白銀あくあ、俺による俺のためだけのミスコン開催。
ついにこの日がやってきたか……。
舞台袖で待機していた俺は、精神を集中させてはやる気持ちを抑える。
何故なら今から文化祭の最後を締めくくる最後のメインイベント、私立乙女咲学園高校のミスコンが始まるからだ。
「それでは2年連続で文化祭のMVPにしてミスコンの名誉終身特別審査委員長、白銀あくあさんの入場です! みなさん、どうか大きな拍手で出迎えてあげてください!!」
俺が舞台袖から手を挙げて出ると、体育館に詰めかけたみんなが暖かな拍手で出迎えてくれる。
うっ、うっ、今年も文化祭を頑張って本当に良かった……!
俺はグッと嬉し涙を堪えて、みんなに両手を振って満面の笑顔を見せる。
よーし、男子のみんなはもう帰ったし、ここからは俺の、俺による、俺のための文化祭の開催だぁっ!!
「白銀ーーーーー! あまり、羽目を外しすぎて救急車を呼ぶような事態にしてくれるなよーーーーー!」
杉田先生の声を聞いたみんなが笑い声を上げる。
だ、大丈夫ですって。俺だって少しは自重しますから。
「えー、ミスコンの開催前に、ここで実行委員会の雪白えみりさんからお知らせです」
舞台袖からえみりが出てくると大きな歓声が起こる。
それに対してえみりは綺麗なお辞儀を返す。
「えー……本来、ミスコンにノミネートされていたのは8人ですが、それでは勿体無い! もっとノミネートさせた方がいいんじゃないかと、白銀あくあ終身名誉……なんだっけ? えー、とりあえず審査委員長の方から、もっと見たいから増やしてほしいと言われたので、急遽、ノミネートを増やす事になりました! それと、人数が増えた事で今回は従来のナンバー1を選ぶ方式ではなく、チーム対抗戦にしたいと思います!」
うおおおおおおおおおおおおおおお!
やったあああああああああああああ!
俺は用意された豪華なソファーから立ち上がって大きな拍手な送る。
「もちろん優勝したチームには豪華な賞品を用意しているので頑張ってくださいね。それと、投票してくれた人の中から抽選で素敵なプレゼントが当選するようになっています。こちらは、予想が当たっても外れても当選する可能性があるので、みなさん自由に投票してくださいね!!」
これはコンテストを公平にするためだ。
予想を当てた人しか当選しないシステムにすると、カノンとかに投票が集中する可能性がある。
だから予想を当てても外しても賞品が当たるシステムにした。
「それでは改めて第二回ミスコンにノミネートされた皆さんと、チーム分けの一覧をください!!」
俺は後ろにあるスクリーンへと顔を向ける。
【1年生代表チーム:祈ヒスイ、音ルリカ、加藤イリア】
【2年生代表チーム:黒上うるは、千聖クレア、月街アヤナ】
【オールスターチーム:白銀カノン、皇くくり、ナタリア・ローゼンエスタ】
【オール先生チーム:杉田マリ、七星エレナ、根本音子花】
素晴らしいラインナップだ。
ありがとう、えみり。えみりは本当によく頑張ったよ。
「ちょっと待て!? なんで私や七星先生、根本先生がラインナップされているんだ!?」
「ええ!? わ、ワタシですか!?」
「ちょ……待って! そんなの聞いてないんだけど!?」
「まぁまぁ、3人とも詳しい話はこちらで……ぐへへ」
戸惑う3人の先生達をすかさずえみりが確保する。
頼んだぞ。えみり。あとは任せた!!
たとえ相手があの杉田先生でも、えみりなら絶対になんとかしてくれるという謎の信頼感がある。
「えっ? なんで!? 私だけ!?」
同じく急遽ノミネートされたうるはの元にココナとリサの2人が近づく。
「だって、先生達に対抗するためには、うるはちゃんが必要なんだもん」
「そうですわ。私達の大きさではみなさんの助けにはならないんですもの」
どうやら勘のいいココナとリサは、えみりが裏でコソコソと準備していた事に気がついていたみたいだ。
だから2人は七星先生やねぇねに対抗するために、おっぱい枠としてうるはをノミネートさせたのだろう。
「え〜、それでは今、呼ばれた皆さんは舞台袖に移動して水着姿になってください」
「「「「「「「「「「「「えええええっ!?!?」」」」」」」」」」」」
ノミネートされた12人が驚きの声を上げる。
「みなさん、ご安心ください。文化祭最後のイベントであるミスコンの配信はありません。つまり、みなさんの水着姿を見られる男子はあくあ様だけとなっております!!」
「あ、あくあだけなら……」
「それなら、まぁいっか……見られてもあくあ君だけだし」
「うん。恥ずかしいけど、あくあ君になら……」
ありがとう。本当、みんなありがとう。
俺は心の中で滝のような涙を流す。
みんなが俺にだけ甘くて優しい世界で本当に嬉しいよ。
「それでは最初の対決内容はこちらです!!」
俺は後ろのスクリーンへと視線を向ける。
【落としたら負けだよ! ビーチボール対決!】
きたあああああああああああああ!
俺は両手を振り上げてガッツポーズを決める。
「ルールは簡単、十字型の特殊なネットで区切られたスペースを使って、各チームから選ばれた代表2名によるビーチボールをしてもらいます。ボールがコートに落ちた時点で、落ちたコートの人から1名、退場してください。また、アタックしたボールがラインを超えてアウトになった場合は、ボールを外に出した人が退場するルールになっています」
なるほどなるほど。
4チームに分かれた水着姿の女の子2人が十字のネットを挟んでビーチボール対決をするわけか。
もちろん試合に使うビーチボールは競技用の硬いやつじゃなくて、海水浴でよく使われる空気で膨らませる柔らかいやつだ。
「それでは1年生代表チームの入場です! みなさん、盛大な拍手で出迎えてください!!」
うおおおおおおおおおお!
エメラルドグリーンのビキニを着たヒスイちゃんと、ピンクの可愛いワンピースタイプの水着を着たイリアさんを見て俺のテンションがマックスになる。
まさか前世で憧れだった人の水着姿が見られるなんてな……。この感動を誰かに伝えられないのが残念だ。
それにイリアさんも気合が入ってるな。横の部分の生地がなくて、その分、黒の大きなリボンで止めてあるのが小悪魔的ですごくセクシーだ。
「次は2年生代表チームから黒上うるはさんと、月街アヤナさんです!!」
最高かよ……。セクシーな紫色のシンプルなビキニを身につけたうるはが先陣を切って出てくる。
こんな大人すぎる水着が似合うJKなんてうるはくらいだぞ……。セクシーオーラが半端ない。
うるはの後ろからアヤナが両手で水着を隠しながら、恥ずかしそうに入場してくる。
って、アヤナァ!? そ、そ、その水着はどうしたんだ!?
俺の視線に気がついたアヤナが顔を真っ赤にして睨みつける。
「仕方ないでしょ! 用意されていた水着がこれだったんだから!!!!」
いやいや、流石にこれは予想外だったけど、普段から着用しているスクール水着は俺的にすごくポイントが高い。
俺はアヤナを讃えるために、近くにあったボタンをポチッと押す。
「おおっと! ここで審査委員長からお気持ちポイントが入りました! ちなみにお気持ちポイントは特に意味はありません。単純に審査委員長からのお気持ち表明ボタンみたいなものです」
「意味ないならいらないよね!? それって、ただ単に押された方が余計に恥ずかしいだけじゃない! あくあのばかー!!」
さすがはアヤナだ。キレの良すぎるツッコミにみんなが爆笑する。
「それでは気を取り直してオールスターチーム、又の名をロイヤルプリンセスチームから、白銀カノン、ナタリア・ローゼンエスタの擬似姉妹選手の入場です!!」
「カ・ノ・ン! ナタ・リア! カ・ノ・ン! ナタ・リア!」
俺は立ち上がって1人で絶大なコールを送る。
おお……先頭で出てきたナタリアさんは青い水着か。
手足が長くてカノンよりもクールに見えるナタリアさんが着ると、なんかこう、すごいな。
骨格からして細く見えるナタリアさんだけど、膨らみのサイズがうるはと同じなのは反則がすぎる。
その後ろから純白のビキニを着たカノンが恥ずかしそうに出てきた。
もはや感想なんていらない。俺は無言でお気持ちボタンを連打した。
「それでは最後に先生チームからはこの2人だぁ!!」
でっ!?
星条旗柄の水着に身を包んだ七星エレナ先生を見て俺の体が嘘みたいに吹っ飛ばされた。
こ、これが、一部の強者だけ持ち得る覇者のオーラ、覇王パイのオーラってやつか。
はっきり言って次元が違いすぎるにも程がある。これに対抗できるのはマナートさんか、自称Pのペゴニアさんくらいだろう。その大きさに敬意を表して、ビッグバンパイとでも名前をつけようか。
俺はステイツという大国が見せた片鱗に体を震わせた。
「ううっ、なんで私まで……」
「杉田センセイ、恥ずかしがらないでくだサーイ!」
七星先生は、後ろに居た杉田先生を前に出す。
やったああああああああああああああああああ!
美人すぎる担任の先生が黒の紐ビキニとか、最高にも程があるだろ!!
「杉田先生ーーーーー!」
「我々教師は先生を応援してますからー!!」
「今こそ、我らが教師の絆を団結させる時!!」
「おい! もっとみんな声出せ! わけー生徒達に負けるな!!」
「七星先生、杉田先生! 大人の強さを生徒達にわからせてあげてください!!」
先生達の登場で乙女咲の教師陣が盛り上がる。
それに対抗するように、生徒達も先に出てきた3チームに対して大きな声援を送った。
「それでは、みなさん準備できましたね? プレイボール!」
空中から落とされたビーチボールがネットの十字になった部分に当たって跳ねる。
「うるはちゃん、来たわよ!」
「任せて、アヤナちゃん!」
ネット際に転がってきたボールをうるはが跳ね返す。
しかし、その動きの反動で、うるはの体がネットに引っかかった。
うおおおおおおおお! 最高だああああああああ!
「んっ、やだぁ。もう、なんでこうなるの! お願い。アヤナちゃん!」
「任せて!」
スク水で軽快な動きを見せるアヤナが高く上がったボールをジャンプして叩く。
おーっ! これは素晴らしい。ありがとう、アヤナ。ありがとう、水着を用意してくれたえみり!!
「行きますよ。七星先生!」
「任せてくだサーイ!」
さすがは運動部の顧問をしているだけあって、杉田先生のレシーブは綺麗だな。
高く上がったボールを英語教諭の七星先生が叩き落として強烈なスパイクを決める。
くっ! 七星先生がデカすぎて、ビーチボールが三つに分裂したように見えるぜ。なんて魔球だ!!
「ヒスイさん、行きましたよ!」
「任せてイリアさん!」
ヒスイちゃんが素晴らしいレシーブでボールをふわりとあげる。
ううむ。完璧な返球だ。
「勝負よ。アヤナちゃん!!」
さすがはパワー教のイリアさんだ。
すごい勢いのサーブがアヤナに向かって飛んでいく。
しかし、アヤナの体の横を通り過ぎたボールが、線の外に落ちて跳ね返る。
「アウト! 加藤さんは退場してください」
「ふぇっ!? そんなぁ……完璧だと思ったのに」
イリアさんはガックリと肩を落とす。
はっきり言って、イリアさんは俺が見てるから手を抜くと言ったら語弊があるけど、もっと女の子らしいプレイをするのかと思った。
でも、対戦相手にアヤナが居たから、イリアさんは手を抜かなかったんだろう。
そのおかげで、普段は俺の目の前であまり見せてくれない本当のイリアさんを見れた。
俺はお気持ちボタンを押して、イリアさんの健闘を讃える。
「ヒスイさん、ごめんなさい」
「大丈夫大丈夫! あとは私に任せて!」
イリアさんがアウトになった事で、1年生代表チームがヒスイちゃんだけになる。
サーブ権を与えられたヒスイちゃんは、迷わずカノンに向かってサーブを打つ。
「ごめんね。カノン先輩。これも勝負だから!」
「そう来ると思っていました!」
ヒスイちゃんがサーブを打ってくる事を読んでいたナタリアさんがカノンの前に入る。
おお、まるで姫を守る女騎士のようだ!!
ナタリアさんが上手にレシーブでボールを空高くあげると、それをカノンが優しくトスをする。
「はぁっ!」
おお……なんて美しいんだ……。
ナタリアさんは空高く飛ぶと、長い手足を使って体をしならせる。
そこから繰り出されたサーブが1人になったヒスイちゃんを襲う。
「悪く思わないでくださいね」
「くっ!」
おお! すごい!!
ヒスイちゃんはおっぱいを弛ませながらもボールを高くレシーブすると、一呼吸整えるようにその場で何度もふわりとトスをあげる。
ちなみに特別ルールで1人になった場合は、何度もトスをあげてその場でキープができるようだ。まぁ、そうじゃないと1人になった時点で負けだもんな。
「それじゃあ、これはどうかな?」
ヒスイちゃんは高くトスをあげると、大きくジャンプしてスパイクを打つ。
おおっ! 激しいスパイクかと思ったら、直前でストップをかけてふわりとしたスパイクを落としてきた。
ネットに掠ったスパイクが予想外の方に転がると、そのままネットをつたって落ちてくる。
「あ……だめぇ!」
うるはがネットに絡まりながらもなんとかレシーブを上げようとするけど、自分の膨らみにボールを当てて叩き落としてしまう。それを見た俺は、すぐにお気持ちボタンを押した。
「ごめん。アヤナちゃん!」
「ううん。私の方こそ、すぐにカバーに入れなくてごめん」
ええっと、ボールが落ちた時は、落ちたチームから1人退場者を選ばなきゃいけないのか。
ただ、今回はボールを落としたうるはがそのままアウトするようだ。
サーブ権をもらったアヤナは周囲を見渡すと、先生チームに狙いを絞ってサーブを叩き込む。
狙うなら1人のヒスイちゃんの方が簡単だろうけど、1人チームが自分だけになると狙われる可能性がある。
そう考えると2人チームを狙った方がいいだろう。2人チームからすると、もう1人のチームを1人にすると、自分のチームだけが2人になりかなりのアドバンテージを取れるからだ。
「あっ、スミマセーン!」
レシーブの目測を誤った七星先生が自分のボールでボールをレシーブする。
その瞬間、俺の右手が思考よりも先にお気持ちボタンを押した。
「大丈夫です。任せてください、七星先生!!」
杉田先生はやっぱり運動神経がいいだけあって、スパイクの動きも様になってるな。
それに加えて健康的な体と黒のビキニの組み合わせはが最高にたまらない。
「ふっ、させません!」
今度もまたナタリアさんが綺麗なレシーブでボールをポーンと上げると、カノンが優しくトス……せずにツーアタックだとぉ!?
カノンは七星先生のレシーブが乱れた事で、杉田先生が無理な体勢でスパイクを打ったのをよく見ていたのだろう。スパイク直後で体勢の崩れた杉田先生のところにボールが落ちる。
「くっ!」
おおおおおおおお!?
杉田先生が手を伸ばすと、地面ギリギリのところで自分の掌にボールが落ちてくる。
「七星先生、頼みます!」
「任せてくだサーイ!」
七星先生が跳ね返ったボールを拾いに行く。
しかし、自分のボールが邪魔でボールを弾き返してしまう。
俺がお気持ちボタンを押すのと同じタイミングで、ボールが床に転がった。
七星先生は勢いがつきすぎたのか、そのままネットに体が激突する。
その瞬間、ネットに引っかかった七星先生が大変な事になった。
「ヤダ! ごめんなサイ……」
俺はお気持ちボタンを連打しながら立ち上がる。
こういうのをずっとずっと待っていたんですよ。
ありがとうございます。七星先生!!
「手伝いますよ。七星先生」
「あ、ありがとうございマス……」
俺はネットに引っかかった七星先生を救出する。
その際に少し事故があったけど仕方がないよな。うんうん、仕方ない。仕方ない!!
「杉田先生、すみまセン……」
「大丈夫だ。七星先生、あとは私に任せろ!!」
七星先生がコートから出る。
いやぁ、本当に素晴らしかった。
俺は拍手の代わりに再度お気持ちボタンを連打する。
「悪いが狙わせてもらうぞ!!」
サーブ権を得た杉田先生はカノンとナタリアさんのチームを狙う。
今回もナタリアさんがなんなくレシーブを上げると、カノンが優しくトスをしてナタリアさんがスパイクを打つ。
やはりここのチームは連携が安定しているな。
「はっ!」
狙われたヒスイちゃんがボールをうまくレシーブすると、1人でスパイクまで持っていく。
もちろん狙うのはまたカノン達だ。こうなった以上、残った1人チームは他の1人チームが脱落する前に、2人チームから1人を脱落させないと後でジリ貧になるのがわかっているからだろう。
「カノン!」
「任せて!」
それにしても、久しぶりにカノンの水着姿を見たけどすごいな。体型といい妊娠する前、それこそ結婚した時から何一つ変わっていない。
出産したらイチャイチャしようと俺が宣言していた事もあって、体型を戻すために相当頑張ったんだろう。
「あっ!?」
ナタリアさんのスパイクがネットに当たって勢いが落ちた状態で相手のコートに跳ねる。
すると、それを見たアヤナがダイレクトでカノンにボールを返す。
カノンは突然の事で準備ができていなかったんだろう。レシーブしたボールがそのままヒスイちゃんの方に跳ね返る。すると、ヒスイちゃんはダイレクトでそれを叩き返した。
「ごめん、ナタリア」
「いえ、さっきのは私のミスです。チャレンジしなくていい場面で無茶をしてしまいました」
出産明け1ヶ月のカノンがここでコートから出る。
久しぶりにちゃんとした運動で汗をかいたおかげだろうか。カノンはアウトになったけど、すごく嬉しそうな顔をしていた。俺はカノンにドロドロに甘いのでお気持ちボタンを連打する。
すると、舞台袖からえみりがブーイングしている声が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。あのえみりがカノンにブーイングするわけなんてないしな!!
「行きますよ!」
ナタリアさんが杉田先生に向かってサーブを放つ。
相変わらずすごいスパイクだ。でも、杉田先生も負けずとボールをレシーブする。
ここからみんなおっぱいを揺らしながらの激しい攻防が続く。
おっ……ボールを追いかける俺の視線も忙しくなる。
しかし、ここでヒスイちゃんが動きを乱してしまう。
ボールをうまくレシーブするも、勢いがつきすぎて審査員席にいる俺のところにダイブしてきた。
「あっ!」
俺は咄嗟にヒスイちゃんの体をしっかりと抱き止める。
ありがとう。本当にありがとう!!
「ご、ごめんなさい〜〜〜! あくあ先輩、だ、大丈夫ですか? あっ、鼻血が……」
「大丈夫大丈夫。これはぶつけた時に出た鼻血じゃないから」
俺は推しの事をそういう目で見てないから!
なんて事を言う人がいるが、俺は違う。
推しとハグして嬉しくないなんて事は絶対にない!!
むしろ、俺が顔全体でヒスイちゃんの体を優しく受け止めたおかげで、推しが怪我しなくてよかった。
俺はヒスイちゃんに優しく鼻血を止めてもらう。
「えー、実行委委員会です。只今、審査委員長の止血中です。しばらくお待ちください」
これで残ったのはアヤナとナタリアさん、それに杉田先生の3人だけか。
思ったよりアヤナが健闘してるな。ぶっちゃけ、アヤナが一番最初に脱落するかと思ったけど、スク水だったおかげで他よりも動きやすかったのが功を奏したのかもしれない。
「それでは試合再開です」
俺の止血で休憩時間ができたおかげだろうか。
体力が回復した3人が長いラリーを続ける。
しかし、ここでとんでもないトラブルが起きた。
「きゃっ!」
ナタリアさんが長い手足を生かすように体を大きく逸らした瞬間に、水着のホックが外れそうになった。
咄嗟に体を抱きしめたナタリアさんは、スパイクをせずにボールを床に落としてしまう。
「み、見た……?」
俺は無言でお気持ちボタンを押す。なぜなら紳士に言葉はいらないからだ。
やっぱり、えみりはすごいな。こんな便利なものまで準備しておいてくれるんだから。
「ううっ……」
「大丈夫だよ、ナタリア。こっちからは全然見えてなかったから」
俺はカノンとナタリアさんの美しい擬似姉妹愛にお気持ちボタンを押す。
これで残ったのは2年生代表チームのアヤナと、オール先生チームの杉田先生だけだ。
ナタリアさんのコートにボールを入れたアヤナのサーブから最後の試合が始まると、2人は激しい攻防を繰り広げる。
「アヤナちゃん、がんばれー!」
「杉田先生! 担任の意地を見せてください!!」
「負けるな、アヤナちゃん!!」
「す・ぎ・た! す・ぎ・た!」
最初は杉田先生が優勢で激しいスパイク攻めを返すのが精一杯だったアヤナだけど、徐々に体力面で劣る杉田先生の動きのキレが無くなっていく。
俺も2人の激しい戦いに、その光景に目を奪われた。
「あっ!」
勝負に焦った杉田先生のスパイクが強すぎて、明らかにラインの外へと向かう。
アヤナはそのスパイクを微動だにせずに見送る。
「私の負けか……良くやった。月街。いい勝負だったぞ」
いい勝負だった。
俺は大きな拍手を送る。
「というわけでこの試合の勝者は2年生代表チームです!!」
俺は第一審査で勝利したアヤナとうるはの手を掴むと上に挙げる。
「やった!! うるはちゃん、私やったよー!!」
「う、うん。そうだね。アヤナちゃんありがとう」
あー、うん。うるは、こっちをチラチラ見なくてもわかってるよ。その事なら俺に任せてくれ。
俺はアヤナに顔を近づけると、そっと耳打ちをする。
「アヤナ……すごく言いづらいんだが、汗染みができてるぞ……」
「えっ!?」
アヤナは汗染みができた自分の水着を見て顔を真っ赤にする。
「もおおおおお! それなら早く言ってよ!! あくあのバカあああああああ!」
アヤナは逃げ出すようにステージから走って舞台袖に引っ込む。
カノンやナタリアさん、ヒスイちゃんや杉田先生、みんなが汗ばんだ自分の体を見ると、アヤナの後に続いて慌てるように舞台袖に下がっていった。
1人ステージの上に残された俺は、みんなの残り香をテイスティングしながら、ソファでゆっくりとくつろぐ。
さぁてと、次の審査は何かなぁ〜。俺はこの後の審査に期待して胸を膨らませた。
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