白銀あくあ、ミス乙女咲!!
「パワー、運、知力に続く最後の審査はこちらになります! みなさん、後ろのモニターをご覧ください!!」
司会役の先輩が後ろのモニターへと手のひらを向ける。
【淑女たるものいかなる時も冷静であれ!! 平常心テスト!!】
平常心テスト? 今度は一体、何をやるつもりなのだろうか。
「それではミス乙女咲候補の皆さん、ご入場してください!!」
えっ? 俺は入場してきたみんなを見て固まる。
き、きたー! ケモみみコスプレだぁぁぁあああああああああ!
俺はガムテープで修復されて戻ってきた1代目の押しボタンをポチッと押す。
「うぅ……尻尾の接着が不安定だから外れそう。音さん大丈夫?」
「な、なんとか。でも、落ちそう……」
「むぅ、なんでイリアがたぬきなの。もっと可愛いのが良かったのに〜」
ほう……。ヒスイちゃんがキツネっ子で音さんが犬っ子、イリアさんはたぬきっ子か。
素晴らしい。俺は無言でお気持ちボタンを押す。
平然とするイリアさんの隣で、ヒスイちゃんと音さんの2人は恥ずかしそうな顔をする。
ちょっと尻尾の部分がどうなってるのかよく見せてくれませんかね? えっ、だめ?
俺はもう一度追加でお気持ちボタンをプッシュした。
「何よこれ。逆に恥ずかしいじゃない!」
「あっ、アヤナちゃん、待って。ゆっくり歩いて、そうじゃないと尻尾が取れそう」
「はぁはぁ、はぁはぁ……肉食動物に挟まれて、私はこのまま食べられちゃうんですね」
アヤナが狼でうるはがライオン、クレアさんが羊か……。
なんだろう。真ん中で肉食動物に挟まれている迷える子羊がダントツで強そうに見えるんだよな。
俺の気のせいだろうか……。
アヤナとうるはの心情を察した俺が無言でお気持ちボタンを押す。
「ほら、2人とも行きますよ」
「待って、ナタリア。ううっ、くくりちゃん、ほら、こっち」
「は……はい……」
ここで超鉄板のネコミミ3連発だとおおおおおおおおお!?
クールなナタリアさんの灰猫を先頭に、白猫のカノンが黒猫のくくりちゃんを引っ張っていく。
素晴らしい。俺はお気持ちボタンを3プッシュした。
「ちょっと待て! 流石にこれはアウトだろ!?」
「まあまあ、杉田センセイ。細かい事は気にしちゃダメデース!」
「杉田先生、あそこで生活指導の先生が両手で大きな丸を作ってますよ」
うわああああああああああああああああああああああああ!
虎ミミの杉田先生だけでも俺が拝む事案が発生しているのに、その後ろからウサ耳をつけた七星先生と豹ミミのねぇねが出てきた。
はぁ……一度でいいからこんなお姉さん先生達に襲撃されたい。なんならそのまま巣にお持ち帰りされたいと思った。
俺は真顔のまま、無言でお気持ちボタンを連打する。
「というわけで審査の内容はこちらになります!!」
俺たちはバックのスクリーンへと視線を向ける。
・それぞれのチームの代表者が乙女咲の先生、生徒達から募ったミッションをスマートにクリアしてください。
・ミッションをクリアできなかったチームは、チームのメンバーから1人、ランダムでペナルティが与えられます。
・参加者には心拍数のメーターをつけさせて貰います。
・心拍数が規定値を超えた方が負けとなります。
・先に3つのミッションをクリアしたチームがこの審査の勝者となります。
・一度解答した人は二巡目になるまでお休みです。
後ろからスタッフの生徒達が出てくると、俺達の腕に心拍数を測る時計のようなものを装着させる。
なるほど、これで脈拍を測って心拍数を出すわけか。
「それでは最初のお題です」
司会の先輩が大きな箱の中に手を突っ込むと、ぐるぐるとかき混ぜてから一枚の紙を取り出す。
「えーと、生活指導の山本先生からの希望で、恥ずかしがる杉田先生が見たいので、白銀あくあ君の事を誘惑してください。だそうです!!」
「なっ!? 山本先生、ふざけるのはやめてください!!」
生活指導の山本先生は一番後方で腕を組みながら何度も力強く頷く。
その身に纏うオーラから、山本先生の私は本気だという強い意志を感じた。
くっ! さすがは鬼の生徒指導と全女子生徒から恐れられている山本先生なだけはある。
俺は朝の身体検査の時の様子を思い出す。
『おい、月街! そんなくたくたの普段使いしているようなダサいやつで大丈夫だと思ってるのか! JKならもっとフリルのついた可愛いやつを着なさい!!』
『黒上、置きに行くとか正気か!? さっさとこれに着替えて来なさい!! 大丈夫、これは先生の私物だ』
『鷲宮〜、将来を白銀と約束したからといって最近は油断してるんじゃないか? ほら、そこのトイレでリップを塗り直してきなさい! いいかぁー。みんなもいつ、白銀とそういう状況になってもいいように、唇はいつもぷるぷるさせておくんだぞ!』
『えっ? さっきしたからグロスが取れちゃった? いいか。白銀カノン、そういうのは隠れてするんじゃなく、表でみんなに見えるような所でやりなさい!! それとしょっちゅうするならティントを使うといいぞ。私も白銀がCMをしてるコロールから出てるリップグロウを使ってるから唇が綺麗だろ。ははは!』
『胡桃……服装よしっ! 化粧よしっ! お前はいつも気合が入ってていいぞ〜! これからも生徒の模範として頑張ってくれ!!』
『あ、ペゴニアさん、おはようございます!』
『えっ? ああ、千聖か……ん、お前はもうそのまま通っていいぞ。うん……えっ? 検査? 大丈夫大丈夫、先生はその、わかってるからな。うん……』
そういえば山本先生はクレアさんにだけは甘かった気がするけど、生活指導を通じて誰よりも最初にクレアさんのヤバさに気が付いていたのかもしれない。
「それでは最初に1年生チームから順に代表者が前に出てください!」
1年生チームの3人がジャンケンすると、負けた犬耳の音さんが前に出る。
「これも演技の勉強だと思えば……」
普段はクールな音さんも顔を赤くする。
それを見た俺の心拍数がぴょこんと跳ねた。
さすがは俺だ。心拍数からして嘘がつけない。
「えーと……白銀先輩。わ、私といい事しませんか?」
んんんんんっ、可愛い!
可愛いけど、これだけじゃ俺の心拍数は動かないぞ!
「ふーん。良いことって何?」
「えっ?」
俺が言葉を返してくるとは思わなかった音さんが慌てたような素振りを見せる。
演技じゃリテイクの少ない音さんだけど、バラエティにあまり出てないせいかアドリブには少し弱いみたいだ。
「えっと、えっと……その……私の耳触ってみます?」
前屈みになった音さんが自分の頭をアピールする。
そこに俺が手を伸ばしたところで、音さんはドキドキしすぎたのか心拍数のボーダーラインを突破してしまった。
「はい、それでは課題をクリアできなかった1年生代表チームのメンバーから1人、ランダムにペナルティが与えられます。審査委員長、ボタンを押してください」
ボタンってどれ? このお気持ちボタンじゃないよね?
俺が戸惑っていると、舞台袖から慌てて出てきたえみりが俺に複数のボタンがついた装置を差し出す。
「あくあ様、どうぞ!」
「あ、ありがとう。えみり」
えーと、なになに?
それぞれのボタンがいろんな部位と連動していて、ボタンを押すと振動しますぅ!?
俺は手元にあったお気持ちボタンをポーンと押した。
ただし、耳は振動しても可愛いだけなのでハズレです……か。
よし! 俺は軽く深呼吸すると、気合を入れてボタンを押す。
「ひゃっ!」
顔を赤くしたヒスイちゃんが両手でスカートを押さえる。
次の瞬間、ヒスイちゃんがスカートに装着した尻尾がぴょこぴょこと左右に触れた。
さ……さすがはえみりだ。えみりが、あのクレアさんと仲がいいのも頷けるな。
俺は感動で涙を流しながらお気持ちボタンを押した。
「急に動くからびっくりしたぁ!」
「ああ、その尻尾、服に取り付けられてるんだ」
なるほど、服装に尻尾がついてるのか。
尻尾の謎が解けた事でスッキリした一方、ガックリ来たものがあった。
「それでは2年生代表チームの代表者さん、どうぞー!」
次は2年生代表チームか。
初手からクレアさんが出てくるんじゃないかと身構えてきたが、最初に出てきたのはうるはだった。
「あくあ君……あっ!」
うるはが何かを喋ろうとした瞬間に躓いてしまう。
そ、空からうるはが落ちてくる!!
これが約束された勝利の軍隊、ジークウルハ軍のやり方か! 汚いぞおおおおおおお!!
俺がうるはを抱き止めた瞬間に、俺の心拍数が致死量レベルで跳ね上がった。
「ごめん! あくあ君。大丈夫……?」
「大丈夫大丈夫、それよりうるはも怪我はない?」
ふぅ、こればかりは仕方ない。流石の俺も耐えきれなかった。
「やった! うるはちゃん、ナイス!」
「う、うん。なんか思ってたのと違ったけど……クリアできて良かった」
「……そうですね」
あれ? 心なしかクレアさんが少し残念そうな顔をしているように見えるのは俺だけだろうか。
俺の気のせいかな……。少し疲れているのかもしれないと、俺は自分の目頭を強くつまむ。
「2年生代表チームの皆さんおめでとうございます。続いてオールスターチームの代表者さん、前にどうぞー!」
オールスターチームからは黒猫のくくりちゃんが出てくる。
はぁ、黒髪ロングで吊り目の女の子が黒猫コスプレが似合わないわけないんだよなあ。
俺はお気持ちボタンを押す。
「あくあ先輩、可愛がってほしい……にゃーん」
んっ!
ぴこーん、ぴこーん!
俺の跳ね上がった心拍数がボーダーライン一歩手前で止まる。
ふぅ、さっきのやばかったな。猫手で甘えてくる黒猫くくりちゃんに一発で持っていかれるところだった。
「いいよ。ほら、おいで」
俺は自分の膝の上をポンポンと叩く。
「えっ?」
くくりちゃんは驚いた顔で、俺の膝の上と俺の顔の間で視線を彷徨わせる。
そうそう、可愛がってあげるから、俺の膝の上に乗ってって事ね。
「よ……よろしくお願いします」
くくりちゃんは、端っこの辺にちょこんと座る。
あああああ! こういうところも猫っぽくて可愛い!
俺はくくりちゃんの腰に後ろから手を回すと、自分の方へとぐいっと抱き寄せて頭をなでなでする。
「あ、あ……あ……」
ピピピピピッ!
くくりちゃんの心拍数が軽くボーダーラインを超える。
つまりミッションクリアならずだ。
「それでは審査委員長、ペナルティをお願いします!」
さーてと、本気の白銀あくあ行きます!
来いっ! カノーーーーーン!
「んんっ」
びっくりした顔をしたカノンが両腕で自分の体を抱きしめる。
あれ、一体、どこが振動しているんだ?。
「ちょ、あくあってば……もう! あくあのばかー!」
涙目になったカノンをナタリアさんが慰める。
なんかよくわからないけど、いいですね。
それに、ヴィクトリア様との姉妹もいいけど、この2人の擬似姉妹関係もたまらない。
「あ……あの、あくあ先輩……」
くくりちゃんが涙ぐんだ目で俺を見つめる。
ああ、ごめん。ずっと頭をなでなでしたまんまだったね。
俺はくくりちゃんをそっと優しく解放する。
「それでは教師チームから代表の杉田先生お願いします!」
「ちょっと待て、なんで私だけ指定した!?」
観客席から大きな笑い声が起きる。
杉田先生は覚悟を決めたのか、なんとも言えない顔でゆっくりと近づいてきた。
「白銀……どうだ? ドキドキしたか?」
俺の心拍数が一定のリズムを刻み続ける。
はぁ……先生、ふざけてるんですか? 今時それじゃあ、小学生だって冷めた顔をしますよ。
「くっ……! な、ならこれでどうだ!?」
杉田先生は前向きに屈んで更にアピールする。
いやね、杉田先生、こんなんじゃ俺だって反応したくてもできませんよ。
ぴこーん。
いや、普通にしたわ。ボーダーラインは超えなかったものの心拍数が多少上昇する。
くっ、俺の心臓、女の子に弱すぎ説の立証完了!!
「ぐぬぬ。仕方ない! それじゃあこれでどうだ!!」
杉田先生がゆっくりと俺の方に近づいてくる。
しかし、長い自分の尻尾を間違えて踏んで躓いてしまう。
「あっ! 悪い白銀」
くそおおおおおおお! まただよ。また、俺の心拍数がボーダーラインを簡単に突破しちまった。
女の子が近づいて来ただけでドキドキしてしまう自分が情けないよ!!
俺は杉田先生を抱き止めた後に、勢いよくお気持ちボタンを押す。
「さすがデース。杉田先生」
「杉田先生、ナイス!」
「うう……」
恥ずかしそうな顔をした杉田先生が尻尾を持って舞台袖に引っ込む。
どうやら舞台袖で待機していたえみりにもう一度尻尾を装着してもらうみたいだ。
俺の位置から、キリッとした顔で杉田先生の服に尻尾を装着するえみりの顔が見えた。
「2年生代表チームと教師チームがこれで1つ、ミッションクリアですね。それでは2つ目のミッションにいきたいと思います」
司会の先輩が再びくじを引く。
「2つ目のミッションは……3年生からですね。一度でいいからあくあ君のこと甘やかしてみたいです。だから、私の代わりにあくあ君を甘やかしてください!」
俺は表情筋を一つも動かさずにお気持ちボタンを押す。
ピピピピピッ!
おっと、想像しただけで心拍数がボーダーラインまで跳ね上がってしまったらしい。
俺は一旦タイムを取ると、心を落ち着けて心拍数を元の基準に戻す。
「これいいわね。あくあの誤魔化しが効かないから家でもつけて貰おうかな」
「カノンさん、それあり」
ん? カノン、アヤナ、2人でヒソヒソ話ししてたけみたいだけど、どうかした?
「それでは0ポイントの1年生代表チームから、まだ解答してない人が前に出てください」
1年生は……ヒスイちゃんか。
ヒスイちゃんってこう……なんか、男からしてそそる体つきをしてるんだよな。
俺が知っている未来の彼女より少しふっくらしているというか、病気が治った事もあって健康的な体型をしている。それがまた少し男の目線から見るとお腹周りとかおへそがエロくてたまらない。
「えっと……あくあ先輩はどうやって甘えたいですか?」
そうか。会話していいんだから、これも有りか。
俺は少し考えた後に、ヒスイちゃんに素直な気持ちを伝えた。
「……抱きしめて頭をヨシヨシしながら、頑張ったねってたくさん褒めて欲しいです。後、できればあくあ君って言ってください」
「わ、わかりました」
ヒスイちゃんはソファの上に膝を乗せると、俺の体をギュッと抱きしめてくれた。
「よしよし、あくあ君。今まで1人でいっぱい頑張ったね。えらいよ。本当に頑張ったね」
あ……あ、あ……。
ヒスイちゃんに抱きしめられた瞬間に、俺の感情が強く揺れ動かされる。
俺は、俺は……前世で貴女に会って、貴女に憧れてアイドルになったんです。
「こんな俺でも……誰かのために何かできてますか? 俺は……誰かを救えてますか? 俺はちゃんとアイドルをやれてますか?」
ヒスイちゃんは少しびっくりした後に、優しい顔を見せる。
「できてるよ。だって、あくあ君は私のクラスメイトの音さんを助けてくれたじゃない。ありがとう。あくあ君。あくあ君は誰よりもアイドルだよ。だってあくあ君は、こんな学校のイベントだって手を抜かずに、みんなを笑顔にしてくれてるんだもん」
心拍数はとっくの昔にボーダーラインを突破している。
俺はヒスイちゃんに「ありがとう」と呟いた。
「あ、あの……あくあ君じゃなくてあくあ先輩、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だよ」
俺は片手で両目を押さえると、心拍数を落ち着けて涙が引っ込むのを待つ。
前世で尊敬されていた人から、頑張ったよって言われるとこんなにも嬉しいものなんだな。
これからも改めて頑張ろうと思った。
「それでは既に1ポイントを獲得している2年生代表チームから、代表者の方は前に出てください!」
2年生チームからアヤナが出てこようとしたところで、クレアさんが手で制止して自らが前に出る。
くっ、せっかくの感動が一瞬で吹き飛ぼうとしているように思えるのは俺だけか?
「あくあ君……」
クレアさんはソファに座った俺の上に腰を下ろす。
ちょ、ちょ、ちょ! クレアさん!?
「今からあくあ君の事を甘やかしていいですか?」
こんな肉食獣な羊さんがいてたまるかあああああああああああああ!
そして、俺の大好きなメリーさんに謝ってくれえええええええええ!
と、俺は心の中で絶叫しながら、心拍数のボーダーラインを呆気なく超えていく。
「ク、クレアしゃんつよしゅぎぃるぅぅぅうううううう!」
司会の先輩が目をぐるぐると回しながら絶叫する。
「新しい生徒会長の誕生だ!!」
「全生徒に格付け完了済みと」
「あくあ君関連で格付け完了させたのって正妻様とゆかりゴンに続いて3人目かー」
「つまり格付け四天王の枠が1人空いてると!?」
「実母のまりんさんに期待」
「いやいやそこは杉田先生でしょ」
「いや、天鳥社長もいるし……」
「誰かアヤナちゃんやくくりちゃん様にも期待してあげて」
「いや、森川なら……」
「あいつは違う意味での格付けだろ」
「それにしても、クレアさん強すぎ……」
「もはや、ぐうの音も出ない」
「現生徒会長のナタリアさんが頭抱えてて草」
観客席からクレアさんに生温かい拍手が送られる。
「次はオールスターチームから代表者さん、お願いします」
代表はナタリアさんか。
クールなナタリアさんに灰猫のコスプレがよく似合ってる。
俺はお気持ちポイントを入れる。
「くっ、生徒会長として負けるわけにはいかない……!」
「えっ?」
ナタリアさんは俺の隣に座ると、俺の頭をそのまま自分の膝の上に乗せた。
やったああああああああああ! クールな猫さんの膝枕だああああああああ!
ぴこーん、ぴこーん。
くっ! 俺は心拍数を抑えてボーダーラインを超えないギリギリのところで耐える。
「いっぱい、甘えていいにゃん」
そう言ってナタリアさんは、俺の頭を優しく撫でる。
ピピピピピッ!
無理だ。これでドキドキしなきゃ漢じゃねぇ。
俺は女の子の前でスカした男にはなりたくない。
女の子に対してストレートに自分の気持ちを表現する素直な男になりたいんだ!
「あ……」
後ろのモニターを見たナタリアさんがガックリと肩を落とす。
「えーと、ほんの少しですがナタリアさんの心拍数の方が先にボーダーラインを突破しました。という事でナタリアさんの負けです」
つまりイタズラしていいって事ですか!?
俺はスッと体を起こすと、ウキウキした気持ちでえみりから手渡されたコントローラーを握る。
さーてと、どのボタンを押そうかな?
「ちなみに同じボタンを押すのはダメです」
という事は、さっきのボタンは押せないって事か。
俺はじっくりと吟味した後に、これだと思うボタンをポチッと押す。
「んっ……」
やったああああああああああああ!
ナタリアさんが急な振動にびっくりした顔をする。
いいねいいね。ナタリアさんのびっくりした顔が可愛くて止めたり動かしたりを繰り返す。
「あくあ、ストップ! それ以上はだめ!」
「あっ」
カノンは助け出したナタリアさんを慰める。
ごめんね。ナタリアさん。調子に乗ってボタンを何度も何度も小刻みに押しちゃった。
「残念でしたねー。それでは先生チームから代表者の方、前にどうぞー」
「ここは私がいきマァス!」
ウサ耳をつけた七星先生が前に出てくる。
くっ、この時点でもう心拍数が上がってやがるぜ。
「あくあ君。私にいっぱい甘えてくだサァイ!」
後に白銀あくあは白龍アイコ先生執筆の自伝「あいどるのおしごと」の中でこう語ったそうだ。
秒だったね。
と……。
「やったー! 杉田センセイ、根本センセイ、勝ちましたデェス!」
そもそもこの俺がビッグバンな七星先生に勝てるわけがないんだよな。
女の子に弱い事で定評のある白銀あくあさんを舐めちゃいけない。
七星先生の巨大なブラックホールに吸い込まれそうになった時点でもう勝敗は決していた。
ステイツは危険だという言葉が俺の脳みそに深く刻まれる。
「ここで早くも2チームがリーチです! それでは3つ目のミッションを発表したいと思います」
司会の先輩が再びくじを引く。
「最後はな、ななななんと、2年A組のS君からの希望で、何をしてでもいいのでドキドキさせてください。との事です!!」
俺は顔を横に背けると口笛を吹いて誤魔化す。
100%俺だけど、俺じゃないって顔をしてなんなら黛かもしれないって雰囲気も出しておく。
だって、あいつも一応イニシャルSだしな!!
「リーチがかかったので、次からは年齢順ではなくポイント順でいきたいと思います。ここまで0ポイントのオールスターチームから白銀カノンさん、前に出てください」
白猫のカノンは恥ずかしがりながら、前に出てくる。
その姿が可愛くて俺はお気持ちボタンを一つ押した。
「え、え〜と……」
カノンはソファに座った俺の前に立つと、前屈みになって俺のおでこに軽くキスをした。
んっ! 可愛い!! でも、それじゃあボーダーラインは上がらないな。
「カノン、おいで」
「ふぇっ?」
俺はカノンの腕を掴んで自分の膝の上に乗せると、首筋にちゅっとキスをした。
「ちょ、あくあ、ダメだってば!」
たったこれだけの事でカノンは、心拍数のボーダーラインを超えてしまう。
「あくあのばかぁ。帰ったら1時間……は無理だから、10分くらい口聞いてあげないんだからぁ!!」
たった1時間ていうか、それも耐えきれずにたった10分かよ!!
可愛すぎて俺の心拍数が一気にマックス超えたわ!!
やっぱりカノンは油断すると一気に持っていかれるな。
「というわけで審査委員長、ペナルティをお願いします」
やったー!
これかな? それともこっちかな?
俺はじっくりと吟味した後に、意を決してボタンを押す。
「あ……だめ、あくあ」
「カ、カノン……?」
膝の上に乗ったカノンが俺の体をギューっと抱きしめる。
おおおおおお! 結構振動するなこれ。
振動で俺はボタンを何度も押してしまう。
「んっ、だからダメだって」
カノンと俺の体が小刻みに震える。
「あくあ様、それ以上はカノポンがかわいそうです」
「あ、うん」
カノンが助けに来たえみりが泣きつく。
この2人の姉妹感もいいんだよな。
「あくあ様あくあ様、カノンが帰ったら20……え? 20は長すぎて私が無理? コホン! 家に帰ってきたら15分は口を聞かないそうです!」
「俺の嫁、世界一可愛いかよ!!」
俺はお気持ちボタンを叩き潰して完全に破壊した。
無茶しやがって……。お前の事は絶対に忘れないからな!
「それでは1ポイントの1年生代表チームから加藤イリアさん、お願いします!」
イリアさんが前に出てくると、俺の手を引っ張ってソファから立ちあがらせる。
一体、何をするつもりなんだろう? と思っていたら、イリアさんが俺の体を両腕ごと抱きしめてきた。
なるほど、これで俺をドキドキさせようって事か……って、あれ? なんかキツくない?
「あくあ君に、私のほ・ん・き、見せてあげる! ふんぬらばっ!」
いてててててててててっ!
イリアさんに抱きしめられた俺の心拍数が爆上がりして、ボーダーラインを一気に超える。
「おめでとうございます。1年生代表チームこれでリーチです」
可愛いたぬきだと思って油断してたら、パワーは完全にゴリラだったわ。
さすがはパワー教、誰もやらないやり方で俺をドキドキさせてきたぜ……。
「それでは2年生代表チームから月街アヤナさん、お願いします!!」
狼コスのアヤナが前に出てくる。
「えっと……よしよし、よしよし」
爪先立ちしたアヤナは、頑張って手を伸ばして頭をなでなでする。
だから、可愛いかよ!!
さっきとのギャップで癒された俺はアヤナの体をぎゅっと抱きしめた。
「ちょ、あくあ、待って。そんなに体を持ちあげられたら、私の尻尾が落ちちゃうって!」
アヤナの心拍数が一気に上がってボーダーラインを超える。
やっぱりカノンとアヤナはいいな。この2人からしか摂取できない純粋な何かがある。
「それでは審査委員長、ペナルティをお願いしまーす」
「はーい!」
俺はボタンをポチッと押す。
すると、クレアさんのつけてる耳……じゃなくて羊のツノがぐるぐると回転した。
ははっ! これいいな。可愛いじゃん!
「……」
あれ? クレアさんはなんでそんな不満そうな顔をしてるんですか?
普通に可愛いのに……。
「それでは最後に教師チームから根本先生、これをクリアすれば教師チームの勝利確定です!」
最後はねぇねか。
ねぇねが前に出て来た時点で、俺の心拍数はスレスレだ。
「あくあ君。先生と保健体育の授業しよっか」
勝負は一瞬だった。俺の心拍数が簡単にボーダーラインを突破していく。
「おめでとうございます! 最終審査は教師チームの勝利です!!」
いや、無理だわ。最後は耐えることすらも許されないほどの完全敗北だった。
「ええっと、ここまでの審査でこれまでそれぞれのチームが1勝ずつしたのかな? 甲乙つけ難い結果になりましたね。あっ、特別運営委員の雪白えみりさんが出てきました」
舞台袖から出てきたえみりは神妙な面持ちでマイクを握る。
「あー、テステス、テステス! えー、皆さんからのオンライン投票、お気持ちポイント、これまでの勝利数など、いろいろ鑑みた結果、なんやかんやで全てが同数でした。というわけで、審査委員長、最後に審査委員長がミス乙女咲にふさわしい人を指名してください!」
俺はソファから立ち上がると、中央のマイクがある位置まで移動して、周りをぐるりと見渡す。
素晴らしい。気がついたら、観客席にいるみんなも下着姿になったり、全裸になっていた。
「君が、君達が俺にとってのミス乙女咲だ! 1年生だろうと、2年生だろうと、3年生だろうと、教師だろうと、用務員や事務員、給食のお姉さんだろうと関係ない!! みんなが俺のミス乙女咲だ!! おめでとう! そして、参加してくれたみんなも、運営のスタッフのみんなも、なんかもう全部やってくれたえみりも、俺のために本当ありがとう!! みんな愛してるぞ!!」
俺の演説に、黄色い悲鳴と大きな拍手が送られる。
こうして俺にとって2度目の文化祭が無事に終わった。
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