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ヴィクトリア、嫌いの反対。

出せる部分だけなので、短くてすみません。

 恋愛リアリティショーが終わって皇くくりが後宮に帰ってきた夜、後宮では、彼女を祝うためのパーティーが催された。


「くくりさん、本当におめでとう!!」

「ありがとうございます」


 美しい着物に身を包んだ皇くくりは、恋愛リアリティショーを見ていた他国の姫様たちに囲まれて祝福の言葉を受け取っていた。

 皇くくりは白銀あくあと結ばれた事で、明日、正式な手続きを経て後宮を出て白銀キングダムの本宅に移る。

 だから彼女にとっては、これが後宮での最後の夜だ。

 私は人の居ないタイミングを測って皇くくりに声をかける。


「皇くくり様、おめでとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 堅苦しい社交辞令の挨拶を交わした私達はお互いに穏やかな笑みを浮かべる。


「流石に疲れましたね。良かったら少し隣の部屋で話しませんか?」

「ええ、いいですわよ」


 私は皇くくりの提案に乗ると、2人で人のいない部屋に入った。

 ここなら、誰にも話を聞かれる事はないでしょう。


「改めておめでとう。大手を振って後宮を出る気分はどうかしら?」

「そうね。こういう事になるとは思わなかったけど、思っていた以上に嬉しいわ」


 椅子に座った皇くくりは、憑き物が落ちたかのような晴れやかな顔で、真っ直ぐと目の前を見つめる。

 彼女の横顔からは将来に対する不安さよりも、これから先に訪れるであろう自分の未来に希望を抱いているように感じられた。

 そう、まるであいつのお嫁さんになった私の妹、カノンのように……。

 全く、これだからあの男は……。私は皇くくりの幸せそうな顔を見て自然と表情が綻ぶ。


「私、本当はずっとここに居ようと思ったんです」

「……わかるわ」


 白銀キングダムの後宮は自国はもちろんのこと、他国からも干渉する事ができない。

 全世界で唯一、どの国からも治外法権が認められている唯一の場所だ。

 例え日本という国であろうと、皇くくりに関して手を出す事ができない。

 誰かが言った。白銀キングダムは幸せな鳥籠だと……。


「ここは他の誰からも干渉されない……私のような訳ありにとっては、世界で一番平和で心穏やかな場所だから」

「そうね」


 皇くくりだけじゃない。スウ・シェンリュも、シャムスも、そして私も……ここに集められた訳ありのお姫様たちにとっては、ここは他国からも、そして自国からの干渉すらも凌げる強固なシェルターみたいなものだ。


「ここで朽ちていけばいい。ここにはえみりお姉ちゃんも居るし、窓を開ければあくあ様が見える。私には、たったそれだけの理由で十分でした。ヴィクトリアさん、貴女はどうですか?」


 皇くくりの問いに対して、私は少しだけ瞼を閉じて心の中を整理する。

 今、彼女は皇家の皇くくりとしてじゃなくて、ただの皇くくりとして喋ろうとしてるわ。

 だったら、私もスターズのヴィクトリアではなくて、ただのヴィクトリアとして答えるのが筋というものでしょう。


「私も同じよ。ここから妹のカノンやハーミーが幸せそうな顔がよく見えるもの。それだけで十分だったわ。でも……ここに来てから、いかに自分があの国に、スターズに囚われていたかよくわかったの」


 それでも、今も私はあの国が、スターズが好きだ。

 離れた今でもスターズの事が気にかかるし、あの国と国民の未来が明るい事を祈っている。


「囚われていた……そうですね。私も貴女も、他の方達もきっと囚われすぎていたんでしょうね。だからここでの居心地に満足していました」


 私は皇くくりの言葉に頷く。

 これ以上は何もいらない。何も望まないし、生まれた時から鳥籠の生活を送っていた私には、いえ、私達にとってはそれで十分だった。


「でも、ダメでした。欲張りになっちゃったんです。自分も後少し、もう少しって思っていたら、なぜかこうなっちゃっていました」

「ふふっ」


 私と皇くくりの頭の中に同じ人物の顔が思い浮かぶ。


 白銀あくあ……。


 決められた未来すらもぶち壊し、予定調和すらも許さない。

 それは相手が女の子だろうと、男の子だろうと関係ありません。

 誰に対してもまっすぐと本気で向き合い、彼と目が合ったら最後、自分の心を偽ることさえも許してくれない。

 そして、彼に手を差し出したら最後、例え世界が敵に回っても、神がそれを許さなくても、未来が決まっていたとしても全てをぶち壊して光のある方へと導いてくれる。

 ふふっ、違うわね。私の妹とその友人達が言うには、光じゃなくて沼に落とされるってやつかしら。

 でも、沼に飲まれた先にある世界が幸せなら、それでもいいんじゃないかしら。


「本当は色々と考えてたんですけどね。でも……カメラの前で全世界に向けて、あんな事を言われたらなんかこう……」


 その当時の事を思い出したのか、頬をピンク色に染めた皇くくりは仮面を被ってない素の表情を見せる。


「来るかどうかわからない未来の可能性を色々と考えるのが、バカらしくなっちゃったんですよ」

「そうね。ただでさえ、あの男と雪白えみりなんて刹那的で何も考えてないんだから、それに付き合ってる私たちだけが考えてたらバカみたいじゃない?」


 私の言葉に皇くくりはお腹を抱えると歯を見せて笑う。

 何なら、小雛ゆかりと私の妹もそう言ってたけど、あの男のそれを一番許してる立場の貴女達がそれを言うのって思ったわ。

 その事についても私が話をすると、皇くくりの笑い声が止まらなくなった。


「そういえば、この前もラジオ配信で5分後に隕石が落ちてくるとしたら、あくあ様は最後の少ない時間をどう過ごしますか? ってリスナーに聞かれたら、5分以内に隕石を壊せるように自分を鍛えて進化するとかわけのわからない事を言ってましたね」

「あの男と森川楓の場合、本当にありそうだから怖いのよ。聞き役だった雪白えみりなんか、達観した顔で最後までさすがですあくあ様しか言ってなかったし」


 あの男と雪白えみりか森川楓が聞き手の時のラジオくらい時間を無駄にするものはないわ。

 だって、3人とも本当に何も考えてないんですもの。いや、考えてるんだけど、しょうもない事で悩んでる自分が、ちっぽけな事に囚われてる気がして本当にバカらしくなる。


「だから嬉しかった。例え誰からであろうと、何からであろうと私を守ってくれるって言ってくれて。そこまで言われちゃったら私だってもう覚悟を決めるしかないじゃないですか」

「そうね。わかるわ」


 皇くくりは私の目をじっと見つめる。


「ヴィクトリアさん、気をつけてくださいね」

「えっ?」


 何に気をつけろと言うのかしら。

 皇くくりは私に笑顔を見せると、スッと椅子から立ち上がった。


「あの人は、こっちの覚悟とか状況とか関係なく真っ直ぐきて正面からぶつかってくる人だから。本当は……その時になったら嘘をつかずに自分の気持ちに素直になって、って言おうと思ったんだけど、そんな嘘を吐いたり、自分を誤魔化したりなんかできないって、自分で体験してよくわかっちゃいました。だから、むしろその時が来たら、覚悟しておいてくださいねって忠告しておきます」


 皇くくりは軽く背伸びをして体をほぐすと、扉に向かって歩き始める。


「それじゃあ私はもう行きますね。これ以上主役がいないのも申し訳ないですし……。ヴィクトリアさん、ありがとう。楽しかったわ」

「こちらこそ。私も後宮を出る前の貴女と話せてよかったわ」


 私は部屋から出ていく皇くくりを笑顔で見送る。

 覚悟……か。私はあの男とどうなりたいんだろう。

 はっきり言って私はこのままでも十分に幸せだ。

 妊娠せず、結婚したりもしない。ただ、刹那的に本能のまま交わり、肌を重ねて快楽を得る。たったそれだけの事で十分だ。そこに愛があるかないか、未来があるかないかなんてどうでもいいわ。

 ええ、そうよ。だって、私は……。

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