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小雛ゆかり、プリズンエスケープ。

「というわけで、白銀あくあさんをハメようと思うので協力してください!」

「ふふん、そういう事ならこの私に任せておきなさい!」


 って感じで仕事を引き受けてステイツに来たのに、なんでこの私が捕まらなきゃいけないのよ!!

 私は当初、スタッフから聞いていた話と違う話になっている事に腹を立てる。


「ほら、さっさとせぇ!」

「言わなくてもわかってるわよ! もう!!」


 インコに棒でお尻をツンツンされた私は、ブツクサ文句を言いながら独房のあるエリアへと足を踏み入れる。

 すると、私の顔を見た囚人達が一斉に檻を叩き始めた。


「ヒャッハー! 活きのいい新人が来たぜ!」

「ようこそ、地獄のプラチナリバー刑務所へ!」

「おい、新人! お前は何をやらかしたんだ〜?」

「間違ってもここから出られると思うなよ!」


 ふーん、どうやら檻の中に居るのは女ばっかり見たいね。

 先に連れて行かれたあくあは、どうやら私の連れてこられたこことは違うエリアに連れていかれたみたいだ。


「おいおい、ここはガキの来るところじゃねーぞ! ちびっ子は早く帰ってママのおっぱいでも飲んでな!」

「「「「「「「「「「HAHAHAHAHA!」」」」」」」」」」


 バラエティで瞬間沸騰機と言われている私は秒でカチンとくる。


「はあ!? 誰がちびっ子よ! あんた、ぶっ飛ばすわよ!!」


 そこのあんた、しっかりと顔を覚えたわよ。あとで覚えておきなさいよ!!

 私の後ろにいるインコが小声で「こいつ、ガチやん」と呟く。

 悪かったわね。私はいついかなる瞬間もずっとガチで生きてるのよ!!


「いいぞ、新人!!」

「やれやれー!」


 私が中指を突き立てると、檻の中に居る囚人達が湧き立つ。

 ふん、こういうのは最初にわからせるのが肝心なのよ。


「止まれ! 回れ右! よしっ! ここが、今日からお前のお世話になる牢屋や!」


 私が牢屋の中を見ると、誰かが部屋の隅っこで体育座りをしていた。

 んん? あの顔、どこかで見た事があるような……。


「って! あ、あんた……美洲!?」

「小雛ゆかりか……」


 私は後ろに振り返ると、刑務官のコスプレをしたインコに詰め寄る。


「ちょっと! なんでここに美洲が居るのよ!」

「今日から苦楽を共にするお前の仲間や。喧嘩せずに仲良くせぇよ!」


 そう言ってインコはぽーんと私の体を牢屋の中に放り込むと、急いで鉄格子の扉に鍵をかけた。


「ええか。今からルール説明するから、よく聞くんやで!」


 インコは隣の牢獄に居る奴からフリップを受け取ると、鉄格子を掴んだ私にそれを見せながらルールを説明していく。



—————————————————————————————————


 誰にでもわかる刑務所脱獄ゲームのルールについて


 ・貴方の全ての行動が監視されポイント化されます。

 ・例えば真面目に作業をする、模範的な行動をするなどした場合は、釈放に必要な釈放ポイントが貯まります。

 ・一定の釈放ポイントが貯まると、晴れて釈放。そこでゲーム終了です。

 ・ただし、刑務官に詰め寄るなど、反抗的な行動をするなどした場合は釈放ポイントが減らされるので注意してください。

 ・もちろん普通に刑務所を脱獄する事もできますが、脱獄に失敗した場合、釈放に必要な釈放ポイントがゼロ、もしくはマイナスになるので、あまりお勧めはしません。

 ・刑務所の中には様々な人が配置されてます。中には脱獄に必要なアイテムを売ってくれる人や、脱獄に重要な情報をくれる人、釈放ポイントを貯めるための仕事を紹介してくれる人などがいるので、自由時間などで探してみるといいでしょう。

 ・刑務所内で働いたり、他の囚人から依頼された仕事をこなすと日本円で報酬を得る事ができます。脱獄に必要なアイテムや刑務所ライフを快適にするアイテムを交換してください。

 ・貴方の刑期は100年です。刑期は1万円支払うと1年縮むので、100万円支払う事で脱獄したり釈放ポイントを貯める事なく釈放されます。

 ・なお、初期資金は10万円です。


—————————————————————————————————



「いくらなんでも手が込み過ぎでしょ!!」


 フリップの内容を全部読んだ私は秒でツッコミを入れる。

 ていうか、これだけできるなら看板だって普通にカタカナじゃなくて、スターズ語の看板を用意できたよね!?


「ベリベリのスタッフ、ほんっっっっっとに、頭がおかしい奴らばっかりじゃない!」

「それには完全に同意するで。なんでモザイクありとはいえ、Vのうちが生身で出なあかんねん!! 許可する事務所もおかしいやろ!!」


 私とインコは鉄格子を挟んで固い握手をする。

 そもそも、ベリベリのスタッフは後ろにいる雪白美洲も雑に使いすぎなのよ!

 こいつ、あくあの親だから友情出演みたいな感じでこの番組にちょくちょく出てくれるけど、普通に起用したらいくらかかるのかちゃんとわかってるんでしょうね!?

 世界の女優の中でも間違いなくトップオブザトップ、この私のギャラと比べても多分10倍くらい違うわよ!!


「ほな、お勤め頑張れよ。ゆかり。うちもちょくちょく様子見にくるから」

「うん」


 そう言ってインコは来た道を戻っていく。

 私は後ろを振り向くと、同じ部屋になった美洲に話しかける。


「で、あんたはなんでここに居るの?」

「うっ、うっ、まりんちゃんが大事に取ってあったアイスを間違えて食べちゃって、その罪でここに……」


 しょーもな!!

 ここにいるのは世界の大女優、雪白美洲よ! どうせ牢屋にぶち込むなら、もうちょっとマシというか、ビッグな罪にしなさいよ!! ほんっと、ここのスタッフはこういうところが雑なんだから!!


「ほら、それならまりんさんに謝るために、私と一緒に脱獄するわよ! 大丈夫…私も一緒に謝ってあげるし、まりんさんだって間違えたのなら許してくれるわよ」

「うん……」


 美洲は涙目になった目元を腕で擦るとすくっと立ち上がる。


「小雛ゆかり、改めてよろしく」

「うん、よろしく。絶対に脱獄するわよ!」


 私と美洲は固い握手を結ぶ。

 さて、問題はここからどうするかよね。

 普通に働いて釈放ポイントを貯める選択肢は最初から除外するとして、どうやって脱獄するか、その情報を集めなければいけない。


「そういえば、インコが脱獄の手助けになる話をしてくれる囚人がいるって言ったわね」

「ああ、それなら情報屋の“キーノート”に聞けばいい」


 キーノート? ふーん、そういう二つ名の情報屋が囚人の中に居るのね。


「問題はどうやってそいつに会うのかよね」

「それなら問題ない。そろそろ運動の時間だ」


 私と美洲が収監されている監獄エリアの中にビーッと大きな音のブザー音が鳴り響く。

 なに? なに? なにが起こってるの!?

 鉄格子に捕まった私がブザーがある方へと視線を向けると、向こう側から出てきたインコが手に持ったフライパンをカンカンと叩く。


「運動の時間や! みんな、表にでぇ!!」


 なるほど、そういう事ね。

 私の掴んでいた鉄格子の扉にかかっていたロックがガチャリと外れる。

 だから、こういうのをオートで作れるだけの予算が潤沢にあるなら、絶対に看板に回す予算もあったでしょ!!

 私と美洲は檻の中から出ると、運動場のあるエリアへと向かう。


「ほら、見ろ。小雛ゆかり、あれがキーノートだ」

「ちょっと、話しかけてくるわ」


 私はキーノートと呼ばれた人物の背後にゆっくりと近づいていく。

 んん? この後ろ姿、どこかで見た事があるような……。

 まぁ、そんなのはどうでもいいわ。私はキーノートと呼ばれている女性に話しかける。


「ねぇ、あんたがキーノートなの? 情報を売ってくれるって聞いたんだけど」


 私が話しかけると、キーノートはゆっくりとこちらを振り向く。


「小雛ゆかり、ついに君も捕まったのか」

「ちょっと! なんでこんなところにレイラまでいるのよ!!」


 私は女優玖珂レイラの顔を見て頭を抱える。

 いくらこいつが美洲ヲタクで、美洲が出演してる番組なら簡単に釣れるからって、ベリベリのスタッフは世界的な女優を雑に使いすぎなのよ!!


「レイラじゃない。キーノートだ」

「そんなの、どっちでもいいからさっさと情報をよこしなさいよ!」


 玖珂レイラは両手を広げると、やれやれといった素振りをする。


「小雛ゆかり、いいのか? 情報屋の私にそんな態度を取ったら、大事な情報源がなくなってしまうぞ」


 ぐぬぬぬぬぬ!

 私は両手の拳を握りしめて体をプルプルさせる。

 それを見かねた美洲が私達の方へと近づいてきた。


「レイ……キーノート。すまない、彼女は今日ここにきたばかりなんだ。ここは私の顔に免じて許してくれないだろうか?」

「美洲様がそういうのなら、喜んで!!」


 ちょっと! なんで私と美洲で180度態度が違うのよ!!

 ふんがーっ! 私はその場で地団駄を踏む。


「小雛ゆかり、今から私が初心者のお前のために、特別に重要な人物を紹介してやるからよく聞くんだぞ」

「わかったわよ」


 レイラは私に顔を近づけると、1人の人物を指差す。


「あそこに居るのが“ティーバック”だ」

「ティーバック? って、まろんじゃない!!」


 なんで、まろんまで刑務所に居るの!?

 あの子、ロクな奴しかいない私達の世代で唯一の良心って言われてるのよ!!

 そんなまろんが一体何をやらかして捕まったというんだろう。


「なんでもステイツの浜辺でティーバックを穿いて水着のグラビア撮影をしていたら、それを見た人に通報されて警察に捕まったらしい。別にティーバックや撮影も違法じゃないんだが、ティーバックを着た彼女の姿があまりにもえっ……すぎて裁判官から懲役86年を求刑されたそうだ。だからここに居る女性達からは敬意を評して、ティーバックと呼ばれている。ちなみに周りに居る女達は全員ティーバックの取り巻きだ。注意しろよ」


 しょーーーーーもな!!

 レイラは別の方向へと視線を向けると、今度は刑務所内にある教会へと指を差す。


「ほら、あそこにシスターが居るのが見えるか? あいつの名前は“ハーブティー”、刑務所内で働いているシスターで自由時間や運動の時間に賭けの胴元をしている。もし、手持ちのお金を増やしたいなら、あいつに声を賭けたらいい。ただし、賭けに負けて全財産がなくなる事もあるから注意しろ」


 ふーん。あのシスター服を着た女、ハーブティーだっけ。

 顔が全部隠れててよく見えないけど、どっかで見た事があるのよね。私の気のせいかしら?


「ちなみに、そいつは何でハーブティーって名前なの?」

「ああ、あいつはシスターだから儲けた金を使って、金に困ってる囚人に施したりしてるんだ。だから、胴元で儲けてるはずなのにいつも飯が食えずに腹を空かせていると聞く。で、空腹を誤魔化すために、運動場に生えてるその辺の草を煎じたハーブティーを飲んでいるから、周りからは敬意を込めてそう呼ばれているのさ」


 なんでそんな奴がギャンブルして金をせしめているのよ!!

 やってる事とやってる事が真逆じゃない! もう!! 絶対に頭がおかしい奴でしょ!!


「次はあっちを見ろ」

「はいはい」


 私はレイラに言われた方向へと顔を向ける。


「あそこの椅子に座ってる女は、通称“パワーモン”だ」


 私は椅子に座ったイリアと目が合う。

 ふぅ、妊婦の楓じゃなくてよかったわ。あいつらスタッフにも一応、常識ってものがあるようね。


「あいつは賭けプロレスの胴元だ。勝てば1発で釈放されるだけのお金が手に入るが、間違ってもそれに釣られて挑んじゃいけない。挑戦した奴らは口を揃えて、何回やってもパワーモンが倒せない。後ろに下がって距離を取ろうとしても簡単に距離を詰められる。スクリュードライバー、またの名を飛龍竜巻投げを回避できない。審判にタイムを取ってる間に投げ飛ばされる。テキサス・クローバー・リーフ、またの名を四葉固めが有効らしいけど、まずそこまで近づけない。仕入れ屋からE缶、エローション缶を買って使用したら楽にダウンを取れるけど、それを使う暇もなければ入荷と同時に“ハーブティー”が買い占めるから売ってないそうだ」


 何よそれ、無理ゲーじゃない!!

 話を聞く時間も無駄だと悟った私はイリアからスッと視線を外す。


「あとは何か欲しいものがあったら、食事時間中に刑務官の鞘無インコに声をかけたらいい。あいつが仕入れ屋だ」


 なるほどね。私は情報を教えてくれたレイラに礼を言う。


「言っておくけど、次からは有料だぞ」

「分かってるって」


 私はレイラや美洲と分かれると、運動グラウンドを二つに隔てているフェンスへと近づいていく。

 すると、建物の中からクソ真面目な顔をして出てきたあくあを見つけた。


「ちょっと、あくあ!」

「……小雛先輩、なんですか?」


 なんですか? じゃないでしょ!!

 これでも一応、私は別の場所へと連れて行かれたあんたの事を心配してあげてたのよ!!


「なんか変なことされてない? 大丈夫?」

「別にこっちは普通ですよ。それよりも小雛先輩、脱獄しようとかしょうもない事を考えてないでしょうね?」


 な、何よ! それの何が悪いってわけ!?

 あくあは両手を広げると、やれやれといった素振りを見せる。


「いいですか。小雛先輩。俺達は罪を犯したんです。だから、ちゃんと罪を償ってここからでましょうよ」


 むっきー! 人がせっかくあんたのために脱獄計画を立ててあげてるのに!!

 全く、親の心子知らずってこういう事を言うのかしら!!


「白銀あくあ受刑囚、運動の時間ですよ。早くしてください」

「はぁ〜い!」


 あくあは元気よく返事をすると、刑務官の服を着たアヤナちゃんの方へと笑顔で駆け寄っていく。

 ちょっとぉ!? なんでこっちは刑務官はインコなのに、そっちはアヤナちゃんなのよ!!

 いくらなんでも落差がありすぎるでしょ!! 私は周囲をキョロキョロすると、監視カメラへと視線を向ける。


「ちょっと! あいつにアヤナちゃんなんて勿体無いじゃない! 今すぐにあっちの刑務官とこっちの刑務官とチェンジしなさいよ!!」


 私がカメラに向かって叫ぶと、大きなブザー音が鳴り響く。

 な、何よ……! 急に大きな音を出して! こっちがびっくりするじゃない!!


『刑務官への暴言。小雛ゆかり、釈放ポイント、マイナス1』

「はあ!? ふざけんな!!」


 私が両手をあげて地団駄を踏むと、さらにマイナス1ポイントされた。

 ぐぬぬぬぬぬ! 見てなさいよ! こんなところ、すぐに脱出してやるんだから!!

 運動の時間を終えた私は、食堂に行って美洲と一緒にご飯を食べる。


「こうなったらギャンブルよ。ギャンブルしかないわ」

「私はやめておいた方がいいと思うけど……」


 眉毛を八の字にした美洲が私の事を心配そうな顔で見つめる。

 何? あんたそれでも日本が誇る大女優なわけ? あんたも私と同じ女優なら、根性と度胸を見せないよ!!


「まぁ、あんたは檻の中でゆっくりと待ってなさいよ。心配しなくても、私があんたやあくあの分まで稼いできてあげるんだから!!」

「本当かなぁ……」


 お昼ご飯のカレーをかきこんだ私は、ハーブティーの居る礼拝堂へと向かう。

 えっと、レイラがくれた情報によると、礼拝が終わった後の休憩時間に話しかけたらいいんだっけ?

 私は他の囚人と一緒に礼拝を済ませると、ハーブティーと呼ばれるシスターに声をかける。


「ちょっと、あんた!」

「ひぃっ!? な、ななななな、なんでつか?」


 ん? あんたその声……えみりちゃんじゃないの!!

 なんで、あんたがここに居るのよ!!

 えみりちゃんはカメラに映らないように、私に小さなメモ書きを手渡す。

 なになに……?


【今はラーメン捗るとして仕事を受けてます。スタッフの人も私の正体は知らないので、小雛パイセンも私の事を知らないフリをしておいてくだつぁい!】


 私はえみりちゃんに対してジト目になる。

 あんたさぁ、またカノンさん達に怒られるわよ?

 少しは妊婦らしく、大人しくしておきないさよね。


「とりあえず、賭けがしたいんだけど?」

「あっ、はい。そちらならこちらになります……ささっ、どーぞ、どーぞ」


 私はえみりちゃんの案内で礼拝堂の奥に進む。

 するとそこには刑務官のコスプレをした羽生総理とメイトリクス大統領の2人が椅子に座っていた。


「ねぇ、総理とか大統領って暇なんだっけ?」

「失敬な! 小雛ゆかりさん、これでも私達は一応、遊ん……んんっ、重要な外交の一つなんだよ」

「そうだぞ、小雛ゆかり君。私達は一見すると遊んでいるように見えるかもしれないが、本当にただ遊んでるだけだ!」


 ほら、やっぱり遊んでるんじゃない!!

 全くもう! うちのあくあと羽生総理とつるんだせいで、メイトリクス大統領に変な影響が出てないでしょうね!?

 私はベリベリのスタッフが設置した監視カメラに向かって、ステイツの国民に頭を下げる。

 どうも、うちのバカ達がすみませんでした!!


「えーと、本来、掛け金はお客様達で話し合って決めてもらうのですが、今回は初心者さんがいるので、ルール説明を兼ねて最低掛け金の1万円をテーブルの上に出してください」


 なるほど、つまり私を含めた3人が同意すれば最初から掛け金が10万円とかもできるってわけか。

 それなら300万くらいすぐに貯まりそうね!!

 私と羽生総理、メイトリクス大統領の3人が1万円札をテーブルの上に置く。


「それじゃあ今日のゲームはこちらです。皆さん、最低掛け金の1万円を場に出してください」


 えみりちゃんは手慣れた手つきでテーブルの上に3枚のトランプカードを並べていく。

 この子って本当にあくあと一緒でなんでもできるわよね。


「中央にジョーカーが置かれているのがわかりますか?」


 私と羽生総理、メイトリクス大統領はお互いの顔を見合わせると無言で頷く。


「それじゃあ、カードを裏返しますね」


 えみりちゃんはゆっくりとした動きでカードを一枚ずつ後ろの面にひっくり返していく。


「はい、それでは今から私がカードをシャッフルさせるので、みなさん、どれがジョーカーか当ててください」


 えみりちゃんはゆっくりとした手つきでカードをシャッフルさせる。

 ふんふん、なるほどね。


「それじゃあ、みなさんはどれがジョーカーかわかりますか?」

「「「これ!」」」


 えみりちゃんはカードを表にひっくり返す。

 するとそこにはジョーカーの絵が描かれていた。

 よしっ!! 私はテーブルの下で小さくガッツポーズを決める。


「皆さんの勝利です。これで皆さんの賭けた金額は2倍の6万になりました。このゲームは1回勝つことにどんどん掛け金が倍になっていきます。わかりましたか?」


 私はえみりちゃんの言葉に頷く。


「もし、ここで3人とも降りると、それぞれ3分割したお金、この場合は1人につき2万円が帰ってきます。ただし、この場に残る人が居た場合は、最初の賭け金の1万円しか戻ってきません。最後に残った1人は、その後に私とのカード勝負に3回勝てばそこでゲームを降りる事が可能になります。もちろん最後に残った1人が途中で降りた場合は、賭け金も含めて全没収になるので注意してくださいね」


 ふむふむ……。

 つまり、3人降りたらその場で山分けだけど、1人が降りて2人が残った場合はゲーム続行、2人が降りて1人が残った場合は、総取りのチャンスがあるって事ね。


「ただし、賭けて最初の勝負だけして3人とも降りて山分けする事は禁止されています。つまり、3人で山分けする場合も最低5回は勝ち進んでもらいます。そして勝ち進めば進むほど掛け金は倍になっていきますが、5回勝ち抜いても3人で山分けすると32万にしかなりません。もし、そこから2回勝てば釈放なのに、それってもったいなくないですか? だから、すぐに降りると損しちゃいますよ」


 うんうん、わかるわ。

 5回勝つのを3回やっても96万にしかならない。つまり刑期100年にはギリ届かないって事だ。

 あくあみたいに真面目に働く気がない私は、賭けだけで全てを稼ごうと思った。


「ルール説明は以上です。それでは、次のゲームに行きましょう」


 カードをシャッフルするえみりちゃんの手の動きが早くなる。

 えーとえーと、確か、あそこで入れ替わって、ここで入れ替わって……あっ、これだ!!


「それでは正解のカードを指さしてください」


 私達は同時に右端のカードを指差す。


「正解です。これで皆さんの掛け金はトータル12万円になりました。3分割するとそれぞれ4万円になります」


 やったぁ!!

 ってか、このゲーム簡単だし、すっごくちょろいじゃん!!

 やっぱり真面目に働くよりもギャンブルよギャンブル!!

 私は調子に乗って次のゲームでも自信満々に指を差す。

 あれ? なんで私だけ違うカードを指差してるの?

 もしかして……私だけ1人勝ちしちゃったんじゃない!?

 私は羽生総理やメイトリクス大統領に対して勝ち誇った顔をする。


「正解はこちらです。というわけで、小雛ゆかりさんは脱落ですね」


 はあ!? なんで、私だけが間違うのよ! おかしいでしょ!!

 2人は5回勝ち切って96万になったところで仲良く降りて、2人で48万ずつに山分けした。


「次よ次!!」


 私はオレンジのシャツを腕まくりする。

 今度は瞬き一つだってしないんだから!!


「はい、残念でした。これで小雛ゆかりさんは脱落ですね」

「ふんがー!!」


 せっかく4回戦まで突破して5回戦まできたのに!!

 私はテーブルの上に2万を出す。これでさっき負けた2回分を取り返すわよ!!

 それから数分後……。


「おや? もしかして瞬きしなさ過ぎてドライアイになりましたか? ちなみにアイテムの目薬は仕入れ屋さんから買ってくださいね」


 うぎゃああああああああああ! 私は両手で自分の髪をくしゃくしゃにする。

 2万賭けてあっさり負けた後に3万を賭けた私は、また5回戦で負けてしまった。


「それにしても、さすがは羽生総理とメイトリクス大統領です。動体視力がいいですね。ちなみにこのゲーム、動体視力が良すぎる森川楓さん、加藤イリアさん、白銀あくあさんの3人は出禁になっています」


 何よ、それ!! そんなの一般人の私がどう考えても不利じゃない!!

 不正よ不正!! 私は胴元のえみりちゃんに文句を言う。


「仕方ありませんね。それじゃあ最後は全額を賭けて、この私とタイマンで勝負しませんか? 特別ルールで、この私に3回勝てば6回勝った事にして、320万円にしてあげますよ」

「その話、ノッたわ!!」


 私は必死に止める羽生総理とメイトリクス大統領の制止を振り切って、えみりちゃんとのタイマン勝負に挑む。

 1回、2回と勝負に勝った私は、最後の勝負でもしっかりとジョーカーの描かれたカードを目で追い切った。


「これよ!」


 私がカードを指差すと、えみりちゃんが手をパチパチと叩く。

 そ、それって、正解って事よね。ね、ね? やったー!!

 勝利を確信した私は笑顔で両手を天に突き上げる。


「残念、ジョーカーはこちらでした」


 はあ!? 私は口を大きく開けたまま固まる。


「これは驚いたな。私も参加してたら間違えたぞ」

「なるほど、トランプを使ったマジシャンがよくやる手ね。実際は入れ替えてないけど、入れ替えたように見せるってやつ」


 えっ……それって不正じゃないの?

 トランプはディーラーのテクニックも含めてのカードゲームですって!?

 むっきぃ〜! そんなの素人には絶対に勝てないようになってるじゃない!!


「小雛ゆかりくん。よく考えてくれ。カードゲームがそんなに単純だったらカジノなんてないから」

「うんうん。メイトリクス大統領のいう通りだよ。だからギャンブルはしちゃダメだなんだよ」

「「ねー!」」


 うっさい!! ちゃっかり利益を確保してるあんた達2人に言われたくないわよ!!

 あんた達も刑務官なら、違法賭博を取り締まりなさいよね!!


「HAHAHA、小雛ゆかり君。そもそも刑務官がなんでここで賭博をやっているかを考えたまえ」

「うんうん、つまりはそういう事なんだよ」


 あ……私はその瞬間、この2人も胴元とグルなんだと気付かされる。


「というわけで、小雛ゆかりくん。真面目に働きたまえ」

「うんうん、受刑者の“アブラモッテルッチ”って人が受刑者向けの仕事とか斡旋してくれるから、その人を探すといいと思うよ」


 くっ……! わかったわよ。働けばいいんでしょ。働けば!!

 私は台パンすると勢いよく椅子から立ち上がる。


「カモ雛先輩、またお金が貯まったら来てくださいねー!」


 誰がカモ雛先輩よ! また、勝手に変な呼び名を増やして!!

 私はプンスカしながら違法賭博場を出ると、礼拝堂の扉を蹴飛ばす。

 こんなところ、2度と来るもんか!!

 何が神様よ! よく見たら、ここに飾ってる神像、あくあの顔してるじゃない!!

 かーっ、ぺっぺっ! 私に唾を吐きかけられたあくあの神像が嬉しそうな顔をしてて若干気持ち悪かった。


「あ、おかえり。ど……どうだった?」

「知らない!」


 私は自分の牢屋に帰ると布団に潜り込んでふて寝した。

 その翌日……。


「小雛ゆかり、布団がくちゃくちゃなので減点1や。それと昨日、お風呂に入らんかったやろ。風呂キャンセルも減点1や。朝の身だしなみのチェックもできてないし減点1。ついでにうちに叩き起こされた時点で寝坊で減点1、合計で減点4やな」

「はぁ、ふざけんな!!」


 私は鉄格子の向こう側に居るインコに噛みつこうとする。


「ちょっと、おかしいでしょ! これって、あくあをはめる企画でしょ!? なんで私までやる必要があるのよ!!」


 そうよ。普通に考えて私が刑務所に入る理由なんてないじゃない。

 だから、さっさと私を釈放しなさいよね。


「こういう事や」


 インコはスタッフから受け取った台本を私に見せる。

 それなら私も打ち合わせの時に読んだわよ。


「でろーん!」


 インコはそう言うと、台本の表題が書かれたシールを剥がす。

 私は目を凝らすと、その部分をじっと見つめる。


【小雛ゆかり、更生プログラム企画】


 って、何よ、それ!!


「つまりこういうことや!!」


 インコはタブレットの画面を私の方へと向ける。

 するとタブレットに目線のズレたアヤナちゃんや、阿古っち、えみりちゃんやあくあが登場して、私の日常や生活に対して話す映像が映し出された。


「小雛ゆかり、女優。仕事はできるが、片付けはできないし、朝も1人で起きれない。お風呂も勝手にキャンセルする。食べたものも片付けられない。遊んだものを出しっぱなしにする! ええか、ゆかりが社会不適合者やっていう証拠は全部上がっとるんやで!!」


 ちょっと!! それなら、部屋が散らかってる阿古っちだってこっち側でしょうが!!

 えっ? あっちはマシ? そんなの知らないもーん!!


「というわけで、ゆかり! しっかりとここで普段の生活から更生してもらうで!!」

「いーーーやーーーーー!」


 ちょっと待って……それじゃあ、あくあは?

 あくあはなんのために収監されたのよ!!


「ちなみにあくあ君はスターズでたくさん頑張ったから、向こうで1人ウハウハタイムを満喫中やで。これはベリベリのスタッフが提案した逆ドッキリで、あくあ君が喜ぶイベントばかりが起こる慰労企画でもあるんやから。ゆかり……向こうの刑務官がアヤナちゃんの時点で勘付かなあかんで」


 だ、騙されたぁぁぁああああああああああああああ!!

 その場にへたり込んだ私は、ベリベリのガチ企画に付き合わされて1週間ほど刑務所の中で生活させられる事になった。

 その間、お昼ご飯中に、ステイツのホワイトルームでテロ事件が起こったという臨時ニュースが流れたけど、たまたま修学旅行でホワイトルームを見学してたあくあがあくあをして大統領含めて全員が無事だったらしい。ねぇ、まさかとは思うけど、これもベリベリの仕業じゃないわよね?

 えっ? そっちはガチ? ふーん、襲撃したタイミングであくあが見学してるなんて御愁傷様。

 それにしても、あいつ……帰ったらお祓いにでも行っておいた方がいいわよ。いくらなんでもテロリストに遭いすぎじゃない? 道を歩いたらテロに遭遇するレベルでしょ。

 私は周りのステイツのエキストラ受刑者がポカーンとする中で、1人パクパクとカレーを食べた。

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