山田丸男、俺に足りなかったもの。
ヘブンズソードに変身した剣崎がセイジョ・ミダラーと向き合う。
そこに見覚えのある2人のチジョーが息を荒げながら割り込んできた。
『クンクン! クンクン! ぐへへ! こいつ、オスの匂いがしますぜ。姉御!』
『はぁはぁ、はぁはぁ! 男の子を見て体が暑くなってきたからコートパタパタしちゃおうかなぁ!?』
くっ! こいつら2人はもう滅しちゃってもいいんじゃないか!?
俺と孔雀の2人は、再チジョー化しても変わらないクンカ・クンカーとロ・シュツ・マーを見て頭を抱える。
「本郷監督って、なんでシリアスなシーンにこういうのをぶちこんでくるんだろうな」
「本郷監督あるあるだよな」
ゲンナリした顔をする俺達と違って、剣崎は変わらなさすぎる2人を見て笑い声を漏らす。
やっぱり、剣崎は、あくあさんは、俺達と違って器がでかいな。
普通の男なら100年の恋も醒めてドン引きするシーンなのに、むしろ剣崎は嬉しそうだ。
『ふっ、2人とも、俺の事を忘れるなんて良い度胸をしてるじゃないか。ロ・シュツ・マー、クンカ・クンカー、すぐに俺の事を思い出させてやるよ』
アーマーパージをしたヘブンズソードは、オーバークロックで自らを加速させていく。
そして、2人のチジョーが身に纏う黒いモヤを天叢雲剣で簡単に祓ってしまった。
『け、けんじゃきぃぃぃいいいいいい! また、会えて嬉しいよおおおおおお!』
『ひーっ! 調子に乗って変態行為に及ぼうとしてすみませんでしたぁ!!』
なんだこれは……。
再登場してから2秒もかからずに元の2人に戻ったクンカ・クンカーとロ・シュツ・マーの2人が、ヘブンズソードの両足に縋り付くシーンを見た俺と孔雀の2人は秒で真顔になった。ああ、なるほど、これが即堕ち2コマってやつか……。
こういった緩い雑さのあるギャグパートもヘブンズソードの醍醐味だ。
でも、この2人を演じてる綺麗なお姉さん達がこのシーンを撮影してると思うと、俺はなんとも言えない気持ちになる。
やっぱり、人って見た目じゃないんだな……。
『あ、あ、あ……お願い。誰かは存じ上げませんが、早く……逃げて』
雪白えみりさんが演じるセイジョ・ミダラーは、剣崎の記憶を失い黒いモヤに侵食されつつも、まだ正常の判断力を保っていた。
さすがはずっと自分を犠牲にして、魔神を封印していただけの事はある。
『ミダラー……悪の感情に飲み込まれてもまだ自分を犠牲にするか……。そうか、お前はそういうやつだったな』
剣崎はミダラーを見てマジな顔つきになる。
その一方で、さっきまで記憶を失っていた2人のチジョーは涙で目を潤ませた。
『ミダラーの姉御ぉ! 早く記憶を取り戻してください。ほら、剣崎ですよ。私たちの剣崎です!!』
『こんなかっこいい男の子を忘れてどうするんですか!? また、4人で楽しく旅に行きましょうよ!!』
お前もさっきまで完全にド忘れしていただろ! というツッコミを入れてはいけない。
この2人は、そういう調子のいい奴らなんだ。
『剣崎……? ダメ、その名前を聞くと、頭が痛くなるの……』
セイジョ・ミダラーは両手で頭を抱えると、その艶かしい女性的な体をくねらせる。
そういえば、雪白えみりさんのお腹が大きくなってないところを見ると、このシーンは結構前に撮影したのかな?
『ミダラー、すぐにそのモヤを祓ってやる』
剣を構えたヘブンズソードは、ミダラーの身体に纏わり付く黒いモヤを薙ぎ払う。
しかし、簡単に黒いモヤが剥がれたクンカ・クンカーやロ・シュツ・マーの時と違って、黒いモヤは一度霧散するも再収束してミダラーへの体の締め付けを強くする。
『くっ! 天叢雲剣でもダメなのか!』
よく見ると、紐状になった黒いモヤに体を締め付けられたミダラーの頬が紅潮していた。
……少しはまともだと思ったけど、やっぱりチジョーの親玉だった事はある。
女性に対して油断をしたらダメだぞという事を再度わからせられた気持ちだ。
『ああっ! だ、ダメェ!』
紐状になった黒いモヤが鞭のようにしなって、ヘブンズソードやクンカ・クンカー、ロ・シュツ・マーの3人に攻撃を加える。
『剣崎の旦那! ミダラーの姉御に取り憑いた黒いモヤは、私たちに取り憑いていたクソ雑魚の分身体とは違いますぜ!!』
クンカ・クンカーは鼻先をピクピクと動かす。
『匂う。匂いますぜ。甘く淫らなメスの濃い香りしかしないミダラーの姉御の身体に纏わり付いた黒いモヤの中から、黒く淀んだメスの一方的で危険な香りが!! 剣崎の旦那! おそらく、そこが黒いモヤの中心点ですぜ!!』
くっ、ネタキャラの癖に肝心なところで有能すぎる!!
お前、そんなに使えるのに、なんで取り憑いていた黒いモヤが雑魚なんだよ。
エゴ・イストより、ワンチャンこっちの方が強いぞ!! ネタキャラだけど!!
『クンカ・クンカー、誘導を頼む! だが、これでは……!!』
剣崎は黒いモヤからの攻撃を回避しつつ、回避できそうにない攻撃だけを天叢雲剣で弾き返す。
『剣崎! 私が隙を作るので、その間にクンカ・クンカーと2人で黒いモヤを祓ってください』
『ロ・シュツ・マー……大丈夫なのか?』
ロ・シュツ・マーは剣崎の問いに力強く頷く。
『この変態チジョー改め、変態シュクジョーのロ・シュツ・マーにお任せください!!』
なんで淑女になったのに、変態が取れてないんだよ!! 取れよ、変態!!
いらないだろ、変態要素は!! ていうか、変態だったらチジョーのまんまじゃねぇか!!
『頼む! ロ・シュツ・マー!』
『任されました!!』
後ろに飛んだヘブンズソードと入れ替わるようにしてロ・シュツ・マーが前に出る。
『大事な所を絶対に見せない、ナゾノ・ヒカリ・マズルフラーッシュ!!』
うぉっ!? まぶし!!
コートを広げたロ・シュツ・マーの光に俺と孔雀の2人は条件反射で目を背ける。
保健の授業で、コートを着たお姉さんが前から歩いてきたら、すぐに顔を背けましょうって習っていたおかげだ。
謎の光マズルフラッシュで目をくらませたロ・シュツ・マーは、さらなる攻撃を繰り出す。
『朝チュンの窓から差し込んでくる都合のいい、ナゾノ・ヒカリ・ビーーーーーム!!』
コートから放出された無数のビームが複数の紐状になった黒いモヤを突き刺して地面にピン留めした。
だから、なんでネタキャラのくせに強いんだよ!!
先に言う。敵の親玉の敗北は、クンカ・クンカーとロ・シュツ・マーという、2大ネタキャラの強さを見誤りすぎた事だ。
『ふっ、黒塗り如きが謎の光に勝てると思うなよ? それと、今夜は熱いから海苔業はお休みだ』
いやいや! 決まったぜ! みたいな顔とポーズをしてるけど、何も決まってないって!!
あと、やっぱり、お前強すぎだろ!! なんで最初にヘブンズソードに負けたんだよ!!
『クンクン! クンクン! 剣崎の旦那! ミダラーの姉御の右耳の外側にある黒いモヤらから淀んだメスのくっさい悪臭がしてますぜ!!』
『わかった! 2人とも、ありがとう! あとは俺に任せろ!!』
剣崎は再びオーバークロックで世界を加速させると、クンカ・クンカーが指定した部位黒いモヤを天叢雲剣で突き刺した。
しかし、黒いモヤは完全に消滅する前に、ミダラーの体から逃げるように離れていく。
剣崎はミダラーの体を優しく抱きしめるようにして彼女の体を支える。
『剣崎……わ、私……』
『おかえり、ミダラー。もう、大丈夫だ』
剣崎はミダラーの身体を両手でさらにギュッと抱きしめる。
『ごめん、なさい。私……ずっと1人だった時の事を思い出して、怖くなって……』
『大丈夫。俺がここにいるから』
なんなんだろうな。
男の俺から見ても、剣崎……ていうか、あくあさんにこう言われたら気持ちがホッとする。
俺には無くて、あくあさんにはあるのが、この絶対的な安心感だ。
でも、これはあくまでも表面的なものでしかないと思う。
俺とあくあさんでは、もっと根底からした何かが違う気がするんだよな。
『ミダラー、たとえ君がどんな暗闇の奥底に沈んだとしても、俺が必ず君を迎えに行く。絶対に君を1人にして寂しがらせたりなんてしないから』
ヘブンズソードの無骨な手がミダラーの頬についた涙を優しく拭う。
『本当に……?』
『ああ』
顔を上げたミダラーの頬がピンク色に染まる。
くっ! やっぱり剣崎は男の俺から見てもかっこいいぜ。
俺がSNSを見ると【ミダラー様大勝利!】【カノン様NTR乙!】【嗜みはかませ】【今日から聖ミダラー教に入ります!!】というワードがトレンドにランクインしていた。
『もちろん、お前だけじゃない。ロ・シュツ・マーも、クンカ・クンカーも、絶対に俺が守ってみせる!!』
『うっ、うっ! そんな、私達の事まで!!』
『剣崎の旦那ぁ!! 一生、ついていきますぜ!!』
だから、お前らはなんでヘブンズソードの足に縋り付くんだよ!!
普通に抱きつけばいいのに、ヘブンズソードの股間に頭を埋めようとするんじゃない。このチジョーどもが!!
って、こんな事してる場合じゃねぇって!!
ミダラーから離れた黒いモヤが逃げようとする。
それに気がついた剣崎がドライバーベルトに手をかけた。
『行くぞ。ヘブンズソード!!』
剣崎の声に応えるようにヘブンズソードのベルトが光り輝く。
『漢気変身! マキシマムパワー! ヘブンズソード、パーフェクトドライバー!!』
プラチナ色に輝くヘブンズソードきたああああああああああ!
ヘブンズソードは黒いモヤに追いつくと、そのモヤを力強く抱きしめた。
『待たせたな。今、お前を助ける』
剣崎に抱かれた黒モヤがゆっくりと柔らかく解きほぐされるように消滅していく。
やっぱ剣崎なんだわ……。他のドライバーも凄いけど、俺はやっぱりヘブンズソードが1番だ。
『遅くなってすまなかった』
剣崎は拡散していく黒いモヤを優しく見送る。
『さぁ、行こう』
剣崎の言葉にミダラー達は力強く頷く。
さぁ、いよいよ最終決戦だ。
ここで映像が空高くに飛んでいるブラック・レキシーに切り替わる。
『いくら下っ端を解放したところで無駄よ。もう封印は解けているのだから』
えっ!? どういうことだ!?
ここで再びシーンが切り替わると、黒いモヤに包まれた人々が天下五剣に守られた封印を解いていく。
「なるほど……ミダラーやトラ・ウマー、エゴ・イスト達を囮にして、その間に一般市民や警察、自衛隊、SYUKUJYOに潜り込ませていたチジョー達を使って封印を解いたのか。相手の方が一枚上手だったな」
「ど、どうなっちゃうんだ、これ!?」
ブラック・レキシーは封印が解けた中心地に降り立つと、周りの護衛達を倒して中央で仰向けに寝ている悪神へと近づく。
しかし、くくりさんが演じる巫女様がその行く手を阻む。
『させません!!』
巫女様はブラック・レキシーに向けて持っていたお札を投げつける。
おお、くくりさんも結構アクションシーンを頑張ってるな。
くくりさんは戦闘の末、お札でブラック・レキシーを拘束する。
「「やったか!?」」
俺と孔雀は前のめりになる。
次の瞬間、ブラック・レキシーの体に纏わりついていた黒いモヤが彼女の体から離れると、悪神からその力を吸い上げて大きくなっていく。
『ふははは! 力さえあれば、そいつらの身体などいらん!!』
黒いもやがチジョーのような怪人になる。
って、でけぇ!! ドライバーの倍以上でかいじゃないか!!
『ははははは! 力が、力が漲ってくるぞ! お前達の悪意が! 恐怖が! 私を満たしてくれる!!』
嘘だろ、ますます体がデカくなっていく。
そこに真っ先に駆け付けたのはバタフライファムだ。
『巫女様、あれは!?』
『加賀美さん! あれがすべての元凶です!!』
加賀美は手に持った槍を力強く握り締めると、黒いモヤのチジョーに攻撃を加える。
しかし、バタフライファムの攻撃は全くと言っていいほどノーダメージだった。
『無駄だ!!』
『くっ!』
弾き飛ばされたバタフライファムをバイコーンビートルが受け止める。
『大丈夫か、加賀美!』
『ミサさん!』
バイコーンビートルに続いて駆け付けたポイズンチャリスとライトニングホッパーが攻撃を加える。
しかし、彼らの攻撃もまた黒いモヤのチジョーには通用しなかった。
おいおい、こんなのどうしたらいいんだよ……。
『無駄だ。多少は強くなったようだが、悪神としての力を完全に覚醒した私の前ではお前らでは相手にならん』
記憶を取り戻したトラ・ウマーやエゴ・イスト、ボッチ・ザ・ワールドや他のチジョー達、田島司令、夜影サキ達が駆けつけるも黒いモヤのチジョー、完全体となった悪神本体の前では全員が等しく無力だった。
そんな絶望的な状況に最後のドライバー、ヘブンズソードが駆けつける。
やった! 剣崎だ!! これで、勝つる!!
そう思っていたすべての視聴者を、黒いモヤのチジョーの圧倒的な力が打ち砕く。
『どうして、お前達が私に勝てないかわかるか?』
ボロボロになったみんなが地面に転がる。
こんなのどうしろっていうんだよ!!
体格差からして、もう無理だろ!!
『人は簡単な事で悪意を抱くし、恐怖は簡単に人の心を暗闇に染める。欺瞞はこの世の中に腐るほど溢れているし、誰もが正しさに目を背けて生きている。だから、お前達が何度立ちあがろうとしても、世界は何も変わらない。そう、例えこの私を倒したとしても何一つ変わらないんだ!!』
倒しても変わらない……か。
俺は前回の映画で激しい戦闘の末に悪神を倒した事を思い出す。
それでも生き残った悪意が人々から力を吸収して生きながらえ、そうして、今、あの頃よりも強くなって復活した。
「くっ!」
俺は服の上から自分の胸を手を押さえる。
……何故だ。悪神の言葉が俺の心を蝕む。
今だって、あくあさんが出てきて世の中は良くなった。
でも、もし、あくあさんが居なくなったら?
また、世界は簡単にあの頃みたいに戻っちまうんじゃないか?
俺はドライバーという作品を通じて、この脚本を書いた人たちにそう言われているような気がした。
『さぁ、これが最後の仕上げだ。ドライバー、お前達を倒せば、この世界から希望がなくなる。特に剣崎……お前を失った時、ここにいる者達はどういう顔をするだろうな。それはきっと私にとっては最高の蜜になるだろう』
悪神がゆっくりと剣崎に近づいていく。
それを見たボッチ・ザ・ワールドを演じる小雛ゆかりさんが必死に右手を伸ばした。
『逃げ……て。逃げ、なさい! 起きて、総司! 早く、そいつから……』
『ふはは、無駄だ! 剣崎の母よ。お前はそこで自分の子供が殺されるところを見ていろ!!』
悪神の動きがピタリと止まる。
すると、ロ・シュツ・マーとクンカ・クンカーの2人が必死にその足を掴んでいた。
『に、逃げてください。剣崎の旦那』
『剣崎……お願いです。目を覚まして逃げて。あなたさえ生き残っていれば人類は……』
お前らがヘブンズソードの足にしがみついてたのは前フリだったのかよ!!
さっきは、股間に顔を埋めて呼吸してるだろなんて言ってごめんな!!
『チッ! 裏切り者どもが!! いくら過去を修正され正義面をしてところでお前達の罪は消えないんだぞ!!』
悪神は転がったクンカ・クンカーとロ・シュツ・マーの2人を何度も足で蹴飛ばす。
それでも2人は限界を超えて悪神の足を掴み続ける。
すると、その悪神の背中にエゴ・イストが抱きついた。
『何をするエゴ・イスト。お前こそ、何を絆されているんだ。思い出せ。お前は私と同じ側の人間だろ!!』
『……ああ、そうだ』
エゴ・イストは悪神の肘打ちに何度も顔を殴られながらもその手を離さなかった。
『私は力に固執するあまり、何度も何度もお前にその隙につけ込まれた。だが……その度にこいつらに教えられるんだ。本当の強さは何かって事を……』
エゴ・イストの反対側からトラ・ウマーが抱きつく。
『もうこれ以上、私たちのような人を増やしたくない。だから……ここで絶対にお前を止める。例え、私達の命が尽き果てようとも!!』
ノウ・メーン、ヤン・デ・ルー、メン・ヘラー……多くのチジョー達が悪神の体にしがみついていく。
それでも剣崎の方へと進もうとする悪神に対して、セイジョ・ミダラーが立ち塞がった。
『ありがとう。剣崎……ううん、総司。貴方と出会えて本当に良かった』
ミダラーは一瞬だけ後ろに顔を向けると剣崎に対して優しく微笑む。
そして、再び前を向くと、力強い眼差しを完全体となった悪神へと向けた。
『『『『『絶対に、お前に剣崎を倒させたりはしない!』』』』』
チジョー達の体から出てきたエネルギーのようなものがセイジョ・ミダラーへと集まる。
それを見た悪神が焦りだす。
『まさか、貴様!! 自分達を犠牲にして、もう一度、この私をあそこに封印しようというのか!! 嫌だ! やめろ!!』
ミダラーは涙を流しながら、苦しそうに笑う。
いや、ミダラーだけじゃないトラ・ウマーやボッチ・ザ・ワールドもだ。
ほんの一瞬だけウェディングドレスを着た月子やセイジョ・ミダラー。楽しそうに旅を続けるトラ・ウマーやロ・シュツ・マー達の姿が画面に映り込む。
おい、やめろ……あったかもしれない未来の映像なんて、そんなの悲しすぎるだろ!!
剣崎、こんな悲しい終わり方、お前には似合わないだろ!!
だから、頼む。剣崎……。
『起きて、お兄ちゃん!』
こ、この声は!?
高速道路のバスジャック事件で助けられた女の子の声だ。
『みんな、みんな、お兄ちゃんの事を悪い人だって言ってたけど、私は知ってるよ。お兄ちゃんが、バスジャックしたチジョーのお姉さんを優しく抱きしめてくれた事を!!』
これは、防災無線を使ってるのか!?
映像が放送室に切り替わると、作業服を着たニャンコスキーが映る。
ああ、お前、作業着をきてると思ったら、防災庁の職員だったのか!!
涙を流す女の子の頭を誰かがポンと叩くと、ゆっくりと頭をマイクに近づける。
『早く起きろ、総司!!』
もう1人のお母さん、美洲様きたあああああああああああああ!
『総司、こんな小さい女の子を、目の前にいる女の子達を泣かせてもいいのか? お前はそんなカッコ悪い男の子じゃないだろ。それにお母さんが言った大事な事を忘れたのか? 早起きは三文の得だぞ!! だから、目を覚ましてくれ、総司』
剣崎の指先がぴくりと動く。
『総司……。正直、母親の私からしたら、お前の命に比べたら人類の事なんてどうでもいいんだ。でもな……母親として、私は子供のお前が悲しむ顔を見たくない。だから、お前が後悔したくなかったら、立ち上がるんだ。ダメでもいい。その時は私が精一杯抱きしめて慰めてやる!! だから、お前のために立ち上がれ、総司!!』
満身創痍の剣崎がゆっくりと立ち上がる。
くっ、こんな状態で戦っても……。いや、ダメだ。
視聴者の俺が弱気になってどうするんだよ!!
信じろよ。剣崎を、あくあさんを!!
『総司……』
それを見て一瞬だけミダラーの気が緩む。
悪神はそれを見逃さなかった。
身体にまとわりついていたチジョー達を弾き飛ばすと、空に浮かんだ次元の扉を強引に閉じる。
『ははは! これで私の勝ちだ!!』
勝ち誇る悪神に対して、他のドライバー達もゆっくりと立ち上がる。
加賀美! 橘! 神代! 夜影! みんな、無事だったんだな!!
『いいや、お前の負けだ』
田島司令!! 夜影ミサの母であるサキに支えられた田島司令がニヤリと笑う。
『お前は、覚悟を決めたこの子達の事を何もしらない』
その言葉に応えるかのように、加賀美が前を向く。
『例え、世界が闇に包まれようとも!』
加賀美の目の奥がキラキラと輝いていた。
あの頃の弱い加賀美はもういない!!
その加賀美の想いを紡ぐように夜影ミサも前を向く。
『この世が悪意や憎しみに支配されようとも!!』
エゴ・イストのように強さに固執していた夜影ミサは、その強さに飲まれかかった事もあったが、それを乗り越えてきた。
弾き飛ばされたトラ・ウマーの体を優しく抱き止めた橘が前を向く。
『それでも俺たちは明日を信じて戦い続ける!!』
迷いのない橘の言葉に目頭が熱くなる。
チジョーとドライバー、その両方に寄り添ってきた橘の言葉には力強さがこもって居た。
そして今度は神代が前を向く。
『確かに、世界は決して綺麗な物だけじゃないのかもしれない!』
神代は拳を強く握りしめた。
そこには清濁を全て飲み込んだ人の強さが見える。
そして、最後に剣崎が前を向いた。
『だからと言って、俺達がこの先の未来を信じなくて誰が信じるというんだ!!』
剣崎の力強い言葉に悪神がたじろぐ。
5人は息を揃えると、全員が力強く目の前に一歩を踏み出した。
『『『『『それが俺達、ドライバーだ!!』』』』』
5人は真っ直ぐ手を伸ばす。
そこにそれぞれのメカが収まる。
『何度やっても一緒だ!!』
悪神は大きな咆哮を上げると、自分の完全体をコピーした通常サイズのチジョーを生み出す。
嘘……だろ。こんなの、どうすればいいんだよ。
でも、剣崎はそれを見て笑った。
『お前は何も、ドライバーの事をわかっちゃいない!!』
『なん……だと!?』
どういう事だ?
目を丸くした俺と孔雀が顔を見合わせる。
『ドライバーは、その人の想いに、願いに応えるものだ!』
剣崎は自分の腰に巻いていたベルトを外すと、それを飛んできたヘブンズソードに預けた。
ベルトを持ったヘブンズソードはそのまま空高く飛ぶと、真っ黒な空を晴らすように光り輝く。
『みんな、自分が変わる事を怖がるな! 例えベルトがなくても! メカがなくても! 俺たちはいつだって変われる!! そうだ。俺達は誰でもドライバーになれるんだ!!』
田島司令や夜影サキさん、それに巫女様の腰にもベルトが現れる。
いや、それだけじゃない。さっきの女の子や美洲様、ニャンコスキー達の腰にもベルトが現れた。
『な、なんなんですか。これは!?』
『うぉっ!? 私の腰にもベルトが!?』
クンカ・クンカー!?
ロ・シュツ・マー!?
なんでお前達の腰にもベルトがあるんだ!?
『ふふ、本当に無茶苦茶なんだから……』
『でも、そこがいいんでしょ?』
ベルトを腰に巻いたセイジョ・ミダラーとボッチ・ザ・ワールドが笑い合う。
『頼むみんな。俺達だけじゃこいつを倒せない。だから、みんな、俺達と一緒に戦ってくれ』
俺と孔雀は自然とソファから立ち上がっていた。
それどころか左右の楽屋からも誰かがソファから立ち上がる音が聞こえてくる。
『いくぞ。みんな。変身だ!!』
ドライバーも、ただの人も、チジョーも、みんながそれぞれの変身ポーズを決める。
そして、それを見ている俺と孔雀も自然と変身ポーズを決めていた。
本郷監督……変身が多い。変身に無駄に尺使いすぎだとか思っててごめんなさい。
変身はいくらあってもいいんですね!!
『『『『『『『『『『変……身っ!!』』』』』』』』』』
全員の声が重なる。
うおおおおおおおおおおお!
すげぇ! 本当にチジョー達もドライバーに変身してる!!
『くそっ! こんな無茶苦茶が許されてたまるか!!』
『諦めろ。お前も必ず、俺が、俺達が救って見せる!!』
さっきまでと一転してドライバー達が悪神達を押し始める。
いいぞ。がんばれ、みんな!! 画面の前の俺達もついているからな!!
焦った悪神は、自分の分身体へと手を伸ばす。
『戻れ、お前達!!』
悪神は分裂した自分のコピー達を再度吸収すると、さっきよりも体を大きくする。
おいおい、これは流石に無理だって! もう、ビルよりデカくなってるじゃねぇか!!
『行くぞ、みんな! 俺達も合体だ!!』
は!?
『合体!?』
『合体!?』
『合体!?』
『合体!?』
「合体!?」
「合体!?」
剣崎の言葉にみんなだけじゃなくて、俺と孔雀も驚く。
一体、何を言っているんだ?
それでも、加賀美が真っ先にそれに応える。
『本当、剣崎って無茶苦茶すぎるよ。でも、そんな君だから僕は!!』
加賀美は人間の体に戻ると、ドライバーの力を剣崎に託す。
『剣崎、俺の力を受け取ってくれ! そんな、お前だから俺は!!』
剣崎に力を託した橘は、人間の体に戻るとトラ・ウマーと見つめあった。
『頼んだぞ、剣崎! お前ならきっとやれるはずだ。だって、お前は!!』
神代は剣崎に力を託すと、笑みを浮かべた。
『行け、剣崎。お前なら私の全てを託せる。だから、私はお前が!!』
夜影サキが全ての力を剣崎に託す。
それに続くように、チジョーや他のみんなも剣崎に力を託していく。
『ありがとう、みんな』
全ての力、メカとベルトが剣崎の元へと集う。
『天上変身!! マスク・ド・ドライバー、ヘブンズソード!!』
モジャPのノリノリのコールでヘブンズソードが変身する。
一周回って、初期型に戻るの熱すぎだろ……。
『行くぞ!』
剣崎はベルトに装着されたカブトムシの角を掴む。
く、くる!!
『ドライバー……』
『『『『『『『『『『キーック!!』』』』』』』』』』
俺と孔雀、それどころか、他の控室にいた全員が叫んでいた。
ドライバーキックの衝撃で悪神が身に纏っていた大半の黒いモヤが消滅する。
それでも最後の一部が逃げ出そうとする。
しかし、ヘブンズソードは、剣崎はその最後のカケラを力強く抱きしめた。
『1人で苦しむな』
『けん……ざき』
変身を解除した剣崎は黒いモヤに微笑む。
『ほら、お前、いくところがないんだろ? だったら、俺の中に住めよ。大丈夫。1人じゃない。これからは俺が一緒だ』
『あ、ああ……世界が貴方のような人達ばかりだったら私は……』
剣崎は穏やかな顔をした悪神のモヤを自分の心の中に優しく抱き入れる。
すげぇ、剣崎……なんて器のでかい男なんだ。
俺と孔雀はソファに座ると、放心した顔でエピローグを見守る。
「丸男……」
「ああ、言わなくてもわかってる。俺たちも、頑張らなきゃな」
俺に足りないものは色々ある。でも、剣崎を見て、俺の演じる主人公に1番足りないものが何かわかった気がした。
それは覚悟だ。自分のやるべき事を貫き通す覚悟。
ドライバーを演じる上で、それが1番大事だとわかった。
「さぁ、行こう。丸男、俺たちの出番だ」
「わかってる。こっちも、同じくらい頑張んなきゃな!」
俺と孔雀は顔を見合わせると、笑顔でハイタッチをして控え室を後にする。
ドライバーも大事だが、こっちも俺達にとっては同じくらい重要だ
俺たちが今できる最高のステージを見せるために、頑張らなきゃ行けないと気合が入る。
このステージを見にきてくれた、全てのファンのために!!
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://x.com/yuuritohoney




