白銀カノン、えみり先輩のアホ毛センサー。
私はモニターに映ったあくあを見てほっぺたを膨らませる。
あくあってば、さっきから司先生とかレイラさんとか、お胸の大きいお姉さんに対してなんかずっとデレデレしてない? いや、あくあが大きいお姉さんが好きなのは知ってるよ。でも、あんなにわかりやすくデレデレしなくてもいいんじゃないかな!?
「カノポン……お前、嫉妬するなら収録に無理して参加しなくてもいいんだぞ」
私は現地から戻ってきた休憩中のえみり先輩にジト目を向ける。
「だって、私が全面的に許可を出してる体じゃないと、みんな遠慮しちゃうでしょ。それに、あくあが色んな子と恋愛して、幸せになる子が増えるのは良い事だもん」
だからと言って嫉妬しないかと言えば、そうじゃない。
普段は直接見ないようにしているからいいけど、こうやってマジマジと見るとやっぱりちょっとだけ嫉妬しちゃう贅沢な自分がいる。
「お前も難儀な性格してるよなぁ。まぁ、それはそれで面白いんだけど」
別に面白くもなんともないでしょ!!
あっ! あくあったら、ハーの演技に引っかかって、もう!!
でも、それだけ私の事を好きって思ってくれているわけだよね。ううっ、好き……。
私があくあに対してキュンとしていると、小雛ゆかりさんがスタジオに帰ってきた。
「あ、お帰りなさい」
「ふぅ、ただいま。やっぱ、レイラのやつが暴走してたわ。あいつってば、こうと決めると早いのよね。手段も選ばないし、回りくどいの嫌いなタイプだから」
小雛先輩は中央の椅子にドンと座る。
するとすかさずえみり先輩がストローを刺した飲み物を持ってきた。
流れるように舎弟ムーブをするえみり先輩を見て、私はなんとも言えない気持ちになる。
「ルール決めは順調みたいね」
「あくあはこういうのでリーダーっていうか、みんなを引っ張っていくのが得意だしね。ただ、司先生が一言も発してないのが気になるけど……」
私はとあちゃんの言葉に頷く。
あくあも私と同じ事を考えていたのか、司先生に話を振ったりして会話に混ざれるようにサポートする。
はぁ〜、やっぱり私の旦那。世界一かっこよすぎ……。
あくあはちゃんと見てるよね。そうだよねっていうのがわかって周りの人たちに自慢したくなった。
どうしよう。今日もまた、あくあに惚れ直しちゃった。
私がデレデレした顔をしていると、近くにいたえみり先輩がマイクを手で押さえてポツリと呟く。
「ちょろなみさん乙」
もおおおおおおおおおおお!
ここは掲示板じゃないんだから、そんなリスクをかけてツッコむ必要なんてないでしょ!!
「ねぇ、せっかくだから、白龍先生が用意したカード、試しに一枚使っちゃう?」
「うん、いいと思う。僕、それ使うの楽しみにしてたんだ!」
「私も」
小雛ゆかりさん、とあちゃん、私がえみり先輩に視線を向ける。
「それじゃあ、一枚イっときますか?」
えみり先輩がイベントカードの入った箱を持ってくる。
なるほど、カードを選ぶのはセレクト式じゃなくてランダム式なんだね。
「あー、自分が用意したカードが読まれると思ったら、ドキドキしてきた」
さっきまで一言も喋らず画面をじっと見つめていた白龍先生が天を見上げる。
先生、頑張って! 先生なら絶対にやってくれるって、みんな信じているんだから!!
「じゃあ、とあちゃん引く? カード引きたかったんでしょ?」
「うん! ありがとう。それじゃあ、最初は僕が引くけどいいかな?」
私たちは笑顔で首を縦に振る。
「じゃあ、いっくよぉ〜!」
箱の中に手を突っ込んだとあちゃんは手で箱の中のカードをかき混ぜると、その中から一枚だけを掴んで描かれている文字が誰にも見えないように配慮して引き抜いた。
「えっと、これってどうしたらいいのかな?」
「あ、私が発表します」
えみり先輩が手をあげる。
「カードもらっていいですか?」
「うん、いいよ」
とあちゃんからカードをもらったえみり先輩は、カードに書かれた内容を確認して驚いたような顔芸をする。
もぉ〜、えみり先輩ってば、そういうのいいってぇ〜。
あくあとえみり先輩だけは、絶対にそういう小ネタを入れたがるよね。
2人ともすごく顔が良いのに、なんでそこまでしてお笑いに対して命をかけるんだろう……。
「えーと、カードに書かれていた内容はこちらとあちらの同時発表なので、まずは向こうにイベントカードが提示された事を知らせますね」
えみり先輩は目の前に置いてあったマイクのボタンをオンにすると、向こうのリビングに設置されたスピーカーに回線を繋ぐ。
「皆さん、こんにちは。恋愛コーディーネーターの雪白えみりです! イベントが発生したので、皆さんにその内容をお知らせに参りました」
『えっ? イベント!?』
ソファから立ち上がって驚くあくあの周りで、参加者の女性陣も身構えるような素振りを見せる。
みんな、どんな内容のイベントなのかわからないから緊張しちゃうよね。わかるよ。
「皆さんには今から2人きりで料理を作ってもらいます。そうですね。時間的にはちょうど夕方なのでみんなで食べる晩御飯を作ってください。ただし、このイベントに参加できる女性は、4人の女性陣の中からたった1人だけです!!」
『『『『『えぇっ!?』』』』』
へぇ、全員が参加できるわけじゃないんだ。
イベントだっていうから、全員が参加できるようなものだと思ってたけど、これは予想していなかったかも。
モニターを見ていた白龍先生がみんなの反応を見て嬉しそうにする。
でも、これってどうやって決めるんだろう?
「というわけで、今回の相手となる女性を、今から私たちスタジオ組が選ぶので、皆さんはそのままの状態でしばらくの間、お待ちください!!」
えっ? 私たちが選ぶの!?
ちょっと待って、そんな急に責任重大な役割を任されたら困るんだけど!!
「というわけです」
「ふーん、なるほどね。とりあえず、私は同業の馴染みとしてレイラを推薦するわ」
さすがは小雛ゆかりさん、判断が早い!!
ていうか、そういう個人的な理由でもいいんだ。
それなら私も個人的な理由でいいよね。
「じゃあ、私はハーミーで。姉としてハーには頑張って欲しいし、何よりもハー自身がまだ子供だし、他の人と比べて不利じゃないですか。だから、少しでもこれでスタートラインに近づけたらいいな」
私の言葉にみんなが頷いてくれる。
ちょっと姉バカだったかな? と思いつつも、少しくらい身内を贔屓にしたって怒られないはずだ。
「そういう意味なら私も同業者である後輩の司先生を推します! 自分が推薦したって事もあるけど、やっぱりさっきもずっと喋れてなかったし、こういうイベントがないと司先生は喋れないと思うんですよ」
確かに。司先生、さっきもあくあが話を振ってくれなかったら、全然会話に参加できてなかったよね。
リビングみたいに全員が揃う場所だけの接触じゃ、全然リード取れなさそうって思った。
全員が白龍先生の言葉に同意する。
「えー、じゃあ。私も自分で推薦したくくりを推します! 私の勘的に、くくりは何か隠してる感じがするんですよね。2人で共同作業させたら、そこがめくれてくるんじゃないかなと思いまして……えへへ」
えー? そうかな? 全然、そうは見えないけど、そう思ってるのは私だけ?
でも、えみり先輩の勘って謎に当たるんだよね。
「ふーん、それなら僕はヒスイちゃんにしようかな? スタジオの推薦人が5人ばらけた方が面白そうだし。ていうか、ベリベリのみんなはそれに期待して5人の参加者に5人のMCにしたでしょ? ほら、その反応。やっぱり! もー、そういうベリベリの性格悪いところ、僕には全部わかっちゃってるんだからね!!」
た、確かに〜! 言われてみたらそうじゃん!!
とあちゃんに真実を指摘されたプロデューサーさんたちの視線が一気に横に逸れる。
って、スタッフ側の白龍先生とえみり先輩も、なんで今気がついたみたいな顔してるんですか。
「こういう時って、どうやって決めるの?」
「えー、やっぱり話し合いとか多数決じゃない?」
私の提案を聞いた小雛ゆかりさんは少しだけ考え込むような素振りを見せる。
「じゃあ、私はレイラの推薦を辞めて司先生に切り替えるわ。レイラのやつは、さっきのやらかしでちゃんとアピールできてるし、アピールできてない方につく」
「あ、それならさっきはいい加減に決めちゃった僕もくくりちゃんにつこうかな。えみりさんの何かあるっていうのが気になるし!」
全員の視線が私に注がれる。
現状、私の推してるハーミーに自分の1票しか入っていない。その一方で、小雛ゆかりさんと白龍先生が司先生推しで2票、とあちゃんとえみり先輩がくくりちゃんに2票を入れている。
つまり、私にどっちか決めろって事? もー! ベリベリのスタッフさん達がニヤニヤしてるし、最初から私に決めさせようとしてたでしょ!!
「うーん、それなら、えみり先輩の勘に賭けてくくりちゃんで!!」
本当に何かあるなら、これで何かがわかるかもしれないしね。
えみり先輩は力強く頷くと、マイクのスイッチを再びオンにする。
「えー、決まりました。最初の相手は皇くくりさんです!」
『えっ? 私?』
『くっ、ダメだったか! おめでとう、くくりちゃん!』
『くくりちゃん、良かったね。おめでとう!』
『おめでとう、くくり先輩』
『く……くくりちゃん、おめでとう』
みんなに祝福されたくくりちゃんは照れながらも少し気まずそうな顔をする。
ふーーーん、なるほどね。若干、あくあも何か気まずそうにしていたし、えみり先輩の勘、あながち間違ってないかも。
えみり先輩は私の顔を見てドヤ顔をすると、自慢のアホ毛センサーをぴょこぴょこさせる。
「なお、選ばれなかった皆さんは、リビングで2人の愛の料理が完成するまでおとなしく待っていてください!!」
『くっ、悔しい!!』
レイラさんがオーバーなリアクションで悔しがる。
選ばれたくくりちゃんは、あくあと一緒にキッチンに向かう。
『食材は一通り揃ってるみたいだし、何作ろうか? くくりちゃんの好きなメニューでいいよ』
『えっ? 私が選ぶんですか? うーん……そ、それじゃあ、オムライスで』
あくあのトマリギ特製オムライス、美味しいよねぇ。わかるよ!!
スタジオに居る私達は、ここぞとばかりにベリベリのスタッフ達に対して「私たち、僕たちはあくあのオムライスを食べた事があります!」と勝ち誇ったかのような顔をする。
「「「「「ぐぬ、ぐぬぬぬぬ!」」」」」
これ、いいかも。たまには、いつも手のひらで回しているベリベリのスタッフ達にも、悔しい思いをしてもらわないとね。
『あくあ先輩、玉ねぎこんな感じでいいですか?』
『うんうん、上手上手。くくりちゃん、包丁使いも様になってるね』
くくりちゃんはえみり先輩と同じアパートで生活し始めてから、自分で自炊し始めたって言ってたけど、そのおかげで料理もちゃんとできるんだよね。
2人は真横に並んで、仲睦まじく料理を作っていく。
うんうん、いい感じよね。でも、これだけじゃ、いつもあくあがやってる事だし、特に違和感はない気がするんだけど、どうなんだろう?
2人の様子を見ていたえみり先輩は、再びマイクのスイッチをオンにする。
「2人とも、もっとラブ度をあげてください! 白龍先生がラブ度が足りないってブチ切れて、小雛パイセンに噛み付いてます!!」
「えみりちゃん!? 私、そんな事、一言も言ってないし、噛み付いてもないんだけど!?」
えみり先輩の嘘に白龍先生が慌てる。
それを見た小雛ゆかりさんと、イタズラ好きのとあちゃんが乗っかってきた。
「きゃー、いたいー、白龍先生かーまーなーいーでー」
「わー、このままじゃ小雛ゆかりさんが食べられちゃう〜。あくあー、どうにかしてぇ〜」
みんな、本当にノリいいよね。うん。
スピーカーから流れてくるこっちのコントを聞いたあくあが焦ったような顔をする。
『やべぇ、このままじゃ大怪獣ゆかりゴンに白龍先生が食べられちゃう!!』
「なんで私が白龍先生を齧ってる事になってるのよ! ふざけんな!!」
もー、あくあってば、わかってる癖に、わざとそう言ってるでしょ。
ふふっ、やっぱりあくあの周りは面白い人が多いから、退屈しないなぁって思った。
『じゃあ、向こうからのリクエストもあるし、もうちょっとイチャイチャしよっか?』
『えっ? あ……』
あくあはくくりちゃんの後ろに回ると、菜箸を持ったくくりちゃんの手に自分の手を重ねる。
もう片方の手で生卵を持ったあくあは片手で卵を割ると、ボウルの中に入れた生卵を重ねた手で握った菜箸で混ぜ始めた。
あくあはくくりちゃんの耳に吐息がかかる距離で顔を近づける。
普段は表情を誤魔化すのが得意なくくりちゃんも、これには顔を真っ赤にしていた。
うんうんわかるよ。経験者の私は映像見ながら何度も頷く。
「うーん、あくあ様がエどい!」
えみり先輩は手に持ったボタンを叩く。
何それ? エどいボタン? あくあがエどいと思ったらボタン押すの?
うーん、確かにこれはエどいかも。私達もえみり先輩に続いてボタンを押す。
『あくあ先輩……なんか、やたらと手慣れていませんか?』
『ああ、新婚生活の時にカノンとよくこうやって2人で二人羽織するみたいに料理を作ってたんだよ』
ちょっと!? なんでそんな事を番組中にバラしちゃうの!?
えみり先輩は私の顔を見て真顔でボタンを連打する。
「カノン、お前、どすけべすぎんだろ……。私達に内緒で、そんなうらやまイベントを堪能していたのかよ」
「いやいや、私は被害者だからね!? いつも、される方だったもん!!」
そりゃ、その流れで盛り上がっちゃって……って! 何を言わせようとしているのよ。もう!!
「さすがはカノンだ。喋らなくても全部が顔に出てたぞ」
「もおおおおおおおお! これって私をいじる番組じゃないでしょ!!」
ベリベリのスタッフさん達が私の顔を見てニヤニヤする。
絶対にさっきの仕返しでしょ。ふんだ!
2人は無事にオムライスを完成させると、あくあがケチャップでみんなの名前を書く。
『くくりちゃん、せっかくだから俺のはくくりちゃんが書いてよ』
『えっ? こ、この状態でですか……』
あくあはさっきと同じように、くくりちゃんの後ろに回ると、今度は腰に手を回して体を密着させる。
それを見たえみり先輩は真顔で即エどいボタン押し、小雛ゆかりさんは「こいつ、またやってるわ」って呟きながらジト目になり、とあちゃんは顔を隠した両手の指の隙間から恥ずかしそうな顔でモニターを見て、白龍先生は天を見上げなら椅子の上で冷たくなっていた。って、白龍先生、大丈夫ですか!? 死んでないですよね!?
あ、そこ、通路際だから寒いんだ。私のぬくぬくもこもこブランケット貸しますよ。はい、どーぞ。
『わ、わかりました。頑張ります!』
くくりちゃんは両手でケチャップを持つと、ゆっくりと文字を書いていく。
『あっ、あって文字が少しはみ出ちゃった』
『大丈夫大丈夫。そこも可愛いから』
可愛いという言葉にくくりちゃんは顔を赤くする。
真顔になった私とえみり先輩が同時にあくあエどいボタンを押した。
『ふぅ、完成しました』
上手上手。くくりちゃんは緊張していたのか、額の汗を拭うような仕草を見せる。
うーん、これは可愛い!
『本当に? まだ、足りないものがあるんじゃないかな?』
『えっ?』
足りないもの? ちゃんとオムライスには「あくあ」って書いてるけど……。
「やっぱり、あくぽんたんじゃない? 実はこっちがこいつの本名説を私は推してるんだけど」
あくあはケチャップを手に取ると、くくりちゃんの名前が書かれたオムライスにハートマークをつける。
なるほど……そういう事か。
『ね。くくりちゃんは俺にハートマーク、くれないの?』
『あ、え……う、つ、つけます!』
ケチャップを手に取ったくくりちゃんは耳まで真っ赤にしてオムライスにハートマークをつける。
可愛いなぁ。これなら、あくあも好きになっちゃうんじゃない? ……ていうか、あくあが好きにならない女の子なんているのかな?
私はそれ以上その部分を掘りすめたら、番組の存続自体が崩壊しかねないので、深く考えるの辞めた。
楓先輩とえみり先輩も、世の中、深く考えない方がいい事もあるんだって、キリッとした顔で言ってたしね。
「うーん、怪しい」
えみり先輩は腕を組むと、モニターに映った2人を凝視する。
今のシーン、別に怪しいところとかなかったと思うけど……。
「あくあ様の性格を考えたら、終わった後に全員のオムライスにハートマークを書くと思うんだよね。でも、くくりのオムライスにしかハートマーク書いてないですよ」
「確かに。さすがはえみりちゃん。よく見てるわね」
あー、言われてみたら確かに。
最初にくくりちゃんのにだけハートマークを書くのはわかるけど、あくあならその後に全員分のオムライスにハートマーク書くよね。
今回、イベントに参加した2人だけの秘密って考えたら甘酸っぱいし別に不自然ではないけど、あくあなら全員のオムライスにハートマークを書くような気がした。
「これ、ワンチャン。私達に言えてないだけで、2人とも付き合ってたりしません?」
「「「えー!?」」」
えみり先輩の言葉に、私と白龍先生、とあちゃんの3人が驚いたような声を出す。
流石にこれは予想外だったのか、いつもはニヤけてるだけのベリベリスタッフ達も真顔で焦り出した。
「……あるわね。くくりちゃんって華族制度は無くなったけど、まだ無くなって1年も経ってないし立場的には結構面倒くさいんじゃないかしら。反応を見る限り、カノンさんは知らなかったんでしょ?」
私は小雛ゆかりさんの言葉に頷く。
「って考えると、もし2人が付き合ってるなら、まだ、付き合い出してそう日も経ってないと思う。あくあがカノンさんにそういう事を内緒にするわけないし、あいつバカ素直だから、そこは大事な人にちゃんと伝えると思うのよね。でも、いい加減に伝えたりはしないだろうし、相手の立場もあるから、落ち着いて時間取れた時に2人で報告しようって方向で話し会ってたのかも。例えば、次の全国ツアーが終わったあたりとか時間的にも余裕あるわよね。そう考えると、ここ1週間以内、ううん、昨日、今日くらいで付き合い始めたんじゃない?」
小雛ゆかりさんの推測に全員が顔を見合わせる。
まだ、今の状態だけじゃなんとも言えないけど、本当に2人が付き合っているのだとしたらそうかもしれない。
「……ごめん。私、まじで2人に余計な事をしちゃったかも」
えみり先輩が珍しく青ざめたような顔をする。
私はすかさずえみり先輩にフォローを入れた。
「ううん、こればかりは仕方ないよ。だから、えみり先輩が気にする必要はないと思う。それに、もし、2人が付き合ってたとしても、それはいい事なんだから、ね?」
「カノン……お前、やっぱり正妻なんだな。……すぐに嫉妬するくらい、器もあっちも小さくてキツキツだけど」
もおおおおおおおおおおおおおおお!
最後の一言は絶対に余計だったでしょ!!
私は笑顔になったえみり先輩に対してにこりと笑う。
それに、一瞬で場の空気も良くなったし、やっぱりえみり先輩には勝てないな。
「まぁ、そうよね。とりあえずこれも私が勝手に妄想した憶測の域を出ないわけだし、とりあえず2人のことを見守りましょうか」
「うんうん。僕もそれがいいと思う。それに付き合いたてなら、まだ付き合ってない頃とそう変わんないでしょ! だから、こういうイベントで僕たちが2人を盛り上げてあげなきゃ!!」
そうよね。私達はとあちゃんの言葉に頷く。
私達は再びモニターに視線を向けると、楽しそうにオムライスを食べるみんなを微笑ましい気持ちで見つめる。
あれ? そういえば白龍先生の反応がないような……。
白龍先生の存在を思い出した私たちは一斉に白龍先生へと視線を向ける。
「嘘……でしょ……。せっかくみんなをくっつけようとしたら、もう、付き合ってるとか……」
私以外のみんなが椅子から立ち上がると、手に持っていたブランケットを震える白龍先生の体に巻きつけていく。それどころかいつもはふざけているベリベリのスタッフさん達も、白龍先生の体を温めるために小型のヒーターを持ってきた。
先生、大丈夫ですよ。今回ばかりはそれを予測できなかった私たちも全員負けてますから。
「ねぇ、せっかくだから食後のイベントに向けてもう一枚くらい引かない?」
「いいっすね」
えみり先輩は小雛ゆかりさんにカードの入ったボックスを丸ごと渡す。
すると、小雛ゆかりさんは受け取ったボックスをひっくり返して、中身を全部テーブルの上にぶちまけた。
「ちょ!? 小雛パイセン!?」
「ランダムでカード引くなんて焦ったいのよ! 私自らカード選んで、みんなをやらしい感じにしてあげるわ!!」
さすがです。小雛ゆかりさん。
小雛ゆかりさんはテーブルの上に散らばったカードをパパッと確認していく。
「これよ!! はい、えみりちゃん!」
「任せてください!」
小雛ゆかりさんからカードを受け取ったえみり先輩はマイクのスイッチをオンにする。
「あーテステス、食事が終わって、誰があくあ様と洗い物を一緒にするかを決めるために、じゃんけんで盛り上がっている皆さんに朗報です。次のイベントが決まりました!!」
向こうの部屋からスピーカー越しに驚いた声が返ってくる。
小雛ゆかりさんは一体、どういうイベントを選んだんだろう。
「えー、実はこのシェアハウス、なんと露天風呂がついているんですよ」
『『『『『『おー』』』』』』
えっ? 普通にすごくない?
プールもあったけど露天風呂まであるんだ。
「今から皆さんの元にスタッフが行くので、箱の中から封筒を一枚だけ引いてください。その封筒の中に入っている紙に、大怪獣ゆかりゴンのスタンプが押されていたら見事に当選です。当選した方は、あくあ様とのお風呂タイムをお楽しみください!!」
ええっ!? そんな過激なイベント大丈夫なの!?
私はカードを選んだ小雛ゆかりさんへと視線を向ける。
小雛ゆかりさんはレイラさんの件も止めたし、番組で映せない事はやらないと思うんだよね。
「ち・な・み・に! この撮影は音声のみです。脱衣所、並びに露天風呂にはマイクが設置されていますが、カメラは仕掛けてないのでご安心してお風呂にお入りください。た・だ・し! いくら撮影していないからといって、常識的にスッポンポンはダメです! 温泉はバスタオルか水着、どっちかを必ず着用して、そのままの状態でお風呂にお入りください!」
なるほど、それなら大丈夫かも。
女性陣は自らが引いた封筒の口をハサミで切ると、同時に中に入っていた紙を確認した。
『くぅっ! 外れた!!』
『あー、私も外れちゃった』
レイラさんが床を叩いて悔しがると、ヒスイちゃんもしょんぼりした顔をする。
『私もハズレ』
『……私も』
くくりちゃんとハーちゃんの2人はカメラに向かって何も書かれてない白紙の外れくじを見せる。
という事は……。
『わ……私ぃ!?』
当たりを引いた司先生は泡を吹いて倒れそうになる。
それをすかさず背後に回ったあくあがキャッチした。
『先生、嫌だったり恥ずかしかったら無理しなくてもいいんですよ。ほら、お風呂上がりに2人で会話とか……』
あくあの優しい提案に対して、司先生は顔を赤くしながらも首を左右に振る。
『う、ううん。頑張る。せっかく白龍先生が推薦してくれたんだもの。わ……私だって頑張らなきゃ』
「つ……つかさてんてぇ!!」
司先生の見せた決意に、さっきまで冷たくなっていた白龍先生が急に復活する。
「私、1人ではあくあ君に勝てなくても、きっと司先生なら! 司先生ならやってくれる!!」
「いいぞー。その意気だー」
「白龍先生がんばれー」
みんなで白龍先生に合いの手を入れて盛り上げる。
そしてくじで選ばれた2人は、洗い物が終わった後にみんなを残してお風呂場へと向かった。
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