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白銀あくあ、ただのツアー客です。

 修学旅行の最後に俺達乙女咲学園高校が立ち寄ったのは、大統領が執務や政務を行うための官邸だ。


「いや〜、普段は見れないところとか見れて楽しかったね」

「だね! あくあ君ありがとう!」

「はは、御礼なら俺じゃなくてメイトリクス大統領に言ってよ」


 今回、俺達がここにに来たのは、テロリスト事件に巻き込んでしまったお詫びとして、メイトリクス大統領が招待してくれたからだ。

 ここは観光地としても人気らしく、今日みたいに一般開放をしている時は多くの観光客で賑わっている。


「ねぇねぇ、あくあ君。あそこに大統領の椅子があるよ。座ってみて!」

「えっ? これって座っていいのかな?」


 ツアー客のお姉さんに視線を向けると、笑顔でどうぞと手のひらを向けられた。

 それじゃあ、遠慮なく。


「慎太郎。帰ったら小雛先輩に自慢するから、記念に写真撮ってくれ!」

「ああ、いいぞ!」


 俺はいつもメイトリクス大統領が座っている椅子に座る。

 せっかくだから仕事してる風なフリとかしてみるか。

 俺は写真撮影のためにポーズを取る。

 すると、慎太郎だけじゃなくて、うちの生徒達やツアー客の人達、広報の方達まで一斉に写真を撮り出した。

 そこで調子に乗った俺はついつい期待に応えていろんなポーズを取ってしまう。


「もう、あくあ君が大統領やればいいんじゃないかな」

「写真あげたら、大統領から、うちの国で大統領やってみるか? ってコメントきたんだけど……」

「うちのところにも羽生総理が、総理の椅子も空いてますよってコメントしてきたよ」

「2人とも明日は仲良く謝罪かな?」

「あるある」

「みんなはまだいいよ。私なんか、聖あくあ教の公式SNSから、大統領や総理の椅子じゃあくあ様には小さすぎる。世界の王、いや、神になってください。ってコメントきたんだけど……」

「きっつ」

「聖あくあ教きついわ〜」

「そういうとこやぞ。宗教の悪いところは!」


 みんなもう写真撮った?

 流石に疲れてきたし、これ以上は他の人に迷惑をかけそうだから、このくらいにしておこうかな。


「後輩! 我も我も!」

「わかってますよ。天我先輩。俺が写真撮るから任せておいてください!!」


 俺は天我先輩とチェンジすると、天我先輩の写真を撮りまくる。

 ここは、春香さんのためにも、カッコよく天我先輩を撮らなきゃな。

 天我先輩は写真を撮ってもロサンゼルスの空とか意味不明な写真が多いから、俺が気を利かせて結達を経由して春香さんに天我先輩の写真を送っている。

 そういえば、今は会社の携帯を借りてるからいいけど、帰ったら直ぐに自分の携帯電話を買わなきゃな。


「おい、慎太郎。お前も座ってみろよ。こんな機会滅多にないんだから」

「ああ、そうだな」


 慎太郎は少し照れくさそうに椅子に座る。いい感じだぞ。慎太郎!!

 俺より全然、大統領っぽい。ほら、メガネをクイっとして! いいねぇ〜!

 これも後で結達を経由して淡島さんに送っといてあげなきゃな。

 慎太郎ってば、俺達の写真ばっか送って肝心な自分が写った写真を淡島さんに送ってないらしい。


「ねぇねぇ、あくあ。僕も僕も!」

「おう! いいぞ!」


 俺はとあの写真も撮る。

 とあの場合は普通に恥ずかしがって家族に自分の写真を送ったりしてないんだよな。

 これも後で、かなたさんやスバルちゃんの送っといてあげよう。

 きっと、喜ぶぞ〜。


「それでは皆さん、こちらの隠し通路に注目してください」


 いやいや、隠し通路とかってツアーで言っちゃっていいんですか?

 えっ? もうみんな知ってるから別にいいって?


「今まさにステイツに訪問しにきている羽生総理が、メイトリクス大統領中と一緒に夜の街に繰り出した穴がこちらです」


 俺たち乙女咲の生徒達は礼に重んじる日本の文化を尊重して、無言で周りに居たステイツの人たちに対してペコペコと頭を下げる。

 どうせまた、うちの羽生総理がメイトリクス大統領を唆したんだと思うしね。


「以上でツアーは終わりです。何か質問がある人〜?」

「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」


 1時間ほどのツアーが終わった後、俺のお腹が急に痛くなる。

 やべぇ、昨日、現地の人に勧められた生焼けっぽい肉が当たったかも……。

 仕方ない。ツアーを案内してくれているお姉さんは忙しそうだし、そこの警備のお姉さんにでも聞いて見るか。


「すみません。男性用トイレってありますか?」

「ハイ、ありますよ」


 俺はみんなの列から離れて、1人でトイレに行く。


 ……って、遠い!

 男性トイレってこんな遠いところにあるのかよ。


「ん?」


 誰だ? こんな所にゴミの紙袋を置きっぱなしにしてる人は……。

 トイレに行くついでに俺が捨てといてやろう。

 俺は紙袋を手に取ると、建物の外に出て専用のゴミ箱に捨てる。


「ごついゴミ箱だな」


 俺はごついゴミ箱に書かれた注意書きを読む。

 へぇ〜、爆発物が捨てられてもいいようになっているんだ。

 ステイツはすごいな。

 俺はそのまま離れにある男性専用トイレに入ると、しばらくの間、中に籠る。


「ふぅ……なんとかお腹が痛いのが治ったぜ」


 トイレを済ませた俺はスッキリした顔で外に出る。

 あれ? なんでこんな所にゴミ箱の蓋が吹っ飛んでるんだろう?

 よくみると、俺がさっきゴミを捨てたゴミ箱が焦げていた。

 さっきトイレをしていた時に、何かがポンって弾けるような音が聞こえてきたけど、もしかしてそれって爆発物が爆発する音だったのだろうか?


「おいおい。まさか本当に爆発物を捨てたやつがいるのかよ……」


 でもまぁ、人が居るところで爆発しなくてよかったな。

 俺がゴミを拾った場所なんかたくさん人が居たから、あそこに爆弾が仕掛けられていたら確実に100人以上の死人が出たはずだ。

 俺は口笛を吹きながら、建物の中に戻る。


「あれ?」


 建物の中に人がいない?

 ていうかみんなゴミを散らかしちゃダメでしょ。

 俺がゴミを片付けようとすると、背中から誰かの気配を感じて後ろに振り向く。


「あっ……」


 やっちまった。後ろに振り向いた瞬間に、俺が背負っていたリュックに激突してしまった人が気絶して床に転がってしまう。

 スターズやステイツに来てトレーニングが全然できなかったから、今日はトレーニングを兼ねてリュックの中に鉄アレイとかダンベルとか入れまくってたせいだろう。

 もちろん普通の布製やナイロン製のリュックだとその重みに耐えられないので、俺はステイツの軍が使ってるクソ硬い素材のリュックを背負っている。


「ごめんなさい! 大丈夫ですかー?」


 ダメだ。完全に気絶してる……。これは阿古さんに連絡しないとな。

 しゃがんでいた俺が立ち上がると、また、誰かが俺の後ろで倒れた音が聞こえてきた。


「あっ、すみません。お姉さん、大丈夫ですかー!?」


 さて、どうしたものか……。

 俺が気絶したお姉さん2人の前で対応にあぐねていると、お姉さんが腰につけたトランシーバーから声が聞こえてきた。

 よく見ると2人とも同じトランシーバーを持っているし、2人はどこかのツアー客なのかもしれないな。

 俺はトランシーバーを手に取る。


「あの〜、すみません。実は2人とも今、その通話に出られる状況じゃなくてですね」

『男!? 誰だ貴様は!!』


 ここは変に誤魔化さずに名乗るのが筋ってもんだろう。

 アイドルには誠実さが必要だ。ファンのみんなだってそう思ってるはずだしな。


「初めまして。自分、白銀あくあって言います!」

『しろがねあくあぁ!?』


 あれ? 急に音声がぷつりと途切れたぞ。

 もしかして通信状況が良くないのかな?

 おーい! 聞こえてますかぁ〜!?

 俺はトランシーバーに向かって大きな声を出す。


『……なぜ、お前がここに居る?』


 あっ、繋がった。

 通信状況が良くなったのかな?


「えっとツアーです。普通に見学してました」

『嘘をつけ! 最初から私たちの計画を知っていたんだろう!?』


 計画? 一体、なんの計画だ?

 俺は気絶したお姉さんのポケットから飛び出た手帳へと視線に向ける。

 んん? よく見ると間に挟んでいた紙切れがはみ出ているな?

 なになに? なんとかハッピー計画?

 はは〜ん。わかったぞ。これってアレでしょ。誰かの誕生日を祝うためのサプライズパーティーてやつですね。

 察しの良い事で定評のある俺は、一瞬でこの計画がフラッシュモブみたいなもんだと気がつく。


「すみません、皆さんの計画を邪魔するつもりはなかったんです。その代わりと言ってはなんだけど、気絶したお姉さん達の代わりに今から俺がそっちに向かいますね」

『は?』


 ここは1人の人間として、気絶したお姉さん達の代わりにサプライズパーティーを成功させるべきだろう。

 俺は悪いと思いつつも気絶してしまったお姉さんが持っていた手帳を開くと、中に入っていた地図を見つける。


「おっ、ここにマークがあるな」


 つまり、ここでフラッシュモブ的な何かをするんだろう。

 俺は地図に書かれたマークに向かって歩き出す。

 って、また腹が痛くなってきたぞ。これは相当ヤバいのを食っちまったな。

 肉はくゆらせるだけって言ってた天我先輩の言葉を信じた自分がバカだった。


「あっ!」


 俺が腹痛で屈んだ瞬間に、たまたま口が緩んでいたのかリュックに入っていた鉄アレイが飛び出て地面に転がっていく。

 すると目の前から猛スピードで降りてきたお姉さんの足に当たって、巻き込むようにして一緒に降りてきたお姉さん達4人くらいが頭を打って気絶した。

 そんな、パズルみたいな事、普通になる?


「えぇっ!? みなさん大丈夫ですか!?」


 俺は4人のほっぺたを叩く。うーん、これは完全に気絶してるな。

 くっ、携帯も圏外で何故か使えないし、この状況じゃ救急車も呼べない。

 仕方ない。俺は気絶したお姉さんのトランシーバーを手に取る。


「もしもーし! 白銀あくあです!!」

『……』


 あれ? おかしいな。通話は繋がってるはずなのに、声の反応がないぞ。

 とりあえず、不幸な事故とはいえ、ここは人として素直に謝るべきだろう。


「すみません。こっちにきたお姉さん達5人とも気絶しちゃったんで俺の代わりに救急車呼んでくだい。よろしくお願いしますね!」


 うん、これで大丈夫だろう。

 俺はお姉さん達が降りてきた階段に登っていく。

 くっそ、また腹痛が!

 俺が床に膝をつくと、背中に激しい衝撃を感じた。

 ん? 今なんか銃声みたいな音が聞こえてきたような。

 背負っていた軍用のリュックを見ると、何かを弾いた痕が残っていた。

 あれ? 中古で買った時に、こんな弾痕みたいなのあったっけ? まぁ、防弾性だし、軍で使ってたから俺が見逃してただけかもな。


「あっ、あっ……」


 うわっ!? どうしたんですか!?

 銃声のした方へと視線を向けると、何人かのお姉さん達がこちらを見て尻餅をついていた。

 はは〜ん。なるほどね。

 お姉さん達、意気込みすぎてサプライズ用のクラッカーをもう鳴らしちゃったんでしょ!

 って、クラッカーが暴発したのか、みんな手を怪我してるじゃないですか!?


「大丈夫ですか? 手当しますよ」


 俺が笑顔でお姉さん達に近づくと、みんなが一斉に泡を吹いて気絶した……。

 うわっ!? みなさん、大丈夫ですか!?

 よく見るとお姉さん達の周りには銃が転がっていた。

 へぇ、最近の拳銃型クラッカーって随分リアルなんだな。


「って、このままだと、サプライズパーティーの人数が足りなくなるじゃん!!」


 俺は地図に書かれていたマークの場所へと急いで向かう。

 その途中でも何度かの不幸な事故が起こり、俺と遭遇したお姉さん達が次々と気絶してしまった。


「こ……降参する!」


 俺が目標の場所に辿り着くと、最初にトランシーバーで話していたお姉さんが両手を頭の後ろで組んで両膝をついて待っていた。

 あれ? もしかして、俺、またなんかやっちゃいましたか?

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