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ラーメン捗る、汚いBERYL。

 現時点で一番コインを持っているのは、カノンチームのコインを全取りしたメアリーお婆ちゃんのチームだ。

 だからどこのチームも最後の時間を使ってメアリーお婆ちゃんの拠点を襲撃して、溜め込んだコインを強奪しようとしている。

 もちろん、襲撃に参加しているチームの空いている拠点を襲うという手も考えたけど、メアリーお婆ちゃんのチームがコインをほぼ全てかき集めてるからその方法じゃ1位は取れない。

 私達小雛ゆかりチームが目指すのは2位じゃなくて、あくまでも1位だからだ。


「あれ? 小雛先輩、ここからロケランを撃っても相手の拠点に届きませんよ!!」

「「「「えっ?」」」


 襲撃用の拠点に到着して数分後、最初にロケットランチャーを撃ち始めたあくあ様の言葉に戦慄が走る。


「えっ? じゃあこの襲撃拠点意味ないやん」

「意味ないっていうな! これでも私と捗るが2人で頑張って建てたのよ!!」


 いや、私は建ててません。

 拠点を建てたのは小雛パイセンだけっす。

 建物の外に出てもっと相手と近い位置に拠点を建てようとしたあくあ様とインコさんの2人が慌てて戻ってくる。


「外に出て拠点建てるなんて絶対に無理や! 蜂の巣にされるで!!」


 私はインコさんの言葉に力強く頷く。

 あのメアリーお婆ちゃんが率いるチームがそんな悠長な事を見逃してくれるとは思えない。


「くっ、俺が外に出た途端、反対側の拠点から物凄い勢いでロケランが飛んできたぞ。何があったんだ!?」

「あんたの日頃の行いが悪いからよ。絶対に」


 あくあ様、反対側に居るのはカノポンです。

 カノンはおそらくわかってあくあ様を攻撃してきてます。

 理由は言わなくてもわかってますよね?

 事あるごとにカノポンにチュッチュっしまくって全てを誤魔化してきたあくあ様が悪いです。

 まぁ、あくあ様に攻撃をしている時に顔を真っ赤にしてるカノンを想像すると許せるので許してあげてください。

 後、さすがは小雛パイセンですね。大当たりです。


【嗜みの配信見たら無言でロケラン連発してて草www】

【おーい、カノン様。攻撃するところが違いますよぉ〜】

【あくあ様にこれやって許されるのはカノン様だけ】

【カノン様、ここに捗るもいまぁす!】

【鳩OKのなんでもあり大会だから、みんなが嗜みに捗るの位置を教えて草www】


 うわっ! 冷やかしがてらに拠点の外に出たら、私のところにもロケランが大量に飛んできた。

 くそっ、何一つ心当たりがないけど、カノンだけじゃなくて揚羽お姉ちゃんやくくり、メアリー様からも死ぬほどロケランが飛んできたような気がするぞ。私の気のせいか!?

 他のチームが楽しそうにメアリーお婆ちゃんの拠点を攻略する最中、うちのチームだけがへっぽこ拠点の中でもたつく。

 そこに1人の救世主が現れた。


「みんな。捗るさんが用意してくれた船に乗ってきたけど、どんな感じ?」

「ナイスよ、美洲! みんな、クイーンゆかり号2世に乗って出港よ!!」


 一抹の不安を感じつつみんなが大怪獣ゆかり号に乗り込む。


「クイーンゆかり号、しゅっぱぁーつ!!」

「「「「おー!!」」」」


 小雛船長改めキャプテン小雛の号令に全員が拳を突き上げる。

 こんなぐだぐだな状況の中でも、士気だけは高いのがうちのチームのいいところだ。


【これは沈没する流れですね!】

【wkwk】

【歌います。中野森アキで沈没船!】

【↑やめろ、縁起でもない!!】

【オワタ】

【誰も期待してなくて草w】

【↑ある意味で期待しているとも言える】


 もちろん船の操縦はゲームの上手い私やあくあ様、インコでもなくこの船の船長である小雛パイセンだ。

 普通なら、ちょっと待ってください。私が運転しますというところだが、このチームに小雛パイセンを止められる人間はいない。私たちに言える言葉は“イエス”と“はい”のどちらかだけだ。


「どわー! 出港同時に秒で船が座礁したぁ〜」

「あかん! ぶつけたところから浸水してきてるで!!」

「すぐに補修してきます!!」


 拠点攻略? ええ、そんなことを考えていた時期が私達にもありました。

 しかし現実はこうです。襲撃どころか、襲撃する以前の問題なんですよ。


【こうなると思ってました】

【さすがです!】

【やはりこのチームは期待を裏切らない】

【小雛ゆかりが操縦する時点でこうなるとわかってました】

【悲報、このチーム、まだ何もしてない】

【↑しーっ!】


 私とあくあ様とインコさんは3人で手分けして船を修理する。

 あ、美洲おばちゃんは修理に必要な材料を作っておいて。よろしくね。


「……クイーンゆかり号、しゅっぱぁーつ!!」

「「「「おー……」」」」


 なんとか船を修理した後、何事もなかったのかのように小雛パイセンが出航の号令をかける。

 そう、私達に1回目の出航なんてなかったんだ……。


【こいつ、何事もなかったかのように言い直したぞ】

【船員の士気が下がりまくってて草w】

【私達の戦いはここからだ!】

【↑おい、やめろ!】

【ここと違って大連合チームは和気藹々としてていいな】


 なんとか船で拠点の裏をとった私達は積み込んだロケットランチャーで敵の拠点を狙う。

 やった。ここまで苦節1時間、ようやく闘いに参加できる事ができたぞ!!

 目的地に到着したところで船の操縦が小雛パイセンからあくあ様に切り替わる。

 流石にここからはお笑い禁止だ。


「ちょ、敵の反撃やばいて!」

「なんであいつらのチーム、全方向から攻められててあんなに余裕あるのよ!」


 えーと、メアリーお婆ちゃんのチームって今は羽生総理と完全に合流したフューリア様、白龍先生、メリーさんこと森長の社長のめぐみさんに蘭子お婆ちゃん、揚羽お姉ちゃん、はなあたの八雲先生か。

 メアリーお婆ちゃん、いくらなんでもガチすぎるよ。お笑い枠が白龍先生だけで、後は全部歴戦の戦士たちじゃねぇか。

 いや、白龍先生はゲーム下手じゃないし、うちのチームのリーダーをやっている小雛パイセンとかいう完全お笑い枠とは違う。

 決して大会と名のつくものに手を抜かないというか、大人気ないところかが私の良く知るポンさんにそっくりだなと思った。


「ちょ、小雛先輩。流石に敵の反撃がヤバすぎます! あっ、左の船底が!」

「あくあ様、私が補修してきます!!」


 あくあ様は操縦だけで手一杯なので、私が船の修理を担当する。

 うちのチームのバランスを考えたら、ゲームが上手くてミスの少ない私達が操縦と修理を担当した方がうまく回ると思ったからだ。

 その選択はどうやら正解だったようで、私の判断が功を奏する。


【やっぱ捗るは普通にゲームうめぇわ】

【捗るはゲーム以前に単純に気が利いてる。痒いところをカバーしてくれる】

【あくあ様と捗るは全てをそつなくこなしてこなす感じがある】

【2人ともハイレベル器用貧乏だからな】

【↑それはもう器用貧乏じゃなくて単純にゲームがうまいんよ】

【↑それな】


 あっ! 私が修理を終えて船の中に戻ろうとしたところで、何かに引っかかって操作するキャラがスタックした。

 ぐぬぬぬぬ! なんとか抜け出そうとするけどうまく挟まって動けない。

 しかも私が挟まったせいで船までスタックしてしまう。

 もちろんこのチャンスをメアリーお婆ちゃんのチームは見逃したりしない。


「左舷に複数のロケットランチャーが着弾! インコさん、なんとか修理できませんか!?」

「あかん。最初の座礁で修理の材料切れてるわ!」


 動かない船なんてただの的だ。

 私がなんとかしようともがいていると、水の中に美洲おばちゃんが飛び込んできた。


「美洲さん。プッシュってボタンあるでしょ。それでなんとか私の体を押して。それで船がどうにかなるかも!」

「わ、わかった!」


 美洲おばちゃんのおかげで私の操作するキャラが少しだけ動く。

 やった! そう思った瞬間、スナイパーライフルを手に持ったメリーさんに1発で頭を撃ち抜かれる。

 おばあちゃん達、銃火器の使い方うますぎぃ! さすがは手榴弾をリアルで投げてた経験がある人達は違うわ。


「すぐにリスポーンします!」

「待って!」


 小雛パイセンの言葉に全員の動きが止まる。

 船乗りにとってここで一番重視されるのは、法律でも常識でも地位でも権力でもお金でもない。

 この(くに)を治める船長の言葉だ。


「さっき死んだ捗ると美洲はそのままさっきの襲撃拠点にリスポーンしてスナイパーで敵のロケラン部隊とスナイパー部隊を阻害! インコとあくあは船の中にありたっけの爆弾を仕込んだ後に飛び降りなさい。後はこの私がこの船を操縦して、相手の拠点に突っ込んででっかい風穴空けてやるわ!!」


 やっぱり小雛パイセンは最高だぜ。

 私はこのチームに入って良かったと思った。


「小雛先輩、爆薬の仕掛け終わりました!」

「よし! あんたとインコはそのまま海に飛び込んで私の操縦する船の後ろから潜水しながらついてきなさい!! ワンチャン、穴から拠点の中に侵入できるわよ!!」


 はっきり言って、判断力だけならうちの船長もカノポンやメアリー様にも負けてない。

 どんな時だって一番やらなきゃいけない事がわかってる女は覚悟が決まってるし、判断力が早いからつえーんだ。


【うおおおおおおおおおおおおおおお!】

【あっつぅ。まさかこのチームで熱い展開が見られるなんて!】

【どこのチームもメアリー様の拠点の壁を抜けなくて困ってるから、この作戦は本当にありだぞ】

【いけえええええええええええええ!】

【小雛ゆかりのこういうとこすこ】

【なんだかんだ小雛ゆかりが女性人気高いのは、こういうところがかっこいいからだよな】

【肉抜きの最高進化形態がこれ】

【やってる事は肉抜きと一緒だけど普通にいいぞw】


 小雛パイセンの操縦する船が敵の拠点に向かって突っ込んでいく。

 すぐにその意図に気がついたメアリーお婆ちゃんのチームが全員でそちらの対応にあたる。

 くっ、私と美洲おばちゃんだけじゃ手が足りない!!!

 船の耐久値はそんなにないし、船の操縦が不能になればその時点でおしまいだ。

 頼む。どうにかしてたどり着いてくれ。

 私が祈りながら銃を構えていると、予想外の方向から銃撃がくる。


『みんな聞いて。あの船、多分、特攻するから全員でサポートして!』


 た、嗜みぃ!!


『了解。全軍、あの船をサポートして!!』


 天鳥社長!!


【きたああああああああああああ!】

【全軍協力だああああああああ!】

【昨日の敵は今日の友!!】

【多分これしか方法がないって全チームが理解したな】

【こういうのが見たかったんだよ】

【メアリー様はあえてこういう流れにするために、強力なメンバー集めてラスボスに君臨したっぽいんだよな】

【↑マジか】

【単純に大人気ないと思ってた私、完全にはやとちりでした】


 他のチームの協力もあって、小雛パイセンの運転する船が敵の拠点に近づいていく。


「あんた達、私はリスポーン制限でしばらく復活できないから後は頼んだわよ!」

「「「「了解!!」」」」


 メアリー様の拠点の外壁に船の先端がめり込んでいく。

 やった! 私たちの勝ちだ!!


「死なば諸共!! 南無三!」


 小雛パイセンが躊躇なく爆弾を起動する。

 それを見た私は船に向かって敬礼のエモートを使う。

 ありがとう、小雛船長。ありがとう、大怪獣ゆかりゴン号。

 お前達の勇姿は決して忘れない!!


【やったああああああああああ!】

【敵の拠点にでかい風穴が空いたぞ!】

【小雛ゆかり、良くやった!】

【今のは普通にカッコよかったわ】

【いけええええええええええ!】

【やばい。相手もすぐに修復しようとしてるぞ。早くしろ捗る!!】


 おい、マジかよ!

 くっそ、こうなったらもう泳いでいくしかねぇ。

 いや、私にはまだこのラーメン捗る号が、ただの木の板がある!!

 潮の扱いに長けた私は、潮の流れを読んでスイスイと大きな穴の空いた外壁を目指す。


「こちらあくあ。インコさんと一緒に侵入できました!」

「でも、敵の守りが固くて無理や。こっちはあかん!!」


 さすがはメアリーお婆ちゃんだ。

 ガバガバの私やカノポンと違ってガードが硬い。

 さて、どうしたらいいか。

 そんなことを考えていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『全軍、突撃!!』


 これは嗜みの声か? あいつポンだから、さっきオンにした全体ボイスチャットを切り忘れてるな。

 さて、どうしたものか。さっきは全員の利害が一致したから協力したけど、ここから先は協力してくれるかどうかわからない。

 私は隠れて声のする方へと近づく。


『よし、こっちの小さな穴から侵入するわよ!』


 あ、あいつぅ!

 私達に協力するフリをして、その間に楓パイセンを使って肉抜きをしてやがった。

 さすがはパワー系というべきか、楓パイセンは拠点の壁に張り付いてひたすら石で壁を殴りつけて破壊したらしい。

 私は嗜みの後をつけて、機会を伺う。


『よくきたわね。カノン!』

『お婆ちゃん、ここまでよ!!』


 メアリーお婆ちゃんとカノンが向き合う。

 しめしめ。どうやら2人ともお互いの事しか眼中にないみたいだな。

 チャンスだと思った私は、忍び足でその場を離れる。

 今のうちにコインを隠しているところを突き止めて奪うぞ。

 そんな事を考えていると、曲がり角でとある人物と鉢合わせになる。


『あっ』

『あっ』


 私と白龍先生はお互いに銃を向け合う。

 くっ、せっかくここまできたのに!!

 こうなったら仕方ない。


『白龍先生、いいんですか?』

『な、何がよ?』


 私は少し勿体ぶったような言い方をする。


『私を倒したら白龍先生とあくあ様が普段どんな風にいちゃついてるかネットの某所に流出しますよ!』

『ちょっとぉ!?』


 何度も言うがこの大会はルール無用だ。

 本当は私だって心苦しいが、背に腹は変えられない。

 チームのみんなが勝たせてあげたい想いが、私を非情にさせてくれる。


【いいぞ捗るwwwww】

【こいつwww】

【そういえば捗るは白銀キングダムに侵入してるんだった】

【どっちに転んでもいいな】

【白龍先生とあくあ様のいちゃつきエピの投稿待ってます!】

【こいつ最強だろw】

【あれ? 全チームにこれ使えるくない?】

【あのさ、最初からこのネタで強請ってコイン回収していけば優勝できたんじゃね?】

【↑しーっ!】


 ほらほらいいんですか?

 白龍先生は挙動不審な動きをした後に持っていた銃を一瞬だけ下ろす。


『ごめん、やっぱりダメ!』


 次の瞬間、私の目の前で銃を構え直した白龍先生が倒れる。

 ごめん、白龍先生。戦場で一瞬でも躊躇ったら負けなんだわ。

 これがメアリーお婆ちゃんや羽生総理なら迷わなかっただろうけど、相手が白龍先生で助かった。

 私は白龍先生がでてきた方向へと向かう。

 多分この辺だな。私は持ってきた爆弾を壁に仕掛けて設置されたシャッターを破壊した。

 破壊したシャッターの奥に宝箱が見えた私は急いで中身を確認する。


「みんな! コイン全部あったよ!!」

「よくやった! それじゃあ私は拠点にリスポーンして先に戻るから、あくあとインコは捗るがそこから逃げるまでメリーさん達を食い止めてあげて。後、美洲は襲撃用拠点の崖の下に誰かが乗ってたボートが漂流してるから、それに乗って捗るを迎えに行ってあげて」

「「「了解!」」」


 ここからの数分間は本当に生きた心地がしなかった。

 メアリーお婆ちゃんの拠点からコインを全回収した私はなんとか自分の拠点に戻る。

 後、1時間。もう勝ったも同然だ。

 ええ、そんな事を考えていた時期が私にもありました。


「みんな上を見て! 空からミサイルが!」

「あかん! コインが無くなった事に気がついたメアリー様のチームが鬼の形相でコイン取り戻しにきたで!!」

「ちょっと! なんでうちの拠点の上にこんなに大量のミサイルが飛んでくるのよ!!」

「小雛先輩。最近のアプデで追加された新しい攻城兵器だそうです」

「ひぃっ! 誰か助けてぇ!!」


 私は大きく揺れる拠点の柱にしがみつく。

 外に出て迎撃? 外に出たら周りを取り囲んでいるメアリー様のチームと大連合軍にスナイパーやロケランで攻撃されるからできるわけないって!!

 ていうか、壁と壁の隙間にある1ピクセルを狙って撃ってくるメリーさんスナイパーうますぎぃ!! こんなもんチーターやん。羊の皮を被ったチーターやん!!

 3回くらいそれで殺された小雛パイセンが、手に持った銃を地面に叩きつけて「勝てるわけないでしょ!」と叫んだ。

 誰しもが負けを確信した時、空からヘリの音が聞こえてくる。

 あ……流石にこれは終わったかなと、私も覚悟した。


『後輩、助けに来たぞ!』

『て、天我先輩〜!』


 天我先輩はヘリからカッコ良く降下すると、そのまま足を挫いて落下死する。

 あまりにも綺麗な落下死に、チームの全員が固まった。

 それどころか、この拠点を襲撃している人達まで気まずくなって攻撃を止めてしまう。


『天我先輩!!』

『まったくもう、何やってんだか』

『慎太郎!? それにとあも!?』


 ヘリから降りてきたとあちゃんと黛君の2人は、天我先輩が復活できるようにするために小雛パイセンから同盟の許可を取って寝袋を設置する。


『お前達、どうしてここに!?』

『天我先輩の提案だ』

『最後はやっぱりBERYLのみんなでやりたかったからに決まってるじゃん!』


 やっぱりBERYLなんだわ。

 私とインコ、美洲おばちゃんと小雛パイセンも無言で力強く頷く。


【BERYL集結きたー!】

【最初からこれが見たかったすらある】

【悲報、みんな普通にしてるけど天我先輩だけ死んでてここにいない】

【↑しーっ!】

【あっ、天我先輩復活したよ】

【みんなちゃんと待ってあげてるの優しい】

【ちゃんと敵も味方も空気読んでて草w】

【メアリー様も天鳥社長も待ってあげるなんて優しい!!】


 攻撃が止んだのも束の間、すぐにロケランが雨のように飛んでくる。

 私たちもなんとか応戦するけど、それでも物量の差だけはどうにもならない。

 このゲームは攻撃よりも守る方がはるかに難しいからな。

 だからこそ同じ状況で拠点を守れていたメアリーお婆ちゃん達はとんでもなくゲームがうまかった。


『後、30分、なんとかして守るわよ!!』

『我が敵を引きつける!』

『どわーっ! 天我先輩があああああああ!』


 空中にクルクルと回転しながら飛んでいく天我先輩の姿が見える。

 私の知る限り、即落ち2コマで天我先輩と白龍先生の隣に並ぶ人はいない。


『慎太郎、僕達でできる限り外に出て少しでも敵を倒そう!』

『ああ、そうだな』


 くそ、私にも何か、何かできることはないのか!!

 私は意を決して外に出ると、襲撃してきている連中に向かって拡声器を使う。


『みんな、やめてぇ。男の子達が私たちを守るために頑張ってるのに撃たないでぇ!』


 なんとか男の子達全面に出して少しでも攻撃の手を緩めようとしたが、これが逆効果だった。


【こ、こいつwwwww】

【普通にマウントじゃねぇかw】

【訳、うちのチーム、BERYL揃ってますけど何か?】

【ナチュラルにヒロインムーブかましてて草w】

【煽る煽るw】

【よし、この状態で煽れるならまだ余裕あるな。守り切れるぞ】

【捗るのこの瀬戸際で生きてる感じ好きw】

【こいつのせいでみんな真顔でロケラン打ち出したぞw】


 ちょ、ちょ、ちょ! なんで攻撃が激しくなるんだ!?

 みんなが戦ってるのはBERYLなんだぞ。少しは手加減してくれたっていいだろ!

 しかも何故か私の死体だけが、全方向から念入りに死体撃ちされた。

 って、こんなところに穴空いてるうううう!


『後、15分!!』


 私はすぐにリスポーンすると、壁の穴を塞ぎに行こうとする。

 しかし、その瞬間、私の目の前に誰かがヘリから飛び降りてきた。


『残念だったわね。捗るさん』

『げっ、メアリーお婆ちゃん!!』


 メアリーお婆ちゃんは私に向かって銃口を向ける。

 あー、これ、死んだわ。

 私だけじゃなくてコメント欄の掲示板民達もそう覚悟した。

 しかし、次の瞬間、同じ穴から飛び込んできた人物が手に持っていた武器で銃口を弾く。


『全くもう、捗るは何やってんのよ』

『この声は……嗜みか?』


 私は目の前に立つ嗜みが操作するキャラの後ろ姿をジッと見つめる。

 お前……そのキャラ、パンツ見えそうだけど大丈夫か?


『さっきの借り、返しにきたわよ』

『ああ、うん』


 ごめん、せっかくの良いシーンなのに目の前でふわつくスカートの裾から目が離せねぇんだ。


【カノン様きたああああああああああ!】

【嗜みいいいいいいいいいいいいい!】

【お前、最高かよ!!】

【くっそいいシーンなのに、こいつカノン様の操作するキャラの下しか見てねぇ!】

【おい、スカートに向かってズームするな。バカ!】


 私は嗜みの誘惑からなんとか抗って視線を元に戻す。

 くそっ、なんてトラップだ。もう少しで全部持っていかれるところだったぞ。


『あら、また私に負けに来たのかしら?』

『いいえ、今度は勝たせて貰うわ。ね、みんな』


 みんな?

 私が首を傾けると、メアリーお婆ちゃんの背後から現れた野生のゴリラ、いや、あれはゴリラじゃない! 私達のゴリラ先輩こと楓パイセンがメアリー様にタックルしようとする。

 しかし、それすらも読んでいたメアリーお婆ちゃんは楓パイセンの突進をあっさりと回避した。


『甘い。バレバレよ』

『そうでしょうか?』


 姐さんんんんんんんんんん!

 楓パイセンの背中を踏み台にした姐さんは、両手に持っていたナイフでメアリー様に襲い掛かる。


【森川きたーーーーーーーーー!】

【姐さーーーーーーーーーん!】

【私達の見たかったもう一つのBERYLキター!】

【みなさんこれが掲示板のBERYLこと、検証班です!!】

【汚い方のBERYLキター!】

【汚い方てwwwww】

【汚いBERYLwww】

【あながち間違ってはいない!】

【ここで検証班そろうの熱い!】

【メアリー様のラスボス感半端ねぇ】

【あれ? スターズってずっとメアリー様だったらこんな事なってないじゃ……】

【↑スターズからの留学生だけど、全員そう思ってます】

【この婆さん、強すぎだろw】

【さすがは最強のババアを自称してるだけの事はあるな】


 メアリーお婆ちゃんはニヤリと微笑む。


『だから、甘いのよ!』


 嘘だろ!? メアリーお婆ちゃんはそれすらも防ぐのかよ!!

 だが、この隙を我らが嗜みは逃さなかった。


『確かに1人じゃ無理だけど、4人なら!!』

『それでも無理なものは無理よ!』


 メアリーお婆ちゃんは姐さんの体を弾き飛ばして楓パイセンにぶつけると、突っ込んできたカノンに銃口を向ける。

 させない!!

 考えるよりも先に動いていた私は、メアリーお婆ちゃんの手にしがみつく。


『くっ!』

『だから言ったでしょ、お婆ちゃん。私達は4人なら無敵なのよ!!』


 カノンがメアリーお婆ちゃんの操作するキャラにトドメを刺す。


『お見事。天晴れよ、カノン』


 そう言って、メアリーお婆ちゃんの操作するキャラが倒れた。

 えっと、あのぉ、これって本当に死んでます?

 私は念の為に死体を突いて生きてるかどうかを確認する。

 ふぅ、私達みんなゲーム上手いのに、それでも4対1で圧倒するとかメアリーお婆ちゃんやばすぎでしょ……。

 ワンチャン、この人なら現実世界でもあくあ様に対抗できるんじゃないかと思った。


『さぁ、みんなで守り切るわよ!』

『守りましょう!』

『やってやろうぜ。捗る!!』

『ああ! みんな、ありがとう!!』


 私達、検証班は4人で拳を突き合わせる。

 全体チャットでは小雛パイセンが叫びまくっていた。


『残り5分、全員耐えてぇぇぇえええええええええええ!』


 はっきり言って、そこからの記憶は少し朧げだ。

 攻める方も守る方もみんなが楽しみながら必死に戦ったと思う。

 結果から言うと、最終的に勝ったのは天鳥社長のチームだった。

 私達が必死に拠点を守ってる間に、こっそり別動隊を組織して、戦場に転がった死体からコインを採取していたらしい。

 やっぱりベリルエンターテイメントの社長は、誰よりも1枚も2枚も上手だった。

 いや、メアリーお婆ちゃんが最初からラスボスじゃなくて勝つムーブに終始していれば……それはたらればか。

 ともかくカノンの復帰を祝う3日間の大会はこうして幕を閉じた。


「それじゃあ、みんな。私、この後、検証班で食事会確定してるから行くわ」


 みんな疲れてるから打ち上げはしないみたいだけど、せっかくだから検証班の4人で少し集まって飯を食おうって話になった。

 私はゲームをログアウトして配信を閉じると、嗜み達の待っている場所へと向かう。

 さーてと、ここからが私のもう一つの本番だ。

 この3日間でネタを大量に仕入れたし、打ち上げで嗜みの事をいっぱいいじったろ!!

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