天我春香・淡島千霧・猫山スバル・小雛ゆかり、それぞれの想い。
◆◇◆◇◆天我春香の場合 ◆◇◆◇◆
アキラくん達が隕石を破壊するミッションに従事される人達を応援するために宇宙に行く事になった。
日本は、ううん、世界は今、そのニュースで持ちきりです。
私はリビングにそのニュースを流しながら、キッチンの前でアキラくんの好きな芋煮を作る。
「ん、こんなもんかな」
私は味見をした後にコンロの火を切る。
すると、絶妙なタイミングで玄関の扉が開く音が聞こえてきました。
どうやら、アキラくんが帰ってきたみたいです。
「ただいま、春香ねえ」
「おかえり、アキラくん」
アキラくんはいつもと変わらない笑顔を私に向けてくれる。
それを見た私は、同棲を始めた最初の時と同じくらいドキドキした。
カノンさんも言ってたけど、いつかこれが日常になって慣れる日が来るなんて絶対にないよ。
「ん……? 我の好きな芋煮の匂いがする」
「うん、そうなの。この前、天我くんの実家から頂いたお野菜をお裾分けしたら、ご近所さんが実家でお芋を作ってるからってお裾分けしてくれて」
私とアキラくんは今日あったことを話しつつ、他愛もない会話に花を咲かせる。
……どうしよう。
日常会話の途中でサラッと伝えたいって思ってたのに、いざ、話を切り出そうと思ったら、緊張して言葉が出てきません。
「春香ねえ……どうかした?」
食事が終わった後、アキラくんは様子のおかしかった私を心配して、ソファに座る私の事を優しく抱きしめてくれました。
「春香ねえが不安に思う事は全部、俺が受け止める。だから、話してほしい。春香ねえが思ってる事をなんでも」
「アキラくん……」
アキラくんの優しさに私は心がポカポカと温かくなります。
ごめんね、アキラくん。私が言うのを躊躇ったせいで、アキラくんに無駄な心配をかけちゃって。
私は拳をギュッと握りしめると、アキラくんの顔を見てゆっくりと話し始める。
「その……実はね。今日、産婦人科さんに行ったの。そしたら、えっと……産婦人科の先生に、おめでとうございます。って言われてね。で……できちゃったみたい」
口をあんぐりと大きく開けたアキラくんは、目を見開いた状態で瞬きもせずに固まる。
え、えっと……その、アキラくん? おーい。
私は完全にフリーズしたアキラくんの顔の前で手を左右に振る。
「春香ねえ、そ、それって……」
アキラくんは自分の顔を指さす。
私はそれに応えるように自分の顔を人差し指で差した。
「うん、そう。私とアキラくんの赤ちゃん、だよ」
アキラくんはソファから立ち上がると、両手の拳を突き上げた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
アキラくんなら、きっと喜んでくれる。
そう信じていたけど、まさかこんなにも喜んでくれるなんて。
私は嬉しすぎて少しだけ恥ずかしくなる。
「春香ねえ、ありがとう。本当にありがとう!!」
「わ、私こそ、ありがとう。アキラくん」
アキラくんは私の体を優しく抱きしめる。
お互いに喜びを噛み締めるように、抱き合ったまま何度も言葉を交わしていく。
それから暫くして、少し落ち着いたアキラくんは、実家に居るお義母さんやお婆さんに電話をかけると、続けて後輩のあくあくん、慎太郎くん、とあちゃん、それと事務所の天鳥社長や付き合いの長いモジャさんに連絡を入れる。
私もカノンさんが作ったチャットグループに妊娠を伝えると、みんなからたくさんの祝福のメッセージが届きました。
「みんな、おめでとう。だって」
「ああ……!」
ソファに座った私たちは、手を繋いでゆったりとした時間を過ごす。
ああ、何て幸せなんだろう。
もう最近は、あの時の辛い記憶をフラッシュバックをする事も無くなりました。
苦しい時に私を預かって支えてくれたアキラくんのお母さんやお婆さんの優しい心、同じ女性として私を温かく迎え入れてくれたカノンさん達女性陣の暖かな気持ち、明るいニュースでいつも気持ちを明るくさせてくれたあくあくん達の元気……そして、何よりも、私にとっての男性を上書きしてくれたアキラくんの溢れるほどの愛のおかげです。
「ねえ、アキラくん。やだよ、私……今、こんなに幸せなのに、こんなところで終わりたくない」
私は涙目になりながら、アキラくんの顔をじっと見つめる。
すると、アキラくんは私の手を強く握りしめて私の目元の涙を拭ってくれました。
「約束する」
真剣な顔をしたアキラくんに私はドキドキする。
「俺は絶対に春香のところに帰ってくる。そして、必ず後輩達を無事に連れて帰ってくるとな。俺たちが、この幸せを絶対に終わらせたりなんかしないって」
ああ……やっぱり、アキラくんが世界で1番かっこいいよ。
私よりも年下の男の子なのに、頼り甲斐があってみんなに甘えられて慕われる先輩。
それが私と、みんなの天我アキラです。
「それでこそ、アキラくん……だよ」
「ああ、我に任せろ!!」
私は歯を見せて笑うアキラくんをギュッと抱きしめた。
アキラくん、絶対に無事に帰ってきてね。
私だけじゃない。アキラ君を支えてくれるファンの子達や、お義母さん達、そして私たちの子供のためにも。絶対に……だよ!!
◆◇◆◇◆淡島千霧の場合 ◆◇◆◇◆
慎太郎くんから宇宙に行くと聞かされた時は心臓が止まるかと思った。
なんで、そんな危険なところに慎太郎くんがいかなきゃいけないのって。
でも、それと同時に慎太郎くんなら行くだろうなって思った。
だって、あくあ君の隣にはいつも慎太郎くんがいるんだもん。
だから、あくあ君が行くと決めたら、慎太郎くんは絶対についていくだろうなと思った。
「そっか、大変な事だけど頑張ってね。慎太郎くん達が無事に帰って来る事を毎日を願ってるから」
本当は頑張ってよりも、無理しないでって言いたかった。
行かないで欲しいって言いたかったのをグッと堪えて、自分の感情を体の奥に飲み込む。
「千霧さん……ありがとう」
慎太郎くんのホッとした顔を見て、これで良かったんだと私は自分に言い聞かせる。
これでいい。私が我儘を言って、慎太郎くんの決断を、みんなの決断を邪魔しちゃダメだもん。
私は笑顔のまま、少しだけ慎太郎くんから視線を逸らして俯く。
「でも、僕が知りたいのは千霧さんの本当の気持ちなんだ」
「えっ?」
慎太郎くんはメガネをクイっとさせると、私の顔を見て優しく微笑んだ。
「僕はあくあと違って頼り甲斐がないかもしれない。それでも僕は知りたいんです。千霧さんが今、思ってる事、考えてる事。全部。僕は貴女の事が好きだから」
慎太郎くんに真正面から好きだと言われた私は、心臓が今にも爆発しそうなくらいドキドキした。
いくらなんでも不意打ちが過ぎるよ。そういうずるいところ、あくあ君を真似しなくていいんだよ。
「もし、千霧さんが不安に思う事があるなら、僕に話してくれませんか? 僕は千霧さんのその心に寄り添いたいんです」
「慎太郎くん……」
私は慎太郎くんの体に抱きつくと、ギュッと抱きしめる。
すると慎太郎くんはそれよりも強い力で私の体を抱きしめ返してくれた。
「本当はどこにも行ってほしくない。危険な事をしてほしくないよ。だって、それ、慎太郎くん達が危険を侵してでもしなきゃいけない事なの?」
堰を切ったように言葉が止まらなくなる。
私だって、本当はこんな事を言いたくなかった。
でも、心配なの。私は慎太郎くんより年上で大人だけど、春香さんやカノンさんのような余裕なんてないから。
「ごめん、千霧さん。僕は……悪い男だ。千霧さんに心配をかけておいて、そうやって心配される事を嬉しく思ってる自分がいる。ありがとう、千霧さん。僕のために、そこまで心配してくれて」
慎太郎くん……。
そんな笑顔を見せられたら、私は「頑張って」以外の言葉が何も言えなくなっちゃうよ。
「慎太郎くんは怖くないの……?」
「怖いさ。みんな言わないけど本当は僕以外のみんなだって怖いと思ってるよ」
それじゃあ、どうして……。
私がそう慎太郎くんに問い掛けようとする。
でも、慎太郎くんはそんな私の言葉を遮るように、いつもと変わらない穏やかで優しい笑顔を見せてくれた。
「それ以上に僕は許せないんだ。僕から、僕が大切にしている全てを奪おうとしてる隕石が」
慎太郎くんは窓から見える空に視線を向ける。
「千霧さん。僕が大切に想っている中に千霧さんも入ってるって事に気がついてますか?」
私は慎太郎くんの質問に顔を赤くしながら無言で頷く。
慎太郎くんと2人の時間を過ごしてきて、それに気が付かないほど私は鈍感じゃない。
それでも、いざ、ストレートに言われると少しだけ恥ずかしくなる。
「だから、僕は絶対に千霧さんのところに帰ってきます。これは、その証として受け取ってください」
「えっ?」
慎太郎くんは私の手を取って持ち上げる。
すると、私の視界に自分の薬指に輝く綺麗なダイヤの指輪が見えました。
こっ、こここここここ、これって!?
「千霧さん。全部終わったら、みんなが落ち着いた後に、この僕と結婚してくれませんか?」
「……はい。はい!」
私は勢い余って2回も、はい! と、答えてしまう。
それを聞いた慎太郎くんは嬉しそうな顔で喜んでくれた。
感情がぐちゃぐちゃになった私は慎太郎くんの胸に顔を突っ伏す。
「もう! 慎太郎くんってば、それってフラグだよ!」
本当はそんな可愛げのない言葉じゃなくて、「ありがとう」とか、「嬉しい」って気持ちを伝えたかったのに……。
小雛ゆかりさんの言うように、私ってなんでこんな肝心な時にポンコツなんだろう。
私の言葉を聞いた慎太郎くんは私の涙を拭きながら苦笑する。
「はは、あくあにも同じ事を言われたよ。でも……」
慎太郎くんの真剣な顔に私はドキっとした。
「僕は絶対に帰ってくる。この指輪に誓ったっていい。僕は、絶対に千霧さんのところに帰ってくる。だから、待ってて欲しい。僕の帰ってくる場所はここだから」
慎太郎くん……。
今の慎太郎くんは、誰がなんと言おうと、世界中の男性の中で1番、あのあくあ君よりもかっこいいよ。
私と慎太郎くんは無言で見つめ合う。
もう、これ以上の言葉はいらないよね。
私は窓から見えるお月様をバックにして、慎太郎くんとそっと唇を重ねた。
慎太郎くん、私、待ってるね。
君の帰ってくる場所で、慎太郎くんに「おかえり」って言うために!!
◆◇◆◇◆猫山スバルの場合 ◆◇◆◇◆
おにいが宇宙に行くと分かった日も私とおにいの会話はシンプルだった。
「スバル。僕、ちょっと宇宙に行ってくるよ」
「うん、分かった」
ちょっと近所に出かけてくる。
そんな感じの会話。
おにいもそれ以上は言わないし、私もそれ以上は聞かない。
それは、おにいが部屋に引きこもってた時から変わらない事だ。
『おにい、お母さんのご飯、ここに置いとくね』
たった一言だけの会話。
それでも私は毎日、あの頃のおにいの部屋に向かって喋り続けた。
本当は一緒に遊びたい。あの事件が起こる前の日みたいに。
でも、私が積極的におにいに話しかけたら、おにいにプレッシャーをかけるんじゃないか。おにいが安心していられる場所を無くしちゃうんじゃないかって思った。
だから、あえて踏み込まない。……でも、そばにいるよって伝えるために、私は毎日、おにいの部屋の扉に向かって話しかけた。
1日に1回だけの会話。シンプルな会話だけど、私はこの瞬間をすごく大事にした。
だって、この糸が切れたら本当におにいが居なくなっちゃいそうだったから。
『スバル、僕……外に出るよ。一緒に出かけたい人がいるんだ』
嬉しかった。
外に出てきたおにいを見て、涙が溢れそうになったのをグッと我慢した日の事を今でも覚えてる。
お母さんは泣きじゃくっていたけど、私が泣いちゃダメだって思ったから。
あくまでもいつも通りに。そう、引きこもる前におにいが見た最後の私と変わらない笑顔で私はおにいを出迎えた。
だって、その日が私とおにいにとっての迎えるべき明日だったのだから。
「2人とも〜、そろそろ晩御飯だから降りてきて〜」
「「はーい」」
リビングダイニングに降りた私は、リビングのソファに寝転がってスマホを弄る。
携帯ゲームをしながら降りてきたおにいは、ダイニングの椅子に座ったままゲームを続けていた。
「ねぇ、おにい。クラスのみんなに見せたいから、宇宙から見た地球の写真を撮って送ってよ」
「うん、いいよ」
お互いに目なんか合わないけど、私とおにいはそれでいいと思ってる。
いつもは考えない様にしてるけど、おにいから宇宙に行くって聞いた時、すごく不安な気持ちになった。
本当に大丈夫なのかな?
私はその気持ちを押し殺してでも、普段と変わらないような態度でおにいに接する。
おにいはゲーム機を机の上に置くと、私が仰向けになってるソファの背もたれに肘をつく。
「宇宙か……。信じられないよね。スバル。僕、宇宙に行くんだよ。この前まで、あの小さな部屋の中に引きこもってたのにさ」
「うん」
あくあ様はおにいの世界だったあの小さな部屋から、外の広い世界に連れ戻してくれた。
でも、今度は一緒に宇宙まで行くなんて聞いてないよ。
私は携帯を弄ってるフリをしてそっけない態度を取りつつも、おにいとの会話に集中する。
「……スバル。ありがとね」
「えっ?」
突然のおにいからの感謝に私の手が止まってしまう。
おにい、不意打ちはずるいよ。
「あの時、いつもと変わらないスバルが居たから、僕は家の中で落ち着いて過ごす事ができたんだよ」
「おにい……」
私はおにいの言葉に涙が溢れそうになる。
それを見たおにいは手を伸ばすと、私の頭を優しく撫でてくれた。
「スバル。僕、今がすごく楽しいんだ」
「うん、うん」
知ってるよ。だって、おにいは元々は外で遊んだりする活発な男の子だったんだもん。
外の世界に戻ってきたおにいは、それまでが嘘みたいに積極的になった。
私は、おにいがアイドルになってから意欲的に活動している事も、裏でものすごく努力して頑張ってる事も知ってる。
「スバルは今、楽しい……?」
「うん、楽しいよ。ミルクディッパーとしてもやりたい事がどんどんできるようになってきたし、らぴすやみやこ達とも変わらず仲良くできてるし、何より、こうやっておにいとまた普通に会話できて、一緒にゲームできて、ショッピングしたりできて、すごく楽しい」
おにいは私の話を無言で聞いてくれる。
そして、ずっと私の話に対して優しく微笑みかけてくれた。
「ねぇ、おにい……やっと、今、あの頃と変わらない日常が戻ってきたのに、もう、終わっちゃうのかな?」
おにいは私の頭を撫でるのをやめると、私の目尻についた涙を指先で掬い取る。
「大丈夫。終わらないよ。ずっと続いていくんだ。そのために大人達が、僕たちのために未来を切り開こうって頑張ってくれてる。だから……行くよ」
おにいは真剣な顔でリビングに映ったテレビのニュースへと視線を向ける。
「スバル。僕は宇宙に行ってくる」
ああ、やっぱりおにいはすごいな。
みんな、おにいの事をかわいいって言うけど、おにいは、私にとっては世界一かっこいいお兄ちゃんだ。
「あくあ達と一緒に、これは、他の誰でもない。僕たちにしかできない事だから」
「おにい……」
私はおにいの言葉を聞いて、目元に溜まった涙を腕でゴシゴシと擦る。
おにいが引きこもった時、私の取った選択肢は間違ってなかったと思う。
でも、あくあ様がおにいを簡単に外に連れ出したのを見て少しだけ悔しかった。
私は待つのは得意。だけど、今度は待っているだけじゃ嫌だ。
「どうやら吹っ切れたみたいだね。スバル」
「うん、ありがとう。おにい」
今、世界では私みたいに不安に思ってる子達がたくさんいる。
そんな子達の不安を少しでも拭って笑顔にさせたい。
そのために私ができる事は一つだ。
アイドルとして、ミルクディッパーとしてみんなを笑顔にさせる。
ううん、それだけじゃない。アレはエイプリルフールネタだったけど、実際にやって見る価値があると思う。
幸いにも私はおにいと一緒にゲームをやってたおかげで、プロゲーマーの人達との交流で外国語もそれなりに喋れる。
だから、世界中のアイドルを巻き込む。
おにい達、BERYLは宇宙から。そして、地上に残された私たちすべてのアイドルが一つになってみんなに元気を届ける。そういうプロジェクトがあってもいいはずだ。
そうと決まれば、こんなところでクヨクヨしてる暇なんてないよね。
だって、私もおにいやあくあ様と同じ、アイドルなんだから!!
「頑張ってね。おにい。私も頑張るから」
「うん、頑張れ。スバル」
おにいの笑顔を見た私は、握りしめた拳に力を入れる。
私は今日この日、1人のアイドルとして決意を新たにした。
◆◇◆◇◆小雛ゆかりの場合 ◆◇◆◇◆
あーあ、なんで本当にこんなやつの事を好きになったんだろう。
私はいつものようにあくあとレースゲームをして盛り上がっていた。
そのゲームの途中で、あくあの投げたお茄子が当たって私の操作するキャラのカートが場外に落ちる。
「かっ、ちーん!」
何よ、このグヘった顔のキャラは!!
場外に落ちた私のキャラとカートを、変態みたいな顔をしたキャラが釣竿で吊り上げる。
「小雛先輩……俺、リアルでカッチーンって言う人、初めて見ました……」
ぐぬぬぬぬぬ!
あんたが、余裕ぶった顔をしているのも今のうちだけよ!!
絶対にここから逆転してやるんだから!!
「やったー。俺の勝ちだー!」
私は無言でゲームの電源を落とす。
さっきのはノーカンよ。ノーカン!!
「このゲームはやめよやめ! 次は格闘ゲームで勝負よ!」
「えっ!? まだやるんですか!?」
あくあはげっそりとした顔をする。
何? あんた、もう疲れたわけ?
仕方ないわね。今日だけだからね!!
「じゃあ今日はあんたの勝ちでいいから、さっさとお風呂入ってきなさいよ。明日のお昼ご飯は私の奢りね」
「やったー」
そう言って、あくあはホテルの浴室へと向かう。
ロケで少し遠い場所に来ていた私たちは、帰りの飛行機と終電を逃したせいで2人でホテルに泊まっていた。
「全く、なんで今日に限ってホテルの部屋がパンパンなのよ……」
そのせいで、あくあと同じ部屋になってしまった。
私は後ろにあるダブルベッドへと視線を向ける。
「小雛先輩、あがりましたよ!」
「はいはい。言わなくてもわかってるわよ」
私はバッグの中からポシェットを取り出すと、お風呂から出てきたあくあと入れ替わるようにして脱衣所に向かう。
もしかしたら帰れない事もあるだろうと想って、コレを持ってきておいて本当に良かった。
お風呂で念入りに自分の体を磨き上げた私は、脱衣所で買ったばかりの新しい下着とベビードールを身につける。
私の趣味じゃないけど、あくあの好きそうなレースとかフリル、リボンがふんだんにあしらわれた甘々系の下着とベビードールを選んだつもりだ。
「本当、私ってば、何やってるんだろう」
これからする事を想像して、私の体が熱くなる。
あいつだって溜まってるだろうし、爆発する前に今日は私がちゃんと処理してあげなきゃね。
「お待たせ……」
私の姿を見たあくあはびっくりした顔で二度見する。
「小雛先輩ストップ! 流石に俺も男なんでそれはまずいです。ホテルのパジャマに着替えましょう!!」
全くもう。あんたってば、私をどこまで恥ずかしがらせればいいのよ。
私はパジャマを手に持ってわちゃわちゃするあくあの体をベッドの上に押し倒す。
「ごちゃごちゃ言ってないで、早く出しなさい。今日は、この私が特別にしてあげるって言ってるの!」
「うぇっ!?」
そ、そういう名目なら、私だって少しくらいは素直になれるかもしれないじゃない。
私はあくあのズボンに手をあけてズリ下げようとする。
あれ? なんだろう。目の前が二重に見える。
あんた……まさか私に隠れて忍者にでも弟子入りしたってわけ!?
その分身の術、この私にも教えなさいよね!!
「小雛先輩……もしかして、熱あります?」
あ……。
私の体を掴んだあくあは、私の体をそのままベッドに寝かせるように反転する。
ちょっと、なんであんたが上で私が下なのよ!
そういう事をする時も私が上で、あんたは下でしょ!!
あくあは私のおでこに手を置く。
「こーれ、完全に風邪がぶり返してます」
あくあは私のベビードールに手をかける。
ちょ、ちょっと! 私だってハジメテなんだから、他の女の子たちみたいに少しは優しくしなさいよね!!
あくあはあっという間に私をパジャマに着替えさせる。
あ、あれ? そういえば、あんた、さっき、風邪って言ってた?
「全くもう、ロケで無茶するから」
「仕方ないでしょ。あんたと一緒の仕事で負けたくにゃいんだから」
あくあは私の言葉に苦笑いをする。
むぅ。そんな事より、あんた、何か忘れてるんじゃない?
私は、あくあに向けて手を差し出す。
「ん!」
あくあは私の差し出した手を見て、ボケーっとした顔をする。
全く気が利かないんだから!!
そんなんで、カノンさん達をちゃんと甘やかせているの?
今度、えみりちゃんと一緒に私も影からチェックするわよ!
「手、はやく!」
「あ、はい」
そうそう、それでいいの。
私が眠るまでちゃんと握ってなさいよね!!
ほんの少しだけのゆったりとした時間。
私は目を閉じてあくあに本音で喋りかける。
今なら、ほんの少しだけ素直になれる気がしたから。
「……あくあ、あんたはちょっと頑張りすぎよ。だから、もっと甘えなさいよね」
「はい、ありがとうございます」
また余裕のある顔をして。わかってないじゃない!
私は少しだけ顔を赤らめる。これはきっと熱のせいだ。
「わ……私なら、さっきみたいな事だっていつだってさせてあげるんだから、私と2人きりの時くらい、あんたの好きにしていいのよ」
「ありがとうございます。小雛先輩」
だから、その顔がわかってないって言うのよ。
あんたになら全部あげたっていいって想ってるのは本当なんだからね!!
それなのに、あんたが……ううん、これは、あんただけじゃない。私の責任でもあるわよね。
だって、私たちはずっとこういう関係にならないようにお互いに線を引いていたもの。
「……ねぇ、あくあ、聞いてる?」
「聞いてますよ。小雛先輩」
私はあくあの顔を見て優しく微笑む。
「綺麗さっぱり全部片付けて、みんなで絶対に帰るわよ」
「はい、わかってます」
本当にわかってるんでしょうね?
いーい、あんただけは、この私が絶対に死なせたりなんかしないんだから!
だって、あんたのいないこの世界なんて、絶対にものすごく退屈なんだもん。
だから……。
私はあくあの手を強く握りしめると、そのまま深い眠りに落ちた。
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