小雛ゆかり、民度が終わってる。
2日目の朝がきた。
私はセイジョエナジーを一気飲みすると、みんなにローテーションで休憩を取る事について提案する。
「小雛先輩、俺、寝なくてもいけますよ!」
「バカ言ってんじゃないわよ! あんたはただでさえおバカなんだから、頭が動いてるうちにちゃんと寝なさい!!」
それに寝る子は育つって言うでしょ。
……いや、あんたの場合は図体だけはでかいし、これ以上は大きくならなくてもいいか。
ただでさえこっちは見上げなきゃいけないんだから、あんたと話してると首が痛いのよね。
むしろ少しくらい縮みなさいよ! もう!!
「うちはまだいけるで!」
「当然でしょ。あんたと捗るに休憩時間なんてあるわけないじゃない」
「えっ?」
『えっ?』
インコとえみりちゃんの操作していたキャラの動きが完全にフリーズする。
【インコ、捗る。お前らいつから寝れると思った?】
【草wwwww】
【他のチームも睡眠時間削ってるし難しいよな】
【カノポン様はお子様なので、24時超えたところで寝落ちしました】
【↑さすがです。カノン様!!】
【ゲームはうまいけどお子様なのがカノン様の唯一の弱点】
【↑煽り耐性も低いしな!】
【あくあ様がカノン様の寝落ちクリップ見てニヤニヤしてました!!】
【小雛ゆかり、姐さん寝ないとか言ってるけど、妊婦だから説得してきて】
【↑森川も心配してください!!】
【↑森川はさっきまで寝てて今、起きてきた】
全く、あんた達も何を本気にしてるのよ。
私は軽く息を吐く。
「……嘘よ。只の冗談じゃない」
私の一言に、2人がギクシャクした動きを見せる。
もう、だから冗談だって言ってるじゃない!
「とりあえず私とインコが起きてるから、あくあと美洲と捗るは先に休憩しなさい。ほら、あんたもシャキッとしなさいよ!」
私は完全に停止していた美洲のキャラに向かって攻撃する。
「……んにゃ?」
んにゃ? じゃないわよ! あんたマウスを握ったまま5分前から寝てたでしょ!
私のコメ欄にちゃんと報告の鳩が飛んできてるんだからね!!
「わ、私はまだいけるにゃ」
全然いけてないじゃない! もう!!
何が可愛いよ! コメ欄にいる奴らは耳が腐ってんじゃないの!?
「ほら、あんたも疲れてるんだから休む。あくあ、こいつのことよろしくね。それと琴乃さんを寝かせられるのはあんたしかいないんだから、ついでに寝かせてきなさい!」
「わかりました。それじゃあ小雛先輩、インコさん、後の事はよろしくお願いします。俺は美洲お母さんと琴乃を寝かせて、寝起きのカノンにおはようのヨシヨシしてきまぁす!!」
最後のは自分がしたいだけでしょーが!!
ちょ、私が突っ込む前に秒速でログアウトするな!!
【おはようのヨシヨシィ!?】
【あくあ様、そこの部分の配信はありますか!?】
【さっきの部分のクリップ、誰か白龍先生の配信に貼っといて】
【いいなぁ。私もあくあ君におはようのヨシヨシされたい】
【小雛ゆかりもおやすみのヨシヨシ強請れ!】
なんで私があいつにヨシヨシを強請らなきゃいけないのよ!!
って、えみりちゃんは、さっきから何してんの?
私は普通に素材を採取しに行こうとするえみりちゃんを見て声をかける。
「ちょっと、どこ行くのよ? あんたも寝なさい」
『す、すみません。昨日、夕方まで寝てて、あんまり眠く無いんです……ぐへへ』
ふーん、そういう事ならまぁ、仕方ないか。
えみりちゃんもあいつと同じくらいおバカだけど、自分でちゃんと判断できる子だから、そこら辺は注意だけしてあとは本人に任せても大丈夫かな。
「眠たくなったら、ちゃんと寝るのよ。無理だけは絶対にしない事。いいわね?」
『はーい』
人数が5人から3人に減った事で私達は黙々と作業を始める。
インコには変わらず拠点の強化プラス道具や装備の補充を任せて、私はえみりちゃんと同じく素材の採取に向かう。
流石に私も少しは疲れてきてるのか、退屈な単純作業の方が頭を使わなくていい分、こっちの方が楽に感じてきた。
【小雛ゆかりの口数が減ってきた】
【あくあ君が居ないと張り合いがないよねぇ】
【インコが冗談言う暇もないくらい忙しいから相手がいないんだよな】
【なんなら捗るもふざけてないし】
【もしかしてこれ私達もすやすやタイムなのでは?】
【↑勘の良い女達はあくあ君が寝たところでもう寝てる】
【同接落ちてると思ったら、みんなあくたんのログアウトに合わせて寝たのか】
【天我先輩、黛君、丸男君、孔雀君、はじめ君は夜遅くに就寝、とあちゃんは粘って残ってたけど、あくあ君が落ちたって聞いておねむで即寝たから、同接落ちるのは仕方ない】
【↑男子達がいなくなるとすぐに寝るとかわかりやすすぎる】
【速報。姐さん就寝】
【↑あくあ様ナイスゥ!】
ふん、どうやらあいつもうまくやったようね。
琴乃さんが寝たって事は、カノンさんも寝起きで、今は楓しかいないって事か……。
あれ? これってもしかしてチャンスじゃない?
【悲報、メアリー様、躊躇なくカノンチームの拠点に進撃開始】
【メアリー様無双きたー!】
【自分の孫なのに容赦がなさすぎるw】
【↑自分の娘にも容赦がなかったからなw】
【他のチームも漁夫狙ってるっぽいな。天鳥社長や加藤イリアのチームもレイド開始したぞ】
【おい、小雛ゆかり! 今、あっちの防衛にいるの森川だけだからどうにかなるぞ!】
えっ? みんなカノンさんのチーム襲撃してるの?
これは漁夫るしかないでしょ。
「ちょっとみんな聞いて」
「ええけど、チームチャットはうちしかおらんよ」
あっ、えみりちゃんはチームチャットに居ないから、近くにいないと会話できないのか。
私はインコにカノンさんの拠点が襲撃されている事を告げる。
「流石にうちら2人で漁夫るのキツくない? メアリー様や天鳥社長、イリアのチームはもう結構人集めてるっぽいし、うちがいくらゲームがうまくても流石に無理だと思う。それにうちら2人が拠点を空けたら、ここに誰かが襲撃してくるかもしれんし……」
うーん……かと言って、このチャンスに何もしないのは愚の骨頂だと思うのよね。
私はルールを再確認すると、良い案を思いつく。
「私、このまま最小限のアイテムだけ持って火事場泥棒してくるわ。要は、コインだけ集めたら良いわけだし、襲撃して倒された連中がその辺に転がってるでしょ」
「それはアリやな。それなら時間もかからなさそうだからうちも行くわ」
そうと決まれば話が早い。
私とインコはすぐに準備を整えると、えみりちゃんが作ってくれた車に乗って襲撃されているカノンさんの拠点へと向かう。
その途中で私の運転する車が崖から落ちて六回転くらいした。
「ちょ、ちょ、ちょ。お前、ゲームの中でも運転下手なんかい!」
「はあ!? それじゃあ、あんたが運転しなさいよ」
運転を交代したインコは、スムーズな運転で拠点の少し前にある森の中で車を止める。
なんか私より普通に運転上手いのムカつくわね。
「ちょっと、なんでここで止めるのよ。もっと近づけばいいじゃない」
なんなら、私が運転してたら車ごと相手の扉に突っ込んでたわよ。
「エンジン音が聞こえて敵に襲撃がバレるやろ。うちらはあくまでもコソ泥やで。盗むなら、こっそり行かんと。それに帰りはこれに乗って帰るんやから隠しとった方がええよ」
……なるほど、確かに一理あるわね。
私も起きてる時間が長くなってきたせいか。あいつみたいに頭がアホになってたみたいだ。
車を降りた私とインコがゆっくりとカノンさんの拠点に近づいていく。
「って、でっか! もうこんなにでかい拠点作ったんかい……」
私とインコの目の前に巨大な拠点が広がる。
しかもここ、立地がいいわ。
大きな川の間に拠点を作ってるから、普通に襲撃しても丸見えだし、途中に壁を設置したりして移動しないと矢倉の上から一方的に撃たれて終わるだけだ。
「インコ、あそこに誰かの建てた壁があるわ。あそこ目指して走りましょう!」
「わかったで」
私達は水辺の途中にある壁に向かって走り出す。
その途中で気がついた誰かが銃口を向ける。
「しもたぁ!」
「インコ!?」
川の中に隠されていたトラバサミで足を挟まれたインコのキャラが集中攻撃を喰らう。
「ごめん、ゆかり。やられたから拠点にリスポーンしたわ」
「さっきのは仕方ないわよ。後は私に任せておきなさい!」
私はタイミングを見計らってカノンさんチームの拠点の壁に張り付く。
あそこ、扉が開いてるわね。私は銃撃を掻い潜りながら一気に安全地帯へと滑り込む。
ここまできたら大丈夫でしょ。
私は一旦呼吸を整えて、周囲を確認する。
すると誰かが車に乗って向かってくる音が聞こえてきた。
『えー、テステステステス。本日〜、聖女党より立候補したラーメン捗る、皆様のラーメン捗るです!』
車の窓から上半身を出したえみりちゃんが、手を振りながらバンをドリフトさせて拠点に突っ込んでくる。
限界を迎えていた私はそれを見て机の上に顔を突っ伏す。
【こいつwwwwwwwww】
【荒らしキターwww】
【初手から終わってるわぁw】
【ヨシ! 男の子と子供は全員寝たな? ここからは爛れた女達の時間だ!】
【捗る、男の子が全員寝たら急にイキイキしてて草w】
【あくたん、早く起きてー!】
【みんな待たせたな。ここからはずっと捗るのターンだ】
【これが見たくてずっと起きてました!!】
【↑私も捗るならなんかやらかすだろうなと思って起きてたw】
【捗る最強! 捗る最強! 捗る最強!】
【土曜の朝はスーパー捗るタイム!!】
【捗るはウグイス嬢うますぎだろw】
【↑バイトでウグイス嬢をやった事があるらしいよw】
【捗るは無駄に多才すぎるんよwww】
もおおおおおおおおおおおおおおおお!
えみりちゃんは朝から何やってんのよ!!
拠点を攻めてた全員が銃を撃つのやめてフリーズしちゃったじゃない!!
『おい、捗るうるさいぞ!!』
あ、楓の声だ。
拠点のてっぺんから顔を出した楓がえみりちゃんに応戦する。
えみりちゃんもそれに対抗して声を張り上げた。
『この世に生を受けて20年。掲示板に愛され、掲示板を愛した女、皆様のラーメン捗るです! みなさんの朝から捗っている汚い手で握りしめた汚れた一票を、どうかこのラーメン捗るに投票してください!!』
えみりちゃんは器用な運転で楓の銃撃を回避していく。
そもそも銃を撃ってる楓がノーコンなのもあるけど、それにしたって運転うますぎでしょ。
【こいつ、みんなが配信してるのわかってて際どい話題でBANしようとしてるだろw】
【あっ、そっか。禁止ワードのせいで音声が配信に乗ったらBANされる可能性があるんだ】
【↑頭良すぎて草wwwww】
【チームチャットならいいけど、同盟とか交渉で全体チャットを使えなくする手か。考えたな】
【朗報、捗るやっぱり頭が良かった】
【なるほど、これがメアリーの叡知か……】
【只のエッチな女じゃなかったな】
【BAN狙いでこれやってるとか、捗る知将すぎるw】
いやいや、絶対に何も考えてないでしょ!
……って言えないのよねぇ。えみりちゃんはバカだけど、バカじゃないもん。
ん? バカだけどバカじゃない? 私は何を言ってるんだろう。
おかしな選挙演説を聞いたせいで、私も頭がおかしくなってきたのかもしれない。
『仕方ねぇ。こうなったら私も奥の手を使うしかねぇな……』
奥の手って何よ? 楓、まさかあんたまでバカなことをしようってわけじゃないでしょうね!?
私は思わず全体チャットで止めようとしたけど、自分の目的を思い出してグッと踏み止まる。
『えー、テステステス! みなさん、私は森川楓、改め掲示板のティムポスキーことソムリエです!』
はあ!? せっかくみんなが気が付かないフリをしていてくれたのに、なんで急に自分からバラしてるのよ!!
こいつ、絶対にまだ寝ぼけてるでしょ!
【大丈夫。みんな知ってる】
【まさかのソムリエ、突然のカミングアウトwww】
【おっ、これってもしかしてもう気を遣わなくていい流れでつか?】
【ラーメン捗る:↑ソムリエは寝ぼけてるから絶対に明日になると忘れてるよ。だからそのままで居てあげて】
【↑おいwwwww】
【私もあると思いますw】
【捗るの優しさと検証班の絆に感動した!!】
【さっきまで眠たかったけど、一瞬で眠気が吹っ飛んだわw】
【先に寝た奴らpgr!】
【↑男の子ばっか追いかけてるからこうなる】
【掲示板民はもちろん全員おきてるよな?】
【↑当然でしょw】
【カミングアウトしてても全員知ってるの草w】
【誰か1人くらいわざとらしく驚いてあげてw】
私は両手で頭を抱える。
か、軽い気持ちでこんなところにくるんじゃなかった。
『皆さん、おはようございます! 男の子の事なら私に任せろ! 掲示板党のソムリエです!!』
急に演説を始めた楓に私は椅子から転げ落ちそうになる。
あんたもえみりちゃんのネタに乗っかるんじゃないわよ!!
『みなさん。所詮、メスはオスに勝てないんですよ。男の子をその気にさせたらその時点で潔く負けを認めるというのが淑女としての筋じゃないんですか!?』
『いいですか、みなさん。こんな意見に惑わされないでください! 女あっての男性。女がいなかったら誰が興奮した男性を鎮めるというのですか! 私たち聖女党は、男性に屈するわけにはいかないんですよ!!』
争いは同じレベルの者同士の間でしかおきないって話を聞いた事がある。
私は両手で顔を覆い隠したまま天を見上げた。
『ラーメン、ラーメン、ラーメン捗ると聖女党に皆さんの汚れた一票をお願いします!』
『ソムリエ! ソムリエ! ソムリエ! 掲示板民の皆さんは掲示板党とソムリエに投票してください!!』
逃げちゃダメ、絶対に逃げちゃダメ!
自分にそう言い聞かせた私は、真顔でモニターへと視線を向ける。
「ゆかり、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。でも、ここは終わってる。民度が終わってる」
私が視線をサブモニターに向けると、コメント欄がすごい勢いで流れていた。
【草wwwww】
【カオスすぎだろw】
【選挙ラーメンVSパワー系ソムリエwwww】
【捗る、全部お前のせいやぞw】
【捗るは責任とって全部綺麗に畳めよw】
【あっちの民度も終わってるけど、ここの民度も終わってるw】
【みんな、寝てないから頭おかしくなってるじゃんw】
あああああああああああああああああ!
コインも全然落ちてないし、なんでこんなところに来たのよ!
髪の毛を両手でぐしゃぐしゃにした私はマイクに向かって叫ぶ。
「誰か助けてぇぇぇええええええ!」
もう火事場泥棒なんてどうでもいいから、少しでも早くここから逃げ出したいと思った。
私は安全地帯から少し顔を出すと、一歩だけ外に足を踏み出す。
すると私の目の前を野生のゴリラ達が横切って行った。
「ちょっと! 一瞬、今言い争ってる終わってる片方が来たのかと思ったじゃない! 只の野良ゴリラが紛らわしいのよ!!」
私はすぐさま、さっきまで居た安全地帯に引っ込む。
これ、どうするのよ。どこにも逃げられないじゃないのよ!!
私の目の前をえみりちゃんの運転するバンが突っ切っていく。
今度はどこに行こうって言うのよ……。
『そこのお姉さん。その大きくてだらしのないものを使って高額収入を稼いでみませんか? 人材派遣企業のセイジョ・ワークス。電話するなら081081まで!』
あそこにいるのは拠点を襲撃してるまろん達か。
変なのに絡まれる前にログアウトするか撤退した方がいいわよ。
【こいつwwwww】
【おい、お前、他人の配信をジャックして自分の案件をこなすな!】
【運営がなんでもありにした結果がこれですよw】
【捗るやっぱすげぇわ。普通の大会じゃこうはならないw】
【こいつ、あくあ様が寝るの待ってただろw】
【捗るが楽しそうで私達掲示板民もニッコリです】
【↑それなw】
【捗る、お前も顔出して配信しろ。掲示板だけに篭ってるのがもったいねぇわw】
私はなんとかしてこの地獄から抜け出そうとする。
しかし、頭上からもう1人のアホの声が聞こえてきた。
『みなさん、おはようございます! もう目は覚めましたか? 国営放送、朝のニュースを担当する森川楓ことソムリエが朝イチ、採れたての新鮮な今日のパワーニュースを皆さんにお届けいたします!!』
私は机の上に顔を突っ伏すと両手でドンドンと机を叩いた。
『先日、久しぶりにあくあ様と一緒の時間を過ごした嗜……Tさんは、ものすごくドキドキしたそうです。それではラーメン捗るさんがいち早く現場に到着したようなのでお話を聞いてみましょうか。ラーメン捗るさん、現場のラーメン捗る記者。聞こえてますか?』
『はい、こちらは聖女新聞、性事担当記者のラーメン捗るです!』
乗っかるんかい!!
私はコメント欄の視聴者と一緒に突っ込む。
『先ほどトイレタイムに寝ぼけた嗜み、Tさんにお話を伺おうとしたところ。すごく色気たっぷりだった事が判明しました!!』
『本当ですか!?』
『はい、本当です! それと、先ほど姐さんの部屋も確認しましたが、かなり悶々としているようでした』
『なるほど、とても有意義な情報をありがとうございます。以上、現場のラーメン捗るさんでした』
この2人が後から起きてきたカノンさんと琴乃さんに怒られろと私は強く願った。
あ、コメント欄の奴ら、ここの映像をクリップして2人が起きてきたら貼ってあげといて。
【掲示板民ていうか検証班強すぎるw】
【私達が見たかった生の検証班の掛け合いが、まさかここで見られるなんて感動した】
【森川は半分芸能人みたいなもんだけど、こいつら普通に掛け合いがうめぇわ】
【捗るとか素人なのに他の芸能人完全にくってるw】
【あの小雛ゆかりが疲れてるとはいえ、一言も喋れないのヤバすぎw】
【↑森川楓だと小雛ゆかりに番組を乗っ取られたけど、ソムリエだと小雛ゆかりに勝てるってこと?】
【検証班最強じゃねぇかw】
【検証班無双キター!】
【頼む。嗜み早くログインしてくれw】
【姐さん、寝たばっかりだけど戻ってきてくれないかなw】
【覚醒ソムリエと生の捗るの即興が最高すぎる】
【おい、カノン様が起きてきたぞ!!】
【は?】
【嘘を嘘と……って、本当にきたああああああああああ!】
【嗜み参戦!!】
【嗜みVS捗るが見られると聞いて完全に目が覚めた】
【小雛ゆかり、わりぃ。嗜みいくわ】
えっ? カノンさん起きてきたの?
この隙になんとかして逃げられない?
私はこの民度が終わってる場所からなんとかして逃げ出そうとする。
『ちょっと! 2人とも何やってるのよ! 捗るはどこ!? えっ? 下で走ってる車? わかった。捗る! 逃げずに待ってなさいよ。すぐに破壊しに行くから!!』
『えっ? 私だけ? って、おい。ソムリエ、お前どこに行ったんだよ!? くっそ、あいつ先に逃げ出しやがったな!!』
ん? 私が逃げるタイミングを計っていると、近くの扉が開く音がした。
『あ』
『え?』
私は目があった楓を反射的に倒してしまう。
や、やった。コインをゲットしたわよ!
「インコ。楓のコインゲットしたわよ!」
「ナイスや!! なんとかして、はよ、戻ってき!」
そ、そうね。
私は楓のアイテムを漁りながら、さっき楓が開いた扉へと視線を向ける。
あ、あれ? こいつ、慌てて逃げてきたせいで扉が開けっぱなしになってるんじゃない?
【自動ドアキター!!】
【こいつ、完全にやらかしたwww】
【やっぱり私達のソムリエじゃったか】
【扉は開けたら閉めなきゃ】
【小雛ゆかりチャンスだぞ。今なら全部の扉が開いてるw】
【やっぱ乙女も守れねぇ女の拠点はガバガバだな!】
【↑ここにきて掲示板民のキレも上がってきたな!】
【草wwwww】
【ソムリエはまだ気が付いてないのか、嗜みから逃げるために拠点から遠い場所にリスポーンしたから本当にチャンスだぞw】
【↑残ってる嗜みは捗るに夢中だし、姐さんはすやすやだしな】
【朗報、捗る、ガチ優秀説出て来た】
【小雛ゆかり、行け!】
そ、そうよね。
間違いなくこれはチャンスだ。
この1枚のコインを抱えて帰るよりも、カノンさん達が集めたコインを持ち替えればかなりの枚数になる。
もしかしたら一気にうちのチームが逆転するかもしれない。
そう思ったら私のマウスを握った手が自然と自分のキャラを操作して、空いていた扉から拠点の中へと侵入していく。
【タレットに気をつけろよ!】
【慎重にな!】
【コイン全部奪えたらあくあ君に自慢できるぞ!】
【そうだそうだ。あくあ様にマウントが取れるぞ!】
【小雛ゆかりがんがれ!】
【行け、小雛ゆかり。このためにお前は起きてたんだろ!!】
私はタレットやトラップを排除しつつ、慎重に建物の中を進んでいく。
建物の中は複雑な迷路のようになっていたけど、幸いにも楓が開いた扉を開けっぱなしにしてたおかげで簡単に最深部に辿り着いてしまった。
【よかったな、森川。今回の件でアナウンサーをクビになってもツアーガイドに就職できるぞ。声いいしなw】
【↑草wwwwwwww】
【ツアーガイドwww】
【掲示板民のツッコミが完璧すぎてw】
【ソムリエの拠点ツアーwwwwww】
【あくあ君の事ばかり考えてるから拠点がガバガバになるんだぞ】
【コメント欄の民度まる】
【汚ねぇコメ欄だなと思ったら、掲示板民ばっかじゃねーか】
あ、あった。この箱だ!!
私は箱の中に隠し持っていたコインを全部自分のアイテム欄へと移動させる。
「インコ、全コインゲットしたわよ!」
「さすがやで!! こっちもゆかりがコイン持ち帰ってくるの前提で今から守り固めとるわ」
さすがね。インコ。
言わなくてもわかってるなんて、私達、悪夢の世代だって検証班に負けてないんだから!!
私は若干一名、どっちにも属しているバカがいる事を忘れる。
「撤収!!」
あとはこれを持ってここから逃げるだけだ。
【速報、カノン様、小雛ゆかりの侵入に気がつく】
【小雛ゆかり逃げてー!】
【全力で逃げろ! 嗜みとソムリエに負けんな!!】
【捗るいまのいままでずっと嗜みを引き付けてたのか、あいつゲームうめぇなw】
確か、途中にヘリが格納してあったわよね。
ヘリの存在を思い出した私は一か八かの可能性にかける。
「確かここだったわよね」
格納庫の扉をこいつらの蓄えていた爆弾で破壊した私はヘリに乗ってエンジンを起動した。
【うおおおおおおおおおおおお!】
【シャッター開き忘れなし! 行けえええええええええ!】
【ぷ、プロペラがあああああああ!】
【壁にプロペラ当たってるけど、行けるぞ!!】
【朗報、小雛ゆかり、ここに来て過去一運転が上手い】
【小雛ゆかりは本番に強いし、運あるし、本当に持ってるな】
【よーし。これであくあ様が起きてきた時に笑顔が見れるぞ!!】
【↑やったああああああああああああ!】
こ……ここよ!
私はホバリングが安定したところで機体をグッと前に押し出す。
「行けええええええええええええええええ!」
私の操縦するヘリが敵の拠点の隙間から飛び出ると、一気に空高くまで浮上する。
やった! ヘリなんてまともに操縦できた事なかったけど、ぶっつけ本番で上手く行ったわよ!!
【と、飛んだああああああああああ!】
【本当に来たああああああああああああ!】
【小雛ゆかり、お前最高だ!】
【これであくあ君チームの優勝決定か!?】
【↑小雛ゆかりチームな】
よしっ! プロペラを少し損傷しただけで、拠点まで飛ぶのに十分なほどの燃料も入ってる。
これなら確実に逃げられるだろう。そう思った瞬間、私のヘリに大きな振動が伝わった。
「きゃあっ! な、何よ!?」
衝撃のした後方へと視線を向けると、私が操縦しているヘリの尾翼が完全に破壊されていた。
あっ、これはまずい。そう思った瞬間、制御できなくなったヘリが地上に向かって落ちていく。
「ちょっと! これ、どうしたらいいのよ!!」
『うわあああああああ!』
この聞き覚えのある声は……私は声のする地上へと視線を向けると、墜落の瞬間に見覚えのあるバンが視界に入った。
あっ、あれって……。次の瞬間、私の画面が死亡画面へと切り替わる。
【よりにもよって逃げてる捗るのところに墜落したwwwww】
【完璧なヲチだったな】
【脱出→墜落→激突の流れが綺麗すぎるんよw】
【あれってロケランに撃たれたの?】
【↑そうだよ】
【嗜みのロケランか?】
【↑違う、総理。やっぱ実物を撃った事がある人は違うわ】
【あーあ、メアリー様にコイン全部奪われた】
【メアリー様、完全にこのタイミングを狙ってたな】
【やっぱりメアリー様が一枚上手だわ。ゲームのうまさもそうだけど、戦略が完璧すぎる】
【しかも小雛ゆかりとインコが放置してた車も白龍先生に奪わせてるし、同盟のフューリア様を斥候に使って完璧に状況を把握してうまく立ち回ったよな】
【嗜みに自分が誰の遺伝子で出来たのかを分からせにきてるの草w】
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!
私は無言で机をバンバンと叩く。
「結局、何? 私ってば民度終わってるところにいって、しょうもないやり取りを見せられただけって事!?」
私はコメント欄へと視線を向ける。
【そういう事です】
【いやー、いけると思ったなんだけどな】
【惜しかったです。はい】
【煽ろうと思ったけど、お前はよくやったよ。うん】
【珍しく小雛ゆかりのコメ欄が小雛ゆかりに優しいぞ!】
【↑普通はそういうもんだよ】
【こればかりはしゃーない】
【ドンマイ!】
【大人しくファームしようぜ!!】
むぅ……。そう言われた怒るに怒れないじゃない。
まぁ、いいわよ。まだまだ時間はあるんだし、チャンスはこれだけじゃないわよね。
私は大人しくファームをする。
それから数時間後、一足早く起きてきたあくあが先にログインしてきた。
「おはようございます!! あれ? なんかありましたか?」
べっつにー、なんもなかったわよ。
私とインコはお互いに無言を貫いた。
「それじゃあ、うちは先に寝るわ。じゃ、また後で!」
「はい! インコさんおやすみなさい! あとは俺に任せてくださいよ!!」
私達は拠点の強化や物資の作成で疲れてそうなインコを先に休ませる。
あと、えみりちゃんは……どうやら、あっちも疲れたのかもう寝ちゃったみたいね。
んー、美洲もまだ起きてきてないし、こいつ1人だと何するかわかんないから私はもう少し起きておこうかな。
「小雛先輩、寝ないんですか?」
「ええ」
「寝ないなら軽く海上の石油プラントに行きましょうよ」
「いいわよ」
それなら数十分で終わるし、その間に美洲も起きてくるでしょ。
って、思っていた私が浅はかだったわ。
「ねぇ、帰りのヘリは?」
石油プラントの攻略が終わった私達は、ヘリポートに残ったヘリの燃え尽きた残骸を遠い目で見つめる。
「えっと……火炎放射器で燃やされたらしいっす……」
嘘でしょ!? じゃあ、どうやって帰るのよ!?
迎えに来てもらおうにも、みんなもう寝ちゃってるじゃない!!
しかも寝坊助の美洲は起きてこないし!!
「仕方ありません。小雛先輩、誰かが忘れていったこのイカダを使いましょう」
「ちょっと! これはイカダじゃなくて只の板でしょ!!」
あんたまさかその手に持った木の枝がオールだなんて言わないでしょうね?
えっ……あんた、それマジで言ってんの?
【そのイカダ、確か捗るのだぞ】
【あいつ、なんでゲームの中でもひもじいプレイしてるんだよ……】
【よく、これで良くここまでたどり着いたな】
【全掲示板民が泣いた】
【寝ても話題になる捗るとかいうおもしれー女】
うう、かと言ってここで待っていても敵のNPCが復活して私達がジリ貧になるだけだ。
ええい、こうなったらやるだけやってみるしかないわ。
覚悟を決めた私はあくあと一緒にイカダに乗る。
「ねぇ、これ。波が強すぎて流されてない?」
「ええ、っていうか完全に漂流してますね……」
嘘でしょ……。これ乗ってきてたえみりちゃんはどうやってここにたどり着いたのよ!?
えっ? えみりちゃんは海図を見て海流を読んでここまで来てた? 前にそういうバイトした事ある?
一体、あの子の人生はどうなってるのよ……。
「すぅ……というわけで、白銀あくあと小雛ゆかりの第二回突発ラジオ始めまぁす!」
嘘でしょ……。
でも、漂流しちゃったし、チームの誰か、特に美洲が起きてこないともうこれ以上はどうしようもないわよね。
仕方ない……やるか。そう思った私は今日何杯目かのセイジョエナジーを手に取ると、缶の蓋を開けた。
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