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白銀カノン、今日もうちの夫は元気です。

「というわけで、こちらの部屋から白銀あくあさんの様子を見る事ができます!」


 私とお姉様、お祖母様はベリベリのスタッフの案内で、刑務所の中にある監視部屋に連れて来られた。


「何かあればここから指示が出せます。今回はみんなで頑張って、あくあ様をたくさん喜ばせましょう!!」

「はぁ……」


 私はベリベリのプロデューサーさんをジト目で見つめる。

 その言葉、本当に信じて大丈夫なのよね?

 私の視線に焦ったベリベリのプロデューサーさんは慌てて首と両手を左右に振る。


「いやいや、今回は本当に何もしませんから! こっちの映像も、使えないやつとかは全部カットするように言われてるんで安心してください!」

「その言葉、本当なんでしょうね?」


 お姉様にキッと睨みつけられたベリベリのプロデューサーさんが小さな声で「はい」と呟く。


「もちろん、女に二言はないわよね?」

「は、はひ……」


 お祖母様に見つめられたベリベリのプロデューサーさんが縮こまっていく。

 ふふっ、えみり先輩のアドバイスでお姉様とお祖母様を連れてきて本当に良かったわ。

 これでベリベリのスタッフが何か悪巧みを考えていたとしても2人がいれば大丈夫ね。


「えーと、確か、これを押せばモニターの映像が映るんだっけ?」


 私がボタンを押すと、大きなモニターにあくあの映像が映し出される。


『うっひょ〜! ここが俺のパラダイスだぁ!』


 囚人の美人なお姉さん達を見たあくあが嬉しそうな顔で喜ぶ。

 その姿を見た私はなんともいえない顔になった。


「ふふっ、あくあ様ったらあんなに喜んで、かわいいんですから」


 私は右隣に座っているお祖母様をジト目で見つめる。

 なんか、お祖母様ってば、私よりあくあに甘くないですか?


「全くですわ。美人なお姉さんなら、ここにだっていますのに……。ふん!」


 私は左隣でブツクサ文句を言ってるお姉様に目を見開く。

 お姉様、私の知らない間に、なんかこう……あくあに甘くなってませんか!?

 私の目に映ったお姉様がどこかの小雛先輩と重なる。


『囚人番号4545、白銀あくあ受刑囚。ぼーっとしてないで早くしなさい』

『あ、アヤナ!?』


 きゃ〜、刑務官コスプレのアヤナちゃんかっこかわいい!

 えっと、これって刑務官役のアヤナちゃんとかとコミュニケーションが取れたりするのかな?

 私が周囲をキョロキョロすると、ベリベリのスタッフが私に向かってカンペを見せてきました。


【手元の音声ボタンを押せば、出演者に声をかける事ができます】


 へぇ、そうなんだ。


「押してみましょう」


 お祖母様はボタンをポチッと押す。


「アヤナちゃん、鉄格子を使ったダンスであくあ様を喜ばせるのよ!」


 ちょっと、お祖母様!?

 画面に映ったアヤナちゃんがお祖母様からの指令に顔を赤くする。


『あ、アヤナぁ!?』


 鉄格子に捕まったアヤナちゃんは、洋楽のMVみたいなダンスを踊り始める。

 それをみたあくあは虫取りに夢中になる少年のような純粋な目をキラキラと輝かせた。


『ありがとうございますありがとうございます』


 あくあは涙を流しながら、アヤナちゃんのお尻に向かって手を合わせる。


『い、言っておくけど、これは私の意思じゃないんだからね!!』


 涙目になったアヤナちゃんが捨て台詞を吐いてその場から立ち去る。

 ごめんね。アヤナちゃん、うちのお祖母様のせいで恥ずかしい事をさせて……。


『って、俺、まだ檻の中に入ってないんだけど……』


 通路でポツンと1人置き去りにされたあくあは、自分で檻の鍵を開けて自主的に牢屋に入った。


「さすがはあくあ様ですね。ちゃんと罪を償うその姿勢を多くの罪人達に見せてあげたいです」

「全くですわ。白銀あくあのこういう真面目なところ、私は嫌いでなくてよ」


 あくあ絶賛BOTになってるお祖母様はともかくとして、お姉様、いつの間にやら随分と絆されていませんか?

 お姉様がそんな感じだと、もう、私の事をちょろいとか言えませんよ。


『さーてと、やる事ないしとりあえず筋トレするか』


 は!? おもむろに上着を脱いだあくあは、腕立て伏せや腹筋をしたり、鉄格子や天井のパイプを使ったアグレシッブな懸垂をしだす。


「あらあらまぁまぁ、これでは私達へのサービスシーンになってしまいますわ。さすがはあくあ様です。いかなる時も誰かを笑顔にしてくれる。やはりあくあ様ほどアイドルを名乗るのに相応しい方はいません」

「ふふっ、私も少し体が火照ってきましたわ」


 うっとりした顔をしたお姉様が、熱っぽい視線でモニターに映ったあくあを見つめる。

 ほえ〜……あれ? もしかして、この空間って私しかツッコミ役がいないのかな?

 私はベリベリのプロデューサーさんにさりげなく視線を送る。


【頑張ってくだつぁい!】


 もう! これだからベリベリのスタッフは、いつも肝心なところを個人の能力に頼りすぎなのよ!

 ふーんだ! こうなったら私もツッコミなんかしてあげないんだもんねー!! あっかんベー!!

 私が再びモニターに視線を戻すと、さっき逃亡したアヤナちゃんが恥ずかしそうな顔をして戻ってきた。


『そ、外にでなさい! 運動の時間よ!』

『はーい!』


 いやいや、あくあさっきもう十分に筋トレしたじゃない。

 なんで運動の時間で喜ぶのよ……。

 アヤナちゃんに連れられてグラウンドに出たあくあは小雛ゆかりさんに絡まれる。

 あっちはあっちで大丈夫かなあ……。


『白銀あくあ受刑囚、運動の時間ですよ。早くしてください』

『はぁ〜い!』


 あくあは小雛ゆかりさんへの塩対応とは打って変わって、笑顔でアヤナちゃんの後についていく。

 広い運動場を通り過ぎたあくあは、奥にある建物の中に入る。

 すると、ジムトレーナーのような格好をしたしとりさんが立っていた。


『あーちゃん、今からお姉ちゃんと一緒に楽しい楽しいエクササイズをしよっか?』

『はぁい!』


 あくあは両足を90度に広げてマットの上に座ると、体を柔らかくするための前屈運動に励む。


『ん〜、あくあちゃん。体が凝り固まってカチコチになってるよ。ほら、もっと体を柔らかくして……』

『おっふ』


 しとりさんは、あくあの背中に自らの重たいもを乗せる。

 ふ〜ん、やっぱり大きいのが好きなんじゃない。


『あーちゃん、どうしたの? さっきより全然、屈伸できてないけど大丈夫?』


 しとりさんはあくあに顔を近づけると、耳の裏にふーっと優しく甘い吐息をかける。


「さすがはしとりさんね。わかっていらっしゃるわ」

「ええ、彼女は我ら十二性将の中でも特別な存在ですから」


 お姉様、十二性将ってナニ……? 聖あくあ教の十二司教のパチモンですか?

 えっ? “性女”のえみり先輩、“堕天”のクレアさん、“搾取”の結さん、“吸引”のまろんさん、“冥土”のペゴニア、“主人”のお姉様、“実姉”のしとりさん、“実母”のまりんさん、“便女”のキテラ、“女王”のマナートさん、“性事”の揚羽さん、“常敗”の白龍先生で十二性将? ごめん、私まで恥ずかしくなってくるから、そういうの止めてもらえるかな?


『あーちゃん、筋肉が硬くなってるけど大丈夫? ほら、お姉ちゃんが柔らかくするの手伝ってあげる』


 ちょ、ちょ、ちょ! こんなの映して大丈夫なんですか!?


【カットするから大丈夫です!!】


 血走った目をしたプロデューサーさんと、鼻血を流したスタッフさんが目をギンギンにさせながら画面を見つめる。


『うーん、ますます硬くなってきたね。でも、大丈夫。お姉ちゃんがすぐにふにゃふにゃにしてあげるから、ね?』


 そう言って、しとりさんはあくあの背中を両手でグーッと押す。

 なんだろう。普通に前屈してるだけなのに、しとりさんの言い方が色々と紛らわしすぎる。


『やったぁ〜、ちゃんと硬くなったところを、お姉ちゃんでふにゃふにゃにできてえらいね』

『あ、ありがとう。しとりお姉ちゃん』


 運動の時間を終えたあくあはすっきりした顔で運動場に出ると、昼食のために食堂に移動する。

 へぇ、今日のお昼はカレーなんだ。

 食堂に移動したあくあは、嬉しそうな顔でカレーを受け取る。


『すげぇ、実家のカレーみたいな味してる! うめぇ!!』


 うん、だってあくあが美味しそうな顔で食べているそのカレーを作ってるのまりんさんだよ。

 あくあは気が付かなかったけど、一番奥で帽子かぶってマスク付けてた人、あれ、まりんさんだからね。

 私はベリベリのスタッフさんが出したカンペに視線を向ける。


【毎日、まりんさんの手料理を食べて、いつあくあ君が食事を作ってくれているのがお母さんだと気がつくかのドッキリ企画も進行してます!】


 うん、今の感じだと、多分あくあは一生気がつかないと思うよ。

 なんなら実家と同じ味に感動して「お姉さん、俺のために料理を作ってくれませんか?」って、変装したまりんさんの両手を握ってプロポーズする姿が頭の中に浮かんできた。


『ほら、早く口を開けなさいな』

『ヴィ、ヴィクトリア様!?』


 は? 私は左隣に視線を向けると、そこに居たお姉様がいつの間にかあくあの隣に移動している事に気がつく。

 お姉様は、手に持ったスプーンでカレーをすくうと、あくあの方へと差し向ける。


『ふふっ、頑張った貴方にご褒美よ。はい、あーん』

『い、いいんですか?』


 あくあは嬉しそうな顔でカレーをパクりと食べる。

 いいな、いいな! 私もこういうご褒美なら、あくあにしたいのに!! お姉様、なんでこっそり出て行く時に私を誘ってくれなかったんですか!?


『あくあ様、美味しいですか? ほら、今度はこっちも、はい、あーーーーーん』

『メアリーお婆ちゃんまで!? ありがとうございます!!』


 メアリーお婆ちゃん!? 私は右隣に居たメアリーお婆ちゃんが居なくなっている事に気がつく。


『孫娘、みってるぅ〜? 貴女の旦那様はぁ、ここで私達とアーンして楽しく食事してまぁす』


 ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ! 椅子から立ち上がった私は握りしめた両手の拳をプルプルさせる。

 すると偶然、この部屋の前を通りかかったえみり先輩が私を見てプッと吹き出す。


「嗜み、判断が遅い!!」


 もおおおおおおおおお!

 仕方ないじゃない!! カレーを美味しそうに食べるあくあが可愛くてデレデレしてたんだから!!

 って、そんな事言わせないでよ! もう!!

 私はにやけた顔をしたベリベリのスタッフ達の視線に耐えきれずに、プイッと顔を背ける。


『運動時間の後は自由時間か。よし! やっぱりここは普通にバイトだな』


 あくあはアブラモッテルッチさんこと、マナートさんに話しかけて、お洗濯の仕事を斡旋してもらう。


『ふふっ、それでは本日のお給金はこちらになります』

『やったー!』


 現金を手にしたあくあは両手を広げて喜ぶ。

 うんうん、そうやって真面目にお金を稼いでいればすぐに釈放できるよ。

 その一方でもう一つの小さなモニターへと視線を向けると、えみり先輩に全てをすられた小雛ゆかりさんが映っていた。

 うん、ここのシーンはちゃんと地上波で教養番組として流した方がいいよ。子供の教育にもいいと思う。

 そもそも、えみり先輩にギャンブルで勝てるわけないじゃん。運命を味方につけた私でも勝てないくらい、狡い手ばっか使ってくるんだから。

 部屋に戻ったあくあは自分で檻に鍵をかけると、ベッドの上で仰向けになる。


『ふぅ、流石に疲れたな。今日は寝るか』


 あくあがベッドの上でうとうとする。

 うーん、なんだか私も眠くなっちゃったな。

 そんなことを考えていたら、偶然近くを通りかかったえみり先輩が私にアヤナちゃんと同じミニスカの刑務官コスプレの衣装をスーッと手渡してきた。

 えっ? これを着て夜の刑務にいけ?

 そ、そ、そんにゃにょするわけないでしょ! えみり先輩のばかぁーーーーーー!


「カノン、本当にそれでいいの? 貴女がいかないのなら私がいくわよ」

「え?」


 お祖母様、ご冗談……ですよね?


「カノン、お祖母様のいうとおりよ。貴女がいかななら私がいくわ」

「え?」


 お姉様まで、一体、どうしちゃったんですか!?


「カノン、お前がいかないなら、この私がいっちゃうぞ」

「えっ?」


 ガチだ。捗るは正体がバレるリスクがあるからといって、引き下がるような女の子じゃない。

 その事は誰よりもこの私、乙女の嗜みが知っている。


「じゃ、じゃあ私が……」

「「「どうぞどうぞ!」」」


 えっ? 私がみんなの顔を見ると、全員がすごくいい笑顔をしていた。

 だ、騙されたぁ! もう! もう! こんなの掲示板で良くある手の一つじゃない!!

 えみり先輩とお姉さまとお祖母様とベリベリのスタッフと、ついでにあくあと私のばかぁーーーーー!

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

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