小雛ゆかり、近隣住民は選べない。
あくあと分かれた私は道端の岩をツルハシで砕いて石の材料を採取していく。
「ふぅ、だいぶ採取したわね」
もう飽きてきたし、これだけ集めれば大丈夫でしょ。
私はアイテムボックスを確認する。
【悲報、小雛ゆかりさん、5分で採取を飽きる】
【建物も作れない上にファームもできないとか】
【リーダーがお荷物のチームはここですか?】
【せっかくインコが建築頑張ってるんだからお前も頑張れ】
【あくあ君はおしゃべりしながら着々と木材を採取しているというのに……】
【↑あくあ様は単純作業とか結構好きだよな。とあちゃんとゲームしてる時もずっとリスナーとおしゃべりしながら採取してたし】
あー、もう!!
なんで私のコメント欄はこんな奴らしかこないのよ!!
それこそあくあの配信なんて、さっき見たら木を一本伐採しただけでも「えらいね」「頑張ってね」「すごいね」ってコメントで溢れかえっているのに、私のコメ欄なんて「自然破壊ですか?」「環境保護団体からやってきました」「道具の使い方がなってない」とか、碌でもないコメントばっかりじゃない! もう!!
どうせなら「5分間もファームできるなんて、小雛ゆかりさんはさすがです!」とか、「小雛ゆかり様、後の面倒なファームはあくぽんたんに押し付けましょう!」とか、もうちょっと私に気を遣ったコメントをしなさいよ!
「うっさいわね! 退屈なのが悪いんじゃない!! それよりも私はリーダーなんだから、他にやらなきゃいけない事があるの!!」
私はツルハシを片付けると、少し離れた場所へと歩き出す。
【あっ、サボりですか?】
【リーダーの仕事→サボり】
【あくあくーん! ここにサボってる人がいぁす!】
【あくあ君、こうなる事を先読みしてツルハシ作って岩も採取してるのウケる】
【↑さすがです。あくあ様!!】
【あくたんは、小雛ゆかりの事をよくわかってる】
【↑ちょっと待って。それはそれでなんかお互いの事をわかってる夫婦みたいでなんか腹たつ!】
えっ? あいつ私の代わりに岩も採取してるの!?
やるじゃん。これはきっと、日頃から私が教育してきた賜物ってやつね。
そうと気まれば話は早い。
「よし! 採取はあいつに任せて、私は周囲を探索するわ!」
私は少し距離を伸ばして周囲の偵察をする。
自分たちの拠点の近くに他のチームが拠点を建てるとすごく厄介だからだ。
私が探索を始めて数十秒後、結構重要な場所に誰かの建物がある事が気がつく。
【誰の建物だろう?】
【藁小屋じゃないって事は、小雛ゆかりよりゲーム上手いぞ!】
【ここ、結構近いしレイドされた時はヤバいかも】
【レイドってなんですか?】
【↑襲撃されるって事】
【ここ、素材の収集ポイントの通り道だから建物あると厄介だな】
【おい、バカ。素材持ってるのに堂々と近づいていくな! 奪われるぞ!!】
【せめて集めた素材を一旦拠点に置いてからいけ!】
は? なんで戻らなきゃいけないのよ。面倒臭い!
私は誰かの拠点にズンズンと近づいていくと、オープンチャットで声をかける。
『ここにいるの誰よ! 邪魔だからさっさとどっかに引っ越しなさいよね!!』
私が声をかけても反応がないので、再びツルハシを手に持って入り口のシャッターをガンガンと叩く。
【引越し強要とかこっわ……】
【さっさと引越ししなさいよってか?】
【引越し強要女優きたー!】
【三三七拍子で引越し強要するなw】
【素材ありがとうございます!】
はぁはぁ、はぁはぁ……ちょっと! このシャッター、固くて全然壊れないじゃないの!!
私がツルハシでシャッターを叩いていると、中の住民らしき人物の声が聞こえてきた。
『だ、誰でつか……!?』
ん? この声……誰?
私はシャッターをツルハシで叩くのを止める。
『私よ。小雛ゆかりよ! さっさとここを開けなさい!!』
『は、はいぃ! 今すぐに!』
あら、物分かりがいいじゃない。
待つこと数十秒、目の前にあるシャッターがゆっくりと開いていく。
【捗るキター!】
【捗るじゃねぇかw】
【捗るこんな声してんのか】
【小雛ゆかりにげろ!】
【そいつをあくあ様に近づけるな!】
【いや、むしろあくあ君と近づけろ!!】
【捗るチャンスきたぞ。どさくさに紛れてあくあ様とゲーム内でいいことして責任とってもらえ!】
捗るって確かえみりちゃんよね。
ははーん、なるほど、そういう事か。
なんで声を変えてるのかと思ったけど、正体がバレたくなくて声を変えてるわけね。
『はわわわわ、降伏しまーす』
えみりちゃんは両手を挙げて自分の家から出てくる。
ふーん、自分から降伏するなんて殊勝じゃない。
本当は倒してコインを奪おうかと思ったけど、あんたの潔さに免じてやめてあげるわ。
『だから、私も小雛ゆかり軍団に入れてくだつぁい!』
えー? どうしようかな……。
前にカノンさんから、えみりちゃんはあくあに近づけてもいいけど、捗るだけはあくあに近づけないでってお願いされているんだよね。
【いいぞ。捗る!!】
【お前もあくあ様とお近づきになるんだ!!】
【うおおおおおお!】
【ついに全掲示板民が夢見たあくあ様と捗るの邂逅ががががが!】
【いけー! 捗る、行けーっ!】
【頼む! 小雛ゆかり、私達にあくあ様と捗るの絡みを見せてくれ!】
【小雛ゆかり、いや、小雛ゆかり様、おなしゃす!!】
【ラーメン捗る:おなしゃす!!】
【↑おいw】
【コメ欄にも湧いてくるなw】
【捗る、それはゴースティング行為だぞ】
【↑この大会はゴースティング行為、相手の配信画面見るのも自由だから】
う〜ん、う〜ん、う〜ん。どうしよっかなー。
えみりちゃんは1人だし、ぼっちはつまらないだろうから入れてあげたいけど、カノンさんにも嫌われたくないのよね……。
私は苦肉の策で思いついた事をえみりちゃんに提案する。
『わかった。それじゃあチームに入れないけど、捗るチームはうちの同盟だから。この意味……察しのいいあんたならわかるわよね?』
『は、はいぃ。小雛ゆかりさんの代わりに素材採取しておきますぅ……』
よろしい。
チームには入れないけど、これでえみりちゃんもゲームを楽しめるでしょ。
えみりちゃんの時ならまだしも、捗るだとチームを組める人も限られてるだろうしね。
【小雛ゆかりのケチー】
【そういえばこの2人って一緒にゲームやってたんだっけか】
【この対応は正解。いくらあくあ様とはいえ、捗るにはワンクッション入れないと】
【最初はダメかと思ったけど、このチームワンチャンあるな】
【↑小雛ゆかりがポンコツでも、ゲームの上手いあくあ様、インコ、捗るが合流したのはでかい】
【↑森川の事を忘れてんぞ!】
【↑あいつはダメだ。カノン・姐さんチームに捕まって檻の中に閉じ込められてる】
【森川せっかくあくあ君と一緒にゲームできるはずだったのに、カノン様チームと取り合いになってるじゃん】
【↑森川が配信で真顔になりながらついに私にもモテ期がきたかって言ってたよ】
【↑草wwwww】
【森川的にはどっちのチームでもOKだろ】
私はえみりちゃんからいくつかの上納された素材を受け取る。
ふーん、スクラップたくさん持ってるじゃん。これは使えるわね。
『それじゃあ、また1時間後に様子見に来るから。あっ、それまでに硫黄1000よろしくね』
『はいぃっ! 次来るまでに3000集めときまぁす!!』
よしっ! 私がファームしなくてもえみりちゃんが代わりに素材採取してくれるから、これで私のファーム問題は解決したのも同然ね!
【こ、こいつwww】
【なるほど、これが1000時間プレイしてるプレイヤーの攻略方法かぁ】
【↑実際、自分で素材集めるより誰かから奪った方が早いからなあ】
【もう小雛ゆかりの仕事、これでよくね?】
【↑ある。カノン様と姐さんのチームに勝とうと思ったら、これくらいやんなきゃ】
【小雛ゆかりは交渉とか指揮にはたけてるからこれでいいんだよ感】
【↑こいつの場合、交渉じゃなくて恐喝なw】
【まぁ、捗るが同盟に入れて良かったよ。このゲーム、1人だとできる事が限られてるし】
【↑わかる。どのみち捗るを拾えるのはカノン様・姐さんチームか、一緒にゲームやってた事があるメアリー様・羽生総理チームか小雛ゆかりの居るここしかなかった】
私はえみりちゃんから上納されたアイテムを拠点に持ち帰るために来た道を帰る。
途中で死んだらアイテムを奪われたりロストするかもしれないから慎重に行かなきゃね。
そんな事を考えていると、誰かの放った矢が私の操作するキャラの髪の毛を掠める。
「ちょっと! 危ないじゃない! 隠れたところからコソコソ撃ってないで出てきなさいよ!!」
私は矢が撃たれた方向に向かって威嚇する。
すると見覚えのある人影が私の目の前に現れた。
「あっ、すみません。クマと小雛先輩を間違いました」
「って、あんたじゃない!」
私は茂みから出てきたあくあの姿を見てほっと胸を撫で下ろす。
もう! あと少しで同士討ちするところだったじゃないの!!
これは後でちゃんとなんらかの合図を決めておかなきゃダメね。
【チッ!】
【あくあ君、惜しい!】
【次は確実に仕留めましょう!!】
【あくあ様、野生の小熊ゆかりです、逃げてください!】
【朗報、インコ、使える】
【↑さっきインコの配信見たけど、ちゃんとした拠点になってて安心した】
【インコ、この1週間ずっと練習してたからなぁ】
【もう、拠点の中央にタワー完成させてるじゃん。インコ有能】
【藁作りの豆腐小屋立てるのに15分以上かかった小雛ゆかりとは】
あくあと合流した私は、2人で拠点に帰る。
ふーん。私が建ててたのよりちょっとだけ良くなってるわね。
「インコさん、拠点ありがとうございます。素材、ここにおいときますね」
「ありがとう、あくあ君。それにゆかりもたくさん取って帰ってくれたんやな」
まぁ、私が集めた素材じゃなくてえみりちゃんが集めた素材だけどね。
ああ、そういえばその事も話しておかなきゃ行けないんだった。
私は2人にえみりちゃん、ラーメン捗るを同盟に加えた事を伝える。
「ラーメン捗る!? それ、ほんまに大丈夫かいな!?」
「捗る……って人、なんかよくうちのコメ欄でBANになってる人じゃなかったっけ……」
心なしか2人の操作しているキャラの顔が不安そうに見えた。
大丈夫だって。別にチームに加えたわけじゃないんだし、なんかあったら同盟破棄すればいいじゃん。
【あくあ君が警戒してるwww】
【これは当然の反応wwwww】
【あの警戒心が薄い事に定評のあるあくあ様が警戒しているだと!?】
【捗るお前すげえよ……】
【朗報、あくあ様、コメ欄でよくBANされる捗るを認知していた】
【↑こーれ、掲示板民だけが盛り上がってます】
私はアイテムを拠点に預けると、ファームや建築はみんなに任せて少し遠出して周辺をパトロールする。
またうちの近くに変な拠点を建てようとしてる奴らがいたら、さっきみたいに奴……同盟にするためだ。
「うーん、ここら辺は誰もいないみたいね」
私は左下に流れるログへと視線を向ける。
うわっ、どこでやってるか知らないけど大量にキルログ出てるじゃない。
さっきも琴乃さんのログが出てたけど、そっちでは何が起こってるのよ。
【姐さんもう10キルしてるやん】
【姐さんとメアリー様やばすぎ。目についたやつどんどん狩ってるw】
【カノン様が大人しいなと思ったら、建築してるからか】
【なんかみんな近くに固まってるな】
【あれ? このチームの拠点だけなんか孤立してない?】
【↑みんなあくあ様とはお近づきになりたいけど、それ以上に小雛ゆかりとはお近づきになりたくないんだよ】
【前門の捗る、後門の小雛ゆかりが怖くて誰も近付いてこれないんだよ】
【↑それなw】
【小雛ゆかり、拠点の建築はへっぽこだけど、守りは完璧やなw】
【メアリー様がさっきから破壊してる拠点がフューリア様の建ててる拠点な件について】
【↑終わったw】
【スターズなもなも】
うーん、どうやらこの辺には誰もいないみたいだし、一旦拠点に帰るか。
あくあが頑張って素材を集めてるみたいだから、そろそろ武器とか装備も潤ってる事でしょ。
私は自分の拠点に帰ると、道すがら集めていった素材を箱の中に入れる。
コメント欄のみんなは私が何もしてないみたいに言ってるけど、こうやってアイテム拾うのも後々役に立つ事なんだからね。ふん!
「あれ? あくあは?」
「さっき帰ってきて装備渡したら、ちょっと遠出してくるって言ってたで」
ふーん。私もインコから装備をもらったら、ログが流れていたあたりに行ってみようかしら。
そんな事を考えていると、大きな音とともに画面が大きく揺れた。
なになに!? 誰が襲撃してきたのよ!!
私とインコは拠点の隙間から攻撃があった方向へと顔を出す。
『あくあ君を返せー!』
『あくあ様を返せー!』
ちょっと、何よナニなに!?
手にロケットランチャーを持った2人がこっちに向かってまっすぐ突っ込んでくる。
『あくあ君を、返せー!!』
『あくあ様を、返せー!!』
いや、ロケットランチャーを持ってるのは1人だ。
もう1人はモノクロ画像のあくあの写真がプリントされた大きな旗を振っている。
『あくあ君は生きとるで!? って、ちゃう! お前、なんでその写真セレクトしたんや! 夏の甲子園で見る遺影みたいやないか! 勝手にあくあ君を殺すな!』
って、よく見たら全力で旗を振っているのってえみりちゃんじゃない!
あいつ、せっかく私が奴……同盟に入れてあげたのに裏切ったわね!!
【あかん、腹よじれるw】
【捗る、秒で裏切ってて草w】
【捗る。いいゾ〜!】
【って、捗ると誰かと思ったら美洲様!?】
【美洲様VS小雛ゆかりのママ王決定戦キター!】
【なんで捗ると美洲様が一緒にいるんだよw】
【捗る行くわ】
【↑クソ残念な事に捗るは配信してないんだよ】
【↑捗るの配信は見れないけど、美洲様の配信見たらあっちの状況がわかるぞ】
【↑天才か】
【美洲様ゲームうまくないし、ロケラン作って渡したの絶対に捗るでしょw】
【あいつもうこの短期間でロケラン作ったのか。すげーな】
【↑このゲーム1000時間してますから】
【↑無自覚にうちのチームのリーダーを煽るのやめてもらっていいですか?】
【同じ1000時間プレイヤーでもこの差ですよ】
ぎゃーーーーーっ!
2発目のロケットランチャーの当たった建物が大きく揺れる。
「ちょっと、インコ。早くどうにかしなさいよ」
「どうにかしろって言っても、さっきゆかりに渡した銃と弾が最後やねん!」
仕方ないわね。それなら私がやるわよ!!
私は建物の隙間から銃で2人を狙う。
『あくあ様を返せー! ママの座を返せー!』
とりあえずあの旗振ってる五月蝿いのから倒しておこっと。
私は最初にえみりちゃんを倒す。
ふぅ、これで静かになったわね。
『あくあ様を返せー! 嫁じゃないのに一番いちゃつくなー!』
生身のえみりちゃんがすぐに戦場に復帰してくる。
そうだった。こいつの拠点ってば、うちに近かったんだわ。もう、もう!
【嫁じゃないのに一番イチャついてる?】
【そういえばこいつ白銀キングダムに潜伏してるんだった】
【捗るいいぞ。そのまま小雛ゆかりを倒してあくあ君をこのチームから解放するんだ!】
【ふーん、捗るって有能じゃん】
【ここにきて捗る再評価路線キター!】
【そうだそうだ! 捗る、もっと言ってやれ!!】
私はもう一度えみりちゃんを倒すと、美洲に銃口を向ける。
『あくあ君を返せー!』
『ふん! そんなにあいつの事が大事なら、あいつが産まれる時に逃げずに立ち向かえばよかったじゃない! あくあを返して欲しかったら私を倒してみなさいよ!』
うぎゃあああああああ!
3発目のロケランが当たってその衝撃で私のキャラが倒れる。
しまった。いつもの癖で煽っちゃったけど、普通に銃を撃てばよかったと後悔する。
『……確かに君の言う通りだ。あの時、私はあくあ君やまりんちゃんのためと言いながら、結局は私自身が華族に立ち向かうだけの勇気も覚悟もなかった事にしか過ぎない』
美洲は手に持っていたロケットランチャーを放り捨てる。
『小雛ゆかり……お願いがある。私とタイマンしてくれ』
『……ふん! いいじゃない。その話、乗ったわ! 銃なんかよりよっぽどいいわ』
私も銃を放り捨てると拠点から出ていく。
インコ、私が負けた時はごめんね。
【タイマンきたー!】
【世界、見てるかー? 銃とかロケランとかそんなもんに意味なんかねぇんだよ】
【結局最後は拳と拳のタイマンですよ】
【やはりパワーだな。byパワー教信者】
【銃が効かないのはあくあ様で証明済】
【そもそもあくあ様クラスになると、ロケランですら素手で受け止めるんじゃないかなって思い始めてる私がいる】
【↑わかるw】
【↑さすがにないけど、あくあ様ならありそうwww】
【世界で一番平和な対話式解決方法→拳によるタイマン】
【もうこれからなんかあったら現実世界も国家主席のタイマンで決着つけよう。言葉なんてなくてもいい】
【↑羽生総理に勝てるやつ、誰もいない説】
【↑何なら羽生総理が衰えても、森川、あくあ君、イリアが控えてる】
装備を全て脱ぎ捨てた私は同じく何も装備していない美洲と向き合う。
って、なんでえみりちゃんまで装備全部外してるのよ。
別にあんたが戦うわけじゃないんだから、あんたの操作してるキャラが全裸になる必要なんてないじゃない!
いや、今はそんなどうでもいい事を気にしてる場合じゃないわね。
私は美洲と向き合うと、えみりちゃんの合図で原始的な戦いを始める。
【いけ、美洲様!】
【美洲様、がんばれ!!】
【あくあ様を取り戻してください。美洲様!!】
【美洲様がんばえー!】
【がんがれ美洲様!!】
【悲報、小雛ゆかりさんのコメント欄。誰も小雛ゆかりさんを応援してない】
【↑草wwwww】
【白銀まりん:小雛ゆかりさん頑張って】
【↑私の将来のお義母様!?】
【まりんさん、まさかの小雛ゆかり応援!?】
【まりんさん的には1人で子育てしたり会社も切り盛りして苦労したであろう事を考えたら、気持ち的にはわからなくないかな。表向きはもちろんもう解決してるんだろうけど、それとこれとは別ってことで】
【↑確かに】
【そう考えると、美洲様がいない時にあくあ君に変な虫がつかないように面倒を見た小雛ゆかりだけは、美洲様に1発くれてやる事が許されるわけか。納得した】
【↑わかりやすい説明ありがとう】
【小雛ゆかりがんばれ!】
【小雛ゆかり、今日だけは勝っていいぞ!】
【流れ、変わったな】
【あっ!】
【勝った。小雛ゆかりが勝ったぞ!】
【うおおおおおおおおおおおお!】
はぁはぁ、はぁはぁ。
やば、美洲なんてほとんどゲームしないのに、かなりギリギリだったわ。
それでも私はカメラに向かって余裕たっぷりの顔を見せる。
【ドヤ顔してるけど、さっき普通に負けかけたぞwww】
【このゲームを1000時間もプレイしているのに、ゲーム自体が得意じゃない美洲様と大接戦を繰り広げる小雛ゆかりさん】
【本当に勝ってよかったな】
【美洲様、最後はわざと攻撃外してたぞ……】
【↑あえて負けるためにタイマン仕掛けてきた相手に気を使わせるのなんて小雛ゆかりにしかできないよ】
【いやー、よかったよかった】
【まさかのあくあ君を返せの流れからこうなるとは思ってもいなかったw】
【2人ともよく戦ったよ】
私はリスポーン、復活して戻ってきた美洲の操作するキャラと固い握手をする。
『ありがとう、小雛ゆかり。これで何かが償えたとは思えないけど少しはスッキリしたよ』
『ふん。また、殴られたくなったらきなさいよ。でも、そこまで深く考えなくてもいいんじゃない。私は別にあんたの選択も間違ってないと思うわよ。私も……その、家から逃げたしね』
最近になって、あの鈍感ばか。あくあのおかげで和解できたけど、華族という立場から逃げ出していたのは私も同じだ。
だから、美洲がそういう選択をした事に対して私がとやかくいう筋合いはない。
さっきの煽りだって、あくあの気持ちを考えて代わりに言えない事を言ってあげただけだしね。
『小雛ゆかり……』
な、何よ。そんな顔でこっちみないでよ!
居た堪れなくなった私は美洲の操作するキャラから顔を逸らす。
『それと……返すも何も、あんたも同じチームに入ればいいじゃない。何、遠慮してんのよ』
私はカメラにそっぽを向いたまま美洲をチームに招待する。
【ツンデレきたーーーーー!】
【おっ、おっ、おっ、小雛ゆかりさん、ツンデレ発動ですか!?】
【まさか小雛ゆかりのデレを見る事になるなんてな】
【こいつ、キャラだけじゃなくてリアルでも顔を背けてやがるwww】
【泣いた】
【小雛ゆかり、お前、成長したんだな……!!】
【あくあ君が言ってたよ。男ならママは何人いてもいいって】
【↑流石です。あくあ様!】
【私も前にあくあ君が配信の途中で寝落ちした時に「この世の女子全員が俺のママだと!? ウッヒョー!」って寝言で言ってのを聞きました!】
【↑流石です!! あくあ様!!】
【結論、やっぱり、あくあ様なんだわ】
【あくあ様の全女子ママ認定のおかげで、この世からはもうママの派閥争いは無くなったんだよ】
左下のログの下にあるチーム一覧に美洲の名前が追加される。
一瞬、私の人望が無さすぎて断られたらどうしようって思ったけど、素直に入ってくれた事で私は胸を撫で下ろす。
「小雛ゆかり、あり……」
「ちょっと! 先に言っておくけど、こんな事でお礼なんて言わないでよね!!」
こ、これはそういうのじゃないんだから!!
私はこっちを向いてるカメラをキッとした視線で睨みつける。
【こっわw】
【照れ隠しですかーw?】
【小雛ゆかり、今更そんな事しても無駄だぞ】
【んだんだ。お前のデレはもうバレてるからな!】
【ラーメン捗る:2828】
【↑あっ】
【小雛ゆかり、捗るさっさと捕まえて】
【美洲様、元凶はこの状況を唆した捗るです!!】
【ばっか。捗るはコメント欄で遊んでないで早く逃げろ!】
おっと、そうだった。裏切り者の処分が“まだ”だったわね!!
私は後ろを向いて逃げようとするえみりちゃんの首根っこを掴む。
『ぐぇっ!?』
私は狼狽える美洲の前でえみりちゃんに正座させる。
『あんた、今、裏切ってたわよね?』
『いやー、えへへ。た、只の冗談とノリじゃないっすかー。それよりも、ほら』
何よその手は?
何かくれるならさっさと出しなさいよ!!
『えっ? あ、あのー……私をチームに招待するとかは……?』
『はあ!? なんで同盟を裏切ったあんたを招待しなきゃいけないのよ! このまま手錠つけて三日間、檻の中で生活させたいいのよ。こっちは!』
私の言葉を聞いたえみりちゃんの操作するキャラは絶望した顔をする。
ちょっと、そんなに絶望しなくたっていいじゃない。そ、そもそも、裏切ったあんたが悪いんだし……って、美洲やインコまでそんな縋るような目でこっちみないでよ!
『あー! もう、わかったわよ! 裏切ったから、チームへの招待はまだできないけど、もう一回だけ同盟としてチャンスをあげるわ。もう2度と裏切るんじゃないわよ』
『あ、ありがとうございますぅ〜!』
ちょっと!
私のキャラにしがみついてこないでよ。もう!
【よかったなぁ〜】
【捗る、次こそ真面目にやるんだぞ!】
【そうだそうだ!】
【お前ら、最初に捗るが突っ込んできた時、手を叩いて喜んでたのに手のひらくるくるするの早すぎだろw】
【草wwwww】
って、あれ? なんか心なしか重くなってない?
私の操作するキャラがゆっくりと動く。
『あれ、なんか重くないですか?』
「うちもや」
「わ、私も……」
どうやら私だけじゃないようね。
「小雛せんぱーい! 聞こえてますかー?」
「はいはい、聞こえてるわよ」
どうやら私だけじゃなくて素材を採取してるあくあも重いらしい。
私は確認のために配信は切らずに画面だけ消して参加者が全員参加してる運営チャットを覗く。
ふーん、どうやら私達だけじゃなくて、全員同じ症状が出てるみたいね。
【悲報、鯖ちゃんNPCにリスキルされまくってオーバーヒート中】
【↑草wwwww】
【おい、サーバーの癖に何やってんねんwww】
【鯖ちゃん、船、降りろ】
【サーバーが重い原因がサーバーにあるなんて前代未聞だぞw】
【サーバーなのにカリカリに焼けてて草】
【おーい、誰か鯖ちゃんのところにタライに入った氷柱を持って行ってー】
どうやら、サーバーになんかあったみたいね。
せっかくいいところだったのに、復旧までどれくらい時間がかかるんだろう。
「ねぇ、この場合どうなるの?」
「とりあえず運営の対応待ちですね。カノンも忙しそうだし……小雛先輩、待ってるだけだと見てる人達も退屈だろうし、一緒に突発ラジオやりませんか? 俺が知ってる人なら直接向こうのチャット行って呼び出してきますよ」
ふーん、面白そうじゃない。
それにカノンさんも大変そうだし、あんたがそういうなら協力してあげない事はないわよ。
「いいわよ。で、最初のゲストは誰を呼ぶの」
「そうですね。それじゃあ、最初のゲストは……」
私はあくあの言葉を聞いてニヤリと笑った。
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