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白銀あくあ、特攻淑女Aチーム。

 ワルシャワを脱出した俺達は、東スターズ共和国とスターズとの国境に到着する。


「今日は随分と物々しいな」

「ああ、明日の昼過ぎには首脳会談があるからな。それに例の事故があったばかりだろ? 今は国境でも空港でもどこもこんな感じさ。それよりも身分証を見せてもらっていいか?」

「もちろんだとも」


 メイトリクス大統領は検問をしていた軍人のお姉さんに、ワルシャワの拠点で作っていた偽造のIDを提出する。

 やべぇ、映画だと大体はこれで通過できるけど、リアルの話になると別だ。

 俺は偽造のIDがバレて捕まったりしないかドキドキする。


「入国の目的は?」

「何、普通の家族旅行さ」


 メイトリクス大統領は後ろの席に座っている俺に視線を向ける。

 俺は身分証の設定でメイトリクス大統領と羽生総理の2人の娘という事になっているらしい。

 もちろん俺達は自分の正体がバレないように変装しているがそれでも心配だ。


「そうか。私も年頃の娘がいるが、お母さんと一緒に旅行してくれるなんて優しい娘さんじゃないか」

「HAHAHA、私達の自慢の娘さ」


 迷彩服を着たお姉さんが俺の事をジロリと睨みつける。

 バレませんように! バレませんように! バレませんように!

 俺は心の中で手を合わせて祈る。


「……行っていいぞ」


 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 メイトリクス大統領はIDを返してもらおうと手を伸ばしたが、軍人のお姉さんはその手をかわすようにIDを持っていた手を引っ込める。

 それを見た俺は一瞬ドキッとした。

 や、やっぱり、変装したけどダメでしたか?


「ただし、そこのテントで入国許可証を発行してもらってからだ。今は厳しくてな。すまないがそこに駐車して手続きしてもらえるか? ああ、もちろん、3人でな」

「ああ、わかった」


 メイトリクス大統領は車を止めると、バックミラー越しに俺に目で合図を送る。

 これは警戒しろってことだ。


「こっちだ」


 俺達は車から出ると、軍人達に囲まれて完全に密閉されたテントの中に入る。

 次の瞬間、中で待機していた兵士達と俺達の周りにいた軍人達が一斉に俺達に向かって銃を向けてきた。

 俺は超反応で相手が銃を向けるより先に近くに居たお姉さんの手首を掴むと捻り上げて銃を奪って構える。

 銃なんか撃った事ないけど、アキオさんから銃口を向けてきた相手からスマートに銃を奪うやり方を教えてもらって助かったぜ。


「ごめんね。お姉さん、痛くなかった?」


 俺は銃を奪ったお姉さんを気遣う。俺もアキオさんにされた事あるけど、コレ、結構痛いんだよな。

 もちろんメイトリクス大統領や羽生総理も同じような動きで銃を奪う。

 アキオさんからみっちりシゴかれた俺はともかく、2人とも手慣れ過ぎでしょ……。


「ストップ、ストップ。全くもう貴女達は血の気が多いんだから」


 俺と羽生総理、それにメイトリクス大統領は聞き覚えのある声にびっくりする。

 確認のために声のした方に振り返った俺は、俺達の前に現れた人物を見て驚く。


「メアリーお婆ちゃん!?」

「あくあ様。ご無事で何よりです」


 メアリーお婆ちゃんが手を挙げると、軍服を着たお姉さん達は銃を下ろして敬礼する。

 ホッ、どうやらこの人達は俺達の敵じゃないみたいだ。

 俺は指をトリガーに引っ掛けて銃をくるりと回転すると、銃を奪った軍人のお姉さんに銃を返す。

 さっきはごめんね。


「先生お久しぶりです。彼女達は?」

「スターズに残っている私の子飼いです。もちろん、忠誠を誓っているのはスターズではなく私だから安心してね」


 メアリーお婆ちゃんは俺に近づくと、ギュッと優しく抱きしめてくれた。

 なぜかはわからないけど、メアリーお婆ちゃんに抱きしめられるとすごく落ち着いた気分になる。

 なんか、カノンに抱きしめられた時と同じ感じがするんだよな。

 やっぱりお婆ちゃんと孫だからだろうか?


「本当に……本当によく戻ってきてくれました」

「メアリーお婆ちゃん……。心配かけてごめん」


 メアリーお婆ちゃんはゆっくりと俺から体を離すと、メイトリクス大統領へと視線を向ける。


「わかっていると思うけど時間がないわ。私達の掴んでいる情報を共有するわね」

「はい、メアリー様!」


 メアリーお婆ちゃんは、俺達をテントの奥に案内する。

 へぇ、外から見るより中は広いんだな。

 メアリーお婆ちゃんは手に持ったリモコンのボタンを押すと、テント内にあるモニターの映像を切り開ける。


「今回、貴女達を狙った組織については見当がついてると思うけど、彼女達の次の計画が明らかになったわ」


 モニターに見覚えのある列車が映し出される。

 あれ? 確かこの列車ってスターズの州を繋いでいる大陸間高速列車ユーロスターズじゃなかったっけ?

 学校の地理の授業で習ったぞ!


「彼女達はユーロスターズに爆薬を仕掛けて、ロンドン市内の議場の近くで爆破するつもりです」


 そんな事をしたら多くの人が死んじゃうじゃないか!

 くそっ! 人は死んだら……死んだら何にもならないんだぞ!!

 俺は怒りで拳を強く握りしめる。


「それならばすぐにスターズと運行会社に警告を出すべきでは?」

「政府に警告は出したわ。でも、彼女達はそれを利用して犯人を逮捕するみたいね。ステイツからもそうするようにと圧がかかっている見たいよ」

「くそっ!」


 メイトリクス大統領は近くにあった硬い鉄板を殴って完全に折り曲げてしまう。

 俺は手を挙げると、メアリーお婆ちゃんに質問を投げかける。


「ちょっと待ってください。それって一般の乗客を巻き込むって事ですか!?」

「そういう判断をしたようね。本当に愚策もいいところよ……」


 メアリーお婆ちゃんは歯を噛み締める。


「私はその作戦が失敗に終わると思ってる。そもそもこういう意向になったのも、間で捻じ曲げてる奴ら。つまりは婦人互助会の協力者が政府の上層部にいるからだと思うのよ。カノンや揚羽達だけじゃなくて、フューリアまで出てきて説得を頑張ってるけど、きっと空振りに終わるでしょうね」


 間で捻じ曲げてる奴らか……。

 つまり内部にも敵が居て、その人達が国としての意向に口を出している。

 それはイコール、国の意向に口を出せるくらいのポストについてる人達だという事だ。


「大臣クラスや秘書官、それに軍上層部、はっきり言ってどこに構成員が紛れているかもわからない。だから今の私達にできる事は、相手の計画を阻止する事だけよ」


 メアリーお婆ちゃんは俺達の顔をぐるりと見渡す。


「みんな、協力……してくれるかしら?」

「当然だ! 例え自国の民でなくとも一般人が被害に遭うとわかっていて動かない大統領が、自国の国民なんか守れるか!!」

「もちろんです。先生! たとえ異国の市民であれど、人を守る事にそんなのは関係ありません! それに、私にそう教えてくれたのは先生、貴女ですよ!」


 メイトリクス大統領と羽生総理、メアリーお婆ちゃんの視線が俺に注がれる。


「やりましょう。もちろんここにきて、安全のために俺を置いて行ったりませんよね? こう見えて、本気の俺はめちゃくちゃ強いですから」


 俺の表情を見たメアリーお婆ちゃんがすごく優しい目になる。

 その目がすごくカノンに似てる気がした。


「知ってるわ……すごくね。私の知ってるあくあ様はそういう人だもの。だから止めたりしませんわ」


 メアリーお婆ちゃんはもう一度、全員の顔をぐるりと見渡す。


「ありがとうみんな。それじゃあみんな、行動に移るわよ!!」

「「「おう!」」」


 俺たちはヘブンズソードのOP映像みたいに手を重ねて結束と決意を固めた。


「よし、それじゃあまずは“アレ”を手に入れるか」

「私もそう思ってたところよ」

「それじゃあちょうどいいところがありますよ」


 メイトリクス大統領、メアリーお婆ちゃん、羽生総理がニヤリと笑う。

 アレって一体なんだろう?

 正体を隠すために変装した俺達は、スターズのベルギー州のとある場所に向かう。


「ここはどこなんですか?」

「オークション会場だ。まずは次の計画に必要なものを手に入れる」


 俺達は偽造した身分証を使ってオークション会場の中に入る。

 すげぇ、見た事もないスーパーカーばかりだ。


「知っての通りユーロスターズは運行速度が最大で300kmで大陸を縦断している。おまけにカタログスペックでは最高時速320kmに迫る化け物だ。みんなも知っての通り、普通の車じゃ時速300kmも出ない。しかし、こいつらなら話は別だ」


 俺はメイトリクス大統領が首で合図を送った方に視線を向ける。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 ソレを見た瞬間、俺のテンションが爆上がりする。


「バイクが好きな私達ならみんな知ってると思うが、日本を代表するモンスターバイク。SUZUGIのGSX HAYABUSA 1999RAだ。知っての通り最高時速は334kmに迫る。治世子、お前ならこのバイクでも余裕で乗りこなせるだろ?」

「ああ、もちろんだ」


 かっけぇ。本物のHAYABUSAだ。

 真珠の輝きのように光っている真っ白な車体にブルーの文字が最高にいかしてる。

 見た目だけでもう速いって言うのをわからせてくるデザインが相変わらず反則だぜ。

 そういえば総理が今度、免許を取ったなつきんぐと一緒にツーリングに行くだってはしゃいでたな。

 なつきんぐ……紗奈は大丈夫だろうか? いや、大丈夫なわけないよな。

 だけど、もう少しの辛抱だ。必ず俺がこのミッションを成功させて総理を無事に連れて帰る。だから紗奈、それまでの間、俺たちの事を待っていてくれ。絶対に俺が総理を君のところに連れていく。


「そしてこっちはKAWAZAKIのSHINOBI H3R0だ。その最高時速は337kmを超えると言う。ステイツや日本の名作アクション映画に出ているアクションヒーロー達がKAWAZAKIのバイクに乗ってきたように、あくあ君にはこのバイクに乗ってもらいたい」

「わ、わかりました」


 すげぇ、まだ俺も乗った事がない最新のバイクだ。

 俺は黒光りした車体に縁取られた伝統のエメラルドグリーンを指先でなぞるような草を見せる。

 この色はベリルエンターテイメントの社名が書かれたプレートと同じ色合いだ。

 俺は遠く離れた日本に居るBERYLのみんなに思いを馳せる。

 とあ、慎太郎、天我先輩、みんな今頃、俺の事を心配しているかな?

 いや、あいつら3人は芯の強いやつだ。きっと俺が無事だと信じて、自分ができる事をしていると思う。だからこそ、俺も頑張って無事に帰らないとなと思った。


「あっちはYAMABAのYSP-R1だ。実際にレースに使われたフルカスタムのワンオフ機で、従来のスペックを上回る最高速を記録している。その代わりかなりのじゃじゃ馬に仕上がってるが、メアリー様なら乗りこなせるでしょう?」

「当然です」


 やっぱり赤のバイクっていいよな。

 シンプルなモノトーンカラーもかっこいいけど、信号機カラーにはやはり憧れる。

 それにYAMABAの信号機カラー、真紅のカラーリングはすごくかっこいい。

 あと、赤の車体って車にしろバイクにしろめちゃくちゃ速そうに見えるんだよな。

 そう思うのは俺だけだろうか?

 それと情熱の赤って感じがメアリーお婆ちゃんにあってると思った。


「どうやら、そろそろオークションの時間みたいだな。最後のバイクは目的のブツを落札してから説明しよう」


 オークションが始まると、あっという間にメアリーお婆ちゃんが目的のバイク4台を落札する。

 すげぇ。無双ってこういう事を言うんだろうな。落札ではまるで他を寄せ付けなかった。

 バイクを落札した俺たちの前に4台のバイクが並ぶ。


「最後にHONNDAのCBR1996 XXX Hyper black birdだ。これには私が乗る。28年前のレトロなバイクだが問題ない。リミッターを切って最新のパーツでカスタムしたこいつのポテンシャルは最新のバイクにだって負けてないからな。それにこの無骨でかっこいい車体がステイツ人の私に良く似合ってるだろ?」


 メイトリクス大統領がバイクにまたがる。もうそれだけで映画のシーンみたいだ。

 こんなにもバイクが似合う人がいるのだろうか?

 それと、ブラックバードはスピードもさることながら、ステルス戦闘機みたいな車体が最高にかっこいい。

 あと、メイトリクス大統領が乗るとめちゃくちゃ強そうだ。

 俺はこの人が味方で良かったと思った。


「あのー、ところで質問があるんですが……」


 俺は拠点に戻ったところでみんなに疑問に思ってた事を投げかける。


「300kmで走ったらその……速度オーバーにならないんですか?」


 俺の質問に大人達が顔を見合わせる。

 アレ? みんな急に黙ってどうしたんですか?

 メアリーお婆ちゃんは呆れた顔をすると、3人を代表して俺の疑問に答えてくれる。


「あくあ様。スターズに速度制限なんてありませんから。ほら、アウトバーンって聞いたことあるでしょ?」


 いやいや、確かに聞いたことあるけど、アレって高速だけじゃないの!?

 それも一応制限速度があって300kmまでじゃなかったっけ!? 330kmとかは完全にアウトだと思うんだけど……。

 でも、俺を見つめるメアリーお婆ちゃんの顔はすごく真剣だ。

 う、うーん、俺だって詳しく知ってるわけじゃないし、現地の元女王様が言うなら間違い無いよな……。

 俺はついでにもう一つの疑問も投げかける。


「あと、それと、俺、国際免許なんて持ってないんですけど……」


 大人達は俺の疑問に再び顔を見合わせると、次はメイトリクス大統領が3人を代表してにこやかな笑顔で前に出てくる。


「あくあ君。外で走ってる奴らを良く見ろ、あいつらも全員無免許だ」

「えぇっ!?」


 公道には何十台と車やバイクが走ってるけど、あの人達は全員無免許なんですか!?


「いいか。免許なんてシステムがあるのは日本だけだ。ステイツじゃ免許取るために無免許で公道で車走らせて練習するんだぞ。私だってそうした! だから細かい事は気にするな!!」


 そ、そうなんだ……。それじゃあ、一応大丈夫なのかな?

 一応、俺もバイクの免許は持ってるわけだし……。

 って、流石にそんなわけないでしょ!!

 いくら俺でもそんな子供みたいな嘘で騙されないですから!!


「そんな事より、明日の事について話し合いませんか?」

「治世子、賛成だ」

「私もその提案に賛成するわ」


 あ、大人達3人がささっと俺の前から逃げていった。

 うぅん、とりあえず国の代表と元代表がそう言ってるんだから大丈夫か。

 まぁ、何かあったら俺が日本に帰った時にまた留置場に入るだけのことだ。

 俺の頭の中に過去2度もお世話になっている杉田先生の顔がぼんやりと浮かんでくる。

 先生……2度ある事は3度あるらしいので、次もまた俺を優しく迎えにきて厳しく叱ってくださいね。


「よし、みんな。準備できたか?」


 翌日の朝早くに拠点を出た俺たちは、移動用の大型トレーラーの中でメイトリクス大統領の言葉に頷く。


「作戦を説明するわ。現在、ユーロスターズがブリュッセルの駅を出発してロンドンの駅に向かって移動中よ。私達は相手の作戦開始に合わせてユーロスターズの後部に取り付けられた輸送用の荷台に飛び乗るわ。もちろん失敗したら死ぬけど、そんなヘマする奴なんていないわよね?」


 ヘルメットを被った俺と羽生総理がメアリーお婆ちゃんの言葉に頷く。


『メアリー様、ユーロスターズの通信が切れました』

「どうやら相手が作戦を開始したみたいね。さぁ、私達も行くわよ!」


 こちらの作戦は至ってシンプルだ。

 俺達のまずハイジャックされたユーロスターズをハイジャックし返して一般市民を危機かから救う。

 その後はユーロスターズでロンドンに移動して、議会が行われる会場に行って採決を阻止する。

 俺達の生存は揚羽さんを通じてスターズやステイツに伝えたけど、ステイツを含めた各国の代表団は総理と大統領本人が目の前に現れるまでは生存を信じる事はできないと言うのでそうするしか方法がない。


『皆さんどうかご無事で』


 トレーラーのハッチがゆっくりと開いていく。


「行こう。みんな!!」

「「「おう!」」」


 俺の掛け声に合わせてみんなの乗ったバイクが公道へと飛び出る。

 ここからは失敗が許されない。俺達はバイクで車の間をすり抜けてどんどん加速していく。

 フォーミュラの撮影をしておいて良かった。時速350kmの世界を体感してるから、300km超えてても平静を保てている自分がいる。


『後少しでユーロスターズが走る路線との合流ポイントだ。まずは私がいく!』


 先頭を走る羽生総理がさらに加速する。

 しかしここで予想外の事が起こった。


『待て、治世子! 後ろをよく見ろ!!』


 ミラーを見ると、後ろから物凄いスピードでバイクが追いかけてきていた。

 嘘だろ!? このバイクに追いつけるバイクがあるのかよ!!

 バイクを見たメイトリクス大統領が声を上げる。


『ステイツの軍事企業が開発したジェットエンジン搭載型の2人乗り新型バイクだ! 最高時速は600kmを超える。気をつけろ。すぐにくるぞ!!』


 そんな化け物みたいなバイクあるのかよ!!

 バイクの後部座席に乗った人間がしんがりを走っていたメアリーお婆ちゃんに銃口を向ける。


『くっ』


 メアリーお婆ちゃんは類まれな操縦テクニックで敵の銃撃を回避する。

 くっ、このままじゃメアリーお婆ちゃんが危ない。

 俺は少しだけ加速を緩めて後ろに下がる。


『メアリーお婆ちゃん、俺より前に出て!』

『でも……』


 俺はヘルメットの内側でニヤリと笑う。

 例えメアリーお婆ちゃんには見えてなくても、きっと伝わるはずだ。


『俺は大丈夫だから!!』

『わかった……でも、無理しないでくださいね!』


 順番を入れ替わった俺は、後ろから追ってきたバイクを惹きつける。

 ここから先は一台たりとて前に行かせたりなんてしねぇよ!!


『治世子! 私と君で先に飛び乗って後ろの2人をサポートするぞ!』

『ああ、もちろんだ!!』


 羽生総理とメイトリクス大統領はユーロスターズと速度を合わせると、土面の傾斜を利用して車体ごとユーロスターズの荷台に飛び乗る。

 すげぇ、セイジョエナジーが少し前に似たような映像を動画投稿してたけど、まさに動画で見た内容そのままだった。

 2人ともバイクのブレーキをかけると、すぐにバイクから降りて銃を構える。


『メアリーお婆ちゃん、先に行って!』

『わかったわ!』


 次の傾斜を利用してメアリーお婆ちゃんがユーロスターズに飛び乗る。

 さぁ、次は俺の番だ。そんな事を考えていると、目の前を走っていたトレーラーのハッチが開く。

 嘘だろ!? 前からもくるのかよ!!


「狙え狙え!」

「白銀あくあだ。あいつを殺せ!!」


 くそおおおおおおおおおおおおおお!

 俺は体を傾けて敵の銃撃を回避して道を逸れる。

 どうする。どうしたらいい? 俺は周囲の状況を確認しつつ、頭の中を整理する。


『あくあ様! その5km先に合流ポイントがあります!』

『わかった!!』


 俺は再びバイクを加速させていく。

 後ろから敵のバイクが飛ばしてたきたけど、操縦技術だけなら俺の方が上だ。

 俺は巧みな動きで敵の銃撃を回避していくと、追いかけてきた2台のうち1台が横転して、もう1台が壁に激突する。

 バイクのミラーを見ると、事故を起こしたライダー達がかすかに動いているのが見えた。

 やはりパワードスーツを着ていたおかげで無事だったみたいだな。

 だが、それでいい。俺は最初から誰かを殺すつもりはないのだから。


『合流ポイントはあそこか……!』


 って、傾斜がねぇ! どうする? どうしたらいい?

 俺の視界に停車した空のキャリアカーを見つける。

 どうやら偶然にもキャリアカーが事故を起こして止まっていたみたいだ。

 よし! あれを利用させてもらう。

 俺はキャリアカーの傾斜に向かって加速していく。


「うわあっ!? 映画の撮影か!?」


 ごめん。運転手さんもびっくりするよな。

 でも、これは緊急事態なんだ。

 キャリアカーの傾斜を利用してバイクごと空に飛んだ俺はそのままユーロスターズの荷台に着地する。


「あくあ様!」

「「あくあ君!」」


 本当ならハグして喜びを分かち合いたいが、今はそれどころじゃねぇ。

 俺達4人は顔を見合わせると無言で頷く。


「3人は爆弾を探してください。俺が爆弾を見つけてもどうにもできないんで」

「わかった。あくあ君はどうする?」


 俺はメイトリクス大統領の言葉にニヤリと笑う。


「俺はまっすぐ行って全員ぶっ飛ばしてきます」

「「「えっ?」」」


 連結された後ろの扉を強引にこじ開けた俺は普通に列車の中に入っていく。


「何だお前は!!」


 俺は相手が銃を構えるより先に、ポケットから出したナイフを投げる。

 次の瞬間、ナイフが肩に当たったお姉さんが床に倒れた。

 俺はお姉さんに近づくと、出血したところを手で押さえる。


「大丈夫。殺したりしないから、しっかりと手で押さえて止血して」


 俺の言葉に顔面蒼白になったお姉さんは無言で頷く。

 隣の車両から足音が聞こえてきた俺はすぐに扉の影に隠れる。


「物音が聞こえたけど、どうし……へぶしっ!?」


 裏拳で相手を気絶させた俺は、お姉さん着ていた軍用のベストのポケットからナイフを引き抜く。

 基本、拳の方が強いが飛び道具はあった方がいいからな。


「悪いけど、少しの間だけここでおねんねしててね。お姉さん」


 俺が次の車両に移動すると、待ち構えていたお姉さんが銃を構える。


「し……白銀あくあだな! 手に持った武器を置いて座れ!!」


 俺は手を広げると、撃てるものならどうぞという素振りで銃口に近づいていく。

 流石にこの反応は予測していなかったのだろう。

 動揺したお姉さんが一瞬だけ瞬きをする。

 俺にとってはその一瞬の隙で十分だった。


「ぐわぁっ!」


 俺は銃を持ったお姉さんの手を捻じ曲げる。

 次の瞬間、お姉さんは誤って自分の足を撃ってしまう。


「くぅっ……」

「痛いでしょ? その痛みを理解したら、2度とこんな事をするんじゃないぞ」


 俺はさっきと同じようにお姉さんに止血を促してから次の車両へと向かう扉を潜った。


「手を上げろ!!」


 扉の両側に隠れていたお姉さん達が俺に銃口を突きつける。

 それを見た人達が悲鳴を上げた。


「きゃーっ!」

「やめて!!」

「あくあ様!?」


 どうやら、人質はこの車両に集められているようだな。

 俺は両手を上げるふりをしてお姉さん達の手を掴む。

 次の瞬間、2発の大きな銃声が車両内に響く。

 その音を聞いたお客さん達が悲鳴をあげて目を閉じる。


「うぎゃあっ!」

「痛い、痛い!」


 お互いの足の甲を撃ったお姉さん達が悶える。

 自らのパワーを信じずに銃なんかに頼るからこうなるんだ。


「と、止まれ! こっちには人質がいるんだぞ!!」


 おっと、どうやらもう1人居たようだ。

 人質をとったお姉さんが俺のことを睨みつける。


「いいのか!? こっちは本気だぞ!!」

「ああ、俺も本気だ。でも、お姉さん、人質なんか取ったら俺より怖いお姉さんが出てくるけど、それでもいいのか?」

「えっ?」


 俺は合図を送るように片目を閉じてウインクする。


「助けて、大統領」

「任せろ!!」


 次の瞬間、横の窓を突き破って入ってきたメイトリクス大統領のグーパンチ1発で、人質をとったお姉さんが気を失ってノックダウンする。

 3人は俺の意図を察してユーロスターズの天井を移動していたから、きっとこっちの様子もチェックしてくれているだろうと思っていた。


「あくあ君。先頭車両には治世子とメアリー様が向かった」

「わかりました」


 俺は人質に取られていた女の子に優しく声をかける。


「怖かったよな。でも、大丈夫。俺達がきたからには安心してくれ」

「う、うん。ありがとう、あくあ様、メイトリクス大統領」


 俺は女の子の頭を優しく撫でると、ゆっくりと立ち上がった。

 はっきり言って俺は冷静だが、今すごく怒っている。

 俺の大事な人達だけじゃなく、無関係の人達まで襲うなんてとてもじゃないけど許せる事じゃない。

 だからこそ俺はこいつらを生かしたまま全員倒す。

 そして自らの犯した罪と向き合わせて、大きな罰を受けてもらう。

 それが俺の、白銀あくあのやり方だ。


「行きましょう。メイトリクス大統領」

「ああ、もちろんだとも!」


 俺とメイトリクス大統領は先頭車両に向かった2人と挟撃するために、次の車両の扉をグーで殴って完全に破壊した。

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