幕間 掲示板民、初めてのオフ会。
※クレアさんが暴走したので、今日の話は幕間を入れます。
私はどこにでもいる掲示板民の1人だ。
今日はその白銀あくあスレの面々でオフ会があるらしい。
そういうわけで私は人生初のオフ会に参加する事になった。
「嗜みは?」
「しね!」
「よしっ、通っていいぞ!!」
どうやら入口では合言葉によるチェックが必要らしい。
私の後ろに居た女の子は大勝利と言って、怖いお姉さん達に排除されていた。
間違えなくて良かったと、ホッと胸を撫で下ろす。
「そのまま先に進んでください」
仮面をつけたお姉さんに案内されて、私は奥の扉を通って地下にある会場へと降りていく。
私もそうだが、今日ここに来た全員がなんらかの仮面をつけて素性を隠している。
そう、私達は名もなき掲示板民、お互いが何者であるのかを詮索するのはNGなのだ。
「どうぞ中にお入りください」
おお! 奥に進むとそこは仮面舞踏会の会場のようだった。
とはいえ、中世のような仮面ではなく、みんなお祭りで買ってきたようなヘブンズソードのお面をつけていたりする。中にはヘブンズソードのコスプレまでしている人もいた。
それにしても、さすがは白銀あくあスレの住民達だな。やたらとでかい女とムンムンと色気の漂う女がかなり多い。
特にあの貴婦人みたいな女性はなかなかのデカさだ。
「みなさん節度は守ってくださいね」
誰よりも風紀違反みたいな体付きをしてるくせに風紀を取り締まるとかギャグかよ。
まるでどこかの黒蝶揚羽議員のようだと思った。
「どうも街プリスレ1961で会社を辞めた215番です」
「お前、マジで辞めたのかよ……」
「カフェプリスレ237で嗜みのキリ番を阻止したものです」
「おま、あの時の奴か!!」
「白銀あくあスレ753の425です」
「覚えてる覚えてる。妹がサーバーになりたいとか言い出したお姉ちゃんな!」
すごい! さすがはあの掲示板民のオフ会だ。有名人しかいない。
その中でも私が目についたのはとある女性だ。
「あ、あの、デカ・オンナー、間違いなく姐さんだ」
「ヘブンズソードの仮面つけてるからこそわかりやすい」
「さすがは検証班、私達モブとはオーラも戦闘力も違いすぎる」
「圧が違うよな。それこそ検証班からしたら私達なんて戦闘力が5しかないゴミだよゴミ」
私は隣に居た人の言葉にうんうんと頷く。
よく見るとスーツを着た姐さんは腕にオフ会運営と書かれた腕章をつけていた。
お疲れ様です……。
私は飲み物を貰おうと思ってバーカウンターに向かう。
「なんにされますか?」
「うーん、何にしようかな」
せっかくだし、お酒でも飲もうかな……。
「アルコールメニューだとおすすめは、アクアインザベリルですね」
「じゃあ、それで」
「了解でぇす。少々お待ちくださいまっせぇ!」
なんかラーメン屋みたいなノリのお姉さんだな。
大丈夫かと心配になったけど、お姉さんの腕前は確かだった。
「へい、お待ち!」
「わぁ!」
青色の層と緑色の層が綺麗にできているすごく素敵なカクテルが出てきた。
おまけに何かがキラキラ輝いていてすごく綺麗!
「ベースは日本酒とスターズのジンで、ブルーキュラソーとかペパーミントリキュールで色付けして、隠し味にナスのエキスとうどん出汁を少々加えたオリジナルカクテルです。つまみに森長のビスケットをどうぞ」
ナスのエキスにうどん出汁!? だ、大丈夫かな。一気に不安になってきた。
でも、せっかくだしと思って私は意を決してグラスを傾ける。
「お」
美味しい!
まろやかな日本酒と尖ったジン、ほっこりとするお出汁の組み合わせが刺激的だけど、このカクテルに乗った謎の草がスッとしてていい感じ。正直、ナスに関してはよくわからないかな。
私はグラスを傾けつつビスケットをパクパク食べる。
「他には何かあるんですか?」
「そうですね……次に人気なのが大人風に見せかけて甘めのミルクでお子様味に仕上げた人妻の嗜み、高級そうに見えてジャンクな野生のホゲマティーニ、それとエネルギードリンクのセイジョ・エナジーの搾りたてを使った92トニックとか、あと隠しメニューでハッカベースのハッカ・ドールもありますよ」
めちゃくちゃ検証班じゃねーか!
思わず声に出して突っ込む。
え? ちゃんと検証班から許可は取ってる? 嘘でしょ……。
「ああああ、お酒弱いけど全部飲みたい……」
「あのー、私もお酒弱いんだけど、よかったら一緒に頼んで半分こしない?」
「あ、それなら私も」
「私も私も!」
私は近くに居たお姉さん達と一つずつ注文して回し飲みする。
うーん、どれも美味しい!
少しお酒が入って気分が良くなってきた私はフラフラと会場を彷徨く。
「第6話で見せた剣崎の変身行きます。変身っ!!」
「いいぞー」
「次、バーガー屋でバイトした時に見せた、神代をおちょくるような剣崎のフライ返しのモノマネ行きます!!」
「完コピじゃねぇか!!」
おー、ステージ付近のコミュニティはヘブンズソードで盛り上がってた。
私はみんなに混じって剣崎の小ネタモノマネショーを見る。
って、ここ、2階席もあるんだ。そっちは何をやってるんだろう? ドンドンと低音の音が聞こえてくる。
私は音に釣られて2階席に上がると、DJをしている緑髪のお姉さんが目に入った。
「ほな、次の曲いくで!!」
うわー、ベリルの曲でDJやってるんだ! 最高!!
私がノリノリで踊ってると、その目の前でお姉さんの写真を撮った人達がご当地インコのタグをつけてSNSで投稿をする。
あぁ、確かに髪色といい言葉遣いといい、まんまインコだなと思った。
ていうか、写真撮影ってNGじゃなかったっけ? ああ、ここのエリアは大丈夫なのね。了解。
「インコー!」
「乙女ゲームしろー!」
調子に乗った観客席からは合いの手で乙女ゲームしろの声がかかる。
それに合わせてDJの子が乙女ゲー主題歌にもなったベリルの曲をかけた。
おー、お姉さんわかってるねぇ!
観客達のボルテージもマックスになる。
「いいぞいいぞ!」
ふー、アルコールが入ってたせいか、思った以上に盛り上がってしまった。
ハイになった私は、火照った体と酔いを覚ますために最初のフロアに戻る。
「一発芸やります!!」
あ、剣崎のモノマネをやってたステージで誰かが宴会芸を披露していた。
って、よく見たら宴会芸ってレベルじゃないじゃん。
それにあの身体能力、あれは間違いなく……。
「あれ絶対に森川だろ」
「しっ! ソムリエっていえ」
「いやいや、そもそも匿名なんだからバレちゃいけないじゃ……」
「いいから! みんなで気がついてないふりをするんだぞ!!」
ああ、なんて優しい世界なんだろう。
ここには優しくて暖かい世界が広がっている!!
私は感動で涙を流す。
「酔い覚ましにリラックスする草の入ったお水どうぞー」
あ、さっきのバーテンのお姉さんだ。
私はお姉さんからお水を受け取る。
よく見たらこのお姉さんもかなり……だな。
流石は白銀あくあスレの住民だ。こういう女性がそこらじゅうにゴロゴロしてやがる。
「なぁ? 捗るってきてるのか?」
「さ、さあ?」
「正直、それっぽい女ばっかりすぎて誰が捗るだかわかんねぇ……!」
私は近くで話しているお姉さん達の会話を聞きながらうんうんと頷く。
そういえば捗るってどこにいるんだろうね。私もワンチャン会えたりしないかなと思ってきたけど、流石に考えが甘かったようだ。
「2杯目どうぞー」
「ありがとございます」
私はお姉さんから2杯目の水が入ったグラスを受け取る。
この本当に裏山に生えてそうな草が入った水、本当に美味しい!
一回飲むと癖になる味だ。
2杯目の水を飲む私の隣を、お姉さん3人組が通り過ぎていく。
「もー、遅いよー」
「ごめんごめん、日にち勘違いしてお風呂入ってた」
「相変わらず風呂に入るタイミング悪すぎ……」
ん? もしかして風呂ネキか? って事は隣に居るのは藤百貨店ネキと読唇術ネキ!?
って、ダメだダメだ。参加者の事は詮索したらいけないってルールを思い出す。
3人が通り過ぎたのとは反対側では、なぜか大激論が起こっていた。
「やっぱり槙島だよ!」
「いやいや、槙島はないって!!」
ああ、まだ槙島論争やってるのか。
嗜みが拒否反応を示したように、槙島は刺激的すぎて受け入れる層と無理な層に分かれている。
私はあくあ君ならどっちでもいいけど、無理な人がいるのも理解できるのでなんともいえない。
「ねぇねぇ、お姉さんはどのあくあ君が好き」
「夕迅様!」
私は声をかけてきたお姉さんと拳を突き合わせる。
どうやら私のお仲間らしい。
やっぱり夕迅様が一番だよねー!
「あら、貴女達、夕迅様が好きなのね」
「ほら、こっちにいらっしゃい」
おお、夕迅様ファンのお婆……お姉様方に囲まれる。
最初はビビってたけど、お姉様方は気品に溢れた方々ばかりですごく優しくしてもらった。
「あ」
お話が楽しくて、グラスに入ってたお水をこぼしちゃった。
どうしようかと思ったてたら、すぐにメイド服を着た女の子が駆けつける。
「すぐにお掃除しますね」
「ありがとうございます。ごめんなさい」
って!? よく見たらメイドの女の子、顔にお面じゃなくてタブレットはっつけてる!
それにそのニコニコマーク、どこかの鯖ちゃんで見たぞ!?
あぁ、もしかして鯖ちゃんのコスプレ? なのかな?
うわー、さすがは白銀あくあスレ。色んな人がいる。
私はメイドの女の子にもう一度お礼を言う。
「ねぇ、ところでのうりんの最新巻だけど……」
「あぁ、あのシーンね」
ん? お姉様方がのうりんの話をし出したら、やたらとカクカクしだしたお姉さんが居た。
大丈夫かな? 2人の大お姉さんに挟まれてどんどんと小さくなっていく。
「今日は楽しかったわ。こんな私達の話に付き合ってくれてありがとね」
「いえいえ、こちらこそ楽しい時間をありがとうございました!」
ふー、酔いも覚めたし、そろそろ帰ろうかな。
私は入口の受付へと向かう。
すると、今来たのか、高校生か中学生くらいの女の子が受付で止められていた。
「すみません、中学生はちょっと……」
「この4月に高校に入ったばかりなんですけど?」
「どっちにしろ時間的にアウトですね。もう少し早ければよかったのですが……この時間からは保護者がいないとダメですね」
「ぐぬぬぬ!」
あらあら、かわいそうに。
私は地雷系ファッションに身を包んだ女の子に声をかける。
「少しでいいならだけど、私が保護者になるから一緒に入る?」
「い……いいんですか?」
「もちろん!」
本当は私も、もう少しだけあの空間に居たかったのよね。
話を聞くと少女は会員番号1番、あの始まりの616さんだった。
会員証を見た時にびっくりすぎて、ひっくり返りそうになる。
すげぇ。超有名人じゃん!! おまけに、まだ高校生だったんだー。へー!
「ほら、普通のジュースメニューもあるし、飲み物たのも」
「はい!」
ふふ、かわいいな。
捗るや嗜みに会えなかったのは残念だったけど、私はオフ会イベントが終わるまでの間、夕迅ファンの616さん、バーテンのお姉さんの3人とで会話を楽しむ。
イベントの最後には、会場に入れずに受付で嗜みが止められてた書き込みがステージに設置されたスクリーンに表示されて、みんなで爆笑した。
473 検証班◆010meTA473
合言葉、嗜みちゃん大勝利じゃないの!?
721 検証班◆07218KADO6
>>473
pgr!
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