表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/723

白銀あくあ、自らを振り返る。

本日の更新は2度あります。

 起きたら熱が下がっていたので、俺は改めてリビングで話を聞くことにした。

 俺は軽く体を拭いて着替えてからリビングに行こうと思ってたら、ペゴニアさんがとんでも無いことを提案する。


「殿下、白銀様が体を拭かれるの手伝ってあげてはどうでしょう?」

「ふへっ?」


 もちろん俺は鉄の意志で断った。

 王女であるカノンにそんな不敬なことを頼むなんて、普通に考えてできるわけがない。それこそ、下手したら俺、捕まっちゃうんじゃないか? ペゴニアさんも良く考えてから発言してほしい。

 カノンなんて顔を真っ赤にしてたし、あんな男の体も見たことのないような無垢な女の子に、そんな事を提案しちゃダメだろう。もしかしてペゴニアさんは、カノンが王女殿下だってこと忘れてる?


「仕方ありません、僭越ながら私が……って、白銀様?」


 俺はペゴニアさんの背中を押して、2人を部屋から追い出す。

 さっきのやりとりだけで、せっかく治りかけた風邪がぶり返しそうになった。

 軽くデオドラントシートで体を拭いた俺は、簡単な服に着替える。


「お待たせしました」


 リビングに戻ると、らぴすも居たので改めて4人で話を聞く。

 らぴすは電話や回覧板の対応があって、席を外していたらしい。

 俺は改めて、らぴすにありがとうと言っておいた。


「なるほど、そういうわけでしたか……」


 俺は訪ねてきたカノンの話を聞いて納得する。


「すみません。あくあ様がこのような状況の時にお訪ねしてしまって」

「いえ、大丈夫です。そういえば阿古さんから、近いうちにスターズの方からそのことについてお話があるかもしれないって事前に聞いていましたから」


 阿古さん曰く、スターズから勲章をいただけるという事はとても名誉な事らしい。

 改めて話を聞くと、この国の人間でもそれを持っている人はわずかな人だけしかいないそうで、そんなすごい勲章を本当に俺なんかがもらってもいいのかと思った。


「授与式には、ご家族の参列も許可されますし、正装での授与式は本当に滅多にないことなので、きっとご家族の方もお喜びになられると思いますよ」


 俺は家族が喜んでくれるなら受けてもいいのかなと思った。

 隣に座ったらぴすとも話をしたが、らぴすも喜んでいたし、それならばと思う。


「わかりました。そのお話をお受けしたいと思います」

「それではお受けしていただくという事でお話を進めておきます。ふふっ、それにしてもあくあ様は、ご家族の方をとても大事にしていらっしゃるのですね」


 カノンはらぴすの方を見て、聖女のような微笑みを見せる。

 俺は逆にカノンの言葉がチクリと胸に刺さってしまった。

 だからなのだろうか? 俺はカノンの言葉に対して思わず口を開いてしまう。


「果たして本当にそうなのでしょうか……俺はむしろ無茶をすることが多くて、家族にはむしろ迷惑をかけることの方が多いかもしれません」


 少し弱気になってしまっているのだろうか。

 俺はカノンに対してあまり見せたくはない自らの弱みをのぞかせてしまった。


「いいんじゃないでしょうか?」

「え?」


 あっけらかんとした表情のカノンの返答に俺は驚いた。


「私だって結構、色んな人に迷惑かけちゃってると思うんですよね。むしろ誰かに迷惑をかけずに生きてる人なんて、この世界にはただの1人としていないんじゃないでしょうか?」


 確かに……それはそうなのかもしれない。

 むしろ俺は誰にも迷惑かけていないと思っていたのだろうか。

 カノンが言った言葉で、自分が驕った考え方をしていたことを気付かされて恥ずかしくなった。

 その一方で、なぜか後ろのペゴニアさんは、カノンのことを剣呑な目で見つめる。


「確かに度を越えた迷惑はダメかもしれませんが……迷惑をおかけしてしまった分、その方に何かでお返しすればいいのではないでしょうか? それに己の行動を顧みて改善しようとする事ができるなんて、私はとっても素敵な事だと思いますよ」


 カノンは少し言葉に詰まらせると、少し心配そうな表情で俺の事をチラチラと見つめる。


「それに……私の方こそ、あくあ様にはいっぱいご迷惑をかけているのではないかと心配になるくらいです」

「いや、そんな事はないよ。寧ろ今の言葉だってありがたかった。改めて自分のダメなところに気付かされたよ」


 俺は改めてカノンと初めて会った日や、藤百貨店での出来事を思い出す。

 仕事が忙しかったとはいえ、今までにカノンとは二度もデートの約束をしていたにもかかわらず、不誠実な俺はすっぽかしてしまっている。最初は社交辞令じゃないかと思っていたが、それにしたって自分は失礼な事をしているのじゃないかと思った。

 改めて考えると俺は家族だけじゃなくカノンのことも……いや、女の人たちに対してまともに向き合ってなかった気がする。


『ココナだって男の子なら誰だっていいなんて思ってないって事だよ。ココナの王子様は最初からあくあ君一択だって決まってるから』


 ふと俺は、あの時、ストレートに自分への好意をアピールしてくれた胡桃さんの事を思い出す。

 それなのに俺はあの言葉以降、胡桃さんに対して誠実な対応ができていただろうか?

 寧ろそれ以上、一歩を踏み込まれたくなくて、俺は胡桃さんを避けるようになってしまった。

 今回のことも同じじゃないだろうか? 俺はおそらくカノンと一歩先に行く事を怖がってしまっている。


「あくあ様は……もしかしたらですけど、誰かと深い関係になる事に対して一歩引いてしまっているのではないですか?」


 カノンの言葉が俺の胸の中にストンと落ちる。

 俺の場合は誰かというよりも女の子に対してという表現の方が近いだろうと思う。

 女の人と恋愛したら、いずれは結婚してその人と家族になるかもしれない。

 前世で家族の愛情を知らずに育った俺は、誰かを愛せるとは思っていなかった。だからそのことに対して恐怖を感じていたのだと思う。誰かを愛することが怖かったのだ。


 アイドルにとって恋愛はタブーである。


 でも俺は、その言葉を自らが女性に対して真剣に向き合いたくない免罪符に使っていたのだろう。

 いくらなんでもそれは真剣に向き合ってくれる人たちに対して卑怯なんじゃないかと思った。

 なるほど、そんなことにも気がつかなかったなんて、俺は自分のことさえもよくわかっていなかったのか。


「カノン、お願いがあるのだけどいいかな?」

「はい、なんでしょう? 私でよければ何でも致しますよ」


 こんなことをお願いするのはどうかと思ったが、もしあの言葉が社交辞令じゃなかったとしたら、俺はカノンとちゃんと向き合わないといけないんだと思う。だから俺は勇気を出して言葉にした。


「もし、俺の事が嫌じゃなかったら……俺とデートして欲しい」

「ふぇ?」


 カノンは少し間の抜けたようなびっくりした顔をする。当然のことだろう。

 あまりにも突然のお願いに、驚かない方がおかしい。

 ペゴニアさんは後ろで大きく目を見開き、らぴすに至っては口を半開きにしてカップを落としそうになった。

 もちろんそれは俺がなんとかキャッチしたから大惨事にはならなかったが、周りの空気が一瞬固まった気がする。

 はっきり言ってあまりスマートなデートの誘い方とはいえないが、恋愛経験のない俺が下手に遠回しに誘ってこじれるくらいなら、こっちの方が遥かにいいと思った。


「もちろん強制じゃないし、あの言葉が社交辞令だったとしたら普通に断ってくれても構わな……」

「いえ、お受けいたします!」


 普通に断られるかと思ったが、カノンは即答してくれた。

 カノンは少し恥ずかしそうなそぶりを見せると、ゆっくりと口を開く。


「あくあ様、私があくあ様をデートにお誘いしたのは、決して社交辞令なんかじゃありません。私はあの時……あくあ様の言葉に救われました。ペゴニアとのことも……きっとあくあ様の言葉がなければ、私はずっと気がつかなかったんじゃないかと思います。そんな貴方とだから私は、ただの1人の人間同士として真剣に向き合ってみたいと思いました。スターズの王女、カノン・スターズ・ゴッシェナイトではなくただのカノンとして、1人のあくあ様と向き合いたいと思ったから、勇気を出してデートにお誘いしたのです」


 真剣なカノンの言葉に俺は胸を打たれた。

 ここまで言われたら鈍感な俺でも、カノンの好意が本物だとわかる。

 それなのに俺は、勇気を出してデートに誘ってくれたカノンの言葉を二度もスルーしてしまったのだ。

 俺はカノンに対して、本当に失礼な事をしてしまったと自らの行動を悔いる。


「ごめん。それなのに俺は……」


 カノンは俺の言葉を遮る。


「あくあ様がその事で謝罪をする必要はございません。デートに誘われたからと言って全てをお受けする必要はないのですから。それに、その事に引け目を感じてしまうと、あくあ様は私に対して一歩引いてしまうではないですか」

「あ……」


 確かにカノンの言う通りだ。

 俺はまた無意識にカノンとの間に、申し訳ないからという一線を引いてしまおうとしていた。


「そんな事よりも、私はあくあ様にもっと私の事を見てほしいし、知ってほしいです。もし……もし、ですよ、あくあ様が私のことが気になってくれているのでしたら、ただの1人の女の子として私の事を見てくれませんか? 私は、そっちの方が嬉しいです」


 目の前のカノンの表情に心臓の鼓動が高鳴った。

 赤みを帯びた頬、照れたような優しげな眼差し、そしてその微笑みも、全ての好意のベクトルが自分へと純粋に向けられている。

 今まではそういうものに対して気がつかないように、心のどこかが勝手に蓋をしていたのだと思う。

 だけど今だけは、そのことを素直に受け入れることができたように思えた。

 それに気がついた俺は、顔が急速に熱くなった。


「ありがとうカノン……それじゃあ改めて、カノン、俺とデートしよう」

「はい、喜んで」


 俺は照れた顔で、改めてカノンとデートの約束をした。

次回更新日は21時になります。


Twitter、一気にフォロバしたのがスパムと認識されて凍結されたみたい。

しばし復旧までお待ちください。

なお、臨時でサブ垢作りました……。


https://mobile.twitter.com/yuuritohoney

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ