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幕間、白銀カノン、ずっとハジメテ。

※清楚代表クレアさんが暴走してしまったので番外編をお送りいたします.

「カノン、デート行こうぜ!」

「え?」


 それは私が出産して1年以上経ったとある日の事だった。

 すぐに出てきたペゴニアとえみり先輩が私から子供を奪う。


「ぐへへ。今から次期検証班としての英才教育しておかないとな」

「ちょっと、えみり先輩! 私とあくあの子供に変な事しないでくださいよ!」


 嗜みちゃん大勝利の子守唄って何!? 後、子供に楓先輩の事なんて教えちゃダメ!! ホゲるかもしれないでしょ!

 ペゴニアは私をデート用の服に着替えさせて髪とメイクをセットすると、お泊まりになってもいいようにとトランクケースごと私を家からポイっと放り出す。

 もー。ペゴニアってば、なんか最近、私の扱い悪くない?


「お、カノン。準備できたか?」

「あ、うん」


 外に出たら免許を取ったばかりのあくあが車を綺麗に洗ってた。

 私は革張りのトランクケースを後ろのキャリーに乗せるとバンドで固定させる。

 雑誌を見てクラシックカーがいいなあと言ってたあくあは、うちのお婆ちゃんが生まれるよりも前の時代に作られたようなオープンカーを買ってきた。

 私は車に似合わない初心者マークを見てニコリとする。


「じゃあ、行こう!」

「うん、行こう!」


 そういえば、あくあはどこに行くつもりなのだろう?

 ついてからの楽しみだってあくあが言うから黙っていると、私のよく知った場所が近づいてきました。


「これって……」


 私は会場がある建物の入り口に設置されたゲートの看板を見て目を輝かせる。


「ジャパンホビーフェスだよ。カノンって、こういうの好きだろ?」

「うん!」


 そっか……。これって今日だったんだ。

 子育てとか他にも色々とやる事があって、完全に忘れちゃってた。


「あ、あくあ様と嗜……カノン様だ」

「え? 嗜……カノン様だって?」

「カノン様、今日も可愛い!」

「今日のカノン様の服と髪って、ザンダムであくあ演じるクルス・レオンの恋人だったレイゼン・ニーナ意識してるよね」

「あ、わかる」


 あ、あ〜! 言われてみて気がついた。

 確かにこの服装は第11話の……って、そうじゃない。

 むぅ。やっぱり、ペゴニアはどこに行くかも含めて全部知ってたんだね。

 どうりで手際がいいなぁって思ったんだよ。


「ほら、中に入ろうぜ」

「あ、うん」


 よくみたらあくあの格好もレオンのデート服と雰囲気似てるし、どっからどうみても合法コスプレ合わせデートルックじゃん。

 私は心の中でペゴニアにありがとうと感謝の言葉を囁く。


「みてみてあくあ! ザンダムのプラモがいっぱいある!!」

「はは、よかったな。ほら、あれなんかすごいんじゃないか?」


 あ、本当だ! 私はプラモが飾られたショーケースに近づく。

 すごい。塗装がめちゃくちゃ綺麗だし、アニメと寸分違わぬ立ち姿に強いこだわりを感じます。

 これのモチーフになった回はラストのエピソードに繋がる5話くらい前の話で、かっこいい戦闘シーンが多いザンダム好きにたまらない神回だった。

 一体、誰が作ったんだろう? 私は作品名と製作者が書かれたプレートへと視線を向ける。


 タイトル:これが主人公

  製作者:9n2

 コメント:この回のこのシーンが1番好きなので頑張りました!!


 めちゃくちゃ知り合いですぐに視線を背けた。

 私が視線を外した事情を知っているのか、周囲にいる人たちが口元に手を当ててクスクスと笑う。

 ちょっと! この人達、全員、掲示板民でしょ!! もーっ!


「俺、この話のレオンは一番好きだったな。いつもは感情をあんまり出さないレオンの本音が見えて、それがここから最終話にかけての演技に繋がったんだよ」

「へぇ、そうなんだ」


 あくあの話を聞いて、周りに居た女子達が一斉にスマホを弄り出す。

 うん、みんな、わかるよ。放送終了してから1年経ってるのに、こういう裏話が出るのが一番嬉しいんだから。

 私は隣に飾ってあったプラモへと視線を向ける。


「……これ、すごい」


 全ての戦いが終わった後。完全に破壊されたザンダム達の残骸が宇宙を彷徨ってるシーンが完全に再現されている。

 え? これって、どうなってるの? こんな小さな破片一個一個、空中に浮くわけないし……って、よく見たら、これ、ケースの中に透明の樹脂か何かを流し込んで作ってるの!?

 しかも一個ずつ破片の位置を確認しながら作ってるし、これ絶対に作るの大変だったよ。

 よく見たら本編の構図にはなかったシーンだけど、そこも含めてセンスがいいなって思った。

 私は製作者の書かれたプレートに視線を向ける。



 タイトル:おやすみなさい。

  製作者:オ……プラモ捗る

 制作協力:チ……プラモスキー/私がぱわーで残骸を作りました

 コメント:ぐへへ! ボロボロになったザンダムって、なんか、えっ!? くないっすか?



 これは、せっかくの良作がコメントと製作者で台無しになる珍しいパターンだ。

 撮影可能エリアだった事もあって、みんなが姐さんとえみり先輩が制作したプラモの写真を撮っています。


「これもいいなあ。だけど知ってる? この最後のシーン。よく見ると残骸に紛れて、デプリの回収ロボットが浮遊してるんだよね。ハ……監督に聞いたら、せっかく戦争が終わっても悪さする奴は絶対にいなくならなくて、そういう奴がザンダムの残骸を回収して、また新しいザンダム作ってるっていう皮肉をこめてるんだってさ」

「「「「「「「「「「は!?」」」」」」」」」」


 あくあの爆弾発言に、その場にいた全員が声を出す。

 体をビクッとさせたあくあは、みんなどうしたの? って、顔で周囲をキョロキョロする。

 いやいやいや、そんな事実、今まで知らなかったんだけど!?

 え? 待って。私、このシーン100回くらい見てるし、なんならスローでコマ送りしたけど、デプリの回収ロボットなんて浮遊してたっけ。


「あ、そういえば、デプリの回収ロボットって本放送の1日前に削除されたんだっけ。確か手違いでどうたらこうたらって……い、今の話は忘れてくれ」


 いやいや、忘れる事なんてできないよ!

 えみり先輩が無意識に作ったプラモでとんでもない燃料が投下される。

 別にえみり先輩は一ミリも悪くないんだけど、えみり先輩が関わるといつも何かが起こっちゃうんだよね。


「おっ、そんな事よりあっちに物販コーナーがあるみたいだぞ」


 私は物販コーナーに入ると目を輝かせる。

 ジャパンホビーフェスコラボのプラモはマストバイだとして、剣崎の新しい6分1フィギュアも欲しいよね。

 それとあくあが乗ってたF1マシーンも欲しいし、スターズウォーのブロック玩具も……。


「あ……」


 久しぶりのヲタ活にのめり込みそうになっていた私は、あくあの事を思い出して我に帰る。


「ごめん、あくあ」


 私はしょんぼりした顔であくあに謝る。


「ん? どうかした?」

「えっと、あくあと一緒に来てるのに、自分ばっかり、なんか、ごめん」

「いいっていいって、俺も普通に楽しんでるからさ。ほら、この白銀キングダムとかベリルインワンダーランドのブロック玩具とか良くね? めちゃくちゃ高いしでかいけど、みんなで作ったら楽しくないかな?」

「楽しいと思う!」


 えへへ。みんなで一緒に作ってるところを想像したら、それだけで楽しい気持ちになってきた。

 私はあくあの言葉に甘えて、自分の欲しかったものを買ってもらうと、2人でレジに並ぶ。

 そこであくあと私はとあるフィギュアを見て固まった。


「限定1個の等身大カノンフィギュアだとおおおおおおおおおおおおお!」


 あくあは触らないでくださいと書いてあった私のフィギュアに抱きつこうとする。

 すごい。ちゃんと可愛く作ってくれて嬉しいけど、私、こんなの許可した覚えがないんだけど!?

 一体どこのメーカーが作ったのよ! 私は制作しているメーカーが書かれた商品札へと視線を向ける。


【EMIPLEX+ × ベリルエンターテイメント】


 ふーん、とりあえず制作した犯人が誰かは秒で分かったけど、ちゃんとベリルが関係してるって事は今回の展示用に作られたってことかな?

 よく見ると非売品って書いてあった。

 うーん、まぁ、誰かに売られるんじゃないなら別にいっか。ちょっと恥ずかしいけど……。


「これ、買います!」


 いやいや、あくあ、これ、非売品って書いてあるよ!?


「わかりました! 非売品だけど、どうにかします!! この世にあくあ様に買えないものはないですから!!」


 店員さん!?

 私はあくあの袖をくいくいと引っ張る。


「あくあ、あんまり店員さんを困らせちゃダメだよ。ほ、ほら、フィギュアじゃないけど、本物の私がいるんだし、その、フィギュアでしたい事だって、私でしていいんだよ?」

「ありがとう、カノン。でも、でもな……! 俺はこのカノンのフィギュアが、何かの手違いで誰か他の男に触れられたりするのが絶対に嫌なんだ!!」


 えっ、そ、それって、たとえフィギュアであっても、他の男性には私の事を触らせたくないってこと!?

 私は嬉しくなって顔を赤くする。

 別にフィギュアくらい触られたって構わないけど、あくあにそんなに想って貰えている事が嬉しかった。


「ごめん、カノン。俺は図体ばかりデカい癖して、そんな事でさえ嫉妬しまうほど器の小さい男だ。でも、それくらい俺はカノンを愛してる。カノン、好きだ!」

「あくあ……!!」


 どうしよう。私、今、すごく幸せかも。

 結婚して、出産して、子育して、ママになったはずなのに、まだ1人の女の子として私の事を見てくれてるんだって思ったら、体がすごく熱くなってきた。


「だからこれは俺が回収します」

「はい! もう全責任は私が、いえ、私達が取るので、どうぞ持って帰ってください!!」


 レジに対応していたスタッフ達全員がその場で最敬礼する。


「いえ、責任は取るから安心してください。それとも店員さんは、俺が女性や愛する人に責任を取らせる男に見えますか? 俺はね、自分が関わった全ての事において責任を取る男、白銀あくあですよ!!」

「きゃー! あくあかっこいー!!」


 あ、あくあ様の限界ヲタク勢でもある素の自分が表に出ちゃって、思わず声に出ちゃった。

 それを見ていたレジに並んでいるお客さん達が一斉に声を出して誤魔化してくれる。


「あ・く・あ! あ・く・あ!」

「これが女を泣かせる。いや、嬉し泣きしかさせない男、白銀あくあですよ!」

「あくあ様なら好きになったから責任とってくださいって言っただけで入籍してくれそう」

「わかる。でも、あんまり迷惑かけたくないから、そういうの言えない」

「やっぱりあくあ様とカノン様が鉄板なんですよ」

「あくあ様って、カノン様から一夫多妻OKって言われてなかったら、絶対に死ぬまでカノン様一筋だったと思う」

「実際そうだしね。カノン様が結婚した直後に、2番目3番目を狙ってたセクシーな女優さん達が何人か電話番号を書いた紙を渡そうとしたけど、カノンが悲しむから言って拒否してたみたいだし。最近、その女優さんが配信で暴露して、やっぱり白銀あくあってちょーかっこいいわって言ってたもん」

「そういうとこなんですよ」

「流石はインタビューで女性に惚れられたら、惚れさせた男が悪いって言うだけの事はありますわ」

「そういえばこの前、あくあ君がとあちゃんやマユシン君とゲーム配信してた時に、最終的に自分の手に負えないくらいの女性達から星の数ほどのアプローチされたらどうするのって聞かれた時に、俺はもうこのコスモと結婚してるから。全員、俺の嫁でいいだろって言ってたっけ」

「「「「「きゃー! あくあ様、かっこいいーーーーー!」」」」」

「うっ、あの時、全ての女性じゃなくて全員ってワードに反応して何故か顔を赤くしていたとあちゃんと黛君を思い出してなぜか動悸が!」

「なんなら、その配信をミラーして混ざりたそうにしてたぼっちの天我先輩が顔を赤くしてたのを思い出して動悸が!」

「その後、それにあくあ君が気がついて天我先輩を誘ってBERYLの4人でゲームをしてたのを思い出して動悸が……しないけど、ほっこりした」


 ふーん。あくあ、やっぱり私と結婚した後も結構アプローチされてたんだね。

 1人目と結婚した後の男性にすぐアプローチかけて、なし崩し的に2番、3番に収まるのが1番確率高いって言われてるし、そう考えたら当然の事か……。

 やっぱり、あの時、あくあとちゃんと向き合って、たくさんお嫁さん作っていいよって言って正解だった。

 そうじゃなきゃ、いまだにあくあは私としか結婚してなかったと思う。

 それくらい愛されてるって自覚があるし、う、自惚れるわけじゃないけど、今でも私が1番大事にしてもらってる気がする。

 きょ、今日だって、あの車に女性を乗せてデートするの、私が初めてだったしね。


「ジャパンホビーフェス、楽しかったな」

「うん!」


 購入した私の等身大フィギュアや他の商品はまとめて発送してもらった。

 流石に私の等身大フィギュアは車に乗らないしね。

 それと展示してた等身大フィギュアがなくなった代わりに、私とあくあが看板にサインしたり、あくあは展示されてる自分が関係していた作品のグッズとかにもサインしたりする。

 それがネットに拡散されてたのか、会場を出て行く時にはすごく列ができていた。


「ちょっと冷えてきたな。ほら」

「あ、ありがとう」


 あくあは自分の使ってたマフラーを私の首に巻きつける。

 嬉しい。私はあくあの匂いを嗅ぎながら、心臓をドキドキさせる。


「寒いし、鍋でも食べに行くか」

「うん!」


 私は久しぶりにあくあと2人きりで鍋をつつく。

 いつもみたいに大勢で鍋を囲むのもすごく楽しいけど、こうやって2人きりなのもやっぱりいいなって思った。

 それをちゃんと思い出させてくれるあくあが好き。

 食事が終わった私とあくあは無言でホテルに帰る。


「あくあ……好き」

「俺も同じくらい好きだよ。カノン」


 それ以上とかじゃなくて同じだけの好きを返してくれたあくあが好き。

 私の好きの気持ちがすごくあるって事をわかってくれてるからだ。


「ごめん。カノンと一緒にいる時は余裕ないかも」

「わ、私だって余裕ないからいいよ」


 初めてデートした時のあくあを思い出して嬉しくなる。

 いまだに私と一緒に居る時にドキドキしてくれるのが何より嬉しかった。


「あくあ、大好き」

「俺も大好きだよ。カノン」


 私達は眠たくなるまで二人で今までの事似ついてお話しする。

 初めて会った時の事、初めてデートした時の事、あくあが私を迎えに来てくれた時の事、結婚した事、子供ができた時の事、出産した時の事、修学旅行にもちゃんと行けて楽しかった事、そして、あくあが……。

 気がついたら私は睡魔でうとうとしていた。


「おやすみ、カノン。俺の事を好きになってくれて、ありがとな」


 優しくあくあに抱きしめられた私は、自分の額に温もりを感じながら意識を手放した。




 おまけ。


【祝! カノン、2年ぶり2度目の妊娠、おめでとう!!】


 家に帰ったら、日の丸の鉢巻をつけたえみり先輩がふざけた横断幕を手に持って待ってたからポカポカした。

 もう! えみり先輩のばかぁーーーーー!

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

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