白銀あくあ、0.01の優しさ。
サーバーに不具合があったらしく、大会の進行が一時的にストップしてしまった。
運営の人達はサーバーの復旧で忙しそうなので、俺は小雛先輩の力を借りて2人でラジオ配信をする事を決める。
「じゃあ、行ってきます」
俺は一旦チームチャットから抜けると、最初のゲストがいるチームのチャットにログインする。
最初のチーム分けを見た時から、このチームは少し不安だなと思ったからだ。
「こんばんは〜。白龍先生、どう? そっちはうまくやってる?」
「あっ、あくあ君!? 聞いてよ。今、どこかのチームがうちに襲撃してきてるんだよ〜!」
おっ、俺のチームだけじゃなくてアイのチームもどこかのチームに襲撃されているのか。
左下のログも凄い事になってたし、どうやらどこのチームも積極的に仕掛けているみたいだな。
俺はアイの事を優しく慰める。
【白龍先生、それメアリー様のチームです】
【ちな白龍先生を倒し続けてるのは羽生総理です】
【心なしかあくあ様の声がお優しい】
俺は一呼吸置くと、アイのチームメイトであり今回のターゲットの人物に話を振る。
「フューリアお義母さん、お久しぶりです」
「ちょっと!! いつから私が貴方のお母さんになったのよ!!」
えっ? ダメなんですか? カメラに視線を向けた俺は少しだけ悲しそうな顔を見せる。
俺はカノンと結婚したあの日からずっとフューリア様の事はお義母さんだと思ってますよ。
【ナチュラルな初手お義母さん呼び。私じゃなかったら聞き逃してたかもしれねぇ】
【さすがです。あくあ様!!】
【全ママ宣言済みのあくあ様にとっては、相手がフューリア様でも関係ないんですよ】
【カノン様にこの配信を見せてあげたいw】
【フューリア様さぁ。もうこの時点で会話の主導権握られてるのわかってる?】
【フューリア様って煽り耐性低そう】
【そもそもあくあ君は煽ってないからね】
【そうそう。純粋な気持ちでお義母さんって呼んでそう】
【ラーメン捗る:実は貴女の娘のヴィクトリア様も嫁に貰いますっていう隠語だよ】
【↑な、なんだって〜】
【さすがは捗る。これは深いな】
ちょ、ごめん。コメント欄が早くてちゃんと見れなかったけど、今、ヴィクトリア様が俺の嫁になりたいって言ってたよってコメントしてた人いなかった!?
そうか、ついにヴィクトリア様も俺の嫁になってくれる決心をしてくれたのか!!
よーし、そうと決まれば、ウェディングドレスと式場を手配しないとな!
サプライズの方が喜ぶし、ヴィクトリア様には全部が決まった後に言おう。
「今、サーバーが復旧中でして、その間、俺と小雛先輩の2人で見ている人達が退屈しないようにラジオをやろうって事になったんです。で、なんとですね。一番最初のゲストにフューリアお義母さんが選ばれたんです!」
「はあ!? 貴方が勝手に私を選んだだけじゃない!」
俺はナチュラルにフューリアお義母さんの照れ隠しをスルーして淡々と会話を進める。
「お義母さん、そういうわけでチームチャットの2に移動してください。先に行って待ってますから」
「ちょっとぉ!? 何勝手に話を進めて……って! 抜けるの早すぎでしょ!! もう!!」
よし、これで大丈夫だろう。
俺は自分のチームのチャットに帰ってくる。
「そういうわけで呼んできました。もう少しだけ待ってあげてください」
「……心配であんたの配信見てたけど、あれで本当に来るんでしょうね?」
「うんうん」
「あくあ君、普通はこうへんって……」
そうかな?
俺は親子だけあってフューリア様はヴィクトリア様に似ている部分があると思ってる。
フューリア様はああ見えて純粋というか、頼られると断れない性格だと思う。
カノンやヴィクトリア様、ハーちゃんとフューリア様の親子関係がうまくいかなかったのは、それぞれが親子よりも先に王女と女王って立場があってうまく頼ったり甘えたりできなかった事に起因したんじゃないかなと俺は分析した。
例えばカノンに至ってはその反動で今、俺とえみり、琴乃と楓の4人に死ぬほど甘えまくってるし、ハーちゃんはあまり感情を出して甘えてくるタイプじゃない。ヴィクトリア様は誰もが知っているように、あのツンデレだから素直に甘えるなんて事ができなかったと容易に想像できる。
フューリア様もフューリア様でツンの割合が高いから自分から歩み寄ったりするタイプじゃなかったんだろう。
そこでこの俺、全ての女の子をママにする男、白銀あくあの登場だ。
甘えの申し子、全世界の女性の息子と呼ばれたこの俺、白銀あくあに落とせない女の子はいない。
いや……1人だけ居たわ。俺は隣のモニターに映った小雛先輩の配信画面をチラッと見る。
俺がそんな事を考えていると、チームチャット2にフューリア様の名前が追加された。
「あなたね……流石に言い逃げはないんじゃないの?」
ほらね。フューリア様は絶対に来てくれるって言ったでしょ。
俺はカメラに向かってドヤ顔を決める。
「というわけで、急遽始まった小雛ゆかりのパワハラジオ! 最初のゲストはフューリア様です!!」
「だから、私をスルーして勝手に進めるなって言ってるでしょ!」
「はあ!? 誰のパワハラジオよ!」
俺は大きな拍手で2人の声を完全にかき消す。
多くの番組やイベントで司会をこなす楓が教えてくれたけど、司会に最も必要なのはパワー、パワーでゴリ押し進行すれば全てどうにかなると教えてくれた。
【拍手の音で2人の雑言をかき消したwww】
【↑さすがはパワー系司会者として名高い森川アナの旦那だけはある】
【あくあ様だけだよ。この2人にこんなゴリ押しできるの】
【ふーん、なんだかんだで来てくれたフューリア様ツンデレじゃん】
【あくあ様のツンデレ女に対するパターンは大体これ。ツン女に無遠慮で懐の中に飛び込んでくる→無自覚の煽りで自分を追いかけさせる→気がついたらあくあ様の沼に沈んでる】
【↑あまりにも綺麗な流れで草w】
【フューリア様、あくあ様のところに飛び込んできた時点でもう負けなんですよ。諦めましょう】
【私には見える。あくあ様のママになっているフューリア様の姿が】
【フューリア様、隣に小雛ゆかりって女がいるでしょ。その女もまたあくあ様の手によってママにされてしまったのです】
【ラーメン捗る:お前らナチュラルにアヤナちゃん煽るのやめて】
【月街アヤナ:ちょっと!? なんでそこで私の名前が出るんですか!?】
【↑そりゃね】
【ほら、アヤナちゃんも素直になって、私達の前であくあ君に甘えてもいいんだよ】
【↑そうだそうだ!】
【来島ふらん:アヤナ先輩はもっとみんなの見えるところで甘えてくださいよ!】
【↑ふらんちゃん、正解!】
【捗るがなんでここに居るのかと思ったら、そうだ。こいつ、裏切ったからチームチャットに入れてないんだったwww】
【↑草wwwww】
【↑全掲示板民が泣いた】
【捗るが一瞬不憫に思えたけど、自分から裏切ってるから自業自得なんだよなw】
えっ? コメント欄が爆速すぎてよく見えなかったんだけど、アヤナが俺のママになりたいって言ってなかった!?
そういう事なら俺にも考えがある。
俺はキリッとした顔をすると、アヤナにエプロンを用意して欲しいとペゴニアさんにメッセージでお願いした。
よーし、これで同級生の女の子に制服の上からエプロンをつけてもらって、ママプレイをしてもらうという俺の夢が叶っちゃうぞ〜。いつ、うるはにお願いしようかと気を揉んでいたけど、アヤナがやってくれるっていうのなら話が早い!!
ありがとう、アヤナ。俺は心の中でアヤナに深く感謝をした。
それと、アヤナ、ついでと言ってはなんだけどお母さんも一緒に連れてきていいんだぞ。俺はいつでも親子両方受け入れられる覚悟はできてるからな。
「では、小雛先輩、最初の質問をどうぞ」
「雑! 急に丸投げしてくんな! はぁ……そういえばあんたと小雛ゆかりの部屋をやった時もそんな感じだったわ」
小雛先輩、今、俺のコメント欄で楓が森川楓の部屋だって連投してます。
ごめん、楓。俺も今まで小雛ゆかりの部屋だと思ってたわ……。
「あのさ、私、こいつの事嫌いなんだけど、あんたはどう? あんたもこいつの事嫌いでしょ」
「当然じゃない。どこに好きになる要素があるっていうのよ!」
なるほど……つまりそれくらい俺の事が好きって事なんですね!
俺は鈍感じゃないから、女の子の嫌いは好きの裏返しだってちゃんとわかってますよ。
【あくあ様wwwww】
【嫌いと言われてこの顔である】
【もはや無敵】
【これだからあくあ様のファンは止められねぇんだ】
【よく考えたら、あくあ様へ正面切って嫌いって言えるのすごいなw】
【↑普通なら炎上してるよwwwww】
【フューリア様だけはこの世界で唯一あくあ様に嫌いって言っても許されると思うよw】
【ラーメン捗る:小雛ゆかりの嫌いは照れ隠しです!】
【↑おい、やめろ! バレたらチームに入れてくれなくなるぞ!!】
【捗るは黙ってたらいいのに、我慢できないんよなぁwwwww】
【あくあ様の、いやー、照れるな、みたいな感じの表情がたまりませんw】
【↑わかるw】
そもそも嫌いの反対は好きだ。
無関心と違って、感情的に嫌いになるというのは裏返せば好きになる可能性がある。
つまりこの俺にもチャンスがあるってことだ。
そう考えてるとドキドキしてくるな!!
「……あなたも苦労してるのね」
「わかる? 世間じゃこいつの方が苦労してるように見えるけど、本当に苦労してるのは私の方なのよ」
ええっ!? 小雛先輩が苦労してる!?
この前、寝坊しそうになった小雛先輩を優しく起こして、お風呂も沸かせてあげて、髪も乾かしてあげて、ご飯も全部あーんで食べさせてあげて、服も着替えさせてあげて、二度寝した小雛先輩をおぶって現場まで連れて行ったのは何を隠そうこの俺、小雛先輩の一番弟子でもあるこの白銀あくあですよ!
まぁ、その代わりに普段から結構お世話になっているというか、俺の至らないところをカバーしてもらってるんですけどね。
「まぁ、こいつの事で愚痴りたい事があったら私に言いなさいよ。聞いてあげる事くらいはしてあげるから」
「あ……ありがとうございます。えっと、その……うちの娘達はそちらで元気にやってますか?」
ちょ、ちょ、ちょ、お義母さん!?
そこは小雛先輩じゃなくて、俺に聞くところじゃないですか!?
「カノンさんは出産直後に疲れた顔をしてた時もあったけど、今は大丈夫そうよ。ハーちゃんもフィーちゃんとかふらんちゃんとかスウちゃんとか、お友達がたくさんできて嬉しいって言ってたわ。ヴィクトリアさんは、まぁ、楽しんでるんじゃないかしら。少なくとも私が見ている限りはよく笑ってるように見えるわよ」
「そう……」
そっか。カノンは俺にあまり心配をかけたくないと思ってるのか、出産直後も俺の前じゃあまり疲れた顔はしてくれなかったんだよな。
それでもえみりや琴乃、楓には甘えているようだからと安心していたけど、今度、俺も十分にカノンを甘やかす時間を作ってあげなきゃなと思った。
「ところでお義母さん、今、拠点を攻められてるって聞いたんだけど大丈夫ですか?」
「……あなたここまで言われてまだ私の事をお義母さんって呼ぶのね。はぁ……もう良いわ。好きに呼びなさいよ」
よーし、本人からの許可が降りたぞ!
あとはもう少し踏み込んだところでママって呼んでみよう。
ヴィクトリア様も甘いところがあるから、きっとフューリア様もなし崩し的に許してくれるはずだ。
「それと拠点だけど、どこかが攻めてきてるみたいね。おかげでこっちはもうボロボロよ」
「うちも美洲のロケランのせいでボロボロよ」
「うっ、ごめん……。後で修復しておくから」
ポコン、ポコン!
ん? チームチャットの欄にメアリー様と羽生総理が入ってきた。
「あくあ様こんばんは。拠点を攻めてる側のメアリーです」
「ヒャッハー! 略奪だー!! どうも、世紀末が私を呼んでいる。皆様の羽生治世子です!」
ちょ、フューリアお義母さんの拠点を攻めてるのってメアリーお婆ちゃんと羽生総理のチームなの!?
「お、お母様!? な……何をやってるんですか!?」
「貴女には選択肢を上げましょう。私達にこのまま蹂躙されるか、私のチームの傘下に入るか、この場でそれを選びなさい。なお、返答がなかった場合はこのまま焼け野原にするつもりなので悪しからず」
メアリーお婆ちゃん!? いくらなんでも流石に厳しすぎませんか!?
俺はフューリアお義母さんに助け舟を出す。
「メアリーお婆ちゃん、流石に焼け野原はかわいそうだよ。ほら、スターズが滅んだ時だって門とかがちょっと壊れただけだし、せめてコインを差し出すとかにしてあげましょうよ」
「わかりました。あくあ様がそういうのならそうします!」
ふぅ、良かった。
俺の携帯にリスキルされまくってたアイから感謝のメッセージが届く。
はは……こういうゲームでは容赦のないところがカノンにそっくりだなって思う。
俺の気のせいかもしれないが、メアリーお婆ちゃんを見てるとよくカノンと重なるんだよなぁ。
「というわけで、あくあ様の温情で焼け野原にするのはやめてあげるから、大人しくコインを差し出すかうちの傘下に入りなさい」
「……わかりました。大人しくコインを差し出します。ただ、その代わりに同盟を組んでください。白龍先生はともかく、私はあまりゲームは得意じゃないし……」
「いいでしょう。その代わり、白龍先生は人質としてこちらのチームで預からせてもらいます」
「わかりました。それで大丈夫です」
おおー、どうやらうまく話がまとまったみたいだ。
俺達は手を叩いて拍手を送る。
やっぱり人間、こうやって話し合う事が大事だよな。
【あくあ君、良かったね!】
【ラジオにフューリア様を呼んで良かった】
【話し合いで解決できたのは大きな進歩だと思う】
【朗報、フューリア様、ゲームの中では拠点を守り抜く】
【↑いやいや、現実世界だってあくあ君が民間人と一緒に城内に流れ込んで占拠しただけだから】
【あくあ様はスターズを滅した時も相手を無血開城、無血降伏にまで持ち込んだから司令官としても実は優秀】
【↑スターズの政治体系がスムーズに移行できたのもそのおかげだよな】
【あくたんは民衆を巻き込むの上手だから】
【だって、アイドルだもん】
【アイドルとは……?】
【あくあ君のアイドルを他のアイドルと同じ意味で解釈したらダメだよ】
【白龍先生、配信で泣いてるw】
【↑蛮族みたいな格好した羽生総理にリスキルされてたからな。仕方ない】
【結局、コインも差し出して白龍先生も取られるのか、メアリー様、容赦ねぇなw】
【↑だからメアリー様が統治していた時のスターズは強かったんだよ】
【今でもメアリー様が王位から退いたのは謎だって言われてるからな。スターズ正教改革という表向きの理由があったとはいえ、あれだけの支持なら居座っても誰も文句言わなかった】
無事に話し合いで解決した事でフューリアお義母さん、メアリーお婆ちゃん、羽生総理の3人がチームチャットから抜ける。
いやー、本当によかったよかった。
さてと、次は誰を呼びに行こうかな。
「まだ時間かかりそうだから、次のゲスト呼びに行ってきますね」
「はいはい」
俺は次のゲストを呼びに行く前に、天我先輩のチャットを探す。
あったあった。これだ。
「天我先輩、生きてますか?」
「こ、後輩〜!」
えっ? 道に迷ってる? ま、またですか……?
【あくあ君、迎えに行ってあげて〜】
【このままじゃ、天我先輩の三夜連続ソロキャンプ配信が始まってしまう!】
【↑それはそれでありw】
【↑むしろ見たいすらある】
【あくあ君、やっぱりなし。天我先輩は放置してて】
【うんうん、そのままで】
みんな、どっち!?
俺はとりあえず天我先輩にどの辺にいるかを確認する。
「あー……ちょうど反対側ですね。ちょっと待ってくださいよ」
俺は天我先輩のチャットを抜けると、とあのチャットに入る。
「とあ、どの辺にいるの?」
「あくあ、いきなり入ってきてそれじゃあわからないよ。最初からちゃんと説明して」
確かにそうだな。
俺はとあに事情を説明する。
「あぁ、それなら僕のチームが近いから様子見に行ってみるよ」
「おう、頼むわ」
とあのチャットを抜けた俺はもう一度天我先輩のチャットに入る。
「というわけで、とあのチームが様子を見に来てくれるらしいです」
「うむ! ありがとな、後輩!」
天我先輩のゲーム内ソロキャンプ配信もそれはそれで面白いだろうけど、やっぱりこういう企画だしみんなと遊んでほしい。リスナーはソロ配信でも楽しんでくれると思うけど、プレーしてる天我先輩はみんなとわいわいやった方が楽しいと思ったからだ。
【あくあ君、ありがとう】
【うんうん、天我先輩のソロ配信も面白いけど、みんなと遊んでる方が天我先輩も楽しいだろうしね】
【天我先輩、めっちゃ嬉しそうだった】
【とあちゃん、ついでに天我先輩の側で同じく道に迷ってる丸男君も回収してあげて】
【↑山田君も道に迷ってるんだ……】
【2人も迷うなんて迷いの森か!?】
【↑いいえ、2人が迷子属性なだけです】
【丸男君発見からの孔雀君のやれやれ聞かせて】
えっ? 丸男も迷子になってんの!?
まぁ、とあ達に任せておけば大丈夫か。
俺は残るBERYLの1人、慎太郎のチームチャットに入る。
「慎太郎〜、いるか〜!」
「あ、あくあ!? い、いいところに来てくれた」
ん? どうした、慎太郎。
いつも冷静なお前が今日はなんか声からして様子がおかしくないか?
「とりあえずチームチャット2に来てくれ。待たせると小雛先輩がうるさいんだよ」
「あ、ああ、わかった」
さっきからメッセージで、まだー? って催促してきてるんだよな。
俺は慎太郎を連れて自分のチャットに戻る。
「というわけで慎太郎、どうした?」
「いや、それがだな……」
うんうん、淡島さんと楽しくやってたら睦夜さんとゆうちゃんがやってきたんだよな。
そこまでは俺もコメント欄で知ってるぞ。
でも、それがどうしたんだ?
「ぼ、僕が悪いんだ……考えなしに睦夜さんとゆうちゃんをチームに入れたら、千霧さんが急にそっけなくなって……」
ああ、なるほど。そういう事か。
察しの良い俺はすぐに納得した。
「慎太郎、そういう時はだな……」
「な、何かいい手があるのか!?」
珍しく前のめりになった慎太郎が俺の言葉に食いつく。
任せろよ親友。何のために経験豊富な俺がお前の側にいると思ってるんだよ。
「キスするんだ」
「き、キスぅ!?」
うちのカノンなんて大体これでどうにかなる。
いいか、男にはキスって最大の武器があるんだから、いちいち繕った言葉なんていらねぇんだ。
【メアリー:さすがです。あくあ様!!】
【言葉よりキス。あくあ様はメスの事がよくわかってらっしゃる】
【やっぱり言葉より行動なんよな】
【あくあ様の場合有言実行というか、有言の前に実行してるからな】
【↑そのせいで大惨事になる事もあるけど、細かい事はしゃーないしゃーない!】
【猫山とあ:↑そうやってみんながあくあを甘やかすのが良くないんだよ】
【↑とあちゃん正論wwwww】
【とあちゃんwww】
【ワーカーホリック:あくあ様がされる事を察して事前に動くのが私たちの役目ではないでしょうか?】
【↑ワーカーホリックさんやめて。やる気のあるバカが動いて変なミラクルが起こる未来しか見えないから!】
【↑あるあるwwwww】
【どうしてこうなった。先に言っておく】
【ラーメン捗る:キース! キース!】
【羽生治世子:キース! キース!】
俺もさっきカノンとキスしたばかりだけど、キスの話をしてたらまたしたくなったな。
これから三日間、カノンとキスできない可能性だってあるのに、俺はその間ずっと耐えられるのだろうか。
俺は試しに同じチームの小雛先輩にメッセージを送る。
[白銀あくあ:小雛先輩、三日間カノンとキスできないんで、代わりにキスしてもいいですか!?]
[小雛ゆかり:寝言は寝て言え、馬鹿!!]
[小雛ゆかりさんがあなたをブロックしました]
いくら何でもブロックしなくていいでしょ。
[小雛ゆかりさんがあなたのブロックを解除しました]
[小雛ゆかり:……優勝したらキスしてあげなくもないわよ]
[小雛ゆかりさんがあなたをブロックしました]
いやいや、それ言うためにブロックわざわざ解除したの!?
ていうか一旦解除したなら、もうブロック解除したままでいいじゃないかな。
あと、俺のアカウントをブロックするのはいいけど、小雛先輩は朝1人で起きれるんですか?
[小雛ゆかりさんがあなたのブロックを解除しました]
あっ、その事を思い出した小雛先輩が俺のブロックを何もなかったかのように解除した。
一瞬だけ、可愛いかよって思ったのは小雛先輩には一生内緒にしておこう。
「黛君、このバカのアドバイスは当てにしない方がいいわよ」
「そ、そうなんですか?」
おい、慎太郎。小雛先輩のアドバイスなんかまともに聞いちゃダメだ!
俺のアドバイス通り、今から淡島さんの家に行ってキスをしろ!!
「そもそもあいつは言葉が足りなさすぎるのよ。黛君だってなんで淡島さんの様子がおかしいのかわかってないでしょ?」
「あ、ああ、はい……」
俺たちが話していると、インコさんと美洲お母さんも会話に混ざってくる。
「多分、淡島さんは黛君と2人きりでやろうと思ってたから、2人きりの時間がなくなって悲しんでるだけやで」
「うん、私もそう思う」
「な、なるほど……」
そう、だから俺はキスをしろと慎太郎にアドバイスした。
でも、慎太郎には淡島さんが拗ねてる理由がそもそもわかってなかったから、そこから説明しなきゃいけなかったんだな。
【乙女ゲームマスター鞘無インコのアドバイス助かります!!】
【うんうん、絶対に拗ねてるだけだよね】
【インコ……成長したな!】
【小雛ゆかりありがとう】
【あくあ様の通訳して小雛ゆかりは必要】
【ラーメン捗る:キース! キース!】
【羽生治世子:キース! キース!】
【↑このキスBOTの荒らし達どうにかして】
インコさんが軽く咳払いをする。
「だからな。黛君、ハグしてやり。ハグは……ええよ」
「大会中だし、そこは電話で良くない? 2人だけで話すだけでもだいぶ違うでしょ」
あ、あの小雛先輩が、女の子らしい恋愛トークをしてる……だと……?
キャパオーバーした俺の脳みそがフリーズしてしまいそうだ。
「わ……私はあくあ君の言う通りキスがいいと思うけどな……」
「「えっ?」」
「……美洲、あんた、マジで言ってる?」
配信画面に映った美洲お母さんは無言で頷く。
「だ、だって、私もまりんちゃんが拗ねちゃった時、無言でキスするし。ハグとか電話よりそっちの方が良くない?」
ま、マジかよ……。
俺の目の前でそんな事をしているの見た事なかったから初めて知ったわ。
「なるほど……あんたがあくあの母親だって言うのがよくわかったわ」
「それな、ゆかり」
ちょっとぉ!?
2人は何でそんなジト目で俺を見つめてくるんですか!?
【あっ、なるほど】
【あくあ君が無自覚天然たらしなのは美洲様の遺伝だと思うんですよ】
【雪白家あるある】
【黒蝶揚羽:雪白はそういうところあると思います!】
【↑揚羽さんwwwww】
【揚羽さんもゲーム参加してるんだっけ?】
【↑してるよ。だって総理が暴走したら止められるのは揚羽さんだけだし】
【揚羽さんがコメ欄に現れた途端、秒で羽生総理が消えてて笑ったw】
【そうか、美洲様の遺伝なのかw】
【メアリー:今、誰が犯人なのか分かりましたね】
【↑草wwwww】
【美洲様ちゃんとあくあ様と親子やったんやなぁって】
【美洲様は学生の時に初めて恋愛したまりんさんに在学中に手を出してるんだから、相当早い方だと思うよ。この手の速さと、落とすまでのスピード感は完全にあくあ様でしょw】
【ラーメン捗る:↑完全に納得した!!】
【白銀まりん:やだ。ミクちゃんったらあくあちゃんにバラさないでよ。恥ずかしいでしょ。きゃっ!】
【白銀らぴす:……】
【白銀しとり:↑らぴす、お姉ちゃんが後で話聞いてあげるからね】
【らぴすちゃんがんがれw】
【美洲様のせいで白銀家に大事故起きてて草w】
【↑なるほど、あくあ様が周りを全部巻き込んで木っ端微塵にするのは遺伝だったのか】
【↑草wwww】
【ラーメン捗る:つまり雪白が全面的に悪いってことでつね!?】
【乙女の嗜み:↑ふーーーーーーーーーーん、納得した】
【点と点が線で繋がっていってるの草www】
【嗜みお前ここにいてええんか?】
だからみんなコメ欄が早すぎて見えないって!
っと、運営からのお知らせ来てたわ。
「みんな聞いて。運営からメッセージ来てる。えっと、今からサーバー再起動するから、1時間後に再開するんだって」
「了解。そういうわけだから、黛君。あんまりこの人たちのアドバイスを気にしちゃダメよ」
小雛先輩、この人達って誰の事ですか?
「せやで。1時間あるならゆっくり電話できるやろ」
「えっ? 1時間あるならキスした方が早くない?」
俺は美洲お母さんの言葉に無言で頷く。
「わ、分かりました。アドバイス感謝します!」
あっ、俺が最後にキスをした後の事を伝える前に慎太郎がチャットから抜けていった。
仕方ない。携帯に直接メッセージで送っておくか。
【白銀カノン:今、なんか未然に大きな事故が防げた気がする】
【↑急にどうした?】
【1時間後か……それまでお風呂入ってきます!】
【↑おい、変なフラグを立てるのはやめろ!】
さてと、俺もこの1時間を使って、カノンにキスしに行こうかな! さっきしそびれたし!!
俺は一旦配信をストップすると、自分の部屋を出てカノンの部屋へと向かった。
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