白銀あくあ、頑張ったみんなへのお礼。
「そうだ、自首しなきゃ!」
ハロウィンイベントが終わって自宅でのんびりしていた俺は、自首しなきゃいけなかった事を思い出す。
スターズでの危険運転に暴力行為は、どれも普通に犯罪行為だ。やはり罰を受けて罪を償うべきだろう。
俺が神妙な面持ちで立ち上がると、部屋に入ってきたばかりの小雛先輩に入り口を塞がれる。
「あんた、またお馬鹿な事を考えているでしょ!」
失敬な! これでも俺は日々、真面目に生きているだけなんですよ!!
俺は小雛先輩に、これから自首する事を伝える。
「ほーら、やっぱりおバカな事を考えてた。そんな事よりも、あんたはご褒美あげなきゃいけない子がたくさんいるのよ!! ほら、早くしなさい!!」
小雛先輩は俺の手を掴むと、グイグイと引っ張る。
ていうか小雛先輩、いつもはリビングでゴロゴロしているのに、さっきまでどこに行ってたんですか?
「ちょ、待ってくださいよ。小雛先輩」
「ほら、早くする!」
小雛先輩は俺の腕を自分の胸の谷間に挟む。
くそぉっ! 俺の中にある男としての本能が表に出てきて逆らえない!!
「ほら、ここに座って待ってて!」
俺は用意された椅子に座ると、小雛先輩はどこかに行ってしまう。
そこで普段は熟睡気味な俺の勘が冴え渡る。
「おいおい、もしかしてこれベリベリじゃないだろうな!?」
椅子から立ち上がった俺は部屋を彷徨いてカメラを探す。
この前の美味しいイベントで油断させておいて罠に引っかける。
ベリベリのスタッフが良くやる常套手段の一つだ。
「……おかしいな。カメラがない……だと?」
小雛先輩の事だから俺に仕返しするんじゃないかと思ったが、どうやらそうじゃなかったみたいだ。
俺が腕を組んで立っていると、背後から誰かの気配を感じる。
「あの……どうしたんですか?」
「あっ、スウちゃん」
もしかして、小雛先輩が言っていたご褒美をあげなきゃいけない子ってスウちゃんの事かな?
スウちゃんはスターズで世界会議が行われた時に、極東連邦の代表として世界平和に貢献してくれた。
そんな事を考えていると、部屋の入り口からひょこっと顔を出した小雛先輩が俺に向かってカンペを差し出す。
【ご褒美に何が欲しいか聞きなさい!!】
俺は小雛先輩のカンペに頷くと、スウちゃんに近づいていく。
「スウちゃん、この前はありがとう。何か俺にして欲しい事ある?」
「えっ? 私にして欲しい事ですか? でも……世界会議での事は自分の国と国民のためでもあるし、そんなご褒美を頂くような事じゃ……」
スウちゃんは申し訳なさそうな顔をする。
「遠慮しなくていいんだよ。今回、スウちゃんは頑張ったんだから」
「あ、ありがとうございます……」
スウちゃんは俺の顔をじっと見つめる。
ほらほら、なんでもいいから言ってごらん。
もちろん俺にできる範囲の事だけしかできないけど、不可能を可能にするこの白銀あくあに出来ない事なんて何もないはずだ!!
「そ……それじゃあ、ギュッと抱きしめて、良く頑張ったねって褒めて欲しいです」
「OK、そんな事なら容易い御用さ」
俺はスウちゃんを抱きしめると、頭をなでなでしながらたくさん褒める。
褒めて褒めて、これでもかというくらい褒めまくって、スウちゃんが顔を真っ赤にするくらい褒めた。
「ありがとうございます。でも、少し恥ずかしかったです……」
俺は顔を真っ赤にしたスウちゃんの頭を優しく撫でる。
「別にこれくらいの事、お願いしなくたっていつでもしてあげるよ。それよりもスウちゃんこそ、こんなお願いでよかったの? もっとこう、なんていうのかな、高価なお願いとかでもいいんだよ。遠慮しなくていいからね」
「はい、大丈夫です。でも……遠慮しなくていいというのなら、その……スウが大人になった時、大人のお姉さん達としている事を私にもして欲しいです!」
そ、それって……そういう事だよな?
俺は目の前の小さなスウちゃんの体を見つめる。
すると、スウちゃんはポケットの中から一枚の写真を差し出してきた。
「あの……この写真を見てください」
「お、おぉ……」
俺は写真を食い入るように見つめる。
チャイナ服を着た綺麗な黒髪の美人さんだ。
スレンダーな体型なのに出ているところは出ていて、艶かしい腰つきと蠱惑的な生足、健康的な腋が最高にそそられる。
「それ、私のお母さんです。スウは若い時のお母さんにそっくりなので、きっと成長したらお母さんみたいになるのかなって……」
「スウちゃん」
俺はスウちゃんの両手を優しく包み込む。
下心がないといえば嘘になる。いや! 男なら、この純粋な気持ちを、下心を否定しちゃいけない!!
「わかった。スウちゃんが大人になっても同じ事を思っていたら、その時は俺がスウちゃんの気持ちに応えるよ」
俺は後ろで【ばーかばーか】って書いたカンペを見せてきてる小雛先輩を完全に無視する。
そこ! 黒子係ならあんまり主張して出てこないでくださいよ!!
「ありがとうございます。それじゃあ、次の人を呼んできますね」
そう言って、スウちゃんはお母さんの写真をポケットにしまうと部屋を出て行った。
それからしばらくして、今度はシャムスさんが部屋の中に入ってきた。
「あの……急いでここに来てって言われたんだけど……」
シャムスさんは俺の顔を見ると、慌てて身だしなみを整える。
珍しく部屋着だし、もしかしてさっきまで自室でゴロゴロしてたのかな?
「シャムスさん、この前はありがとう。俺にできるお礼はあるかな?」
「えっ? あ……でも、アレは自国民と我が国のためでもあるし……」
シャムスさんが言葉を詰まらせると、誰かがカンペをペンでパンパンと叩く。
ちょっと、小雛先輩は邪魔しないでくださいよ……ってぇ! ま、マナートさん!?
真顔になったマナートさんは、ボールペンでカンペを何度も叩く。
【子作り! 妊娠! 種付け! 交尾!】
そのカンペを見たシャムス陛下は顔を真っ赤にする。
「えっと……その……」
シャムス陛下は俺の方に視線を向けると、上目遣いで俺を見つめる。
俺はそれよりも先に、もう俺は準備できてますよって雰囲気を全身から出していく。
「せっかくだから、フィーやマナート姉様とお出かけしたいです。3人で出かけられる機会なんて、あっちじゃなかったから……って、あくあ君!?」
俺は俺のほっぺたを全力で殴った。
これはさっきまで不純な事を考えていた自分への戒めと反省である。
「だ、大丈夫?」
「ああ。それよりもシャムスさん。そういう事なら俺に任せてくれ。今度4人で遊びに行こう! 俺が3人に日本を案内するよ!!」
シャムスさんは俺の言葉にパッと表情が明るくなった。
俺はこの笑顔を守るためならアラビア半島連邦すらも敵に回せる自信がある。
だから、間違ってもシャムスさんと敵対しないでくれ。自国を守るためにも。
「ありがとう! それじゃあ、楽しみにしてるね」
シャムスさんはそう言うと、照れた顔でそそくさと部屋を後にする。
すると、部屋の外でシャムスさんとマナートさんが話す声が聞こえてきた。
「むぅ、姉妹揃ってお出かけは嬉しいけど、そこは強気に押さないとダメじゃない!!」
「マナート姉様こそ、あくあ君が居るなら言ってよ! ううっ、髪だけでもセットしておけばよかった」
俺は2人のやりとりを聞いて微笑ましい気持ちになる。
そういえばシャムスさんはずっと頭の上に出てるアホ毛を気にしてたっけ。俺は可愛いなと思ったけどね。
俺が部屋の中で待っていると、次は小雛先輩が入ってきた。
「あれ? もしかして、小雛先輩もご褒美が欲しいんですか?」
「そうじゃなくて、私は他の3人を迎えに行ってくるから。あんたはここで待ってて」
小雛先輩は部屋を出ると、どこかに行ってしまう。
えーっと、これっていつまでここで待ってたらいいのかな?
そんな事を考えていると、メイド服を着たりんちゃんが部屋に入ってきた。
「あくあ様、何をしているで候か?」
「あ、りんちゃん」
もしかして、小雛先輩が言っていたご褒美をあげなきゃいけない子ってりんちゃんの事かな?
そんな事を考えていると、部屋の入り口からひょこっと顔を出した小雛先輩……じゃなくて、えみりが俺に向かってカンペを差し出す。
【あくあ様が不在の間、白銀キングダムを守っていたりんにもなんかご褒美をあげてください!!】
なるほど、そういう事なら俺に任しておけ!!
「りんちゃん、俺が不在の間にみんなを守ってくれてありがとう。ところで、俺にして欲しい事とかあるかな?」
「業務の範囲で候。ちゃんと対価となるお給金はもらってるでござる」
りんちゃんは真面目だなぁ。
俺は首を少しだけ左右に振ると、りんちゃんの手を掴む。
「これは気持ちの問題なんだ。俺にできることがあったら言ってほしい」
「……そ、それなら、今度、白銀キングダムの城下町で噂になってるパンケーキ屋さんに行ってみたいで候」
りんちゃんの微笑ましいお願いに俺は笑顔になる。
その一方で部屋の入り口からこちらをみていたえみりは、涙を流しながらカンペを差し出した。
【あくあ様、そのパンケーキ屋さんのパンケーキのレシピを考案したのは私です。りんのために全力でふわふわのパンケーキを焼くので2人で来てください!!】
えみり、お前、すげぇよ。
小料理屋の開店資金をどうやって貯めたのかずっと疑問だったけど、そうやって稼いでいたんだな……。
ところで、例の小料理屋はどうなったんだろう? そういえば、俺、開店してから一回もえみりの小料理屋さんに行ってないんだよな。
「わかった。それじゃあ今度2人で食べに行こうか」
「やった! 楽しみにしてるで候。それじゃあ拙者は業務があるので失礼するでござる」
小さくガッツポーズをしたりんちゃんは、足音を立てずに部屋から出て行った。
そして、りんちゃんと入れ替わるように、りのんさんが部屋に入ってくる。
「あの……ここに来るように言われたのですが……」
えみりは俺にカンペを見せる。
りのんさんもりんちゃんと一緒に俺が不在の間、白銀キングダムを守ってくれていたみたいだ。
「りのんさん、白銀キングダムを守ってくれてありがとう。俺にできるお礼はあるかな?」
「いえ、業務の範囲内ですので大丈夫です」
りのんさんはキリッとした顔をする。
なんでりんちゃんといいりのんさんといい、そんなに真面目で欲がないんだ……。
「遠慮しなくていいから。ほら、臨時ボーナスみたいなもんだと思って、ね、ね?」
「そういう事でしたら……」
りのんさんは少しだけ考えるような素振りを見せる。
「スナイパーとしての腕を鈍らせないために、今度、バイトで熊狩にいくので手伝ってください」
「任せろ。そういう事なら俺の専門だ」
前世でアイドル事務所に所属していた時、ある日突然、ランニング中に熊に遭遇したらを想定したトレーニングの最中に、実際に雪山で人食いクマと格闘したことがある。アレはかなりハードなトレーニングだったけど、俺が組み合った状態からのブレーンバスター、ジャーマン・スープレックス、パイルドライバーの3連続脳天落としで倒したクマを同期のみんなと供養のためにクマ鍋にして、凍える寒空の下でみんなで生きて帰るために泣きながら食べたのは今でもいい思い出だ。
そういえばクマで思い出したけど、この前、ニュースで街に降りてきた野生動物を取材しに楓が行くと、野生動物達が一斉に山に帰っていくって言ってたけど、アレって本当なのかな?
鬼塚アナによると、それもあって楓は年に1回は東北や北海道の局に派遣されるらしい。流石に冗談だと思うけど、あの時、俺の隣に居たえみりは真顔でガチだと言っていた。
「それじゃあ、楽しみにしてますね! では、私も警備隊長として業務に戻らせていただきます」
りのんさんは俺に敬礼すると、すぐに自分の持ち場へと戻っていった。
それと入れ替わるように、今度は慎太郎、とあ、天我先輩の3人が部屋に入ってくる。
「あくあ、小雛ゆかりさんに呼び出されたんだが、僕に用ってなんだ? もしかして、また何か大きな問題を起こしたとか……」
「きっとそうだよ。また、あくあがなんかやらかして、カノンさんか小雛ゆかりさんを怒らせたんでしょ。ほら、僕が一緒に謝ってあげるから、ちゃんと素直に謝ろ?」
「うむ! そういう事なら我も協力するぞ!!」
なんで3人とも、いつも俺が何かをやらかした体なんだ……。
俺だってそんなしょっちゅう何かやらかしてないって!!
「いや、改めて3人に例のお礼をしとかなきゃなって思って……」
3人はびっくりしたように顔を見合わせると、俺に向かって笑顔を見せる。
「改まって何かと思えば、その事か。気にするなよ、親友」
「うんうん。僕達は仲間なんだからさ。そういうのはお互い様でしょ」
「そうだぞ後輩。むしろ、もっと我を頼れ!!」
へへっ。俺は嬉しさと照れを誤魔化すために人差し指で鼻を擦る。
やっぱりこの3人は俺にとって最高の親友で仲間だ。
「でも、せっかくだから何かさせてくれ」
「そういう事なら……こい、親友!」
天我先輩は真剣な顔で両手を広げる。
……これって、ハグしろって事かな?
俺は両手を広げると、天我先輩とがっつりハグをする。
「うむ。これでいい。我らはブラザーだ」
天我先輩、またなんかの映画の影響を受けちゃったでしょ……。
「はは、天我先輩が俺のお兄ちゃんだったら最高に嬉しかったですよ」
「そうか! 我も後輩のような弟が欲しかったぞ!」
天我先輩の次は慎太郎だ。
慎太郎は少しだけ苦笑すると、天我先輩のように両手を広げる。
「こいよ。親友」
「ああ!」
俺は慎太郎ともガッツリハグをする。
こういうのは恥ずかしがっちゃダメだ。
「慎太郎、あの時、お前らが来てくれて最高に嬉しかったぜ!」
「ああ、僕もあくあが生きてくれていて最高に嬉しかったよ。もちろん、お前が死んだなんて疑っちゃいなかったけどな」
俺は慎太郎と体を離すとグータッチを交わす。
本当に頼もしくなったな。俺は少しだけ涙ぐみそうになる。
それを見たとあが俺に向かって両手を広げた。
「仕方ないなぁ。ほら、あくあ」
「おう」
俺はとあと体を揺らしながらハグをする。
「とあ……頑張ったな」
「そりゃ、みんなが頑張ってるんだから、僕が頑張らないわけには行かないでしょ」
でも、みんなに行こうって言ったのはお前が最初なんだろ?
お前のその行動力に俺も、俺たちもいつも助けられているんだ。
「ほら、みんなも見てないでこっちにきなよ」
とあが入り口に視線を向けると、こちらの様子を伺っていた人達が部屋の中に入ってくる。
「丸男! 孔雀! はじめ! ノブさん! モジャさん! それに石蕗さんや加茂橋さんに理人さん達まで!!」
みんなはとあや慎太郎、天我先輩が出国する時に協力してくれたと聞いている。
俺は勢いそのままでみんなとハグして、改めて無事に再会できた事を喜び合った。
「じゃ、あくあ。僕たちは帰るから!」
「ああ、みんなも気をつけて帰れよ!」
俺はみんなが帰るのを見送る。
男性陣が帰ってから少しすると、今度は結が入ってきた。
「結! みんな出国するのを手伝ってくれたんだって? 本当にありがとな!!」
「いえ、あー様のためですから」
俺は結の体をぎゅーっと抱きしめる。
「結、俺にしてほしい事はある?」
「……はい!」
結は頬をピンク色に染める。
それを見た俺は瞬時に身だしなみを整えた。
ほら、結の望みはわかっているから言ってごらん。
俺はワクワクした気持ちで結からの返答を待つ。
「それでは先月の事件以降、修学旅行にハロウィンフェスと業務が滞ってますので行きましょう」
「えっ?」
そ、そっち……?
いや、別に嫌じゃないけど、ここは普通にそういう業務的なおねだりじゃなくって、その男女間というか夫婦間のですね。えっ? お仕事は大事? あっ、はい……そうっすね。
俺は嬉しそうな顔をした結に対して何も言えなかった。
「ばーか」
入り口からこちらを見ていた小雛先輩は俺にあっかんべーをすると、笑顔を見せてその場を後にした。
小雛先輩……小雛先輩もありがとうございます。でも、帰ってきてからもうたくさん小雛先輩をお世話してるので、ご褒美はなしですからね!!
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://x.com/yuuritohoney




