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月街アヤナ、幽霊ホテル。

 朝、ホテルのレストランで朝食を取っていると、神妙な面持ちのココナちゃんが朝食ビュッフェのトレーを持ってやってくる。


「なんか、ここ、出るらしいよ……」

「えぇっ!?」


 で……出るって、アレの事だよね?

 ココナちゃんは椅子に座ると、周りの様子を確認しながら、私の方に顔を近づける。


「出るんだって、幽霊」

「そ、それって、本当に?」


 私とココナちゃんが話していると、後ろからパンとサラダが乗ったトレーを手に持ったリサちゃんが近づいてきた。

 リサちゃん、朝からちゃんと巻き髪にしてきてるのすごいな。


「ココナさん。朝から怖がらせないでくださいまし」

「だって、本当なんだもん。ココナも昨日、女の人の悲鳴みたいな声が聞こえたし……」


 リサちゃんが同じテーブルの椅子に座ると、和風朝食のトレーを持ったうるはちゃんが近づいてきた。

 うるはちゃんは同級生とは思えないくらい、すごくアンニュイな感じが出てる。

 その姿に思わず同性の私もドキドキしちゃう。

 さっきうるはちゃんとすれ違ったあくあが、ドキドキソワソワした顔をしていた気持ちがわかる。


「ふふっ、ココナちゃん、それ本当なの?」

「うん。さっきホテルのカウンターに居たお姉さんに聞いたけど、幽霊を見たってお客さんや従業員の人が何人もいるんだってさ」


 ココナちゃんは、ホテルの人から聞いた7不思議について語り始める。

 1つ、戦時中に死んだ兵隊の怨念か、真夜中のホテル通路を徘徊する八本腕の人影。

 2つ、ホテルで自殺しちゃった女性従業員が苦しむ声が聞こえる真夜中のリネン室。

 3つ、大火事になった時、避難中に逃げ遅れて亡くなっちゃった赤ちゃんの泣き声が聞こえる非常階段。

 4つ、結婚式をすっぽかされて放置された女性が徘徊する夜のチャペル。

 5つ、高級なお皿を割ってクビになった女性従業員が割ったお皿の枚数を数える真夜中のキッチン。

 6つ、改修工事で塞いだ隠し通路の入り口にかけられた目の光る絵画。

 7つ、至る所に現れる死ぬまで独身だったホテルオーナーの怨霊。


「これがこのホテルの七不思議なんだって」


 へぇ、そうなんだ。

 私は平静を装いつつスープの入ったカップを手に取る。


「あら? アヤナさん、カップを持った手が震えてますけど大丈夫ですの?」

「あっ、アヤナちゃん、怖いの苦手なんだっけ? ごめんね」

「だ、大丈夫」


 はっきり言って私は怖いのはあんまり得意じゃない。

 ううっ……私、今晩、1人でトイレに行けるかな?

 私はあくあの方へと視線を向ける。

 もし、私がトイレについてきてってお願いしたら、あくあはついて来てくれるかな?

 そんな事を考えていたら、あくあが私の視線に気がついてすぐに私のところへとやってきた。


「どうした、アヤナ?」

「ううん、ちょっとね」


 私が言葉を濁すと、ココナちゃんがあくあにみんなで幽霊の話をしていた事を伝える。


「なるほど、そういう事か……。まぁ、もしもなんかあった時は俺と天我先輩に任せろ! なんたって俺と天我先輩は日本のシャーマン、安倍晴明と蘆屋道満を演じていたからな!」


 あくあの方を見ていた乙女咲の生徒達が黄色い声をあげる。

 ふふっ、あくあの安倍晴明かっこよかったよね。


「だから、アヤナ、うるは、リサ、ココナ。もし、幽霊に遭遇したらすぐに俺の事を呼べよ!」


 あくあはそう言って自分のテーブルへと帰っていく。

 やっぱりあくあは頼り甲斐があるな。

 そういえば、前にあくあに怖いものってあるのって聞いたら、この世で俺が恐れるのは小雛先輩だけだ。って、真顔で言われたっけ……。


「ねぇねぇ、それよりみんな、今日の話なんだけど……」


 話題を切り替えた私達は、朝ごはんを食べた後の話に切り替える。


 そして、その日の夜……。

 私は急におトイレに行きたくなって目が覚めた。

 ううっ、こんな事なら寝る前に行っておけばよかったな。

 私達の泊まっているホテルは120年の歴史がある由緒あるホテルだけど、歴史がある分、いろいろとガタがきているらしい。今日もトイレの排水が故障して、2階にあるトイレ以外は使えないとホテルの人に言われた。

 私はベッドから体を起こすと、同じ部屋の月乃ちゃんの方へと顔を向ける。


「んん、もうご飯食べられにゃい……むにゃむにゃ」


 ふふっ、どんな夢見てるんだろ。きっと、楽しい夢を見てるんだろうな。

 私は反対側で寝ているいくちゃんへと視線を向ける。


「えぇっ!? そんな、あの捗るの正体がえみり様だったなんて……う〜ん、う〜ん」


 私は重度の掲示板民であるいくちゃんの寝言に真顔になる。

 さすがだよ。いくちゃん。起きたら忘れてるんだろうけど、夢の中とはいえ、真理に辿り着くなんてホゲった掲示板民達には無理です。

 私は悪夢にうなされていたいくちゃんにそっと優しくめくれたお布団をかけなおすと、お布団を飛ばして寝ていた月乃ちゃんにもお布団をかける。

 あれ? そういえばクレアさんは? 私は部屋の中にクレアさんが居ない事に気がつく。

 もしかしたら、クレアさんもおトイレかな?

 それなら、途中で会えるといいな。

 私はそんな事を考えつつ、みんなを起こさないように部屋を出る。


「な、何も出ませんように……!」


 私は手を握りしめて拝むと、エレベーターホールのある方へと向かってゆっくりと歩き出す。

 ううっ、なんで古いホテルとか高級ホテルってこんなにも通路が薄暗いんだろう。

 私がゆっくり、ゆっくりと通路を歩いていると、何かが倒れる音が聞こえてきた。


 えっ? 何!? 何!?


 私は音のした方へと視線を向ける。

 すると、通路の絨毯に八本腕の人間が浮かび上がった。

 えっ? えっ!? な、何かの見間違えよね……。

 本当は見るのも怖いけど、何かあったら大きな声をあげたらいいよね。

 私はもしも、何かがあった時のために物音がした通路の方に顔を出す。

 すると、そこには倒れた女の人が居た。


「きゃ」


 私が叫び声を出そうとした瞬間、誰かが私の口を塞いだ。

 あっ、待って。これ、やばいかも……。

 私は目をギュッと閉じると、心の中で「助けて、あくあ」と叫んだ。


「ん? だれかと思ったら、月街か?」


 えっ? その声は……?

 拘束から解放された私は後ろに振り向く。


「山……本先生?」


 生徒達から鬼の生徒指導と呼ばれている山本先生が私の顔を見て軽く息を吐く。


「月街、こんな時間にどうした?」

「えっと、2階のおトイレに行こうと思って……それよりも山本先生、この人は?」


 私は倒れている女の人へと視線を向ける。

 この人……すごく、おっぱいが大きい。


「何、おおかた、白銀とのワンチャンを期待して忍び込んできた熱烈なファンだろ。よくある話だから気にするな」


 山本先生は倒れていた女性に近づくと、気絶しているのを確認する。


「このゴミは先生が炭鉱……んんっ! この人は先生がちゃんと介抱しておくから、月街も気をつけるんだぞ」


 山本先生は倒れていた女性の足を掴むと、暗闇の中へと引きずっていった。

 そっか、私達はただ修学旅行を楽しんでるだけだけど、先生達は生徒達を守るためにこんな夜遅くまで見回りをしてたりするんだ。

 私は心の中で山本先生達に感謝する。


「ふぅ、もう何もありませんように……!」


 私は再び歩き始めると、通路の奥へと向かう。

 すると従業員専用と書かれたリネン室の奥から女の人が苦しむような声が聞こえてきた。


「……♡ ……♡ ……♡」


 えっ? なに!? なにっ!?

 私は恐怖から、両耳を手で塞ぐ。


「きゃーっ、あくあ様、素敵! 任務とか、もうどうでも良くなっちゃう!」


 あーあー、何も聞こえない! 何も聞こえない!!

 私は駆け足でエレベーターホールへと向かう。


「お願い、早く来て!」


 私はエレベーターの呼び出しボタンをカチャカチャと押す。

 もおおおおおおおおおおおおお! なんでこんな時に限って途中でずっと止まってるのよ!

 って、なんで上に来ずに下がっていくの!?

 もう、やだあああああああああ!

 私は近くにある非常階段の扉を開ける。


「おぎゃあ、おぎゃあ」


 ひっ! 子供の泣き声が聞こえてきた私は、恐怖でその場にへたり込む。

 もう、やだ……。私が目をギュッと閉じると、上から誰かが降りてくる足音が聞こえてきた。


「あれ? アヤナちゃん? こんなところでどうしたの?」


 えっ? この声は……?

 私が顔を上げると、子供を抱き抱えたカノンさんとペゴニアさんがキョトンとした顔で降りてきた。

 な、なんだぁ。お化けじゃなかったのか。

 私はホッと一息を吐くと、何事もなかったかのように声をかける。


「ふ、2人こそ、どうしたの?」

「ふふっ、子供達が珍しくぐずっちゃって、みんなを起こさないようにここであやしてるの。ね?」

「はい、お嬢様」

 

 そっか、赤ちゃんは夜泣きするんだっけ。

 もう! 何がホテルから避難しそびれた子供の怨念よ! ココナちゃんのばかぁ!!


「ところで、アヤナちゃんは……?」

「あっ、いや。おトイレに行こうとしたんだけど、エレベーターがなかなか来なかったから2階まで歩いて行こうかなって……。はは、じゃあ、そういうわけだから! 2人とも、おやすみ!」


 こんな事で怖がっていた自分が恥ずかしくなった私は、そそくさと階段を降りていく。

 そ、そうよね。お化けなんて迷信だし! きっと、全部ただの噂よ!

 私はリネン室の向こう側から聞こえてきた女の人の声を思い出して身震いする。

 だ、だけど、念の為に気をつけた方がいいわよね。うん……。

 階段を降りた私は、3階のフロアーに出る。

 ううっ、なんで3階から2階は別の階段を使わなきゃいけないのよ。


「えっと……確かこっちだっけ?」


 ううっ、なんで今日に限って誰もいないの?

 私はゆっくりと歩き出す。するとホテルの中にあるチャペルから女性の苦しむ呻き声が聞こえてきた。

 だ……大丈夫かな? 本当は怖いけど、さっきみたいに倒れてる人が居たらいけないし、念の為に確認しておいた方がいいかも……。

 私はそっとチャペルの中を覗き込む。


「あぁっ、これも神の思し召しなのですね……」


 月明かりに照らされたクレアさんが、シスター服で悶えていた。

 ここから先に踏み込んじゃいけない。

 真顔になった私は、何も見なかった事にしてその場を立ち去る。

 ある意味で、今晩見た中でこれが一番怖かったかもしれません。


「もう、流石に何もないよね……」


 私はチャペルを通り過ぎると、キッチンの前に近づく。

 ううっ、そういえばここって割ったお皿の枚数を数える女性従業員の幽霊が出るんだっけ?

 私はキッチンの奥でゴソゴソする人影が見えてビクッとする。

 あ、あの〜、じゅ、従業員の方ですよね? ねっ?


「いちまぁ〜い、にまぁ〜い、さんまぁ〜い……ひぃっ! 一枚足りなぁい!!」

「うわあああああああああああああああああああああああああ!」


 びっくりした私は腰を抜かしてへたり込む。

 もう、やだよぉ……。しくしく、しくしく……私は涙を流した事で少し冷静になる。

 待って。今、お皿の枚数を数える時に日本語じゃなかった? それにさっきの声……。


「あれ? アヤナちゃん、どうしたの?」

「……え、えみりさん?」


 えみりさんは手を伸ばすと、私の体を起こしてくれる。

 あれ? えみりさんってゆかり先輩と一緒に刑務所に居たんじゃ……。

 私の聞きたい事を察したえみりさんがなんともいえない顔になる。


「スタッフのみんなが、小雛パイセンはもう一生刑務所から出れそうにないから、帰っていいって……」

「あはは……」


 私はえみりさんの言葉に頭を抱える。

 ゆかり先輩、せめてお布団を畳むくらいはした方がいいと思います。


「そういえば、さっき何を数えて居たんです?」

「ああ、今回の出演料だよ。雪白えみりなら間にベリルが入ってくれるけど、素人の捗るとしての出演料は取っ払いだから……。あ、ちなみに私の数え間違いで、ちゃんと5万ありました」


 えぇっ? えみりさんの出演料が5日間でたったの5万!?

 ああ、そっか。雪白えみりじゃなくて、素人としてだから出演料が安いんだ……。


「それはそうとして、なんでキッチンにいたんですか?」

「いやぁ。せっかくなら帰る前に、修学旅行をしてるあくあ様達に記念のケーキでも作って帰ろうかなと、ホテルの人に頼んでキッチンを借してもらったんだよね」


 えみりさんは私に制作予定のケーキのスケッチを見せる。

 すっご……。こんなケーキ、パティシエの世界選手権でしか見た事がない。

 えっ? えみりさんは、これを1人で作るんですか……? ほへぇ……。


「ふぁ〜、それじゃあ仕込みも終わったし、カノンにサプライズしてから寝るわ。あっ、アヤナちゃん、サプライズだからみんなには内緒にしておいてね!」

「あっ、はい……」


 えみりさん、カノンさんに何をサプライズするのか知らないけど、絶対に怒られるから止めておいた方がいいと思いますよ。

 あと、この老舗ホテルって1泊で2万9800円くらいしませんでしたっけ? あれ? 2泊したらむしろ出演料マイナスじゃ……私はあまりの恐怖に言葉を失った。

 うん、もう深く考えるのは止めよう。真顔になった私は、2階に行く階段を目指す。


「ふぅ、なんとか2階についた」


 えっと、確かトイレはこっちだったよね。

 私はトイレのある場所に向かって歩く。

 すると、通路に飾ってある絵画に描かれた人物の瞳がきらりと光った。

 気のせい、気のせい……。私は自分にそう言い聞かせて、何も見なかった事にする。


 ガタッ! ガタッ!


 いやぁぁぁあああああああああああああああ!

 私は後退りすると、絵の反対側へと身を寄せる。

 うそ、目が光ってるとかいうレベルじゃない。懐中電灯くらいの光が目から漏れていた。


 ガタガタッ! ガタガタガタガタッ!


 目の前の絵画が激しく動く。私はあまりの恐怖に声すら出なかった。

 次の瞬間、目の前にあった絵画が落ちると、塞いでいた隠し扉がゆっくりと開いていく。


「しゃーっ! ついに脱出したわ!! ほら、あんた達も喜びなさい!!」


 ……ゆ、ゆかり先輩?

 作業着を着たゆかり先輩の後ろから、疲れた顔の美洲さんやレイラさん、まろんさん、イリアさんが出てくる。


「あれ? アヤナちゃん、どうしたの?」

「どっ、どうしたもこうしたもありませんよ。ゆかり先輩達こそ、どうしたんですか!?」


 えっ? カレーを食べる時のスプーンとかを使って、穴を掘って脱獄してきた?

 いやいや、そんなに苦労するくらいなら、普通に働いた方が絶対に楽だよ!!

 私はダメな大人を見る目でゆかり先輩達を見つめる。

 その視線に耐えきれなかったのか、バツの悪そうな顔をした大人達が私からスッと顔を背けた。


「はい、御苦労さん」

「ちょっと、なんであんたがここに居るのよー!」


 あぁ、やっぱりベリベリのスタッフ達に泳がされてただけなんだ。

 うんうん、あの完璧なベリベリのスタッフ達が、そんな杜撰な抜け道を用意してるわけないですよね。

 すぐに追ってきたインコさんがゆかり先輩達に縄をかけると、全員を一列にして来た道を戻って行った。

 ゆかりせんぱ〜い、みなさ〜ん、次はちゃんと働いてから真っ当に刑務所を出てきてくださいね〜!


「はぁ……」


 ただ、トイレにいきたかっただけなのになんかすごく疲れちゃった。

 私が再びトイレに向かって歩いていくと、トレイの目の前で人影を見かける。

 はいはい、次は誰ですか?

 流石に私も恐怖耐性がついてきたのか、簡単に怖がったりしなくなった。


「オトコ……オトコ ハ ドコダ!」


 男? 男の子達なら上に居るけど……ってぇ!?

 こっ、こっ、この人、足がない……! じゃ、じゃあ、本物の幽霊なんじゃ!?

 私は尻餅をつく。


「ひっく、ひっく……もぅ、ゃだぁ……あくあ、助けてぇ……」


 私が両手で両目を擦りながら泣きべそをかくと、遠くから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 嘘っ!? 私が呼んだら、本当にあくあが来た。

 あくあは猛ダッシュで現れると、私と幽霊の間に立つ。


「アヤナ、大丈夫か?」

「う、うん」


 トゥンク……あくあのかっこいい登場に私の心が跳ねる。

 あくあ、ありがとう。でも……あくあはなんでそんなに着衣が乱れてるの?

 もしかしてこんな時間にお風呂に入ってたのかな?


「あくあ、足元を見て。幽霊だから、物理攻撃は効かないかも……」

「大丈夫だ。こんな時のために、俺は肌身離さずアレを持って来てるからな!」


 そう言って、あくあは向かってきた幽霊に対して拳を突き出した。

 嘘!? 普通に幽霊の攻撃を受け止めた!?

 よく見ると、あくあは自分の拳にゆかり先輩からもらった【身体頑丈守】をつけている。

 あ、あれって、ちゃんと効果あるんだぁ……。


「くっ、やめろ! こんな事をしてなんになる!!」

「オトコ……オトコ ハ ワタシ ヲ エランデクレナカッタ!」


 そういえば、ココナちゃんが言ってたっけ。

 誰とも結婚できずに死んだオーナーの霊がホテルの中を徘徊してるって。

 私はあくあにそのことを伝える。


「そういう事か……。わかった。あとは任せろ! 女の子の事なら俺の専門だ!!」


 あくあは拳に巻きつけていた身体頑丈守を外すと、私の方へと投げつけた。

 ちょ、あくあ!? これがなかったら、相手の攻撃を受け止められないよ。


「聞け! 俺の名前は白銀あくあだ! どんな重たい女性の愛でも、この俺なら全て受け止めて見せる! さぁっ、来い! 誰にも愛されなかった? それなら俺がそれ以上の愛でお前を満たしてやる!!」


 あくあは両手を広げると、幽霊からの攻撃を全身で受け止める。

 それと同時に、幽霊の周りに澱んでいた怨念を浄化するように、その優しさで彼女の体を包み込むように抱きしめた。


「あり……がとう。こんな私を抱きしめてくれて……」

「任せろ。でかいのは愛でも身長でも俺の専門だ」


 あくあが幽霊のお姉さんに優しく抱きしめると、お姉さんはこの世に未練がなくなったのか、天国へと召されていった。


「アヤナ、大丈夫か?」

「あ、うん」


 あくあは腰の抜けた私をお姫様抱っこするように抱き上げる。

 そういえば、あくあはなんでこんなにも汗だくなんだろう?


「ぎくっ! いや、ちょっと、筋トレしてて……」

「ふぅん」


 こんな夜中に?

 あれ? なんかあくあの身体から嗅いだ事がない女の子の香りがする。

 もしかして、私の気のせいかな? ジト目になった私の視線から、あくあはスッと顔を背けた。


「そ、そんな事より、俺の部屋に来いよ。そっちのトイレは使えるから」

「あっ、今、誤魔化したでしょ。も〜っ!」


 その夜、あくあは幽霊が怖い私のために同じ部屋で眠ってくれた。

 翌朝、自分の部屋に帰ると、月乃ちゃんといくちゃんの2人にニヤニヤした顔で見られる。

 な、何よ。も〜っ!


「アヤナさん、よかったですね」


 そう言って、クレアさんが私の肩をポンと叩く。

 あ、あの……目にクマができてるけど、大丈夫?

 私は昨日見た事はさっぱり忘れて、修学旅行で感情が昂って眠れないのはわかるけど、ちゃんと休んだほうがいいと思うよとクレアさんに言った。


「そういえば、昨日の夜、宇宙の真理に触れるような壮大な夢を見た気がするんだよね。うーん……でも、何も思い出せない!!」

「へぇ、そうなんだ。いくちゃんと違って私なんか、ご飯を食べる夢しか見なかったよ」


 私はいくちゃんの言葉に苦笑いする。

 あの捗るの正体に気が付いてたなんて、口が裂けても言えないなと思った。

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https://x.com/yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
おもらし3回くらいチャンスがあった気がするがそんなことはなかったぜHAHAHA
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