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白銀あくあ、水族館デート。

 慎太郎が留学のためにアラビア半島連邦へと旅立った。

 最近のアラビア半島連邦は昨今の世界情勢を鑑みて、奴隷に近い男性の扱いを改善するための政策をシャムス陛下の肝入りで推し進めているらしい。

 閉鎖的だと言われていたアラビア半島連邦への慎太郎の留学がすんなりと認められたのも、こういう背景があったからだと聞いた。


「慎太郎、今頃アラビア美女達とイチャイチャしてんのかなぁ……」


 俺は空を見上げながらそんな事を考える。

 いや、うん。真面目な慎太郎に限ってそれはないか……。


「あ〜、俺も誰かとイチャイチャしたいな〜」

「えっ?」


 俺は声に反応して顔を上げる。

 すると制服姿のくくりちゃんがびっくりした顔で立っていた。

 俺は体を起こすと、偶然居合わせたくくりちゃんに声をかける。


「くくりちゃん、今、暇?」

「あ、はい。暇……というわけではありませんが、特にこれといった予定はありません」


 それって誘ってオッケーって事だ。


「じゃあ、くくりちゃん。俺とデートしようぜ」

「で、デートですか? あ……はい。私でよろしければ……」


 よしっ! 俺もたまにはわけー子とイチャイチャしたかったんだ。

 とはいえ、一歳しか違わないけどな!

 俺はくくりちゃんと一緒にタクシーに乗ると2人で水族館に向かう。


「あくあ先輩、なんで水族館なんですか?」

「ん? いや、なんとなくデートらしい場所でイチャイチャするなら水族館か動物園、それかテーマパークかなと……。あ、くくりちゃん、他のところが良かった?」


 くくりちゃんは首を左右に振る。


「い、いえ……普通に嬉しいです。でも、デートならもう少しオシャレしてきても良かったかなとか、えっと、えっと……」


 頬をピンク色に染めたくくりちゃんは、少し恥ずかしそうなそぶりを見せる。

 確かにデート服を着たくくりちゃんはさぞかし可愛かっただろう。

 でも、制服もデート服と負けないくらいの良さがある。


「それじゃあ、それはまた今度で。今日はせっかくだから制服デートを楽しもっか。ほら、放課後デートみたいで良くない?」

「は、はい! すごくいいです! えへへ……あくあ先輩と放課後デート……」


 くくりちゃんは可愛いなぁ。これが恋人同士ならぎゅっと抱きしめるシーンなのになぁ。

 俺はダメ元でくくりちゃんに提案してみる。


「ねぇ、くくりちゃん。せっかくのデートだから、今日は恋人気分でやってみない?」

「えっ? あ、あくあ先輩と恋人ですか!? あ……う、はい……よろしくお願いします」


 くくりちゃんは耳まで顔を赤くする。

 よし! 許可も取った事だし、遠慮する必要はないな!!

 俺はくくりちゃんの体を抱き寄せると、ぎゅっと優しく抱きしめた。


「あ、あくあ先輩!?」


 俺にハグされたくくりちゃんが慌てたような素振りを見せる。

 あ〜、やっぱり年下とのデートはいいなぁ。心が癒される。


「ほら、今日は恋人同士って約束でしょ? 俺と恋人同士になったら、30秒に1回くらいはハグするから覚悟しておいてね」

「は……はい……」


 嘘です。30秒に1回? 本当は3秒に1回だ!!

 30秒に一回はキスだな。つまり一分間で2回。1時間のデートで120回のキスは覚悟してほしい。

 いや、流石の俺もそれは無理だ。すみません。盛りました!!


「それじゃあ、いこっか」


 俺はくくりちゃんから体を離すと、彼女に向かって手を差し伸べる。

 くくりちゃんは俺の顔と手の間で視線を右往左往させると、ゆっくりと俺の手を掴んだ。


「くっ、なんて初々しいデートなんだ!」

「しっ! くくり様とあくあ様のデートを邪魔しちゃダメだ!」

「そうだ。お前ら、気配を消せ!!」

「私は今日から水族館の壁になりました!!」


 俺はくくりちゃんの手を引くと、カウンターで水族館のチケットを2枚購入する。


「わっ、あくあ先輩。ここ、水中トンネルみたいになってますよ」

「おお、すごいな!!」


 俺はトンネルの周りを泳ぐ大きなエイへと手を伸ばす。

 すると、エイが壁に近づいてきて俺の指先に頭を擦らせようとする。

 おお、こいつ、すごくサービス精神に溢れたエイだな。


「おい、良く見ろ。ここのエイ、なんちゃらのオトメエイって書いてあるぞ」

「えっ? オトメノタシナミエイ?」

「こいつ、良くみたら嗜みがホゲった時みたいな顔してるな。写真に撮って掲示板にあげたろ!」

「おい誰だよ。早速、掲示板でお前の旦那様がわけー女と浮気してるぞって嗜みに報告してるやつは。いくら嗜み弄りが辞められないからって、掲示板民の悪い癖が出てるぞ!」


 おー、みんな。このエイを撮ってるな。

 俺も写真撮って、あとでカノン達に見せてやろ!


「ほら、くくりちゃん。こっちみて」

「えっ? あ……」


 俺はその流れで水中トンネルに居るくくりちゃんの写真を撮る。

 いいね。このアングル。まるで水中の中にいるみたいだ。


「あくあ先輩、その……写真撮った時に、変な顔をしていたりとか、目を瞑っていたりとかしていませんでしたか?」

「大丈夫。人魚姫にだって負けないくらい綺麗だったよ」


 俺は照れたくくりちゃんの腰に手を回すと、そっと彼女の身体を抱き寄せる。

 せっかくだから、一緒に自撮り写真も撮っておくか。俺はくくりちゃんと頬を寄せると、パシャリとシャッターのボタンを押した。


「あくあ先輩、その写真、あとでもらえますか?」

「いいよ。ほら」


 俺はその場でくくりちゃんに写真をメッセージで送る。

 その画像を見たくくりちゃんは嬉しそうな顔でスマートフォンを抱きしめた。


「ほら、次はあっちに行こっか」

「はい」


 暗い部屋の中に足を踏みれると、ライティングされた円柱型の水槽にいくつものクラゲが漂っていた。


「すごく幻想的ですね」

「ああ、こうやって見るとクラゲって綺麗だよな」


 この円柱型の水槽越しにくくりちゃんの写真を撮ったら写真映えするんじゃないかと思った俺は、スマートフォンを撮り出して反対側に居るくくりちゃんの写真を撮る。

 すると、くくりちゃんを撮影する俺の姿をくくりちゃんも同じように撮影していた。


「はは、お互いに写真を撮りあってるところを撮っちゃったな。撮り直す?」

「い、いえ。私を撮ってるあくあ先輩と、あくあ先輩を撮ってる私の写真が対になってるみたいで、これはこれですごくいいかなって思います」


 くくりちゃんはお互いスマートフォンに映った写真を見て嬉しそうな顔をする。

 俺は自然とくくりちゃんの頭の上に手を置くと、軽くポンポンした。


「おい、もう口の中が甘くて耐えれねぇよ!」

「静かにしろ! いいか、私達はただのクラゲだ!!」

「2人を邪魔しないようにチラチラとデートを観察しつつ、この中を漂っていようぜ」

「くくりちゃん様がんばって!」


 俺達はクラゲが展示されたアートな空間を抜けると、魚を展示してある水槽のエリアに出る。

 へぇ、いくつかのテーマに分けて、いろんな魚が展示されているみたいだ。

 俺たちは勉強を兼ねて、一つずつ説明文を読みながら水槽を見ていく。


「おいおいおい、あくたんの生音声ガイド付きだと!?」

「今日、来て、本当に良かった……」

「あくあ君の音声ガイドを売ったら、一気に収益黒字になりそう」

「それ、あり。せっかくなら赤字が多い動物園とかでもやってほしいわ」


 ん? 俺はその中の一つの水槽の前で立ち止まると、くくりちゃんに向かってニヤけた笑顔を見せた。

 すると、それに気がついたくくりちゃんが俺の顔を見て少しだけ戸惑うような表情を見せる。


「あくあ先輩……? どうかしたんですか?」


 俺は水槽の中にいる魚に手のひらを向ける。


「なんと! この子、アカククリって言うらしいよ」

「あっ、そうなんですね」


 くくりちゃんは水槽の中を覗き込むと、嬉しそうな顔をする。


「ふふっ、ぼっちじゃないんですね。みんな揃って行動してて、いいなって思いました」


 そういえばくくりちゃんって、小雛先輩主催のぼっち会の一員なんだよな。

 俺はくくりちゃんの体をギュッと抱きしめると、くくりちゃんは独りじゃないよと耳元で囁いた。


「あ……ありがとうございます」


 くくりちゃんは少し照れながらも、俺の体をギュッと抱きしめ返してくれた。

 1Aのスパイをお願いしているヒスイちゃんに話を聞いたところ、文化祭以降はくくりちゃんも音さんもクラスに馴染んで談笑したり、放課後に遊びに行ったりする事が増えたらしい。

 俺はその話を聞いた時、普通に嬉しくなった。

 せっかく高校に入ったんだから、立場やそれまでの経緯とかに関係なく、2人には学校生活を楽しんで貰いたいと思っていたからだ。

 それにしても、やっぱり乙女咲はいいな。俺も子供が大きくなったら乙女咲を勧めよう。

 いや……乙女咲は男女共学だ!! 息子のかのあならいいけど、娘達には俺みたいな変な虫がつかないようにメアリーのような淑女達が通う女子学校に通わせないと!! ぐぬぬぬぬ!!


「くっそぉ、2人のデートを見てたら、チンアナゴを見てクソほど喜んでる自分が悲しくなってきたぜ」

「仕方ないよ。掲示板民なら誰しもがチンアナゴに反応するよな。だってチンアナゴだぜ?」

「しかもこのチンアナゴ、よく見たら、だんだんチンスキに見えてきたぞ。私だけか?」

「せっかくだから写真撮って、掲示板にチンスキを水族館で見つけたぞって投稿しといてやろ」


 俺とくくりちゃんは手を繋いで水槽のエリアから出ると、イルカショーが行われてる場所へと向かう。

 おー、すごいな。プロジェクションマッピングやLEDライトを使ったデジタルアートみたいなイルカショーを見た俺とくくりちゃんは歓声をあげて楽しむ。


「そういえば、前にえみりお姉ちゃんがイルカショーのアルバイトしてたって言ってたような……」

「へぇ、そうなんだ」


 えみりは一体、幾つバイトをした経験があるんだろう。

 純粋にすごいと言うか、よく体が持つなと思った。身体の頑丈さでいえば俺以上かもしれない。

 イルカショーを堪能した俺とくくりちゃんは、ペンギンやアザラシ、カワウソなどを見る区画に足を踏み入れる。


「こういうのっていつまでも見ていられるよな」

「わかります!」


 俺とくくりちゃんは、ペンギンやアザラシ、カワウソ達に癒されるとグッズショップに向かう。

 せっかくだからなんか記念に買おうかな。

 俺はグッズショップに置いてあったとあるものを見つけて目を輝かせる。

 こ、これだぁ!! 俺はそれを手に取ると、頭にすっぽりと被った。


「くくりちゃん、見て見て!」

「え? ……って、あくあ先輩、それ、なんですか? ぷぷぷ」


 サメの被り物を頭に装着した俺を見てくくりちゃんは笑い声を上げる。

 よーし、これなら大怪獣ゆかりゴンのフードを被った小雛先輩にも対抗できるぞ!! って、思ってたんだけど、くくりちゃんの反応が思っていたのと違う。なんでだ?


「あくあ先輩、それじゃあサメの口から顔を出してるみたいで、今まさに食べられているように見えますよ」

「あ、本当だ」


 鏡を見た俺は、サメ映画に出てくる今まさに食べられる人の顔のモノマネをする。

 するとグッズショップで働いて居るお姉さん達や、周囲にいたお客さん達が一斉に吹き出す。


「あ、あくあ先輩。なんでそんな細かいモノマネが上手いんですか? ふふっ、だめ。笑うのが我慢できません」


 くくりちゃんはお腹を抱えて笑い出す。

 はは、思っていた反応とは違ったけど、笑ってくれたのならそれで良しとする!

 ちなみに俺がこんなに細かいモノマネが得意なのは、年末の細かいモノマネ王選手権で優勝を狙っているからだ。


「とりあえず、これ買うわ。くくりちゃんも何か欲しいものあった? 今日のデートのお礼に、俺からなんかプレゼントさせてよ」

「えっと、それじゃあ……これで」


 おっ、マンタのぬいぐるみじゃん。せっかくなら、そんな小さいのより一番でかいの買おうぜ!!

 俺はサメの被り物と一緒に、特大サイズのマンタのぬいぐるみを購入する。


「ありがとうございます。でも、こんなに大きいのいいんですか?」


 俺はくくりちゃんの言葉に頷く。

 くくりちゃんは俺に気を遣って小さいのを手に取ったけど、一瞬だけ大きい方をチラッて見てたのを俺はちゃんと見ている。


「これを体の下に敷いてゴロゴロしたら、絶対いいと思うんだよね。帰ったらやってみてよ」

「はい! 私も同じことを考えてました。ゴロゴロしながら本を読む時にいいなって」


 俺とくくりちゃんはお互いに顔を見合わせるとにっこりと微笑みあう。

 さてと、楽しかったデートの時間もこれで終わりか。

 俺は水族館の出口でずっと繋いでいた手を離す。


「くくりちゃん、今日は俺のわがままに付き合ってくれてありがとね」

「いえ、そんな……。私も楽しかったので、むしろ私があくあ先輩にお礼を言いたいくらいです」


 俺は自然とくくりちゃんの頭に手を伸ばすと、頭を撫でる直前にピタリと手の動きを止める。

 あっぶね。恋人期間は終わったのに、普通に頭を撫でようとしちゃった。

 それを見たくくりちゃんがどうしたんだろう? って顔で俺を見つめる。

 俺は少しバツが悪いながらも、伸ばしていた手を引っ込めた。


「ごめん。ここから先は恋人になってからね」


 くくりちゃんは俺の言葉を聞いて少しだけ目を伏せる。


「おいおいおい、もう恋人でいいだろ!!」

「その流れのままいけーっ! おせーっ! 押し倒すんだ、くくりちゃん様!!」

「私はもう泊まって居るほぼ隣にあるホテルの鍵を渡す覚悟はできている。というか使ってくダセェ!!」

「さすがは掲示板民だ。昨日今日、あくあ様を知ったばかりのテロリストと違って覚悟の決まり方が違う」


 うぉっ!? 周りに居たお姉さん達が一斉に無言で壁を殴りだす。

 みなさんどうしたんですか!? って、スタッフのお姉さん達まで壁を殴ってる。何かのイベントか!?

 そんなイベント聞いた事がないけど、俺が本気で水族館の壁を殴ると水族館を破壊しかねないから、壁を殴るのはやめておこう。


「あくあ先輩……」


 俺の手を掴んだくくりちゃんは、ゆっくりと顔をあげる。


「……さっき、あくあ先輩のわがままを聞いたから、今度は私のわがままを聞いてもらえますか?」

「もちろん」


 俺はくくりちゃんの言葉に力強く頷く。


「それじゃあ、この後、私とデートしてもらえませんか?」

「えっ?」


 この後って、今からって事!?

 いや、まぁ、今日は完全休養日だから時間あるけど……えっ? 今から!?

 くくりちゃんは少ししょんぼりした顔で、俺の顔を見つめる。


「だめ……ですか?」

「ダメじゃない!」


 俺は一瞬でもくくりちゃんを悲しませてしまった自分を殴り飛ばしそうになった。


「いいよ。それじゃあ、今からデートしようか」

「はい!」


 くくりちゃんは俺に向かって笑顔を見せる。

 そうして俺とくくりちゃんは、その日、二度目のデートをすることになった。

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