白銀あくあ、蛇口。
俺と慎太郎、とあ、天我先輩の4人は羽田の空港に集合すると、同じ飛行機に乗って目的地となる愛媛県松山の空港へと向かう。
朝早くに出発した事もあって、俺達4人は飛行機に乗るとすぐに眠りにつく。
一時期はどうなるかと思ったけど、俺も飛行機の中でぐっすりと眠る事ができた。
「ついたー!!」
「やったー!」
目的地となる松山の空港に到着した俺達は両手をあげて喜ぶ。
あっ、小町ちゃん。悪いけど、ここ写真撮っておいて。SNSにあげるから。
「後輩、見ろ! あそこに例の蛇口があるぞ!!」
「うおおおおおおおおお!」
愛媛県に来ると聞いた時から、俺にはずっと楽しみにしているものがあった。
例の蛇口に向かって一目散に走った俺は、すぐに紙コップを手に取って蛇口を捻る。
まずは駆けつけ一杯。俺はいりこ出汁の香りがする薄茶色のみかんジュースを一気に飲み干した。
「かっっっっら!!」
って、まてい!! みかんジュースなのにいりこ出汁とか明らかにおかしいだろ!!
しかもこの色、どう見てもオレンジじゃなくてうどんの出汁色じゃねぇか!!
咽せる俺を心配した慎太郎が、水の入った紙コップを俺に手渡す。
「あくあ、水だ!」
「助かる慎太郎!」
俺は慎太郎の手渡してくれた紙コップの中に入っていた薄茶色の水を飲み干す。
う〜ん、これは間違いなく昆布だし!
本気で水だと思っていた慎太郎が「すまない」と謝罪すると申し訳なさそうな顔をした。
気にするな。慎太郎。ちゃんと有能なスタッフが秒でカメラが回してくれている。
「って、なんでうどんの出汁なの!? 俺のオレンジジュースは!? どこ!?」
「はい、あくあ。これ!」
俺はニヤニヤした顔のとあから薄茶色の水を受け取る。
もう言わなくてもわかってるよな。いりこ、こんぶとくれば最後はかつおだしだ。
「麺が。麺が欲しい……!」
「ほら、後輩。今度こそ正真正銘の水だ」
俺は天我先輩からもらった本物の水を飲む。
一瞬、合わせ出汁を覚悟したが、優しすぎる天我先輩がそんな事をするわけがないよな。
俺は水を飲んで喉の渇きを癒す。
「ていうかさ。この空港、見た事ある気がするんだけど……」
「うん。ここってさ、みんなで初めて関西に旅行した時に、帰りに立ち寄った高松の空港じゃない?」
本当だ……。
え? 愛媛県は? 俺のお嬢ちゃん団子は?
俺達が戸惑っていると、帯同していたベリベリのプロデューサーさんが真剣な顔をして近づいてくる。
あれ? おかしいな……。
いつもみたいなふざけた感じなら、これも何かの企画だろうなと思うけど、この表情を見る限りベリベリの企画というわけでもないようだ。
「えーと、天鳥社長が対応に当たっているので代わりに説明させてもらいます。実は皆さんが飛行機に寝てる間にですね。悪天候で松山の空港に着陸できないと機内アナウンスがありまして、手前にあった高松の空港に急遽着陸する事になりました」
あぁ、なるほど……。
だから俺達は見覚えのあるこの空港に到着したのか。
「というわけで今は高速バスに乗って愛媛に行くのがいいのか、バスで駅に向かってから電車で愛媛に行くのがいいのかを検討しています」
そういうわけだったのか。
こればかりは流石にしゃーない。
休憩できる時間が増えたと割り切って、しっかりと寝溜めしておこう。
そんなことを考えていると、カウンターでお姉さんと何かを話し合っていた天我先輩がワクワクした顔で戻ってきた。
「行くぞ。後輩達」
「えっ? 行くってどこに?」
この時点で嫌な予感がしたのは俺だけじゃないはずだ。
俺は両隣に居たとあと慎太郎の2人と顔を見合わせる。
「どこに行くって? そんなの最初から決まってるだろ」
ニヤリと笑った天我先輩は、手に持っていた車のキーを俺たちに見せる。
「さぁ、レンタカーで愛媛に行くぞ!!」
なんとなくだけど、そういう予感してたわ。
俺はもう一度、とあと慎太郎の顔を見ると、ニヤッとした顔で立ち上がる。
「よしっ。行くか!」
「ああ、そうだな」
「うん、行こう!」
えぇっと、勝手に動くのはまずいからまずは阿古さん達に相談するか。
俺は阿古さんとプロデューサーさんの2人に、天我先輩が借りてきたレンタカーで愛媛に行く事を提案する。
「あくあ君。それアリだよ〜。天鳥社長、ちょっくら車にカメラつけてきます!」
プロデューサーさんはキラーンと目を光らせると、スタッフを連れて天我先輩の借りてきたレンタカーをおいてある場所へと向かう。
多分、次のベリベリとかでこの様子が放送されるんだろうなと思った。
「それじゃあ、私達も後ろからレンタカー借りてついていかないとね。あっ、それと天我君に、安全運転でお願いって伝えておいて」
「わかりました!」
とりあえずこれで問題なしかな。
天我先輩も車の所に行ったし、慎太郎には天我先輩を頼んであるから、俺はとあと一緒にコンビニでも行ってくるか。
「とあ。今のうちにコンビニで、みんなの飲み物とかを買っておかないか?」
「うん、そうだね。そうしよう」
俺はとあと一緒に空港内のコンビニに行くと、買い物をとあに任せてカウンターに居た店員のお姉さんに声をかける。
「お姉さん、ちょっといいですか?」
「あくあ様!? あっ、はい。大丈夫です」
俺はお姉さんに朝から開いているうどん屋さんを紹介してもらう。
みんな朝ごはんがまだだって言ってたし、せっかくだから道すがら朝うどんを食べていこうと思ったからだ。
「ありがとね。お姉さん」
「い、いえ。大丈夫です」
お姉さんはチラチラと俺に視線を送る。
サインくらいしようか? えっ? カウンターにして欲しい? いいですよ。
俺はついでにベリベリが作ってる【BERYL来店済】のステッカーをお姉さんに手渡す。
「これ、どこでもいいから貼っておいて」
「あっ、じゃあお店の扉に貼ってくれませんか?」
俺はとあと一緒にステッカーを貼ると、扉の前で記念の写真を撮った。
うん、こんなもんでいいだろう。
「とあ、飲み物重いから持つよ」
「ありがとう。あくあ」
とあと俺が一緒に空港を出ると、グラサンを装着した天我先輩が車に乗って入り口に横付けして待っていた。
「後輩きたか。こっちは準備万端だぞ」
天我先輩……なんでよりにもよってそんな小さい車を借りてくるんですか?
俺たちの身長も考えてくださいよ。
えっ? どうしてもオープンカーに乗りたかった?
まぁ、そういう理由なら仕方ないよね。
「それじゃあ、愛媛に向かってしゅっぱーつ!!」
「「「おおーっ!!」」」
俺たちは車に乗って愛媛に向かって走り出す。
と、その前に……途中、お姉さんに紹介されたおうどん屋さんに入る。
「じゃあ、ちょっと先に行って撮影許可取ってくるわ」
俺は先に車を降りると、1人でおうどん屋さんの暖簾をくぐる。
くっ、美味しそうな出汁の匂いで今にも空腹のお腹が鳴りそうだ。
「すみません。ちょっといいですか?」
「はい……って、あくあ君!?」
俺はおうどん屋さんのお姉さんに事情を説明して撮影の許可を取る。
その後はスタッフさんがきて、ちゃんとした同意書みたいなものを書いてもらう。
昔は口約束だけで良かったみたいだけど、コンプラ云々でそこら辺はしっかりしないといけないようになった。
「それじゃあ、みんな何食べる? 僕、ぶっかけうどん」
「我はカレーで行く!」
「俺は肉だな。朝からガッツリいきたい」
「じゃあ僕はきつねにしようかな」
俺は肉うどん、天我先輩はカレーうどん、慎太郎はきつねうどん、とあはぶっかけうどんを注文する。
朝からうどんっていうのもいいな。さっぱりしてて食べやすいしお腹にも優しい。
「「「「いただきまーす!」」」」
飯だ飯!
俺は出汁の香りを堪能すると、まずはうどんを啜る。
おおっ、このコシだよコシ! やっぱり讃岐うどんはコシが違うな。
俺は次に肉を食べる。
「んっ」
甘辛だ!! うまっ!
次に俺はおうどんの出汁を飲む。
おおっ、肉の出汁と肉のタレがおうどんの出汁に染みて美味い!!
俺は麺、肉、出汁の3点コンボを交互に味わう。
「あくあ、稲荷寿司とおにぎりきたよ。あとおでん、どうする?」
「じゃあ大根で」
俺は出汁の染みた大根を食べる。
おお……うどんの出汁だ。うどんの出汁でつくったおでんだ。
なるほど、なんでうどん屋さんにおでんがあるのんだと思っていたら、こういうことか……。
「ん、玉子美味しい」
「はんぺんもうまいぞ」
「ごぼ天もな」
よし、俺、こんにゃく食べよ。
俺達はおうどん屋さんでしっかりと腹を満たすと、おうどん屋さんでもサインを書いてステッカーを貼る。
「それじゃあ、行くか!」
「おう!」
「うん!」
「ああ!」
俺達は車に乗ると、次は高速に乗るために山を越えていく。
本当は空港から真っ直ぐに出てから高速に乗る手もあったけど、そっちにいくと遠回りになりそうだと思ったからだ。
しかし、この判断がのちに大変な事になる。
「ここの道、せっま……」
「そう考えると小さい車を借りておいて良かったかも」
確かに。俺達はぐにゃぐにゃした道を曲がったところで行き止まりにたどり着く。
あ、あれ? おかしいな……。
「あ、天我先輩、ここ道間違えてます」
「む、地図では繋がってるはずなんだがな……」
多分、この地図が古いか、ナビのデータが更新されてないんだろうなと思った。
俺は天我先輩に、無理にショートカットするのはやめる事を提案する。
「あっ」
俺は人影を見つけると、天我先輩に言って車を止めてもらう。
車を降りた俺は、畑仕事をしていたお姉さんに声をかける。
「すみませーん!」
「えっ? あくあ様!?」
俺は農作業中のお姉さんに道を聞く。
こういう時は地元の人に道を聞くのが一番いいと知っているからだ。
「ありがとね。お姉さん」
「あっ、はい。こちらこそ、愛媛県のライブ頑張ってください!」
俺はお姉さんに手を振ると、天我先輩達の乗っている車に戻る。
「天我先輩、この通りを道なりに進んで大丈夫だって。そしたら看板が見えてくるから、後はそれに沿っていけば大丈夫だって言ってました」
「うむ!」
車に乗る事数十分、若干不安になるくらい狭い道もあったものの俺達は無事に高速に乗る事ができた。
「すまん。我がショートカットしようと思ったせいで、だいぶ時間を使ってしまったな」
「まぁ、旅なんてそういうもんでしょ。天我先輩、気にしない気にしない」
俺と慎太郎はとあの励ましに頷く。
途中、ガードレールのないぐにゃぐにゃの崖道を通る時は焦ったけど、遊園地のアトラクションみたいなもんだと思えば悪くはなかった。
「おっ、松山についたぞ」
「やったあー!」
「あくあ、降りたらどうするんだ?」
みんなの視線が俺に集まる。
リハーサルまでまだ時間があるし、元々リハーサルまではベリベリなどの撮影に使う時間だった。
「とりあえずチェックインじゃないか? 荷物を預けてやる事をやっておけば、まだリハーサルまでに時間があるから、その間に飯食ったり観光したりしようぜ」
「了解!」
「うん、そうしよう」
「ああ、わかった」
よし! 目標も定まった事だし、とりあえず旅館にチェックインに行こう。
そして、今度こそみかんジュースの出る蛇口からジュースを飲むんだ!!
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