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月街アヤナ、豪運な人たち。

 私は気を取り直して番組に集中する。


「あくあが移動してる時間が退屈ね。ねぇ、誰かなんか面白い話でもしなさいよ。私かアヤナちゃんが共感したらクリスマスプレゼントあげるから」


 ゆかり先輩がそういうと、すぐに電話が鳴った。

 一体、どれほどの人が見ているのかわからないけど、電話がかかってくるまでが早いんだよね。


「もしもし、」

『あ……勢いでかけたら繋がっちゃった……』


 んん? この声、どこかで聞き覚えがあるような……。


「あれ? もしかして、カノンさん?」

『あっ、はい……。って、この電話って匿名なんじゃないんですか!?』


 あっ、本当だ。

 視聴者からの電話は個人情報を晒さないようにしてくださいって書いてある。


【カノン様キター!】

【カノン様から電話かかってきてて草w】

【秒で個人情報晒されてて草w】

【カノン様は声から美少女なのが反則】

【アレ? 捗るは?】

【↑あいつならカノン様のリップ塗りに行ったぞ。ぐへへ!】


 カノンさんからの電話でコメント欄の流れがより一層早くなる。

 ねぇ、こんな朝早くからここにいるのって……ううん、なんでもない。


「ねぇ、最近の話で、なんかアイツとの間に面白い事ない?」

『えっ? 面白い事ですか? えーっと、面白いかどうかはわからないけど……私がこの前、先にあのんのクリスマス用の靴下を毛糸で手縫いしてたら、それを見たあくあが、かのあのクリスマス用の靴下を縫い出したんですよ。しかも完成したのを見比べたら、私が作ったのよりも遥かに上手で、女子としてなんとも言えない気持ちになりました』


 私とゆかり先輩は、手で顔を覆い隠す。

 これも、あくああるあるの一つだ。

 あくあって、そういうのすごく上手だよね。


【わかるわー】

【あくあ様は捗る並に器用なイメージ】

【同じ器用でも、捗る→器用貧乏、あくあ様→多種多彩、なぜこうも差がついたのか……】

【↑慢心、環境の違い】

【↑捗るの場合、慢心じゃなくて邪な気持ちだろw】

【カノン様の惚気話で、捗るが謎にディスられてて草w】

【クリスマスの朝から惚気やがって! いいぞ。もっとやれ!!】

【※カノン様が惚気るのは、他のお嫁さんたちにヘイトが向かないように自分がヘイト管理してるからです】

【↑ふっか】

【あいつ、そんな深い理由で惚気てたの!? 絶対なんも考えてないだろ!!】

【↑嗜みは考えてないけど、カノン様は考えてるよ】

【それでこそ掲示板のヘイトタンク、乙女の嗜みさんだ】

【そういえば、ゲームでのあいつのロールはタンクだったわw】


 ええっ!? 本当に!?

 私はコメント欄を見て驚いた顔をする。

 私も普通に惚気ているだけなのかと思ってました……。


「合格! あいつのそういうところがダメなのよ。この前、私が気を利かせてたまには洗濯くらいしようかと思って洗濯機を回そうとしたら、真剣な顔をして私の手を止めるのよ。何かと思ったら、洗濯機の中から私の下着を取り出して『小雛先輩、女の子の下着はちゃんと手洗いしてください』って、いいじゃん。洗濯機で回しても!! そのために売ってるネットじゃないの!?」


 うん……私もネットに入れて洗濯機で洗っちゃうタイプなんだよね。

 だから、ゆかり先輩の言いたい事はすごくわかる。


【キエーッ! あくあ様に下着を手洗いしてもらっているだと!?】

【なんて高度な極上のプレイなんだ………】

【なんだこいつ……油断してたら、普通に惚気てきやがったぞ!!】

【あ、もしもし、クレーム相談室ですか!?】

【これこそクレーム案件だろ!! うらやまけしからん!!】

【朗報、掲示板民、怒りの鬼電!!】

【小雛ゆかりとかいう、煙のないところから一気に出火するやつ】

【↑炎上で食ってるプロは次元が違うな】


 私はコメント欄からスーッと視線を逸らす。

 言えない。ゆかり先輩や阿古さんとシェアハウスしてた時に、私もしてもらっていたなんて……。

 うう、今、思い出しても恥ずかしいよぉ。


「というわけで、クリスマスプレゼントは何が欲しい?」

『あっ、これって視聴者プレゼントに回せたりとかしないんですか?』


 なるほど、私と小雛先輩はすぐに目の前にいるプロデューサーさんに確認する。

 すると、プロデューサーさんから秒でオッケーが出た。


【さすがです。カノン様!! 一生、あくあ様と惚気ててください!!】

【見ろ、これが完璧なヘイト管理だ!!】

【やっぱ、カノン様なんだよね】

【カノン様、一生ついていきます!!】

【さすがは掲示板民、手のひら返しが早い!!】

【一瞬の淀みもない手のひら返し、掲示板民じゃなかったら見逃してたね】


 これは気合を入れて引かないとね。

 私は横に置いていたくじの箱をこたつの上に置く。


「それじゃあ、カノンさん。何か当たったらいいなって思うのはある?」

『あくあ様の使用済みリップが欲しいです!!』


 えっ!? 私とゆかり先輩の2人は固まる。

 カ、カノンさん!? それって地上波で言って大丈夫なんですか!?

 さっきの人は普通に途中で耐えましたけど……。

 って、あれ? カノンさんって、こういう時はあくあ様じゃなくて、あくあって呼び捨てにするんじゃなかったっけ!?


『ちょっと、捗る! 私から電話を奪って、声真似までして勝手に言わないでよ!! もーーーーーっ!』

『やべぇ、逃げろ!』


 あはは、目の前に2人の様子が思い浮かんで来た私は堪らずに吹き出してしまう。


【捗るwwwww】

【捗るが嗜みの声真似できるのやばすぎるだろw】

【全くわからなかったぜ!!】

【捗るとかいう、めちゃくちゃ器用貧乏な女w】

【↑そこから貧乏をとってあげたい!!】

【お前、そんなんもできるんかよ……】

【捗るのやつめ。居ないと思ったらそこに居たのかよw】

【捗るの素の声……若干、えみり様に似てるよな】

【↑120%、気のせいだろ】

【お前、冗談もほどほどにしておかないと、えみり様の親衛隊に囲まれるぞ!!】

【うっ! 胃腸が……イタタタ】


 おーい、カノンさん、大丈夫ー?

 急に電話の向こうから声が聞こえなくなってきたけど、これってもうくじを引いちゃっていいのかな?


「あっ、電話切れちゃった。アヤナちゃん、もう普通にくじを引いちゃいましょ」

「はい、そうですね」


 私は箱の中に手を突っ込むとくじを引いた。

 46番か……。私は1〜100までの数字が割り振られたフリップを手に持って46番を探す。


「あ、46番。大当たりって書いてある」

「えっ? 何それ、当たりとかあるの!?」


 ここまでも十分当たりなのに、これ以上の当たりって何があるんだろう?

 私はフリップに貼ってある46番のシールの端っこを手に持つ。


「アヤナちゃん、これは一気にいこ」

「わかりました。それじゃあ、一気に行きますよ!」


 えいっ! 私はシールをペリッとめくる。


[白銀あくあが新年から貴方の名前を呼んで起こしてくれる!? ボイス入り目覚まし時計!!]


 えっ!? 何それ!?

 そういうパターンのプレゼントもあるんだ!?


【本当の大当たりキターーーーー!】

【ベリベリの本気はやっぱりすげぇなw】

【裏番組がまた死ぬぞ!!】

【これは嗜みちゃん大勝利案件では!?】

【↑うおおおおおおおおおおおお!】

【やっぱりカノン様の運はすごいなwいや、むしろ捗るかw?】


 えー、いいなー。

 これが、視聴者プレゼントに回るのもすごい。

 さすがはカノンさん……運命に愛されていると自称しているだけの事はある。


「なんかこれ、下に小さく米印が入ってるんだけど……」

「あっ、本当だ。なんなんでしょうね?」


 私とゆかり先輩はプロデューサーさんへと視線を向ける。

 するとスタッフの1人が何かが書かれた紙を私の元へと持ってきました。

 えーと、これを読めばいいのかな?


「えっと、目覚ましに収録されるボイスは全部で10種類あって、どれが流れるかはその日のお楽しみです。それぞれのボイスは、人気作家の白龍アイコ先生の脚本による甘々目覚ましボイスのほか、司圭先生の脚本による執着系ヤンデレ目覚ましボイス、または、白銀あくあさん本人の脚本による俺がカノンを起こす時の起こし方、などが収録されています。これらを、全て貴女の名前で収録したものを12月31日までに作成し、ベリベリのプロデューサー本人が直接貴方の元へと持っていくので、楽しみにしててください。って、シークレットでお休みボイスも収録されます。だって!?」


 ええええええええええっ!?

 すごいすごいすごい!

 ちょっと、待って。私もこれ欲しいんだけど、どこかに売ってませんか!?


【うぎゃあああああああああああああああああ!】

【嗜みは今頃、これを視聴者プレゼントした事を後悔してるんじゃないかw?】

【↑ぐぬってる嗜みが目に浮かんできて涙が止まりません!!】

【嗜みは目覚まし時計がなくても、直接あくあ様に寝起きのキスしてもらえるんだからいいだろ!!】

【↑確かに!!】

【嗜みとかいう地球上最もヘイト管理が上手い女w】

【ベリベリがお詫び企画で本気出してきやがった……】

【これがベリベリの本気か!!】

【ベリベリのスタッフ、お前ら、やればできるじゃねぇか……】

【いいぞ。ベリベリ。今後も好きにやれ! 全部、許した!!】

【↑さすがは掲示板民、手のひら返しが早い!!】


 スタッフの1人が、サンプルの目覚まし時計をこたつの上に置く。

 わぁ、ねねちょさんデザインの寝そべりデフォルメあくあだ……ヵゎぃぃ……。


「わっ、みんな見て。後ろに、いい夢見ろよ、白銀あくあってサイン入ってる!」

「へぇ〜、あ! アヤナちゃん、お試し用のサンプルボイスがあるんだって」


 スタッフの1人がリモコンをもってくる。

 えっと、2番が私のボイスで、1番がゆかり先輩のボイスね。

 おっけ、私は2番のボタンをポチッと押す。


『ねぇ、アヤナ。いつまで寝てるの……? それとも、俺に怒られたくてわざと寝た振りをしてるのかな?』


 あっ、あっ、あっ。

 私はあくあの俺様ボイスに顔を赤くする。


『いいよ。そっちがそのつもりなら俺の好きにするから』


 あくあの吐息に私はドキドキする。

 まるで自分の耳に直接、息をかけてもらってるみたい。


『へぇ、そんなに俺のオモチャになりたいんだ。じゃあ……10数えて起きなかったら、俺もアヤナの身体を好きにするから』


 わ、私の身体を好きにするって、どういうこと!?

 えっ? このまま起きないと、私の身体、どうなっちゃうわけ!?

 こんなの逆に起きられないよ!! でも、ドキドキしちゃって目はギンギンに冴えちゃうかも!!


『10……9……8……面倒臭いな、3、2、1』

「だ、ダメ〜っ!!」


 私はストップボタンを押す。

 腕をクロスさせてバツ印を作った私は、これ以上はダメですをアピールする。

 もー、なんで途中からカウントダウンが早くなるのよ。あくあのばかー!!


【はぁはぁ……うっ】

【再生した瞬間から、一気にコメント欄が静かになってて草w】

【はい、さっき無言でイケナイ妄想をしていた女の子達は大人しく先生に白状しなさい! ぐへへ】

【↑捗る、お前よく無事に帰って来れたなwww】

【アヤナちゃん、そこで止めたらダメでしょ。めっ!!】

【くっ、カウントダウンが終わった後、一体どんな事をされてしまうんだ!?】

【この脚本書いたの誰でつか!?】

【これが視聴者プレゼントだって!?】

【嗜みが本気で悔しがってるに100ベリル!!】


 ちょっと待って、これって誰が脚本書いたの!?

 あくあのアドリブじゃないよね……?

 私とゆかり先輩の2人は、プロデューサーさんへと視線を向ける。


「あいつ、絶対にこんなこと言わないでしょ。ねぇ、誰の脚本?」

「私の経験上あくあはもっと甘……んんっ!」


 せ、セーフ! もう少しでとんでもない事を口走るところだった。


【アヤナちゃん、その話詳しく!】

【ほう。アヤナちゃん、その話で1時間使っていいんだよ】

【いつもはミスらないアヤナちゃんが、あのボイスのせいでホゲったw】

【アヤナちゃん、いつものあくあ様はなんだね? そこから先が重要なんですよ!!】

【誰1人として聴き逃してないの草w】

【お前ら少しは気を使って聞こえていないふりをして差し上げろw】


 な、なんのことかな〜?

 私は素知らぬ表情をして、コメント欄から顔を背ける。


「ちなみにこちらのパターンは原案がメアリー様、脚本がはなあたの八雲いつき先生という、超豪華なタッグによる目覚ましメッセージです。ほら、声が夕迅様だったでしょ?」

「「ああ〜!」」


 なるほど……。なんか、すごく納得しました。


【そのコンビはチートだろ!!】

【さすがはメアリー様、私達の事がよくわかっていらっしゃる】

【ごめん、さっきまで脳が溶けてて反応できなかったは……】

【八雲先生! 夕迅様はずるいです!!】

【↑白龍先生キター!】

【てんてー急に現れて草w】

【白龍先生の死亡を確認!!】

【↑それでも私達の白龍先生なら!!】

【夕迅ボイスと聞いて嗜みが本気で悔しがってそう】

【↑それを見てメアリー様が微笑んでそう】

【この世にお婆ちゃんより強い孫なんて想像しないんですよ!!】

【今、私が嗜みを慰めてます!!】

【↑捗るwwwマジかよwwwww】


 ねー。このコンビはずるいよね。

 あと、カノンさんはドンマイ!!


「じゃあ、次は私ね」


 ゆかり先輩は1番のボタンを押す。

 するとお玉でフライパンを叩く音が聞こえてきた。


『起っきろ! 起っきろ! さっさと起きろ!! 寝っるな! 寝っるな! 二度寝はダメだぞ! ねぼすけゆかりゴン!! 朝でっすよー!!』

「ちょっとぉ! なんで私のだけリズム感のある色物なのよ!! 別にいらないけど、私のだって、なんかこう……アヤナちゃんみたいなのを用意しておきなさいよ! これ用意したの、絶対にあくあでしょ!!」


 私は軽快なリズムの音頭にお腹を抱える。

 流石にちょっと温度差がありすぎでしょ。


「えっと、確かにネタ元は白銀あくあさんですが、実はこの脚本を書いたのは、小雛ゆかりさんが出演された腹を切るで脚本を担当した志水キスカ先生です。ちなみにこのパターンは完全オリジナルなので、視聴者プレゼントには収録されません。あしからず」

「もおおおおおおおおお! なんでどいつもこいつもあくあの悪戯に全力で付き合うのよ!!」


 私はゆかり先輩の身体をギュッと抱きしめて慰める。

 よしよし、よしよし、もー、みんなしてゆかり先輩を弄りすぎなんですよ。


【草w】

【志水先生、ノリいいなぁw】

【おい、右下w】

【作曲、小林大吾www】

【モジャさん自重してwwwww】

【モジャPの無駄遣いwww】

【これもいいけど、小雛ゆかりを甘々で起こすパターンも見たかったw】

【↑わかるw】

【ぐへへ、私も小雛パイセンをデロデロにするパターンが見たかったです】


 ねー、みんなもそうだよね。

 単純にゆかり先輩が可哀想だからって言うのもあるけど、そっちのパターンの方がレアだから、すごく見てみたかったと言うのもあります。


「えー、流石にこれだけだと可哀想なので、特別に桐花琴乃さん原案で、あくあ様が自ら書いたパターンも用意してあります」


 うぇっ!? 本当に!?

 スタッフの1人が別のリモコンを持ってくる。

 えっと、これを押したらいいのかな?

 それじゃあ、ポチッとな!


『ゆかり……起きて。ほら、そっちばっかり向いてないで、こっちを見て』


 あっ、あっ、あっ、あくあの甘々甘やかしボイスだぁ。

 しかもこの背中から抱きしめられている距離感のボイス。

 どう考えても朝チュンじゃん!!


『ゆかりが起きないなら、勝手にちゅーしちゃういけどいい?』


 ええっ!? ちゅ、チューって、どこにするんですか!?


『ねぇ、いい加減起きてよ。俺だけのお眠り姫様。ちゅっ』


 恥ずかしくなった私はボタンを押してストップをかける。

 だ、だって、こんなの午前中から流しちゃダメでしょ!!


「えっ、ごめん。なんか気持ち悪い……。これなら、最初のでいいや」

「ゆかり先輩、ちょっとぉ!?」


 これを気持ち悪いなんて言ったら、大問題もいいところですよ!!


【おい! めっちゃ良かったじゃん!!】

【この女は本当にwww】

【これを言って許されるのは小雛ゆかりだけw】

【急に真顔になるな!!】

【だから、煙のないところから勝手に出火するなって!!】

【こいつ、終わってるわw】

【あーあ、せっかくあくあ様が素直にデレたのに】

【自らフラグをへし折ってくる女。それが小雛ゆかりです】


 スタッフの1人が私にメモを手渡す。

 あ、応募先の告知ね。了解です。

 私は目覚まし時計の応募先の告知を伝える。


「えー、本応募の締め切りは今日の24時までです! その直後にAI3510を使った抽選結果を発表するので、25日中に絶対に返信をしてください! 電話番号はもちろんの事、本名と住所、呼んでほしい愛称など、記載忘れがないように、ちゃんと確認してから応募してくださいね。ご協力、よろしくお願いします!」


 まぁ、そうだよね。

 年末までに間に合わそうと思ったら、当選確認でもたつくわけにはいかないもん。


『小雛先輩ーっ! アヤナーっ! 俺だー! あくあだー!!』


 あっ、完全にあくあ本人の事を忘れていました。


「はいはい。聞いてるわよ! あんた、今、どこにいんのよ?」

『えー、俺はですね。さっきの場所を離れて、都市部のオフィス街にやってきました!!』


 また、人が多そうなところに……。

 後ろのモニターに、バンに乗ったあくあの姿が映る。


「あんた、せっかくだから。そこらへんの会社に突撃してきなさいよ。24日に働いてる人ならクリスマスプレゼントもらう権利あるでしょ」

『わかりました。それじゃあ、ちょうど、目の前にある建物に行こうと思います。あっ、そっちの大きい方じゃなくて小さい方でお願いします。でかすぎると警備員が居て、止められる可能性があるんで』


 確かに……。でも、警備員が居ても、あくあなら止められないと思うよ。

 あくあはバンから降りると、目の前にある会社の建物の中に入る。


『朝早くからすみません! 誰かいますかー?』

『あ、あくあ様!?』

『嘘!』

『ほら、やっぱりさっきチラッと映ってたのうちの建物じゃん!!』


 ふふっ、どうやらみなさん、この番組を会社で流していたようですね。

 あくあの来訪にゾロゾロと人が出てくる。


『24日も働いている皆さんのために、クリスマスプレゼントを持ってきました』

『やったー!!』

『ありがとうございます!!』

『普通に嬉しいです!!』


 あくあは白い布袋を開けると、中から取り出したプレゼントの袋や箱を会社の人たちに渡していく。

 ううん、この会社の人達だけじゃなくて、たまたま商談や営業でその会社に来ていた他社の人達もいた。


『こんな奇跡みたいな偶然ある?』

『私、一生分の運を使い切っちゃったかも』

『商談が朝早くに変わっちゃって大変だなと思ってたら、まさかそれが大勝利へのフラグだったなんて……』


 確かに、これが午後からだったらプレゼントもらえなかったもんね。

 そう考えたら、本当にこの時間帯に商談や営業に来てた人はラッキー中のラッキーかも。

 あくあはみんなにプレゼントを渡すと、最後に1番後ろで見守ってた社長さんらしき人に声をかける。


『あっ、社長さんですか? 仕事中にすみません!』

『いえいえ、どうせもうみんなテレビばっかりチラ見してて、仕事になってませんでしたから。まぁ、私もそうなんですけどね』


 社員のみんながお腹を抱えて笑う。

 ふふっ、明るそうな会社みたいで良かった。


『ところで、ここってなんの会社なんですか?』

『ああ、はい。実は当社は食品会社でして、今はその、お正月用のおせちを総動員で作ってます』


 へぇー、そうなんだ!!

 社員の1人が奥からサンプルとしておせちを持ってくる。


『どうぞ。良かったら食べていってください』

『あ、じゃあ俺の好きな黒豆……いや、ここは栗の甘露煮をいただきます』


 あくあは栗の甘露煮をパクりと食べる。


『ん、甘露煮だけどほのかに甘くて美味しいですね。それとこの食感は国産ですね』

『あっ、はい。当社は素材や製法にも拘っていまして、これもちゃんと熊本産の栗を漂白剤を使わずに仕上げたものを使っているんですよ』


 へぇ、そうなんだ。あくあは続けて丹波で取れた黒豆を美味しそうに食べる。

 いいなぁ、私もおせちといえば、その2つなんだよね。


『あくあ様、その……良かったらですけど、お客様に配送するおせちのお重の蓋に、このペンでサインしてくれませんか?』

『いいですよ。お邪魔しちゃったお詫びも兼ねて、何枚かサインしますね』


 あくあは手慣れた手つきでサインをする。

 うわぁ、運が良い人は新年早々、あくあのサインが入ったおせちが当たるんだ。すごいなぁ。


『それと、社長さんにもクリスマスプレゼントがあります。それと、今日来てない分の社員さんのを社長さんが引いてあげてください』

『わかりました。休んでる社員のためにも頑張ります!』


 社長さんはいくつかのプレゼントの箱と袋を選んで、袋の中から取り出していく。

 これは責任重大だね。休んでいる社員さん達も、今頃、テレビの前で祈ってそう。


『社長さん、良かったら、自分へのプレゼントを開封してください』

『うわぁ、ドキドキしてきた』


 社長さんはあくあから受け取ったプレゼントの入った袋を開ける。


『あっ、社長、これはね、いらなかったら違うのと交換しますよ』

『えっ? えっ……?』


 袋の名から出てきたのはTシャツとマフラーの2つだった。

 あぁ、これって全国ライブツアーのやつだよね。

 そっかぁ、こういう、普通のグッズが入ってるパターンもあるんだ。

 でも、あくあのサインが入ってるから当たりだよね。

 なんて思ってた私がバカです。


『くんくん……なんか、すごく良い匂いがします』

『え? 本当ですか? 汗臭くないですか?』


 社長さんは、あくあの言葉に目を丸くする。


『えっと、あくあ様、これって?』

『あっ、ライブツアーで俺が実際に使ってたTシャツとマフラーです。プレゼント詰めてる時に、プロデューサーさんから、これも入れておいてって言われたんですよね。あっ、もちろん、要らなかった違うのと交換しますよ』


 社長は首がちぎれるほどのスピードで首を左右に振る。

 あくあ……そのプレゼントを拒否する人はまずいないと思うよ。


『社員の皆さんや、取引先の皆さんが見れるように額に入れて会社の入り口に飾っておきます!』

『はは、ありがとうございます』


 うん、そりゃそうだよね。

 あくあはしょっちゅう、観客席にマフラーを投げ入れてるから、手元に残ってるのは貴重だよ。

 しかもそのスタッフTシャツは非売品だし、裏でみんなが着てた奴だよね。


【こーれ、レアです】

【大当たりきたー!!】

【社長さんがクンカクンカーみたいな顔になってたぞ!】

【↑しゃーない。みんなそうなるw】

【私もクンカクンカーしたいです!!】

【↑チジョーきたー! って思ったら、おもっくそ捗るだったわ】

【これは休んでた社員さん達もプレゼントの中身が期待できるな!!】

【社長さん持ってる〜!】


 あくあはお世話になった会社の人たちに手を振って外に出る。

 って、そのまま車に乗らずに徒歩で歩いていくんだ。

 次はどこに向かうんだろう。


『あそこで、工事してる人がいるんでちょっと声かけてきます』


 あくあは工事をしている人たちに声をかける。

 大丈夫かな? お仕事中なのに邪魔にならないか少し心配だ。


『こんにちは!』

『あ、あくあ様!?』

『あくあ様、こんなところで何してるんですか!?』

『うわー、本物だぁ〜!』


 工事の格好をした人達が一斉に寄ってくる。

 あっ、見た感じ休憩中だったんだ。だから、あくあも声をかけたんだね。


『仕事中に声をかけちゃってすみません。それでもみなさんが年末年始もインフラ工事を頑張ってくれてるおかげで、俺たちは生活できているんで、何かお礼をしたかったんです。その、良かったら、俺からのクリスマスプレゼントもらってください』

『ありがとうございます! おい、お前ら、一列に並べ!! プレゼントをもらったら、ちゃんとお礼を言って、さっと横に捌けるんだぞ!!』

『『『『『はい!!』』』』』


 親方の一言で全員がまっすぐ一列に並ぶと、あくあもテキパキとプレゼントを渡していく。

 ふふっ、みんな嬉しそう。みなさん、本当にいつもありがとうございます。

 私とゆかり先輩の2人はカメラに向かってぺこりと頭を下げる。

 あくあは全員にクリスマスプレゼントを手渡し終えると、人だかりが増えてきたこともあってバンに乗ってその場を後にした。

 ちょうど、そのタイミングでまた電話がかかってくる。


「もしもし、次の相談は何?」

『うぉっ!? 本当に繋がった……』


 んん? この声、どこかで聞いたような。


『どうもどうも、みなさんのラーメン捗るです!!』

「ねぇ。もう電話切っていい?」


 良いんじゃないかな?

 え? だめ?

 スタッフの人達が一斉に腕を交差させてバツ印を作る。


【捗るキター!】

【待ってました!!】

【うっ! 私の胃腸が……イタタっ!】


 案の定、コメント欄だけがすごく盛り上がる。


「しょうもない事ならはっ倒すわよ」

『ぐへへ。そこは安心してください。実は少し相談がありまして、あくあ様へのクリスマスプレゼントとして、今日は白銀キングダムのみんなでサンタコスプレをしようと思うんです』


 なるほどね。それはすごく良いと思う。

 1人じゃ恥ずかしいけど、全員でやるなら恥ずかしくないもん。


『そこで、際どい格好ができない可哀想な妊婦達の代わりに、お二人にビキニを着て欲しくてお願いの電話をかけたんです!!』

「却下!!」


 私はゆかり先輩の言葉に何度も頷く。


【けちー!】

【毎日を頑張ってるあくあ様のために、クリスマスビキニ着てやれよ!!】

【どうせ、お前のビキニなんてあくあ様にしか需要がないんだから!!】

【↑マウントきたー!】

【正味、小雛ゆかりのビキニはどうでも良いけど、アヤナちゃんのビキニは需要ありまぁす!!】

【出産直後の姐さんや、妊娠中の白龍先生やえみり様、ソムリエのためにもビキニを着て差し上げろ!!】


 ううっ、コメント欄に居る全員が向こうの味方だ。

 ゆかり先輩はそれを見て小さなため息を吐く。


「もう、仕方ないわね。着ればいいんでしょ。着れば」

「ううっ、えっと、ラーメン捗るさん。その、できたら際どくない布面積の大きなやつでお願いしますね」

『はい、わかりました! 際どくて布面積の小さいやつですね! 任せておいてください!!』


 だから、逆だってぇ!!

 ねぇ! もしかして、わざとやってるんですか!?

 今の文章で、絶対に聞き間違えなんて起こらないですよね!?


【ナイス、捗る!】

【捗る、それでいいんだ】

【お前は止まるんじゃねぇぞ。捗る】

【朗報、掲示板民、捗るの提案に全肯定】

【なんなら大事なところが隠れてなくたっていい!】

【↑いいぞ〜!】


 全然良くないよ!!

 もおおおおおおお! みんなして、私やゆかり先輩で遊んでるでしょ!!


「それじゃあ、あんたへのクリスマスプレゼントはどうする?」

『もちろん、私のも視聴者プレゼントでおなしゃす!! ぐへへ、これで嗜みでお揃いだぜ』


 あ、そっちなんだ。


【捗る、お前のそういうブレないところ、好きだぜ】

【速報! 捗るの株がストップ高!!】

【↑心配するな。どうせすぐに暴落する】

【捗るは下げるために上げてる女だから】

【捗る、ほんま神!!】

【頼むぞ。アヤナちゃん!!】


 ううっ、責任重大だなぁ。

 私はくじを引く。

 えっと、41番? やった、大当たりだ!!


【ミラクルきたー!】

【大当たりきたあああああああああああ!】

【諸君、これが捗るだ】

【みんな、コメントを消されないように配慮してて草w】

【ここで大当たりとか、お前最高だよ。捗る】

【やっぱ、検証班は私たちモブの掲示板民とはちげーわ】


 なんかいいのが当たりますように!

 えいっ!

 私は41番と書かれたシールの端を掴むと一気に捲る。


[白銀結様ご提供、あくあ様の生殖細胞]


 えええええええええ!?

 ちょっと待って、これって本当の本当に大当たりじゃない!?


【うぎゃあああああああああああああああああ!】

【とんでもない神引ききたあああああああ!】

【私たちにもホワイトクリスマスが来るー!?】

【最高……かよ】

【ありがとう。本当にありがとう!!】

【頼む。捗る、私の代わりにガチャを回すボタンを押してくれ!!】

【↑なんなら嗜みでもいい!!】


 コメント欄がすごい勢いで流れていく。

 弾幕が凄すぎてもう何も見えないし、なんならものすごく画面がラグい。

 私はスタッフから受け取ったメモを読み上げる。


「えー、今回のプレゼントに関しましては、白銀あくあさんからの許可を取り、正式な手続きに則って生殖細胞を配布いたします。こちらは現時刻から1月5日までの期間限定となっていますので、どうぞ、皆様、こぞってご応募くださいませ」


 ふぅ、なんか疲れたらお腹空いてきた。

 って、ゆかり先輩!? なんか途中からずっと静かだなぁって思ってたら、いつの間にカツ丼食べてるんですか!?

 私もお昼食べたいです!!


「ところで、生放送中にお昼ご飯食べていいんですか?」

「いいんじゃない? だって、お腹空いたし」


 前代未聞だよ……。私たちは生放送中にお昼ご飯を食べる。

 なんなら、後ろのモニターに映ってるあくあもお昼ご飯食べていた。

 あくあは食事したところでもクリスマスプレゼントを配ると、その後にも老人ホームや児童養護施設、病院などに行ってクリスマスプレゼントを配っていく。

 私とゆかり先輩は、その間に電話を取ってはクリスマスプレゼントのくじを引きまくった。


「ふぅ、もう夕方だから終わりだけど、余ったこれはどうするの?」

「余ったやつは視聴者プレゼントに応募してくれた人達の中から、ランダムに送付しようと思います」


 うん、それがいいと思う!!


【いやー、いい番組だった】

【捗る、嗜み、ありがとな!】

【途中、視聴者プレゼントを増やしたいコメント欄の要請で、電話をかけてくれた白龍先生、森川、姐さんも本当にありがとう】

【来年もやってほしいです!!】

【あくあ様、それに小雛ゆかりも、アヤナちゃんもお疲れ】

【メリークリスマス!!】


 私とゆかり先輩の2人は顔を見合わせると、笑顔でカメラに向かって手を振った。


「メリークリスマス!」

「みんな、また、来年のクリスマスで〜!」


 ゆかり先輩、いいんですか?

 また、来年なんて言ったら、本当に来年もやらされますよ。

 気のせいか、私達の目の前に居るプロデューサーの口角がニヤリと上がった。

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
ワ○ズ並の豪運持ちのポンなみさんでも当たらなかったA賞があるらしい(゜д゜)
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