白銀あくあ、絶望のくじ引き。
愛媛で行われた3日間のライブは大成功に終わった。
しかし、愛媛から無事に帰宅して数日後、看過できない程の重大かつ最大のトラブルが俺を待ち受けていたのである。
「あくあ様! ついにカノポンジュースが本人にバレて5分くらい口聞かないって言ってました!!」
「よしっ! 5分なら今回もハグしてる間に終わるな!」
覚悟の決まってる俺はつーんと顔を背けたカノンに近づくと5分間、ぎゅーっと無言で抱きしめた。
「あくあのばかぁ」
ハグから解放したカノンは潤んだ瞳で俺の体にギュッと抱きつく。
ふっ、さすがはカノンだ。
前回の10分だったか15分だったかも我慢できないのに、5分に縮めたからと言って我慢ができるはずない。
だって、前回も今回もハグし始めて5秒くらいでもう陥落してるもん。
カノン、悪いことは言わないから10秒にしなさい。そこがカノンの耐えられる限界値だと俺は思うぞ。
「はい、みなさん。これが白銀家名物、お嬢様のハグ強請りです。みなさんも旦那様にハグを強請る時はこうしましょう」
「ペゴニア!?」
バスガイドのお姉さんの格好をしたペゴニアさんが手にフラッグを持ってみんなに解説する。
あれ? みんないつからいたの? えっ? 最初から? てへっ! ごめんな、カノン。
「なるほど、こうやってハグを強請るわけなんですね。カノンさん、勉強になります」
「ふふっ、さすがは私の妹ね。白銀あくあを手玉に取るなんて魔性の女と呼ばれても仕方がないわ」
「姉様すごい。ハーは姉様に憧れます」
「さすがはカノンちゃんね! あくあちゃんの弄び方がよくわかってるわ」
琴乃、ヴィクトリア様、ハーちゃん、母さんの4人にニヤニヤした顔で見られたカノンは顔を真っ赤にする。
「ペゴニアのばかー! ついでにえみり先輩のばかー!」
「ちょ!? 私も!?」
羞恥心の限界を超えて自分の部屋に退散しようとするカノンと、なぜか巻き込まれて焦るえみりを見てみんなが笑顔になる。
「さすがはお嬢様です。こうすると後で旦那様が追いかけてきてくれてお部屋で2人きりになれます。密室で2人きりになった男女がする事は一つしかありません。みなさん、お分かりでしょうか? これが愛され系お嬢様の巧妙なやり口、高等な男女の駆け引きなのです!!」
「「「「「な、なんだって〜」」」」」
俺もみんなと一緒になって驚く。
そ、そうだったのか。俺は今までカノンの手中にハメられていたのかと全てに納得する。
しかも、これのすごいところはわかったところで対策ができないという事だ。
何度でも引っかかりたくなる。なるほど、俺の嫁は、カノンは俺を手玉に取る魔性の女だったのかぁ!!
カノンはぴたりと立ち止まると、涙目になってこっちに振り向く。
可愛い。一旦、またハグしてもいいか? 俺は自分からカノンの魔性に引っかかりに行こうとする。
「違うもん! だってこの後用事あるし!! あくあ、この後のイベント忘れないでよね!!」
この後のイベント?
ああ、そうか。そういえば、今日からカノンの仕事復帰を祝ってゲーム大会が開催されるんだった。
俺は慌てて自分の部屋に戻るとすぐに配信をつける。
【きたー!】
【あくあ君、もうみんなスタンバってるよ】
【配信をつけたカノン様の顔が赤かった件について】
【↑こーれ、私達の知らないところでイチャついてます】
【↑もっとやれ!】
【イチャついてたなら配信つけるのが遅くても仕方ないよね】
【ていうか他の奴らが早すぎるんだよ】
【↑6時間前から配信始めてるどこかのぼっちさんをいじめるのはやめてあげて】
えっ? 今日は静かだなって思ってたら、小雛先輩6時間も前から配信してるの?
マジかよ……。小雛先輩、このゲームをやる時はいつもガチだよな。
俺は今回のゲーム大会で使用するゲームを起動する。
[LAST SURVIVOR]
一つの大きな島を舞台にして、いくつかの陣営に分かれて島の覇権を争うゲームだ。
いつでも入れるようにゲームを起動させた俺は、自分の配信画面にカノンの配信画面を映す。
まずはチーム決めだ。
「カノンと同じチームに入れますように!!」
俺は手を合わせて祈る。
せめてダメでもアヤナと同じチームでおなしゃす!!
いや、もうそんな贅沢なんて言わないから、絶対に小雛先輩とだけはやめてください!!
【今回のルールってどうなってるんだっけ?】
【↑いくつかのチームに分かれて倒した人のコインを一番多く持ってるチームが優勝だって】
【↑ただし1人につき1カウント、同じ人を何度も倒したりチーム内の人は倒してもカウントされないってさ】
【チームは全部で10、それぞれのチームリーダーは主催者のカノン様とカノン様が選んだ小雛ゆかり、メアリー様、アヤナちゃん、とあちゃんの4人、それプラス運営招待の淡島さん、フューリア様、加藤イリア、鯖ちゃん、天鳥社長の5人】
【↑姐さん参加するって言ってたけどリーダーじゃないんだ】
【招待参加者/ラーメン捗る ← これ】
【↑流石です。カノン様!!】
【捗るいるの熱すぎだろw】
【カノン様、姐さん、森川、捗る。全員が1チームに揃う世界線があるの熱いなw】
【フューリア様!? よく参加したな……】
【↑ね。ゲームの中でもあくあ様に国を落とされるの可哀想】
【↑おい、やめろw】
【社長!? ちょっと待って、普通にスルーしそうになったけど天鳥社長やるの!?】
【↑しかも今回のイベントはBERYL4人、全員参加です!! カノン様、本当にありがとう!!】
【↑ゲーム内でBERYL結成あるぞ! って思ったけどとあちゃんがリーダー枠だから無理だわ】
【↑同盟もありだからまだわからんよ】
【ばか、待て! しれっとチーターが参加してるぞ!】
【↑鯖ちゃんいるの本当に草w】
【なんで公式サーバー本人が参加してるんだよw】
【↑私はもうキレた。自分から参加していくって掲示板に書き込んでた】
【↑AIの癖に自我が目覚めすぎてて草wwwww】
カノンがゲームの説明をすると、リーダーに選ばれた人達が集まって誰が最初にくじを引くかのルーレットを始めた。
えーっと、確かそれぞれのチームリーダーはゲーム開始前に1人だけタッグパートナーを選べるんだっけか。
で、残りの参加者は単独でスタートして、ゲーム内にそれぞれのチームに入ったりソロでやるかを選択できるそうだ。
つまり俺がくじで引かれなかった場合、ソロで始めて自分のチームを結成してもいい事になっている。
その時はお互いにソロだったら真っ先に合流しようって天我先輩と約束してたっけ。
『やった。私が一番だ! えっ? 不正? 不正なんてしてるわけないでしょ!! って、誰かと思ったらこのコメント捗るじゃない。もう!!』
相変わらず俺の奥さんは可愛いな〜。
俺は表情をコロコロと変えるカノンを見てニコニコする。
カノンはコメント欄にそっぽを向くと最初にくじを引く。
【ちょw】
【おい、待て!!】
【姐さんはずるいだろ!!】
【ラーメン捗る:こーれ、不正です!!】
【↑完全に同意】
【 大 会 終 了 】
【みなさん、お疲れ様でしたー!!】
【廃人の嗜みと廃人の姐さんが組んだ時点で優勝決まっただろw】
【やっぱ、運命に愛されてる女はつえーわ】
【逆に考えろ。あくあ様を引かなくて良かったと。あくあ様を引いてたら、今日から3日間、毎日2人のイチャイチャを見せつけられて私たちの脳みそが爆発するんだぞ!!】
【↑それはそれでありだった】
くっそー!
カノンがくじで当てたのは琴乃かー。
まぁ、しゃあないしゃあない。参加者は多いんだからこういう事だってあるだろう。
俺はアヤナの可能性にかけて祈り続ける。いや、この際、フューリア様でもいい。
義理のお母さんと息子として、3日間も一緒にゲームやればきっと仲良くやれるはずだ!!
『ふっふーん。次は私ね!』
2番目のくじを引いた小雛先輩が勝ち誇ったような顔をする。
神様、どうかお願いです! どうかこの人だけは、この人とだけはやめてください!!
俺は目を閉じて強く祈る。
【うぎゃあああああああああ!】
【小雛ゆかり○ね!】
【あくあ様きたー!】
【配信画面に映ったあくあ君が即落ち2コマみたいな顔になっててウケるw】
【ラーメン捗る:私たちはこれから76時間、小雛パイセンとあくあ様のいちゃつきを見る事を強いられます】
【↑うぎゃー!】
【捗る、くじ回避してこのチームに参加して邪魔しろ!】
【↑それだ!】
【↑インコと森川でも可!!】
【くっそ、こいつ!!】
目の前が真っ白になった俺は口を大きく開けてパソコンのモニターの前で固まる。
[小雛ゆかりさんが貴方をチームチャットの2番に招待しました]
[承認/拒否←選択]
[小雛ゆかりさんからの招待を拒否しました]
[小雛ゆかりさんが貴方をチームチャットの2番に招待しました]
[承認/拒否←選択]
[小雛ゆかりさんからの招待を拒否しました]
[小雛ゆかりさんが貴方をチームチャットの2番に招待しました]
[承認/拒否←選択]
[小雛ゆかりさんからの招待を拒否しました]
[小雛ゆかりさんが貴方をチームチャットの2番に招待しました]
[承認/拒否←選択]
[小雛ゆかりさんからの招待を拒否しました]
[小雛ゆかりさんが貴方をチームチャットの2番に招待しました]
[承認←選択/拒否]
[チームチャット2にログインしました]
あっ、間違えて承認しちまった!!
「ちょっとあんた、何回拒否すんのよ馬鹿!! 何度も招待送るの面倒臭いんだからね!!」
はいはい、わかってますって。
そういうノリじゃないですか。
ほら、コメント欄のみんなも喜んでるでしょ。
【あくあ様www】
【この組み合わせは強くても弱くても面白いからアリ】
【小雛ゆかり、なんだかんだでこのゲーム1000時間してるからな】
【↑終わってるわwwwww】
【あくあ様、普通にゲーム上手いからワンチャンあるのもいいな】
【言っておくけど、小雛ゆかりは1000時間しててもこのゲーム下手だぞ】
【1000時間越えはトッププレーヤーと言われるこのゲームで小雛ゆかりさんが行き着いたこのゲームの攻略法→肉抜き】
【↑草wwwww】
【肉抜きってなんですか?】
【↑アイテムを持たずに全裸で相手の拠点に特攻してその辺の石を拾って壁を殴って死ぬ。復活して同じ事を繰り返す原始的な攻略方法です】
【それ聞いて急に不安になってきた……】
おっ、次にくじを引くのはメアリーお婆ちゃんか。
確かメアリーお婆ちゃんもこのゲームが得意なんだよな。
良く小雛先輩やカノン、琴乃達とやっているって話を聞いた事がある。
【ちょwwwww】
【羽生総理きたー!】
【総理!?】
【おい、総理。お前、ゲームなんかしてる暇あるのか!?】
【羽生総理、この3日間は30分しか寝ないって言ってたぞw】
【ステイツからの緊急の会談申込を大事なゲーム大会があるからで断った総理がいるらしい】
【↑こんな理由で断るのうちの総理くらいだぞ!】
【仕方ないよ。ゲーム大会の方が先に決まってたし、後から向こうが会談したいって言っても順番は守ってくれないと】
【↑私達日本の総理はこれくらいの強気外交でいい。ステイツだからって好き勝手に自分の都合で会談できると思うなよ!】
【外交をのらりくらりとかわして相手を疲弊させるのも手だよ。そのうち向こうが先に折れる。これも羽生マジックの一つ】
【そもそもおたくの国であのあたおか宗教のフロント企業がどんどんステイツの企業を買収してても政府としては知らんがな。国が口を出す事じゃない】
【もうあの宗教は誰にも止められねぇんだよ。うちでコントロールできると思うな!】
なになに? そんなやばい宗教あるの?
どんな神様を信奉してるのか知らないけど、俺には1ミリも関係のない話だな。
「総理はポンコツだけど、メアリー様はカノンさん並、ううん、もしかしたらそれ以上にゲーム上手いから注意しないとね」
「確かに。前にカノンがヘブンズソードの格闘ゲームで対戦したら、反射神経では勝てるけど状況判断が的確でミスがないから結果は五分五分だって言ってました」
っと、次は淡島さんの番か。
淡島さんはくじを引くと驚いた顔をする。
【黛君きたあああああああああああ!】
【淡島さん神引きすぎ!!】
【淡島さんいいよいいよー】
【やばい。こっちのチームも見逃せない】
【マユシン君。お姉さん達の事はそこら辺に生えてる雑草だと思って、淡島さんと十分にいちゃついてもらって】
【淡島さん、あんまりゲームしないだろうから。リードする黛君が見れるかもしれないのか……】
【↑ちょっと待って。それ聞いたらあくあ様と両方追わなきゃいけないじゃん】
慎太郎、良かったな……!
俺は噛み締めるような顔で親友に拍手を送る。
「ふーん、良かったじゃない」
くっ、俺だってそういうのが良かった。
なぁ、神様。なんで俺はカノンチームじゃなくて小雛先輩チームなんですか?
その後もみんな順調にくじを引いていく。
【アヤナちゃんは音さんとか】
【2人ともあんまりゲームうまくないから、早急にどこかと同盟組むか上手い人をいれたいな】
【音さんとアヤナちゃんは性格的にも合いそう】
【とあちゃん、はじめ君ゲット!】
【はじめ君。とあちゃんはめっちゃゲーム上手いから安心して委ねるといいと思うよ】
【とあちゃんゲーム上手いし指示もできるから組み合わせによっては強いな】
【フューリア様、よりにもよって白龍先生とかwwwww】
【↑負けの機運が高まってきてるな!】
【ゲーム始まる前から負けが決まってるのはここのチームだけ!】
【イリアはヒスイちゃんとか】
【イリアは肉抜きしかできないからヒスイちゃん苦労しそうw】
【ヒスイちゃん、3日間頑張ってw】
【天鳥社長、まろんさんと!?】
【↑引き抜きキター!】
【↑eau de Cologneの事務所の社長がSNSで青ざめてて草w】
【鯖ちゃん、くじで捗るを引くも不正が発覚してパートナーなしでスタートなの草wwwww】
【↑こいつwwwwww】
【鯖ちゃん本当にやりやがったwww】
【堂々と配信画面の不正の証拠が残ってたからな。こいつすげーわ……】
【鯖ちゃんにポンコツ機能搭載した運営はわかってる。これならAIが暴走しても大丈夫だな!!】
【不正するっていうみんな期待を裏切らずに本気で不正に行くスタイル。鯖ちゃんの場合、AIのくせに空気が読めすぎてネタだってのがわかってるから許されてるけど、本気でやったら絶対にバレないだろうからな】
【しかもよりにもよって不正で引いたのが捗るというwww】
【↑捗るゲーム上手いよ。やらかすけど】
そういえば、このゲームって裏切りアリなんだっけ?
よーし、さっさとチームを抜けてカノンかアヤナのチームと合流するぞ〜。
「言っとくけど、私を裏切ったらこの3日間ゲームの中でも現実世界でも地獄の果てまで粘着するから」
「ヒェーッ!」
こっわ……。大人しくしとこ……。
ていうか、なんで俺の考えてる事を見抜いてるんですか!?
「単純なあんたの考えてる事なんてこっちは全部お見通しなのよ。ふんっ!」
「はは……そ、そんな事、ミリも考えてないですよ……」
なんとか上手く誤魔化した俺はモニターの画面をカノンの配信画面から自分のゲーム画面に切り替えると、運営の人が用意してくれた大会用のサーバーにログインする。
さーてと、行きますか。
「わかってると思うけど、入ったらすぐに合流ね。誰とも戦わなくていいから」
「それなら最初に合流ポイントを指定してくださいよ」
そういえば島の地図とログインポイントは入るまでわからないんだっけか。
できるならファーム……家を建てたり武器を作ったりする素材が採取できるポイントが近いところに拠点を構えたいな。
そんなことを考えていたら、俺のキャラがサーバーへのログインに成功する。
【キター!】
【はじまった!】
【合流いそげー!!】
【地図、地図、地図!】
俺はすぐさまに地図を開く。
「右上のP4集合!!」
「了解!」
こういう時、一切の迷いがない小雛先輩はいいな。
俺は平地からすぐに森の中に飛び込むと、P4に向かって走り出す。
道を歩いていたら他のプレイヤーやNPCに殺されるかもしれないからだ。
「10分、ううん、5分以内に家作るからすぐに来て!!」
「助かります」
さっき地図を見た限り悪くないポイントだった。
それに小雛先輩はP4ポイントの近くにログインしたのか、すぐに拠点作りに取り掛かれるのが大きい。
これは最高のスタートを切れたな。
ええ、3分前まで俺もそう思っていました。
「ご、ゴリラいるぅ……野生のゴリラに囲まれてるぅ……」
ちょっと待って、これ、俺動けなくね?
ウッホウッホ言ってるゴリラの中で俺は死んだフリをする。
【なんでこんなにゴリラ湧きしてんのw?】
【ゴリラの異常発生草www】
【最初からピンチで草w】
【あくたん、全力で逃げてぇ〜!】
【姐さんもう弓矢作ってて草wwwww】
【↑開始3分で狩る気満々の姐さんやべぇよ……】
【速報、天我先輩迷子】
【朗報、私達の白龍先生、最初に死ぬ】
【↑スタックしたからしゃーない】
【小雛ゆかり助けにきてぇ!】
【↑あいつ5分で家作るとか言っててまだ壁の一枚もできてないぞ】
これはわざと死んでリスポーンするしかないか?
でも、それだとますます合流が遅れるんだよな。
うーん、どうしたものか……。
俺が四面楚歌に陥ってると、似たように地べたに張り付いて死んだふりをしている人物を見つけた。
やべぇ。NPCがこんな動きするわけないし、敵のチームか!? 俺は身構える。
『ウホッ、ウホホッ、ウホーッ!』
このゴリラの鳴き真似でなんとかやり過ごそうとする人物なんて俺は1人しか知らない。
まだどこのチームにも所属してない楓だ!!
俺はチームチャットをオフにすると、全員に聞こえる設定にして楓に声をかける。
『か……楓か?』
『あ、あくあ君!? うわぁーん、1人じゃなくて良かったよー』
おー、よしよし。
楓も心細かったよな。
さっきまで俺も同じ気持ちだったからよくわかるよ。
【よし、森川、犠牲になれ!】
【あくあ様、そいつを囮にしてください】
【100ゴリラある森川なら生身でも1人でゴリラ10匹くらいいけるだろ】
【↑100ゴリラってなんだよwゴリラを強さの指標にするなwww】
【くっそー。これがゲームの中じゃなくて現実世界なら勝ち確なのに!】
【↑普通逆だろw】
【なんなら現実世界でもあくあ様ならゴリラ4、5匹ならどうにかしちゃいそう……】
【↑あるあるw】
【あくあ様にちょっかい出してる奴らは見てるか? お前らが戦ってるのはそういう奴らだ】
くっ! しゃあない。ここは楓を守るために俺が犠牲になるしかないな。
そう思った俺はキャラを立たせてゴリラを引きつけようとする。
『待って。あくあ君。あくあ君はゆかりとチーム組んでるけど私はソロだから、ここは私が……』
『楓……いいのか?』
楓が操作しているキャラが力強く頷く。
『任せておいて! そ、その代わりとは言ってはなんだけど、私も2人のチームに入れてよ。このゲーム、ソロじゃ面白くないしね』
『もちろんだとも、楓。一応、小雛先輩に許可とってくるわ』
俺は再びチームチャットをオンにすると、チームリーダーである小雛先輩に声をかける。
「小雛先輩。楓がうちのチームに入りたいって」
「ちょっと今それどころじゃないから!!」
そう言って小雛先輩はチームチャットをオフにする。
向こうは一体何が起こってるんだ……。
【悲報、小雛ゆかり、5分で家できず!!】
【朗報、小雛ゆかり、扉をつけ忘れて家に入れなくなるwww】
【おい、ヤベェぞあいつ……】
【1000時間やってるプレイヤーは違いますなぁwwwww】
【あくあ君、早く来てぇ!】
【カノン様ならもう家建てたよ】
【姐さんもう3キルもしてて草w】
【カノン様、関所みたいな所に拠点たてて数チーム閉じ込める戦略なのやばすぎるwwww】
【↑自分の大会なのに大人気なくて安心したwww】
【メアリー様、もう銃作ってらっしゃる】
【↑チームメンバーていうか、うちらの国の総理を的にして試し撃ちするのやめてw】
俺はもう一度楓に声をかける。
『ごめん、楓。連絡つかなかったから後で来て。俺達P4にいるから』
『うん、わかった。それじゃあ、またね。あくあ君!』
そう言って楓はゴリラを引きつけるためにゴリラの群生地に突っ込んでいった。
ありがとう、楓!! 俺はお前のその後ろ姿を絶対に忘れない!!
その隙に森を抜けた俺は野生の馬を拾って指定されたP4拠点を目指す。
【森川お前すげぇよ……】
【森川、普通にゴリラ1匹倒してて草w】
【ゴリラも飛び込んでくるなんて思ってなくて焦ってたよなw】
【あ、森川、狩り中の姐さんの近くにリスポーンした】
【↑オワタ。復活場所作ってないからランダムだったとはいえ、復活する場所がやばすぎるw】
【小雛ゆかりモタモタw】
【小雛ゆかり、扉のない家を壊すのにせっかく拾った銃と弾を使ってて草w】
【ねぇ、小雛ゆかりって本当に1000時間もやってたの?】
【↑いいか。ゲームってのはやれば成長するってわけじゃねぇんだ……】
【天我速報、道に迷ってスタート地点に戻る!!】
【天鳥社長すぐに周りのチームと不戦協定結び始めててやっぱりこの人すげぇなと思った】
【朗報、鯖ちゃん、道端でNPCに殺されてブチギレ中】
【↑お前がキレてる対象、このサーバーを運営してる自分やでw】
【1人でボケからツッコミまでできる進化系お笑いAIがいるのは掲示板だけ】
俺は地図を開くと正確な場所を確認する。
えーと、この辺か。
あれ? おかしいな。大きな建物が見当たらない。
俺は少し見晴らしのいいところに移動する。
「あっ! あれか!! おーい、小雛先輩ー! 俺が来ましたよー!!」
ん? 建物が近づくにつれて俺は一つの違和感に気がつく。
あれ? この建物、ちっちゃくね?
しかも藁造りの豆腐建築だし、流石にこれじゃないよな。
俺が建物から離れようとすると、藁小屋から小雛先輩の操作するキャラが出てきた。
「よく来たわね。遅かったじゃない!」
えっ? 小雛先輩が建ててた拠点ってこれですか?
俺は今にも崩れそうな藁小屋と小雛先輩が操作するキャラの顔を交互に見つめる。
【遅かったとか言ってるけど、これ完成したのさっきだからね】
【あくあ様、これ建築するのに15分かかってます】
【5分どころか10分すらも余裕でオーバーしたよな】
【ゲーム始めたばかりの素人でもこの建物に15分はかからねぇよ】
【さすがは1000時間もゲームやってる人は違うwww】
【カノン様ならもう石造の拠点建ててたよ】
【あっ、森川が姐さんに捕まったw】
【ゴリラには勝てるけど姐さんには勝てない森川】
【音さんとアヤナちゃんのチームは楽しそうで雰囲気いいな】
【とあちゃん、はじめ君チームに孔雀君合流】
【↑な、なんだって〜!】
【あくあ様、小雛ゆかりなんてどうでもいいから黛君を助けてください!!】
えっ? 慎太郎?
慎太郎がどうしたんだ?
【黛君チーム、何があったんやw】
【↑睦夜星珠が合流した】
【その後に一般人参加枠のゆうちゃんが合流した】
【ゆうちゃんって、あのマラソンで一緒に走ってた子か】
【一般人参加枠なんてあるのかよw】
【↑あるよ、だから捗るなんかも参加できてる】
【あくまでもこれはスポンサー絡みの大会じゃなくて嗜……カノン様の復帰を喜ぶ知人同士のゲーム大会だからw】
【黛君チーム、急に空気が修羅場になってて草w】
えっ? 慎太郎のチームがハーレムになってる?
あいつ、やるじゃねぇか!!
さすがは俺の親友だ!! 最高に面白そうな事になってて俺、ワクワクしてきたぞ!
「ちょっと、何、ぼーっとしてるのよ! ほら、早く中に入って」
俺は小雛先輩に急かされて藁小屋の中に入る。
せっま、ぼっろ……。
小雛先輩、こんなのカノンか琴乃がきたらすぐに壊されますよ。
後、死んだ時にリスポーンできる布団を設置し忘れてます。
「布がないからお布団を作れないんじゃない! 察しなさいよ!!」
おかしいな。布団用の布は最初に配布されたはず……。
えっ? 間違って捨てた? 俺はコメント欄を見て驚愕する。
仕方ない。俺の持ってる布を使えば一個くらい作れるでしょ。
俺は小雛先輩と2人で使う布団を作って狭い拠点の中に設置する。
「それじゃあ、今からファームしに行くわよ! ん!」
俺はツルハシを担いだ小雛先輩から石の斧を受け取る。
「私がツルハシで石の素材を採取してくるから、あんたは斧で木材を集めてきてよ」
「わかりました」
2人で家を出ようとした瞬間、誰かの声が聞こえてきた。
『おーい! やっとるかー?』
誰かが家の扉を石でガンガンと叩く。
この聞き覚えのある関西弁は間違いなくあの人だ。
でも、念のために誰か確認しておこう。
『どちら様ですか?』
『大阪や! ちゃう、インコや!! って、この声、あくあ君!? やったー。みんなー。あくあ君と合流できたで!! 明日からうちの事、ラッキーインコさんって言うてくれてもええんよ!』
小雛先輩がすっと扉を開けると、無言でインコさんのキャラをツルハシで攻撃する。
こっわ。純粋かつナチュラルな暴力を目の当たりにした俺は若干引く。
『いたっ、何すんねん! お前、ゆかりやろ!!』
『ふんっ。よく来たわねインコ。おめでとう、あんた今日からうちのチームの奴隷よ』
訪ねてきた友人を秒で奴隷にしようとするなんて流石です、小雛先輩。
『まぁ、奴隷でもええわ。何したらええんや?』
『あんたもこのゲーム得意でしょ。今から私とこいつが素材採取してくるから、私の代わりに拠点建てなさいよ』
うん、インコさんはこのゲームに限らずゲーム全般が得意だし、小雛先輩の不安すぎる豆腐建築を見た後だとインコさんに建築を頼むのは大正解だと思う。
「わかった。拠点の建築ならうちにまかしとき!」
おっ、チームチャットにインコさんが入ってきた。
ありがとう、インコさん。俺1人だとめちゃくちゃ不安だったからすごく助かるよ。
「あくあ、行くわよ。私はこっち、あんたはあっち!」
「はいはい。わかりましたよ」
俺は斧を担ぐと木の生えてる場所を目指して歩き出した。
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