表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

715/734

白銀あくあ、イタズラしちゃうぞ!?

 10月最後の土日に合わせて、ベリルのハロウィンフェスが始まった。

 俺は更衣室でフリルのたくさんついた派手なシャツを着ると、その上からベストを羽織る。

 さらに金装飾が施されたロングコートとズボンを履き、最後にマントを羽織って完成だ。


「あとは装飾品か……」


 ベルベットの高そうな手袋を身につけた俺は、高そうな宝飾品の数々を身につける。

 確かこれって全部、宝飾品ブランドからのレンタルなんだっけ。身につけているのが俺だから盗まれる可能性はないにしても、落とさないようにしないとな……。


「わっ! あくあ、似合ってるじゃん。ヴァンパイアの王様だっけ?」


 王子様風の衣装を着たとあは俺に顔を近づけると、記念に写真を撮る。

 その時にとあが頭につけていた王冠風ティアラが俺のほっぺたに刺さりそうになった。


「あ、ごめん」

「大丈夫大丈夫」


 念の為に俺もみんなに写真を送っておくか。

 俺は自撮りした写真を白銀キングダムのグループチャットに投稿する。



 白銀あくあ@ハロウィンベリルフェス。

 どう?


 メアリー@あくあ様が王様なら私は女王様!!

 1ゲット、あくあ様、そのままスターズって国の王様になりましょう!

 ↓1番取られた孫娘プギャー!


 白銀カノン@えみり先輩と魔女姉妹コーデ。

 ありがとうございますありがとうございます!


 白銀えみり@カノンと一緒に魔女のコスプレしてまぁす!!

 あくあ様、似合ってます!!

 それとカノンは、一杯一杯になるとすぐに敬語になるのやめろ!


 白銀琴乃@なんで私まで黒猫なんですか?

 手袋がいいですね。刺さります。


 ペゴニア@悪魔メイド長です。

 >桐花琴乃

 わかります。


 白銀結@私が黒猫でいいんですか?

 >桐花琴乃

 わかります。


 白銀アイコ@黒猫コスプレに巻き込まれました。

 また、現実に負けた……だと?


 白銀楓@かぼちゃ頭が抜けない!!

 あくあ君、似合ってるよ!!

 ついでに私の頭に装着したら取れなくなったカボチャもみてください!!


 鞘無インコ@かぼちゃと間違ってスイカかぶってもうた!!

 あくあ君、今日は一段とシュッとしとるで。

 >白銀楓

 そうはならんやろ!! って、なっとるやないか!!


 ハーミー@キョンシーしてます。

 パパ……ハーにイタズラして?


 来島ふらん@小悪魔ふらんだよ〜。

 はいはい! ふらんもイタズラして欲しいです!!

 それともあくあ様は、小悪魔ふらんちゃんにイタズラされたいですかぁ〜?


 羽生治世子@私もコスプレしたいです!!

 あくあ君、この国、いる?


 なつきんぐ@キョンシーコスプレ中!!

 あくあ君、かっこいい!!

 >お母さんへ、

 このチャットが流出したら、また、怒られるよ……。


 黒蝶揚羽@なんで私も黒猫なんですか!?

 すごくかっこいいと思います!! って言葉しか出ない語彙力ですみません!

 >総理へ

 国会でお待ちしております。


 ヴィクトリア@黒猫様。

 ふふふ、特別にこの黒猫様の私が膝の上に乗ってあげてもよろしくてよ?

 >黒猫コスプレしている方達へ。

 文句があるなら、元締めの私のところに来なさい。


 白銀しとり@えっちすぎるサキュバスのお姉さん♡

 あーちゃん、すごく似合ってるよ♡

 帰ったら、お姉ちゃんとまろんさんのWサキュバスで挟んで癒してあげるね♡♡♡


 白銀らぴす@シスター服似合ってますか?

 兄様、らぴすの血を吸ってください!!


 千聖クレア@シスターコスプレじゃなくて本物のシスターです!!

 ついに、降臨なされたのですね!!

 処女ではありませんが、喜んで私の生き血を捧げます!!


 白銀えみり@カノンと一緒に魔女のコスプレしてまぁす!

 >千聖クレア

 おい、バカ。お前が言うと冗談に聞こえないからやめろ!!


 皇くくり@私も魔女コスプレにしようかな?

 あくあ先輩、かっこいいです。


 小雛ゆかり@なんで私だけ怪獣コスプレなのよ!!

 ふ〜ん、あんたにしてはまぁ似合ってるんじゃない?

 それより、帰りにあんたのとこのフェスで売ってるコウモリ型のたい焼きみたいなの買ってきてよ。



 俺は携帯の画面を閉じると、着替えたばかりの慎太郎に視線を向ける。


「どうだ? 似合ってるか?」

「ああ。慎太郎、すごく似合ってるぞ」


 七三でバチっと決めた執事悪魔の慎太郎が白手袋をつける。

 これは後で淡島さん達に写真を撮って送っといてあげよう。

 多分、見たら倒れるぞ。


「後輩、我はどうだ?」

「天我先輩、もちろんバシッと決まってます!!」


 不良神父みたいな格好をした天我先輩が俺の言葉を聞いてニヤリと笑う。

 ところで、なんで神父さんなのに2丁拳銃なんて装備してるんですか?


「あはは、孔雀。お前、その耳よく似合ってるぞ!」


 俺は丸男の声に反応して、孔雀の方へと視線を向ける。

 おっ、猫耳の執事見習いか。いいな。似合ってるぞ。


「うるさい。お前だって俺と同じ耳付きじゃないか。このバカ犬丸男!!」

「だから、俺は犬じゃなくて狼だって!」


 丸男は犬耳神父か。って、その耳と尻尾、動くの!?

 えっ? 設置してるカメラが表情から感情を読み取って耳が動くようになってる?

 ああ、顔認証システムとAIを結びつけてるのか。すげぇシステムだな……。


「喜ぶと耳がピンとしたり尻尾を振ったりするけど、悲しむと耳がくしゃっとなって、尻尾がしゅんとします。後、感情が昂ると毛羽立ったりするようですよ」

「へぇ〜」


 俺はスタッフのお姉さんから説明を受ける

 えっ? ヴィクトリア様も同じシステムの猫耳と尻尾をつけてるだってぇ!?

 これは帰った後にヴィクトリア様を愛でなきゃ! 膝の上にヴィクトリア様を乗せて撫で撫でしなきゃという強い使命感に駆られる。


「みんな、もう準備できたか?」


 俺がぐるりと全体を見渡すと、寒そうに脚を震わせていたはじめを見つける。

 ああ、そっか。お前、タイツを穿いてるとはいえ短パンだから、そりゃ寒いよな。


「僕のカイロあげるから、見えない足裏とかに貼りなよ。少しは良くなるから」

「ありがとうございます!!」


 カボチャパンツに生足のとあは、はじめに自分の持っていたカイロを渡す。

 とあ……いくら、見えないところにカイロを貼ってるとはいえ、お前は寒くないのか?

 生足は普通にすげーよ。


「皆さん、準備できましたか?」

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」


 俺達は先導してくれる男の子? いや、男性スタッフの後について控え室を出る。

 そういえば今日は、うちの育成機関【ネクストベリル】に所属している男の子達が、スタッフとして手伝いに来ているって阿古さんが言ってたっけ。

 ネクストベリルには俺も携わっていたけど、初回の立ち上げ以降は俺自身が忙しくて関われないでいる。

 いい機会だから、少しだけ話しかけてみるか。

 俺は緊張で動きがカクカクになっている男子に声をかける。


「身長でかいな。いくつ?」

「187っす!」

「でかいな。年齢は?」

「中3です!」


 まじかよ。俺に話しかけれた男子はわかりづらいが少し照れたような顔をする。


「なんで、アイドルになろうと思ったの?」

「……俺、でかいじゃないですか」


 俺は無言で頷く。

 正直、中3でこれなら天我先輩の身長くらいまで行くだろうな。


「後、その、俺って三白眼で目つき悪いから、それで女子だけじゃなくて男子からも怖がれちゃったりとか……。だから、アイドルになれば俺も少しは愛嬌っていうか、笑っても怖がられないかなと思って……」


 なるほど、そういう理由か。

 俺の顔をチラッと見た男子は少し慌てたような素振で頭をペコペコさせる。


「す、すみません! こんな不純っていうか、しょうもない動機で。や……やっぱり、こんな理由でアイドルを目指したら本気でやってるあくあさん達に失礼ですよね」

「どうして?」


 俺の笑顔にその子はびっくりしたような顔をする。


「アイドルなんて五万といるけど、みんな最初の動機なんてそれぞれだよ。それこそ、アイドルになってどうなりたいかもそれぞれの自由だし、みんなそれぞれに目指す目標が違ったっていいと思ってる。なぁ、君はアイドルにとって一番重要なのは何かを知っているか?」

「い、いえ」


 俺は会場の入り口の前で立ち止まると、そいつの肩をポンと叩いて会場へと向かっていく。


「ファンを絶対に裏切らない事だ。だから、お前も絶対にファンだけは裏切るなよ」

「は……はいっ!」


 俺に続くように、とあ、慎太郎、天我先輩が無言でその子の背中を叩いていく。

 あっ、せっかくだから名前くらい聞いときゃ良かったな。

 でも、中学生であんなデカい子なんて早々いないだろうし、また後で聞けばいいか。


「きゃあああああああああああ!」

「あくあ様ぁぁぁあああああああ!」

「ふぁ〜〜〜〜〜っ!」

「あくあ様を見た瞬間に、みんなのIQが5になるのなんで?」

「わかる。頭の中から語彙力が一瞬で消滅する」


 俺は待機列にいる子達に向かって目で、今から会おうねって合図を送る。

 流石に前よりかは耐性ができてる子が増えたとはいえ、少なくない人数の女性達がふらつく。

 それを見た救急スタッフが急いで駆けつける。


「もう、あくあってば、僕達のファンの子達まで卒倒させちゃったらダメでしょ!」

「悪い。そういうつもりじゃなかったんだよ」


 俺はとあ達に「また、後でな」と声をかけると、用意された自分の専用ブースに入る。

 すげぇ。俺の用意されたブースは、玉座の間みたいな豪華な内装だった。

 俺は用意された玉座に座るとお菓子が入っている宝箱へと視線を向ける。

 渡すお菓子もコインチョコとか、財宝型のビスケットとか、ちゃんとそれっぽいのがすごいな。


「それじゃあ、1人ずつ案内しますね」

「よろしくお願いします」


 俺はマネージャーの小町ちゃんにそう言うと、身だしなみを整えてファンのみんなと会う準備をする。

 今日はファンクラブに入ってくれた子達や、秋のビスケット祭りのキャンペーン、協賛してくれたチョコレート菓子のキャンペーンの中から抽選で選ばれた当選者達だけが参加できる特別なハロウィンイベントだ。


「うわぁ、すごい」


 部屋の中に入ってきた女の子は豪華絢爛な内装を見て驚く。

 うんうん、わかるよ。俺も最初見た時、びっくりしたもん。

 女の子は俺の顔を見ると、指先をもじもじさせながら俺に話しかけてくる。


「あ、あの〜……」


 せっかくスタッフのみんなが頑張ってくれた事だし、俺も100%、いや、1億%の白銀あくあで期待に応えるとするか。

 俺は話しかけてきた女の子に不敵な笑みを見せる。


「良く来たな」

「ひゃっ、ひゃい!」


 頬をピンク色に染めた女の子が俺の事を見てポーッとした表情を見せる。


「さぁ、願いを言え。お前が欲しいのは財宝か? それとも俺からの褒美か?」

「ごっ、ご褒美が欲しいです!!」


 俺はマントを翻しながらかっこよく椅子から立ち上がると、ゆっくりと自分の足音を聞かせるようにして女の子に近づいていく。

 今日、この瞬間は、君が俺のヒロインだ。


「どう、したいんだ?」

「あ、あく……いえ、やっぱりハグで! ……って、流石に、ダメ……ですよね?」


 俺は少しの間、間をおく。

 本当はこの企画、最初は俺達の負担を考えて1人20秒とか30秒にしようと言っていたが、俺はイベントの開始時間帯を早くして終了時間を出来る限り引き延ばす事で1人の時間に制限を設けない事を提案した。

 もしかしたら、彼女達にとって、俺たちとこうやって会って話せるのは人生で一回きりかもしれない。

 だから俺はその1回で、俺に会ったファンの子達が墓場の先にまで抱えて行きたくなるような思い出をつくってあげたいと思ったからだ。

 そう思うのは少し傲慢だろうか? いや、世界一のアイドルを目指している男なら、それくらい不遜じゃなきゃいけない。


「どうして、ダメだと思った?」

「えっ?」


 俺は驚いた顔をした女の子の手を掴むと優しく抱き寄せる。


「あ……えっ? あっ」


 女の子は目をぐるぐる回しながらガチガチに固まる。

 俺はその緊張を解すように、背中をポンポンと叩いた。


「抱き締められるだけでいいのか? 抱きしめ返してもいいんだぞ」

「ふぁ、ふぁい」


 女の子は俺の背中に手を回すとぎゅーっと抱きしめ返してきた。

 俺は女の子の緊張が解けるのを見計らうと、そっと身体を離す。


「満足できたか?」

「は、はい。ありがとうございます!!」


 俺は少し優しげな笑みを見せると、後ろにある通路を指差す。


「よろしい。帰り道はあちらだ。それと、宝箱の中から一つお菓子を持って帰るといい」

「えっ? いいんですか!?」


 協賛メーカーの森長さんが頑張りすぎちゃった事もあって、お菓子は余るくらい用意している。

 せっかくだし、記念に持って帰って欲しい。

 そういえば、会場の入り口に置いてあった、カボチャの馬車を引いている魔女メリーさん可愛かったな〜。後で写真撮って帰ろっと。


「それでは次の人を案内しますね」

「ああ、頼む」


 俺はもう一度玉座に座る。

 すると、OL風のお姉さんが玉座の間に入ってきた。


「えっ? 内装すごー!!」


 はは、やっぱりみんなそこにまず驚くよな。

 わかるよ。

 ていうか、俺のがこれだけ気合い入ってたら、他のみんなの部屋がどうなってるかも気になるな。

 イベント終わったら、みんなで見せ合いっこしよっと。


「良く来たな。俺からの褒美か宝物、好きな方を選べ」


 お姉さんは少しの間、悩む素振りを見せる。

 大多数がご褒美を選択すると想定していただけに、ここで悩む素振りを見せるのは予想外だな。


「えっと……本当はご褒美が欲しいけど、恥ずかしいので記念の宝物をください!」


 なるほど、そういうパターンもあるのか。

 俺は椅子から立ち上がると、宝箱の中からお菓子を取ってお姉さんへと近づいていく。


「ほう、俺からの褒美が、そんなに欲しくないのか?」

「えっ? あ、そんな事はなくて、ですね」


 お姉さんは顔を真っ赤にして首を左右に振る。

 普通ならここでお菓子を渡してはい終わりだろう。

 だが、俺は白銀あくあだ。そんな置きに行くようなふぬけたアイドルじゃない。

 どうせ死ぬなら少しでも前、一歩でも前に行って死ぬ。

 先導付きの安全地帯を歩くよりも、あえて地雷原を真っ直ぐに突っ込む。

 石橋を叩くよりも、石橋を破壊しながら渡っていく。

 それがこの俺、白銀あくあである。


「何をぼーっとしている? 早く口を開けろ」

「えっ? えっ? あ……はい」


 俺はお菓子の袋を開けると、ビスケットをお姉さんの口元へと持っていく。


「うぇっ!?」


 お姉さんは耳まで赤くすると、俺とビスケットを交互に見つめる。


「ほら、宝物のお菓子が欲しいんだろ? 早く食べろ。それとも、俺が手伝ってあげないとビスケットも食べられないのか?」


 俺はお姉さんの腰に手を回すと、そっと抱き寄せて自らの口をゆっくりと開ける。


「ほら、あーんだ」

「はひ……」


 お姉さんも覚悟が決まったのか、小さく口を開けてビスケットを齧る。

 多分、大きな口を開けて食べるところを見られたくないのだろう。

 俺もその辺は察してお姉さんの食べる速度に合わせる。

 念の為に俺は少し王様モードを崩すと、素の感じでお姉さんに声をかける。


「大丈夫? 喉が詰まりそうだったら言ってね。一応、ワイン風の葡萄ジュースとかもあるから」

「はい、大丈夫です!」


 俺はお姉さんがビスケットを食べ終わるのを待ってから、彼女の身体を解放する。

 さっきと同じようにお姉さんを帰り道へと誘導した俺は、再び玉座に座って次のファンを待つ。


「ええー? 中ってこんなになってるの!? すごぉ〜い!」


 俺はびっくりした顔で周囲をキョロキョロするおばあちゃんを見て和やかな気持ちになってしまったのか、ついつい顔が緩んでしまう。

 おっと、ダメだぞ。ちゃんと王様モードにならないと!

 俺は意識を切り替えると、お婆さんに対しても同じ質問を投げかける。


「ご褒美!? それなら、冥土の土産にあくあ様にお姫様抱っこされてみたいです!!」

「いいだろう」


 さすがはお婆ちゃんだ。長年生きてきただけあって、判断が早いし希望を伝える事にためらいがない。

 俺は玉座からカッコよく立ち上がると、カノンにするみたいにお婆さんの身体を大事に大事に抱き上げる。


「わっ。たし……カノン様が見てた景色ってこんな感じなのね」


 もちろん、ただお姫様抱っこをして終わりじゃない。

 俺はお婆さんをお姫様抱っこしたままの状態で自分の玉座に戻ると、そのまま2人で一緒に座った。


「本物の私の姫になった気分はどうだ?」

「最高です、あくあ様! 白龍先生が負ける意味がわかりました!!」


 なんでこうお婆ちゃん達ってアイを弄るのが大好きなんだろう。

 俺は少しだけ素に戻ると、小声で「アイにも優しくしてあげてね」と囁いた。


「はい、わかりました。でも私達が白龍先生を弄るのは、白龍先生に期待しているからなんですよ」


 なるほどね。そういえば、メアリーお婆ちゃんも同じ事を言っていた気がする。

 俺はお婆ちゃんにお菓子を手渡すと、帰りの道を案内した。


「それでは次の人を案内します」

「よろしくお願いします」


 次にやってきたのは人妻っぽい感じのお姉さんだった。

 例の如くお姉さんは内装に驚くと、俺の言葉を聞いて少しだけ頭を悩ませる。


「じゃあ、ご褒美で。その……育児とか家事で頑張ってるので、いっぱい褒めて欲しいです!!」

「いいだろう」


 俺はお姉さんに近づくと、手袋をつけた手でお姉さんの頬に軽く触れる。

 お姉さんもその行動には少し驚いたのか、身体をビクッとさせた。

 俺は少しだけお姉さんの緊張が解けるのを待つと、ゆっくりと自分の顔をお姉さんの耳元へと近づけていく。


「どうやら、最近すごく頑張っているようだな。えらいぞ」

「は、はひ……」


 俺はお姉さんの体を軸に回転するように動くと、今度は反対側の耳へと顔を近づける。


「お前はよくやっている。だからあまり無理はするなよ。少しは休め」


 お姉さんは耳を真っ赤にすると完全に固まってしまった。

 俺はお姉さんの意識が戻ってくるまで少しだけ時間を置くと、またぐるりと回転して反対側の耳へと近づく。


「いいか。辛くなったら俺の事を思い出せ。俺はいつだって頑張っているお前の事を見ているからな」

「あ、ありがとうございます……」


 俺はまた反対側の耳へと回る。


「良い子だ。褒めてやろう。お前は本当に頑張っている。他の誰かが否定しても、俺の言った言葉だけを信じろ」

「はひ、わ……わかりましたぁ」


 うんうん、いい子だ。

 俺はお姉さんの頭を撫でて解放すると、お菓子をプレゼントして帰りの道を案内した。


「次の人を案内しても大丈夫ですか? それとも少し休憩します?」

「いや、全然大丈夫だ。どんどん行こう。ファンのみんなを待たせたくない」


 俺は一人一人のファンに時間をかけて、みんなの期待に応えていく。いや、期待以上の事をして、みんなの中にある白銀あくあを超えていく。


「お疲れ様でした!!」


 会場となっているワンダーランドの閉園時間までに、俺達はなんとか無事にファンのみんなとのハロウィンイベントを終える事ができた。

 俺は賛同してくれたとあ、慎太郎、天我先輩、丸男、孔雀、はじめ、それにスタッフのみんなに感謝する。


「みんな、本当にありがとう!!」


 やっぱり制限時間を設けなくて正解だった。

 俺は帰りのタクシーの中で、一人一人の笑顔を思い出しながら顔がニヤける。

 この時の俺は、まさかこの後、家に帰っても同じハロウィンイベントをやらされる事になるとは想定していなかった。

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ