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92、画面の向こう側。

本日は後もう一回投稿します。

 飲食ブースはすごく混んでいましたが、なんとか食事を摂ることができました。

 もちろん私が注文したのは、白銀あくあの手打ちうどん茄子天のせです。

 たまちゃんの肉球パフェも食べたかったけど、それは帰りにしましょう。

 食事を終えた私は、ステージへの入場待機列に並びます。


「チケットのご提示ありがとうございます。こちらをどうぞ」


 ステージの観客席に入る時、スタッフさんにサイリウムを渡された。

 色は水色、黄色、白色、紫色、緑色、赤色の全6種類。ライブの時に使ってくださいねという事は判りますが、何故6色もあるのでしょうか?

 ちなみにスタッフの人たちは、最初に黄色を使ってくださいと言っていました。


「何か嫌な予感がする」

「ベリル……お前、またなんかやらかすつもりなんか?」

「あくあ様があくあ様なら事務所も事務所だよ」

「念のために遺書でも書いておくか」

「朝、家から出る時に家族に別れの挨拶も言ってからきた私の判断は間違ってなかったな」

「ぐあああああ、ハードディスクの秘蔵データを消してからくればよかった」


 こういう時、1人ものでよかったと思います。

 私はそんな彼女たちを横目に、自らの席に着席する。


「楽しみだね、お姉ちゃん!!」

「うん、そうだね」


 私の席の隣は、仲の良さげな姉妹で微笑ましくなりました。

 それにしても姉妹でチケット当選なんて、中々の幸運じゃないでしょうか。

 捗るさんなんて、チケットが当たらなかったから、離れ技を使ってライブ会場に来ているのに……。あっ、そんなことを考えていたら、会場に居た捗るさんと目が合いました。こら、私の方を見てないで、真面目に仕事しなさい。ティムポスキーさんなんて、有給全部使い切っちゃったからこんな時もお仕事で来れないんですよ。

 彼女達と比べると、ちゃんと来ている嗜みさんはさすがです。いいですか、こんなダメな大人達になってはいけませんよ。

 そんなことを考えていると、ライブ会場の電気が落ちた。


「わっ!」

「きゃあっ!」


 観客席から歓声があがる。しかし会場は暗転したまま動かない。

 ザワザワとしていた会場が、空気を読んでゆっくりと静かになっていく。

 やはりライブステージはこの一体感がたまりませんね。

 次の瞬間、目の前の大きなディスプレイからたまちゃんが顔を出す。


「いっくよー!」


 たまちゃんは拳を突き上げると、珍しく振り絞るように大きな声を出した。

 それに呼応するように、会場の私たちも黄色いサイリウムを持った手を突き上げる。


「揺れる水面、風が吹く、触れ合った肩がピリピリする」


 自分で作曲ができるたまちゃんの持ち歌は多い。

 その中でも再生回数200万回をこえる人気曲、星空銀河からスタートするとは誰も想像していなかったのではないだろうか。私も最初にそれを持ってくるとはと驚いた。


「見つめあったその瞬間に、1人の世界は終わる」


 星空銀河は、一言で言うと初恋に落ちた時の心情を歌った曲である。

 ポップでキュート、それでいて穏やかな音色の曲に合わせて左右に体を振るたまちゃん。みんなもゆったりとした曲調に合わせて黄色のサイリウムを揺らした。あー、いいですね。まだ始まって数分なのに満足感は高いです。


「この恋が叶わなくてもいい。それくらい貴方のことが好き!」


 画面の中のたまちゃんは、黄色の服を着て、黄色のペンライトをマイクにしていました。

 ショートパンツからの生足もいいですが、スパッツからの生足もたまりませんね。


「綺羅星!」

「「「綺羅星ー!」」」


 この曲の最高に可愛いところがこのポーズでしょう。

 私も親指、人差し指、中指を伸ばして目の横に当ててポーズをとる。

 え? おばさんが無理するなって? いいんですよ。どーせ暗くて誰も見てないんですから! そんなことを考えていたら捗るさんと目が合いました。だから貴女は仕事しなさいって! にやつくな!!

 たまちゃんはその後もミスすることなく曲は終盤に向かっていく。


「僕の心に君の星が瞬くよー」


 一曲目が終わるとみんなから拍手が沸き起こる。


「やばー、シロくん目当てだったけど、たまちゃんの曲めっちゃいいじゃん」

「これさー、星とか銀とかめっちゃ意識させてくるじゃん」

「わかる。あー様に恋した女の子には絶対刺さるやつ」

「たまちゃーん、よかったよー!!」


 ステージ開幕前は爆発しそうなほど高まっていたボルテージ、それが落ち着きを取り戻したかのように、観客席に穏やかな空気が流れる。最初はもっとハイテンションな曲を持ってくるかと思ったけど、あえてたまちゃんから、ここじゃないぞと言われているようでした。


「え、えっと、あ……あ……は、初めまして、本日よりベリルエンターテイメントのVtuber部門に所属することになった1期生の大海たまです。よ、よろしくお願いします」


 さっきまで堂々と歌っていた姿は何処へやら、たまちゃんは大勢の観客を前にして緊張したのか、言葉を何度か詰まらせる。それが初々しくてクスリと笑みが溢れた。


「たまちゃん、頑張れー」

「緊張しなくてもいいんだよ!」

「よろしくねー」

「ギャップ可愛い!!」

「いつも配信見てるよー!!」

「今日はたまちゃんに会いたくてきたよー!」


 観客席の人もいい人たちばかりそうでよかったです。


「あ、ありがとう、みんな。今日はみんなが来てくれたから、僕も頑張ってみようかな……みんな、今からみんなに会いに行っていいですか?」

「「「いいですとも!」」」


 もちろん私もそう答える。すると再びステージのライトが落ちた。

 画面の中のたまちゃんは集中するかのように呼吸を整える。静かになっていく観客、たまちゃんはゆっくりと目を開けるとその小さな唇を開いていく。


「流れた星は海に落ちて、夜空に手を伸ばせばー」


 これもたまちゃんの人気曲の一つ、再生数100万オーバーの白黒の世界という名前の曲です。しかもアカペラ! 高い歌唱力を誇るたまちゃんに、会場にいた人たちも聞き惚れる。

 先ほどまで緊張していた人物と同じ人だとは思えません。さっきも誰かが言っていましたが、このギャップもまたたまちゃんの魅力の一つです。


「僕は今、白黒の世界の中ー」


 アカペラの終わりと同時にディスプレイの映像が落ちる。

 一瞬、トラブルという文字が頭の中に思い浮かびましたが、すぐにステージがライトアップされてオーケストラの生演奏が始まります。ここからまさかのオーケストラバージョン!? 素晴らしい演奏と壮大なアレンジに肌がピリピリと震える。たまちゃんの作り出した歌の世界観に観客全員が引き摺り込まれていく。それまでオーケストラを照らしていたスポットライトが、ステージの中央へと収束する。


「こぼれ落ちた涙の雫、伝えられなかった僕の嘘」


 観客席にいた全員が目を見開く。

 なんと、なんと! さっきまでディスプレイの中にいたたまちゃんがステージの中央に立っていた!!

 サプライズでの初3Dお披露目に、たまちゃんファンの私は歓喜に震える。

 観客席の中には、私のようにたまちゃんが好きで見にきている人もいますが、シロくんだけのために来ているお客様もいます。むしろそっちの方が多いのではないでしょうか。それにもかかわらず、圧倒的な歌唱力とオーケストラアレンジによる生演奏、そして素晴らしい演出によって、たまちゃんはそういった人たちの心まで掴んでしまう。


「みんなー、会いに来たよー!!」

「「「「「わあぁあああああ!」」」」」


 1番から2番の間奏のタイミングで、たまちゃんは観客席にいるみんなへと声をかけた。

 それに応える観客席からの大声援、私も手を振り上げて黄色のサイリウムを振ります。

 たまちゃんはそのまま2番も圧倒的な歌唱力で、このクールでかっこいいアレンジの白黒の世界を歌い切った。


「たまちゃん可愛いー!」

「やったー!!」

「えっ、ちょっと待って、すご……本当に会いにきたし」

「マジか、今こんなことになってるのか」

「やばいやばい、やばい、ハマりそう……」


 観客席のボルテージは再びマックスへ。それを見たたまちゃんは、ポケットから水色のペンライト型マイクを取り出すと、空へと掲げた。私もそれを見て素早くサイリウムを取り出す。


「みんなー! 次の曲は僕にとって初めてのデュエット曲、ここにきてるみんななら、もう誰と歌うのかわかってるよね!!」


 私は誰よりも早く、空に向かって水色のサイリウムを突き立てた。


「シロくーーーーーん!!」

「シローっ!!」

「シロくん会いに来たよー!!」

「早く顔を見せてー!!」

「みんな待ってるよー!」


 会場の中に綺麗なピアノの音が流れる。オーケストラはそのままで演奏が始まった。

 そしてついに! ついに!! 私たちの目の前に、シロくんが姿を表す。それもディスプレイを飛び越えて、ステージのど真ん中にいるたまちゃんと背中を合わせる。

 割れんばかりの大歓声に、会場がほんの一瞬揺らいだ気がした。


「星を瞬かせて世界を照らせ! 白い吐息に、どこかの水面が揺れる」


 あああああああああああああああ!

 シロくんの歌声で私は一瞬にして意識が持っていかれそうになった。

 なんなんですかこれ? いや、本当になんなんですかこれ?

 たった一声だけで俺はここにいるぞ、だから見ろよと言わせるほどの圧倒的な存在感。

 大人びたあくあさんの歌声ともまた違う、シロくんの少し背伸びした少年の声に、思わず胸を抑える。

 耐えろ! 耐えろ! 耐えろ! 私! ここで倒れたら、このステージに来られなかった全ての人に申し訳が立たない!! 脳裏に夜空に散ったティムポスキーさんの顔がチラつく。そうだ……私は、ティムポスキーさんのためにもこんなところで倒れるわけにはいかないのです。

 周囲を見れば、みんな最初のシロくんにやられてしまったのでしょう。我を失ったかのように、狂喜乱舞している人もいれば、瞬きもせずにずっとステージを見つめている人もいたり、中にはやっぱり耐えきれなかったのか、椅子の上でぐったりとした人まで見えました。し、しんでないよねそのひと……。


「君が叩いたドアの扉、でも僕はそこにいない」


 シロくんのターンの次はたまちゃんのターンに切り替わる。

 たまちゃんの歌唱力は高いし、間違いなく声も魅力的だ。もし、噂通り男性だったら間違いなくナンバー1だし、女の子だったとしてもトップクラスだと思う。だけど……だけど、なんなのさ!? あなたと背中合わせに歌ってる人、絶対におかしいって!! 今だってたまちゃんのパートで、一言も歌ってないのに、会場にいた全員が、その人に、シロくんに視線が吸い寄せられている。たまちゃんも、それがわかっているのでしょう。ここでまたパフォーマンスの質を上げてくる。


「頑張れたまちゃん」

「まだ序盤、デュエットだからここでおいてかれたらきついよ」


 私の周りで生き残ってた人たちが、小さな声で囁く。

 もう片方の手で黄色のサイリウムをぎゅっと握りしめた私も、心の中でたまちゃんにエールを送る。

 そうしてたまちゃんのソロパートが終わると、2人の声が重なった。


「傷を負ったケダモノ達はまた立ち上がる!」


 デュエットパート、最初のところは綺麗に声が重なった。

 しかし、徐々にゆっくりと、たまちゃんはデュエットパートの主旋律をシロくんへと譲っていく。

 多分ここで一番悔しい思いをしているのはたまちゃんだ。自分の実力ではまだ足りてないと、デュエットではサポートへと回る。シロくんもそれに気がついたのか、後ろのたまちゃんにアイコンタクトで後は俺に任せろと合図を送った。

 そこから先は、もうシロくんの独壇場である。圧倒的な歌唱力とパフォーマンス、何よりもその存在感に誰もが目を逸らせない。私も、そしてみんなも、だらだらと涙を垂れ流しながらそのステージを見ていた。


「愛してる君に、この気持ちを伝えるまで諦めない!!」


 最後まで歌いきったその瞬間、会場から……いや、会場の外や、さらにその奥からも大きな歓声が聞こえた。

 そういえばこの映像はユアチューブやトゥイッチでも配信されているらしいから、それを会場の外で見ていた人たちが反応しているのかもしれない。


「うっ、うっ、うっ……来てよかった、本当に来てよかった」

「よかったね、本当に……」

「たまちゃんもよく頑張った」

「シロくんやば……あー様のオプションみたいなもんだと思ってたけど、これは推せる!」

「シロくんサイコーーーーー! たまちゃんもよかったよ、ありがとー!!」


 観客席からステージに向けて長い拍手が送られる。

 もしかしたら、シロくんが少し抑えたら上手く調和が取れていたのかもしれない。それでもあえて2人は、ベターではなくベストを尽くそうと本番でも挑戦したのだと思う。それがわかったからこそ、みんな感動したし涙を流した。

 シロくんを1人にしないように、たまちゃんの魂から搾り出すような歌声に心が震えた観客は少なくないと思う。

 暫くして会場が落ち着くと、さっきまで会場に手を振っていたシロくんが会場に向けて喋りかける。


「初めまして! ベリルエンターテイメント、Vtuber部門所属1期生の星水シロです。実はこの曲、僕たちの仲間が作ってくれたんだけど、みんなに紹介してもいいかなー?」


 この時の私は……いや、私たちはまだ何もわかっていなかったのだ。

 ベリルエンターテイメントという会社の底知れぬ恐ろしさに、私たちは震える事になる。

2度目の投稿は21時です。


Twitter、一気にフォロバしたのがスパムと認識されて凍結されたみたい。

しばし復旧までお待ちください。

臨時のサブ垢です。


https://mobile.twitter.com/yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
[一言] 名前を出してはいけない例のあの人が星座になるとか(´゜ω゜`)wwww
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