第三話:季節は春
こんにちは
ミディア寝子です
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カーテンがくすぐるように頬に触れてきた。
お腹に感じる重たさがまるで起きろと催促しているようだ。
撫でるとすり寄ってくる。
滑らかな毛並みはクリームみたいだ。
爪を出していることにも気づかずにフミフミとご飯をねだられるとどうにも憎めない。
急かすような足音を聞きながら階段を降りて、朝食の準備を始める。
トーストを焼いている間にミルクを少し温めてお皿に注ぐと早速ぴちゃぴちゃと飲み始める。
ご飯を袋から出すと「にゃうにゃう」と喜ぶ。
私もミルクを飲みながらトーストをかじる。
ご飯を食べる様子を眺めながらいつも思う。
”あ…またこぼしてる”
部屋から出ようとするのに気がついたようだ。
「散歩に行くからね」と後ろをトテトテとついてくるのをやめさせた。
外に出るとまだ少し肌寒いが、柔らかな風に乗って小さな花びらが舞っている。
歩いていると公園の木の下でブルーシートを広げる人たちがいた。
子どもたちは綿毛を飛ばしたり、蝶を追いかけたりしている。
穏やかな陽の光がやさしく子どもたちを包み込んでいた。
もうそろそろ帰ろうかな、と思いながらベンチに腰を掛けてあたりを見渡してみると、美しい青空の下で白い木蓮の花が風に揺れていた。
ドアの向こうに見える影はまるまる太った猫。
拾った時は小さく痩せていたのにいつの間にこんなに大きくなったのだろうか。
微笑ましく思いながら見ているとドアに前足をかけている猫から
”ドアを開けろ!”と…幻覚が聞こえてくる。
初めは怯えて拾ったときのボロボロのダンボールの中からでさえ出ようとさえしなかったのに。
少しずつ慣れていったのか。
今ではもう家中に自分の縄張りを広げ、私を召使いのように鳴き声一つ、動き一つで動かせるようになるなんて。想像できなかった。
「ただいま」
家に帰って誰かが待ってくれることの嬉しさを私は知っている。
独り暮らしを始めた時はもう遠い昔のことだ。
あんなに一人暮らしに憧れていてもいざしてみると心細く感じられる。
異様に広く見える家、誰もいない静けさが煩くて何度も寂しくなった。
案外、拾ってもらったのは私のほうかもしれない。
今日は休日。
平日には私はパソコンと向き合っているばかりでこの子に構ってあげれない。
だからこそ、休日は思いっきり構うことにしている。
何が何でも、嫌だと言われても構い続けてやる。
しかし、嬉しいやら少し残念なようなことがある。この子はあまり嫌がることがない。
平日に構ってもらえないことが分かっているからかこちらから構うといつまでも遊んでくれる。
だからこそ、私達は私達なりの共存関係ができているのだろう。
独りのときがあっても二人のときを作るために…そのために独りのときがあるのだから。
そんな事を考えながら先端にフリフリの毛がついた棒を振り回し遊ぶ。
この子以外の猫は全く食いついてくれた試しがない。
恐らく私の振り方は下手なのだろう。
「遊び疲れたら次は何をしようか?」
「にゃう…にゃおう!」
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※この物語はフィクションです