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熊本の女子高生、はじめてのライブ参戦。

 楽しみにしていたBERYLのコンサートが今夜、いよいよ始まる!!


「たくさん人がいるから気をつけて。それと何よりも……楽しんできてね!! また、帰りに迎えに来るから!!」

「うん! ありがとうお母さん!」


 私はライブ会場の近くまで車で送迎してくれたお母さんにお礼を言うと、ライブのある野外コンサート場に向けて走り出した。

 ライブ会場の入り口に到着した私は目を輝かせる。


「すごっ!」


 ライブの会場となる野外コンサート場は、BERYLがライブを行うためにベリルがお金を出して作ったってニュースで言ってた。

 なんでもBERYLのライブが終わった後もそのまま施設は残して、これから熊本でライブをするアーティストのために提供されるらしい。

 先日、BERYLの親会社であるベリルエンターテイメントは、47都道府県におけるライブ活動を目的として、今後、予算のない地方にライブ会場を整備する事を発表した。これは、BERYLがワールドツアーを行う2024年度中に全国のライブ施設を建造し、あくあ様たちの高校卒業後に47都道府県全国制覇ツアーを行うのじゃないかと掲示板では予測されている。

 まだ子供の私にはよくわからないけど、掲示板にずっと居る大きなお姉さん達が予測してたから間違いないと思う。

 私がライブ会場の前で圧倒されていると、誰かが私に向かって走ってくる音が聞こえてきた。


「ごめん、待った!?」

「ううん、今、お母さんに送ってもらったとこ!」


 待ち合わせをしてた友達と私は手を取り合って喜ぶ。


「ほんと、2人でチケット申し込んで正解だったね。こんな奇跡、2度とないよ」

「だね! 私、今日のライブを一生の思い出にする!」


 私は友達と手を繋ぐと、チケットを見せてライブのある会場の中に入る。

 すると、会場に入ってすぐにグッズを売ってる屋台やコラボのキッチンカー、無料の撮影スポットや展示コーナーが私達を出迎えてくれた。


「すごいね。ベリルのワンダーランドみたい!」

「だね! きっと向こうはもっとすごいんだけど、それでもライブ会場でこの規模はすごいよ」


 私達はあくあ様のウェルカムPOPの前で写真を撮る。

 やっぱりなんだかんだってあくあ様だよね。

 天我先輩や黛くん、とあちゃんも素敵だけど、有無をも言わせないあくあ様の魅力には勝てない。


「ライブ前にグッズも買って行こ!」

「うん!」


 熊本にもベリルショップはあるけど、ライブ限定アイテムはここでしか買えない。

 私は事前にインストールしたスマホアプリを開く。


「ね。このあくあ様のアクスタ良くない?」

「うん! お揃いで買お!」


 私達は商品を手に取ってみると、タグにつけられたコードをカメラ機能でスキャンする。

 えーと、これはすぐに持って帰りたいから持ち帰り用に設定してと……。


「あっ! ちょっと私、あっちにあるグッズ見てくるね」

「それじゃあ私も自分の買いたいと思ってたのチェックしてくるよ」


 私は友人と一瞬だけ分かれると、コソコソと大人のお姉さんが群がっているコーナーに行く。

 あ……あった! あくあ様の等身大抱き枕だ……。

 私は遠くから看板に書かれた商品コードをスキャンする。

 こっちは持って帰ると恥ずかしいし、荷物になるから配送にしてもらおう。

 私はすぐに商品を決済する。


「「か、買っちゃった……」」


 えっ? 私は聞き覚えのある声に横を向く。

 するとさっき分かれたばかりの友達が同じ商品を購入していた。

 向こうも私を見て口を大きく開けてびっくりした顔をする。


「えっと……その、ね。私達もやっぱり年頃だし」

「う、うん。あ、あの……お互いにお母さんには黙ってようね」


 顔を赤くした私と友達はお互いに笑い合うと、その場でギュッとハグした。

 心なしかライブに来る前よりも2人の絆が深まった気がする。

 私達は持ち帰り用カウンターでアプリの画面を見せると、あくあ様のアクスタを受け取った。


「ね、バッグにつけよ?」

「うん、そうしよ!」


 私達はキッチンカーの列に並ぶと、あくあ様とコラボしたBLTあくあサンドを注文する。


「トマトたっぷりですごい美味しい!」

「ね。こういう食材とかも、現地コラボでうちのトマト使ってるらしいよ」


 ふーん、そうなんだ。

 そういえば、あくあ様が行った八百屋さんは人が来すぎて夕方には完売御礼になったって、ニュースで言ってたっけ。

 まぁ、そうだよね。うどん工場からうどんの在庫を無くした男、茄子不足で農水大臣が緊急記者会見などの事件を引き起こしたあくあ様だもん。

 むしろ、熊本中にあるトマトが刈り尽くされなかっただけマシだと思いたい。

 私と友達はトイレを済ませて態勢を整えると、お互いに顔を向き合わせて無言で頷き合った。


「それじゃあ、行こう!」

「うん、行こう!!」


 私と友達はライブが行われるステージがあるエリアに足を踏み入れる。

 はぁ……別に私が歌うわけじゃ無いのに、なんか緊張してきた……。

 私は隣にいる友達の顔を見る。どうやら友達も私と同じ気持ちのようだ。

 周りをよく見ると、私達以外の人達も緊張した面持ちでライブが始まるのを待っている。


【お前ら、BERYLのライブをなめんじゃねぇぞ。ステージのあるエリアに入った時から緊張感があるからな。気合いを入れていけ!!】


 私の頭の中に捗るの言葉が思い浮かぶ。

 いつもはふざけてる捗るがガチでそう言ってるんだから説得力があると思った。

 私は両手を合わせると、軽く白い息を吐く。

 季節は11月、流石に夜は冷え込んできてコートが必要だ。

 ライブ開始まであと少し。

 周りで見ているお姉さん達の数人がコートを脱ぎ出した。

 みんな、どうしたんだろう?

 も、もしかして……そのニットのリブ編みがパンパンに広がるほど大きいものをあくあ様に見せつけてアピールしようとしてるのかな?

 どうしよう。私も大きい方だけど、コートを脱いでアピールした方がいいのかなと頭を悩ませる。

 そんな事を考えていたら、ステージのライトが落とされて、大型スクリーンにBERYLの4人の画像が映しだれた。


「きゃああああああああああああああ!」

「あくあ様ーーーーーーっ!」

「とあちゃーん!!」

「黛くーん!!」

「TENGA! TENGA! TENGA!」


 会場の中が一瞬で大歓声に包まれた。

 4人のこれまでのライブツアー映像がBGM付きで大型スクリーンに再生させる。

 その時間はわずかに10秒ほどだった。


【presented by BERYL Entertainment】


 ベリルエンターテイメントのロゴが表示されると、さらに大きな歓声が上がる。


【11/24】


 あ、今日の日付だ。

 画面に映された11の数字が消えると、24のカウントダウンがBGMに合わせて1カウントずつ減っていく。


【20】


 あと、少しでライブが始まるんだ。

 そう思うと、心の奥から込み上げてくるものがある。


【15】


 まだ外は寒いのに、体が芯からあったかくなってくる。

 ああ、なるほど。だから、みんなコートを脱いでいたんだ。

 私と友達は慌ててコートを脱ぐ。


【10】


 最前列にいるファンの誰かが声を上げた。


【8】


 それに呼応する様に、最前列に居るファンがカウントをコールする。


【5】


 最前列から声が広がっていくように、みんながカウントをコールし始める。


【3】


 私と友達も声を張り上げてカウントをコールする。


【1】


 会場にいる全員が声を張り上げる。

 ああ、ついにBERYLのライブが始まるんだ。誰しもがそう思った。

 BGMとカウントの文字が消えて画面が真っ暗になると、それに合わせて会場静まり返る。


『Do you determination to step?』


 あっ、あっ、あっ! く……くくり様だ!!

 つい最近、大河ドラマのエピソード0が放送されたばかりなので、それもあって大歓声が起きる。

 今日はもしかしてソロで前座なのかな?

 ミルクディッパーに居る時のような可愛いアイドル衣装とは違って、嗜みのお姉さんでもあるヴィクトリア様のような大人のドレスを着ていた。その大人びた姿のくくり様にみんながドキドキする。

 スポットライトに照らされたくくり様が両手をゆっくりと開く。

 すると、後ろに並んでいるコーラス隊がその後の歌詞を歌う。あ、あれって、もしかして研修生達かな?


『It's time for a new BERYL』


 コーラス隊はベリルの新しい時代が来る事を歌で告げる。

 それはまるで神話の時代に戦いに赴く騎士達を送り出す聖歌隊のようだった。

 ステージが少し明るくなると、ステージの端に散らばったダンサー達が現れる。


「えっ? 待って……」

「あれって男の子達じゃない?」

「そうだよ。だって先頭に丸男君と孔雀君がいるもん!」


 数十人の男の子達は丸男君、孔雀君を中心にして、静かで厳かな雰囲気を保ったまま一糸乱れぬかっこいいダンスを披露する。

 すごい。こんなに綺麗に揃えるなんて、どれだけ練習したんだろう。

 それに、これだけの数の男の子達が揃ったダンスを披露するなんて史上初めての事じゃないだろうか。

 圧倒された私達は息を呑む。


『I can't go back to who I was yesterday. Let's fly together toward tomorrow』


 くくり様は私達に背中を向けると、男の子のダンサー達を引き連れて後ろに下がっていく。

 か、かっこいい……。その堂々とした後ろ姿はまさに、この国を支配する女王様である。

 くくり様推しのお婆ちゃんから、あなたにもわかる時がくるのよと言われた意味を理解した。

 ここでスポットライトが落ちると、ステージの床に映し出された映像がくくり様の歩みと共に伸びていくいく。

 すっご! あのステージの床、全部ディスプレイなんだ……。そんな会場、熊本はおろか福岡にだってないよ。

 私たちが呆気に取られていると、今度はステージの奥から、西洋の甲冑を身につけたヒスイちゃんが出てくる。


『I've been waiting for this moment all along』


 きゃー! ヒスイちゃん、かっこいい!!

 西洋の甲冑姿が神話に出てくる戦乙女、ワルキューレみたいだなって思った。

 くくり様といい、ヒスイちゃんといい、私と同じ高校1年生なのに同級生に見えないくらい今日は大人びて見える。こんなの同級生として憧れない女子はいないよ。


『You are the warriors who will shape this nation's future』


 2人がステージの中央で交差すると、お互いの手を合わせて祈りを捧げる。

 それはまるで騎士達を戦場に送り出す儀式のように神々しかった。

 スポットライトの光が強まって男の子達の顔がよく見えるようになる。

 すごい……。みんなが戦う顔をしている。

 俺たちがこれからのこの国を変えていくんだ。未来を作っていくんだという決意が現れたような顔にキュンとする。


「ちょ、なんか床から迫り上がってきた!」

「全国ツアーでBERYLのバックバンドをやってるkinetik STARだよ!!」

「それだけじゃない。ソロの巴せつなさんも居るよ」


 さっきまでのオーケストラで構成された厳かなサウンドから激しいギターサウンドに変わる。

 それと共に会場のボルテージが上がっていく。

 さっきまで静かに聴き入っていた会場が一変するように、大きな歓声が上がった。


『They're coming for us. Are you ready?』


 巴せつなさん、ラップなんだ!?

 うわー、ラップできるのめっちゃ憧れる!!


『Even if we know the outcome, we have a duty to see it through to the end』


 これは私達に向かっての歌だ。

 BERYLのみんなが来る。その覚悟ができているか?

 たとえ結末がわかっていたとしても、私達には最後まで見届ける義務がある。


『Finally, finally, finally, the day has come!』


 ボーカルの星川澪さんの声と巴せつなさんの声が重なる。

 ちょ、デスボイスすごい!! いつもは綺麗な声なのに、こんな激しいシャウトもできるんだ……。

 その後のサビは星川さんのソロパートになる。

 オーディション番組で圧倒的な歌唱力を持つ巴せつなさんにも負けないと言われた星川澪さんの命を燃やしつくような歌声に私達は聞き入った。


『A new era dawns. Open your eyes and burn your life』


 いつもはおちゃらけてる七瀬二乃さんの心臓の鼓動すらも霞ませるような激しいドラムサウンドに、真面目な桐原カレンさんからは想像できないような閉塞感や抑圧から解き放つようなギターサウンド。生粋のお嬢様である津島香子さんからは想像できないような、触れるもの全てを切り裂くようなピアノサウンド。そしてアイドルになりたくてオーディションを受けたのに、そこで挫折し、もう一度立ち上がった茅野芹香さんの主役すらも食ってしまうような下剋上なベースサウンドが奇跡の調和を見せる。

 1年に及ぶBERYLの全国ツアーに帯同していた彼女達は、彼らの熱に影響されたのか、プロのバンドとして完璧に一つのバンドに仕上がっていた。


『They're coming. Are you ready?』


 星川さんがサビを歌い上げると、ラップパートを歌っていた巴さんがマイクを握って前に出る。


『お前ら、もう準備はできているよな!?』


 巴さんは私達にマイクを向けると、今度は星川さんがマイクに向かってシャウトする。


『声が小さい! 本当に準備ができているのか!?』


 それに応えるように、私達はバンドの爆音に負けじと大きな声をあげる。


『いいだろう。それじゃあ前座はここまでだ!! BERYL japan live tour in KUMAMOTO、presented by BERYL Entertainmentを今から開催する!!』


 ステージを照らしていたライトが一層明るくなる。

 待って待って待って!! 今度は上からなんか出てきたーーーーー!


『頼れる私達のリーダー! 天我アキラ!』


 地上に舞い降りた天我先輩は、ギターを手にもつと桐原さんとポジションを入れ替える。

 うぇっ!? ちょ、まだ曲流れてるのに、もしかしてこのまま変わるの!?

 ていうか、謎に天井あるなーって思ってたら、この演出のためだけに天井まで作ったんだ……。すごい……。


『みんなのマスコット! 猫山とあ!』


 天我先輩に続いて、今度はとあちゃんが空に吊るされた台座ごと降りてくる。

 とあちゃんは七瀬さんとハイタッチをすると、入れ替わるようにしてドラムの席に座った。

 あ、入れ替わりに違和感がないなって思ってたら、ピアノ兼DJやってる津島さんが切り替え部分をうまくカバーしてるんだね。すごい!


『BERYLのIn game leader! 黛慎太郎!』


 同じように天井部分から降りてきた黛くんは、ベースを手に取ると入れ替わる茅野さんに綺麗なお辞儀をした。

 うーん、こういうところが黛くんらしくてほっこりした気持ちになる。

 でも、とあちゃんや黛くんに癒されるのはここまでだ。

 最後のコールを前にして、私達は息を呑む。


『そして我らが王にしてBERYLのエース・オブ・エース!』

『『白銀あくあの降臨だ!!』』


 天井照らしていたスポットライトが移動して空を照らす。

 嘘……でしょ?

 空から豆粒みたいな何かがステージに向かって落ちてきていた。

 ちょ、ちょ、ちょ、落ちてくるスピードが早いけど大丈夫!?

 心配したみんながざわつく。

 でも、当の本人から当たり前の事なんだろう。

 あくあ様はギリギリでパラシュートを開くと、ゆっくりとステージの天井に降り立つ。

 ええっ!? ステージの上じゃなくて、そっちなのおおおおおおおおお!?

 全員が声にならない叫び声を上げる。


『You've been waiting for this, haven't you?』


 はい! 待っていました!!

 ライブツアーの前座曲が毎回凝っててすごいって掲示板で聞いていたけど、こんな演出は反則すぎるよおおおおおお!!

 キネティックスターからチェンジしたBERYLの4人が最後まで曲を演奏し切る。


『ライブは始まったばかりだ。いくぞ、お前ら。最後まで一緒に行こう!!』


 あくあ君の煽りに対して、全員が大歓声で応える。

 それからの時間はすごく熱狂的で、2時間にも及ぶライブがあっという間に終わってしまった。


「なんか、すごかったね」

「うん、すごかった……」


 ライブが終わった後も、私達はまだ夢の中に居るような感じだった。

 私は友達に別れを告げると、迎えにきてくれたお母さんの車に乗って帰宅する。

 その日、私は夢のような気分のまま眠りについた。

 翌日……。


「ちわーっす。聖女便です! あくあ様の抱き枕カバー持ってきましたぁ! ぐへへ!!」

「ちょっとぉ!?」


 私はデリカシーのない配達員のお姉さんに抱き枕カバーを買った事をお母さんにバラされてしまう。

 もー! さっきの配達員のお姉さん、顔はよく見えなかったけど、どうせ捗るあたりがバイトしてたんでしょ!!


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