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白銀あくあ、交流学習。

 2学期が始まってすぐ、俺と黛、とあの3人は、生徒会長である3年生の那月紗奈さんに呼び出された。


「3人とも忙しいのに呼び出してすまない」

「いえ、大丈夫ですよ。そういうことはあまり気にしないでください」


 那月会長は乙女咲の学校では有名人で、クラスメイトの女子たちからは残念系美女と呼ばれている。

 美女らしくない行動で全てのプラス要素をマイナスに変えてしまうことからそう呼ばれているらしい。

 俺が最初に那月会長に出会った時も、帰宅途中に近くの川でザリガニを取っていた時だった。

 あの時の姿は衝撃的で、ぱっと見は美女が生足で川に入っているものだから、てっきりいじめか落とし物かと思って声をかけたら、ただ遊んでただけっていうね。むしろ早とちりして、声をかけるより先に川に飛び込んだ自分が恥ずかしくなっちゃったよ。しかも結局そのあと、なぜか会長と2人でザリガニ取りをすることになったし……通り過ぎていく乙女咲の生徒の視線が痛かった。それどころかクラスメイトの黒上さんには翌日、白銀くんって結構子供っぽいところがあるのね、ふふっ、なんて言われちゃうし……あの時はかなり恥ずかしかったのを覚えている。

 まぁ、その事がきっかけで、那月会長はことあるごとに声をかけてくれるようになったし、困ったことがあればすぐに言ってほしいと気をかけてくれるようになった。基本的には悪い人じゃないし、普通に優しい人なんだと思う。ちょっと変わってるんだろうけど……そこも那月会長の魅力の一つなのかもしれない。

 今日はその那月会長が珍しく話があるというので、俺たちは授業が終わったあとに生徒会室を訪ねた。


「交流学習?」

「うむ。これを見てほしい」


 那月会長は、手に持った2枚の資料を俺に渡す。

 こうやって那月会長が生徒会長としてちゃんと仕事をしている姿を見るのは初めてだが、ザリガニ取りで顔を泥まみれにしていた人とはとてもじゃないが同じ人だとは思えない。

 俺は手渡された資料の一枚目に目を通す。


「えっと……聖クラリス女子学校とボランティア活動を通じた交流学習について?」


 聖クラリスといえば、妹のらぴすが通っている学校だ。兄として最近のらぴすはますます可愛さに拍車がかかっていると思う。もしらぴすがアイドルだったら、俺はうちわを作ってハッピを着て欠かさずに応援に行くくらい可愛いと思ってる。

 ただ、最近は反抗期なのか、俺が近づくとらぴすは、しとりお姉ちゃんの背中に隠れてしまうのだ。

 しとりお姉ちゃん曰く、最近の俺は距離が近すぎてらぴすがそうなるのも仕方ないということだが、席が足りなかった時に、サイズ感がちょうどいいから膝の上に乗せたり、お風呂上がりに髪をドライヤーで乾かしてブラシでとかしたりしてるだけなんだけどなぁ。らぴすも年頃だから、お兄ちゃんにそういうことをされるのは嫌なのか……。でも俺だってらぴすを可愛がりたいんだよ! ああ、世のお兄ちゃんよ聞いてくれ。もし、妹を合法的に可愛がる方法があるなら俺にだけこっそりと教えて欲しい。

 俺がそんなことを考えていると、那月会長はニヤリと笑った。


「うむ! 聖クラリスとは毎年一緒にボランティア活動をしていてな……。白銀のその様子だとご家族から聞かされていないのかもしれないが、向こうの生徒会長から、今年は中等部から白銀と猫山の妹さんが参加するから、是非とも本人に打診して欲しいといわれている」


 俺は隣にいたとあと顔を合わせる。

 どうやら向こうは妹さんから聞いていたのか、知ってる感じだったが、俺は全然知らなかった。完全に初耳である。

 俺の反応を見たとあが、え、嘘でしょ、聞かされてないの? みたいな顔をしたが、やめてほしい。実際にらぴすからなにも聞かされていなかった俺のガラスのハートが砕け散りそうになる。


「もちろん、2人とも仕事が忙しいから断ってくれてもいいのだが、念のために本人に確認してからということで話が纏まったんだ。黛はすまない。2人だけに話を聞いて同じクラスの男子一名の黛に聞かないのも良くないかと思って、ついでに呼ばせてもらった。気を悪くしたのなら謝ろう」

「いえ、むしろ呼んでくれてありがとうございます」


 改めて用紙に目を通すと、確かにボランティア交流学習の参加者のところにらぴすの名前があった。


 聖クラリス女子学校、中等部。

 白銀らぴす、猫山スバル、鯖兎(さばと)みやこ。


 そういえばとあの妹のスバルちゃんにはまだ会ったことがないんだよなぁ。

 一体どんな子なんだろう?


「僕は参加しようかな。スバルもいるし……久しぶりに、ミャーコちゃんにも会いたいしね」

「ミャーコちゃん?」


 俺が首を傾けると、とあは用紙の右端に書かれた子の名前を指差す。


「鯖兎ミヤコ、スバルの幼馴染で、僕が引きこもってる時に、パソコンの事とかスバル越しに教えてくれてたから、お礼言いたいなぁって」

「おー」


 なんでもとあ曰く、作曲ソフトの使い方とか、Vtuberの作り方とか? そういうのも全部、そのミャーコちゃんが教えてくれたらしい。用紙を見ると妹のらぴすと同じ中学2年と書かれていた。俺は2年生なのにすごいなぁと思う。というか良くわかっていない俺にとっては、単純にすごいなぁというアホみたいな感想しか出てこなかった。


「他人事みたいだけど、ミャーコちゃんは最近らぴすちゃんとも仲がいいらしいよ?」

「え? まじ?」

「うん、ミャーコちゃん人見知りなんだけど、らぴすちゃんの方が気に入ったみたいで、何度も根気良く話しかけてそれで仲良くなったって言ってた」

「マジか……」


 俺は改めて用紙へと視線を落とす。

 らぴすの事を抜きにしても、ボランティア活動には時間があれば参加したいと思ってた。

 幸いにもボランティア活動の日付に予定は入ってないし、断る理由もない。

 参加しないという選択をする理由もないし、俺は交流学習行事のボランティア活動への参加を了承した。


「会長、俺もボランティア活動には興味があるので行きます!」

「で、本音は?」

「らぴすと一緒のイベント、お兄ちゃんとしては逃すわけにはいかない!」

「もー、あくあは妹ちゃんが絡むとげんきんだなぁ。くすくす」

「ぷふぅ!」


 同じ室内にいた書記会計の御子前先輩が、とあと俺のやりとりを見て吹き出す。


「あ、ごめん、なんでもないから」


 御子前先輩は悪戯っぽくニシシと笑う。派手な金髪と小麦色の肌、御子前先輩は見た目だけ見るとどっからどう見てもギャルだが、成績は2年の中でもトップである。ちなみに2位は、那月会長の隣にいるナタリア・ローゼンエスタ副会長だ。

 ローゼンエスタ先輩はカノンの親戚らしく、顔のパーツから仄かにカノンの遺伝子を感じることができる。しかもカノンより体つきが一歩先大人というか、少し落ち着いているというか、ちょっとだけ未来のカノンを見ているみたいで、そういう気はなくてもドキドキしちゃうんだよなぁ。俺にはカノンがいるから、そんなことは考えないようにしないといけない。


「なるほどね、これを毎日見させられてる同じクラスのクレアちゃんは大変だ」

「はい?」


 少し低い冷めた声で御子前先輩に言葉を返したのは、同じクラスの千聖クレアさんだ。

 中学の時はスターズに留学していたらしく、1学期の途中で遅れて編入してきた千聖さんとは、クラスメイトであるにも関わらず、そういった理由から実はあまり話したことがない。席も遠かったしね。そんな千聖さんだけど、二学期では俺の隣の席に座っている。

 実は二学期の始業式の後に席替えがあって、隣の席だったアヤナは少し遠くに離れてしまった。

 だから今度は隣の席の千聖さんと仲良くなれたらいいなと思ってる。


「ンンッ。すず、少し脱線しすぎですよ」

「あっ、ごめんごめん。白銀くんも猫山くんもごめんね!」


 副会長のローゼンエスタ先輩は御子前先輩を嗜めると、改めて俺たちの方へと視線を向ける。


「白銀さん、猫山さんは参加ということでよろしいですね? 黛さんはどうなさいますか? 別に今日決めなくとも大丈夫ですよ。帰ってからゆっくり考えてもいいし、参加不参加も当日に変更可能ですから」

「あ、いえ……僕も、参加します。いい経験になると思うし、ボランティア活動には以前から興味があったので」


 黛は隣にいた俺たち2人の顔を見る。黛がボランティア活動に興味があったのは驚いたが、友達の黛が活発的にそういうイベントに参加することが嬉しかった。


「わかりました。それではそのように取り計らっておきます。当日は、杉田先生や風紀委員もバックアップしますし、私たち生徒会も現地に赴くので、皆さんも何かあったらすぐに言ってください」

「はい! ありがとうございます!!」

「それでは次に、お手数ですが2枚目の資料をご覧ください」


 ローゼンエスタ先輩に促されて、俺は渡された用紙をめくって書かれている内容に視線を落とす。


「メアリー女学院との合同音楽会の実施……?」


 俺は用紙を見てドキリとする。メアリー女学院といえばカノンの通っている学校だ。案の定、参加者の一覧を見ればカノンの名前があった。


「今年の合同音楽会は、メアリー女学院で行われる予定です。こちらは各学年1人ずつ参加ということになっています。ちなみに乙女咲の2年は私、3年は那月会長が参加することになっています。

「うむ!」

「1年はまだ決まっていないのですが……どうでしょう? こちらも、もちろん断ってくれて構いません。私たちには白銀さん達に打診したという記録さえ残れば大丈夫ですから」


 ん? どういうことだ?

 俺が戸惑っていると隣のとあが少し背伸びして俺の耳元でこしょこしょと小さな声で囁く。


「聖クラリス、メアリーの関係を考えると、聖クラリスとの交流学習行事だけを打診するわけにもいかないってことじゃない。それでもって、記録さえ残ればいいっていうのは、一応は打診しましたよ、でも断られたから仕方ないですよねって言い訳が言えるからじゃないかなぁと思う」


 あぁ、なるほどね。聖クラリスとメアリーは御三家と呼ばれる有名女学校のうちの二つだ。ライバル校同士なのに、同時期に開催される片方のイベントだけに男が参加して、もう片方に参加しないのは問題があるということだろう。

 俺は改めて、とあと黛の顔を見る。


「僕は音楽会への参加自体は別に問題ないんだけど、その日は仕事があるから。帰りが遅くなる隣の県のメアリーにまでは行けないと思う」

「残念ながら僕もその日は家の事があって、同様の理由からは参加できそうにない。すまない」


 なるほどね。とあはお仕事で、黛は家庭の事情か。

 俺はなんか予定あったかな。改めて携帯の予定表を確認すると、なんとその日もお休みだった。


「あ、じゃあ俺が参加します」


 学校行事を利用しているみたいで申し訳なく感じるが、こういう行事でもなければ俺もカノンも忙しすぎて、お互いの顔を見るのも難しい。俺も仕事が忙しいが、カノンもスターズの王族して社交や行事をこなしているらしい。

 周囲の目を考えると、音楽会で直接何か会話することはできないかもしれないが、お互いの顔を近くで見れるだけでも嬉しいと思う。何よりも俺がカノンに会いたかったし顔を見たかった。


「わかりました。ありがとうございます。メアリーにもそう伝えておきますが、こちらも直前にキャンセルしてもらっても構いません。白銀さんがキャンセルした際にも、同行する1年のクレアが代わりに参加しますからご安心ください」


 端っこにいたクレアさんへと視線を向けると、コクリと小さく頷いた。

 ハーフで帰国子女のクレアさんは落ち着いた感じの女の子で、同い年なのに少し大人びた雰囲気がある。その一方で顔は少し童顔であどけない幼さが残っているせいか、俺の知りうる前の世界の男性諸君なら本能的に守ってあげたくなるタイプの女の子だ。


「一応音楽会の発表項目は自由ですが、毎年行事を開催する側の学校の吹奏楽部がオーケストラを担当してくれるので、基本的にはクラシックとか聖歌とかそういうのが多いです。白銀さんは何か希望することはありますか?」

「あ……じゃあ、俺もピアノにしておきます」


 プロレベルというわけではないけど、ピアノを弾くのは好きだ。学生の音楽会で弾くのなら問題ないレベルだと思う。せっかくだし、オーケストラだから好きなラフマニノフの2番でも弾こうかな。あれ? この世界にラフマニノフって存在してるのかな? まぁ、そこらへんの細かいことはいっか!


「わかりました。それと発表会では社交の練習も兼ねていますから、ドレスコードもありますが、スーツのレンタルなどもありますし、学生服での参加も可能ですからご安心ください」

「うーん……あ! 大丈夫です。その日はスーツで行きます」


 俺はコロールオムとの契約の関係で、自宅には大量に服が送られてきている。

 ハイブランドだけあってその中にはスーツも多いのだが、特にドレッシーな感じのものは普段、全くといって着る機会がない。せっかくなので、この機会に着てみた方が、服だって箪笥の肥やしにならなくていいんじゃないかと思った。


「そ……そう、何故だかすごく大変なことになる予感がするけど、気がつかなかったことにしておくわ」


 ローゼンエスタ先輩は、なぜか頬を引き攣らせていた。一体何がどうだというのだろう。


「なんか僕もまたあくあがやらかすような気がするなぁ」

「実は僕もそんな気がしている」


 とあと黛が剣呑な目で俺のことを見つめる。

 確かに俺だって今まで散々無自覚に色々やっていたらしいけど、そんな問題ばっか起こしてるわけじゃないし、今回だってスーツを着用して、ただピアノを弾きにいくだけだ。問題が起こる要素など何一つない。

 むしろこれで何かをやらかす方が難しいんじゃないか? だから安心して大船に乗った気持ちでいてくれて大丈夫だ。


「本当に大丈夫かなぁ……心配だけどまぁいっか、どうせいつものことだし、僕はいないしね」


 とあはそんなことを呟きながら、何があっても僕は知らないよと俺の視線から逃れるように窓の外へと視線を向けた。

 ぐぬぬぬ……こうなったらなんとしても無事に、それも完璧に音楽会をこなして見せようじゃないか。

 俺は改めて内容を確認するように用紙へと視線を落とす。

 用紙に書かれた事を読み進めていくと、俺は参加者の一覧にカノンだけではなくもう1人の知り合いの名前を見つけてしまう。


 メアリー女学院大学、雪白えみり。


 喫茶店で俺がバイトしていた時の常連さんの1人である。

 えみりさんは口数が少なくあまり喋る人ではないけど、目を惹くほどの綺麗な人で、とても落ち着いていて大人な感じの人だ。それでも喫茶店でバイトする最終日には予定があったのか、珍しく息を切らせて閉店間際に来てくれたし、とても優しい人なんだと思う。

 そういえば大学生って聞いてたけど……えみりさんもメアリーだったのか。

 せっかくだし、会ったら挨拶くらいはしとこうかな。えみりさんが覚えてなかったら悲しいけど、俺の事を覚えててくれたら嬉しいなぁ。

PPTたくアンさん、レビューありがとうございます。

他にもブクマ、評価、いいねにも感謝します。

誤字修正にはものすごく助かっております。

あと、感想もありがたくちゃんと見ております。


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https://mobile.twitter.com/yuuritohoney


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― 新着の感想 ―
[一言] 一般人から見た捗るの印象と掲示板での捗るの差がありすぎて気付かれないから身バレは安心やな!( ^ω^ )
[一言] 会長と一緒にザリガニ取りてぇ
[気になる点] ぅえっ…❗️捗る…さん⁉️
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