山田丸男、白龍先生のターンだ。
神代と夜影に続き橘と加賀美が合流するも、チジョーと人間の両方から狙われる厳しい状況が続く。
それでも4人はいまだに消息不明の剣崎を除き、どこかの廃工場でしばしの休息を取った。
『くそっ! 一体、何がどうなっているんだ!!』
夜影はやり切れない思いをぶつけるように、廃工場の柱を殴りつける。
それに続くように、加賀美、神代、橘の3人が無言で項垂れるアップのシーンが映し出された。
みんな傷だらけでもう満身創痍だ。でも、見た目以上に、その表情からは心が疲弊しているように見えた。
俺は今の4人の事を思うと胸が苦しくなる。
だって、守らなきゃいけない人間から追われて、攻撃されるって、辛いよな……。
重苦しい雰囲気が漂う中に、誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。
『どうやら全員が揃っているようだな』
みんなが剣崎の声にハッとした顔をする。
剣崎が来た。これで勝てる!!
そんな視聴者と4人のドライバー達の希望を打ち砕くように、暗闇の中から現れた剣崎の姿は傷だらけの満身創痍だった。
『剣崎……その怪我、大丈夫なの?』
『ああ、応急措置は自分でした』
加賀美は剣崎に肩を貸すと、その小さな体で剣崎の大きな体を支える。
『剣崎、ここに座れ。今は少しでも体力を回復させるんだ』
『ああ、そうさせてもらう』
剣崎は神代が座っていた鉄骨の上にゆっくりと腰を下ろす。
頼みの綱の剣崎がこんな状況で本当に大丈夫なのか……。
どんな状況でも、剣崎が来れば大丈夫だろう。
俺たち、視聴者だけじゃなく、きっと夜影も橘も神代も加賀美もそう思っていたはずだ。
でも……こんなズタボロになった剣崎の姿を見せられたら、今まで自分たちが心の拠り所にしていた希望さえも打ち砕かれそうになる。
そんな4人の顔を見て剣崎はゆっくりと口を開いた。
『お互いの情報をすり合わせて状況を再確認しよう。まずは、加賀美……今、SYUKUJYOはどうなっている?』
『SYUKUJYOは……』
一人一人が今日、自分の周りで起こった変化について説明していく。
その説明を聞いた剣崎は一つの答えを出した。
『……どうやら人の記憶に作用するチジョーがこの事件に関わっているようだな』
『そんなチジョーがいるのか?』
夜影の言葉に剣崎は頷く。
『ああ、ミダラーからそういうチジョーが居ると聞いた事がある。確か、その名はブラック・レキシー』
ただの黒歴史じゃねぇか!!
このいい加減なチジョーのネーミングセンスを聞くと、ヘブンズソードが帰ってきたって感じがするぜ。
『彼女の能力は至ってシンプルだ。能力を行使した相手に対して、自らが指定した記憶を消す事ができる。あまりにも強力な力を持っていた事から、彼女は自らその力を右手、いや、左手だったか?』
うわああああああああああああ!
剣崎、それ以上は追求しないであげてくれ!!
右手だろうが左手だろうが、そんなのはどうでもいいじゃないか。
『どちらの手だったか忘れたが、ブラック・レキシーはその強大な力を自らの片手に封印したと聞く。おそらくは誰かがその封印を解いて彼女を再チジョー化させたのだろう』
『つまり、誰かがその封印を解いて、ブラック・レキシーの能力を利用しているという事か?』
橘の言葉に剣崎が頷く。
『それに、ブラック・レキシーの能力は強力だが、あくまでもその対象は実際に対峙した相手だけだ。だが……今回の対象の範囲はあまりにも規模が大きすぎる。ほんの一瞬で、この世界から俺たちの、ドライバーの存在と記憶が消えてしまった。おそらく、誰かが彼女を操って、その能力にブーストをかけているのだろう』
つまり、加藤イリアさんが演じるブラック・レキシーは、あの黒いモヤみたいなのに操られているってことか。
くっ! せっかく黒歴史を自ら封印して静かに暮らしていたのに、なんてひでえ事をするやつなんだ!!
『それじゃあ、ブラック・レキシーを見つけて、その腕にもう一度封印を施せばどうにかなるわけだな?』
『ああ。ただ……問題はそいつとどうやって接触するかだ』
そっか。さっき登場した時も遠くから能力を行使していたし、表に現れなきゃどうしようもない。
って、これ、詰んでないか!? どうやってブラック・レキシーを見つけるんだ!?
視聴者の俺でも絶望するような状況に頭を抱えていると、1人の女性の後ろ姿が映った。
『それなら、見当はついている』
その女性の言葉に全員が振り向く。
あっ!? こ、この人は……。
『お母さん! どうしてここに!?』
『ミサ……無事で良かった』
夜影ミサの母である夜影サキが娘のミサを抱きしめる。
ああ、そっか。お母さんはプロトタイプの被検体だったから、田島司令と同じようにドライバー達の記憶が残っているのか。
夜影サキは傷だらけの剣崎へと視線を向ける。
『私や田島から記憶が消されなかったように、この能力も完璧じゃない。その証拠に、剣崎……ミダラーは記憶を消されそうになった時に抵抗していたんじゃないか?』
『ああ、あいつは最後の力を振り絞り、自ら次元の狭間へと隠れてしまった』
確かに、ミダラーは自分の記憶が消されていってる事に気がついて最後まで抵抗していた。
って事は……。
『田島から連絡があったが、悪神は自らの記憶を消されそうになった時、側にいた巫女様に頼んで自らを封印してもらったそうだ。おそらくミダラーと同じで、最後の最後まで自らの記憶が消される事に対して抵抗したんだろう。悪神は封印される最後の瞬間に、巫女様にあれは私の体を取り戻しに来ると言ったそうだ。ここからは私と田島の仮定だが、剣崎が天叢雲剣で祓った悪神を苦しめていた負の残滓がどこかに残っていたんじゃないだろうか? 私と田島は、その負の残滓がブラック・レキシーの能力を拡張させているのではないかと予測している』
あー、なるほど。
ようやくだけど、敵の全貌とその目的が見えてきたおかげで、少しずつモヤモヤしたものが晴れてくる。
でも、絶望的な状況には変わらないんだよな……。
『巫女はどうしている?』
『巫女様は悪神の封印をより強固にされるために、東京の街を使って五芒星の結界を張られた』
夜影サキは地図を広げると、東京にある五つの神社に線を引いていく。
おお、すごい。ちゃんと五芒星になってる……。
『悪神の残滓に操られたブラック・レキシーは、封印を解き悪神の本体を手にいれるために、チジョー達を扇動してこの5箇所を襲撃し、封印に使われた天下五剣を破壊しにくるだろう』
ここで映像が切り替わると、各神社を守護するSYUKUJYOや自衛隊、警察などが映し出される。
しかし、そこへ今まさにチジョー達が攻撃を仕掛けてきた。
チジョーを倒せるのはドライバーだけ。普通の武器や兵器では牽制できても、致命打を与える事はできない。
くっ! こんなの防戦一方の負け戦じゃないか!!
再び剣崎達が集う廃工場へと映像が戻ると、絶望的な状況に重苦しい空気が漂う。
「そうだろうな。目的がわかったところで、この状況が変わるわけじゃない。これだけのチジョーに対して、戦力になるドライバーは5人だけ。それも人間側と連携できればいいが、人間達からはドライバーの記憶が消されている状況ではSYUKUJYOはおろか、自衛隊や警察と連携する事だってできない。はっきり言って状況は絶望的だ」
俺は孔雀の言葉に頷く。
少なくとも俺が同じ状況ならとてもじゃないが立ち上がれそうにない。
しかし、そんな状況でも、あの人は誰よりも最初に立ち上がった。
『剣崎……行くのか?』
『ああ、もちろんだ』
剣崎は傷だらけの体を引き摺りながら、一歩ずつ前に進んでいく。
それに呼応するように、他の4人のドライバー達も無言で立ち上がると、剣崎の後をついていこうとする。
『……お前達は全国指名手配されている。出ていけば、人からも攻撃される事になるが、それでもいいのか?』
『ああ』
夜影サキは悔しそうに、それでいて悲しそうに、やりきれない想いを絞り出すように声を荒げる。
『なんで……なんで! お前達はそこまでして誰かのために戦えるんだ!? もういいじゃないか。なぁ、もう、十分だろ!? お前達はよく戦ったよ……。私は……私は、お前達のそんな姿を見てまで、私たちのために戦ってくれなんて言えない。いくら、ドライバーに変身できるからと言って、お前達も私と同じ人間じゃないか!!』
剣崎は涙を溢すサキの方に振り向くと、優しげな笑顔を見せる。
なんだろう。剣崎の、あくあさんの笑顔って、なんでこんなにも安心感があるんだろうか。
『ありがとう。でも……俺たちは行かなきゃいけないんだ』
『それは君がドライバーだから、ヘブンズソードだからか……? それなら、私と田島がそのシステムを引き継ごう。元プロトタイプドライバーの被検体だった私たちなら、たとえ選ばれてなくても強制的に変身する術もある。だから、お前達がもうこれ以上、無理をする必要はないんだ』
剣崎はサキの言葉に対して首を左右に振る。
『違う。俺はドライバーだから、ヘブンズソードだから戦っているわけじゃない』
『なら、なぜ!?』
サキの言葉に剣崎はもう一度微笑む。
『それは、俺が剣崎総司だからだ』
全くと言っていいほど、理由になってない。
理由になってないけど……この言葉は何故か俺の頭にガツンときた。
『お母さんが言っていた。世の中には不条理な事、許せないくらい理不尽な事なんてたくさんある。それでも、それらを飲み込み、まっすぐと自分の道を生きられる人間になって欲しいと……。だから俺は、たとえドライバーじゃなくても、ヘブンズソードじゃなくても、自分が後悔しない生き方をしているだけなんだ。夜影サキ、君だって同じだろ?』
『私も……?』
夜影サキの問いに、剣崎は力強く頷く。
『目の前で苦しんでいる人がいたら救う。助けを求めている人が居たら手を差し伸べる。俺たちは、ただ人として、当然の事をしているだけなんだ』
加賀美、橘、神代、夜影の顔がクローズアップされる。
みんな、みんな……こんなにも傷だらけなのに、誰の目も死んでいなかった。
『だから、お願いだ。みんな、俺に力を貸してくれ。俺の両手で救える人間なんてたかが知れてる。それでも、お前達と一緒なら俺は……』
話を聞いていた神代と加賀美の2人が剣崎の肩をポンと叩く。
『剣崎、それ以上先は言わなくてもわかっているよ』
『ああ、俺たちならやれる。そうだろ、相棒?』
最初の頃はバイト勝負で張り合っていた神代がこうなるなんて、想像できなかったな
それに最初は頼りなかった加賀美も、すごく頼り甲斐が出てきた。
その姿を見ていたサキを娘のミサが抱きしめる。
『お母さん、私たちの事を気にかけてくれてありがとう。それでも……行ってくるよ。私も後悔したくないんだ。こいつらと一緒に戦えなかった事を』
『ミサ……』
最初は男達に対して強い対抗心を剥き出しにしていた夜影からは想像できないくらい、暖かで優しげな笑みだった。そう考えると、夜影も変わったよな。
『行こう、剣崎。俺も救い出さなきゃいけない人がいる。俺はもう2度と、自分の目の前で彼女を失わないと決めたんだ』
『ああ、そうだな。橘さん!』
ほっ! 俺は橘の様子を見て胸を撫で下ろす。
一瞬だけ、司先生の脚本なら橘が闇堕ちする展開もあるんじゃないかとドキドキしたが、それはなかったようだ。ん? も、もしかして、俺たちの白龍先生が阻止してくれたのか!?
白龍先生、ありがとう!! この上、橘まで闇堕ちして、ヘブンズソードとライトニングホッパーが戦い出したら、目も当てられないところだったぜ……。
5人が横並びになって、廃工場の中のシャッターが開くと、そこには見覚えのある5台のバイクが揃ってた。
これだよこれ!! 5人はそれぞれのバイクに跨ってヘルメットを装着する。
するとヘルメットを被った夜影サキが、ミサの運転するバイクに近づく。
『ミサ、私も元ドライバーだ。お前が嫌だと言っても、娘が戦うというのなら私も一緒に戦うぞ』
『お母さん……ああ! 一緒に戦おう!!』
5人のドライバー達は、それぞれのバイクのナビゲーションに、5つの神社をインプットする。
『わかっていると思うが、ここからはそれぞれが5つの神社に分かれて戦う。いいな』
『僕の方は任せて。だから、みんな。そっちは任せたよ!』
『こっちは俺が責任を以ってどうにかする。だからお前達の事を信じているぞ』
『ああ! たとえ離れて戦っていても、俺たちの心は1つだ。それを忘れるなよ』
『私達は1人じゃない。なんでだろうな。1人で戦っていたあの頃より力が湧いてくるようだ』
夜影は笑みを見せると、まっすぐと握り拳を突き出した。
すると、他の4人も次々とまっすぐに握り拳を突き出していく。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
5人のドライバーが拳を突き合わせたところで、OP曲だったELEMENTALがかかる。
オープニングと同じ演出と、あの映像は伏線回収だったのかというダブルパンチで俺のテンションがマックスになった。
ここで、それぞれの神社がチジョーに襲われているシーンに切り替わる。
『撃て、撃てーっ!』
『くっ、ダメです。チジョーに普通の兵器は……』
『それでも足止めくらいにはなる!! なんとしてもこちらに近づけるな!!』
SYUKUJYOが警察や自衛隊と連携して、なんとかチジョーの進軍を阻止するも、その時は刻一刻と迫っていた。
まず最初に1人のチジョーが防衛ラインを突破すると、もう1人、また1人とチジョーが防衛ラインを突破して内側に雪崩れ込んでくる。
絶対絶命のピンチに、バイクに乗った神代が突っ込んできた。
『撃て! あれもチジョーの仲間だ!!』
『で、ですが……』
兵士の1人が上官の命令に戸惑うようなそぶりを見せる。
やはり、みんなが予測した通りに記憶の操作が少し甘いのだろうか。
俺が首を傾けていたら、孔雀が全部説明してくれた。
「記憶が抜けたら抜けた分の整合性が取れなくなる。そこに違和感を覚える人は多いんじゃないか? それこそ、過去にドライバーに直接救われた人なんかはその違和感を多く感じるだろう」
ああ、なるほど。そういう事か。
俺はアホだから多分、記憶が抜け落ちてもその違和感にすら気がつかないだろうけど、孔雀なら気がつきそうだなと思った。
『いいから、撃て! これ以上、ここを突破されるわけにはいかん!!』
『わ、わかりました!!』
銃を持った兵士が神代に向かって銃を放つ。
しかし、神代はバイクをカッコよくウィリーさせると、車体を自分の盾にして飛んでくる銃弾を全て弾いた。
そのバイク、どんだけ頑丈なんだよ……。リアルで欲しいわと思った。
神代はそのまま斜面を使ってバイクで空を飛ぶと、防衛ラインを突破して目的となる神社の敷地へと入っていく。
ここでBGMが終わると、2人のチジョー、ノウ・メーンとボッチ・ザ・ワールドと対峙する神代、トラ・ウマーと対峙する橘、エゴ・イストと対峙する夜影、複数のチジョー達と対峙する加賀美が連続して映し出された。
そしてその最後に映し出された剣崎の前に見覚えのある3人のチジョー達が現れる。
くっ! よりにもよってセイジョ・ミダラー、それにクンカ・クンカー、ロ・シュツ・マーの3人かよ!!
剣崎はミダラー達に微笑むと、手をまっすぐと突き出した。
『3人とも、遅れてすまない。今、迎えにいく……!』
剣崎の手にヘブンズソードが飛んでくる。
それに合わせて、他の4人の元へとそれぞれのメカが飛んできた。
『変身!』
『変……身っ!』
『変身っ!』
『変、身っ!』
『変身!!』
5人連続変身だああああああああああああああああ!
本郷監督の気合いの入った変身シーンに俺たちは熱狂する。
「孔雀……これって」
「ああ、白龍先生のターンだ!!」
うおおおおおおおお! やっと白龍先生のターンが来た!!
頼むぞ。みんな!! チジョーを、みんなを救ってくれ!!
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