白銀あくあ、俺の嫁が可愛い件について。
文化祭が終わると次に俺を待ち受けているのは、全国ツアーのライブだ。
俺は夕食の時に、その場に居たみんなに向けて明日から3日ほど家を空ける事と告げる。
「というわけで、また少しの間留守にするので今日は目一杯俺に甘えてください」
「「「「「やったー!!」」」」」
俺は両手を大きく広げると、みんなのハグを受け入れる。
って、いててててて! 楓のパワーが強すぎて俺の肋骨がバキバキになるところだった。
最近ちょっとコントロールが甘くなってるんじゃないか!?
「ご、ごめん、あくあ君。最近、どうにも制御が効かなくて。なんていうか、出産予定日が近づくに連れて自分でもパワーが激っているのがわかるんだよね。多分、私的にはこれが母性本能ってやつじゃないかと思っていて」
俺は笑顔で楓の言葉にうんうんと頷く。「いや、それ、母性本能とちゃう!」なんて、後ろで騒いでるインコさんみたいな野暮なツッコミはしない。
「大丈夫だよ、楓。俺なら大丈夫だから」
「あ、あくあくーん! やっぱり私の愛を受け止められるのはあくあ君だけだよー!!」
俺は抱きついてきた楓を全力で受け止める。
ふぅ、普段から鍛えておいてよかったぜ。やっぱり女の子を愛するには筋肉がないとな。
RPGではレベルを上げてパワーで殴るという攻略方法があるが、恋愛ゲームもやる事は一緒だ。筋肉を鍛えてパワーで相手の愛を受け止める。筋肉があれば、どんなに重たい愛でも受け止められるというのが俺の持論だ。
「何、あんたまたどっか行くわけ? どこに行くのか知らないけど、みんなにお土産買ってきてよね」
「ぐぇっ!」
俺は帰ってきたばかりの小雛先輩に後ろから飛びつかれる。
ちょ、ちょ、小雛先輩、パーカーの紐で俺の首が締まって……はぁはぁ、はぁはぁ。なんとか紐が解けてよかった。もう少しで死ぬところだったぜ……。
やはり、パワーでどうにもならない小雛先輩だけは注意が必要だ。
「あっ、私、お嬢ちゃん団子が食べたい!!」
「ぐへへ。お前って昔から本当に団子が好きだよな。そういえば前に2人で団子を食べに行った時も……んぐぐ!」
顔を赤くしたカノンがえみりの口を塞ぐ。
おお〜、やはり美少女のカノンと美女のえみりの2人が戯れあってる姿は控えめに言っても最高だな。
俺はデレデレした顔で2人の事を見つめる。
「ちょっと、えみり先輩、余計なこと言わないでよ!」
「わかってるって。偶然通りかかった男子をみんなが見ている中、お前だけが黙々と団子食ってた事は、あくあ様に黙っておいてやるから」
「全部、言ってるじゃない。もう!!」
相変わらずカノンを見てると心が和むなぁ。周りで話を聞いていたみんながほっこりした顔になる。
やはりカノンからしか摂取できない何かがあると思います!!
「あくあ君。おつまみにじゃこ天お願い」
「あら〜、白龍先生いいわね」
「さすがは白龍先生、わかってらっしゃる」
「ふふっ、お酒が美味しくなるわね」
すでに出来上がっているアイと母さん、メアリーお婆ちゃんとしとりお姉ちゃん達が次のおつまみの話で盛り上がる。
普段は未成年組に気を遣って飲まないけど、今日は俺がしばらく家を空ける日なので特別だ。
幸いにもうちの女性メンバーの中に酒癖が悪い人はいないから、悪酔いしない程度であればと特別な日には夕食時の飲酒を許可してある。
あえていうなら問題児はキス魔のまろんさんくらいだけど、それは俺がどうにかするので安心してほしい。
「えへへ、あくあくぅん……むにゃむにゃ」
「まろん先輩、いい加減起きてくださいよ。ふらんは抱き枕じゃないし、あくあ様じゃないですから!」
俺はまろんさんにぎゅーっと抱きしめられるふらんちゃんの事を羨ましそうな顔で見つめる。
みんな、お酒を嗜むのはいいけど、飲み過ぎには気をつけてね。
ほら、まろんさんだけじゃなくて、隅っこにいる揚羽さんも酔い潰れちゃってるじゃないですか。
「んん……もう無理ぃ……」
「ウッヒョ〜、なんかイタズラしちゃおっかなぁ!」
羽生総理、眠っている揚羽さんにイタズラなんかしていいんですか?
あとで隠し撮りされた動画がネットに流出したら、また謝罪しなきゃいけない事になりますよ。
それにこの前だって揚羽さんと議論してやり込められたばっかりじゃないですか。
『私にも総理としてのプライドがあるんですよ。黒蝶議員と討論する時はいつだって、舐められてたまるか! という気持ちで向かい合っているんです!!』
そう言って羽生総理はキリッとしたかっこいい顔で、肩で風を切って国会に入って行った。
俺の隣でテレビを見ていたなつキングが「お母さん、かっこいい……」って、尊敬するような眼差しを向けながら呟いていたっけ。
で、その後に、揚羽さんとの激しい議論を終えた羽生総理がカメラの前で語った一言がこれである。
『あえて申し上げます。黒蝶議員の追求から誰か私を助けてください……と!』
あの時、俺の隣でテレビを見ていたなつきんぐが「お母さん、かっこ悪い……」って、しょんぼりするような顔で呟いていたのが印象的だった。
俺は離れたところからこちらを見ているなつキングとくくりちゃんの様子を確認するように、ちらっと視線を向ける。すると、2人は絶対零度と言っても過言ではないめちゃくちゃ冷めた目で揚羽さんにイタズラしようとする羽生総理を見つめていた。
その視線に俺も縮こまってしまう。総理、もうこの辺にしておきましょう。俺は総理の肩をポンと叩くと、2人の方を見るように羽生総理をさりげなく促す。
「さっきは舐められてたまるかという気持ちで一杯でしたが、今はあえて申し上げたいと思います。私を助けてくださいと……」
俺は涙目になった羽生総理の縋るような視線から顔を背けつつ、口笛を吹いて素知らぬふりをする。
総理、骨だけは拾ってあげますから。2人からちゃんと叱られてください。
あと、反対側から揚羽さんにイタズラしようとしているえみりもカノンからそういう目で見られてるからな。
「あえて申し上げます。私を助けてください。あくあ様!!」
俺は両腕にしがみついてきた2人を振り解くようにスタコラサッサとその場を逃げ出した。
「本当、バカばっか」
「ふふっ、まぁ、飽きないんだけどね」
駄菓子のイカ串をむしゃむしゃと食べる小雛先輩がジトッとした目でこっちを見る。
ちょっと、小雛先輩! 晩御飯なのに駄菓子を食べないでくださいよ。全くもう。俺よりも年上なのに、まだそういうところが子供なんですから!!
えっ? 軽く食べてるから、お腹空いてないって? かと言って駄菓子はダメでしょ。
それに阿古さんもお酒で胃袋を膨らませないでください!!
ほら、2人とも俺がおにぎり握ってあげるからちょっと待ってくださいよ。
「小洒落た料理も好きだけど、こういうのでいいんだよね。うまうま」
「わかる〜。あっ、梅のおにぎり頂戴」
小雛先輩と阿古さんは俺が握った具入りのおにぎりと塩の卵焼き、タコさんウインナーの3点セットを美味しそうに食べる。
そういえば、さっきチラッと見たらアヤナが食べてる素振りがなかったな。心配だからちょっと話しかけておくか。
「アヤナ。あんまり食べてなかったけど大丈夫?」
「あ、うん。ごめん、ちょっとお腹の調子が良くなくて……」
そういう時はおかゆだな。
俺がキッチンに立つと、後ろからついてきていたイリアさんがスッと隣に立った。
え? 料理は下手だけど、私もアヤナちゃんのために何か協力したい?
そういう事なら任せておいてくださいよ!
俺はボウルの中に朝どれ卵を二つと砂糖を入れると、隣のイリアさんに手渡す。
「イリアさん。かなりかき混ぜてください!」
「わかった! 任せておいてあくあ君!」
さすがは同じパワー教だ。しかもパワーをコントロールできない楓と違って、イリアさんは繊細なコントロールができる。小さな指先でつまめるほどの隕石が落ちてきた時も、イリアさんはキャッチしてたけど、楓なら握り潰して粉砕していたかもしれない。
「ふぅ、こんなもんかな?」
「完璧です。イリアさん」
俺はメレンゲ状になった卵を土鍋で作っていたかつお出汁のお粥の上にぶち込む。
これで蓋をしてもう少し煮込むとほぼ完成だ。
「わっ、すごいふわふわ!」
「でしょ?」
俺はその上に三つ葉を添えるとお盆の上に鍋敷きと土鍋、スプーンとお椀を持ってアヤナのところに行く。
「す、すごいね。これ……」
「世界最古の卵料理、たまごふわふわを独自にアレンジしたたまごふわふわおかゆです! ご賞味あれ!!」
俺の作ったお粥にみんなが集まってくる。
正直、スフレやパンケーキが好きな女子なら、この見た目からして好きだと思う。
みんなが物欲しそうな顔でこっちを見てくる。
はいはい、わかりましたよ。追加で作ればいいんだよね。
俺は掻き混ぜ要員を集める。この作業に必要なのは絶対的なパワーだけだ。
やはり筋肉、筋肉は全てを解決してくれる!! って、ペゴニアさん、何? どうしたの?
「旦那様、ミキサーを使えば早いのでは? せっかく文明の利器があるんだから使いましょうよ」
「た、確かに〜……」
俺の隣で女の子達がキャッキャうふふとミキサーで卵をかき混ぜる。
ああ〜、いいですね〜。俺は自分で料理を作るし、料理が作れない女の子でも気にしないけど、料理を作ってくれている女の子の姿からしか摂取できない男心にくるものがあるんだよな〜。
しかもみんなエプロンつけてて可愛い。って、くくりちゃん、割烹着!? いや、これは普通にアリだな……うん。腕を組んだ俺は何度も頷いた。
そんな俺の生暖かい視線に気がついたのか、くくりちゃんが恥ずかしそうな顔をする。
「えっと……私じゃなくって、揚羽お姉ちゃんに食べさせてあげようかなって。卵料理は肝臓を守ってくれるから」
く、くくりちゃん、やさしぃ〜。
ごめんな。育ち盛りだから、晩ごはんが足りなかったのかなって見当違いの心配して……。
「あっ! フィーちゃん、お鼻にたまごのふわふわが付いてますよ」
「本当なのじゃ!」
「ん」
ハーちゃんはティッシュを手に取ると、フィーちゃんのお鼻の先を拭いてあげる。
相変わらずあそこは仲がいいな。
ていうか、小学生のハーちゃんの方が、中学生のフィーちゃんより大人に見えるのは俺だけだろうか。
「兄様、お仕事頑張ってきてくださいね」
「ああ、らぴすもお土産を楽しみに待っててくれよな」
俺は笑顔を見せるらぴすの頭を優しく撫でる。
そういえばらぴすが使っていたフェイスタオルがクタクタになっていたな。今治で新しいタオルでも買ってきてプレゼントしようかな。
俺は近くにいたりんちゃんとるーな先輩に視線を向ける。
「りんちゃんとるーな先輩は何か欲しいお土産ある?」
「拙者、みかんが欲しいで候。そろそろこたつを出す時期、こたつといえばみかんでござる」
「私も、こたつみかんは至高。冬のぐうたらには必須のアイテムです」
なるほど、確かにこたつでみかんは最高だな。
俺達の話を聞いていたみことちゃんが勢いよく手をあげる。
「はいはい! 私、みかんで作ったオイルが欲しいです!!」
なるほど、オイルね。了解。
俺はみことちゃんの隣に居たりのんさんへと視線を向ける。
「りのんさんはどう?」
「あっ、じゃあ私はバスタオルで……その、身長が大きいから大判じゃないと生地が足りなくて。すみません」
そっか、りのんさん、俺よりも身長高いもんね。
天我先輩と並んでもほぼ同じ身長だし、ヒールを履くと余裕で2メートルを超える。
一度でいいから俺も、自分より大きい女性から抱きしめられたいものだ。
「あくあ君、あくあ君」
「ん? どうした、ココナ?」
俺はココナに呼ばれて、ココナ、うるは、リサのテーブルに向かう。
「さっき3人で話してたんだけど、学校のみんなに配りたいから、3人でなんか日持ちするお菓子買ってきてくれると嬉しいなって。ね?」
「うん、きっとみんなあくあ君達からのプレゼントなら喜んでくれると思うから」
「もちろん、杉田先生や他の先生達の分もよろしくお願いしますわ」
「いいよ。任せておいて」
そっか、そうだよな。
せっかくだし、学校のみんなにもなんか買っておこう。
カノンから、地方にライブやロケに行くときは現地の経済を活性化するためにドンドンお金使って。そうしないと経済が回らないし、うちにお金が溜まる一方だからって言われた事を思い出す。
俺がそんな事を考えていると、真剣な顔をした結がカクカクとした動きで俺に近づいてくる。
「あー様、少し宜しいですか?」
「どうしたの? 結?」
結は赤くなった顔で俺の事をじっと見つめる。
ああ、これはだいぶ飲まされているな。
「結の事をギュッとしてください」
結は真顔で両手を広げて「んっ」と促すそうに声を出す。
可愛いかよ……。
俺は結のでかい胸が潰れるくらいの力でギュッと抱きしめてあげた。
「ありがとうございます。3日分のあー様を補充できました。これであー様が3日ほど家を空けても、結はなんとか耐えられると思います」
俺は結が可愛すぎてもう一度ギュッと抱きしめた。
結はお酒を飲むと顔が完全に無表情になるけど、気持ちが全部言葉に出るから可愛くなるんだよな。
俺に抱きしめられて安心したのか、結は抱かれた状態のままで寝息を立てる。
それをみた琴乃が俺に近づいてくると、結を横に寝かせるスペースを作ってくれた。
「あくあさん、私はついていけないので十分に怪我や事故、事件等に気をつけてくださいね」
「ああ、わかってるよ。琴乃、いつも心配してくれてありがとな」
俺は両手を広げて琴乃がハグしてくるのを促す。
ほら、恥ずかしがらなくてもいいんだぞ。
それに、さっき結の事をチラチラ見てたのは気がついているから、誤魔化そうとしたって無駄だからな。
「やっぱりあくあさんには勝てませんね」
「琴乃、俺がいない間、不安かもしれないけど、何かあったらみんなを頼ってくれ。もしもの時は、俺もすぐに戻ってくるから」
俺がそういうと、琴乃が少し不満そうな顔をする。
あれ? 何か間違えたか?
「それはダメです。あくあさん、私に何かあったとしても、ちゃんと全国ツアーはやり遂げてから戻ってきてください。私もそれまで頑張りますから」
「わかったよ」
やっぱり琴乃は強いな。
カノンやえみり、楓の3人が甘えたくなるのもわかるよ。
俺は優しく琴乃の体を抱きしめる。
その流れで隣にいた小雛先輩の事も抱きしめようとしたが、冷めた目で見られるだけで抱きついてこなかった。
くっ、流れでいけるかなって思った俺の考えが甘かったぜ。
「あくあ君。私でよかったら」
ナタリアさーん!
手を広げたまま固まっていた俺を見かねたナタリアさんが優しくハグしてくれる。
俺は感謝の気持ちを込めて、ナタリアさんの体をギュッと抱きしめ返した。
「ナタリアさん、カノンのことをよろしくね」
「はい。カノンの事はちゃんとえみりさんから守って見せます」
いや、別にえみりからは守らなくていいんじゃ……。
えっ? それとも、えみりってカノンの敵なの!?
「ふふっ、相変わらず間の抜けた顔をして、あなたって勘が良い時と悪い時の差が激しいのよ」
「全くもってその通りね」
ヴィクトリア様の言葉に小雛先輩がうんうんと頷く。
俺は念の為にヴィクトリア様のために手を広げたり閉じたりしてアピールしたが、向こうからは冷めた目線だけが返ってきた。うん……ヴィクトリア様は恥ずかしがり屋さんだから、みんなの前でハグしてきたりするわけないよな。
っと、おーい! そこ! 少し酔いが醒めたからってまた呑んじゃダメですよ!
「ちょっと、私まだ一杯しか飲んでないんだけど!?」
「小雛先輩は一杯で十分でしょ!」
全くもう。誰がベッドの上まで運ぶと思ってるんですか。
ほらほら、みんなも飲み過ぎはダメって言ったでしょ。
俺がみんなのテーブルからお酒を回収していると、クレアさんが近づいてきた。
「あくあ君、みんなグデグデになってきてるから、そろそろお開きにした方がいいんじゃないかな?」
「あ……ああ、そうだな」
すぅ……。俺はクレアさんの前で軽く深呼吸する。
おかしいな。やっぱりあの文化祭での一幕は俺の見間違えだったのか?
こんな優しくて清純そうな子がミスコンであんなはっちゃけるわけないよな。
うんうん、きっと俺も疲れていたんだ。あれは俺の見間違いに違いない!!
「みんな、ここでねちゃダメだよー。それとちゃんとお風呂に入ってから寝ること。それとお風呂の中で寝ちゃダメだからねー!!」
俺はみんなをリビングから大浴場へと見送る。
さてと、もう誰も残ってないな?
「ねぇ」
「うぉっ!?」
ヴィ、ヴィクトリア様、まだ残ってたんですか。
どうかしましたか?
俺がとぼけた顔をしていたら、ヴィクトリア様から俺に抱きついてきた。
「全くもう、分かりなさいよ。なんで、この私が最後まで残っていたと思いまして」
可愛いかよ!!
忘れてたわけじゃないけど、さすがはカノンのお姉ちゃんだ。
俺はヴィクトリア様を抱きしめ返す。
「はい、終わり。それじゃあ、また3日後に……あっ、それと、こたつみかんでしたっけ? 私も興味がありますから、お土産にはみかんを頼みますわね」
だから、可愛いかよ!!
俺は満足げな表情でみんなの後を追って大浴場へと向かうヴィクトリア様の後ろ姿を見送る。
さてと……俺も風呂に行くか。
本当はこのままみんなと同じ大浴場に行く事を考えたけど、お酒呑んでる組がのぼせちゃったらいけないから遠慮しておこう。
「ふぅ、さっぱりした」
大浴場からの帰り道で誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あくあ様、あくあ様……」
ん? えみりじゃないか。そんな柱の影からどうしたの?
はっはーん。また何か、新しい悪巧みを思いついたんだな。
その話、詳しく聞こうじゃないか。
俺は周りをキョロキョロと見ると、小雛先輩がいない事を確認してコソコソとした足取りでえみりに近づいていく。
「ぐへへ、ちょっとこっちにきてください」
「お、おう」
このぐへ顔……間違いない! 確定でぐへへなイベントだ!!
期待で胸を膨らませた俺は、泥棒みたいな足取りで目的地に向かうえみりの後についていく。
ん? ここは……カノンの部屋か!?
俺は期待が一瞬でピークに達する。
えみりは俺の耳元に顔を近づけると、ひそひそ声で囁く。
「あくあ様、こっそり中を覗いてみてください」
どれどれ? 俺は薄くあいた扉の隙間から中を確認する。
「はぁ……せっかく文化祭が終わったのになぁ」
カノンはベッドにうつ伏せになった状態で足をバタバタさせる。
うーん、可愛い!
「少しだけでいいから、あくあとゆっくりできたらいいのに……」
なるほど、そういうわけか。
俺は隙間から顔を離すと、もう一度えみりの顔を見る。
「あくあ様、このままでいいんですか?」
いいわけないだろ!!
俺はえみりの肩をポンと叩く。
ありがとう、えみり。俺はもう少しで間違えるところだった。だから、行ってくるよえみり。
「あくあ様、どうか旅立つ前にカノンの事をお願いします!」
任せろ、えみり。
俺はゆっくりと扉を開けると、部屋の電気をつける。
するとそれに気がついたカノンがびっくりして顔を赤くした。
「あ、あくあ!?」
俺はカノンに近づくと、カノンの体を優しく抱きしめた。
「カノン、寝るまで一緒にお話ししようか」
「う、うん! ありがとう。あくあ」
俺はその日の夜、カノンが眠たくなる時まで彼女の手を握って2人の時間を楽しんだ。
次は多分幕間です。つまり、そういう事です。
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