黒蝶揚羽、黒蝶の呪縛。
※この話もノクターンナ部分はカットしております。
今日は久しぶりに孔雀君と一緒に食事をする日です。
議員としての仕事を終えた私は、タクシーに乗って孔雀君と待ち合わせていたレストランに向かう。
予定外のトラブルがあったせいで、待ち合わせした時間より少し遅れちゃうかも。
私は孔雀君に連絡を入れて、少し遅れる事を伝える。
「とりあえず、これでよしと」
私はタクシーの窓に顔を向けると、夜の街並みを見つめる。
ここから見える景色もこの1年で大きく変わりました。
道を歩く男女の夫婦や女性と楽しく会話をしながら歩く男の子、お母さんと息子さんを見つけて、自然と笑顔が溢れる。
男性の草食化と絶食化。
一部の暴走した女性たちが引き起こした男性を襲った事件。
それがきっかけとなって、男性達は自分の身を守るために引きこもり、男女との接触が極端に減っていきました。
その事件から更に数年が経ち、一部の引きこもらなかった男性達は、男性である事を笠に着て横暴になり、男女の溝はますます広がっていったのです。
しかし、ずっと私達を悩ませていたこの問題は、ある1人の男の子が出現したおかげで劇的に改善しました。
白銀あくあ。
この国、いえ、この世界に彗星の如く現れた彼は、女性だけではなく男性の意識までも変えてしまったのです。
普通の男性とは違う価値観。この暗黒の時代だった日本で生まれ育ったとは思えないような常識のなさ。そう、まるでどこかの星から来た異国の王子様が、この地球に宇宙から舞い降りたのかようでした。
「ふふっ」
私はつい、昨日見た国営放送の番組を思い出して1人で笑ってしまう。
一昨日、国営放送で森川さんがやってたあくあ君が宇宙人じゃないかって討論番組面白かったなぁ
『それでは今日のゲストを紹介します! 白銀あくあ超常現象研究家のミステル・エミリさん! 白銀あくあさんが引き起こしたミステリー現象やオカルトを扱う専門誌の月刊アークアより、乙女の嗜み名誉編集長! そしてメアリー女子大学で白銀あくあの行動を物理的に証明する学部で教鞭を取っている小雛ゆかり特任教授! 最後に我らが日本国総理大臣、羽生治世子さん! この豪華すぎる4名に、ホゲラー波を専門に研究するホゲウェーブ研究所所長のこの私、森川楓を加えた5人が国営放送のスタジオより、激論を交わしていきたいと思っています!』
ふふふっ、本当に思い出しただけで笑いが込み上げてきそうです。
しかもこの後、あくあ君本人が出てきて真剣な顔で「ワンチャン、俺は宇宙人かもしれない」とか言って、小雛ゆかりさんに「あんた、このバカどもに冗談は通じないんだから、バカは程々にしときなさいよ。このおバカ!」って言われてたっけ。
私が思い出し笑いをしていると、タクシーが孔雀君と待ち合わせているレストランの前につきました。
「ごめん。待ったかな?」
「いや……少し前に来たところだ」
孔雀君はいつものようにそっけなく答える。
でも、返事をちゃんとしてくれるだけで私にとってはすごく嬉しかった。
それに孔雀君だって、年頃の男の子だもの。
義理とはいえ、お母さんと一緒に食事だなんてちょっと恥ずかしいよね……。
「そういえばこの前、山田君と一緒にテレビに出てたね。見てたよ」
「……ああ」
私はいつものように、孔雀君に対して話題を振る。
「山田君との共同生活はどう? 何か困った事はない?」
「……特にない」
孔雀君の口数は少なかったけど、ちゃんとこっちを見て返事をしてくれるだけで嬉しかった。
運ばれてきた料理を食べて、少し会話が途切れた後。孔雀君は食事をしていた手を止めて、私の顔をじっと見つめる。
「……最近、また忙しそうにしてるみたいだが、無理してないだろうな?」
「えっ?」
私は少しびっくりした顔をする。
孔雀君……私なんかの事を気遣ってくれているんだ。
私は手に持っていたフォークとナイフを置いて食事を止める。
「大丈夫。忙しいのは本当だけど、倒れたらみんなに迷惑かけちゃうから。無理だけはしないようにしてる」
私の事を気遣ってくれた孔雀君の優しさが嬉しくなって私は満面の笑顔になる。
それを見た孔雀君は、私からプイッと顔を背けた。
「そうか……それならいい」
ご、ごめんね。
30超えたおばさんが、嬉しくてはしゃいじゃったらダメだよね……。
顔を背けた孔雀君は、しょんぼりした私の顔をチラリと見る。
「ま、まぁ、揚羽が楽しそうならそれでいい。それよりも、そっちの暮らしはどうなんだ? その……ちゃんと、楽しいか?」
「うん。楽しいよ」
私は孔雀君の問いに笑顔で頷く。
白銀キングダムの生活は少し騒がしいけど、気が抜けるっていうか、政治家黒蝶揚羽じゃなくて、ただの黒蝶揚羽に戻れる時間なんだよね。
そういう時間があるからこそ、私はリフレッシュして、政治家としてもより一層と頑張れるんだと思う。
「孔雀君は……その、今の生活は楽しい?」
「……ああ、楽しいよ」
孔雀君は顔を私の方に向けると、笑顔で頷いてくれた。
私はその笑顔を見て嬉しくなる。
こうやって孔雀君と楽しく会話できるなんて、一年前は想像もしていませんでした。
本当は今頃、私は捕まって罰を受けてるはずだったのに、その未来を強引に変えてくれた王子様がいたから、私は……。
孔雀君とおしゃべりをしている最中なのに、あの時のあくあ君の事を思い出して顔が赤くなる。
私の顔を見た孔雀君は優しい笑みを浮かべる。
「ふっ、そういえば、アイドルをしてから分かった事がある。白銀あくあって男は、本当に生まれながらのアイドルなんだってな。だからこそわかる。俺にはああはなれない」
「孔雀君……」
こ、これって、落ち込んでるのかな?
やっぱり励ましたほうがいいのだろうか?
そんな事を考えていると、孔雀君は首を横に振る。
「すまない。言い方が悪かったな。別にアイドルを止めたいとかじゃないんだ。こんな俺にもファンがいるし、頑張れるだけは頑張ってみようと思う。それに、白銀あくあに成れなくても、アイドルとしての俺にしかできない事とかあるかもしれないからな」
前向きな表情を見せる孔雀君の顔を見て嬉しくなった。
孔雀君は優しげな目をすると、少し嬉しそうに自分から喋り始める。
「そう考えると、あいつは……丸男はすごいやつだよ。あいつには絶対に言わないけど、白銀あくあを目の当たりにして、まだあいつを目指す事を諦めてないんだから。慎太郎だってそうだ。あの白銀あくあに近づこうとしてる。どっちも俺にはできない事だからな」
まるで自分の事のように、嬉しそうに2人を褒める孔雀君を見て私はますます嬉しくなった。
孔雀君はあくあ君みたいに成れないっていうけど、ちゃんとみんなの事を見ているところとか、みんなを素直に褒められる優しい所はあくあ君と一緒だよ。
最初は少し距離感が合ったものの、ここから私と孔雀君の会話が弾み出した。
「おっと、もうこんな時間か。そろそろお開きにしようか。俺も撮影が朝早いから、そろそろ寝ないといけないしな」
「あ、うん」
残念だけど仕方ないよね。
あくあ君から聞いてびっくりしたけど、ドライバーの撮影って朝4時とか5時から撮影してるらしいし……。
そういえば、この前、あくあ君も朝の5時に撮影があるとか言って出かけてたっけ。も、もしかしてドライバーのスペシャルドラマか何かでもあるのかな? 私は少しだけ期待に胸を膨らませる。
お会計を済ませてお店を出た私は孔雀君と向き合う。
「く、孔雀君。今日はありがとう。楽しかったよ」
「俺の方こそ、1ヶ月ぶりに揚羽と話せてよかった」
孔雀君とはお互いに忙しいけど、1月に1度は食事しようねって約束した。
ううん、そうしようって勝手に決めてくれたのは、あくあ君だっけ。
そのおかげで私は毎月、こうやって孔雀君と会う事ができている。
「次は……来月か。クリスマスもあるし、何かプレゼントでも用意しておくよ」
う、嬉しい……。
孔雀君からクリスマスプレゼントが貰えるなんて想像もしていなかった事です。
「それじゃあ……」
何かに気がついた孔雀君が私から視線を逸らす。
私もそれに釣られて孔雀君が見つめる方向へと顔を向ける。
「はぁ……はぁ……やっと、見つけた」
息を荒げ様子のおかしい女性を見て、私は孔雀君を庇うように前に出る。
もしかしたら、私を狙う黒蝶の残党が何かをしにきたのかもしれないと思ったからだ。
「黒蝶孔雀君……ですね?」
彼女の言葉を聞いて、孔雀君が私を庇うように前に出る。
「ま、待って! 孔雀君、危ないからすぐに私の後ろに!!」
「いや、それよりも揚羽が俺の後ろに……」
私たちが押し問答をしていると、女の子はゆらりゆらりと私達の方へと近づいてくる。
次の瞬間、バッグに手を突っ込んだ彼女は、何かを掴んで私たちの前に差し向けた。
あ、あぶなーーい! って、あ、アレ? これって……孔雀君のパスケース!?
「こ、こここここここれ、お……落としてましたよ……」
普通に良い子だったぁぁぁああああああ!
早とちりしてごめんなさいいいいいいいいいいいいい!
私と孔雀君は、孔雀君の落とし物を届けてくれた女の子に何度もお礼を言う。
「すみません。今日、その……風邪気味で体調悪くて。それなのに、走って探してたから、私、今、すごい顔してますよね……?」
わわわわわわ! 大丈夫ですか!?
私はその子を抱き抱えると、手で額の熱を測る。
熱い……。これ、病院に連れて行ったほうがいいかも。
「揚羽、先に帰ってていいぞ。この子は俺が病院に連れて行く」
「え? でも……」
私がそう言うと、孔雀君は私を見て笑う。
「心配するな。俺なら大丈夫だから。俺のために頑張ってくれた女の子をそのままにして帰ったら、丸男のやつに顔向けできないからな。それに……ドライバーなら、困ってる人は助けなきゃいけないだろ」
「孔雀君……わかった」
強く……なったんだね。
子供の時の辛い思い出がフラッシュバックして、本当は女の人が苦手なはずなのに。それでも克服して、前に行こうとする孔雀君の姿を見て、母として嬉しくなった。
孔雀君はタクシーを止めると、女の子を先に乗せて私の方へと顔を向ける。
「揚羽……俺はもう大丈夫だ。だから、お前も自分の幸せについて考えていいんじゃないか?」
私の幸せ……?
これ以上、私が何かを求めるのは贅沢だよ。
だって、私はもう十分に幸せなんだから。
「揚羽は、そんな事ないって言うだろうけど、俺の母になった事で、俺はお前の大事な時間を奪ってしまった。揚羽には何の責任もないのに、俺のせいで女性にとって大事な10代20代の大事な時期を犠牲にさせてしまった」
「そんな事ない! そんな事ないから!!」
孔雀君は私の言葉を遮るように言葉を続ける。
「そう思うなら、俺のためにも今よりもっと幸せになってくれ。あいつなら……そう、白銀あくあなら、きっと、揚羽が失った女の子の時間すらも埋めてくれると思うから」
「孔雀君……」
私は胸の前で手をぎゅっと握りしめる。
孔雀君はそれを見てフッと笑った。
「揚羽、俺はもう大丈夫だ。お前からしたら、まだまだ子供だろうけど、俺はもう独りじゃない。気の知れた友達がいる、お互いに高めあえる仲間いる、尊敬する先輩がいる。それに少し頼りないけど、丸男もいる。だから、お前も自分の幸せだけを考えてくれ」
「私の幸せ……」
もう十分に幸せなのに、これ以上幸せになっていいの?
それって、流石に贅沢じゃないのかな?
戸惑う私の顔を見て、孔雀君は笑みを浮かべる。
「幸せになれ、揚羽。いや、お互いに幸せになろう、揚羽。俺たちはもう過去に囚われなくていいんだ。お前の首にかかっていたギロチンは、もうあの男が素手で受け止めて破壊したんだから」
孔雀君の言葉を聞いて、私はハッとした。
そっか……孔雀君が前に行こうとしてるのに、私がいつまでも気にしてちゃダメだよね。
私の顔を見た孔雀君はタクシーの扉を閉めると、窓を少し開けた。
「ただし、あいつの事をパパだと呼ぶのは嫌だからな。何なら俺の方が年上だし、それだけはちゃんと言っておいてくれよ」
そう言って孔雀君はタクシーの窓を閉めると、女の子を病院へと送り届けに行った。
幸せ……か。
私は帰宅した後も、そのことについてずっと考えていた。
幸せになるって何だろう?
もう十分に幸せなのに、これ以上の幸せってあるのかな?
私の頭の中に、えみりちゃん達の結婚式や、お腹を大きくしたみんなの姿が思い浮かぶ。
……やっぱり、好きな人と結婚して子供を作るのって幸せなのかな?
私は、あくあ君と2人になったタイミングでその事について相談する。
すると、あくあ君は私をたくさん愛してくれて、自分の中に堰き止めていたものが一気に外に出てしまった。
「あくあ君、本当に私なんかでいいの?」
「もちろんです。揚羽さん。俺は揚羽さんが喜んでくれるなら、なんだってしますよ」
本当に……?
そ、それじゃあ、3……32歳だけど、学生服デートとか、してみてもいいかな?
それと、せっかくならウェディングドレスとかも着てみたいなーとかって。
「それってコスプレ? 俺は、揚羽に本物のウェディングドレスを着て欲しいけどね」
ううっ、急に呼び捨てなんてずるいです。
私は顔を真っ赤にする。
「は、はい……。私も本物が着てみたいです」
「それって、ちゃんと意味わかってるよね?」
ううううううううう、あくあ君は卑怯です。
言質を取られた私は、あくあ君の問いに無言で頷いた。
その翌日。
国会に到着すると、見覚えのある人達が真剣な顔をして外で並んでいた。
「さすがは黒蝶議員だ!! 私は感動した!!」
日の丸の鉢巻をつけて日の丸の国旗を振った総理達全議員が泣きながら私を出迎えてくれる。
「私も学生服を着て、あくあ君とデートがしてみたい!!」
「そうだそうだ!」
「黒蝶議員さすがです!!」
「羨ましいぞ!! し……あわせになれ!」
「そこで、ね、じゃなくて堪えるの偉い!!」
もおおおおおおおおおおおおおおおおお! 私とあくあ君のやりとりを見て、総理達に全部をバラしたの、どうせまた、えみりちゃんでしょおおおおおおおおおおおおおお! 帰ったら、後でカノンさんと琴乃さんとくくりちゃんに告げ口してやるんだからああああああ!!
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