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キテラ、事後処理。

 ステイツの大統領と日本の総理、そしてあくあ様の3人を巻き込んだ事件は無事に終結した。

 しかし、これはあくまでも表向けの話である。

 聖あくあ教スターズ支部があるスターズ正教本部の地下では、地獄のカーニバルが開催されていた。


「ああああああああああああああああ!」

「お願いです。助けてくださいいいいい!」

「あ、頭が沸騰しておがじぐなるぅぅぅううううう!」


 自白用に開発された御神体マシーンの激しい責苦にあったテロリスト達が叫び声を上げる。

 その恐ろしい光景を見た信者達が恐怖に震え上がる一方で、十二司教トップである監督官、ワーカー・ホリックの千聖クレアは歓喜で体を小刻みに身震いさせていた。


「我らが神に逆らった愚かな者達よ。その身を以って神の素晴らしさを知るのです。あーくあ!」


 さすがはあのメアリー様から聖あくあ教十二司教のNo.1を託された女だ。

 私も最初は、ただの女子高生にこんな大役が務まるのかと懐疑的な気持ちで彼女の事を見ていたけど、この女……思った以上にやるわね。

 私は仮面の下で恍惚とした表情を浮かべているであろう千聖クレアの横顔に視線を向ける。


「責苦が弱いですね。御神体マシーンの攻めレベルをアップして、更に自白を促しましょう」

「了解しました!」


 テロリスト達の絶望した声が部屋中に響く。

 それを見た一般の信徒達は目の前で起こる激しい責苦から目を逸らす。

 千聖クレアも初めの頃は彼女達と同じような反応を見せていたが、あくあ様が引き起こした数々の神の御業を目の当たりにした事で何かが壊れたように覚醒した。

 やはり、人の素養を見抜く目を持ったメアリー様や、聖あくあ教の土台を作り上げた聖女様が選んだだけの事はある。

 普段は胃が痛いだのなんだのと言っているが、彼女のストレス耐久値は太平洋よりも広い。

 この状況すらも楽しんでいるような素振りさえ感じた。


「ここから15分毎に5分ずつ休憩を入れましょう。いずれ慣れますが、慣れないようにコントロールすればいいのです。ああ、それと脱水症状には気をつけてくださいね。死んでしまっては意味がないです。あっ! そうだ。水をあげる時についでにリラックスする例の草も混ぜちゃいましょう。そのうち意識が朦朧としてきて、お話をしてくれるようになるはずですよ」


 聖女製薬が開発したホゲロンの材料にも使われてる例の裏山の草ですか……。

 と、こんなところで油を売ってる場合ではありません。私は拷問部屋から出ると聖あくあ教で匿ってる2人が居る場所へと向かう。


「闇聖女様、こちらの部屋です」

「ありがとう。後は私に任せてちょうだい」


 私は信者の1人に礼を言うと、目の前の扉をノックして部屋の中に入る。


「森川椛と風見とおこだったわね。こんな狭い部屋で待たせてごめんなさい」

「問題ない。飯が食えて横になれればそれで十分だ」

「うんうん。こっちは楓ちゃん達に内緒にしてきてるから、むしろ助かるわ」


 まさかこんなところで森川楓の母親とくの一の親戚に出会うなんてね。

 私はさっきの信者から手渡された2人の経歴に目を通す。

 なるほど、どっちも皇くくり……いや、母親の皇きくりの子飼いだった女達か。


「ところで貴女達のこれからの処遇なんだけど、貴女達はどうしたいのかしら? 聖女様からは出来る限り2人の希望通りに聞いているのだけど……」


 本当はうちで聖書を読み聞かせて洗……教育して飼いたいくらいだけど、この2人はかなりの手練れみたいだし、今は普通に協力関係を築いた方が良さそうね。


「ありがとう。それなら帰りの飛行機のチケットをお願いできるかしら? こっちでやる事は終わったみたいだし、早く日本に帰って報告して愛する娘の顔が見たいわ」

「わかりました。2時間後の便で帰宅できるように、すぐに手配しましょう」


 私はベルを鳴らして信者の1人を呼ぶと、空港のチケットの手配を頼んだ。

 それと同時に地下駐車場に車を回してもらって森川椛を空港に送り届けるようにお願いする。


「本当にありがとう。助かるわ。それじゃあ、とおこ、お先に失礼するわね。貴女に会えて良かった」

「ああ、私もだ。久しぶりに会えて良かったよ。椛、機会があればまた会おう」


 そう言って森川椛は一足先に部屋を後にした。

 さて、問題はこっちの方よね。


「で、残った貴女はどうする?」

「そうだな……。粉狂いと呼ばれている女性から話を聞いたけど、こちらの組織で親戚のりんが世話になっていると聞いた。彼女に会う事はできるだろうか?」


 私は彼女の言葉に頷く。


「ええ、もちろん大丈夫よ。それじゃあ、貴女にも日本行きのチケットを手配しましょう」

「助かる」


 これは千載一遇のチャンスね。

 あのくの一の親族、それも師匠であるならかなり強いはずだ。

 彼女の強さを身近で見た粉狂いからもその話は聞いている。

 もし、風見りんを通して彼女をうちにスカウトできればかなり大きな戦力になるだろう。

 そう考えた私は彼女に一つの事を提案する。


「そういえば、風見とおこさん。以前、皇家で侍女をしていたとか……」

「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」


 私は彼女に、くの一が今は白銀家で侍女をやっている事を伝える。


「どうでしょう? 白銀家で侍女をやってみませんか? 私達の力を使えば、貴女1人くらいなら余裕で侍女として潜り込ませる事は可能ですよ」

「ほう……それは面白そうだな。いいだろう。どうせ私は死んだ女だ。君の思惑に乗っかってやろうじゃないか」


 ふふっ、なし崩し的にこちらの勢力に引き込もうとしていた事は流石にバレてたか。

 でも、それがわかった上でこちらの提案に乗っかってくれるのはありがたい。

 私は風見とおこと固い握手を交わす。


「それじゃあ、シャムス陛下とスウ・シェンリュ陛下が後宮に帰る便に貴女を侍女として潜り込ませておくわね。それまでの間、ここに居ていいから。何か必要なものがあったら遠慮せずに言って頂戴」

「ああ、助かるよ」


 これでこっちの問題も解決ね。

 私は部屋を出ると暇にしていそうな信者の1人に、彼女の事に関する手配をお願いする。

 ん? さっきの信者、そこはかとなく聖女様に似ていたような……ううん、私の気のせいね。

 聖女様がこんなところを一般信徒の服を着て彷徨いているわけなんかありませんもの。

 私は情報司令部に入ると、パソコンの前に張り付いていた信徒の1人に声をかける。


「新たな情報は掴めたかしら?」

「いえ。今回のテロに関与した人物達やその家族の銀行口座、社会保障番号、交友関係、通信履歴、経歴、監視カメラの映像などを分析しましたが、不自然なほどに何も出て来ませんでした」


 おかしいですね。

 どんなプロが関わっていたとしても、普通なら何かしらの痕跡は残るはずです。

 信者は椅子から立ち上がると、私の耳元でそっと囁く。


「はっきり言って妙です。普通ならデータを改竄してもそのログが残るはずですが、それも残っていませんでした」


 それは確かに妙な話ね。

 1人2人ならまだしも、今回は数百人規模の人間がこのテロ事件に関与している。

 普通なら少しくらいは痕跡が残っても欲しくない。


「闇聖女様、私はこんな事ができる存在は1つ……いえ、1人しか知りません」


 彼女はそう言って私の手に何かを握らせる。


「ありがとう。もしかしたらまだ何か出てくるかもしれないから、引き続き調査の方をお願いね」

「はい、わかりました!」


 私は情報司令部を出ると、自分の部屋に戻る。

 監視衛星と監視カメラだらけの外に比べたら、まだここの方が安全です。

 私は手渡しされたメモ書きを広げると、そこに書かれた文字へと視線を落とした。


【確証はありませんが、こんな事ができるのは管理人とAI3510だけです】


 普通に考えるならやっぱりそこか。

 数百人にも及ぶ人間のどのデータにも違和感がなく、ログに改竄されたデータも残ってないなんて明らかに人にできる事じゃない。

 それにタイミングよくAI3510がオーバーヒートした事も気になります。そんな偶然があるのでしょうか?

 私はメモ書きの続きに書かれた言葉をつぶやく。


「もしくは、どこかの組織がAI3510に対抗できるAIを開発したか……」


 可能性としてはなくはない。ただ、現実的にそれができる国となるとステイツくらいだろう。

 はぁ……私は椅子の背もたれにもたれかかると大きなため息を吐く。

 ステイツに侵入してる二重スパイの二重奏に、いや、それはダメね。

 二重奏は修学旅行中のあくあ様が問……んんっ! 神の御業を起こした時のために今は動かせない。


「この件は一旦保留ね」


 もし、管理人やAI3510が裏切っていたとしても、聖あくあ教の根幹まで入り込んでいる以上はどうしようもできない。

 それに、この私がそれに感づいたという事は、メアリー様やくくり、それに聖女様もこの事に気がついている事でしょう。


「そう考えると、聖女様が身内にあくあ様の敵を抱えるとも思えないし、ここは聖女様の判断に任せた方が良さそうね」


 私は重い腰を上げると、自室を出て地上部分にあるスターズ正教の教会へと向かった。

短いです。後半部分はこちらに書けない内容でしたので……。


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