白銀あくあ、地獄に堕ちろ!!
「とあ! 慎太郎! 天我先輩!!」
俺は3人の顔を見てびっくりする。
どうしてみんながこんな所に居るんだ!?
それにスウちゃんやシャムスさんまで……。
俺の何か言いたげな顔を見たとあは得意げな顔をする。
「ふふん、あくあがいつもやってる事でしょ」
「ああ、そうだな。後輩がいつもやっている事だ」
とあと天我先輩はお互いの顔を見て笑い合う。
俺がいつもやってる事?
頭に疑問符を浮かべた俺を見て、慎太郎が前に出てくる。
「忘れたのか、あくあ? 俺達はBERYLなんだぞ」
慎太郎の言葉にとあと天我先輩の2人が頷く。
「親友、俺達は世界を変えるんだろ? 世界を変えるなんて大それた事を言うような頭のおかしな奴らが、世界に危機が訪れている時に守りに入ってどうするんだ?」
3人は真っ直ぐと俺に向かって握り拳を向ける。
その手を良く見たら3人とも傷だらけだった。
俺だけじゃない……。みんなもここに来るまでに色々あったんだ。
「日本を出る時にも一悶着あってな」
「そのせいで山田くん達を置いて来る事になっちゃったんだけど……」
「孔雀、丸男、はじめ……それに他のみんなもこっちに来るつもりだったんだ。でも、あいつらは俺たちを飛行機に乗せるために空港の警備隊に飛びついてな」
慎太郎……。
とあ……。
天我先輩……。
それに丸男や孔雀、はじめの3人も……。
いや、きっとこの6人だけじゃない。
天我先輩の口ぶりから、モジャさんやノブさん、理人さん達も協力してくれたんだろうなと思った。
「みんな、本当にありがとう」
俺は真っ直ぐと手を伸ばすと、ドライバーのOP映像のように傷だらけの手を重ねる
「でも、それにしたって無茶しすぎだって」
「あくあがそれ言う?」
「全くだ」
とあと慎太郎の2人が吹き出す。
「ふっ、後輩……我らが誰か忘れたのか? カノンさんの結婚式を阻止するために、共にスターズに来た時の事を思い出せ。後輩、お前がそうであるように、メンバーの1人であるお前のピンチに駆け付けないような我らではないぞ!!」
ああ、ああ! そうだよな。
あの時も、俺を助けてくれたのはBERYLの3人だった。
3人の熱い想いに、俺の胸の奥が熱くなる。
「ちなみに我はこの流れにのってお前達の修学旅行にも同行するぞ! そのために、こっそりステイツ行きのチケットと宿泊の予約は取ったからな!!」
俺は思わずズッコケそうになる。
せっかくかっこいいシーンだったのに、天我先輩、本当はそっちが目的だって言いませんよね!?
俺がなんとも言えない顔をしていると、とあがゆっくりと近づいてくる。
「あくあ……」
とあは真剣な顔で俺の目を見つめる。
「僕達は確かにあくあほど強くないよ。でもね、守ってもらうだけじゃ嫌なんだ」
力強い眼差しを向けたとあは小さな拳をギュッと強く握りしめる。
「日本に居て、そこが安全なんだっていうのも、僕達が外に出ない方がいいのはわかってる。でもさ……そんな所に引きこもってばかりじゃ、あくあに何かがあった時に助けられないじゃないか。わがままだってわかってる。でもね、僕はそれが嫌なんだ」
俺の目に映ったとあが、あの日、部屋の外に出てきてくれたとあの姿と重なる。
とあ……やっぱりお前は強い奴だ。
だから俺はお前と一緒にアイドルをやりたいと思ったんだよ。
過去に苦しい事があって、それでも前を向こうとするお前の強さに俺は胸が熱くなったんだ。
「あくあ……もし、これで僕が死んだとしても、それでもいいと思ったんだ。君が1人で死ぬくらいなら、僕は君の隣で死ぬよ」
俺はとあの言葉に首を横に振る。
そんな事、誰がさせるかよ。
「心配するな。とあ。俺が絶対にお前を守る。だから、ずっと俺の隣に居ろ。そこが世界で一番安全な所だ」
「うん、そうする。本当は死ぬのは怖かったんだ。だから、もし映画みたいに銃で撃ち合うシーンになったら絶対守ってね!」
とあはすーっと俺の斜め後ろに隠れる。
いいぞ。そこは小雛先輩もよく使ってる結構安全なゾーンだ。何かあったら俺を盾にしろ。
俺ならワンチャン、銃で撃たれてもどうにかなる。
アキオ師匠も1発だけなら撃たれても大丈夫だって言ってたしな。
「嗜みの死亡を確認!」
ん? メアリーお婆ちゃん、今、小さな声で何か言いました?
「いえ、なんでもありませんのよ。おほほ」
メアリーお婆ちゃんの両隣に立っていた羽生総理とメイトリクス大統領は肩を振るわせながらキリッとした顔をする。
羽生総理がこういう顔をしてる時って、だいたい笑うのを堪えてる時のような気がするけど、俺の気のせいか?
「さて……それではキャストも勢揃いしたところだし、改めて採決を始めましょうか。まぁ、私たちの答えは最初から決まっていますけどね」
メアリーお婆ちゃんの言葉に、羽生総理、メイトリクス大統領、シャムスさん、スウちゃんが頷く。
「わかりました……」
中央に座っていた人が何か覚悟を決めたようにゆっくりと目を閉じる。
へぇ、あの人がこの議会の議長さんか。
一呼吸置いた議長さんは再び目を開けると、今にも泣きそうな顔で俺を見つめる。
「白銀あくあ……もし、私が助けを求めたら、あなたは助けてくれますか?」
どういう意味だ? いや、意味や理由なんかどうでもいい。
彼女の表情ひとつで俺の答えは最初から決まっている。
俺が一歩前に出ると、全員の視線が俺へと注がれた。
「ああ、俺に任せておけ」
余計な言葉なんていらない。
それが何かの罠であろうと、それすらも踏み抜いていくのが俺だ。
「どうか、どうか……私の娘を救ってください。お願いしま……」
自分でもなんで走り出したのかわからなかった。
多分、野生の勘って奴だと思う。
俺は議長席を飛び越えると、銃声と共にそのまま議長を抱きしめるようにして倒れ込んだ。
「あそこだ!!」
「大統領達の安全を確保しろ!!」
俺は議長と共に議長席の裏に隠れる。
良かった。どうやら議長に怪我はないみたいだな。
俺は議長の体を見て彼女に怪我がない事を確認する。
「あくあ、あくあ!!」
近くに居たカノンが今にも泣きそうな顔で俺を見つめる。
相変わらず俺の嫁は世界で一番綺麗だ。
カノンはドレスの裾を破くと、必死に俺の肩を抑える。
くそっ、肩がいてぇ。どうやら1発くらっちまったようだ。
「大丈夫だ。カノン。弾は貫通してる」
「でも……でも……!」
俺はカノンの髪を優しく撫でると、いつものように微笑む。
「大丈夫。師匠が言ってたけど、1発だけなら撃たれたうちに入らないって」
「だからその師匠って誰よ!? 小雛ゆかりさんはそんな事を言わないでしょ!!」
はは、そうだったな。
俺の頭の中に小雛先輩の顔が浮かんでくる。
そういえば、小雛先輩がお土産を買ってこいって言ってたな。
撮影の仕事もまだ残ってるし、俺にはこの後も予定がたくさん詰まってるんだ。
「取り押さえたぞ!」
「観念しろ!!」
どうやら銃撃してきたやつは確保されたみたいだ。
「怪我人はいるか!?」
「大丈夫です。多少擦りむいたくらいです!」
周囲の声を聞く限り怪我をした人はいても、致命傷を負ったり死んだ人はいないようだな。
俺はホッと胸を撫で下ろすと、議長へと視線を向ける。
「さっき、娘を助けてくれと言ってたけど説明してくれませんか?」
「うう、娘を……大事な一人娘を人質に取られたんです。採決を急かせるようにと……。それで私は仕方なく……でも、こんなのは間違ってる。ええ、私にだってわかっているんです。だけど、愛する自分の子供を見捨てるなんて私にはとても……」
俺は議長の肩を優しく叩く。
この人も自分の立場と娘さんの命を天秤にかけて、苦しんでいた事が伝わってきたからだ。
「あくあ……人質に取られたのは、その人の娘さんだけじゃないの。えみり先輩が……」
その言葉を聞いた途端、銃で撃たれた肩の痛みが一瞬で消えた気がした。
俺はゆっくりと立ち上がると、カノンの顔をジッと見つめる。
「カノン、俺は行くよ」
「で、でも……」
俺はカノンの唇に優しくキスする。
「大丈夫だ。カノン、俺を信じろ。絶対にえみりを救ってくる。だから教えてくれ。えみりはどこに居る?」
「……多分、この近くにいる。近くにある教会の鐘の音が聞こえたから。でも、今、わかってるのはそれくらいしかないの」
それだけで十分だ。
俺はここに残った全員の顔をぐるりと見渡す。
「議長、それと各国の代表団は採決を続けてください」
俺の言葉にみんなは顔を見合わせる。
「俺達、一般市民は採決に参加できません。そんな俺たちと違って、あなたたちには自分達の国と、そこに住まう俺たちの未来を選ぶ権利と責任がある。だからどうか、皆さんは自分の責務を果たしてください」
議会場は変なところに横穴が空いてるし、飛び散ったガラスは散乱してるし、議席には銃弾の痕が残ってる。
それでも、いや、そんな状況だからこそ、俺は採決をするべきだと思った。
「メイトリクス大統領、私たちの席に座りましょうか。これは私達にしかできない仕事ですから」
「ああ、そうだな。羽生総理。我々は絶対にテロや暴力には屈したりしない!!」
日本の総理とステイツの大統領は誰よりも真っ先に議席の椅子に座る。
それに呼応するかのように、他の国の代表団も壊れてない椅子を確保してそれぞれの議席についた。
俺が乗ってきた車のところへと向かおうとすると、目の前にメアリーお婆ちゃんが立ち塞がる。
「あくあ様……」
「メアリーお婆ちゃん、止めても無駄だよ」
俺の言葉にメアリーお婆ちゃんは首を縦に振る。
「わかっています。ですから、あくあ様にはこれを」
メアリーお婆ちゃんは俺に持っていた銃を手渡そうとする。
俺は受け取るのを拒否しようとしたが、それでもメアリーお婆ちゃんは無理やり俺の手の上に銃を置いた。
「これは最新のテーザーガンです。従来のテーザーガンと違って、通常の銃と同じように使えて殺傷能力もありません。どうかこれを使ってください」
テーザーガン。スタンガンのように相手を気絶させて無効化させる銃だ。
それなら使ってもいいかな。
俺は手慣れた手つきでマガジンをセットすると、スライドを後ろに引いて銃弾を装填する。
銃の使い方は前世でアキオ師匠が教えてくれた。あの人は武術もそうだが射撃の技術もすごったんだよな。
今思えば、アキオさんはなんで養成所の食堂でコックなんてやってたんだろ……。
ていうか、武術はともかくアイドルに射撃って必要なスキルか?
俺は前世で所属してた事務所が本当にアイドルの事務所だったのか怪しい気持ちになってくる。
「こちらはお任せください。きっと議長の娘さんは、えみりちゃんと同じ場所にいるはずです。だからどうか、えみりちゃんを助けてあげてくださいね」
「わかっています」
俺は車に乗り込む前にとあ、慎太郎、天我先輩へと視線を向ける。
「行ってくる」
「ああ」
「うん!」
「待ってるぞ!」
俺はドアの持ち手を握るとガルウィングの扉をバタンと閉じる。
さてと……カッコつけて扉を閉じたまではいいが、ここから先が問題だ。
カノンが言った通りならこの近くに犯人がいるんだろうが、すでに計画が失敗した時点で人質を連れて逃げ出した後だと思う。
この周辺から逃げ出す車なんて大量にあるだろうし、闇雲に探したところで見つかりそうにない。
そんな事を考えていたら、AIの3510が話しかけてきた。
【マスター。衛星を使って周囲の状況を確認していたところ、武装した人間達が車に乗り込む姿を見つけました。中央の液晶コンソールにその映像を映し出します】
中央のコンソールに複数の武装した人間が車に乗り込む姿が映し出される。
その中に小さな女の子と寄り添ったえみりの姿を見つけた。
見た感じ怪我とかはしてなさそうだな。
「3510、この車をマークしてナビゲートしてくれ。……追いつけるか?」
【HAHAHA、この余裕のエンジン音を聞いてくださいよ。馬力が違いますから!】
俺はギアをバックに入れると、助手席のシートの後ろに手を回して勢いよく車をバックさせる。
「えみり、待ってろよ。必ず俺が助けるからな……!!」
ギアを一速に入れた俺は、えみり救出に向けてアクセルを踏み込んだ。
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