白銀カノン、ハロウィン・ナイト・ライブ。
ハロウィンベリルフェスは土曜と日曜の2DAYS。
運命に愛された女こと、この私、白銀カノンは、妊娠中に黙々と食べていたビスケットで見事にDAY2のチケットを当選しました。
「それじゃあ、楽しんでくるわね」
気合を入れておめかしをした私は、見送りに来たいつもの3人の方へと顔を向ける。
「頑張れよ、カノン!」
「カノン、達者でな!!」
私は日の丸の鉢巻をつけた楓先輩と、泣きながら日本の国旗を振るえみり先輩を見てジト目になる。
いつも思うんだけど、楓先輩もえみり先輩も、そうやって毎回細かくふざけないといけない呪いか何かにかかってるんですか?
「カノンさん、生きて……帰ってきてくださいね」
もおおおおおおおおおおおおおお!
普段は真面目な姐さんまで一緒になって私を揶揄わないでくださいよ!
私は両手を腰に当てると、ほっぺたをぷくーっと膨らませる。
「冗談もほどほどにしないと、お土産買ってこないんだからね!」
私がそういうと、楓先輩とえみり先輩の2人が縋り付くようにしがみついてきた。
「お願いします。ハロウィン仕様のあくあ君のアクスタを何卒!!」
「あくあ様のグッズならなんでもいいんでおなしゃす!!」
はいはい。わかってるって。
もう! 2人ともすぐに泣きつくなら、最初からふざけなきゃいいじゃん。
「わ、私も……ハロウィン会場限定のフィギュアをお願いします」
姐さんはお金の入った茶封筒を私にスッと差し出す。
別にいいって。それくらいプレゼントするから。
「じゃあ、改めて行ってきます!」
「いてら〜」
「事故に気をつけてくださいね」
「ちゃんとオムツも準備しておけよ」
私はえみり先輩の言葉にずっこけそうになる。
もう! 変な事を言わないでよ!!
私は白銀キングダムを出ると、ワンダーランドに向かう。
あ〜、やっぱり生ライブはいいなぁ。
タクシーに乗ってる時からワクワクするもん。
「わっ!」
タクシーの窓に顔を近づけた私は、ハロウィンの装飾とライティングで彩られたワンダーランドに目を輝かせる。
すごい。半球体ドームの外観が大きなカボチャの映像になってるんだ。
「すみません! ここで降ります!!」
私はお金を支払うと、タクシーを出てワンダーランドの周りを歩いて入口を目指す。
へぇ、ワンダーランドを囲む柵もハロウィン仕様になっているんだ。
ワンダーランドの入り口に辿り着いた私は、現実から夢の世界への境界線を跨いで中に入る。
「えっと、まずはグッズだよね?」
私はワンダーランド専用のアプリを起動させると、商品タグのQRコードをスキャンして個数を入力する。
やった。DAY2だから売り切れてたらどうしようかと思ったけど、絶対に売り切れを出したくない。購入希望者には確実に買えるようにしたいというあくあの想いを汲み取った姉さん達が、絶対に売り切れないくらいの在庫を確保をしていたおかげで、欲しかった商品を全て無事に買う事ができました。
確か余ったグッズはオンラインショップに回されて、それでも足りなかった分は受注生産にすると聞いています。
私は商品の受け取りに配送を選択すると、キャッシュレス決済で支払いを済ませる。
本当に便利な世の中になったよね。
私はお店を出ると、ファンのみんなで賑わってるワゴンに向かう。
「これ、ください!」
「はい。チケットを確認しますね」
お姉さんは私が差し出したチケットのコードをスキャンする。
ハロウィンのチケットを持ってる人は無料で一個ハロウィン仕様のカチューシャを貰うことができます。
私は鏡を見ながら、リボンのカチューシャを頭につける。
これをつけるために、アリスっぽい可愛い服を着てきて良かったです。
「わっ、カノン様だ」
同じ鏡を見ていた女の子が私の存在に気がつく。
「どう、似合ってる?」
「はい、とっても!」
「ふふっ、ありがとう。貴女がつけてるそのコウモリ型のカチューシャもすごく似合ってるよ!」
「ありがとうございます!」
こういう交流もハロウィンイベントならではです。
私はファンのお姉さんと手を振って別れると、ライブが行われるステージがある場所に向かう。
「こちらが会場入り口になってます。手荷物検査を受けてから、中の区画にお入りください!」
わっ! 昨日あくあが言ってたけど、本当に男の子達が会場の誘導とかを手伝ったりしてるんだ。
私はベリルの女性スタッフに混じって、何人かの男の子たちが働いているのを見て感動する。
あくあが最初にやり始めた事が、BERYLのみんなやベリルのみんなが頑張った事がちゃんと繋がっているんだ。
「あ、カノン義姉様!」
「らぴすちゃん!」
私が手荷物検査に行くと、同じアリスのコスプレをしたらぴすちゃんがスタッフとして手伝っていました。
「らぴすちゃん、かわいい〜」
「カノン義姉様もかわいいです!」
私とらぴすちゃんはお互いの両手を握り合うと飛び跳ねて喜ぶ。
それを見た周囲のみんなが少しだけざわつく。
「さすがはカノン様だぜ」
「あれで人妻、経産婦……だと!?」
「嗜んとかさんは、いつまでたっても子供だよな」
「んだんだ」
「掲示板に報告しとくか。おい、捗る。嗜みがはしゃいでます。っと」
もう! なんでいちいち掲示板に居る捗るに私の事を報告するのよ!
ていうか、そのせいで私の行動が全部捗るにだけ筒抜けになっているんじゃない!!
「あ、カノンさん!」
「しとりさん!」
私に気がついたしとりさんが駆け寄ってくる。
「ねぇ、カノンさん。らぴすとの写真を撮っていい? 会場の様子を逐一流してるSNSに投稿するから」
「はい、大丈夫ですよ! その代わり、ちゃんと可愛く撮ってくださいね!」
待機列の中から「心配しなくても、お前はどこから見ても可愛いだろ。って捗るが言ってます。多分」というツッコミが飛んできて、みんなが笑う。
もう! みんな、捗るに影響されてか、カノンである私に対しても遠慮がなくなってるでしょ!! まぁ、変に崇められるよりも、こういう距離感の方が悪くないけどね。
私はらぴすちゃんの身体を抱きしめると、しとりさんにツーショットの写真を撮ってもらう。
「ありがと。それじゃあ楽しんできてね!」
手荷物検査を通過した私は、ステージになっているお城の区画に足を踏み入れる。
えーと、私の席はどこかな?
「チケット番号の頭がAQUAの方は、こちらでーす!!」
「チケット番号TOAの方〜!」
「MAYUSHINとチケット番号の頭に書かれてる人はこちらにきてくださ〜い!」
「TENGA! TENGA! TENGA! チケット番号の頭がTENGAの方はこちらまで〜!」
えーと、私のチケット番号はAQUAだから、あっちかな?
私はスタッフのお姉さんにチケットを見せると、席に誘導して貰う。
わぁ、ハロウィンライトアップされたお城がすごく綺麗。私は記念に写真を撮ると、改めてステージの中央へと視線を向ける。
北側にあるお城をバックにして、城内から目の前のステージにかけて、綺麗にレッドカーペットが敷かれていた。そしてステージを中心にしてお城から反対側にも通路が伸びている。これは一体どこまで続いているのかな?
私は色んなことを妄想しながら、ライブが始まるのを待つ。
『まもなくハロウィンライブが始まります。お足元が暗くなりますので、ライブ開始前にご着席ください』
観客席から大きな歓声が沸く。
それから数分後、ライトアップされていたワンダーランド内の照明が一斉に落ちる。
そこでまた大きな歓声が沸いた。
ガチャ、ガチャガチャ。
車のギアを入れる音の後に、アクセルを踏み込んでエンジンを吹かすような音が聞こえてきた。
次の瞬間、お城とは反対側にある通路からステージにかけて、両サイドに設置されたガス灯が一つづつ点灯していく。
ヴァイオリンな優雅な音と共に、車のエンジン音が近くなってくる。
何、なに!? 何が起こってるの!?
観客席の一番端っこから悲鳴がウェーブのようになって感染していく。
私は視界に入ってきた車を見て、みんなと同じように叫ぶ。
なぜなら、古いオープンカーのボンネットの上に、両手を広げたあくあがはだけた衣装で乗っていたからです。
「うぎゃあああああああああああああ!」
「あくあくあくあ様!」
「きゃー、抱いてぇ〜!!」
「おっ、おっ、おっ」
「くそっ! 油断せずにオムツを穿いてくるべきだった!」
後に伝説となる「あくあ乗り」の始まりがコレでした。
全ての女の子が、あのシーンを見た途端、あくあに抱いてと思ったそうです。
ううっ、えみり先輩の言ってたように、私も油断せずにオムツを穿いてたらよかった。
私、最後までちゃんと耐えられるかな?
バタンッ!
車がステージに到着すると、運転していた天我先輩と助手席に乗っていた黛くん、後ろに乗っていたとあちゃん、そしてボンネットに乗っていたあくあが車から降りる。
すると、ステージ上のリフトが稼働して、ステージ中央に置いてあった車が舞台下に下降していった。
やっぱりベリルのステージはお金がかかってるし、凝ってるなぁと思う。
ここでヴァイオリンの演奏が曲のイントロに変わると、あくあがマイクを手に取る。
『夜が来た。さぁ、今宵は誰の血を吸おうかな?』
あくあの言葉に観客席から黄色い悲鳴が飛ぶ。
それと同時に、自分の首筋をアピールする子達が居た。
よく見ると、みんな首筋に「ここに噛んでください♡」「ここです♡」「噛んで♡」などと書かれたタトゥーシールを貼っています。
なるほど、DAY1に行った子達が、寒くても首筋の空いた服を着ていくように口酸っぱく言っていたのはこれが理由だったんだ。
ネタバレしない範囲で喚起を促していた子達に心の中で感謝する。
あくあ達はステージに散っていくと、曲に合わせて歌い始めた。
『長い、長い間、ずっと孤独だった。でも、ようやく君に会えたんだ』
あくあ達から視線と指先をもらった女の子達が騒ぐ。
ううっ、あくあ、こっちだよ〜。私はここに居るよ〜。
って、ダメダメ。私は奥さんだから、こういう機会は他の人に譲らなきゃ。
ファンとしての私と、妻としての自分が心の中でせめぎ合う。
『君ならもしかして俺に教えてくれるのかな? 人を愛するってことを』
はいはいはい! 教えまぁす!!
孤独な吸血鬼の王様、あくあ。
ヴァンパイアハンター兼神父の天我先輩。
悪魔執事の黛くん。
小悪魔な王子様のとあちゃん。
ファンのみんなは手に持ったペンライトでBERYLのみんなに愛を送る。
『この渇きを君なら癒してくれるのかな? 禁断症状で、もうどうにかなってしまいそうだ』
あくあがカメラに向かって歯を見せると、お城の両脇にある壁にその映像が映し出される。
私もリボンを解くと、少しだけシャツをめくってアピールした。
だって、あんなにかっこいいのに寂しがり屋さんなあくあにキュンとしたんだもん。
『ただ、側に居てくれるだけいい。それ以上は何も求めないから』
あくあは、激しいダンスで上着をさらにはだけると、みんなに例の撃たれた場所を見せる。
もちろんそこには傷跡一つなく、誰が見てもわからないくらい綺麗に治っていた。
多分これは、傷跡を不安に思うファンに向けてスタッフとあくあが考えた演出なのかな? そんな感じがする。
『ほら、もっと近くで見ろよ。君を噛んだりしないから』
ステージから飛び降りたあくあは、観客席とステージを挟む柵へと近寄っていく。
あくあは至近距離からみんなに撃たれたところをアピールしつつ、手を伸ばしてファンと次々にタッチをする。
中には手の代わりにおっぱいを出そうとしたお姉さんも居たけど、残り少ない理性を振り絞ってなんとか手を出す。唇を噛んで血を流しながらも、なんとか踏みとどまるお姉さん達のマナーの良さに私は感動した。
『空虚な俺の中を君で満たしてくれないか? 独りで過ごす夜はもう嫌なんだ』
わぁ、あくあだけじゃなくて、天我先輩や黛君、とあちゃんもステージから降りてファンと触れ合っていく。
運よく最前列に当選した人達は良かったね。私としては、最前列じゃなかったのは残念だけど、目の前にあくあが降りてきたのが見れたのでそれだけでもう満足です。
『だから俺の夜に君をくれないか? この夜の中で君と一緒にまどろみたい』
私は髪をかきあげたあくあの姿にメロメロになる。
普段は年相応の男子高校生のあくあだけど、やっぱりアイドルしてる時のあくあは唯一無二にかっこいい。
でも、この状態が24時間365日だと女の子の方が絶対に気を抜けないと思うんだよね。
だから、やっぱり普段のあくあはここまでカッコつけなくていいし、普段のあくあがあるからこそ、ステージの上ではこんなにもかっこいいんだよね。
このメリハリが、あくあはBERYLの中でも飛び抜けていると思う。
今だって修学旅行終わって一週間くらいでこのパフォーマンスだもんね。それになんとかついて行ってるとあちゃん達も凄いけど、みんな、普通に考えておかしいよ。
ステージの上に戻った4人は最後まで歌い切る。観客席からはそれに対して大きな拍手が送られた。
「やば……」
「あくあ様、初手から飛ばし過ぎ」
「ごめん、ボンネットの上に乗ってたインパクトが凄すぎてそれ以降の記憶が」
「やっぱりライブしてる時のあくあ様が一番かっこいい!」
あくあがステージの中央に向かってゆっくりと歩き出すと、演奏がオーケストラに切り替わる。
わっ、黛くんの指揮だ。それを見た黛くんのファンが卒倒しそうになる。
ステージの中央に居たとあちゃんが手を挙げると、お城の中からハロウィンの衣装を着た男の子達が行進しながら出てきた。 あっ、あれって山田くんと黒蝶くんじゃないかな? それに赤海くんの姿も見える。
「きゃあああああああああああああ!」
「うわあああ、ベリル男子勢揃いだああ!!」
「山田くんの後ろを歩いてる子達って練習生かな?」
「そうだよ。スタッフの中にいたの見たもん!」
あくあがステージの中央にたどり着くのと同時に、ステージの下からピアノが迫り上がってきた。
上着をひるがえしたあくあは椅子に座ると、ソロでピアノを弾き始める。
きゃああああああああ! あくあかっこいい! 世界で一番かっこいいよおおおおおおおお!
私は心の中で叫ぶ。
観客席のみんな口元に手を当てながら、必死に声を我慢して、あくあが弾く美しいピアノのメロディに耳を傾ける。
ここで天我先輩が前に出ると、お城から出てきた男の子達と向き合う。
なるほど! そっか、あのお城はあくあのお城、ヴァンパイアのお城なんだ。
あくあはピアノに取り付けられたマイクに顔を近づける。
『どうしてもこの俺と剣を交えるというのか?』
あくあがそう問いかけると、さっきまであくあが居たところにスポットライトが当たる。
あっ、天我先輩だ!
『ああ、お前はヴァンパイアの王で、我はヴァンパイアハンターだ。だから、最初からこうなるのが我らの運命だったのさ』
ちょ、待って!
もしかして、さっきの曲ってあくあ達がファンに向けた曲に見せかけて、ヴァンパイアの王であるあくあからヴァンパイアハンターである天我先輩に向けられた曲でもあったってこと!?
それに気がついた、何人かが倒れそうになる。
ここで、あくあのピアノ伴奏と黛君率いるオーケストラが天我先輩のソロ曲を流すと、天我先輩はそれに応えるように歌いながら、アクション仕込みの激しい殺陣のダンスを披露した。
凄い凄い! 天我先輩は元から歌はうまかったけど、日々のトレーニングでダンスのキレが良くなってさらに磨きがかかってきたと思う。
天我先輩のソロ曲が終わると、立ち上がったあくあは黛君にマイクを渡して城の中へと消えていく。
えっ? えっ? あくあ、居なくなっちゃったけど、大丈夫!?
『ここから先は主人の居城。これ以上は行かせませんよ』
執事モードの黛君に何人かの女子が卒倒しそうになる。みんな、後で骨は拾ってあげるから。
次は黛君のソロ曲かな? あくあの代わりにとあちゃんがピアノを弾いて、天我先輩がオーケストラを指揮する。
黛君は深夜ドラマで主役をやったことで雰囲気が出てきたと思う。
さっきまでとは対照的にしっとりと歌いあげた黛君は、ピアノを弾いていたとあちゃんとスイッチする。
『仕方ないなぁ。僕も手を貸してあげる』
ふふっ、とあちゃんらしい元気でかわいい歌だ。
ここまでで既に一杯一杯になっていたファンの人たちの心が癒される。
ってぇ!? ちょっと待って。とあちゃんがつけてるアクセサリーってあくあとお揃いじゃないの!?
それに気がついた察しのいいファンから倒れていく。
しかもそれに合わせて曲のテンポが変わると、さっきまでが嘘みたいに激しい歌に切り替わった。
やっぱ、とあちゃんって歌うまいな。最後のシャウトに何人かが持っていかれる。
そうだった。これがBERYLの生ライブなんだ。
ファンが何人、最後まで生き残れるかを競い合うデスゲーム。それがBERYLのライブだという事を思い出す。
それなのに、おむつをつけずに生半可な気持ちで参加しちゃった自分の緩さと、油断し切っていた自分の平和ボケを恥じる。
マイクを手に持った天我先輩は、お城に向かって叫ぶ。
『ヴァンパイアの王よ、どこに行った!?』
次の瞬間、全ての照明が落ちると全てのスポットライトが王城のバルコニーへと向けられる。
するとそこにはヴァンパイアの王であるあくあが立っていた。
『そう慌てるな。私ならここにいるぞ』
あくあはそう言うと、バルコニーを跨いで飛び降りた。
って、嘘でしょ!?
……あ! ワイヤーがついてるんだ。なるほどね。
「でも、そんなのなくてもあくあ君なら無事でしょ」
うんうん。高度一万フィート上から落下しても無傷だったもんね。
って、それ呟いたの絶対に掲示板民でしょ。もう!!
あくあのソロ曲に、会場のボルテージがマックスになる。
『どうしても戦うというのか?』
『ああ、それが我らの宿命だ』
あくあと天我先輩は、お互いの激しい葛藤をデュエット歌い上げる。
そこを耐えた人も、次のあくあと黛君の主従デュエットを聞いて何人かが陥落してしまう。
黛君と天我先輩のプライドを賭けた戦いのデュエットに、とあちゃんと黛君の同志デュエット。
さらにはとあちゃんと天我先輩の新境地開拓のデュエットから、とあちゃんとあくあのデュエットで生き残っていた半数近くのファンが一気に脱落した。
『さぁ、もう争いは終わりだ。手を取り合って歌おう』
最後はヴァンパイアや悪魔も人間と共生するって形に落ち着いて、4人でBERYLの曲を10曲近く歌いあげた。
ちゃんとストーリー仕立てになっていたのも良かったけど、今回は新曲からスタートして、4人のソロ曲やデュエット曲を盛り込みつつ、最後は定番のBERYLメドレーが聴けたのも良かったと思う。
全員が手を振ってお城の中に消えると全ての照明が落ちた。
これは……まだ、終わってない! そう察したファンのみんなはペンライトを必死に振る。
「「「「「「「「「「アンコール! アンコール!」」」」」」」」」」
アンコールに応えるように、お城が真っ赤な照明に照らされる。
やったあああああああああああああ!
あくあがお城から出てくると、天我先輩のエレキを掻き鳴らす。
最後の最後に、BERYLのバンド構成曲きたああああああああああ!
あくあは最初はしっとりと歌いあげつつも、途中の変調からはカッコよく歌い上げる。
『この身を焦がす激しい衝動に、俺は耐えられるだろうか』
うわああああああああああああああ!! 吸血衝動だあああああああああ!
赤い眼のコンタクトを入れたあくあの綺麗な顔が後ろにアップになると、私を含めた全員が首筋をアピールする。
だって、私だって血を吸われたいもん!
途中からアップテンポになった1曲目が終わると、4人はすかさず2曲目へと移行する。
あっ、あっ、あっ、アンコールで2曲続けて新曲なのずるいってぇ!!
『みんな、本当に今日は来てくれてありがとおおおおおおおおお!』
曲の間奏中にあくあのシャウトすると、それにみんなが応えるように歓声を返す。
あくあは手を広げると、近くにいた黛君へと向ける。
『ベース担当、黛慎太郎!!』
あくあの期待に応えるように、黛君はベースでアピールする。
『エレキ担当、天我アキラ!!』
天我先輩はかっこいいギターソロを掻き鳴らす。
『ドラム担当、猫山とあ!!』
とあちゃんがドラムソロで魅せる。
『DJモジャ!』
サポートに入ってるモジャさんは少し恥ずかしそうに会釈する。
『ストーリー担当、司圭!』
やっぱり司てんてーかぁぁぁああああああああ!
そんな気はしてました。
『衣装、ジョン・スリマン!』
後ろから出てきたジョンさんは笑顔で頭を下げる。
『サポートメンバー、山田丸男、黒蝶孔雀、赤海はじめ!』
あくあに名前を呼ばれた子達が1人ずつ、観客席に向かってアピールする。
うんうん、こうやっていつかはこの子達もステージに立つが日来るんだよね。
『ベリルエンターテイメント社長、天鳥阿古! そして今日のステージを支えてくれた全てのスタッフ達!!』
お城の中から全てのスタッフが出てきた頭を下げる。
『そして今日来てくれたファンのみんな! そしてこの映像を見ているファンのみんな!』
あくあの声に合わせて私たちも喉が枯れるほど叫ぶ。
『さぁ、いくぞラストスパートだ!!』
最後に新曲の3番を見事に歌いあげた、あくあは最後にシャウトした!!
『ありがとおおおおおおおおおおおお!!』
大熱狂に包まれて、最後の曲が終わる。
本当に夢みたいな時間だった。
私は他のファンのみんなと同じように少しだけワンダーランドの中で余韻に浸ると、帰りのタクシーを捕まえて帰宅する。
帰ったら、えみり先輩がぐへった顔をして「オムツちゃんと使ったか〜?」って言いながら近づいてきたけど、私はライブで疲れていたので適当にあしらってから自分の部屋に戻った。
だって、早く着替えたかったんだもん!!
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