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白銀あくあ、画伯の新作。

 BERYLの全国ツアーもいよいよ終わりに近づいてきてる。

 俺たちは11月の最後の週に行われるライブに合わせて熊本県へと降り立った。


「というわけで、皆さんには今からライブの告知をしてもらいます!!」


 毎度お馴染みのライブに同行してるベリベリのスタッフが、嬉しそうな顔をして何かが入った箱を持ってきた。

 もうこの時点で嫌な予感がするのは俺だけだろうか? 隣にいるとあが秒でジト目になる。

 こんなにも簡単にとあの表情を曇らせる事ができるのなんて、俺とベリベリのスタッフくらいだろう。


「そういうわけで、皆さんには今からくじを引いてもらって、そこに書かれている告知を実行してください!」

「え? これって引かないって選択肢はあるんですか?」


 ベリベリのスタッフは俺の言葉を無視して、グイグイと箱を押し付けてくる。

 俺に対してこんな扱いをしてくれるのなんて小雛先輩かベリベリのスタッフくらいだ。

 一切忖度しないベリベリのスタッフ達に俺は感謝する。


「誰から引く?」

「じゃんけん! ぽん!」


 ちょ、とあ!? お前、いくらなんでもそれは不意打ちすぎるだろ!!

 見事に全員を出し抜いてじゃんけんで勝ったとあがドヤ顔になる。


「ふふーん。僕の勝ちね」

「くっそー! 負けたー!!」


 俺と慎太郎、天我先輩は悔しがる表情をカメラに見せる。

 はっきり言ってこれは演技じゃない。勝負で負けるのが嫌な俺は本気で悔しがった。

 最初にくじを引いたとあは、スタッフの指示でくじに書かれた指令を確認するために、くじを開ける。


「えーと……路面電車に乗って告知だって」

「路面電車?」


 ベリベリのスタッフが、ライブの告知情報が書かれたとあカラーのタスキと車掌さんっぽい服を持ってくる。

 なるほど、それを着て告知してねってことか……。

 俺と天我先輩は両手両膝を地面について悔しがった。


「くっ、なんで俺はじゃんけんに負けたんだ!! 車掌さんになれたかも知れないのに!!」

「ぐおおおおおおお! あの時の我の右手があああああああ!」


 よく見たら俺と天我先輩だけじゃなくて、慎太郎も両手に膝をついて悔しがっていた。

 やっぱり男の子なら一度は車掌さんをやってみたいよな!!

 俺達の反応を見たとあが気まずそうな顔をする。


「えっと……その、さっき半分、不意打ちみたいなもんだったし、みんながしたいなら代わろうか?」

「いや、今のはとあの戦略勝ちだ。それにバラエティで一度決まった事は覆しちゃだめだから、な?」


 俺の言葉に天我先輩や慎太郎も頷く。

 こういう時は潔く負けを認めるのも重要だ。


「まぁ、それならいいけど……えっと、着替えてきたらいいのかな?」


 とあは着替え用のロケバスに入ると、車掌さんの服とタスキを着てから出てくる。


「ごめん、サイズちょっと大きかったかも」


 少しぶかぶか目のとあを見て、スタッフ達が小さくガッツポーズを決める。

 まさか……わざとちょっとだけ大きいサイズの服を用意したな!!

 これだからSNSでベリベリのスタッフは汚いとか、ずるいとかって書かれるんだ!!


「というわけで、猫山とあさんには、田崎橋から健軍町、健軍町から上熊本町までを、告知用に用意された路面電車に乗って宣伝してもらいます!! というわけで、もうあまり時間がないんで行きましょう!!」

「えっ? もう行くの?」


 驚いた顔をしたとあは俺たちの方へと顔を向ける。


「えっと、それじゃあ、みんな、また後でね!!」

「おう! こっちは任せておけ!」

「うむ! そっちの告知は任せたぞ!」

「ああ、また後で!」


 とあは手を振りながら、スタッフさんについて駅の方へと小走りで向かう。

 周りで見ていた人達も、とあ達が急いでいるのを察して道を開けてくれていた。


「さてと、それじゃあ次は誰がくじを引きますか? また、ジャンケンでもいいけど」

「我が引く!」


 天我先輩がスッと手を挙げる。

 絶対にベリベリのスタッフだから、くじの中にはハズレが紛れているはずだ。

 それを察した俺と慎太郎は阿吽の呼吸で天我先輩にくじを引かせる。


「それじゃあ、天我先輩、お願いします!!」

「うむ!」

「頑張ってください。天我先輩!!」


 天我先輩は精神を集中させてから、くじの箱に手を突っ込む。

 俺と慎太郎はそれを見ながら手を合わせて祈っていた。

 頼む……天我先輩がハズレを引いてくれと……。


「これだ!!」


 くじを引いた天我先輩は、確信した表情でくじを開く。


「ん? バンジージャンプぅ!?」


 くじを開いた天我先輩は微動だにせずに、大きく口を開いて固まる。

 俺と慎太郎はその後ろで無言のハイタッチをした。


「はい! というわけで、天我アキラさんには、熊本のテレビ局との連動企画で、生放送中にバンジーでライブの告知をして貰います!! ちなみにBERYLのメンバーだけをバンジー飛ばせるのは違うと思い、皆さんが熊本に来るより前に来た私達スタッフ全員、一足先にバンジーをさせて貰いました!!」


 さすがはベリベリのスタッフ達だ。

 覚悟の決まり方が違う……。


「もちろん、無理に飛べとは言いません! だめなら違う企画に変えるので遠慮せずに言ってください!!」


 その言葉を聞いて、天我先輩がぴくりと動く。


「いや……むしろ、我はやる! 人生とは挑戦の連続。そう、人間もいつかは空だって飛べるはずだ!!」


 天我先輩、流石にそれは無理っす。

 と突っ込もうとしたけど、そういえば俺ってこの前、高度1万フィートから飛んでたっけ。

 やっぱり人間って、やろうと思う事が大事で、不可能はないんだなと思った。


「それじゃあ、中継の時間とライブもあるんで急いで向かいましょう!」

「うむ!」


 天我先輩はベリベリのスタッフと熊本のテレビ局の人達と共にロケバスに乗り込む。


「後輩達、そっちは任せたぞ! 我は鳥になる!!」

「わかりました! 任せておいてください、天我先輩!」

「天我先輩こそ、どうかお気をつけて!!」


 俺と慎太郎の2人は、かっこよくロケバスに乗る天我先輩の大きな背中を見送る。

 そこにはもうバンジーの恐怖や、飛ぶ事への恐れは一切感じられなかった。

 やっぱ俺たちの先輩はカッケーわ。


「というわけで、慎太郎。どっちが最後に引く?」

「それじゃあ、僕が最初に引いてもいいだろうか?」


 天我先輩に影響されたのか、慎太郎は自分から前に出る。

 さすがは俺の親友だ。

 慎太郎はくじを引くと、中に書かれている文字を確認する。


「ラジオでライブの告知?」


 おっ、いいのを引いたんじゃないか。

 というか、俺はそういうのがやりたかったなー。

 理由は喋るの好きだから!!

 って、慎太郎、浮かない顔をしているがどうした?


「ラジオか……。口数の少ない僕で大丈夫だろうか?」

「いいんじゃないか? そういう落ち着いたラジオが好きって人も多いから」


 ラジオ放送は十人十色だ。

 喋り倒す人が好きって人もいれば、慎太郎のように落ち着いた声色でゆっくりと喋ってくれるMCの方が好きって人もいる。

 

「ありがとう。でも、今日は告知だから少し頑張って、あくあみたいに……とはいかないかもしれないけど、僕なりに頑張って喋ってみるよ」

「慎太郎……」


 俺は慎太郎の成長に感動した。

 とあも、天我先輩も、慎太郎も、最初に会った時より確実に成長して行ってる。

 俺もみんなに追い抜かれないようにますます頑張らなきゃなと思った。


「それじゃあ、行ってくる!」

「ああ、また後でな!」


 慎太郎はグータッチすると、ロケバスに乗ってラジオ局へと向かう。

 さてと……最後は俺か。

 俺は残ったくじを引いて、中に書かれている事を読み上げる。


「えー、これを引いた人は、熊本を散策しながら今日のライブを告知してください!」


 1番アバウトなのきたー!

 こういうのが1番困るんですよ!!

 もっとこう、バンジー生中継とか路面電車とかラジオ放送とか凝ったの考えてくれえませんか!?

 何、最後に力尽きてるんですか!!


「というわけでこれをどうぞ!」


 俺は自分のカラーのタスキをかける。

 まるで選挙に出てるみたいだ。

 俺はマイクを手に取ると、周りで見ている人たちに向かって手を振る。


「えー、熊本の皆さん、こんにちは! BERYLの白銀あくあです! 今日から3日間、熊本でライブをするのできてください!!」


 俺の言葉に周りに居た人達は盛り上がる。

 その一方で悲しみの声も上がった。


「チケット外れたからライブ行けないけど、頑張ってねー!」

「チケット取れなかったから、お家からライブ配信見ます!!」


 ライブの座席数には限りがある。

 見切れ席やバックステージ席、PV会場などを手配してもそれでも足りないとスタッフから聞いた。


「チケット外れちゃった人は本当にごめん! その代わりと言ってはなんだけど、県と市の協力の下で通町筋でパレードする事になったから、それを見にきてくれ!!」


 俺の言葉に大きな歓声が上がった。

 BERYLは基本的にライブをする県や市と毎回しっかりとした事前協議をしている。

 その協議の中で県や市から良く要請されるのが、せっかくだからより多くの人に俺達を見て欲しいという事だった。

 これまでもその要請に応えて俺たちは、街ロケを行ったり、イベントに参加したり、現地のテレビ局やラジオに出演したり、オフに街ブラをしたりしている。

 今回はその要請の一環で、パレードをする事になった。


「また、みんなと会えるのを楽しみにしてるからな!!」


 俺の言葉に再び歓声が起こる。

 さてと、ここからは街を散策しながら告知するんだっけ?

 俺はみんなに手を振ると、その場を後にして商店街に入る。

 通りを散策していた俺は、俺のアクスタを持ってるお婆ちゃんを見つけた。


「お婆ちゃん、いいの持ってるね!」

「そうでしょ! 熊本オリジナルなのよ」


 え? 熊本オリジナルとかあるの!?

 はっきり言って、俺も全てのグッズを網羅してるわけじゃない。

 俺は帯同してる小町ちゃんに公式か非公式を確認するために目を向ける。

 へ〜、本当に公式の47都道府県コラボのアクスタなんてあるんだ。


「俺、トマト持ってるじゃん!」

「そうなのよ。トマトは熊本の名産だから。生産量日本一位なのよ」


 俺の視界に八百屋さんが見えた。

 せっかくだから現地のトマトでも食ってみるか。


「あくあ様、一緒に写真撮ってもいいかしら?」

「いいですよ。声をかけたのは俺なんですから」


 俺はお婆ちゃんと一緒に待ち受け用の写真を撮ると、目に入った八百屋へと向かう。


「すみません。トマトください!」

「あくあ君!? あ、はい。それじゃあ、これ、あ、いや、待って。多分、こっちの方が美味しいかも」


 トマトの料金を支払った俺は、その場で「いただきます」と言ってからトマトに齧り付く。


「うめぇ。やっぱ、野菜は生だわ」


 俺はトマトを齧りながら、楓が国営放送の毎日ごはんで披露した伝説のサラダ回、パワーサラダを思い出す。

 一才の調理をせず、ドレッシングもかけずに、野菜そのままの状態で齧って食べる楓のパワーサラダは、新たな健康法の一つとしてSNSを中心に注目されているらしい……。


「ご馳走様! 美味しかったです!」

「いえいえ、こちらこそ宣伝していただいてありがとうございます!」


 宣伝か……そういえば告知用のポスターとかないのかな?

 俺はスタッフの人に確認する。

 すると県の人がライブのために作ってくれたポスターを持ってきてくれた。


「ちょ、いいのあるじゃないですか! こういうのがあるなら最初から言ってくださいよ!」


 BERYLが来ると書かれたポスターには、俺達の写真とライブの日程とかが書かれていた。


「ちょ、お姉さん。八百屋の何処かに、これを貼るスペースとかありませんか?」

「あります! ここ、1番目立つので使ってください!!」


 俺はお姉さんに感謝の言葉を伝えると、良く見える場所にポスターを貼った。

 よしっ! ここなら、通りのお客さんから見えるし、ちょうどいいな!!


「あくあ君、ポスター貼る代わりに、さっき食べたトマトのポップ書いてくれませんか?」

「お姉さん……商売上手いね! いいよ!!」


 八百屋のお姉さんからマジックを受け取とった俺は、【白銀あくあ絶賛、そのままの状態で齧り付けるパワートマトはこちらです!!】とポップに書き込んだ。


「お姉さんもうこれ、俺の白にちなんで1パック税込460円にしましょう。ライブ記念特化セールで。あ……でも、赤字になってまでは無理してほしくないんで断ってくれても大丈夫です」

「わっかりました! 大丈夫です!!」


 俺の値下げ交渉に、買い物に来ていたお客さん達は手を叩いて喜ぶ。

 ふぅ、スーパーでバイトしていただけなのに3日目に何故か仕入れから値付けまで任されていたえみりから、事前に利益のラインを聞いておいてよかったぜ。


「せっかくだから、余白の部分に何か書いておきますね」

「えっ?」


 八百屋のお姉さんだけじゃなくて、周りで見ていた人たちや県や市の人、うちのスタッフ達まで微妙な顔になる。

 あれ? みんな急にどうしたの?

 細かい事を気にしない俺は余白を前にして、芸術家白銀あくあのセンスを冴え渡らせる。

 熊本……熊……小熊先輩……こぐまもん……これだっ!!

 俺は頭の中に思い浮かんで来た絵を余白の部分に描き込む。


「あくあさん、それはなんですか?」


 マネージャーの小町ちゃんが心配そうな顔で俺の絵を覗き込む。

 大丈夫だって。俺が今までに変な絵を描いた事なんて一回もないでしょ!

 って言うと、小町ちゃんが何とも言えない顔を返してきた。あれ? おかしいな……。


「ほら、みんなも見て。熊本県の新キャラクター、こぐまもんです!! 小さいけどすぐに噛み付くくらい危険なので気をつけてください!!」


 俺は自分の書いたポップを手に持つと、周りにいるみんなに見えるようにする。


「あっあー、なるほど、わかります!!」

「ふふっ。がおー、だってさ。意外と可愛いかも」

「確かに小雛ゆかりみがある!」

「あくあ君、大怪獣ゆかりゴンといい。小雛ゆかりをデフォルメさせた絵だけは謎にうまい説」

「わかる。小雛ゆかりの顔というか、デザインがなんかこう絶妙なくらいあくあ君の絵にフィットしてる」


 ほっ! 一瞬、もしかして俺の絵って下手なんじゃないかと思ったけど、どうやらそんな事はなかったようだ。

 学校の美術の先生からも、白銀の絵は独特のセンスがある。例え美術の点が低くても、そのセンスを大事にしろ。時代がまだお前に追いついてないだけだ。って言われたっけ。

 絵を見た県の人がゆっくりと手をあげる。


「あの〜、このこぐまもんをうちの県のPRキャラクターとして使ってもよろしいでしょうか?」

「もちろん、大丈夫ですよ! 小熊もん先輩には俺から許可を取っておくので安心してください!!」


 この時、気軽な気持ちで返事をした俺は後に知る事になる。

 俺の描いたこぐまもんが、熊本を支配してしまう事を……。

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

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