92、ベリルの本気。
本日2度目の更新です。
シロ君の言葉に会場がどよめいた。
「友達って……?」
「もうこれ以上、他に何があるって言うんです?」
「なんだかとっても嫌な予感がするわ……」
「やめて! もう私たちのライフはゼロよ!」
ざわめく観客席、会場全体が混沌とする中、舞台袖から複数の人影がゆっくりと現れる。その人達の姿を見た観客席はさらなる大きなどよめきに包まれていく。私は新たにステージに現れた3人の姿にとても見覚えがあった。
「ねぇ……先頭のあの子って……」
「あー様と一緒に写ってた雑誌の子だよね」
「メガネの子、誰?」
「最後の人、背大きくない?」
ステージに上がった3人は、あくあさんの最後のバイトの日、喫茶店でお見かけした人たちです。でも観客席の大半の人たちはそういうことを知らないから、ざわめきは大きくなるばかりだ。
そんな中、一番最初にステージに上がった人物、たまちゃんの中の人と囁かれる人物がマイクを手に取る。
「えっと、初めまして。作曲を担当したベリルエンターテイメント所属の猫山とあです。こうやって大勢の人の前で自分の曲が流れるなんて、ついこの前まで想像していませんでした。今もちょっと恥ずかしいんだけど……それよりも皆さんにいっぱい拍手をもらえた事が嬉しかったです。これからは、星水シロ、大海たま、そして白銀あくあなどベリル所属アーティストの作曲を手がける事になるので、よろしくお願いいたします」
会場からパチパチと拍手が送られる。最初はまばらだったが、観客達も状況が理解できたのか、会場全体が大きな拍手に包まれていく。もちろん私も手を叩いて歓声を送った。
「たまちゃんの中の人だっけ? 声の感じ少し変えてるけど、声質一緒だし確定っぽいね」
「でも、たまちゃん動いてるし違うくない?」
「いや、あれは接続切って予め決められた動きを繰り返してるだけでしょ。その証拠にたまちゃんは、さっきから一言も喋らないしね」
「てかさ、改めてこうやって見ると男の子説ガチっぽくない? 声もやっぱ女の子とは少し違う気がする。お稲荷さんソムリエとしては、あれはやっぱりお稲荷さんから声出てると思うんだよね」
「やば……あのルックスで男の子とか、攫われたりとかしない?」
「それだから女装してるんじゃない? そういう話、結構聞いたことある」
「え? 女装して、あくあ君とデート風の写真撮ってたってこと? それってなんか、ドキドキするんだけど……」
「なんだろうこの気持ち、すごくむずむずする。これは初めての感情……」
「わかる……。男の子同士でそんなことしてもいいのかな?」
ふふっ、実はとあちゃんが喫茶店でウエイトレスの格好をしていたなんて知ったら彼女達はどうなるんでしょうね。そのとあちゃんから次にマイクを受け取ったのは、同じく喫茶店でバイトをしていたメガネの男の子です。
「初めまして、作詞を担当させていただいたベリルエンターテイメント所属の黛慎太郎です。主に星水シロと白銀あくあの楽曲の作詞を担当しています。僕は、その……ま、まだ作詞を始めて間もないのですが、ほんの少しは自分の歌詞で歌い手の魅力をお伝えできたらいいなって思っています。よろしくお願いします」
登場の時からロボットみたいな動きをしていたけど、黛君は緊張しているのかな? 黛君の自己紹介に、会場全体から暖かな拍手が送られる。
「やばー、黛君もすらっとしててスマートでかっこいいかも」
「もはや優しそうな感じの男の子ってだけで推せる」
「ねぇ……この声ってマユシン君だよね?」
「マユシン君って、配信であー君とたまちゃんと仲良さげだったけど友達なのかな?」
「同じ学校の同級生とか? クラスメイトだったりして……」
「まっさかー、この3人が同じ学校とか、その学校、裏で絶対に何かやべーことやってんでしょ、国家予算とか動いてない?」
「ないない。ましてやクラスメイト? そのクラスの女子、間違いないくこの国の全ての女子に嫉妬されるぞ」
「それもうほぼ乙女ゲームじゃん……いくら課金したらそんなゲームをプレイできるのさ? 私というゲーム機の人生に、そんな夢のようなソフトは配信されてないんだけど?」
確かに、私だってそんな夢みたいな学校があったら通ってみたかった。きっと何もないだろうけど、3年間、妄想の中のヒロインムーブだけで、満足できるはずです。まぁ、私みたいなおばさんが制服着てもきついだけなんですけどね……。私は学生時代の自分を思い出して、居た堪れない気持ちになる。
そして最後にマイクを手に取ったのは、同じく喫茶店でバイトをしていた男性でした。
「編曲担当……天我アキラ。よろしく」
ん? なんかボソボソと喋っていたような感じがしましたが、私たち観客席の方には何も聞こえませんでした。
「あれ? 天我先輩、マイクの電源切れてませんか?」
「シロくん、多分、普通に電源入ってると思うけど、天我先輩の声が小さいだけだと思うよ」
確かにマイクは音を拾っていたと思いますが、あまりにも声が小さすぎてマイクですら綺麗に音を拾えていませんでした。
「そういえば最初に会った時も、天我先輩の声、めっちゃちっちゃかったかも……」
「確かに、そうだったかもしれない」
「天我先輩、頑張って。大丈夫、ここにいる人みんな優しい人たちばかりですから」
「天我先輩、リラックスしましょう、僕でも大丈夫だったから先輩ならきっと大丈夫ですよ」
「緊張しなくても大丈夫ですよ天我先輩。いつもの天我先輩をみんなに見せつけてやりましょう!」
そうだよね。主にあくあさんのせいで感覚が麻痺しかけたけど、こんなにいっぱい女の子がいたら男の子は緊張しちゃうよね。とあちゃん、黛くん、シロくんの応援に続いて、会場からも声援が飛ぶ。
「天我君、頑張れー」
「緊張しなくていいんだよー」
「ゆっくり、ゆっくり」
観客席からの声援に後押しされたのか、天我くんは髪で隠れていない方の目をカッと見開く。
「フハハハハ! 刮目せよ! 我が名は天我アキラだ! みなと同様、ベリルエンターテイメント所属である。天を我がものとすべく、この地上に舞い降りし堕天使とは俺のことだ! 今日は我が後輩達のためにここに来てやったのである! ちなみに、今回は編曲を担当させてもらったが、我の専門は作曲だ! シロはもちろんの事、我のもう1人の可愛い後輩、白銀あくあの作曲も担当しているからよろしく頼むぞ人間ども!!」
天を我がものにするために地上に舞い降りた? なんか矛盾しているような気がするけど、多分突っ込んだらダメなんでしょう。私は天我くんに向けて生暖かい拍手を送る。
「天我くん、あの歳で拗らせてるの可愛すぎでしょ」
「しかも言ってることはすごく後輩思いで良い人っぽそう、ギャップやばすぎでしょ」
「わかる。普通ああいうタイプの男子って暴力的だったりするんだけど、天我くんはなんか大丈夫そう」
「後輩にいいとこ見せるために出てきたのに、結局その後輩に頑張れって言われてるの面白すぎ」
「拗らせてるってどういうこと? 普通に身長高くてかっこいいじゃん、前髪で片方の目が隠れてるのもカッコよすぎ!」
「待って、待って、待って、あー様でも限界なのに、とあちゃん? とあくん? それに慎太郎くんにアキラくん? ちょっと待ってあまりの情報の多さに頭が追いつかないんだけど……」
「え? ベリル普通にやばない? なんでこんなに男の子ばっか集まってんの?」
「あー様はずば抜けてるけど、もし、とあちゃんがとあくんなら、3人とも普通にエース級でしょ」
会場のどよめきがどんどん大きなっていく。
私はまだ喫茶店で4人の姿を見ているから、こうやってなんとか落ち着いていられますが、普通に考えてこの状況はとんでもなくすごいことです。これ、配信サイト大丈夫なのでしょうか? 掲示板とんでもないことになってません? 後で見るのが怖くなりました。あと白龍先生どうかお元気で、貴女と貴女が生み出した作品は絶対に忘れませんから。私はティムポスキーさんに続いて夜空に散っていった仲間を追悼する。
3人の自己紹介が終わると、改めてシロくんがマイクを手に取った。
「そういうわけで、今日から新たにベリルエンターテイメントに加わってくれた3人と一緒に、4人で今からゲームをやってみたいと思います。たまちゃんは応援よろしくねー」
後ろのディスプレイにシチュエーションゲームという文字がデカデカと現れる。
いったい何が始まるというんでしょう?
「今からみんなには、ディスプレイに表示されたお題のシチュエーションの時、どういう言葉を返すか答えてもらいたいと思います。スタッフの人たちから渡されたタブレットにあらかじめ答えを書いておいてくださいね、1問につき解答の制限時間は3分です。はい、では第一問!」
シロくんの掛け声に合わせてディスプレイにお題が表示される。
『今日も夜遅くまで仕事をしていたお姉さん、疲れて帰ってきたお姉さんに、みんなならどういう言葉をかけてあげますか?』
どうしましょう……最初のお題から私に刺さります。というか、ここに来てる人の半数以上の人に、刺さりませんかこれ? 私の近くの席の人も淡い希望を抱きながらソワソワとし始めました。
「私の友達、弟いるけど死ねしか言わないって言ってた」
「給料日になると封筒ごとお金をむしり取られたりするらしいね」
「気持ち悪いからって洗濯も別だし、自分の前にも後にも入れられたくないからって、お風呂の水とか一回ごとに入れ直されるって聞いた」
「それならまだマシでしょ。普通に暴力振るってくるよ」
「やめて、そんな現実知りたくなかった……」
観客席の夢もへったくれもない血生臭い話とは違って、ステージ上の男の子達は和気藹々、キャッキャウフフと盛り上がっていた。
「えー、どうしようかな。いつもお姉ちゃんに言っているような事でいいのかな?」
「うっ、僕、妹はいるけどお姉ちゃんはいないんだけどな」
「どういう職業か、どれだけ歳が離れているかも想定する必要がありますね。そう考えると結構難しそうだ」
「フハーッハハ、悩んでいるようだな後輩達よ。我にかかればこのような問題、造作もないことよ!」
解答を書くまでの時間、4人は仲の良い友達のような会話を繰り広げる。
えっ、何これ、なんですかこれ? その様子を見た観客たちはお互いに顔を見合わせた。
「えっ、待って、この時間てオプションサービス? 追加料金とか発生しちゃう?」
「学生の時、男の子同士の会話を盗み聞きしようとしたら、汚物を見るような目で見られたな……まさかこの歳になって、ただで見させてもらえるなんて思いもよらなかった」
「このイベントを無料で見せつけてくるベリルやばすぎでしょ。他の事務所死ぬよこれ」
「やる事が前代未聞すぎて、なんかもうどう反応して良いのかわからなくなってる。ずっと夢見てるみたい」
「もう夢でも良い、この一瞬この一秒を脳に焼き付けたい」
「普通に考えたらこれだけでもすごいことなのに、なんか耐えられている自分に驚く。もう頭おかしくなってるのかも」
はっきり言ってあっという間の3分間でした。司会を進行するシロくんがマイクを手にもつ。
「えーっと、解答者には自分で書いた言葉を、そのまま読み上げてもらいます。それじゃあまずは1人目、誰から行こうかな? 自信のある人ー!」
シーン……誰も手を上げない。それどころか誰1人としてシロくんと視線を合わせない。その仕草に、観客席から笑みが溢れる。
「いやいや、天我先輩、さっきすごく自信満々だったじゃないですか! ほら、後輩のために手を上げてくださいよ!」
「何を言っているのだ我が後輩よ。こういう時は年長者として、トップバッターは可愛い後輩に譲るものだろう?」
「そんなこと言って、実は天我先輩普通にビビってるだけですよね」
「ぐっ……」
私は両手で口を押さえてその場で悶えそうになる。
現実の世界に、こんなにもてぇてぇが溢れているなんて知りませんでした。
そんなことを考えているのは私だけではなかったようです。周りの観客席にいたみんなもそんな感じでした。
男の子って普段からこんなやり取りしてるんですか?
「えぇい! そこまで言うのなら見せてやろう!! 我が勇姿に震えろ後輩達よ!! これが選ばれし我の答えだ!」
後ろの大きなディスプレイに、天我くんの顔がドアップで映される。
すると天我くんは近くにいたスタッフさんにタオルを借りて肩にかけた。一体何をしようとしているのでしょう? 天我くんはそのままタオルの端を持ち上げて頭を拭くような仕草を見せる。
「夜遅くまでご苦労だったな。風呂でも入ってまずは疲れを取るが良い。その間に我が晩餐を用意してやろう」
お風呂上がり〜〜〜!! あー、これはバンバンしたい、バンバンしたいけど叩くものがない。
「おい……嘘だよな……」
「ぐあああああ、お風呂上がりの匂いくんかくんかしたい」
「しかもこれお風呂を入れてくれていて、今から料理作ってくれるってことだよね? 良い子すぎん?」
「お風呂上がりに2人パジャマで晩御飯とか……その後どうなっちゃうんです?」
「姉弟なのにそんなことして大丈夫なんですか? 私がお姉ちゃんなら我慢できないよ」
「ごめん、天我くん、私、今まで君のことちょっと馬鹿にしてたわ」
「正直、私もアキラくんは残念な子だと思ってた。ごめんなさい」
「さすがは天我先輩、これはもうまごうことなきみんなの先輩ですわ」
これには観客席のお姉様方もノックダウン寸前です。少しエロティックな雰囲気も出してくるあたりは、さすがは先輩ですね。他の3人には出来なさそうなシチュエーションで差を見せつけてきました。
「おぉ、さすがは天我先輩です。タオルのポイントは高いですよ」
「うん、この後を予想させるシチュエーションもいいよね」
「勉強になります、天我先輩」
天我くんの解答を聞いた3人の評価も高かった。まさか最初から、こんなにもクオリティの高い解答が出るとは……しかもまだ残りの3人の解答が残ってるだなんて信じられません。
「それじゃあ次は、とあちゃんで」
「うん」
次は画面にとあちゃんの顔が映る。
うわぁ、まつ毛なっが! 目大きくて可愛すぎ。私なんかより全然女の子じゃない……。
正直、私がとあちゃんより女の子らしいのって、胸の部分くらいしかないよう気がします。
「おかえりお姉ちゃん、いつも夜遅くまでお疲れ様」
あー……良いですねー。シンプルだからこそ染み渡るものがあります。
しかも上目遣い、これは身長の高いお姉様方に刺さりますね。
「あらぁ」
「私ならそのまま添い寝する」
「とあちゃん、ちょっとお姉ちゃんと楽しい事しよっか」
「やめろ、お前らイベント中だぞ自重しろ!」
「どうやったらとあちゃんのお姉ちゃんになりますか?」
「もう女でもいい、私の妹と交換してくれ……」
「ちょっとあざといのがいい!」
こちらも反応がいいですね。中には危うい発言をしている人がいたので、私はとりあえず視線で牽制しておきました。こういう時、自分の目つきが鋭くて良かったなぁと思います。
「うん、いいね。これはお姉ちゃんじゃなくても刺さるよ」
「確かにな、我も今ほんのちょっとだけ心がキュンとしたぞ」
「なるほど、敢えてシンプルにすることも重要なのか……猫山、勉強になったよ」
3人の評価も上々だ。次はどっちが答えるのだろうと思っていたら、黛くんが手をあげる。
今度はディスプレイに、黛くんの顔がアップで映った。こうやってみると結構……というかかなり整った顔をしています。
「姉さん今日も夜遅くまで大変だったね、お疲れ様。あっ、それと、おかえり」
なるほどなるほど……そう来ましたか。最後に思い出したかのようにおかえりというのもポイントが高いですね、おそらくおかえりのセリフが飛んでたのを後で気がついて足したのでしょうが、その偶然がまた良い感じに収まっています。
「最後少し照れてるの反則でしょ」
「最初の穏やかな笑顔プライスレス……」
「しかも、帰ってきたお姉さんから荷物を預かるようなリアクション。こういう細かい優しさ好きかも」
「姉さん呼びも良いなぁ、お姉ちゃんも良いし、本当にどちらも甲乙つけ難い」
「あああああ、くっそー、なんでこいつらみんな寄りにもよって性格だけじゃなくて顔までいいんだ」
「これで作詞作曲とか嘘でしょ。全員そこらのタレントや俳優よりか全然かっこいいし演技上手いんですけど、どうなってるんだよベリルは!!」
「ベリルという企業のやばさに改めて震えてる」
「もはやこの男の子達も3DCGじゃないのかと疑い始めてる私」
黛くんの解答もまた高評価です。観客席も度重なるベリルからの攻撃、いやあくあ様のおかげで多少耐性がついているのでしょう。普通ならここまでに何度も卒倒してもおかしくない事が続いているのに、感覚が麻痺しているのか、皆さんなんとか耐えられています。
「それじゃあ最後は僕だね」
ディスプレイにシロくんの顔がアップになる。ここまでみんな耐えて来たことが自信になったのかもしれません。観客席を見ると誰しもがどこか余裕があるような表情を見せています。いやぁ、人って成長するんですね。私もこれならシロくんに何を言われても耐えられる気がします。
ええ、そんなことを考えていた時期が私にもありました。
「おかえりお姉ちゃん!」
シロくんは、開幕いきなり飛びつくようなアクションを見せる。不意打ちの強烈なジャブに、多くの女性達がダウンを取られていく。私も堪えきれずに身体を大きく仰け反らせた。
「今日もいっぱいお仕事頑張ってえらいね」
シロくんはそのまま手を持ち上げると、やさしげな微笑みのまま対象者の頭を撫でるような仕草をカメラの前でして見せる。
ふぁぁぁああああああ、強烈な包容力という名前のアッパーで生き残った半分の女性が持っていかれた。年下のくせにお姉ちゃんを甘やかしてくるとか聞いてない!!
「毎日夜遅くまで家族のためにありがとう」
ここにきて感謝の言葉という強烈な右ストレート、無防備な状態の観客のほとんどが膝から崩れ落ちていく。私も体の至るところキュンキュンとして、仰け反った身体を大きく捩らせる。
「あっ、お姉ちゃん疲れてるのにごめんね。晩御飯まだだよね、いこっ」
シロくんはカメラに向かって手を引っ張るようなアクションをする。
気がついたら私は内股になった状態で地面にペタンとしゃがみ込んで、画面のシロくんに向かって手を伸ばしていた。それこそシロくんを撮影をしていたカメラマンさんさえ、手を伸ばしてしまっている。周りを見ると、あまりの破壊力の強さに耐えきれずに、観客の全員が堕ちていた。
「……やっぱホンモノは、格が違ったわ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、まだ全然いけるわなんて、さっきまで調子こいててごめんなさい」
「シロくんは全国のお姉ちゃん達を殺すつもりなのかな?」
「いくら稼いだらシロくんのこと養えますか?」
「シロくんを養うためなら、72時間連続で働く自信がある」
「一家に一つシロくんが欲しい」
「今、無意識に財布出してたわ……」
「ネットであくあ君の事見たら、まず財布取り出すって言ってた奴らの言葉の意味が今理解できた」
なんとか再起動した私は、自分のパイプ椅子に掴まってよじ登るようにして立ち上がる。
私としたことが油断していたのか、最初のジャブ一発で持っていかれました。
「それじゃあ誰が良かったか、観客席のみんなに審査してもらおうかな? みんなサイリウムは持ってるよね? 天我先輩が良かった人は赤色、とあちゃんが良かった人は紫色、黛くんが良かった人は緑色、そしてシロが良かった人は水色のペンライトを振ってくださーい。ちなみにこれがみんなのこれからのイメージカラーになるから忘れないでねー。あ、あと、選べないやって人とかは複数振っても大丈夫だからね!」
なるほど、そういう事ですか。私は他のサイリウムも使えるようにして準備する。
「みんな準備はいいかなー? はーい、じゃあ手に持ったサイリウムを振ってください」
みんな一斉に手に持ったサイリウムを振り始める。やはり水色が圧倒的に多い。それでも一部の人は違う色のサイリウムを振っている。でも一番多いのは全色のサイリウムだ。私も左手には水色のサイリウムを持っているけど、右手には紫、赤、緑の3本を持っている。シロくんの水色のサイリウムだけを単独で持っているのは、もちろんイチオシだからだ。
「おーっ、4本全部振ってる人が多いですね。これはもう全員の勝利でいいんじゃないかなー?」
色だけで見れば一番多いのは水色だけど、シロくんは4本全てを振っている人が多いのを見て、全員を優勝させることを選択した。そういうところがいかにもシロくん……というよりも、あくあさんって感じがして私はますます好きになる。
「シロくん……これ、勝負した意味なくない?」
「そもそも勝負にしなくても良かったのでは?」
「うむ、でも良いのではないか? 我々の勝利という結果には違いないのだからな!」
ああ……良い。何が良いのかわからないけど、この4人の会話なら永久に聴き続けられるような気がする。
周囲が穏やかな空気に包まれていく。その後も何度か問題が続いたが、2問目以降は空気を読んだ観客席が全員で4人のサイリウムを振ったのでたったの一度として勝負はつかなかった。
Twitter、一気にフォロバしたのがスパムと認識されて凍結されたみたい。
しばし復旧までお待ちください。
臨時のサブ垢です。
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