雪白えみり、神を讃えよ!!
時系列的には、雑誌発売からカノン登場の間です。
「金がねぇ!!」
預金通帳を握りしめた私は、四畳半のボロアパートの一室の中心でこの世の世知辛さを嘆く。
手元に残った金は120円、これであと2週間も過ごさないといけないのか……。
「はぁ……」
そもそも私に金がないのには理由がある。
私の家は元々は上流階級だったが、人のいい私の親は、顔見知り程度の知人や遠く離れた親戚の連帯保証人になったりとかしていたせいで、蒸発した連中の借金の肩代わりで首が回らなくなった。
それもあって、今、私の両親は、マグロ漁船や蟹工船などに乗ってお金を稼いでるらしい。
私は成績もそう悪くなかったことから、国から出る奨学金のおかげでなんとか大学までは卒業できる事になっているが、それでも生きていくためには生活費は必要だ。
「はぁ……とりあえず飯でも食って、バイトに行くか」
私は乱れた衣服を整えると、ボロアパートの外に出る。
そしていつものように、近所の雑草を無心でむしり取っていく。
「あら、こんにちは、えみりちゃん」
「あ……こんにちは」
近所のおばあちゃんに声をかけられた私は、いつものように軽く会釈する。
「ここらへん、よく雑草が生えるでしょう。前までは私がやっていたのだけど、腰を痛めてねぇ……。だから、えみりちゃんみたいな子が居て助かるわぁ。本当にありがとう。隣の家の中川さんも感謝していたわよ」
私はいつものように、言葉を返すことなく、ただにっこりと笑みを返す。
余計なことは喋らない。これが私の処世術だ。嗜みもティムポスキーも姐さんも、私はあまり喋らない方がいいって言ってたしな。
「あ……そうそうこれ、この前、農家をやっている娘から送られてきたのだけど、よかったら食べて。ほら、私、一人暮らしだから食べきれなくて」
おばあちゃんから手渡されたビニール袋の中を確認すると、それはそれは見事な茄子がたくさん入っていた。
ああ……やはり神は私を見捨ててはいなかったのだと再確認させられる。
茄子は揚げてもよし、焼いてもよし、浸してもよし、漬けてもよし、何にでも使える万能お野菜だ。
「あ、ありがとうございます……!」
ああ……このところ草か、バイト先の賄いのラーメンしか食ってなかったから本当に身に染みる。
涙ぐんだ私をみて、おばあちゃんもなぜかつられて涙ぐんだ。
「あらあら、最近の子は、私のようなおばあちゃんがお節介でこういうことをすると嫌がるのに、えみりちゃんは本当に良い子なのね。そんなに喜んでくれるなんて嬉しいわ。娘の育てた茄子は、それはそれはとっても立派でね。味だってすごく美味しいのよ。だから、えみりちゃんみたいな子に食べてもらえるなら、とっても嬉しいわ」
ありがとうおばあちゃん、本当にありがとう……これはちゃんと私が茄子の3段活用で美味しく食べるからね。
おばあちゃんを見送った私は、茄子と一緒に天ぷらにする雑草を収穫した。
「はぁ……はぁ……」
家に帰った私は、自室のアパートで仰向けになって天井を見つめる。
今の気持ちを一言で表現すると、娘さんの育てたお茄子は最高でした。
「あっ! もうこんな時間か、バイト行かなきゃ」
私は再びボロアパートから出ると、ママチャリを漕いでバイト先のラーメン屋へと向かう。
「えみり、今日もよろしくな!」
「はい」
店長に挨拶した私は、いつものようにエプロンをつけて、頭に三角巾を巻く。
私のバイトするラーメン竹子は、安い割にボリュームのあるラーメンを提供している。
だからなのか、客層も私と同じ金のないやつばかりだ。なんせ、元々ここの客だった貧乏人の私が言うのだから間違いない。
「うわ……あの人、超綺麗」
「どっかのモデルさん? それともテレビの撮影かな?」
「間違って高級フレンチのお店に入ったのかと思って焦った」
「なんであんな人がこんな小汚そうなラーメン屋で働いてるの?」
悪かったな! 小汚そうなラーメン屋で!!
でもここのラーメンは絶品なんだよ! 店はちょっと汚れてるように見えるけど、経年劣化なんだから仕方ないだろ!! ちゃんと毎日、壁も天井も床だって拭いてるし、調味料の容器の底まで掃除してるんだぞ!! 文句を言うなら食いにくるな!! どうせお前らだって私と一緒で金がねーから竹子にきてるんだろうが!!
もちろんそんなことを思っていても口に出すわけはない。いつものようにニコニコと微笑みを返すだけだ。
「疲れた……」
バイトが終わると外はもう真っ暗だった。
家に帰った私は、泥のように眠る。
起きていたら起きていただけ腹が減るし、場合によっては金もかかる。
そのおかげなのか、早寝早起きの生活が体の底から染みついた私は健康そのものだ。
今まで生きてきた20年間、風邪すらひいたことがないのが私の自慢である。
その事をみんなに言ったら、ティムポスキーには鼻で笑われ、嗜みには可哀想な目で見られた。
くっそー! 絶対にお前らより長生きしてやるからな!!
でも、そのあと、2人ともご飯を奢ってくれたから許してやってもいいぞ!!
ちなみに普通に健康でいいわねーと褒めてくれたのは姐さんくらいだ。
「まぁ、これでいいか」
服を考えるのが面倒くさかった私は、昨日と同じワンピースを着る。
どうせ雑草抜いてバイト行ったくらいしか外に出てないし、二日続けて同じ服を着ても大丈夫だろ。
むしろ世の中の女子大生は、コロコロと服を着替えすぎなんだよ。
私のこのワンピースなんて、家庭科室のミシンで丈を直したりしてもう四回はリメイクしてるぞ!
「雪白様よ」
「まぁ、今日も相変わらずお綺麗ね」
「雪白様って? あそこにいる綺麗な人の事?」
「あら……あなた、外部生だから知らないのね」
「雪白様は、昔はメアリーの妖精と呼ばれていたのよ」
「今はメアリーの女神様って呼ばれてるわよね」
「そうそう、あまりの美しさに、高等部の時に学校に男子校生がきたくらいなんだから」
なんで女って生き物は、こんなにも同じ女の噂話で盛り上がれるのだろうか。どうせなら男の話をしろ! 昨日誰と妄想デートしたとか、あの映像は良かったとか、もうちょっと女として有意義な会話をしろよ!!
ちなみに高等部の時に私を訪ねてきた男子校生は、不幸な行き違いによる事故みたいなものだ。ほんのちょっと目があっただけで人を犯罪者扱いするな!! そもそも私が見ていたのはお前じゃなくて、その後ろにあった男性用マネキンの股間部だよ!! ちょうどマネキンが服を着替えるタイミングだったんだから少しくらいドキドキしたっていいだろ! そこらへんの澄ました顔をしているお嬢様どもだって、頭の中は8割男の体の作り方のことしか考えてねーよ! それにな、私にだって選ぶ権利はある。だから、お前なんかじゃ妄想しねーよ。ちくしょー!!
「あら……こんにちは」
その週の日曜日、私は自宅や学校からは離れた隣県の教会に足を運んでいた。
ここはたまたまラーメン屋とは別の日雇いのバイトしてた時に見つけた教会で、とある理由から通い詰めている。
「えみりさんは信心深いんですね」
私はいつもと同じように無言の微笑みを返す。
実は日曜礼拝で出されるお菓子が目的だなんて言えない……パクパク。
つい最近、留学から帰ってきた娘さんが今日は応対してくれているが、元々私が通うきっかけになったのは彼女のお母さんであり、この教会のシスターだ。困っていたシスターを偶然にも助けた時に、私は空腹という理由でお腹を鳴らしてしまったのである。その日は三日連続で雑草しか食ってなくて、ついにダンボールを食べるか検討し始めた頃だった。
「よかったら食べて」
この教会では子供の日曜礼拝の時におやつを振舞っている。たまたま日曜だったこともあり、私はシスターさんを助けたお礼に、そのお菓子を分けてもらった。それから私は、シスターの手伝いで日曜はシスター服を着て子供たちの面倒を見ている。もちろんその対価はお菓子だ。甘味ありがてぇ! ちなみに自分でいうのもなんだが、私のシスター服はなかなか様になってると思う。
「えみりさん、シスターに向いてるんじゃないですか?」
シスターの娘さん、千聖クレアは私に向かってそう言った。
ふふん、そうだろう、そうだろう。流石はあのシスターの娘さんなことだけはある。
私のシスター姿を見て、悪徳シスター、いかがわしい何かみたいなんて言ったなんちゃらスキーさんや、たしなんちゃらさんとは違って見る目があるじゃないか!!
「よかったら、今度、外でやる予定のイベントに参加しませんか?」
クレアが差し出したチラシを覗き込むと、外での礼拝イベントについて書かれている。教会にまでいく勇気がないって人のために、駅前で簡易の懺悔室を作ったり、炊き出しをしたり、子供にお菓子を配ったりするイベントで、決して変な内容のものではなかった。
「うーん」
流石に知り合いに見られるの嫌だけど、炊き出しは魅力的だ。参加したらタダで飯が食えるのは大きい。
私がどうしようか悩んでいると、クレアは一枚の長い布切れを私に差し出した。
「それなら、目を隠してはどうですか? お祈りコーナーとかなら、あまり人も来ないでしょうし、視界が悪くてもテントの中で座ってるだけなら大丈夫だと思いますよ。しかもこの目隠し、少し透けて見えるんですよ」
実際に目隠しを装着すると、はっきりとではないが向こう側が透けて見えた。
よっしゃ! これでタダ飯が食えるぞ!!
当日、意気揚々とイベントに参加した私のお祈りコーナーには、なぜかとんでもない列ができていた。
おい!! あんまり人が来ないとか絶対に嘘だろ!! なんだよこれ、聞いてないぞ!!
「やば……ここのシスターさん雰囲気ありすぎでしょ」
「あんまり喋らないけど、声まで綺麗だった」
「ねー。絶対に汚い言葉とか言いそうにないよね」
「お祈りしてもらったらなんか体が楽になった気がするし、絶対にスピリチュアルパワー出てるよ」
「わかる、SNSで拡散しよ!!」
「それにしてもあのシスターさん、目隠ししても美人だよね。オーラ出てるもん」
「しかもシスター服越しのラインの腰のくびれやば、腕も細いし足も長いし中に入ってるのモデルさんじゃないの」
「せっかく細いのに胸のサイズがあるのは残念ね。あれで小さかったら完璧なのに」
うるさいな!! 飯食ってねーから細いんだよ!!
くそー、しかもせっかく取った栄養は胸にとられるし、ふざけんな!! どうせ痩せるならそこも一緒に痩せてくれよ!! そのせいで私は服を選ぶのも大変なんだからな! 胸のサイズで選ぶと、ずどーんとしちゃうし、体の細さで選ぶと、胸のところがはち切れそうになる。こうなったらサラシでも巻くかと思ったが、あまりにもきつくて倒れてからはそれも諦めた。
お前らも羨ましかったら草を食え、すぐに痩せるぞ。
私が心の中でそんな事を呟いていると、奥にいたクレアが私を手招きする。
一旦、席から立ち上がった私は、違う人に交代してクレアのところへと行く。
「えみりさん、えみりさん。ここにえみりさんがいたら危険です。今日はもういいですから帰っても大丈夫ですよ」
え? まだ飯食ってないんだけど?
「ほら、後ろを見てください。まだこんなにいるんですよ」
げげげっ……席から立ち上がって後ろを見るとよくわかったが、すごい人が並んでいた。もはや行列だからなんかよく知らないけど並んどこうかで並んでる奴もいるだろ! おい! さっきSNSで拡散したやつ!! お前だよ、元はと言えばお前のせいだろこれ!!
「……はい」
私はテントの裏からこっそりとその場所を離れる。
ああ!! 結局、飯は食えないし最悪だ!!
「あ……あの」
私がシスター服でトボトボと歩いていると、1人の女性が声をかけてきた。
「すみません。ここで罪の告白を聞いてくれるって聞いたんですけど……」
あ……私は近くにあった表示に視線を向ける。
ここは駅の東口だが、さっきまでいたのは西口だった。
つまりこのお姉さんは東口と西口を間違えたのだろう。
まぁこんなところでシスター服で歩いている私も悪いんだろうけど、着替える場所がないんだから仕方ない。
「えっと……」
私はお姉さんに場所を間違えてますよと正しい場所を教えようとした。
しかし、私に話しかけてきたお姉さんの顔色はとても悪く、なんだか放っておけない雰囲気を漂わせている。
これは放っておけないと思った私は、近くの公園でお姉さんから話を聞く事にした。
「実は私……お付き合いしている男性がいるんです」
はぁ? なんだこいつ、いきなり自慢話か!?
私は怒りで体を震わせた。
「でも……彼、他の女の人とも婚約してて、私はブスだから手は出さないけど、金さえ貢いだら手くらいは繋いでくれるって」
私の中で一つの疑問が浮かぶ。
お姉さんの見た目はどこからどう見ても、そこら辺にいる普通にOLさんだ。
年齢は30代だろうが、特別に稼ぎが良さそうにも見えない。
たとえ男に貢いで萎れていたとしていても、私くらいの幼稚園からメアリーにいるようなお嬢様だと本物ならちゃんと見抜ける。しかし、お姉さんの所作や振る舞いを見ると、間違いなくどこにでもいる普通のOLだ。
この国では、男性の生活は保護されていて、働かなくても中流層くらいの生活ができるような生活は保護されている。しかしそれ以上の生活をしたかったら、自分で働きに出るか、より稼ぎの良い女性と結婚するしかない。
それが政府の狙いで、上流階級の女性の方が男性と結婚しやすい主な理由の一つとされている。
だからこそ違和感があった。このお姉さんの稼ぎを貢いでもらったところで、それほど生活が豊かになるとは思えなかったからである。
「本当は……最初からおかしいなって思ったんです。私の稼ぎなんてたかが知れてるし、このくらいのお金をあてにしなくても、その人の生活は豊かだって気がついてたのに、見ないふりをしていたんです。そしたら……」
お姉さんはぎゅっと握りしめた拳の上に、ポロポロと涙の粒をこぼした。
私はそっとハンカチを差し出す。ちゃんと洗濯して清潔な奴だから安心してほしい。
「その男の人、裏で私を揶揄っていたんです。そう言えば女がどれだけ貢ぐかって、他の男の人と賭けをして盛り上がっているようでした。それも私だけじゃなくて、他にも複数の女の子にそういうことをしていたらしいんです」
はぁ? 最低のクズ男じゃねぇか!!
私はそうやって女の気持ちを弄ぶクソ男が大嫌いだ。
「それで今日……また呼び出されて、お金持ってこいって」
お姉さんはバッグの中から一枚の封筒を取り出すと、封筒に皺ができるくらいの強さでぎゅっと握りしめた。
「もしかしたら……あれは私の聞き間違いで、お友達の男の子には恥ずかしがってそういってたんじゃないかって……そんなことあるわけないのに滑稽ですよね。でも……でも……どうしても止められなくって」
私は封筒を握りしめたお姉さんの手の上から、そっと手を重ねる。
「どうして貢ぐ男性がその人しかいないと思うんです」
「え?」
世界の男女は100人いればその中に男性は1人だけしかいない。
それでもこの国には100万人以上の男性がいるのだ。
確かに私のことを痴女と間違えるようなくそみてぇな男もいるけど、探せば中にはマシな奴だっている。
その中の1人を私はよく知っていた。
『大丈夫? えみりさん、ちゃんとご飯食べてる?』
なけなしのお金で喫茶店に行った時、私はコーヒーだけしか注文できなかった。
そんな私にこっそりと、オーナーには内緒だよって、あくあ様が自分のバイト代から私にミックスランチをご馳走してくれたのである。
あの時、私は何があったのかわからなくて固まってしまった。
『えみりさんまた痩せたよね? もしかしたら食が細くてあまり食べられないのかもしれないけど、これならサラダだけでもいいし、目玉焼きだけだっていいから、ちょっとは食べてくれると嬉しいな。余計なお節介かも知れないけど、無理強いするつもりもないから、本当に気が向いたらでいいから、ね』
あの時の私は、本気で革靴が食べられるか検討し始めていた時だった。
目の前のハンバーグに私の涙腺は崩壊する。1ヶ月ぶりの肉に、私は涙を流しながらかぶりつく。
食事を出してくれたことも嬉しかったかも知れないが、それ以上に、私のことをこんなにも見てくれている人がいるのかという事と、その気遣いに心が震えた。男もまだ捨てたものじゃない。あくあ様がその事を気付かせてくれた。
「どうせ貢ぐなら、彼のような男にするべきです」
私はバッグの中から取り出した聖書、いわゆるお外に持ち運ぶ用に購入したあくあ様が表紙を飾った雑誌を取り出して彼女に手渡す。
表紙のあくあ様を見たお姉さんは、大きく目を見開いた。
お金を貢ぐために生活を相当切り詰めていたのだろう。だから彼女はあくあ様の事を知らなかった。
「見てください。この屈託のない笑顔。なんとこの雑誌、567円で購入できるんですよ」
「えっ?」
驚くのも当然だ。こんな素晴らしいものが税込623円で発売するとか出版社も本当にどうかしている。
私だって値段を二度見したほどだ。
「ビスケットを美味しそうに頬張る姿、ほら、心なしか隣の女の子も自然な笑顔で笑っているでしょう」
この子が女の子か男の子か、そんなことはこの際どうでもいい。
重要なのは、あくあ様の隣にいたその子の顔が幸せそうなことだ。
「貴女、彼といる時、その子みたいにちゃんと笑えてる?」
「あ……」
お姉さんは、雑誌を持つ手を震わせた。
「うっ、うっ……うああああああああああああああああああ」
そこからしばらくの間、お姉さんは大泣きだった。
それなのに、お姉さんのスマートフォンの着信音が何度もけたたましく鳴る。
チッ、ウッセーな。
かけてきた奴はお姉さんが出ないと知ると、鬼のようにメッセージを送りつけてきていた。
「彼からです」
どうしようかと戸惑うお姉さん。
「大丈夫ですよ。なんなら私が返信しておきましょう」
お姉さんから受け取ったメッセージアプリを見る。
件名 早くこい!!
本文 お前みたいなブスが俺を待たせるなよ! 調子こいてんじゃねーぞ!!
私は心配そうな顔をしてこちらを見つめるお姉さんにニコリと微笑む。
件名 うるせぇ、ボケ、カス!
本文 お前に貢ぐ金があったら、そこらへんの雄馬にでも貢いで跨がせてもらうわバーカ!!
うん、これでヨシっと、送信送信……。
ついでに着信拒否もしとくか。私はお姉さんに内緒で、勝手にそいつをブロックしておいた。
あと、このカス男のトゥイッターもDMこないように、通知送りまくってアカウント凍結しておこーっと。
「これで大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます」
それからも私は、お姉さんが落ち着くまで話を聞いて寄り添う。
そして話を聞くうちにだんだんとムカついてきたので、他にも被害にあっている人はいないかとお姉さんから聞き出した。するとお姉さんも自分と同じ被害に遭ってるかも知れないと、可能性のある人の名前を数人あげる。
その人のSNSを見ると、顔写真があったのと生活圏がなんとなくわかったので私はニヤリと微笑む。
「今日は本当にありがとうございました。私、帰りにこの雑誌買って帰ります」
さっきまでが嘘のように、お姉さんは晴れやかな顔で私の前から去っていった。
私はお姉さんから聞き出した情報と、SNSの情報を元に、駅前で布教するシスターを装い、あのクソみてぇな男に騙されている可能性のある女性に声をかけていく。
「あの……よろしければ、あくあ様に御祈りを捧げませんか?」
誰もが最初は不審がった。はっきり言って自分でも相当胡散臭いと思う。
でも、雑誌の表紙のあくあ様の笑顔を見せると、どんな女性も警戒心が薄れた。
案の定、その男は何人もの女性にそんなことを言って弄んでいたらしい。
ほらな。やっぱり思った通りのクソヤローだ。純真な処女の心を弄びやがって、たとえ神が赦しても私が許さんぞ!!
もちろん中には被害者じゃない人もいて、そのせいで私のやっていた事が掲示板でバレてしまう。
もう辞めよう、そう思った時には既に手遅れだった。
「ど、どうしよう……?」
クレアに全てを打ち明け相談した時には、彼女は頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまう。
私が気がついた時には、いつの間にやら聖あくあ教などという胡散臭い宗教団体が一人歩きしていた。
ちなみにそのクソみてぇな男は、風の噂によると大学の先輩の婚約発表パーティーで何かとてつもないやらかしをしたらしく、忽然と姿を消してしまったらしい。しかも、その時、パーティーに参加していた他の男にコテンパンにやられたのだとか。誰だか知らないけど、あくあ様以外の男もまだ捨てたもんじゃねぇな。ざまぁ!!
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