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雪白えみり、鬼軍曹との出会い。

 報道の後、店を閉めた私は聖あくあ教本部の近くにある最寄りの公園に行く。


「これを着るのは久しぶりだな……」


 私は便所の中に籠ると、聖あくあ教の一般シスターが着ている普通のシスター服に着替える。

 聖女専用のシスター服は日課の……コホン、不運な事故で汚して、いや、汚れてしまったために、今はこれしかない。


「よし、行くか」


 今はとにかくあくあ様の無事を信じて、うちの暴走しそうな連中を止めるのが先決だ。

 クレアもくくりも、メアリーお婆ちゃんも誰1人として私に連絡がないのが不安でしょうがない。

 私は顔がよく見えないようにヴェールを被ると、聖あくあ教本部へと向かう。


「くっ! やっぱりもう人が集まって来てやがる!」


 聖あくあ教本部に到着すると、多くのシスター達が本部に出入りしていた。

 私は人混みに紛れて聖あくあ教の本部に入る。

 まずは1にも2にもクレアだ。あいつのポケットに入れていた核ミサイルの発射ボタンは、お気持ちボタンに改造されてあくあ様に壊されたけど、それでもクレアが一番やばい。

 いや、やばいというか、何をしでかすかわかったものじゃないと言った方が正しいか。

 まずは全体の指揮権をあいつから私に戻さなきゃいけない。

 私がそそくさと本部の奥に行こうとしたら、1人のシスターがそれに気がついて声をかけてくる。


「あなた、何やってるの?」

「えっ?」


 シスターは私の手を掴むと、ぐいっと引っ張る。

 ちょ、待てよ! 私は聖女エミリーで……あっ、そういえば、私、普通のシスター服着てるんだった。


「ほら、一般シスターはこっち! 早くいかなきゃ、鬼軍曹に怒られるよ!!」

「鬼軍曹……?」


 そういえば、十二司教に次ぐ幹部にそんな名前の奴がいたような気がする。

 確か鬼軍曹の役割は、聖あくあ教の実行部隊に配属された新人シスターの教育係だ。

 なるほど、だから只のシスター服を着ていた私を見て勘違いしたのか。

 聖あくあ教は階級によってシスター服が違うけど、私の着ているどノーマルのシスター服は一番下っ端の服だ。


「失礼します!!」


 シスターさんに手を引かれて大きな部屋に入ると、数十人ものシスターさんが直立不動で待機していた。

 いやいや、私はこんなところで油を売ってる暇はないんですよ。


「すみませんちょっとお腹が……」


 そう言って私がコソコソと部屋から出て行こうとしたら、私達の入ってきた扉が勢いよく蹴破られる。


「天国にようこそ諸君。私が諸君ら新人シスターを指導する鬼軍曹だ!! いいか、お前ら! 私が喋っていいというまでそのニンニク臭い口を開くんじゃないぞ!! お前らどうせあくあ様が日本に居ないと思って、朝からたらふくニンニク食べてたんだろ!! それどころか風呂までキャンセルしやがって!! お前らのメス臭い匂いがシスター服に染み付いてるぞ!! クソオンナどもが!!」


 ひぇ〜っ! とんでもないところにきてしまった。

 ニンニク臭い口に汚したシスター服? 全部、私のことじゃん……。

 心当たりがありすぎる私はすぐに列に戻ると直立不動で固まる。


「いいか、お前ら! 今から私がいう事に対してお前らが言える言葉はイエスかもしくはイエスだけだ。それと私の事は敬愛の気持ちを込めてマザー軍曹と呼べ!!」

「「「「「マザー、イエス、マザー!」」」」」

「声が小さい!!」

「「「「「「「「「「マザー! イエス! マザー!!」」」」」」」」」」


 おいおいおいおい、本当にヤベェ宗教にきちまったぞ。

 完全にシスター教育じゃなくて兵隊の訓練じゃねぇか。

 こんなやばい宗教作ったのどこのどいつだよ!!


「いいか! お前らは上層部から命令が降れば、即座に最前線へと送られる!! 生きてあくあ様の顔を見たかったら、死に物狂いで訓練についてこい!!」

「マザー! イエス! マザー!!」


 あ、あれ? 1人声を出した私は左右に首を振る。

 なんでみんな急に俯いて黙っちゃったの?

 こういう時に1人だけ言っちゃうのすごく恥ずかしいんですけど……。


「お前らが元気がないぞ! 声はどうした声は!!」

「「「「「マザー、イエス、マザー……」」」」」


 明らかにみんなの声が出てない。

 鬼軍曹は私の二つ隣にいるシスターに近づいていく。

 ちょ! そんなに顔を近づけて、何しちゃうんですか!?

 私はドキドキした顔で鼻息を荒くする。


「お前、まさかあくあ様の生存を信じてないのか?」

「い、いえ……あ、マザー、イエス、マザー!」

「それはどっちだ!! お前もクソオンナならもっとはっきり喋れ!! お前、まさか御神体を忘れて訓練に来てるんじゃないだろうな!? 御神体は常に肌身離さず持っておけといっただろ!!」


 私の頭の中にぼんやりと文化祭の時にやらかしたあの人の顔が浮かんでくる。

 とてもじゃないけど、私の口からは恐ろしくて名前も出せない。


「マザー、イエス、マザー! マザー、自分はあくあ様の生存を信じています、イエス、マザー!!」

「当然だ、クソオンナ! 飛行機が墜落したくらいであくあ様が死ぬわけないだろ!! どうせ、あくあ様があくあ様してあくあ様したに決まってる!! そうだよな!? クソオンナ、お前もそう思うだろ!?」

「マザー、イエス、自分もそうだと思います。マザー!」


 さすがはネームドシスターだ。

 ネームドシスターは次期十二司教、十二司教の予備兵、十二司教に次ぐ司教と言われてるだけはある。

 あくあ様が死んだという情報が流れても動揺しないくらいメンタルが強い。

 もういっそ、この鬼軍曹さんに私の持っている聖女の座を譲りたいくらいだ。


「どうやら、お前はクソオンナの山の中でもわかってるクソのようだな。よしっ! 今日からこいつの名前は、わからせ女だ。いいな!!」

「マザー、イエス、マザー! 私は今日からわからせ女です!!」

「もっと嬉しそうな顔をしろ! お前も今日からネームドシスターだぞ!」

「マザー、イエス、マザー! 私の名前はわからせ女です!」


 くっそ〜。私も聖女よりわからせ女が良かった。

 聖女よりわからせ女の方が絶対的に強そうに聞こえてくる。

 良かったらそこのお姉さん、私とネームドチェンジしませんか?


「……本当に生きてるんですか?」


 おいいいいいいいいいいい!

 私をここに連れてきた隣のシスターが小さな声で呟く。

 鬼軍曹は鬼の形相でぐるりとそちらに顔を向けると、ゆっくりと私の隣で立っているシスターに近づいてくる。

 おい、お前。すぐに謝っておいた方がいいぞ!!


「お前、今、なんて言った……? 怒らないから、もう一度言ってみろ」

「あの、あくあ様は本当に生きてるのかなって……」

「バカクソオンナ!! 返事はイエスかイエスだけだと言っただろ!! お前は誰の許可を得て口を開いているんだ!? お前の口の中に御神体を突っ込んで口枷で固定してやってもいいんだぞ!!」

「マザー、イエス、マザー!!」


 理不尽が過ぎる……。

 口を開く事は許可したけど自分の意見を言う事を許さないなんて、すごい鬼女……じゃなくて、鬼軍曹だ。

 私は掲示板にあった鬼女板の存在を思い出す。

 そういえば、掲示板の奴らは元気にしてるかな……。

 鬼軍曹は私をここに連れてきてくれたシスターから離れると大きなモニターの前に立つ


「良いか! あくあ様の常識をお前の矮小な脳みそと同じ小さな常識で図ろうとするな!! お前らは一度でもあくあ様がなされる事を予測できた事があるのか!? ないから聖あくあ教があるんだろ!!」

「「「「「「「「「「マザー! イエス! マザー!!」」」」」」」」」」


 モニターに羽生総理、メイトリクス大統領、あくあ様の3人の姿が映しだされる。


「良いか! まずこの3人は銃で撃っても死なない!! 銃弾を回避するし、なんなら武器があれば弾く事ができるからだ!! むしろ銃を出した相手が負けだと思え! おまけに、心臓が止まりそうになっても無意識で胸の上から自分の心臓を殴って自己蘇生するやつらだぞ!! 自分達の常識が通用すると思うな!!」

「「「「「「「「「「マザー! イエス! マザー!!」」」」」」」」」」


 鬼軍曹は持っていたペンを床に投げつける。 


「それに羽生総理は視察中にヘリが墜落した事があるけど無事に仲間を連れて戦地から帰って事があるし、メイトリクス大統領は乗っていたセスナが爆発して無人島に流れ着いたけど、太平洋を泳いで帰ってきた事があるんだぞ!! たかが飛行機が墜落したくらいでこいつらが死ぬか。クソオンナども!! それで死ぬくらいのクソザコオンナなら、この世界に暗殺者なんからいらないだろ!! 本気でこいつらを殺したかったら地球に隕石ぶつけて惑星ごとぶち壊せ!! それでもこいつらなら、ゴキブリが死滅するような過酷な世界になっても50%くらいの確率で生きてるぞ!! 自分でも何を言ってるかわからないが、私にもわかる日本語で喋れクソオンナども!!」

「「「「「「「「「「マザー! イエス! マザー!!」」」」」」」」」」


 鬼軍曹、あんたすげぇよ。

 今日、初めて見たけど、聖あくあ教にはまだこんな濃い人が残ってたんだ。

 やっぱりここと掲示板は人材の宝庫だなと思った。

 ていうか、これでも十二司教に入れねぇのかよ……。

 私が呆けた顔をしていると、鬼軍曹がゆっくりとした動きで私の方に近づいてきた。


 や、やべぇ、こっちにくる!


 私は咄嗟に顔を隠す。

 すると、鬼軍曹は私の前を素通りしていった。

 ほっ、詰められるのが私じゃなくてよかったぜ。


「お前……今日は何回してきた?」

「えっ?」

「えっ? じゃないだろ!! お前は今朝、何回お祈りしたのかって言ってるんだ!!」


 鬼軍曹は鬼のような形相でシスターに顔を近づける。

 頼む。せめて瞬きしてくれ。普通に怖い。


「マザー、イエス、マザー! 1回であります!」

「数が少ない!! 最低3回はしろ!!」

「マザー、イエス、マザー!」

「よしっ、次!」


 鬼軍曹は一つ前のシスターに戻る。

 ヤベェ! 鬼軍曹がどんどんこっちに近づいてきてるぞ!!


「お前は今朝何回お祈りした!?」

「マザー、私は3回しました、イエス、マザー!」

「よろしい! 次!!」


 鬼軍曹が私のすぐ隣で立っていたシスターの前に立つ。

 私は覚悟を決めて直立不動になった。


「お前は何回お祈りした?」

「マザー、イエス、マザー! 私は今日まだお祈りしてません!!」


 してない……だと?

 鬼軍曹は目をカッと見開く。


「朝のお祈りをしていない……だと? おい、お前はなんのために御神体を持っているんだ!! いいか。私はいつも言ってるだろ! 朝起きたら、一番に御神体を丁寧に擦るように磨いて綺麗にしろと!! 今すぐ隣の部屋に行って御神体をお前の1日穿いた汚い布で擦って綺麗にしてこい!!」

「マザー、イエス、マザー! 今すぐに御神体を綺麗にしてきます!!」


 シスターは顔を赤くすると、慌てて部屋から出て行こうとする。

 しかし、鬼軍曹がその手を掴んでその場に留めた。

 これ以上、まだ何かあるのだろうか?


「ほら、私の聖書だ、祈りを捧げるのに聖書は必要だろ!」

「マザー! イエス、マザー!!」


 私は心の中で涙を流しながら拍手を送る。

 自分の聖書まで貸してくれるなんてなんて良い上司なんだ!!


「良いか、何も私はお前たちに難癖をつけてるわけじゃないんだぞ! お祈りも捧げずに戦場に行って死ぬくらいなら、御神体に祈りを捧げて頭をすっきりさせて冷静になって生きて帰ってこいと言ってるんだ。わかったか、このバカオンナども!!」


 この時、私達は確信した。

 鬼軍曹の言葉は厳しいが、この人はすごく優しい人なんだって。

 私達に1人でも多く生きて帰ってほしいからこそ、厳しく指導をしているんだろう。

 鬼軍曹は私の目の前に移動してくる。

 やっべ、顔だけはちゃんと隠しとこ。


「お前は今日ちゃんとお祈りしたか?」

「マザー! イエス、マザー! と言いたいところですが、妊娠中なので今日はしてません!!」

「妊娠中だと!?」


 鬼軍曹は目を見開くと、私のお腹へと視線を向ける。

 すると、慌てて近くにあった椅子を手に取って私の前に置いた。


「このバカオンナが!! なんで妊婦なのにボーッとつっ立ってるんだ! さっさと座れ、このバカオンナ!!」

「マザー! イエス、マザー!!」


 よっこらしょっと。私は鬼軍曹が用意してくれた椅子に座る。


「それで、妊娠前はどれくらいお祈りしてたんだ?」

「マザー、イエス、マザー! 365日、毎日毎朝、聖書を読み込み御神体を綺麗に磨いてお祈りをしていました!!」


 これは決して盛ったわけじゃない。100%の真実、事実に基づいた話だ。

 私の答えを聞いた鬼軍曹は満面の笑みを見せる。


「素晴らしい! 御神体を磨いてお祈りをする時はやはり教会か? それとも自室か!?」

「マザー、イエス、マザー! 私の自宅兼自室には扉に鍵が付いてないので24時間365日、好き放題勝手に人が入ってきます!」

「なんだと!? そんな状況だと落ち着いてお祈りをしたり、御神体を磨いたりできないだろ!?」

「マザー、イエス、マザー! だから私はお祈りを捧げる時は、いつでも使える24時間営業の漫画喫茶を使用しています!!」

「わかった! じゃあお前は今日からマンキツと名乗れ。いいな!?」

「マザー! イエス、マザー!! 私の名前は今日からマンキツです!!」

「よしっ!」


 マンキツって名前いいな。ワンチャン、便所の親戚みたいな名前の聖女より全然神聖さがある。

 鬼軍曹は私の前から離れていくと、もう一度モニターの前に立つ。


「いいか。私から諸君らに伝えることは一つだけだ。絶対に生きて帰れ。……そろそろ時間だ」


 鬼軍曹は入り口へと体を向けると、足音が聞こえてきた方向に敬礼をする。

 すると、それに続くように他のシスター達も入り口に体を向けて敬礼をした。

 これは私もそうしておいた方が良さそうだな。

 私が敬礼すると、入り口から見覚えのシスター服を着た奴らが入ってきた。


「十二司教が1人、No.3の粉狂いだ。諸君らにはまずこの映像を見てもらう」


 ビスケット・ジャンキーこと粉狂いは手に持った小さなボタンを押す。

 するとモニターの映像が墜落した時の映像に切り替わった。


「これはニュースで流れた映像だ。この角度からはわかりづらいが、実はもう一つの映像がある。我々が手に入れたもう一つの映像を見てくれ」


 モニターの映像が切り替わると、少し遠いけど飛行機の背後から撮った映像が流れる。

 うーん、流石に遠すぎてよくわからないな。


「ここで何かに気がついたやつはいるか?」


 全員が顔を見合わせる。

 すると鬼軍曹が、誰よりも早く真っ直ぐに手を挙げた。


「鬼軍曹、発言を許可する。言ってみろ」

「発言の許可をありがとうございます! 若干、見えづらいですが、格納庫の入り口が開いているように見えました!!」


 あっ、本当だ!

 粉狂いは映像を拡大すると、ギザギザの歯をきらりと光らせる。


「そうだ。つまり3人は生存している可能性が高い」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」


 地響きのような唸り声が上がる。

 3人は生きている……生きているんだ!!

 こんな映像一つでと思うかもしれないけど、さっきまでの自分に言い聞かせるような糸を垂らせた様な薄い希望から、芯が通った一本の紐のような実感へと変わっていく。


「そこでだ。私達は現時点を以って幾つかの部隊に分かれる事になった。モニターを見ろ」


 モニターに視線を向けると、それぞれの部隊の役割と指揮官の名前が記載された一覧が表示された。


【第零部隊/指揮官:図書館/全部隊総指揮】

【第一部隊/指揮官:奉仕者/聖あくあ教本部防衛部隊】

【第二部隊/指揮官:くの一/白銀キングダム防衛部隊】

【第三部隊/指揮官:観測手/日本に残っているあくあ様の関係者を防衛する部隊】

【第四部隊/指揮官:監督官/現地に赴く白銀カノンを護衛する部隊】

【第五部隊/指揮官:闇聖女/スターズで表立って活動する部隊】

【第六部隊/指揮官:管理人/スターズで諜報活動に従事する部隊】

【第七部隊/指揮官:粉狂い/白銀あくあ捜索部隊】


 図書館って事は、全部隊の総指揮はメアリーお婆ちゃんがするのか。

 メアリーお婆ちゃんは従軍経験があるし、ナンバー1だが素人のクレアやくくりが指揮するよりもプロに任せた方が良いだろう。

 んで、くくりが聖あくあ教本部の防衛を担当して、りんが後宮を含めた白銀キングダムの防衛、りのんが日本に残ってるとあちゃんや黛君達、天我先輩達を守る部隊か。

 なるほど、この混乱に乗じてここを攻めてきてもおかしくないって事だな。カノンを攫った時と同じ手口の可能性がある事を理解した。

 クレアはカノンと一緒にスターズに行くのか。それなら、カノンにクレアを任せて大丈夫そうだな。

 カノンはこの私が認めた女、いや、クソ乙女だ。きっとクレアをうまくコントロールしてくれるだろう。

 それに加えてキテラやみこともスターズに行くのか。いや、管理人って事はみことじゃなくってこよみさんか? どっちだろう?


「お前達には今から1人ずつ配属先の番号の書かれた紙を手渡す。その番号を見て、それぞれの集合場所に移動しろ。ちなみに第四部隊の集合場所はここだ!!」


 1人ずつ名前が呼ばれていく。

 あれ? 待って、このままここにいたらやばいんじゃ……。

 私は隙をみて逃げ出すために、椅子からそっと立ち上がる。


「何をしてる。マンキツ! お前は妊婦なんだからさっさと座れ!!」

「マザー、イエス、マザー!」


 私は秒で着席した。

 やっべぇ、やっべぇ、本当にやっべぇぞ!

 案の定、私は名前を呼ばれずに最後まで残ってしまう。


「ん? マンキツ、お前、名前を呼ばれたか?」

「あ……えーと、マザー、イエス、マザー」


 私はいつものように適当こいてその場凌ぎの嘘をつく。

 しかしこれが最大の悪手だった。


「そうかマンキツ、お前……妊婦なのに一番過酷な捜索部隊に加わるんだな? お前の覚悟、しかと受け取ったぞ!」

「あ、あはは……マザー、イエス、マザー……」


 カノン、ごめん。

 お前から姐さんや楓パイセンの事を頼むって言われていたけど、どうやら私もそっちに行く事になりそうです……。

 私は鬼軍曹に気に入られたのか、ガッチリマークされてその場から離れる事ができなかった。

 その結果、私はあくあ様を捜索する第四部隊の中でも主軸のグループに放り込まれた。


「マンキツ! 紹介しよう。この人は私と同じネームドシスターの1人、将軍様だ!!」

「新人シスターか。あの鬼軍曹から名前をつけてもらえるなんて見どころがあるやつだ。よろしくな」


 私は後から出てきたもう1人の次期十二司教候補、将軍様の握手に応える。

 嘘……だろ。私は一番奥で腕を組んでいる粉狂いへと視線を向ける。

 第四部隊といっても、全員が全員一緒に行動するわけじゃない。いくつかのグループに分かれてあくあ様を捜索する。

 私その中でも一番重要なグループ、第四部隊の指揮官である粉狂いの率いるグループに配属された。

 このグループのメンバーは全部で4名。

 つまり指揮官の粉狂いと鬼軍曹、将軍様とこの私、マンキツこと雪白えみりのカルテットだ。

 はっきりいって不安しかないけど、こうなったらどうにかするしかない。

 私はキュッと心と身体を引き締めると覚悟を決めた。

※なろう版なので鬼軍曹のセリフを戸○奈○子さんの翻訳でお送りしております。


Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

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― 新着の感想 ―
無理やり改変的違和感は全く無く、綺麗に成立させている先生は凄いです。 「えいやっ!」と叫びながら何かをちぎったり投げ飛ばすお姉さん先生の姿が少しだけ見えたような気がしました。
そっかー、マンガ喫茶と来たかー。 ('-';)(,_,;) すっげぇ力技…
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