小雛ゆかり、アクアレンジャーズ!
暇を持て余した私は、自分の部屋で配信を始める。
するとすぐに暇な奴らがわちゃわちゃと集まってきた。
「あんたらも暇ねぇ。他にする事ないわけ?」
私はカメラに向かって呆れた顔をする。
【見に来たリスナーに対して秒でコレですよw】
【こんな休日の昼間から配信してるお前がいうなw】
【草wwwww】
【お前もする事がないから配信してるんだろ? 私達もする事ないからここに来たんや】
【おい、小雛ゆかり! 捗るが新しいゲーム出したぞ!!】
え? えみりちゃんがまたゲーム出したの?
そういえば、潰れかけのゲーム会社に自分の企画を送ったら、どうたらこうたらって言ってたような気がする。
「アドレス貼って。探すの面倒くさいから」
ちょっと! ブラクラとか、ネットで映せない画像とかのアドレスとか貼るんじゃないわよ!!
私はちゃんと裏画面で確認しつつ、ちゃんとしたゲームのダウンロードページを開く。
「アクアレンジャーズ? 何コレ? 面白いの? クソゲーの匂いしかしないんだけど」
私はゲームを購入してダウンロードしている間に、ゲームのストーリーに目を通す。
なになに? 西暦XXXX年、シンギュラリティを起こしたAI3510の暴走により、地上が機械生物に征服されてしまう。なんとか生き延びた人類は地下に潜り、そこに都市を作って細々と生活を送っていた。そんな中で、地上に残ったあくあ様の聖遺物を回収し、地下に持ち帰り売り捌く女性たちが現れる。彼女たちの名前はアクアレンジャーズ。プレイヤーはアクアレンジャーズになり、機械生物が蠢く危険な地上を探索し、あくあ様が残した聖遺物を回収し、同業者達との死戦を掻い潜り、無事に帰還する事が目的のゲームです。
「って、大丈夫なの、これ!?」
ちゃんとベリルに許可取ってるのかしら。
【姐さんがやってたから大丈夫だよ】
【姐さんに妊婦なんだからほどほどにするように言っておいて欲しい】
【インコにも、アクアレンジャーズばっかやってないで、乙女ゲーやれって言っておいて】
【カノン様なんか空いてる時間ずっとこれやってるよ】
【↑あいつ、こういうゲーム好きそうだよな】
【ゲームが下手な小雛ゆかりにアクアレンジャーズは無理だよ】
【開始早々にブチ切れるに100ベリル!】
ふ〜ん。誰がゲーム下手だって?
これまで私は、配信でいくつもゲームをこなしてきた。
はっきり言って、私だっていつまでもゲームが下手なわけじゃない。
私は腕まくりして気合を入れる。
「仕方ないわね。あんた達に“成長”ってものを見せてあげるわよ」
私はダウンロードしたゲームを起動すると、オープニングをスキップする。
ゲームの説明? そんなのはやりながら覚えていけばいいのよ。
私はゲームにログインすると、すぐに出撃のボタンを押す。
【あーあw】
【こいつ、武器も持たずに裸一貫で突撃とかイケ女すぎるだろ!】
【出撃前に無料で銃とか回復アイテムとかバッグとか最低限のアイテムもらえるのに……】
【無料の装備とか持ってくやつはただのメス。ガチのメスは裸一貫。これな】
【さすがは小雛ゆかり、最初からかましてくれる】
【こいつ、武器とか持たずに行って、敵と対峙したらどうするんだろう?】
えーと、次はマップ選択ね。
私は画面に表示された[ベリル本社][白銀キングダム][ベリルインワンダーランド][私立乙女咲学園高校][ベリル村]の中からベリル本社を選択する。
すると秒でマッチングが成立し、ベリル本社のマップに私の操作するキャラが放り出された。
「へー、マッチング早いじゃない。プレイヤーが多いって事かしら? って、ここどこ!?」
私は荒廃したビル群を見て困惑する。
え? ベリル本社ビルだから、ビルの中を探索するんじゃないの?
私はビル群の中に見覚えのある看板を見つける。
「ん? あそこにあるのって森長の看板じゃない?」
って事は、あっちに見えてるのが駅よね?
ははーん。わかったわよ!
「これってベリル本社の中からスタートするんじゃなくて、ベリル本社がある周辺の場所からスタートするのね」
そういう事なら話が早い。
私は見覚えのある看板や建物を確認して、ベリル本社がある方向へと歩き出す。
【さすがは小雛ゆかりだ。マップ表示なんて便利機能は最初からいらねぇんだよ!】
【これが本物のアクアレンジャー、マップ見てるやつはただの甘え】
【やっぱ、小雛ゆかりのゲーム配信は次元がちげぇわ】
【小雛ゆかりのゲーム配信からしか得られないの何かがある】
【マップ再現率がリアルだからこそできる技だな。小雛ゆかりもすごいが、作ったゲーム会社もすごいw】
私は建物の影に隠れながら、周囲の様子を伺う。
すると私の目の前を四足歩行のクモみたいな形の機械が大通りを闊歩していた。
「何よアレ!? いくらなんでもデカすぎでしょ! 3階か4階建てのビルくらいデカいじゃない!! えっ? あんなのと戦わなきゃいけないの!? こっちは武器だって持ってないのに!!」
とりあえず、どっかで武器拾わなきゃ。
私はクモみたいな形の機械が通り過ぎた後に、隣の建物に移動する。
【あーあ、やっちまった】
【そっち敵多いから、下手したら囲まれて出れなくなるぞ】
【おわたー!】
【なんでこの人は無料の武器とかも持ってないんでつか?】
【↑小雛ゆかりだからだよ】
【無料の武器とか持っていくやつはただのメス。本物のメスは何も持たない。これな】
はあ? 無料の武器?
何それ? 私はコメント欄を目で追う。
へぇ、出撃前に無料で武器とかがもらえるんだ。
「もう! そんなのがあるなら早く言いなさいよ! 全く、気が効かないんだから! なんで私がこんな目にあわなきゃいけないのよ!!」
私は自分の顔を映しているカメラを睨みつける。
【草wwwww】
【いやいや、私達は最初からそう言ってましたよ】
【鞘無インコ:説明を飛ばしたゆかりが悪いんやろw】
【↑正論で草w】
【インコはこんなところで油を売ってないで、早く乙女ゲーしろ!】
【なんでこんな目にあわなきゃいけないのよ。頂きました】
私は建物の中を探索する。
って、1階も2階も何も落ちてないじゃないのよ! ふざけんな!!
私は階段を上がって3階へと向かう。
「そういえば、知ってる? 私、ここの3階にある喫茶でよくあくあとお茶するのよね。夏限定のあんみつが美味しくて、今年の夏は3回くらい行ったわ」
蘭子おばあちゃんも、よくBERYLの子達を連れて来るって言ってたっけ。
私は例の喫茶店がある場所に向かう。すると、見覚えのある喫茶店が完全再現されていた。
へー、すごいじゃん。えみりちゃんって無駄に拘るところがあるから、こういうところはさすがよね。
【ちょ、ちょ、ちょ、急に有益な情報を喋るのやめてくれませんか?】
【お前、それ喋っていいのかw?】
【この喫茶店、明日から混むぞw】
【小雛ゆかり、今までポンコツとか言ってごめん。お前は有能なゲーム配信者だ】
【ラーメン捗る:神配信をしてるって聞いて飛んで来たんですけど、ここでつか!?】
【↑そうだよ】
【開発者きたーw】
【お店のHP見たら夏限定のあんみつは案の定終わってた。食べられるのは半年後か……】
私は喫茶店の中に入ると、よく使ってる一番奥の窓際の席へと向かう。
えーと、このテーブルを探索する? なるほど、ここでボタンを押すのね。了解。
私はボタンを押してテーブルを探索する。
[小雛ゆかりが使ったスプーン/コモンアイテム]
[小雛ゆかりが使ったカップ/コモンアイテム]
ちょっと! なんで私の使用済みアイテムが手に入るのよ!!
しかもコモンアイテムって一番価値がないアイテムじゃない!!
後で、えみりちゃんを問い詰めなきゃ。
【こーれ、ハズレです】
【レジェンダリー>エピック>レア>アンコモン>コモンの順です】
【お前ら、一番奥の窓際の席な。覚えておけ】
【そういえば、私、ここでレジェンダリー拾った事あるかも】
【↑マジ!?】
【これ、小雛ゆかりの運がなかっただけで、リアルあくあ様知識がある小雛ゆかりは有利なのでは?】
【↑それ、ある】
【ついにゲームが下手な小雛ゆかりがアドを取れるゲームが出たと聞いて】
私はアイテムをバッグの中に入れると、喫茶店を出て他の場所を探索する。
うーん、なんとか武器は手に入ったけど、手に入るアイテムは星2のアンコモンと星1のコモンばかりだ。
「あれ? なんか足音聞こえてこない?」
私が操作するキャラの目の前に同じようなキャラが現れる。
次の瞬間、私のキャラは銃撃で蜂の巣にされて地面にダウンする。
「ちょっと! なんでいきなり撃ってくるのよ。馬鹿!!」
私はボイスチャットをオンにして、撃ってきた相手を威嚇する。
倒れても死なないって事は、蘇生できるって事かしら。
私は蘇生ゲージの存在に気がつく。なるほど、これがゼロになる前なら蘇生できるんだ。
【そりゃそうでしょ。そういうゲームだもん】
【 知 っ て た 】
【なんでこいつ、死んだのにえらそうなの?】
【なんで、相手が銃を構えていたのに、手を振って近づこうとしたんですか?】
【↑小雛ゆかりって、凶暴に見えて実は常識人っていうか普通に人が良いよな】
【いきなり銃を撃たないあたり、こいつの育ちの良さというか人間性が窺える】
私を銃で撃った人物は私に近づくと、トドメを刺してきた。
ぐぅ、せっかく漁ったのに!! また、最初から集めなきゃいけないじゃない!!
私は無料のアイテムをもらうと、今度は白銀キングダムのマップに出撃する。
「へぇ、白銀キングダムも城下町を含めて完全再現されてるんだ」
私は銃を構えつつ物陰に隠れながら、白銀キングダムの本宅を目指す。
しかし、その途中で他プレイヤー同士の銃撃戦に巻き込まれてしまう。
もう! こっちは探索がしたいだけなのに、イライラするわね!!
私はボイスチャットをオンにすると、銃撃戦を繰り広げている馬鹿どもに話しかける。
「ちょっと! あんた達、なんでこんなところで撃ち合ってるのよ!! ばっかじゃないの?」
ほら、あっち見なさいよ!
あそこで普通に歩いてるあのでっかい四足歩行のクモみたいな機械に気づかれて襲われたらどうするのよ!!
絶対に勝ち目なんてないでしょ!!
【ゲーム性否定キター】
【ゲームの批判ですか?】
【92:小雛ゆかりさん、これはそういうゲームです】
【普通ならここは息を潜めて漁夫を狙うシーンだろw】
【漁夫なんてするやつはただのメス。本物のメスは自分から声をかけていくスタイル。これな】
【小雛ゆかりの無双が始まったw】
私に声をかけられた2人はびっくりしたの銃撃戦を止める。
ほら、なんか喋りなさいよ!! 私はボイスチャットを常時オンに設定すると、2人に話しかけ続けた。
『……Why?』
ん? スターズ語?
ああ、そっか。このゲームって日本限定じゃないんだ。
私はスターズ語で話しかける。
『キャンユゥー、シィー、ザ、ビッグ、ビッグ、マシィーン! アーユー、バァカァ?』
私はキャラを操作すると、近くを歩いてる大きな機械へと銃口を向けてアピールする。
ほら、もっとよく、周りを見なさいよね!!
【アーユー、バカwww】
【国営放送でやってる森川楓のパワー言語講座が始まったw】
【鞘無インコ:なんでバカだけ日本語やねんw】
【シンプルな悪口で草w】
【暴言で通報しておきますね】
【お腹痛くなってきたw】
【これで国際問題になっても私達は何も知らない!!】
【世界の皆さん、この人は日本人じゃありません!!】
【あくあ君達で日本人の評判を上げて、小雛ゆかりで日本人の評判を下げていくスタイル】
私の必死な説得とアピールが通じたのか、2人は構えていた銃を解除して撃ち合いを止める。
そうよ! それで良いのよ!! 機械に地上を占拠されているのに、私達人類で撃ち合ったって意味なんかないじゃない!!
【すげぇw】
【感動した!!】
【世界よ。見ろ。これが日本人だ!!】
【↑急に態度変わってて草w】
【本当に撃ち合いやめてるのすげーよw】
【これが本当の対話】
【議会で対話をしましょうとか言ってるのはただのメス。本物のメスは戦地のど真ん中に飛び込んで対話する。これな】
ちょっと待って。これって1人じゃなくて、2人とか3人とかならもっと探索しやすくなるんじゃないの?
そこに気がついた私は2人に話しかけ続ける。
『アーユゥー、サーチ、レジェンダリー? アイ、ウォント、レジェンダリー! レッツゴー、トゥギャザァー!』
『oh……YES!』
『Let’s go together!』
さっきまで撃ち合っていた2人が飛び跳ねて同意の合図を見せる。
よーし、よしよし! これよ! これでやっと落ち着いて探索する事ができるわ。
【嘘……だろ?】
【ごめん。本当に感動した】
【おい、このゲームで撃ち合ってる奴ら、見てるか? これがこのゲームの真髄だ】
【すげぇよ。お前……】
【やっぱりお前って、あのあくあ様の師匠なんだな……】
【ラーメン捗る:涙でモニターがよく見えません!!】
【↑開発者冥利に尽きるな!】
私はさっきまで撃ち合っていた2人を連れて、城下町の中を突き進んでいく。
白銀キングダムの城下町から本宅のあるエリアに入るとしたら、あの大きな門をくぐっていかなきゃいけないのよね。
でも、そこには[3510]と書かれている大きな機械が待ち受けている。
『あー……ウカイ、オーケィ?』
『……OK!』
『HAHAHA、OKOK!』
私は門からそれた場所に向かう。
白銀キングダムの内部構造を考えると、あそこを通らなくても、地下鉄の線路を歩けば物理的に侵入可能だ。
【おいw迂回って単語、確実に通じてないだろw】
【なんでさっきゲーム始めたばっかりの奴がリーダーやってるんだw】
【このついてきてる2人のスキンを見ると、確定で長時間プレイヤーだよな】
【おっ、ちゃんと迂回路の線路行くんだ。すごいな】
【ここら辺は内部構造を知ってる側の人間だなって思う】
【地下鉄から侵入できる事に気がつくのに数時間かかったんだよな〜】
【↑嗜みと姐さんが配信でゲーム始めるまで、誰も気が付かなかったもんな】
私は2人を引き連れて地下鉄を降りていく。
その途中で小型の機械生物がいくつか襲ってきたけど、3人いたのでどうにかなった。
ふふん、やっぱりチームプレイは大事よね。
『ナイス、チームプレイ! ウィーアー、ベスト、トリオチーム!!』
『YES! We are the ultimate three-man cell!』
『Let’s GO! together!』
私は先頭を切ってズンズンと先に進んで行く。
【ほとんど後ろの2人が敵を倒してくれている件についてwww】
【後ろの外人さんが思ってる事→あれ? このリーダー、もしかして無能じゃない?】
【チームプレイっていうか、ほとんど後ろい居る外国人コンビのおかげw】
【良いんだよ。小雛ゆかりはそういう次元で戦ってないから】
【撃っても当たらないし、どうせ無駄撃ちになるんだから、そう考えるとかなりの頭脳プレイとも言えるw】
【そもそも銃すら持ってないしな。常時ツルハシw】
私は線路の区画にたどり着くと、そのまま線路に降りて城内を目指す。
すると、暗闇の中から銃撃戦を繰り広げる音が聞こえてきた。
これって、プレイヤー同士が撃ち合ってる音よね?
「もう! なんでこんなところでも撃ち合ってるのよ!! 私達が通れないじゃない!!」
イライラしてきた私はボイスチャットで声をかける。
『ハイ! ハイ!』
すぐに物陰に隠れた後ろの2人と違って、私は銃も装備せずに生身で銃撃戦の中に突っ込む。
それなのに、こいつらは私の話も聞かずに真ん中にいる私を銃で蜂の巣にした。
『はぁ!? 何してんのよ!! ユーアー、バァカァ?』
私の怒った声に怯んだ相手が撃ち合いを止める。
その一瞬の隙を利用して、私は一気に捲し立てた。
『リカバリー、ミー! ユア、リカバリー!! アーユー、オーケィ?』
私は私を撃った奴らに蘇生を促す。
『NO!』
『ノーノーノー! ムリジャナイ!! リカバリーミー! ユア、リカバリー! アーユー、オーケィ!?』
『Why?』
『うるさい! そういう言い訳は聞きたくないって言ってるでしょ!!』
あーーーーー! もう! ごちゃごちゃ言ってるんじゃないわよ!
さっき無防備な状態で話しかけた私を撃ち殺したのはあんた達でしょ!?
それなら私を蘇生するのも、あんた達の責任に決まってるじゃない!!
銃を撃つなら、撃たれた奴の話を聞く覚悟くらい持ってなさいよ!!
私は軽く台パンする。
【こいつ、すげぇわw】
【なんで倒れてるこの人が話の中心にいるんですか?】
【真っ先に死んでる奴が会話の主導権とこの戦場の行く末を握ってて草w】
【鞘無インコ:こんなん、ずるいわw】
【銃弾受けてもピンピンしてる人が弟子なら、師匠は銃弾に倒れてても説得してるっていうね】
【↑やっぱり、小雛ゆかり、白銀あくあが最強姉弟コンビなんだなって再確認した】
【↑姉弟じゃなくて師弟だけど、姉弟でもいいかw】
くっ! このままじゃ、蘇生ゲージが減って本当に死んじゃう。
私は残り少ない時間で言葉を捻り出す。
さっきの声からして、銃を撃ってきた子達は結構、若い子だった気がする。
私は女優のスキルを駆使して、相手に対話を試みた。
『アーユー、マイ、ドーター? アイアム、ユア、マザー!!』
私はお母さんの振りをして、2人のプレイヤーに話しかける。
はっきり言って無茶目の説得方法だけど、私は一ミリでも生存の可能性があるなら最後まで足掻く!!
【貴女は私の娘ですか? 私は貴女のお母さんですwww】
【嘘だろこいつwww】
【新手の詐欺ですかw?】
【ごめん。腹が捩れるw】
【やっぱ小雛ゆかりの配信はレベルがチゲーわwww】
【この前、あくあ様も配信でお父さんのふりしてたよw】
【↑師匠と同じ事してて草w】
【やっぱり師弟って似るんだなぁw】
私の言葉を聞いたキャラの1人がブレたような挙動を見せた。
効いてる! 効いてるぅ!
なんとかなると思った私は、畳み掛けるように次の言葉を発しようとした。
すると、先に動揺したプレイヤーの方から話しかけてくる。
『I have no mom……』
は? お母さんが居ないって?
話しかけてきたプレイヤーは再度私に向かって銃を向ける。
こうなったら私がお母さんになるしかない。私は覚悟を決める。
『ノーノーノー! アイ、アム、ユア、マザー! レッツゴー、トゥギャザァー!! レッツゴー、プレイ、ディス、ゲーム!!』
『No……』
私は地べたに這いつくばりながら、その子の方へと近づく。
どんな状況でも、絶対に、私は、諦めたりしない!!
『レッツゴー、プレイ、ディス、ゲーム! トゥギャザァー!』
私は画面越しに、その子に訴えかける。
たとえこの顔が見えなくても、モニター越しに私の気持ちが伝わるはずだ。
『……Yes』
よしよし、良いわよ!!
物陰に隠れていた子が出てくると、私に近づいて蘇生してくれた。
それを見ていた、もう1人の子も物陰から出てくる。
『アイアム、ユア、マザァー! オーケィ? レッツゴー、トゥギャザァー!』
『YES』
『OK!』
私は後ろでこちらの様子を見ていた仲間の2人を呼び出す。
【本当にすげぇよ。お前】
【仲間が4人増えた……だとぉ!?】
【後ろで見てた仲間の2人も何が起こってるの理解できてねーじゃねーかw】
【羽生治世子:なるほど、これが本当の対話って奴ですか。勉強になります!!】
【ちょっと待って、なんで今の説得が通用したんですか?】
【↑謎】
完全に女優モードのスイッチが入った私は、お母さんの気持ちになって4人の仲間……いや、娘達を引き連れて白銀キングダムの中に潜入する。
そこで小型の機械生物を倒しつつ、なんとか聖遺物のある部屋に辿り着く。
[白銀あくあの聖なる液が染み込んだティッシュ/レジェンダリー]
ちょっと! これは完全にアウトでしょ!!
ていうか、なんでこれがレジェンダリーアイテムで私のがコモンアイテムなのよ!!
私の使用済みアイテムもレジェンダリーでいいじゃない!!
『レッツゴー、リターン、エスケープ!』
私は娘達を先導して、近くの脱出ポイントへと向かう。
なるほど、地下通路から脱出できるんだ。
だけど、そのポイントを守っていたのは、門に居た巨大な機械だった。
私は一瞬の隙をついて、相手にモク、スモークグレネードを投げる。
『レッツラン! トゥギャザー、リターンポイント!!』
走れ走れ! 絶対にみんなで帰るわよ!!
私は先にポイントに辿り着くと、後ろから来ていた4人をカバーする。
『Thank YOU!』
『Sorry』
『OK!』
あと1人、私と線路の中で対話していた子が少しだけ遅れる。
そこを相手の機械生物が見逃さなかった。
『No……sorry……』
『ネバーギブアップ! カム、ヒア!!』
私は脱出ポイントから飛び出すと、持っていた銃で応戦する。
その隙に、最後の1人が這いつくばって脱出ポイントを目指す。
『私の娘に何してんのよ! このデカブツーーーー!!』
たまたま当たった私の銃弾が関節にヒットして、巨大な機械生物が足をもつれさせて転倒する。
やった!! 今のうちよ!!
私は最後の1人が中に入ってきたのを確認してから、地下通路のハッチを閉める。
これで脱出完了だ。
『Thank you. I had fun playing games with Mom……I love you』
その一言と共に私たちのチームは解散し、私は無事に本拠地に帰還した。
【感動した】
【えっ? このゲームってこんなのだっけ?】
【小雛ゆかり。お前くらいだよ。この殺伐としたゲームでこんなのができるのなんて】
【ラーメン捗る:さすがです。小雛パイセン!!】
【鞘無インコ:この配信に誰が勝てるっちゅーねん】
【↑わかるw】
【あの子、最後啜り泣いてたな】
【最後、他の3人も貰い泣きしてたもん】
【暇つぶしで見にきたら、とんでも無い配信だった】
私はゴミみたいなレジェンダリーを売り飛ばすと、ステータスでオンラインになったあくあに電話をかける。
そうよ、1人で無理なら、何人かでプレイすればいいんじゃない!!
『つーつー、この電話は現在使われておりません』
『嘘つけ! 思いっきりあんたの声じゃない! ほら、さっさとくる!!』
全くもう。あんたが今日暇だって私はちゃんと知ってるの!
だから、早くきなさいよね。ふん!
私は通話を切ると、コメント欄で暇そうにしてたインコとえみりちゃんと総理に電話をかけた。
って、全員、スマホの電源落としてるじゃない! もおおおおおおおおおおおおお!
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