白銀家のお向かいさん。
本日2度目の更新です。
私の名前は、神狩りのんだ。ちなみにこの名前が私の本名なのかどうかを私は知らない。とはいえ、職業柄、名前に特段の意味はなく、私にとっては、あくまでも会話を円滑にする為のツールの一つだ。
話が多少ずれたが、私は与えられた任務のために、恐れ多くも主の目の前の家に住まわせてもらっている。
今日もその任務のために、私はカーテンの隙間から白銀家を観察しつつ、ヘッドフォンから聞こえてくる相手の声を軽く聞き流す。
「……以上が本日のお前に与えられた任務だ。健闘を祈る」
「イエスマム」
私は心にもない返答をした。
スターズの外国人傭兵部隊に所属していた私は、今はフリーの人間として、スターズ本国からの依頼を受けてこの任務についている。
おもに主の安全を守りつつ、監視と報告をするのが依頼の内容だ。
この任務を私が受けたのは、ふと母親の故郷を見たくなったからである。
私は両親の顔を見たこともなければ名前も知らないが、母親はこの国の出身で、父親の方はスターズの出身らしい。
そんな名無しの私を拾って育てたのが当時の外国人傭兵部隊の隊長だった。
「りのん……男の体には気をつけろよ」
アキコさん……隊長は口癖のようにそう言っていた。
なんでも他の隊員の人から聞いた話によると、アキコさんはその昔、男の体に惑わされて任務を失敗したらしい。外国人部隊でもその経験を生かすべく、隊員は普段から男を目の前にしても大丈夫なように訓練している。
ちなみに私も平然としているが、今もヘッドフォンから流れてくる主の声を聞きながら任務にあたることによって、精神的な鍛錬を日常から欠かさず行なっているのだ。そんな私の下に、新たな着信が入る。
「りのん隊長、現地の準備が整いました」
「うん……わかった。こっちもそろそろ出ると思うから」
次に着信が入ったのは、私のもう1人の主のいるところだ。
私にとっての主は2人いる。そのうちの1人は、この国を騒がせ、その知名度は今やスターズにまで広がろうとしているベリルエンターテイメント所属のアイドル、白銀あくあ様だ。
そしてもう1人の主は、私に白銀あくあ様の素晴らしさを教えてくれた聖女エミリー様である。
聖女エミリー様は聖あくあ教の聖女を務められている本当に素晴らしい方だ。
あまり口数が多くない方だが、聖女エミリー様の話す言葉を聞き漏らしてはならない。
「りのん……お願い。浄水器を買ってきてほしいの……こんなこと、あなたにしか頼めなくって、ごめんね」
ふとした時、エミリー様がおっしゃられた言葉だ。
私は最初意味がわからなかったが、浄水器を売っている会社を訪ねると、主であるあくあ様を騙った詐欺ビジネスの温床になっていたのである。このようにエミリー様が呟かれる言葉には大体意味があるので、一字一句聞き漏らしてはならない。
「どうして……」
エミリー様は私が破壊した浄水器の山を見つめて、一筋の雫を流されたのである。おそらく被害者に心を痛ませて、涙を流されたのだろうと思ったが、それは違った。聖女エミリー様は、あろうことか、詐欺を働いた者たちにも涙を流されたのである。
「私にはわかるわ……貴女達も苦しかったのよね……」
真に苦しみを理解してくれるエミリー様の言葉に詐欺師達も膝から崩れ落ちて涙する。
あれは本当に美しい光景だった。それを見た聖女見習いたちが、その場で跪いたくらいである。もちろん私だって跪いたさ。改心した詐欺師達は、詐欺を行った者たちに謝罪し返金した。もちろん足りない分はちゃんと働いて返すと言い、今は警察に出頭しちゃんと罪を償っている。
「いつか……いつの日か、本物の浄水器を作りましょう。そう、全ての女性たちのために……」
服役している彼女たちに面会に行ったエミリー様がおっしゃった言葉である。彼女たちは涙を流して、出所したら今度こそちゃんとした浄水器を作ると言っていた。
「エミリー様……」
聖女エミリー様はとてもお綺麗な方である。普段は不浄だからと目を隠していらっしゃるが、その素顔は女の私でも見惚れるくらいだ。過去に私が見惚れるほどの容姿を持った女性は、スターズのカノン王女とエミリー様くらいである。カノン王女が美少女なら、聖女エミリー様は美女だ。2人に共通しているのは、ただの美少女、美女ではなく、その美しさの奥には、言葉にはできないほどの畏怖を感じられるところでしょうか。2人ともただ清廉潔白なのではそのようには感じられないはずです。おそらくですが、お二人とも何か大きなものを抱えられているかも知れません。
「行ってきます」
私は暗闇に包まれた部屋に返っては来ない別れの挨拶を告げると、商売道具が入ったケースを肩に担いで家を出た。
スターズが用意してくれていた車に乗り込んだ私は、別ルートから前をいく白銀家の車を追う。
道中はこの国の者たちが守っているから大丈夫だとは思うが、もしもの時はすぐに助けられるようにつかず離れずの距離感を維持する。幸いなことに不審な車両もなく、白銀家は無事に目的地に到着した。
「わー、兄様、綺麗な旅館ですね」
「そうだね、らぴす。後でゆっくり散歩しような」
「はい、兄様!」
旅館のロビーで主はらぴす様と談笑する。
それにしても我が主は、サービスエリアでソフトクリームを食べるなんて、可愛らしい……いえ、なんて危機感のないお人だろう。これではゆっくりとお顔を観察することもままなりません。私がしっかりとお守りしてあげないといけないようです。本当に仕方のない人ですね。
「ご予約は承っています。すぐにお部屋の方にご案内いたしますね」
私はスターズが用意してくれた部屋にチェックインした。窓を開けると、白銀家が予約した離れの母屋はみえないが、ここから飛び降りると、離れの母家にうまく侵入することができる。
景色を眺めるように私が周囲を確認すると、配置についている正教徒達の姿が見えた。
この旅館は藤財閥系の旅館だが、ここで働いている何人かは聖あくあ教の正教徒である。
そんなことを考えていると、首にかけたヘッドフォンから人が喋る声が聞こえてきた。
「あーちゃん、見てみて。しとりお姉ちゃんの浴衣姿、似合ってるかな?」
「し、しとりお姉ちゃん、もっと帯はキツく締めた方がいいと思うよ」
「んー、どうしてぇー?」
主のお部屋の外には盗聴器が仕掛けられている。
流石に部屋の中まではリスクが高すぎるのでやってないが、外であれば大丈夫だ。
縁側に出ている時はもちろんのこと、窓を開けている時であれば中の会話も聞こえる。
「あくあちゃん、お母さん運転で疲れちゃったなぁ。頭なでなでしてほしいなぁ。ちらっ、ちらっ」
「はいはい、母さんいつもありがとうね」
「えへへー」
私に聞かれているなんてつゆ知らず、主は呑気な声で家族と和気藹々としていた。
ふふっ……。
私は心の中でほくそ笑む。
この場所でこの状況を全て把握しているのは私だけだ。
スターズの配置も、聖あくあ教の配置も、ましてやこの国の手の者達の配置も、その全てを把握している。
何故ならばこの旅館を管理する藤財閥の会長すらも、聖女エミリー様の聖あくあ教の正教徒の1人にしか過ぎないのですから……。やはり聖女エミリー様は素晴らしい。この状況すらも全てエミリー様の掌の上なのだと思うと、背筋がゾクゾクします。
「あっ、お疲れ様です。はい、はい……あっ、藤のトークショーのことですね。わかりました」
主が通話しているのは、ベリルエンターテイメントの社長、天鳥阿古さんでしょう。
阿古社長は残念ながら聖あくあ教の人間ではありませんが、そんな裏の事情を知らずに藤の仕事をしている純真無垢な主の事を思うと、私の心がムズムズと疼いた。
ああ……いけませんね、これは。
私は部屋の中に戻ると、汗を流すためにお風呂場の方へと向かう。
脱衣所の鏡には、相変わらず眠そうな半目の私の顔が映っていた。
身長190cmを超えている私は、恥ずかしがり屋だから普段は目から下はマフラーで隠していますが、流石に8月ともなると薄手のストールでも暑い。私は軽くシャワーを浴びてから任務へと戻った。
「さてと……どうやらお仕事の時間のようですね」
私は浴衣を着ると商売道具を持って外へ出た。
手を汚す仕事は傭兵時代から慣れています。だから今更この手を汚すことに躊躇いなんてありません。何故なら、もうこんなにも汚れてしまった私の手が、これ以上汚れる事なんてないのだから……。とは言っても、私は人を殺めたことなんてないですけどね。
「どうだ? 楽しかったからぴす?」
「はい、兄様。兄様と一緒にお風呂に入れるなんて思ってもいませんでした!」
「ううう、あくあちゃんのケチ、お母さんと一緒にお風呂入ってくれたっていいじゃない」
「あーちゃん、次はお姉ちゃんと一緒にお風呂入ろうね」
翌朝、ロビーでは平和そうな白銀家の団欒の声が聞こえる。
ちなみに昨日の不届きものは縛り上げて然るべき所に引き渡した。
「さてと、私も帰りますか」
帰りは先にチェックアウトすると、サービスエリアで休憩して白銀家が追い越すのを待ってから後ろについていく。
こうやって白銀家の平和は、私を含めた多くの人たちの手によって人知れず守られているのであった。
Twitter、スパムと間違われて凍結されたので確定っぽいです。似たような事になった人に聞いたんですけど、フォローとフォロワーが同率で伸びてたのと、フォローの仕方がリスト見てノンタイムでフォロバして上限当たっては、繰り返しフォロバしてたのが、スパム的な挙動不審な動きと認知されたそうです。
交渉中だけど時間かかりそうなので、こっちが本垢になる可能性が高いので、申し訳ないですけど、前回フォローしてくれた人はこっちフォローお願いします。
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