器。その先端には矢の羽のように鉄板が取り付けられていた。
アレクサンドルは不敵な笑みを浮かべると、メイスを片手で軽々と持ち、一礼してから下がっていく。
「よくやったぞアレク!」
後方から図太い声が響いた。それはコスタリカ王国の老将軍、ブルーノであった。
聖なる儀式は粛々と進み、7人目のタタール王国、第一王子ライナー・フォン・クールバッハに曲刀「ハルパー」が贈られた後、いよいよアリサの番になった。
「トルーナン王国の第三王女、アリサ・フォン・ルシュクエール殿、前に進まれよ」
白いロングドレスを着たアリサは両手を前に組んで静々と進もうとしたが、3歩ほど出たところで絹のドレスの裾を踏み、前につんのめった。
場内に失笑が起こる。
「もう! 邪魔くさいわね」
アリサはドレスの裾を膝上までたくし上げると、縛って落ちないようにしてから静かにテーブルの前に立った。
「この者に神のギフトを与え給え」
校長がガラス球に手を置くとテーブルの上が光りだす。
その輝きは長細い形に収束し、テーブルの上には銀色のロングソードが現れた。
「……アリサ殿には、聖剣『エクスカリバー』が贈られた!」
校長の声に興奮が混じり、列席者がどよめく。
「マジかよ! あの聖剣は本当にあったんだ」
「信じられん。まさか、女にエクスカリバーが与えられるとは……」
「何かの間違いじゃないのか。その聖剣を持つものは大陸を統一するという伝説があるんだぜ」
会場内にざわめきが広がる中、アリサは頬を紅潮させて両刃の聖剣に手を伸ばし、右手で高々と持ち上げた。
「姫様、おめでとうございます!」
後方で歓喜の声を上げたのは、アリサの副官のアルベール・バスク。
喧騒を他人事のように受け止め、ぼんやりとした顔でタケルはそれを眺めていた。
ざわめきが収まるのを待ってから、校長は手に持った目録をめくった。
「最期にトルーナン王国のタケル・テンドウ殿、前に進まれよ」
タケルはゆっくりと進んでいく。
会場からは不満の声と嘲笑が湧きあがった。
「貴族でもないやつが、どうしてギフトをもらえるんだ?」
「なんでもシュバーセン校長の強い推薦だそうだぜ」
「校長はトルーナン王国のクリストファー王と仲が良いとのこと、校長が気を使って無理にねじ込んだのさ」
「タケル・テンドウとか変な名前だよな。なんでも10年前の大戦のとき、戦災孤児としてさまよっているところをクリストファー王に拾われたらしい」
「今はアリサ姫の従者だろう? カバン持ちのくせに……」
「姫のスカートの中に潜り込んで、着崩れた下着を直すのが役目じゃないのかなあ。ゲヘヘヘヘ……」
儀式会場に、遠慮がない下卑た笑いが流れる。
「校長におべっかを使いまくって、ケツでも貸したんだろうさ」
下世話な会話がタケルにも届くように声を高めていた。
「タケル殿は士官学校において学業が優秀であり戦術教科に秀でていたので、それゆえに特別にギフトを得る資格があると認めた」
校長が説得するように朗々と説明口調で言った。そして、ガラス球を操作する。
テーブルの上にロウソクの炎のような小さな光が灯り、それは指輪として現出した。
それは銀の指輪で、はめ込まれた黒い宝石には五芒星が怪しく光っていた。
「タケル殿には賢者の指輪『ソロモン』が与えられた」
場内は静けさで満たされてから、疑問のざわめきが波打つ。
「なんだ、それ?」
「聞いたことがないな……」
周りの声に答えるように校長が説明する。
「この指輪は、半径100メートル以内の物を立体的に知ることができ、物体の材質や状態を把握できるものである」
しばらくの無言ののち、会場には遠慮のない笑い声が湧きあがった。
「アハハハハ! なんだ、武具じゃないのかよ」
「状況を知るって……、それは偵察隊の役目じゃないか」
「斥候役か、まあ平民には似合っているよな」
周りから聞こえてくる、あからさまに侮辱的な笑い声の中、タケルは少し青ざめた顔でテーブル上の指輪を取り上げた。そして、震える右手で指輪を左手の中指にはめる。
そのリングの五角形の紋様を凝視しながらタケルは興奮していた。
マジかよ! こんなチートな指輪を天才の俺に与えるとは……鬼に金棒、魔法使いにメテオストライク魔法だぜ。神は俺に大陸を手に入れろって言っているみたいだな。でも、俺のガラじゃないし面倒なのでアリサを大陸王にしてやるか。
周りの評価とは全く別の印象をタケルは受けていた。
彼は深々と頭を下げてから、ゆっくりと元の場所に戻っていく。
トルーナン王国の従者たちからパチパチという礼儀程度の拍手が送られていた。
*
式典会場の控室。
その狭い部屋にはテーブルが置かれ、アリサ姫とタケル、アレクサンドル、ビアンカが集まっていた。
「タケルともお別れだな」
そう言ってアレクサンドルはティーカップの紅茶を飲んだ。実際の戦争を体験しているだけあってコスタリカ王国の軍服がやけに似合う。
「ああ、アレクも元気でな」
タケルはニコリと笑って答える。
「タケルさんもお元気で。トルーナン王国では問題を起こさないようにしてくださいね」
ビアンカはクスリと笑ってティーカップを両手で持ってチビチビと飲む。
「なんだよ、信用がないんだなあ、俺って」
タケルが照れ臭そうに笑う。
「この学校ではトラブルメーカーだったじゃない」
たしなめるような視線でタケルを見据えるアリサ。
「そうだったかな……でも、それはこっちのせいじゃないぜ。俺に突っかかってくる人間が多いんだよ」
そう言って窓の外に視線を逃がした。
「3年間、一緒に学んできたが、もう会えないんだよな」
寂しそうに言って、アレクサンドルが紅茶を飲み干す。
部屋の中が無言になり、寂寥感が漂う。4人は今までの学校生活を思い出していた。
大きな音を立ててドアが開く。
「アリサ姫はいるか!」
ノックもせずに部屋に飛び込んできたのはベアトリスだった。
4人は驚いて無神経そうな姫に注目する。
「アリサ姫に決闘を申し込むわ! わたくしが勝った時にはエクスカリバーを頂きましょう」
鼻息を荒くし、豊満な胸をフルフルと揺らせているベアトリス。
タケルは苦笑いし、他の3人はポカンと口を開けたまま固まっていた。
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