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粉狂い、老兵。

「他の捜索チームから連絡があった。どうやら、脱出用のポッドを発見したらしい。幸いにも大統領専用機の乗員・乗客達は全員無事だそうだ」

「よしっ!」

「やった!」

「シューコー! シューコー!」


 私の言葉を聞いて、鬼軍曹と将軍、マンキツ……聖女様の3人が喜び合う。

 なんの意味があって聖女様がペーペーの一般信徒のフリをしているかはわからないが、私如きの考えで聖女様の意図は測れないので聖女様の筋書きに付き合う事にした。

 きっと聖女様の事だから、私が気がついている事にも気がついていると思うし、何か深い考えがあるんだろう。


「脱出時の詳細な映像もあるぞ」


 大統領専用機は機内で起きた全ての事は複数の高精度カメラでリアルタイムに撮影され、本体並びに脱出ポッドの中にあるレコーダーに映像が保存されている。

 私はヘリを操縦しながら、後ろの座席に居る聖女様達にタブレットを手渡す。


「なんでSPが先に退避して、守られなきゃいけない3人が戦ってるんだろ……」

「鬼軍曹、あの3人と森川楓については深く考えちゃダメです。時間の無駄ですから」


 私は聖女様の言葉に頷く。

 そもそもあくあ様が守られなきゃいけないような男の子だったら、ここまでの多くの信者を獲得できなかっただろう。

 私は自らの過去に思いを馳せる。


『アニューゼ、男の子は守るものよ。だから強くなりなさい』

『へいへい、お母様。わかってますっと』


 上流階級の家に生まれた私はお母様の言いつけ通りに男の子が守れるくらいには強くなったつもりだ。

 だが、いくら強くなったとしても女性側に好みがあるように、男の子側にも好みってものがある。

 いくら見合いをしても、男の子達は私の顔を見るなり、この三白眼にビビって腰を抜かすか、特徴的なギザ歯を見て泣いて逃げ出すかの二択しかなかった。


『お母様、無理です。私は結婚できそうにありません』

『そんな、アニューゼちゃん、諦めないで! いくら男性の数が人口の1%しかいないからといって、1人くらいはアニューゼちゃんの良さをわかってくれる男の子がいるはずよ!!』


 お母様、たとえ世の中にそんな奇特な男性がいたとしても、出会える可能性は天文学的な確率だと思います。

 とはいえ、何もせずに諦めるのも私の性分じゃない。

 それならばまずは少しでもそういう男性と出会える確率を上げるために自らが有名になろうと思った。

 幸いにも私は何をやってもうまくいってしまうくらいの才能がある。

 だから大好きなゲームでも簡単にプロゲーマーになって数々のタイトルを取ってきた。

 プロゲーマーを引退した私は本格的にゲーム実況を始めると、それに並行してステイツやスターズで人気のあるXスポーツの配信も始める。

 だが、これが一番の悪手だったんだよな。

 私は純粋に口が悪いから、ゲーム実況を見た男性からは怖がられ、Xスポーツの危険すぎる配信を見た男性からは更に避けられるようになった。


『お母様、やっぱり無理です。私は結婚できません』

『アニューゼちゃん、諦めちゃダメよ! ほら、アニューゼちゃんがやってるバトルロワイヤルのゲームだって最後まで何があるかわからないじゃない。そうなった時、アニューゼちゃんは強いからきっと大丈夫よ!!』


 お母様、現実世界でバトルロワイヤルは起きません。美洲様が出演した映画の見過ぎです。なんて野暮なツッコミはしない。

 私はこの時にはもう完全に男性というものを諦めていた。

 そもそも私は女に守られるような男よりも強い男が好きだ。

 それもただ力が強いとかそういうのじゃない。私は心が強い男が好きだ。

 だが、そんな男は現実に存在しないし、白龍先生の描く乙女小説にだって居ない。

 確率が0.01でもあれば頑張れるが、創作の世界にも居ないような男に出会える確率なんて0%だ。

 私は実況と配信をお休みする間、気晴らしになればと日本に旅行する。

 そこで私は運命的に出会ってしまったのだ。白銀あくあという、とてつもなく強い男に。


「粉狂い、通信が入ってますよ」


 チッ、せっかくいいところだったのに、この私の回想を邪魔するなんて一体どこのどいつだ?

 私は通話用のボタンを押す。


『粉狂い、あくあ様の無事が確認された。それを受けて図書館があくあ様の確保に向かっています。貴女達の部隊は、途中で補給をしてから次に指定されたポイントに向かいなさい』

『了解した』


 私は後ろに振り返ると、ギザ歯を見せてニヤリと笑う。


「あくあ様が見つかったってよ」

「やったー!」

「うおおおおお!」

「シューコー、シューコー!」

「ほぅ、無事だったか。よかったな」


 後部座席に居る聖女様達が手を取り合って喜ぶ。

 その中で1人、冷静な風見とおこと名乗る女を見て私は警戒心を強める。

 くの一の親戚らしいが、彼女の事を本当に信頼していいのだろうか?

 確かくの一、風見りんは家族と仲違いして里を抜けたと聞いている。

 私にとって、聖あくあ教はもう一つのファミリーだ。

 そのファミリーに危害を加えるような奴だったら私は容赦しない。

 とはいえ、この女の強さは本物だ。

 自分の強さには一定の自信があるが、こいつは私ごときじゃ相手にもならない。

 こいつに対抗できるとしたら、うちのくの一くらいだろう。

 私はもしもの時の事を想定しつつ、ヘリを操縦して教団が送ってきた補給ポイントへと向かった。


「よく来てくれました! 実はみなさんにお話ししておきたい事があります!」


 補給ポイントで待っていたシスターが大きな地図を持ってくる。

 そこで私達はとんでもない敵の計画を聞かされた。


「今回の襲撃犯がスターズの保有している核ミサイルを狙っているとの情報を得ました。聖あくあ教の各部隊は、イングランド州とフランス州に分かれてそれぞれの核ミサイルが保有された基地に分散して向かっています」


 オンライン化されている核ミサイルであれば管理人がどうにかできるが、オフラインにして直の操作パネルから発射コードを入力されたれたらこちらではどうしようもない。

 おそらく今回の相手もそれを狙っているのだろう。

 随分と大胆な事をしてくれる。


「私たちはどうしたらいい?」

「秘密裏にステイツが連れてきた核ミサイルを搭載した新型巡洋艦の防衛に赴いてください」

「わかった。そういう事なら任せろ」


 私は一応、確認のために聖女様へと視線を向ける。

 うん……。お顔が隠れてて表情はわからないけど、何も言わないって事はOKって事だよな?

 緊張する素振りを見せる鬼軍曹や将軍と違って、聖女様と風見とおこは計画を聞かされても至って冷静だ。

 やはりこの2人は場数を踏んでいるのか、肝の据わり方も違う。


「あのー、それでその……本部から助っ人が来てまして」

「助っ人? 私達のチームにか?」


 私のチームを助っ人をねじ込める人間なんて限られている。

 聖女様以外だと同じ十二司教の誰か。それも図書館か監督官、奉仕者くらいだろう。

 誰が何のために送ってきた?


「それがその、信徒じゃなくて日本政府から派遣された人なんです」

「日本政府から?」


 どういう事だ? 私は聖女様の方に顔を向ける。

 全くと言っていいほど動揺してない……。つまりこれも聖女様に取っては想定の範囲内という事か。

 さすがは深謀遠慮の聖女様だ。その知力と先を見通す目は、星詠みと言われたスターズの女王、メアリー・スターズ・ゴッシェナイトにも負けていない。

 私達がテントに入ると、迷彩服を着た女性が直立不動で出迎えてくれた。


「初めまして、聖あくあ教の皆さん。日本政府から依頼されてきました。森川椛です」


 森川椛……森川って、あの森川楓のお母さんか!

 そういえばどことなく顔が似ている。

 現場にいたシスターの1人が持っていた書類を私に手渡す。

 元自衛隊員、森川椛。私は彼女の経歴を見て違和感を感じる。

 あまりにも経歴が綺麗だ。綺麗すぎて怪しい。

 しかも経歴では自衛隊を除隊したはずなのに、どうして政府から依頼されてここに居る?


「ああ、そこはね。復隊したの。偉い人に無理を言ってね」


 偉い人に無理を言う……?

 それで復隊できるとしたらかなりの上層部か、自衛隊に対して強い権力を持っている誰かだ。

 おまけにそれで複隊できたとして、日本政府の依頼で聖あくあ教のミッションにねじ込める人間なんて限られる。

 私が思いつく限り、それができる人間は2人。そのうちの1人、羽生総理はそれを指示できる場所にはいない。

 となると答えは一つしかない。なるほど、皇くくり様か。


【Special Mission Task Force/国家安全保障部隊所属、森川椛特佐】


 通称S.M.T.F……日本にはどの命令体系にも組み込まれない特別な部隊があると聞いた事がある。

 私は彼女の現在の所属を見て、自らの推測に確証を得た。


「失礼ですが、森川椛さん……森川さんのお母さんがどうしてここに?」

「あら、そんなの決まってるじゃない?」


 森川椛は片目を閉じてウインクをすると、握りしめた両手の拳をボキボキと鳴らせる。


「毎日毎日、心の中で泣きながらニュースを読んでるうちの大事な娘を悲しませたやつらを、死ぬよりも苦しませて地獄にぶち落とすためよ」


 それを見た聖女様がすぐに胸元で十字を切る。

 やはり聖女様はお優しいお方だ。

 悲惨な事になるであろう者達を想像して、先に祈りを捧げられたのだろう。


「ふっ、相変わらず貴様は変わらないな。椛」

「っ!? その声はとおこ!? あなた、今まで連絡せずにどこに居たのよ!?」


 森川椛と風見とおこ。この2人、知り合いか?

 くそ! AI3510があればすぐにそういうデータも引き出せるのに、なんでよりにもよって肝心な時に熱を出して使用できないんだ!! 開発した管理人には悪いが、AIにポンコツ機能なんて絶対にいらないだろ!!

 何がリアルに鼻水も出るのよ。すごいでしょ。だ!! そんな機能こそどうでもいいから、オーバーヒートしないように冷却機能を改善しろ!!


「何、世俗を捨てて隠遁生活を送っていたんだが、面白い男が出てきたときいてな。会いたくなったのさ。白銀あくあとやらに」

「あなた、今までうちの娘の旦那様の事を知らなかったとか流石に異常でしょ……。一体、どんな生活を送ってたらそうなるのよ」


 風見とおこはインターネットやテレビのない環境で、山奥に引きこもって狩りをして生活をしていたと言っていた。

 たまに街には降りていたみたいだが、極東連邦やベラルーシ州は外部からの情報が一部遮断されている事も相まって、今まであくあ様を知る機会がなかったんだろう。


「ほう、椛の娘と結婚したのか。それはすごいな。ますます会いたくなった」

「ふふっ、あくあ君は目が見えなくても良い男だってわかるから注意してね」

「それは楽しみだ」


 私や聖女様達は森川椛の言葉に無言で頷く。


「ヘリの補給が終わりました!」

「うん、それじゃあ行こうか。粉狂いさんだっけ? 私もヘリの操縦ができるから、お互いに休憩しながら交代で操縦しようね」

「わかった」


 私と森川椛、それに森川椛や私から操縦を教えてもらった聖女様の3人でヘリを操縦して目的のポイントへと向かう。

 やっぱり聖女様はすごい人だ。ゲームでやってただけと謙遜していたが、センスがあるからヘリの操縦も一瞬で覚えた。


「そろそろ見えてくる頃よ」

「あれだ!」


 私は双眼鏡を使って巡洋艦の甲板を確認する。

 するとそこには襲撃を受けた跡があった。

 

「くそっ! 遅かったか!!」

「あれを見て!!」


 巡洋艦に向かってヘリが近づいていくのが見えた。

 追加の兵隊か。だけどそうはさせない。


「私達もヘリから降下して、巡洋艦に乗り込むぞ!」

「いや、その前に敵の数を減らそう。粉狂いとやら、もっと相手のヘリに近づけるか?」

「ああ、もちろんできるが、どうするつもりだ? 言っておくがこのヘリにはミサイルなんて積んでないぞ」


 私の言葉に風見とおこは微笑む。


「久しぶりにあの方法を使う。椛、できるか?」

「当然。でも、あなた、目が見えてないでしょ。大丈夫なの?」

「問題ない。むしろ視力を失ってそれ以外の感覚が研ぎ澄まされている」


 私は聖女様の方へと視線を向ける。

 聖女様は相変わらずぴくりとも表情筋が動いていない。

 これはきっと問題ないという合図だ。

 多分、そうに違いない!!

 私は指示された通り相手のヘリに近づいていく。

 はは、銃で撃とうとしているが無駄だ無駄。

 私はタイミング良くうまくヘリの上を取る。これでこっちには銃を撃てないはずだ。


「舐めるなよ。これでもXスポーツのトップストリーマーだぞ!」


 こっちは遊びじゃなくて命賭けてやってるんだよ。

 それはXスポーツにしてもゲームにしても、あくあ様に対してもそうだ。

 白龍先生、先生が小説で書いていらした命懸けの恋をするってこういう事ですよね?

 私は相手のヘリの急速旋回に合わせて並行するように、相手のヘリの外側につける。


「よくやった。あとは任せろ。行くぞ椛」

「オッケー!」


 そう言って2人は生身でヘリから飛び出すと相手のヘリに飛び乗る。

 ははは、マジかよ。2人とも最高にイカレてるじゃねぇか。

 

「ふんっ!」

「うぎゃあっ!」


 森川椛は銃を構えた敵の手をストローみたいにぐにゃりと折り曲げる。

 なんて怪力だ。やはり森川楓のあのパワーは遺伝なのか。


「ひぇ〜っ、楓パイセン親子には一生逆らわんとこ……」


 ん? 聖女様、今、何か言いましたか?

 私が後ろの席の聖女様と視線を向けると平然とした顔をされていた。

 うん、多分、私の気のせいだな。


「なんだ貴様は! ぐへっ!」

「安心しろ、峰打ちだ。それとお前らもプロの端くれなら痛がるな」


 風見とおこ。やはりあの女は強すぎる。

 確実に殺せるだけの能力があって、相手を殺すことにも躊躇いがない。

 それでもこっちにやり方に合わせて手加減できるだけの余力がある。

 そういうところがくの一と同じだ。


「帰ったら忍者にもゴマ擦ってへこへこしとこ、マジで……」


 ん? 聖女様、今、何か言いましたか?

 私が後ろの席の聖女様と視線を向けると至って普通の顔をされていた。

 うん、多分、私の気のせいだな。


「全員着陸態勢! 無理やり甲板にヘリを下ろすぞ!!」


 私は狭い場所にヘリを下ろす。

 それに合わせて森川椛は銃を突きつけたヘリのパイロットに指示を出して降りてくる。


「うっ……」


 森川椛と風見とおこはヘリから降りると、ヘリを操縦していたパイロットを気絶させる。


「さぁ、ハイジャックされた巡洋艦をハイジャックし返すぞ」


 はっきり言って私と鬼軍曹、将軍と聖女様は見ているだけだった。

 先行する2人が圧倒的な力と技で相手を捩じ伏せていく。


「うおおおおおおお!」


 身長160cmもない森川椛は身長2メートルを超えるプロレスラーみたいにでかい女を片手で持ち上げて放り投げる。

 やはりこのパワー、森川楓のアレは遺伝なのか。


「ふふっ、これが母親の力、ママパワーよ」


 絶対に違うだなんて野暮なツッコミは誰もしない。


「うぎゃっ!」

「ぐわぁっ!」


 風見とおこは刀の鞘を鳩尾に入れて倒した女達の顔をブーツで踏む。


「すまない。目が見えてないから許してくれ」


 絶対に嘘だろ。今、的確に踏んだのが私達には見えたぞ。


「なんなんだよ。こいつらは! ぐへぇっ!」

「こんなの聞いてないぞ!! ぎゃあっ!」


 相手も訓練されたプロのように見えたが、こっちの2人はプロ中のプロだ。

 ははっ、イカれた奴らは大体聖あくあ教に所属してると思ったが、世界は広いな。まだこんなにも面白いやつがいるのかよ。

 風見とおこと森川椛の活躍もあり、私達はあっという間に巡洋艦の司令部に到着する


「そこまでだ。止まれ」


 あれが敵の司令官か?

 敵の司令官は含みのある顔で、リモコンのボタンを押す。

 一瞬、核ミサイルのボタンかと思って焦ったが、どうやら後ろのモニターの映像を映すリモコンのようだ。

 モニターが切り替わると、どこかの部屋に集められた巡洋艦を運用していた軍人達の姿が映し出される。

 って、これは船底か? 部屋の中に水が入ってきているのが見えた。

 やばい。このままじゃ閉じ込められている人達が全員死んでしまう。


「君たちのやり方を見るに死人は出したくないみたいだ。ならば、大人しく従ってくれるね?」


 くそっ、私は風見とおこと森川椛の動きを制止する。

 私達が動かなかったとしても、この2人はもしかしたら動くかもしれないと思ったからだ。


「よろしい。君達の信奉する神とやらの信条に則るなら、きっとそうしてくれると思っていたよ。やはり、こいつらを殺さずに人質として残しておいて正解だった。さあ、武装を解除してもらおうか」


 私達は言われた通りに手に持っていた武器を床に置いて、相手側へと滑らせる。


「それではこちらも約束通り水を止めよう。彼女達にはまだ利用価値があるからな」


 相手の司令官はそう言うと、ボタンを押して軍人達の居る部屋に流れる水を止めた。


「おっと、そこの将軍様と言ったな。そのパワードスーツも脱げ」


 将軍は言われた通りにパワードスーツを脱ぐ。

 へぇ、お前ってそんな顔をしてたんだな。幹部の1人なのに初めて見たぜ。

 司令官は、将軍の顔を写真に撮ると、何かのデータベースと照らし合わせる。


「……茶々まる。へぇ、あの森長のメリーさんの中に入ってる奴なのか」


 なんだと!? 将軍、貴様。そんなあくあ様と近いポジションに居る女だったのか!?

 ていうかお前、リアルでも着ぐるみを着て、聖あくあ教でもパワードスーツを着てるとか、どれだけ着ぐるみ好きなんだよ……。

 敵の司令官は、将軍に続き鬼軍曹のデータも照合する。

 その次は私の番だ。


「粉狂いのアニューゼ・テイラー・クゼシックだな。お前は広告塔として、幹部で唯一本名を出して顔出しをしてる奴だからわかるぞ。うちの娘がお前のファンなんだ。あとでサインをくれよ」

「はっ、サインならいくらでもくれてやるから、こんなバカなことはやめろ」


 私の提案に対してこいつらは顔を見合わせて笑い合う。


「で、こっちのマンキツと呼ばれていたお嬢さんは誰かな?」


 司令官は私の隣に居る聖女様のヴェールを剥ぎ取る。

 次の瞬間、鬼軍曹や将軍はもちろんのこと、敵の司令官達も驚く。


「ははっ! これは驚いた! まさか雪白えみりが聖あくあ教の一般信徒だったなんてな」


 私は偶然にも知る事ができたが、えみり様が聖女様だと知っているのは幹部でも一部の人間だけだ。

 そこに気がついた時、私はハッとする。

 もしかして、聖女様は最初から相手に捕まる事を想定していたのではないか。

 私にはよくわからないが、聖女様にしかわからない何か深い考えがあってのことじゃないのかと思った。

 なるほど、だから聖女様は聖女ではなく、一般信徒としてこの作戦に参加したんですね。


「ほら、さっさと歩け。おかしな真似をしようと思うなよ」


 私達は敵の司令官の指示で甲板に連れて行かれる。


「よし、私はこいつを連れてロンドンに飛ぶ。雪白えみりなら間違いなく白銀あくあへの牽制になる。お前らはここを占拠しておけ。それと、そいつらの処理は頼んだぞ」

「「「「「はっ!」」」」」


 くっ、いくら聖女様の計画通りだったとしても、身重の聖女様を1人にしたくない。

 なんとか私だけでもついていけないだろうか。

 私がそんな事を考えていたら、聖女様は私達に向かって女神のように優しく微笑んだ。


「私の事なら大丈夫。だからみんな、生きてまた会おう。大丈夫、絶対にどうにかなるから」


 聖女様から絶対に死ぬなと言われた気がした。

 敵の司令官達とえみり様が乗ったヘリが甲板から浮上してどんどん離れていく。


「よし、こいつらにもう用はない。殺せ」


 そんな事だろうと思ってたよ!

 敵の銃口が私たちへと向けられる。

 ここは一か八かやるしかない。

 いや、でも私達が動いたら、人質に取られた人達が、くそっ! どうしたらいいんだ!!

 そんな事を考えていると、巡洋艦が大きく揺れる。


「船底で爆発だ!!」


 誰がやったのかはわからない。でも、チャンスはここしかない。

 そう思った私は敵の1人に飛びつく。鬼軍曹、将軍、風見とおこ、森川椛の4人も同じように相手に飛びついて銃を奪う。


「クソが!」


 しまった。敵の1人が私へと銃口を向ける。

 すみません。聖女様、私はここまでのようです。

 生きて会えなかった事、ごめんなさい。

 でも、どうか、どうか。私の分もお幸せに!!


「くっ!」


 何かの衝撃を受けて銃が横に飛んでいく。

 私はすぐさまに敵の1人に衝撃を与えた方向へと視線を向ける。


『こちらはメリー1、メリー1。どうやら2号は無事のようね』


 空に浮かぶヘリから身を乗り出したメリーさんがスナイパーライフルを構えていた。

 あ、あれ? 本物のメリーさんはここにいるはずじゃ? なんであそこに二体目がいるの?

 私は一瞬夢か幻でもみてるんじゃないかという気持ちになる。


『粉狂い、援護する! おい、お前ら、久しぶりの戦場だぞ!』

『ヒャッハー! 腕がなるぜ!!』

『おい、お前ら人質の事は気にするな』

『私達の仲間の潜水部隊が巡洋艦の船底を爆破して、今頃、救出に向かってるはずだ』


 ヘリからロープが降りると、真っ先に見覚えのある婆さんが降りてくる。

 って、あれ。あくあ様の実家のご近所に住んでた元陸上自衛隊の元帥ババアじゃねーか!!

 確か聖農婦の婆さんで、畑仕事を手伝ってもらった事であくあ様と仲良くなったと聞いている。

 くそっ、現役引退して何年経ってると思うんだよ。でも、助かるぜ!!


「もうこちとら孫の顔も見たんだ! もう何も思い残す事はねーぞ!」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、棺桶に片足突っ込んでるババア達の本気を見な!!」

「あくあ様のおかげで三途の川から引き返してきたBBAどもを舐めるんじゃないよ!」

「あんたら! 何、ぼーっとしてんだい! 腰痛持ちのババアどもが頑張ってるんだから早くしろ!!」


 婆さん達は手慣れた手つきで甲板にC4爆弾を設置していく。

 こ、こいつら、相手の計画に乗じて、あいつらに罪を全部被せて、ステイツが保有する核ミサイルを搭載した巡洋艦を海の藻屑にするつもりだ。


「粉狂い。とおこと私はえみりちゃんを追うわ!」

「ああ、2人ともそっちは頼む! こっちはあの婆さん達がやりすぎないか監視しておく」


 本当は私もついて行きたかったが、私の実力じゃ2人の足手纏いだ。

 それよりも私は今、自分のできる事をする。


「鬼軍曹、将軍! 早くいくぞ。あのババアどもが暴走しないように私たちがコントロールするんだ!!」

「わ、わかった」

「う、うん!」


 私は鬼軍曹と将軍を連れて、人質の救出作戦に向かう。

 聖女様、どうかご無事で。お互いに生きてまた会いましょう!!

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