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白銀琴乃、俺たち白銀一家。

 例のテロ事件が解決して数日が経ちました。

 もうそろそろあくあさん達も修学旅行から帰ってくる頃でしょう。

 私は白銀キングダムの自室に戻ると、テレビをつける。


「確か、今日だったわよね」


 今日は、あくあさん達が出演するコント番組の放送がある日です。

 私はチャンネルを合わせると放送時間が来るのを待つ。

 カノンさん達も録画している事でしょうが、念のために私も録画しておきます。

 これでえみりさんや楓さんが慌てて違う番組を録画していても大丈夫でしょう。

 楓さんが以前、間違えて読経の番組を録画していたのをみんなで見た時はお腹を抱えて笑いました。


「あ、始まった」


 舞台の照明が明るくなると、畳の上で寝転がるあくあさんの姿が映し出される。

 それを見た観客達から大きな歓声が上がった。

 みんな、いいなぁ。これ、私も見に行きたかったけど、関係者だから遠慮しちゃったんだよね。

 畳に肘をついたあくあさんはパラパラと雑誌をめくっていく。


『うぉっ!? アヤナの水着グラビアじゃん!』


 急に体を起こしたあくあさんは、雑誌を大きく開くと食い入るように顔を雑誌に近づけてガン見する。

 それを見た観客席からは大きな笑い声が上がった。

 この番組のタイトルは【白銀あくあの日常】と言って、あくあさんの日常を題材としたコント番組になっています。


『まろんさんの水着、ちいせぇ……。ふらんちゃんのこれとかも……。ていうか、これはもう何らかの罪でしょ』


 そう言って、あくあさんは開いた雑誌を観客席へと見せる。

 しかし、そこのページに写っていたのは、まろんさんではなくブーメランパンツを着た天我アキラさんでした。


『あ、間違えた。これ、天我先輩がしてるプロテイン飲料の広告だったわ』


 ここでまた観客席から漏れるようなクスクスという笑い声が聞こえる。

 さすがはあくあさんです。この番組のスポンサーである企業へのサービスにも余念がありません。

 場慣れしているというか、宣伝しつつちゃんと笑いに帰るところが上手だなと思います。

 おっと、舞台袖から誰かが出てきました。あっ、小雛ゆかりさんです。

 小雛ゆかりさんの登場に、観客席からも大きな笑い声が起きる。


『ちょっと! 今のどこに笑う要素があるのよ!! ただ、登場しただけじゃない! あんたら、次、笑ったらぶっ飛ばすわよ!!』


 早速観客席に絡む小雛ゆかりさんに大きな拍手が起こる。

 それと同時に小雛ゆかりさんが出て来た事を察して、頭を抱えたあくあさんの表情を見た数人の観客から「頑張れ、あくあ君!」「あくあ様、頑張ってー」と歓声が飛んだ。


『って、そんな事よりも、あくあ、いるー?』

『すみませーん。留守でーす!』


 ここで再び大きな笑い声と「いいぞー」という合いの手が起こりました。

 定番のネタとはいえ、私もついつい吹き出してしまいます。

 小雛ゆかりさんは再び観客席に視線を戻すと、笑ってる人達を睨みつける。

 こわっ……。一瞬で観客席が静かになりました。

 小雛ゆかりさんは無言で引き戸をこじ開ける。


『留守だって言ったじゃないですか!?』

『じゃあ、あんたはどこの誰よ。このおバカ!!』


 小雛ゆかりさんがあくあさんに飛びつく。

 あくあさんは抱きついて着た小雛ゆかりさんを背中に乗せると、そのままぐるりと回転する。

 それを見た観客席から「いいなぁ」「うらやま」「小雛ゆかり、そこ代われ!」という野次が飛ぶ。


『で、小雛先輩なんなんですか? 用がないならもう帰ってくださいよ。俺は今からeau de Cologneのグラビアを嗜みつつ男の時間を捗らせるんですから』


 あくあさんの嗜み捗る発言に、観客席が歓声と悲鳴と笑い声で大きく湧く。

 貴女達……もしや、掲示板民ですね? 私は一瞬だけ真顔になる。

 彼女達と同じ掲示板民である私は秒で察しました。


『用ならあるわよ! さっきそこで、とあちゃんと黛君が話してたけど、天我君が死んじゃったんですって!』

『えぇっ!?』


 あくあ君は驚いた顔を観客席に見せる。

 コントとはわかっていても、観客席からは悲鳴に近い声が聞こえてきた。


『待ってくださいよ。小雛先輩、それって生前葬とか、そういうオチじゃないんですか?』

『いやいや、さっき黒いスーツを用意しなきゃって2人で真剣な顔をして話してたもん』


 あくあさんは床に置いてあった雑誌を拾い上げると、さっきと同じ天我さんのページを開いてみんなに見せる。


『ほら、見てくださいよ。これ! どっからどう見てもピンピンしてるじゃないですか! えっ? こんな腹筋6つに割れてて直ぐに死ぬ事ある? どう見ても今すぐに死にそうな顔なんかしてませんよ!!』


 観客席からクスクスという笑い声が聞こえてくる。

 確かに白い歯を見せながらプロテイン飲料をグイ飲みする天我さんの絵面から死は想像できません。


『それこそ、俺なんか、この前、スカイダイビングしてパラシュートの紐が切れたけど、擦り傷くらいで無事でしたよ』

『それはあんただからでしょうが! 天我くんみたいな普通の男の子をあんたみたいな化け物と一緒にするな!!』


 あくあさんの“ネタ”に観客席から大きな笑い声が起きた。

 はは……ははは……。私は何ともいえない顔でテレビを見つめる。

 おそらくこの放送を同時に見ている人は、きっとみんな同じ顔をしている事でしょう。

 まさかこの番組の収録から放送開始までの間に、あくあさん本人もスカイダイビングどころじゃない距離から落下するとは想像していなかったと思います。

 しかもネタでは擦り傷などと謙虚な事を言ってますが、実際は擦り傷一つもなかったんですよね……。


『ほら、それよりもあんた葬式のスーツなんて持ってるの? 学生だから学生服でもいいと思うけど、いい機会だから買いに行くわよ』

『わかりました!』


 2人は自宅のセットを出ると舞台袖に引っ込む。

 すると、ステージが回転して、隣にあるステージの照明が点灯した。

 なるほど、ターンアラウンド式ですか。

 服飾店の舞台に、奥の舞台袖からヨボヨボのお婆さんが出てくる。

 って、アレ、インコさんじゃないですか!?

 観客席のみんなは気がついてないけど、お婆さんの特殊メイクをしたインコさんです!!


『お婆ちゃん、いるー?』

『そこは普通、邪魔するで〜、やろ!』


 インコさんのツッコミを聞いた観客席が少しだけざわめく。

 きっと数人が声だけでインコさんだと気がついたのでしょう。


『それだけ元気なら大丈夫そうね』

『いや、今、天国からのお迎えが来たようや。ありがたや〜ありがたや〜』


 インコさんは手を合わせると、小雛ゆかりさんと一緒にお店に入ってきたあくあさんを拝み倒す。

 日常の家庭ではよく見る光景なのでしょう。おばあちゃんと暮らしている女性達から笑い声が漏れる。


『ねぇ、お婆ちゃん。それよりも葬式の服が欲しいんだけど』

『えっ?』


 耳が遠いという設定なのか、お婆さん役のインコさんは耳の裏に手のひらを当てる。

 小雛ゆかりさんはそこに顔を近づけると、ゆっくりと大きな声で話しかけた。


『そ・う・し・きの服が欲しいんだけど! あるかな!?』

『あー、はいはい。なるほど、ちょっと待っててくださいね』


 インコさんは舞台袖に引っ込むとすぐに戻ってくる。


『用意できましたよ。どうぞ試着室の中で着替えてきてください』

『ありがとうね。おばあちゃん』

『助かります!』


 あくあさんと小雛ゆかりさんの2人は揃って舞台袖へと消える。

 ふーん、よく見たらセットの看板にブティックインコって書いてあったり、所々にホロスプレーのグッズが小物として置かれていて芸が細かい。

 流石にこの頃には観客席のほとんどがインコさんだと気がついています。

 それを知ってか、この待ち時間の間にインコさんは観客席に向かって話しかける。


『この特殊メイクすごいやろ? うちも自分で鏡見てびっくりしたで。調子に乗って、おかんに写真送ったら、死んだヒイおばあさんが化けて出たって、段差でひっくり返って今、病院や。足の指の骨折でよかったけど、うちどころ悪かったら、こんなコントやっとる場合とちゃうで。本当に葬式にならんでよかったわ』


 ちょっと待ってください。インコさん。

 ネタがブラックというかシュールというか、それって本当に笑っていいやつなんですか!?


『おっ、そろそろ準備できたみたいやな。どうー? 2人ともちゃんと着れましたかー?』

『着たのはいいけど、これなんか違うくない!?』


 そう言って、あくあさんと手を繋いだ小雛ゆかりさんが出てきました。

 あ、あれ? その格好ってお葬式というよりも……。


『ちょっと待って。よく見たら、これ子供サイズじゃない! ていうか、どっからどう見てもお葬式じゃなくて卒園式じゃないの。もう!!』


 小雛ゆかりさんのツッコミに合わせて全員が爆笑する。

 ふふっ、でもよく似合ってますよ。ふふふっ。

 私は笑いを堪えつつも隣に居るあくあさんへと視線を向ける。

 スーツ姿に七三眼鏡のあくあさん、パパって感じがしてものすごくポイントが高いです。

 もし、カノンさんが見ていたらその悲鳴が私の部屋まで聞こえてきたでしょう。


『今日は娘の卒園式か。ゆかり……大きくなったな』

『急に私のパパになるんじゃないわよ。ばか! それと今、私の胸見て大きくなったって言ったでしょ。この変態! スケベ!』


 小雛ゆかりさんは咄嗟に膨らんだシャツの胸元を両腕で隠すと、隣に居るあくあさんをキッと睨みつける。

 ふふっ、小雛ゆかりさんの幼い格好のせいもあってか、この2人の定番化したやり取りに観客席からも微笑ましい笑い声が聞こえてきた。


『お婆ちゃん、卒園式じゃなくて、お・そ・う・し・き、わかった?』

『はいはい、わかってますよ』


 インコさんは舞台袖にもなっている試着室の方に手を向ける。


『次こそ、大丈夫でしょうね?』


 小雛ゆかりさんはジト目になりつつも、あくあパパを連れて試着室になっている舞台袖へと引っ込む。

 2人が舞台袖に消えるのちゃんと確認したインコさんは、もう一度観客席の方へとを顔を向ける。


『あいつ、卒園式の格好、普通に似合っとったな。次はランドセルでも背負わせてみるか?』


 観客席から笑い声が聞こえてくる。

 ふふっ、普通に似合いそう。

 小雛ゆかりさん、黙ってたら普通にかわいいですしね。

 そんな事を考えていたら、ステージの上に携帯の着信音が鳴り響いた。


『みんな、ごめん。入院してるおかんから電話や』


 って、コントの最中だけど、普通に電話に出るの!?

 電話が鳴った事にも驚くけど、なんてフリーダムなんだろう。

 さすがは悪夢の世代です。観客席の皆さんも苦笑するしかありません。


『もしもし、おかん? もう治ったか? えっ? そんなすぐ治るわけない? わかってるって、軽い挨拶みたいなもんやんか。それより、骨折した私の代わりに葬式出てくれって? おかん、葬式のコントやってる時にややこしい電話かけてくるなって! それ本当に葬式やろな!? ベリベリのドッキリとちゃうんか!? えっ? 結婚式の間違いやった!? どっちやねん、もう!!』


 笑っちゃいけないと分かりつつも、あまりのミラクルに観客席から笑い声が起きる。

 インコさん正解です。ベリベリのドッキリですよ。それ。

 さすがはテロリストより綿密な計画を立てるベリベリのスタッフです。

 さっき掲示板を覗いたら【ベリベリのスタッフ>>>(絶対に越えられない有能の壁)>>>テロリスト(笑)】っていうスレがもう立ってました。

 インコさんは適当に電話を切ると、舞台袖の様子を確認する。


『おっ、準備できたみたいやな。それでは、2人とも出てきて』


 うわぁっ! 舞台袖から手を繋いだ2人が出てくると大きな歓声と悲鳴が上がる。


『ゆかり! あくあ君! 結婚、おめでとう!』

『ちょっと! なんで私がこいつと結婚しなきゃいけないのよ!!』


 純白のウェディングドレスに身を包んだ小雛ゆかりさんが、手に持っていたお花のブーケでインコさんをポカポカしようとする。

 それを純白のタキシード姿のあくあさんが制止した。


『まぁまぁ、小雛先輩いいじゃないですか。もう、面倒くさいから、このまま結婚しちゃいましょうよ。どうせ一緒に住んでるんだし』


 あくあさんの言葉に観客席のみんなが吹き出す。

 それと同時に隣の部屋に住んでいる結さんの笑い声も聞こえてきました。


『するか、バカ! あんたが私と結婚なんて、数百年早いのよ! せめて、私があっと驚く演技をしてからプロポーズしなさいよね!!』


 ふふっ、小雛ゆかりさんのこれは本音なのか、照れ隠しなのかは分かりません。

 でも、カノンさんも言ってたけど、満更じゃないと思うんですよね。あの小雛ゆかりさんなら、たとえコントだとしても、そういうネタを振られて嫌だったらもっと冷えた目で見てくるはずです。


『それよりインコ!』

『インコちゃう。おばあちゃんや。ゆかり、設定はちゃんと守ろ』


 インコさんの冷静なツッコミに笑い声が漏れる。


『あー、もう! そんなのどうでもいいから! それよりも私、お葬式って言ったよね!? お葬式と結婚式とか全然違うじゃない!! これでお葬式に行ったら、私たちだってどういう顔していいかわからないし、周りの人だってどういう反応をしたらいいかわかんないでしょ! あんた、そこのところちゃんと責任取れんのよね!?』

『わかってるって。ほら、ちゃんと下の用意してあるから』


 インコさんは試着室になっている舞台袖へと手を向ける。

 それを見た小雛ゆかりさんがジト目になった。


『今度こそ、本当に大丈夫でしょうね?』

『大丈夫やて。これ以上引っ張るともう時間ないもん。はよ終わらんと、次の予定もあるし』


 急にメタ的な発言はやめてくださいよ。

 渋々舞台袖の試着室に引っ込んだ小雛ゆかりさんが直ぐに戻ってくる。


『ていうか、あくあの格好は別に最初ので良かったでしょ! 黒スーツだったし! なんで、あいつわざわざ白のタキシードに着替えたのよ!!』


 ははは、観客席からも笑い声が聞こえてくる。

 小雛ゆかりさんは言いたい事を言えたのか、もう一度舞台袖の試着室へと消えていった。


『あいつ、本当に女優か? お笑い芸人やろ!』

『それは、お前もや!』


 観客席からのツッコミに目を丸くしたインコさんを見て、大きな笑い声が起きる。

 ふふふ、皆さんが大笑いするのも分かります。

 だって、インコさんってVtuberなんですよ。

 特殊メイクしているとはいえ、なんで生身で出てきてるんですか……。


『お前、今、つっこんだやつ、大阪か兵庫かわからんけど関西圏出身やろ!! 観客席からツッコミがくるなんて前代未聞やで。もう、無茶苦茶や!』


 インコさん、心配しなくても小雛ゆかりさんとあくあさんを起用した時点で最初から無茶苦茶です。

 確かこのコントだって題材だけあくあさんが決めて、あとはキャストのアドリブでっていう感じだったんですよね。台本なしでここまで成立するのをみると、この2人が中心のコントなら、もうなんでもいけちゃうのかなと思いました。

 そんな事を考えていると、舞台袖からあくあさんと小雛ゆかりさんの2人が出てくる。


『着替えてきたわよ』

『おー、似合っとるで。馬子にも衣装ってやつやな!』


 どうやら今度はちゃんとした衣装のようです。

 これならお葬式でも問題ありません。


『ほら、特別サービスや。香典用の袋と数珠もつけとくで』

『ありがとね。おばあちゃん』

『ありがとうございます!』


 そう言って2人は店を出ると、反対側にある来た方向の舞台袖へと帰っていく。

 ここでまたステージが回転すると、お葬式のセットが組まれたステージにチェンジした。

 いいですね。


『なんみょ〜ほんげ〜』


 聞き覚えのあるお経の声だなと思ってたら僧侶の格好をした楓さんでした。

 呆芸(ホゲ)経と書かれた看板を見て、ついつい私も真顔になります。

 大丈夫ですか、これ? 色々と問題になっちゃったりとかしませんよね?

 観客席の皆さんも笑いたくても、ネタがスレスレすぎて声を殺して笑っています。


『あくあ、ついたわよ。きっと、ここね』

『本当ですか? 俺の脳裏にブーメランパンツ姿の天我先輩がこびりついてて、いまだに信じられないんですけど……』


 あくあさんは戸惑いつつも、小雛ゆかりさんの後を追ってお葬式の会場へと入る。

 すると舞台袖からスーツを着たえみりさんが出てきました。

 楓さんといい、2人とも何やってるんですか……。


『本日はお忙しいところを、故人白銀カノンのお葬式に参加するために、ありがとうございます』


 真顔のえみりさんは、観客席に向かって白黒で撮影されたカノンさんの遺影写真を見せる。

 もう! 絶対、本当に本人に許可を取らずにやってるでしょ! 後でカノンさんに怒られて、丸1日、ううん、3時間くらい口を聞いてくれなくなって泣きついてきても私は知りませんからね!

 カノンさんの名前を聞いたあくあさんは慌てて小雛ゆかりさんに話しかける。


『ちょっと待ってくださいよ。小雛先輩。天我先輩のお葬式じゃなかったんですか?』

『いや、私もそう聞いたけど……もしかしたら会場を間違えちゃったのかも』


 ヒソヒソ声で話し合う2人を見て、観客席から笑いが漏れる。

 あくあさんは小雛ゆかりさんから身体を離すと、えみりさんへと声をかけた。


『あのー、念の為に聞きたいんですけど……うちのカノンは、どういう理由で死んだんですか?』

『尊死です』


 えみりさんがキリッとした顔をすると、観客席の皆さんも耐えきれずに大爆笑してしまう。

 ふふっ、ふふふっ、カノンさんには申し訳ないけど、カノンさんならありそうだなと思って私も思わず吹き出しちゃいました。

 それと、意味がわからずにポカーンした顔をしているあくあさんが面白すぎます。


『尊死? えっ? うちのカノンは何が尊くて死んだんですか?』

『それはいえません。墓場まで持っていく乙女の秘密ってやつです』


 観客席の皆さんからの笑い声が聞こえてくる。

 ねぇ、観客席の皆さん。やっぱり、貴女達、みんな掲示板民ですよね?

 素直に白状してください。

 それと、えみりさん。ここまでヒント出ててえみりさんが捗るだってバレないのはもう奇跡だと思います。

 えみりさんは2人を中に案内すると、棺桶の覗き窓を開く。


『ほら、見てくださいよ。綺麗な顔してるでしょ。死んでるんですよ。これで』


 本人居るんかい! 思わず私もインコさんのノリで突っ込んでしまいます。

 カノンさんも、みんなに誘われたからって少しは仕事を選んでくださいよ!!

 観客席の皆さんからの、苦しむような笑い声が聞こえてくる。

 えみりさんはあくあさんに顔を近づけると、観客席に聞こえるように囁く。


『あくあ様、今なら、死んでるんで好きなだけカノンにチューしても大丈夫です』

『な、なんだって!?』


 あくあさんは急にソワソワした顔をすると、棺桶の中で眠ってるカノンさんへと唇を近づける。

 それを見た観客席からは黄色い悲鳴が聞こえてきた。

 すると近くに居た小雛ゆかりさんがあくあさんの体を引き離す。


『何やってんのよ、このおバカ! カノンさんだって、動いていいのかどうかわからずに困ってるじゃない! ほら、行くわよ!!』

『えぇっ!? そ、そんなぁ〜』


 小雛ゆかりさんに引きずられていくあくあさんを見て笑い声が起きる。

 ここで再び2人が舞台袖に引っ込むと、ステージが回転して次の舞台へと切り替わった。


『どうやら、ここのようね』

『本当ですか? また違う人のお葬式じゃないですよね?』


 あくあさんは怪訝な顔をして会場に入っていく。

 するとスーツを着たとあちゃんと黛さんが出てきました。

 もちろん会場にいる観客席の皆さんは、きちんと髪をセットしたスーツ姿の2人を見て沸きます。


『あの〜』


 小雛ゆかりさんが受付に話しかけようとしたところで、何かに気がついたあくあさんが目を見開く。

 あくあさんは慌てた素振りで小雛ゆかりさんの腕を掴むと、そのまま舞台の端っこへと連れて行きました。


『ちょっと、何よ?』

『ちょっと、何よ? じゃ、ありませんよ、小雛先輩! ほら、あそこの看板見てください!!』


 あくあさんが看板を指さすと、怪訝な顔をした小雛ゆかりさんがそちらへと視線を向ける。


【天我アキラさん、桜庭春香さん。ご結婚おめでとうございます!!】


 その言葉を見た小雛ゆかりさんは目を見開き、口を大きく開ける。

 もちろん観客席は大笑いしています。


『どうするんですか、これ!?』

『どうするもこうするも……とりあえず、あんたはそのネクタイ外した方がいいわ。黒いのは流石にアウトよ!』


 小雛ゆかりさんに言われて、あくあさんは慌ててネクタイを外す。

 あくあさんは外したネクタイをもう一度首に巻くと、強引にリボン結びした。


『ていうか、小雛先輩の全身黒もまずいでしょ!』

『ちょっと待って』


 小雛ゆかりさんは周囲をキョロキョロすると、舞台袖から出てきたばかりの美洲さんを引きずって舞台袖へと向かいます。


『ちょっと、あんたの着ているアイスブルーの服をよこしなさい! 力づくでも奪うわよ!』

『な、なにをするきさまーっ!』


 何食わぬ顔でアイスブルーの服を奪い取った小雛ゆかりさんが着替えて出てくる。

 えっ? もしかして美洲さんの出番ってアレで終わりなんですか?

 大女優の無駄遣いに観客席もざわめく。


『ふぅ、念願のアイスブルーの服を手に言われたよ』

『いやいや、今、普通に叫び声が聞こえてきたけど、ちゃんと穏便に解決したんですよね!?』


 小雛ゆかりさんはあくあさんの問いにそっぽを向くと口笛を吹く。

 それを見た観客席の皆さんも我慢出来ずに笑ってしまう。

 とあちゃんはニコニコした顔で、様子のおかしい2人へと近づいてくる。


『あのー、どうかしましたか?』

『い、いえ。その、あはは、ちょっと手違いがありまして……』


 お葬式と結婚式を間違えるなんて手違いどころの問題じゃありません。

 とあちゃんは首を傾けると、2人が手に持った数珠へと視線を向ける。


『あれ? その数珠……』

『あー、すみません。えっと……これは違うんすよ。さっきそこで、パワーストーンだって言われて買ったやつで、その、葬式とか、そういうのじゃないですから!』


 あくあさんと小雛ゆかりさんは慌ててポケットの中に数珠を隠す。

 って、よく見たら、小雛ゆかりさんの数珠に血糊がついてる!!

 芸が細かいけど、やっぱり無理やり奪い取ったんじゃないですか!

 今度はとあちゃんの後ろに居た黛君が前に出てくると、2人に向かってお辞儀をする。


『そうでしたか。本日はお忙しい中、ありがとうございます』


 黛君は両手を差し出すとニコリと微笑む。


『あっ、ご祝儀ね。ってぇ!!』


 あくあさんは再び慌てた素振りで小雛ゆかりさんを舞台の端っこへと連れていく。


『なによ。今度はどうしたっていうのよ!?』

『いやいや、これ見てくださいよ。流石に結婚式で香典はまずいでしょ!』


 観客席から大きな笑い声が聞こえてくる。

 流石にこれはどうするんだろうと思ってたら、ここで小雛ゆかりさんがミラクルな技を繰り出しました。

 さっき数珠についた美洲さんの血糊を水引につけて強引に赤色にします。

 すごい。しょうもないけど、芸が細かいです。


『ありがとうございます。それでは、中にどうぞ』


 あくあ君達が式場のセットの中に入ると、タキシードを着た天我さんとウェディングドレスを着た春香さんの2人が出てきました。

 えぇっ!? 天我さんはともかくとして、春香さんも出てくるなんて驚きです。

 2人の登場に観客席から暖かな拍手が送られます。

 天我さんは拍手が鳴り止むのを待つと、マイクをとって会場へと視線を向ける。


『天我アキラです。皆さんにはちゃんとご報告ができていなかったので、この場を借りて桜庭春香さんと入籍した事をご報告させていただきたいと思います。今後、ますます頑張っていく所存ですので、できれば、応援のほど、よろしくお願いします!!』


 観客席からの拍手が大きくなる。

 さっきまでのコントは本当になんだったんだろうって気分になってきました。

 でも、最後の最後のオチがこういう形で笑顔にさせてくれるのは悪くないですね。

 私もテレビに向かって拍手する。


『天我先輩! 春香さん! 改めて、ご入籍、おめでとうございます!』


 あくあさんの一言に合わせて舞台袖から今日のキャストの人達が出てくると、2人に向かって暖かな拍手を送る。

 これでめでたく大円団……かと思いきや、キャストの1人が足りません。

 あれ? インコさんはどこに行ったんですか?


『あれ? そういえば、インコは?』


 舞台袖からスタッフの1人が出てくる。

 あっ、あれはインコさんのマネージャーさんです。


『骨折したお母さんの代わりに、結婚式に行ったらしいです』


 その一言に、ステージにいた全員がずっこける。

 なるほど、そういうオチでしたか。


『もおおおおお! コントの最中にややこしいことしないでよ! あのばかーーーーー!』


 小雛ゆかりさんのツッコミと共に、EDテロップが流れる。

 ああ、みんな、早く帰ってこないかな。やっぱりみんなが居ないと、ちょっと寂しいです。

 私はいつもの騒がしい白銀キングダムを思い出して笑顔になる。

 眠たくなった私はベッドに入ると、みんなが無事に帰って来る事を祈りながら眠りにつきました。

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