白銀あくあ、4人の目指す場所。
ここに来るまで色々な事があったけど、ようやく俺の楽しみにしていた修学旅行が始まった。
「おい、とあ! 慎太郎! ホテルに着いたぞ!」
「へぇ〜。結構、綺麗なところじゃん!」
「ああ、そうだな!」
俺と慎太郎、とあの3人はバスの窓に張り付くようにして、今晩泊まるホテルを見つめる。
ここ、ロサンゼルスの中心街に建てられたラグジュアリーホテルは、昨日まで泊まっていた刑務所とは外観からして違っていた。
……って、まさか、俺を油断させておいて、これもベリベリの企画じゃないだろうな!?
疑心暗鬼に陥った俺は、ホテルの名称が書かれた場所を見つめる。
良かった。ちゃんと現地の言葉で書かれている。これがカタカナとか平仮名だったら確定でベリベリの企画だった。
俺はちゃんとした修学旅行だと分かって、ホッと胸を撫で下ろす。
「後輩! 我も居るぞ!!」
天我先輩が俺の肩からぬるっと顔を出してくる。
あっ、そうだった。天我先輩も修学旅行についてくるって言ってたっけ。
「ところで、天我先輩。ホテルの部屋はどうなるんですか?」
「ああ、そこはメイトリクス大統領が諸々のお礼で色々と頑張ってくれたみたいだぞ」
へぇ、そうなんだ。
ホテルに到着した俺達はバスを降りて、ホテルのチェックインカウンターで指紋と静脈と網膜をスキャンする。
って、いくらなんでも警備が厳重すぎませんか?
そういえばさっき、バスから降りた時にチラッと見えたけど、ホテルの外に戦車が待機してたり、自動小銃を持った兵隊のお姉さん達がホテルを取り囲んでいた。
「この前の事件があったからステイツが警戒するのは仕方ないよ」
「ああ、何かあったらメイトリクス大統領の責任問題にもなりかねないからな」
俺はとあと慎太郎の言葉に頷く。
たまに忘れそうになるけど、この世界で男は貴重だ。
そんな男を4人も、それも有名人となるとステイツにも威信をかけて守る必要があるのだろう。
俺はスターズから出発する前にした阿古さんとの会話を思い出す。
『あくあ君。今回の修学旅行は来年のワールドツアーに向けたステイツ側の予行演習でもあります。ステイツは気合を入れて警備をすると思うけど、あまり気にせずに修学旅行を楽しんできてね。それと、天我君が参加するから私も現地に飛ぶつもりだから。何かあったら私に連絡する事。いいわね?』
そういえば、阿古さんも同じホテルに泊まるって聞いたけど、どこに居るんだろう?
俺は周囲をキョロキョロする。
すると、杉田先生と話をしている阿古さんを見つけた。
阿古さんと杉田先生は俺の視線に気がつくと、笑顔で手を振る。
私の事は気にせずに楽しんできてね。
俺は阿古さんの口パクに笑顔で応える。
すると俺の背後から現れた天我先輩が俺の肩をポンと叩いた。
「後輩、待たせたな。行くぞ!」
「うっす!」
っと、その前に……。
俺は3人に許可を取って、カノン達の居る場所に近づく。
「あのん、かのあ、明乃、パパだぞ〜!」
俺は3人の子供達を抱っこする。
本当は3人ともお留守番の予定だったけど、せっかく学生の一員に加わって一年を共に過ごしてきたペゴニアさんだけ修学旅行に参加できないのは可哀想だ。
幸いにも専属医の玉藻先生から子供達が飛行機に乗る許可が出たので、先生に同行してもらった上で俺から2人に子供を連れて修学旅行に参加する事を提案したんだよな。
「カノンさん、ペゴニアさん、手が足りなかったら遠慮せずに私たちにも声をかけてね!」
「うんうん。2人の子供は私達の子供みたいなもんだから」
「そうそう……それに、私達もママになる予行演習しておかなきゃ!」
クラスの女の子達がカノンやペゴニアさんに声をかける。
そもそも俺が2人にこの案を提案したのも、クラスメイトのみんなからの後押しがあったからだ。
みんな、本当にありがとな!!
「ありがとう、みんな。でも、侍女のるーな先輩にも来てもらってるから大丈夫。みんなも修学旅行、楽しむ事を考えよ!」
「うん……任せて」
ダウナー系のるーな先輩は気だるそうな顔でサムズアップする。
最近、俺もわかるようになってきたが、るーな先輩も相当気合が入っているようだ。
「皆さん、ありがとうございます」
俺は嬉しくて少し泣きそうになっていたペゴニアさんの表情を見て自然と笑顔になった。
ペゴニアさんは子供が産まれてから、優しい顔になる時間が増えた気がする。
「おいおい、みんな。ここに3人のパパが居る事も忘れるなよ!」
俺はカノンとペゴニアさんの2人を抱き寄せると、3人の子供達へと視線を向ける。
「かのあ、あのん、明乃……もし、ステイツの全員が襲ってきても、パパが全部ぶっ飛ばして永遠に眠らせてやるから、お前達も安心してスヤスヤするんだぞ! HAHAHA!」
あれ? 俺の言葉にホテルのロビーに居た全員が凍りついたように固まった。
おかしいな。メイトリクス大統領から教えてくれた渾身のステイツジョークだったんだけど……もしかして滑っちゃいましたか?
「ステイツ、おわた」
「RIPステイツ」
「あくあ君が言うと冗談に聞こえないよ……」
「なもなも!」
「あーくあ!」
よく見ると、何故かクレアさんが俺に向かって手を合わせていた。
そういえば、クレアさんって部屋割どうなったんだっけ? 確か1人余ったら杉田先生と同室になるって話が出てて、それなら私が言ってたような気がするけど……あぁ、それは集計ミスで、アヤナや津島さんや井上さんと同じ部屋になったのか。良かったね!
「やっぱり子供はいいな」
「ええ、そうですね。天我先輩」
俺の後ろから出てきた天我先輩と慎太郎が、子供達の顔を見て優しい顔になる。
おいおい、2人とも何、呑気な顔してるんですか?
次は2人がパパになる番ですよ!!
「んっ、ちょっと待って。僕、おちち出ないから」
とあーっ!? って、あのん! 服の上からとあのを吸おうとしちゃいけませんよ!!
そういえば以前、あのんについてカノンとえみりが何かコソコソ話をしていた。
『見ろよ、カノン。あのんのこの顔……ムッツリしてる時のお前の顔に似てないか?』
『はあ!?』
『間違いない。この子は将来、良い掲示板民になるぞ』
『ならないもん!!』
『あのん、掲示板がやりたくなったら、先輩のえみりお姉さんに聞くんだぞ。嗜みなんか参考にしちゃダメだ』
『ちょっと! 私の娘を掲示板民にしようとしないでよ!!』
あの時、何を話してたのかよく聞こえなかったけど、きっとあのんの将来について楽しい話をしていたのだろう。
うん、きっとそうに違いない!!
「カノンさん……どんまい!」
「流石だよカノンさん、子供NTRなんて私も想像してなかったもん」
「えっ? とあちゃんとあくあ君の子供……?」
「ほへぇ、お薬飲まなきゃ」
クラスメイトのみんなに肩をポンポンと叩かれたカノンが全身をプルプルさせる。
何を言われたのかはわからないけど、どうやら、カノンもみんなの優しさに感動で震えているみたいだ。
「ごめんね、カノンさん」
「みんな修学旅行でテンション上がってるけど、ほどほどにしておきなよ!」
「そうですわ。皆さん、少し調子に乗りすぎですわよ」
「みんな、カノンさんをあまりいじめちゃダメだよ」
カノンはうるは、ココナ、リサ、アヤナの4人に抱きつく。
何があったのかはよくわからないけど、みんなが仲良さそうで俺は嬉しいよ。
「ほらほら、お前達、ロビーでいつまでも固まってるんじゃない! ここでダラダラしてたら、その分、みんなの自由時間がなくなるぞ!!」
「「「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」」」
杉田先生の一言でみんながそれぞれの部屋へと向かう。
さてと、俺たちも自分たちの部屋に行くか。
俺達4人もエレベーターで1番上の階に向かう。
「「うおおおおおおおおお!」」
テンションの上がった俺と天我先輩の2人が大声を出す。
「へぇ、最上階のペントハウスなんだ!」
「これはすごいな! 景色もいいぞ!!」
いつもはクールなとあや、旅行になるとテンションが爆上がりする慎太郎もすごく嬉しそうな顔をしていた。
ペントハウスに入った俺たちはメゾネットタイプの広いリビングに感動する。
「おい、部屋、どうする?」
ていうか、ベッドルームとバスルームありすぎだろ!
1人で3つくらいベッド使っても余るくらいあるぞ!!
「我はこの漆黒に包まれた部屋がいい!」
天我先輩はやたらと暗そうな部屋を選ぶ。
先輩……今は明るいからいいけど、夜になって暗すぎて怖いとか言いませんよね?
まぁ、ベッドルームはたくさん余ってるから別にいいんですけど……。
「じゃあ俺はここにしようかな」
せっかくだから俺は見晴らしのいい部屋を選ぶ。
すると、すぐ隣の部屋の扉の前にとあが立った。
「じゃあ、僕はここね。だって、首脳会談の時に言ってたけど、あくあの側が1番安全なんでしょ?」
「それなら僕も反対側にしようかな。あくあ、もしもの時は非力だが、僕も一緒に戦うからな」
そう言って、慎太郎はとあとは反対側の扉の前に立つ。
慎太郎……強くなったな。やっぱりお前はすげぇやつだよ。
俺が吹き抜けから下の部屋にいる天我先輩を見ると、1人だけ1階のポツンとした部屋を選んだ天我先輩が心なしか悲しい顔をしているように見えた。
天我先輩、ちょうど、俺の部屋と向き合った場所にある対面の部屋が空いてるから、寂しくなったらいつでも上がってきてくださいね。
俺は部屋に入ると、日本から持ってきてもらった荷物を部屋に置く。
自分で持ってきた荷物は飛行機が墜落した時に空中から落ちちゃったんだよな。
流石にタブレットとかは壊れちゃったけど、旅行前に小雛先輩が買ってきた謎のお守りとかは回収できたのはよかった。
「いや、待てよ……。飛行機が墜落した時点で、あの交通安全のお守りって全然効いてないんじゃ……」
俺は旅行カバンの中からお守りを取り出す。
って、よく見たらこのお守り交通安全のお守りじゃないじゃねぇか!!
身体頑丈ってなんだよ! せめて身体健康だろ!!
いや……高度一万フィート以上から落ちて無事だったから、身体頑丈でよかったの……か?
俺は顎に手を置いて首を傾げたまま少しの間だけ固まる。
まっ、こまけーことはいっか!! 今は修学旅行を楽しもう。
俺は裏面に森川神社と書かれたお守りを一応ポケットの中に突っ込む。
「おーい、みんな準備できたか?」
「うん! こっちは大丈夫。早く行こ、あくあ!」
天我先輩と慎太郎の2人はもうエレベーターの前で待ってるのか。
2人とも旅行だからってはしゃぎ過ぎだろ。俺も人のことは言えないけどな!!
「で、どこに行くんだ? 我はなにも聞いてないんだが……」
ああ、そっか。天我先輩はついてきただけだから知らないのか。
「天我先輩、僕たちの学校の修学旅行は基本的に自由行動です」
「ね。だから乙女咲では、自分達で予定を立てて旅程を先生に提出するところから始まるんだよ」
とあは嬉しそうな顔で、慎太郎が作った旅行のしおりを天我先輩に手渡す。
自主性を重んじる乙女咲の修学旅行は最初から最後まで自由行動だ。だから、俺達の班では、とあに現地のいろんな情報を集めてきて貰って、俺が2人の意見を聞いて無理のない範囲で行く所を絞って、慎太郎がそれをまとめる旅程の計画としおりを作って杉田先生と学校に提出した。
「それじゃあ、まず最初はあそこだな」
「うん!」
「ああ、行こう!」
「任せたぞ、後輩達! 我はついて行くだけしかできないからな!!」
ホテルの外に出た俺達は大統領専用車で目的の場所に向かう。
って、タクシーじゃないの!?
えっ? これが1番安全だからタクシー代わりに使ってくれって?
まぁ、そういう事なら……。
「気分だけでも味わってもらえるように、一応イエローに塗装してますから」
俺は運転手さんに、わざわざすみませんとお礼を言う。
多分この人も軍人さんかシークレットサービスの人なんだろうなあ。
「ねぇ、あくあ。ところで、怪我したところは大丈夫?」
「ああ、もちろん」
俺は服を捲ると、とあに怪我をしたところを見せる。
ほら、綺麗に貫通してるから痕もあんまり残ってないだろ?
「いやいや、回復力がおかしいでしょ……。なんでもう傷跡が消えかかってるの……?」
そりゃ、まぁ……身体頑丈守りのおかげじゃないか? 多分……。
あとは刑務所のご飯が美味しかった事だな。
まるで実家のような味だった。そのおかげで早く傷が治ったんだろう。
最後、刑務所から出る時に、料理を作ってくれた人に挨拶したかったけど、居なかったから感謝の気持ちを認めた手紙を送った。喜んでくれてると嬉しいな。
「皆さん、目的地に到着しましたよ。近くを走るようにしてるんで、また、タクシーが必要になったら声をかけてくださいね」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
これがハリウッド・スター・ロードか。
俺は地面に嵌め込まれた星形のプレートに視線を落とす。
この星形のプレートには、ステイツを筆頭に世界で活躍しているエンターテイナー達の名前が刻まれている。
「なんでも、2000個以上あるらしいよ」
「それなら手分けして探したほうが早そうだな」
そう言って、とあと慎太郎は左右に分かれる。
じゃあ、俺は向こう側を探そうかな?
俺は一つ一つのプレートに刻まれた名前をじっくりと見るが、中々目的のプレートが見つからない。
うーん、絶対にあると思ったんだけど、もし、なかったらどうしよう……。
そんな事を考えていたら、タクシーを降りてすぐの場所にいた天我先輩が声を上げる
「おい、後輩! もしかして、このプレートを探してたんじゃないか?」
あっ、そういえば天我先輩になんのプレートを探すのかを伝え忘れていた。
俺達は天我先輩の近くに集まると、地面に埋め込まれた星形プレートへと視線を落とす。
【MIKUNI YUKISHIRO world star actress】
すげぇ。美洲お母さんの名前だ……。
しかもこんな目立つ場所に埋め込まれてるなんて、やっぱり美洲お母さんってステイツじゃ大スターなんだ。
「あっ、あくあ。隣に玖珂レイラさんのもあるよ!」
はは、美洲お母さんの隣をちゃっかりキープするなんて、さすがです、レイラさん。
「ちなみにこれ、たまに移動させてるらしいよ。だから嵌め込みなんだって」
へぇ、そうなんだ。
俺は美洲お母さんの反対側の空白へと視線を向ける。
ここだけ不自然になにも嵌め込まれてないのはなんでなんだろう?
そんな事を考えていると、その通りのお店をやっている人が俺に声をかけてきた。
「そこはいつの日か来るんじゃないかって言われてる貴方と雪白えみりさんのために空けてるってもっぱらの噂ですよ」
俺がここに……か。
お店の人曰く、ここに名前が刻まれている日本人の役者はレイラさんと美洲お母さんだけらしい。
そして、歌手として日本人は誰1人として名前が刻まれていないと言っていた。
「慎太郎、とあ、天我先輩……」
みんなが真剣な顔で俺の顔を見つめる。
「俺らBERYLも、BERYLとしてここに星を刻むぞ」
「ああ!」
「うん!」
「おう!」
3人の気合いの入った顔を見た俺は思わず3人の肩を抱いて抱き寄せた。
やっぱ、お前らは最高だよ!
俺達は美洲お母さんとレイラさんの星を取り囲むように立つと、記念の写真を撮って4人同時にSNSに投稿した。
【白銀あくあ@BERYL:いつか俺たちもここに!】
【黛慎太郎@BERYL:行くぞ! BERYL!!】
【猫山とあ@BERYL:行こう! みんなで!】
【天我アキラ@BERYL:我らが目指すべき場所!】
俺達はハリウッド・スター・ロードから移動すると、近くにあった映画のグッズを売ってる直営店に入る。
せっかくだから好きな映画のTシャツとか買って帰るか。こういうのを部屋着にするの、結構好きなんだよな。
買い物を済ませた俺たちは、大統領専用車を改造したタクシーに乗り込んで次の目的地へと向かった。
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