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山田丸男、ずっと白龍先生のターン。

 黛さんが演じる橘は、淡島さんが演じる恋人の月子と対峙する。


『くっ! 月子、やめるんだ! 俺の事を思い出してくれ』

『何を言っている! 私にお前のような知り合いはいない!!』


 橘が変身したライトニングホッパーは、月子の変身したトラ・ウマーが繰り出す攻撃を全て受け止める。

 くっ! 橘のライトニングホッパーは、ドライバー図鑑によると、本来は攻撃に全振りしたドライバーだ。今回みたいな防戦一方になると自然とジリ貧になる。

 かといって、橘が恋人の月子を攻撃できるわけでもないからもう勝負は決まっているも同然だ。


『月子……頼む。もうこれ以上、誰かを、いや、自分を傷つけないでくれ!!』

『ええい、うるさい!! 軟弱な男が! 私はお前のような軟弱な男が1番嫌いなんだ!!』


 トラ・ウマーは防戦一方のライトニングホッパーをボコボコにする。

 よく見ると、トラ・ウマーの身体にもブラック・レキシーと同じ黒いモヤがまとわりついていた。


『それでも……俺は!』

『鬱陶しい!!』


 踵落としを食らったライトニングホッパーが地面に倒れ込む。

 くそっ! こんなのどうすりゃいいっていうんだ!!

 うつ伏せになったライトニングホッパーに田島司令からの通信が入る。


『みんな……聞こえているか? 田島だ!!』


 ここで田島司令とくくりさんが演じる巫女様の回想シーンが入る。

 へぇ、なるほど、黒いモヤは細胞分裂した自分のコピーを記憶を消したチジョー達にくっつける事で足りない記憶の整合性と整えているのか。

 だが、問題はそのモヤをどうやって引き剥がすかだ。

 それが解決できなければ、どうしようもない。


『はぁ……はぁ……』


 ライトニングホッパーを膝に手をつくと、ゆっくりと体を起こしていく。

 それを見たトラ・ウマーが少しだけ後ずさる。


『お前……まだ、立ち上がるのか?』

『ああ』


 月子の問いかけに対して、橘はまっすぐと前を見つめる。


『何故、そこまでして……』

『俺は……俺は、もう、2度と君を失いたくない!』


 ライトニングホッパーはその拳を力強く握りしめる。


『好きだ……月子!』


 橘の力強い言葉に、トラ・ウマーはびくりと体を反応させる。


『うるさい! 貴様、戦闘の最中に一体何を言っている!? 戦いに集中しろ!!』


 トラ・ウマーの言う通りなのかもしれない。

 それでも覚醒した橘はもう誰にも止められなかった。


『いいや、俺は何度だって言い続ける!! 月子……好きだ。愛している!!』


 女優さんって……すげぇな。

 この時、淡島さんはどういう想いで月子を演じていたんだろう?

 俺が淡島さんの立場だったら、いくらドラマとはいえ、黛さんからこんなストレートなセリフを言われたら演技するどころじゃなくなると思う。


『たとえ、月子が何度俺の事を忘れようとも、俺は何度だって君にこの熱い思いを伝える!』


 基本的にドライバーが変身したシーンの撮影は、スーツアクターが中の人を務める。

 でも……このシーンは違う。間違いなく黛さん自身が中に入っていると、俺は画面の向こうから訴えかけてくる何かを感じ取った。


『好きだ月子。だから、もう一度、俺の事を好きになってくれ』

『な、何を……うっ!』


 動揺するトラ・ウマーは自分のお腹を手で抑える。

 2人の子供が、2人を繋ぐ新しい命が、もう一度、2人を繋ごうとしているんだろう。

 トラ・ウマーにまとわりついていた黒いモヤは橘に危機感を感じたのか、一斉にライトニングホッパーに向かっていく。


『月子と! 俺の! 間に!! 余計なやつが入ってくるなああああああああああああああああ!!』


 橘の気迫に黒いモヤが怯む。

 その瞬間、橘の熱い想いに応えるように、ライトニングホッパーのベルトが光り輝く。


『ライトニングホッパー……お前、こんな俺にまだ力を貸してくれるというのか?』


 ベルトに装着したライトニングホッパーのメカが目を光らせる。

 それを見た橘は、メカの頭を優しく撫でた。


『ありがとう。こんな頼りない俺をドライバーに……いや、1人の男にしてくれて! いくぞ! ライトニングホッパー!!』


 変身した後にもう一回変身しちゃいけないって誰が決めた?

 橘は変身したライトニングホッパーの状態で、さらに変身ポーズを決める。


『究極変身! アブソリュートラウンド! ライトニングホッパー、キングスフォーム!!』


 メカのVCを担当してるモジャさんの声だ!!

 鈍い銀色だったライトニングホッパーが綺麗な黄金色に輝く。

 その姿はもうヘブンズソードに出てくるサブのドライバーなんかじゃない。

 キングの名に相応しい、主役級ドライバーの姿そのものだった。


『俺は絶対に月子と添い遂げてみせる!!』


 もう、橘は……いや、初期のケンジャキからは想像できないくらい覚醒した黛さんは誰にも止められねぇよ……。

 ここで黛さんが演じる橘の歌う曲がかかる。最高……かよ。

 ライトニングホッパーの光に弾かれた黒いモヤがトラ・ウマーの体から離れていく。

 その隙を橘は見逃さなかった。

 ライトニングホッパーは黒いモヤに向かって手に持った銃を連射する。


『俺と月子は、剣崎達やSYUKUJYOのみんな、チジョー達に祝福される中で結婚式を挙げるんだ!!』


 橘、いや、黛さん……それって橘の事だよな?

 黛さんの願望じゃないよね!?


『俺は月子と結婚した後も同棲していた頃と変わらないくらいラブラブでいたい!』


 銃の弾を全て撃ち尽くしたライトニングホッパーは銃を投げ捨てる。

 ヒーローに武器なんかいらねぇんだ。あくあさんの言葉が俺の中で脳内再生される。

 蜂の巣にされた黒いモヤはそれでも再生しようとしたが、橘は力強く握りしめた拳をその黒いモヤに何度も打ちつけた。


『子供ができたら、2人で一緒に子育てしたい!! きっと大変だが、良い家族の思い出になるはずだ!!』


 ライトニングホッパーは何度も何度も黒いモヤを殴りつける。

 黒いモヤが再生するスピードよりも早く、もっと早く! ヘブンズソードよりも早く!!


『子供が成人したら、夫婦の時間をもっと増やして同棲していた時みたいに2人で熱い時間を過ごすんだ!!』


 ライトニングホッパーの加速ラッシュに、黒いモヤの再生が追いつけなくなっていく。

 なるほど、これがパワー教かぁ……。あくあさんが言ってたけど、やっぱり最後に信じられるのは、自分のグーだけなんですね。


『老後は、月子のやりたい事を全部やってあげたい!! そして、最後は……君を看取った後に、俺が君を追いかけるよ。だから先に待っていてくれ!! 俺は必ず君に追いつくから!!』


 音速を超え、光速すらも超え、剣崎のスピードをも超えたライトニングホッパーのスピードに世界の方がついていけなくなる。

 キングスフォームつええ……。もうライトニングホッパーは、ヘブンズソードのおまけなんかじゃねぇよ。


『それが俺の! 橘斬鬼の! 幸せハッピー家族計画だあああああああああ!!』


 ライトニングホッパーは渾身の握り拳を作ると、本郷監督の超カッコいいカメラワークで、黒いモヤの残りカスにアッパーカットをかます。

 明らかなオーバーキルだが、もはや誰もそこに突っ込む余裕がないくらい橘が覚醒していた。


『悪いな。この世界のスピードで俺が歩幅を合わせるのは月子だけだ』


 爆発を背にしたライトニングホッパーが優しくキャッチした月子をお姫様抱っこする。

 か、カッケェ……。

 なんで最後に黒いモヤが爆発したのかわからないけど、爆発がカッコよかったから細かい事はまぁ、いっか……。あくあさんも、かっこよければ全てよし、男が細かい事を気にしちゃダメだって言ってたしな。

 俺と孔雀が呆けていると、橘は月子を抱えたまま変身を解く。

 嘘……だろ。あの黛さんが、淡島さんをお姫様抱っこできるくらい筋肉をつけているなんて……。


「そういえば、白銀あくあに頼んでお姫様抱っこの練習をしていたのを見た事があるな。白銀あくあが、俺を抱えられるくらいの男じゃないと、淡島さんを抱く事なんてできないぞ!! って言われていたが、まさかこの撮影のための特訓だったのか……」


 黛さん、筋トレとか頑張ったんだな。

 孔雀は画面に映った黛さんに真剣な眼差しを向ける。

 孔雀、お前の気持ち、わかるよ。

 俺も、俺達も、もっともっと頑張らなきゃな。


『あ、あ……あ、わ、私……』


 橘は、全ての記憶を思い出した事で戸惑い怯える月子の唇を、そっと人差し指で押さえる。


『おかえり、月子』


 橘はそう言って、月子の唇に優しくキスをした。

 うわああああああああああああああああ!!

 俺と隣にいた孔雀は、予想していなかったシーンにびっくりして思わず抱きつく。

 あの黛さんがキスシーンとはいえ、人前でキス……だと!?


『もう、絶対にこの手を離さないからな』

『う……うん』


 橘の言葉に月子は照れた顔をする。

 どっちだ!? これは演技なのか!? それとも……いや、これ以上は詮索するのをやめよう。

 間違いない。こんな熱い告白シーンが書けるのは、俺達の、みんなの白龍先生しかない。

 SNSのトレンドを見ると【リアルの結婚式に呼んでください】【白龍先生がやってくれました】【末長く爆発しろってこういう事だったんですね】【やっぱり白龍先生なんだよ】【黒いモヤもとい司先生の死亡を確認!!】【ええ、私は最初から白龍先生を信じていましたよ】【橘、お前も今日から剣崎だ】【アイコちゃん大勝利ぃ!!】がトレンド入りしていた。


『月子、俺は行くよ。みんなが心配だ』

『うん、待ってる。私も……この子も』


 月子は愛おしそうな顔で、自分のお腹を摩る。

 それを見た橘がびっくりした声を出す。

 あ、そっか。妊娠した事を言えてなかったもんな。


『そうか、じゃあますます無事に帰ってこないとな』


 橘は月子の体を優しく抱きしめる。

 ここでシーンが切り替わると、複数のチジョー達に囲まれて袋叩きにされるバタフライファムが映った。


『ジャマ ヲ スルナ!』

『ソコ ヲ ドケ!!』


 バタフライファムの後ろでは、バリケードを築いている警察官や自衛隊の隊員達が映った。

 お、おい! 何してるんだよ!! 早く1人で戦っているバタフライファムを助けてやれよ!!


『1佐! 私達は手助けしなくていいんですか!?』

『ああ、幕僚本部からのご命令だ。私達は住民の避難を最優先に行う』

『しかし! アレでは……!』

『本部からの命令は絶対だ! それに、私達は下手にチジョーを刺激するわけにはいかないんだよ……』


 バリケードの奥に、逃げ遅れた一般市民達が映り込む。そういう事かよ!!

 ここで統合幕僚本部のシーンに切り替わると、チジョーに変身した幹部の1人が本部を完全に制圧していた。

 その一方で、警視庁でもチジョーに変身した警視総監が警視庁内部を制圧する様子が映される。

 くっ! だから、ドライバーが全国指名手配されたりしていたのか!!

 絶体絶命の状況で、暴れる2人のチジョーの下に2人の女性が近づく。


『そんな事だろうと思ったよ』

『これは、あの子達を守る私たちの仕事だ』


 田島司令! それに夜影サキさんも!!

 2人のドライバーは手に持ったベルトを腰に巻き付ける。

 うぇっ!? プロトタイプドライバーのベルトはエゴ・イストに奪われたはずじゃ……。

 いや、違う。よく見たら、違うベルトだ!!


『『変身っ!』』


 夜影サキが変身したドライバーはどことなく娘のミサが変身したバイコーンビートルに似ている。

 その一方で田島が変身したドライバーは、剣崎のヘブンズソードに似ていた。


『こんな時のために、量産型ドライバーを秘密裏に研究していたんだ』

『ふっ、相変わらず田島は強かだな。裏でちゃんとやる事はやっている!』


 2人の先輩ドライバー達が2人のチジョー達を圧倒するシーンが交互に映し出される。

 つ、強い……。さすがは今のドライバー達が出てくるまでの間に、人類を守っていた2人だ。

 田島はすぐに通信機能を使って、現場の隊員達にこの事を伝えようとする。

 しかし、ジャミングがかかっているのか、現場にいるドライバーや隊員達と通信が繋がらなくなった。


『くっ! みんな、すまない。私が最初からこの可能性に気がついていれば……!』


 ここで再び、とあさんが演じる加賀美が変身したバタフライファムがボコられるシーンに切り替わる。


『ナゼ ソコマデシテ タチアガル?』

『モウ アキラメタラ イイジャナイカ』


 加賀美はチジョー達からの囁きにも屈せず、何度も何度も立ち上がってはボコボコにされる。

 くっ! もう、いいだろ! そこまで、頑張らなくてもいいじゃないか!!

 俺はやるせない状況に、歯を強く噛み締める。


『モウ イイ! コイツハ ムシダ サキニ イクゾ!』

『ソウダ! アッチヲ ネラエ!!』


 一部のチジョー達がバタフライファムの先にあるバリケードに向かって突き進む。

 それに気がついたバタフライファムは持ち前のスピードで先回りして、なんとかチジョー達の突破を阻止した。

 しかし、チジョー達による追加攻撃を正面から受け止めたバタフライファムの身体が、バリケードの内側に吹き飛ぶ。


『銃を構えろ!! チジョーがくるぞ!!』

『一般市民を守れ!!』


 自衛隊員や警察官達がチジョーに向かって発砲する。

 その一方で、吹き飛んで横たわるバタフライファムの周りを、医療関係者や消防隊員、逃げ遅れた市民達が取り囲んでいた。


『生きてる、よな?』

『ああ、それよりも、見ろよ』

『マスクが壊れて、中の顔が見えるな……』


 あ……本当だ。マスクから、加賀美の顔が見えている。

 さっきの一撃で完全に気を失った加賀美が仰向けに倒れる姿が画面に映った。


『まだ……まだ、子供じゃないか』

『ああ、私の子供と同い年くらいだ』

『それなのに、私達を守るために戦ってくれていたの……?』

『それも全国指名手配をされてまで……』


 加賀美の瞼がぴくりと動いた。

 ゆっくりと少しずつ、加賀美の閉じていた目が開いていく。


『お、おい。大丈夫か?』


 加賀美はゆっくりと上半身を起こしていく。


『立た……なきゃ』

『あ、ああ、わかった』

『おい、そっちを支えてやれ』


 みんなに支えられた加賀美がゆっくりと立ち上がった。

 こんなにもズタボロなのに、それでも立ち上がる加賀美の姿に周りに居た人達が固唾を飲んで見守る。

 そこに逃げ遅れたのであろう1人の子供が加賀美へと駆け寄ってきた。


『ありがとう、お兄ちゃん。私達を守ってくれて』


 子供の純粋な言葉に周りに居た大人達もハッとする。

 優しげな笑みをこぼした加賀美は、子供の頭を優しく撫でると「どういたしまして」と呟いて再び前を向く。


『まだ……戦うつもりなのか?』

『もう、いいんだ。そんなにボロボロになってまで戦わなくても』

『ああ、私達の事なら気にしないで』

『子供達を連れて逃げてくれ。大丈夫、その間の時間は私達が稼ぐから』

『子供達を守るのは、俺たち、大人の役割だ』


 さっきまで守られていた一般市民達が次々と手に武器をとっていく。


『その一般市民を守るのは私達の役目だ』

『ああ! 君は一般市民を連れてさがりなさい!!』


 警察や自衛隊の人達は、チジョー達と交戦しながら強がった表情を見せた。

 その姿を見た加賀美は嬉しそうに微笑む。


『ありがとう、みんな。でも、その気持ちだけで十分だよ』


 ボロボロになったマントを気高く翻したバタフライファムは前に出る。


『だって……僕は、みんなを守るヒーローだから』


 かっけぇよ。加賀美の覚悟を決めた横顔を見た俺と孔雀は息を詰まらせる。

 ゆっくりと呼吸を整えた加賀美は、持っていた槍を地面に突き刺す。


『行くぞ! バタフライイイイイエフェクトオオオオオオオ!』


 バタフライファムは再チジョー化を解消させたバタフライエフェクトの能力をフルパワーで使う。

 でも、多勢に無勢だ。多すぎるチジョー達の数に、対応しきれない。

 それでも加賀美は諦めずに能力を行使し続ける。

 限界を超えた事で、ドライバースーツがだんだんとひび割れて壊れていく。


『バタフライファム。こんな僕でも、1人にヒーローさせてくれてありがとう!! だから、あと少し、もう少しだけでいい、なんとか耐えてくれ!!』


 あれ? なんでだろう?

 ドライバースーツは見るからにボロボロに壊れていっているのに、それはまるで蛹が蝶になる姿のように見えた。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 加賀美の熱い想いに応えるように、ドライバーベルトが光出す。

 こ、この演出はさっきと同じだ!!

 とあさんの歌う加賀美のイメージソングが流れると、ボロボロになったドライバースーツの内側から新たなスーツが浮かび上がってくる。


『最終変身! ファイナルアドベント! バタフライファム、ミスティックウイング!!』


 モジャさんの声と共に、バタフライファムが身に纏っていたボロボロのマントが脱皮して、大きな大きな真っ白な天使の翼へと生え変わる。

 なんて綺麗なんだ……。これじゃあ、もう、ドライバーというよりも女神様みたいじゃないか。

 その真っ白な聖気に当てられた黒いモヤがチジョー達の体から離れ、逃げて行こうとする。

 しかし、バタフライファムはそれを逃さなかった。


『逃げられると思うな!!』


 槍を構えたバタフライファムは、空高く飛び逃げ惑う黒いモヤを次々と串刺しにしていく。

 そうして一塊になった黒いモヤを抱えたバタフライファムは、天使の翼をはためかせてさらに空高く飛んでいった。

 一体、どこまで行くんだろう?

 まるで小さな部屋から飛び出すように、バタフライファムは雲をも超えてさらに高く飛んでいく。

 嘘……だろ? もしかして、地球すらも超えて、宇宙に飛び出るつもりかよ!?

 黒いモヤが成層圏で焼かれてだんだんと小さくなっていく。


『うおおおおおおおおおおおおおお!』


 加賀美夏希が……猫山とあが閉じこもっていた小さな世界はもうそこにはない。

 彼の視界の先には、果てのない宇宙という海が広がっていた。


『ありがとう。剣崎……。君がいたから、僕はこの景色を、もっと広い世界を見る事ができたんだ』


 加賀美が剣崎に向けて言ったセリフ……のはずなんだけど、俺はとあさんがあくあさんに言ったセリフようにも聞こえた。

 大気圏を突破したバタフライファムは月を背にしてくるりと回転する。

 そしてバタフライファムはもう一度大気圏の中に突入すると、残った黒いモヤを完全に消滅させた。


『剣崎、みんな。今、行くから!!』


 降下ポイントがずれた加賀美は、剣崎達が戦っている東京に向かって全速力で飛んでいく。

 ここでシーンが切り替わると、岩成ニコさんが演じるノウ・メーンと、小雛ゆかりさんが演じるボッチ・ザ・ワールドが天我先輩演じる神代はじめのポイズンチャリスを挟み込んで、2人でボコボコにしていた。


『2人とも目を覚ませ!! くっ! チジョー化を解除するきっかけがあれば!』


 チジョー化を解除するには、バタフライファムのバタフライエフェクトみたいな必殺技を使うか、剣崎みたいに相手の心に寄り添い変身を解除するしかない。

 でも、ポイズンチャリスの場合は、そういう必殺技がないんだよな……。いつも、周りのドライバー達がきっかけを作って、ポイズンチャリスは手持ちの弓かカリバーンを使ってチジョー化の黒いモヤを断ち切っていた。


『いや、俺にも何かできる方法があるはずだ!』


 ポイズンチャリスは弓を分解した二刀の曲刀でノウ・メーンとボッチ・ザ・ワールドが身に纏う黒いモヤを切り裂いていく。でも、黒いモヤは何度切り裂かれてもすぐにくっついて再生する。

 こんなの無理ゲーじゃねぇか。

 徐々にジリ貧になっていくポイズンチャリス。そこへ2人の助っ人が駆けつける。


『大丈夫か!』

『私たちも手伝う!!』


 神代は助けてくれた2人の男性の顔を見て、少しだけ顔を背ける。


『親父……それに叔父さん』


 神代は誰にも聞こえないようにそう呟く。

 なんと神代を助けたのは記憶を失っているはずの2人の親族、賀茂橋さんが演じる神代の父親と、石蕗さんが演じる神代の叔父さんだった。


『2人はどうしてここに? ここは避難区域だろ!!』

『急な避難に怪我人や病人、ご老人達が対応できるわけがない。知り合いの南親子達が逃げ遅れた人達を、そこの南珈琲店で匿っている!!』


 南珈琲店に居るハルカさんとナナちゃんの親子が映った。

 ポイズンチャリスはもう一度立ち上がると武器を手に取る。


『くっ! 俺は一体、どうすれば……!!』


 あくまでもポイズンチャリスは、2人のチジョーを救うために戦っている。

 でも、これが2人のチジョーを殺すなら話は別だ。

 ポイズンチャリスにはそれができるだけの力があるし、昔のポイズンチャリスなら迷わなかっただろう。

 だけど、剣崎達との出会いが神代を変えてしまった。


『くっ!』

『ぐはぁっ!』


 戦っていたお父さんと叔父さんの2人が吹き飛ばされる。

 それでも2人はなんとか立ち上がって戦おうをしていた。


『頼む! 君はそこに居る人達を連れて逃げてくれ!!』

『ここは私達に任せろ!!』


 神代はその姿を見て覚悟を決めたのか、一歩前に出る。


「なぁ、丸男、お前ならこういう状況の時どうする?」

「わかんねぇよ。でも、諦めたくはないな」


 俺の答えを聞いた孔雀は笑みを浮かべる。

 なんだよ、その反応は。それに俺に聞くなら、お前もどっちか言えよ!!


『来い。ノウ・メーン、ボッチ・ザ・ワールド。俺が相手だ』


 覚悟を決めた神代の圧がテレビ越しに伝わってくるようだ。

 一体、どうなっちまうんだよ……。

 本気の神代の殺気と気迫に押し負けたのか、ノウ・メーンとボッチ・ザ・ワールドの2人は本気の攻撃を繰り出す。

 すると神代は両手に持っていた曲刀を捨て、2人の攻撃を真正面から受け止めた。


『ぐうっ!!』


 痛い痛い痛い! 2人の持っていた武器が神代の体に刺さってるって!!

 それでも神代は自分の身体に突き刺さった2人の武器を手で掴んで離さなかった。

 一体、何をするつもりなんだ!?


『すまない。俺は不器用だから、こうする以外の事が思い付かなかった……』


 ドライバーマスクの内側で神代が吐血する。

 嘘……だろ? 神代はゆっくりと自分の体内に黒いモヤを取り込んでいく。

 まさか、黒いモヤをチジョーじゃなくて、自分を乗っ取らせるつもりなのか!?


『あ……あ、あ……』

『私……達は……』


 黒いモヤが完全に神代に移ったことで、ノウ・メーンとボッチ・ザ・ワールドは人間の姿に戻って倒れた。

 それと同時にポイズンチャリスの変身を強制解除された神代も倒れ込む。


 ドクン、ドクン……ドクン……。


 徐々に神代の心臓の鼓動が小さくなっていく。

 そして、最後にはその心臓の鼓動が聞こえなくなった。


『はは……ハハハ……やったぞ! ついに私は男の体を手に入れたんだ!!』


 司先生……まだ、寝てなかったんですか。俺は絶望すぎる展開に頭を抱える。

 神代の体を乗っ取った黒いモヤは、周りを飛んでいたメカを掴むとポイズンチャリスに、いや、見た事もない姿に変身……いや、これは変身なんかじゃない。へ、へ、へ、変態だーっ!!


『チジョー改め、ヘン・ターイ! とでも名乗ろうか!!』


 マスクの代わりに頭にブリーフを被ったポイズンチャリスが歌舞伎のようなポーズを決める。

 嘘だろ。俺と孔雀は色んな意味で絶望した……。


『これがあれば私は……ん?』


 神代の体を乗っ取った黒いモヤは誰かに体を引っ張られて、そちらに視線を向ける。

 するとそこには、必死にポイズンチャリスの体を引っ張る南珈琲店のカナちゃんが居た。


『ダメ。その人の身体を返して!!』

『返す? 一体、誰にだ? こいつはもう死んでるんだぞ!!』


 黒いモヤは神代の体を使って、縋り付くカナちゃんの体を払い除けた。

 するとそこに南珈琲店から出てきたお母さんのハルカさんが駆けつける。


『大丈夫、カナ!?』

『大丈夫……でも、あのお兄ちゃんが!!』


 カナちゃんは目に溜めた涙をポロポロと溢す。

 もしかして……カナちゃんは自力で消えた記憶を取り戻したのか!?

 幼女強すぎだろ……。


『負けないで、お兄ちゃん。そんな奴に負けたら、ダメ!!』


 カナちゃんの涙を見てヘン・ターイの身体がぴたりと止まる。


 ……ドクン……ドクン、ドクン!


 うおおおおおおおおおおおおお!

 止まったはずの神代の心臓がもう一度動き出す。

 天我先輩の歌う神代のイメージソングと共に、ヘン・ターイが装着したベルトが光りだした。


『くっ、なんだ。なんなんだこれは!!』


 その光に耐えきれなくなった黒いモヤが神代の身体を手放す。

 すると眩い光に包まれたポイズンチャリスがよりかっこいい姿に生まれ変わっていく。


『天外変身! カテゴリーエース! ポイズンチャリス、アンデッドジョーカー!!』


 モジャさんの声と共に、完全復活したポイズンチャリスがカナちゃんの頭を優しく撫でる。

 嘘だろ……。一度、死んだ後に、自己蘇生するなんて、そんなのアリかよ!!


『くそっ、かくなる上は!!』


 飛び出した黒いモヤが呑気な顔で寝転がっていた小雛ゆかりさん……じゃなくて、ボッチ・ザ・ワールドにもう一度、乗り移ろうとした。

 しかし、ポイズンチャリスが指をパチンと鳴らすと、寝転がっていたボッチ・ザ・ワールドの姿が消える。

 あ、あれ? どうなっているんだ!?


『こ、これは……どういう事だ!?』


 至る所に呑気な顔をした小雛ゆかりさん……じゃなくて、ボッチ・ザ・ワールドが転がる。


『お前が見ているもの全てがフェイクだとしたらどう思う?』

『何だと!?』


 世界がひび割れる。

 次の瞬間、世界がガラスのように崩れ去った。


『お前は、いつから俺を倒したと錯覚していた?』


 うおおおおおおおおおお!?

 い、いつからだ!? わっ……かんねぇ。

 でも、あのカナちゃんの涙は本物だったはずだ。


『くそおおおおおおおおおおおお!』

『無駄だ!』


 黒いモヤを複数のポイズンチャリスが取り囲む。


『お前は俺が作り出したこのフェイク・ザ・ワールドから逃れられない』

『あ、あ……あ』


 発狂を通り越えて、頭がおかしくなった黒いモヤの意識が途切れる。

 現実世界に戻ってきたのか、ポイズンチャリスが作り出した幻覚の中に囚われた黒いモヤが箱の中でおとなしくなっていた。

 ところで、そのフェイク・ザ・ワールドって、ボッチ・ザ・ワールドさんの親戚か何かですか?


『こいつはチジョー化を解明するために、このままにしておくか』


 あっ、そっか。倒しちゃうより、保存できるならそうした方が良いよな。

 神代は、最初の頃と比べたら本当に冷静になったと思う。


『お兄ちゃん……大丈夫、なの?』

『ああ、問題ない。一時的に仮死状態になっただけだ』


 そんな器用な事ができるのかよ……。あくあさんなら生身でもやりそうだけどさ。

 ポイズンチャリスは遠く離れた別の結界へと視線を向ける。


『待っていろ。俺もすぐに行く』


 ここでシーンが切り替わると、小早川優希さんが演じる夜影ミサが変身したバイコーンビートルが、エゴ・イストと激しい戦闘を繰り広げていた。


『エゴ・イスト!! 貴様にその力は過ぎたるものだ!!』

『うるさい! これで私も真の強さを手に入れたんだ!!』


 細かい説明なんていらない。と言わんばかりの激しい戦闘シーンが繰り広げられる。

 それも2人ともノーガードの殴り合いだ。

 もしかして、本郷監督もパワー教なんじゃないかと俺は訝しむ。


『私もかつてはそうだった。お前のように強さを求め、誰かを倒すことに固執していた!!』

『今はそうじゃないというのか? 嘘をつけ! 剣崎の力を見て、その力に嫉妬しなかったなんて事はないだろう!!』


 バイコーンビートルがエゴ・イストの頬に一発を入れたら、エゴ・イストがバイコーンビートルの頬にカウンターで一発を決める。


『違うな。これは嫉妬じゃない。憧れだ。剣崎のように強くなりたい。私はそう思った。だが、お前はどうだ!? その強さの先に何がある!!』

『そんなもの! 私は!! ワタシハ……ナゼ……?』


 やはり、エゴ・イストも黒いモヤによって、力に固執していた時代に引っ張られているのか。

 エゴ・イストは自分の頭を両手で抱える。


『剣崎? ヘブンズソード……? 私は一体、何を言っているんだ……。何の記憶に引っ張られている!?』


 ああ、そうか。エゴ・イストは力に固執してチジョーになった。

 だから、エゴ・イストにとっては最強だった剣崎の記憶が、自分がチジョーである事の根底から切り離せないんだ。


『うわあああああああああああああああああ!』


 エゴ・イストの装着しているベルトに電流が走る。

 すると彼女の体の周りから一際大きい黒いモヤが立ち込めた。

 暴走した力が、電撃となって周りに降り注いで行く。


『エゴ・イスト……自分に負けるな!!』

『ジブンニ マケルナ?』


 夜影ミサはエゴ・イストの言葉に力強く頷く。


『ああ、そうだ! 私もかつて、自分自身に負けそうになった。だからこそ、わかる。エゴ・イスト、自分に負けるな! 本当の強さとは、自分と戦う事だ!! 思い出せ、力に固執していた私達に、本当の強さを教えてくれた人が居た事を!!』


 夜影ミサの言葉に危機感を覚えた黒いモヤがバイコーンビートルを包み込んでいく。

 まさか、夜影までもをチジョー化させるつもりか!?


『無駄だ! 私はもう惑わされない。なぜなら、私は本当の強さを彼らに教えられたからだ!!』


 小早川さんが歌う夜影ミサの曲に合わせて、バイコーンビートルのベルトが力強く光り輝く。


『システム・オールレッド! アウト・オブ・コントロール!!』


 こ、これは、ドライバー図鑑に載っていた隠されたバイコーンビートルの機能だ!!

 バイコーンビートルの脚部が真っ赤に燃える。


『極限変身! リミットブレイカー! バイコーンビートル、レッドブーツエディション!!』


 モジャさんもノリノリじゃねぇか!!

 バイコーンビートルの関節部が少しだけ開くと、蒸気機関車のような湯気をプシューっと吐き出した。

 確か、足元に溜めた熱を排熱するための機能だっけか。


『私のこの燃えたぎるような熱を受け取れ! エゴ・イスト!!』


 あまりの熱さに日和った黒いモヤがエゴ・イストの体から逃げ出す。

 しかし、それを見逃してくれるほどバイコーンビートルは、夜影ミサは優しくない。


『うおおおおおおおおおおおおおおおお! 熱血! ドライバー、キック!!』


 火の玉のようなバイコーンビートルのドライバーキックで、逃げ出した黒いモヤが一瞬で焼け切れた。

 黒いモヤは成層圏突破の熱には耐えきれたのに、熱血の熱には耐えきれないのか……。


『すまない。私は、また力に取り憑かれて……』

『気にするな。私が何度だって止めて見せるさ。でも、私が暴走しそうになった時は頼んだぞ』


 夜影はエゴ・イストにそう言い残すと、剣崎が戦ってる場所へと向かって走り出した。

 さぁ、あとは剣崎だけだ。頼むぞ、剣崎! いや、ヘブンズソード!!

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