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小雛ゆかり、青少年の主張。

 全くもう! 只の喫茶店かと思ったら散々な目にあったじゃない!!

 やっぱり乙女咲はあいつが普通に通ってる学校なだけあって、そこに通ってる他の生徒も神経が図太いやつばっかりじゃない!!

 本当に、どうなってるのよ。この学校は!!


「小雛先輩、あっちにお化け屋敷がありますよ!」

「お化け屋敷なんてパスに決まってるでしょ!」


 ふん! あんたの事だから、どうせ、さっき入り口から顔を出した可愛い女の子に釣られたんでしょ!

 私には全部お見通しなんだからね!!


「そんな事を言って、本当は怖いんじゃないか?」

「せやせや! ゆかりちゃんは怖がりやもんなぁ!!」

「も〜! 2人とも、誰にだって怖いものくらいあるでしょ!」

「きゃ〜、あくあ様。イリア、お化けこわ〜い!」


 なんでよりにもよってこいつらがここにいるのよ!!

 私は目の前に現れた、楓、インコ、まろん、イリアのグループを睨みつける。

 って、イリアはナチュラルにあくあに抱きつくな! あくあもあくあで、イリアが可愛いからって、私と一緒に居る時に他の女の子にデレデレしてるんじゃないわよ!!

 言っておくけど、あんたに抱きついてるそこの女は、お化け如きでビビったりするようなか弱い女じゃないんだから!! むしろ楓とイリアならグーでお化けを撃退しちゃうわよ!


「ふん! わかったわよ!! そこまで言うなら行ってやろうじゃない! ほら、さっさと行くわよ!!」

「えっ? あ、ちょ……小雛先輩! 急に引っ張らないでくださいよ!」


 どうせ学生が作ったお化け屋敷なんて怖くないでしょ!

 私はあくあの腕を掴むと、イリアから引き剥がしてお化け屋敷の中に入る。


「あっ、あくあ様、待ってぇ〜!」

「おい、面白そうだし私達もついていこうぜ!」

「祭りだ祭り!」

「もう、みんな。ゆかりとあくあ君のデートを邪魔しちゃダメだってばぁ〜!」


 私達の後ろから、イリア、楓、インコ、まろんの4人がついてくる。

 ちょっと、なんであんた達までついてくるのよ!

 文句を言ってやろうと後ろに顔を向けたら、何かが私の顔にビターンと張り付いた。


「ちょっとぉ!? またぁ!?」


 この感覚は忘れもしない。夏休みの肝試しで私の顔に張り付いてきたコンニャクの感触だ。

 って、コンニャクの量が多すぎでしょ!! おかげで私の顔がヌメヌメになっちゃたじゃない!


「んっ。あくあ君。それ、コンニャクじゃなくて……あっ」

「あくあ君。こんな暗闇の中でそれはあかんで」


 ちょっとぉ!? あんたら、お化け屋敷の中で何やってるのよ!!

 もしかして、あのおバカがコンニャクと何かを間違えたんじゃないでしょうね!?

 もおおおおお! そんなの絶対にわざとじゃない!!

 まろんとインコの2人から引き剥がすように、私は掴んでいたあくあの腕をグイッと引っ張った。


「わふっ!」


 勢いがつきすぎて私の体にあくあの体が飛び込んでくる。

 もう! 急に引っ張った私が悪いんだけど、ちゃんと踏ん張りなさいよね!


「ここが天国ってやつか……小雛先輩、どうやら俺は死んだみたいです」

「死んでないわよ馬鹿!! しっかりしなさいよもう!!」


 ほら、さっさと抜けてゴールするわよ!!

 って、誰よ。私の背中を押してるのは!?

 私は文句を言ってやろうと後ろを振り返る。

 その瞬間、ライトに照らされたお化けの顔が私の目の前に現れた。


「うぎゃあああああああああああ!!」


 私は両手にグッと力を入れて自分の身を守る。


「うぐっ、小雛先輩にこっ、殺される……」


 あっ……私は慌ててあくあの首を解放する。

 ご、ごめん。もう少しであんたの事を本当の天国に送ってしまうだったわ。


「ぐへへ。雪白えみり全面協力のお化け屋敷は楽しんでいただけてますかぁ〜?」

「やたらとコンニャクが多いと思ったら、やっぱりあんたなんじゃない!!」


 後さっきのは怖いよりも先に、普通にびっくりするからやめなさいよね!!

 私はあくあを盾にして、その背後から背中をグイグイと押していく。


「って、私の後ろから背中を押してるのは誰よ!!」

「いや、そういう流れかと思って」

「ねー」


 なんであんたらは普通に私の後ろに並んでるのよ!

 私の事を散々煽っておいた癖に、えみりちゃんプロデュースだと聞いてみんな一斉にびびってんじゃない!!

 あくあ、私、楓、イリア、まろん、インコの順番で列をを作った私たちはずんずんと先に進んでいく。


「んんっ!」


 何よこれぇ! 横から飛んできたコンニャクがすっぽりと私の口の中に収まる。

 んぐっ、んぐっ、こんにゃくに変なひっかりがあって中々口の中から出てくれない。


「もう! なんでこんなにいっぱいコンニャクが……」

「ヌメヌメするし、もう、やーだー!」

「あかん。この展開、乙女ゲーで見たで!!」

「もぐもぐ。もぐもぐ。うめぇな。このコンニャク」


 ちょっとぉ!? 最後のやつ、何か普通に食べてなかった!?

 楓、あんたやばするでしょ……。

 って、ほら! もうゴールよ!!


「お、おっふ!」


 ちょっと、あくあ。どうしたのよ!?

 私は急に立ち止まったあくあを心配して、暗闇の中で目を凝らして前を見る。


「ふふっ、出ていっちゃダーメ」

「ね。お姉さん達と一生、ここで暮らそ?」

「ほぉら、あくあ君の大好きな大きなお姉さんお化け達だよ〜」

「暗闇の中だから恥ずかしがらずに色んな事していいんだよ?」


 ちょっと!! お化けに癖にうちのあくあを誘惑するんじゃないわよ!!

 私はお化け達の間に挟まったあくあを救出すると、強制的にゴールのある方向に引っ張っていく。


「しくしくしくしく、俺だけのお姉さんお化けさん達が……」


 もーーーーー!

 こいつってば、本当におバカなんだから!!


「あくあ君、泣かないで」

「よしよし、あくあ君。ゆかり、あくあ君を泣かせたらダメでしょ」

「これはもう、代わりにゆかりが慰めてあげるしかないんじゃないか?」

「せやせや。ナイスアイデアや。楓!」

「Y・K・R! Y・K・R!」


 手拍子するな。ばか!! ここの生徒はノリがいいんだから、すぐにみんなが真似するでしょ!

 って、声の数が1人多いなと思ったら、最後に手拍子してるのえみりちゃんじゃない!

 えみりちゃんも普通に混ざってんじゃないわよ!! もう!!


「帰ったら慰めてあげるから、ほら、行くわよ!」

「えっ? 今、なんて……」


 もう一度いうわけなんてないでしょ!

 はい、聞いてなかったらノーカンね!!

 私はあくあの腕を引っ張って、人だかりができていた校舎を抜けて外に出る。

 って、ここも人多いわね。なんかイベントをやってるのかしら?


「あっ、もうそんな時間か。小雛先輩、ここで待っててくれませんか?」

「ちょ。あんた、どこに行くのよ! また、おばかなことをするんじゃないでしょうね!!」


 あくあはそう言って、私を残してどこかに行ってしまった。

 もう、なんなのよ!!

 私が校庭でしばらく待っていると、スピーカーから何かをお知らせするアナウンスの声が聞こえてきた。


『今から校庭で、乙女咲学園高校に通う生徒達の主張というイベントを始めたいと思います!! 在校生の皆さんで誰かに何かを伝えたい事がある人は、屋上に来てください!!』


 へぇ、面白そうじゃない。

 私がそんな事を考えいたら、見覚えのある奴が屋上に見えた。


『まず最初の主張は、2年A組の白銀あくあ君です! 相手は小雛ゆかりさんで、いつもお世話になっている先輩に伝えたい事があるそうなので、聞いてあげてください!!』


 えっ? えっ? えっ? わ、わわわわわ私!?

 周りに居た人達の視線が私に集まる。

 ちょ、ちょっと、こっち見ないでよ!

 私だって急に言われてびっくりしてるんだから、どういう顔をしていいのかわからないじゃない!!


「小雛先輩ーーー!」


 声でかいって!! 少しは抑えなさいよ!!

 あくあはマイクを使ってないのに、駅前くらいまで聞こえてるんじゃないかってくらい大きな声で叫ぶ。


「この前、小雛先輩がないって言ってたイカのくんさきを間違えて食べたのは俺ですー! すみませんでしたーーー!!」

「そんな事、どうでもいいわよ!! もっと他に言う事あるでしょーーー!!」


 即座に私がツッコミを返すと、周りにいた人達が笑い声を上げる。

 あんたも、そんなしょうもない事を大勢の前で謝罪される私の気持ちも考えなさいよ! 普通に恥ずかしいじゃない! もう!!


「実は、この前、小雛先輩がお風呂上がりに食べようと思っていたアイスもー」

「だから食べ物の謝罪はいいって! 私の食い意地が張ってるみたいじゃない!!」


 あいつ、絶対にわざとやってるでしょ!!

 後、私のアイス。あとでちゃんと買いに行きなさいよね!! 結構、楽しみにしてたんだから!!


「いえ、アイスを食べたのは俺じゃなくて、楓です!」


 私はあくあの言葉にずっこけそうになる。

 ちょっと! さっきまで後ろの辺でゲラゲラ笑ってた楓はどこに行ったのよ!!

 本当にもう、逃げ足だけは早いんだから!!


「それは置いといて、俺はこの場を借りて、小雛先輩に伝えたい事がありまーーーーーす!!」

「「「「「「「「「「なーーーーーにーーーーー?」」」」」」」」」」


 ちょ、ちょ、ちょ、急にマジなトーンになるな!!

 私にも心の準備ってものがあるでしょ!

 って、誰よ! 私のことを後ろから突き飛ばして1人だけ前に出したのは!!


「小雛先輩ーーー! いつもなんだかんだ言って、俺の事を助けてくれてありがとうございまーーーーーす!」

「「「「「「「「「「うわああああああああ!!」」」」」」」」」」


 校庭に居た人達が私の方を見て大きな拍手を送る。

 私はそれを見てすぐに顔を隠す。

 やだやだ、あいつに感謝されるのは普通に嬉しいけど、これは無理! 穴があったら普通に入りたい!!


「小雛先輩は芸能界に入ったばかりで右も左も分からない俺に、役者として大事な事を色々と教えてくれました!!」

「あんたの場合は、芸能界に限らず一般常識も前後不覚だけどね!!」


 照れ隠しで私が突っ込むと、後ろに立っている人達が一斉に笑い出す。

 言っておくけど一般常識に疎いのは、過去形じゃなくて現在進行形だからね!!


「まだまだ未熟ですが、俺もいつかは小雛先輩と並べるような役者になれるように、アイドルだけではなく役者としても日々精進します! そしていつの日か、2人でステイツの、世界最高の授賞式で並んでレッドカーペットを歩きましょう!! いや、俺は一度で良いから2人で賞を受賞したいです!!」


 あくあの宣言に、学校の校舎が揺れるくらいの歓声が沸く。

 いいわね。でも、たった一度なんて面白くないじゃない!


「弱気な事を言ってるんじゃないわよ! そこは2人で10連覇くらいしましょうって言いなさい!!」

「いや。アヤナや美洲お母さん達とも2人で賞を取りたいので、連覇はちょっと……」


 両手を前に突き出して急に言葉を濁したあくあに、みんながお腹を抱えて笑い出す。

 いや、まぁ、それはわからなくないけど、そこはちゃんとノりなさいよ。もう!!

 私1人だけやる気満々の前のめりみたいになっちゃったじゃない!!


「それじゃあ最後に、最後まで俺の主張を聞いてくれた乙女咲のみんなにこの曲を贈らせてください!!」


 あくあの隣にとあちゃんと、キーボードギターを手に持った黛君が出てくる。

 ちょっと! また、しょうもない事に2人を巻き込んでるんじゃないでしょうね!?

 2人ともすごい無みたいな表情してるじゃない。あんた、絶対、今からなんかやらかすでしょ!!

 あくあは制服のシャツを脱ぐと、アフロのカツラを被ってラッパーみたいな格好になる。もうこの時点ですごく不安だ。私がハラハラした気持ちで校舎の屋上を見上げていたら、リズムのいいBGMが聞こえてくる。


『ねぇ、みんな、あくあの事を知ってる? 誰も知らないあくあの事、みんなに教えてあげる』


 メインボーカルはとあちゃんなの!?

 とあちゃんの隣で、あくあが変な動きのダンスを始める。

 ちょっと、そのタコみたいな動きのダンスやめなさい!!

 みんなもうそれだけで笑ってるじゃない!!


『この前だって女の子にカッコつけようとしてバカな事してたよね。ねぇ、あくあはなんでそんなに女の子が好きなの?』

『だって、高校生だもん!!』


 前に出たあくあが天を見上げる。


『この前の体育でバスケットをした時に。こっちを見ていたアヤナにいいところを見せたくて。ハッスルしすぎてボールと間違えてうるはのを掴んじゃった! アヤナからすごく冷めた目で見られちゃったよ!』


 あはははははははははははははは!

 こいつ、バカだ! 間違いなくバカじゃん!!


『なんでそうなるんだよ〜』

『うるはのがバスケットボールと同じサイズだからだよ!』


 それを聞いたうるはちゃんは顔を真っ赤にして俯く。

 ちょっと!! あんたが自損事故するのはいいけど、こっちに巻き込み事故を起こすんじゃないわよ!!


『だからって、なんでそうなるんだよ〜』

『白銀あくあだから、そうなっちゃうんだよ!!』


 その言い訳でどうにかなるのはあんたくらいなんだからね!!

 周りのみんなに感謝しなさいよ!!


『今年のプール開き。水泳部顧問の杉田先生にいい格好がしたくてプール掃除を手伝った。頑張りすぎたモップ掛けで足を滑らせて杉田先生の体にダイブ! ラッキーだと思ったら、手に持っていたモップが大事なところに当たって本気で悶絶しちゃったよ!!』


 あはははははは! やっぱ、こいつバカじゃん!!

 あくあはその時を思い出して、股間を両手で押さえる。


『その後、どうなったんだよ〜』

『顔面蒼白になった杉田先生が慌てて通報。俺は周りに見られながら患部をタオルで隠して救急搬送!!』


 ちょっと、あんた! 自分で言ってて笑ってるんじゃないわよ!!

 笑えない事なのに、釣られて笑っちゃうじゃない!!


『しかも、モップに阻止されたせいで杉田先生の体には触れなかったよ!』


 どーでもいいわ!

 あんたが下心全開だったから、バチが当たっただけでしょ。


『だからって、なんでそうなるんだよ〜』

『ちなみに体が頑丈なおかげで無事でした』


 無事をアピールするあくあに周りから大きな拍手が起こる。

 全くもう。本当になにをやってるのよ。おバカなんだから!!


『担任の杉田先生にアピールしたくて勉強を頑張っているけど。本当は勉強せずに赤点取って2人きりの補習受けた方がいいって事に気がついたよ!』


 良い訳ないでしょ!! これまで通りちゃんと勉強頑張りなさい!!

 それに、そんなアホな事を考えている暇があるなら、もっと他に考える事があるでしょ!!

 後ろの辺に居た杉田先生もお腹を抱えて笑い出す。


『今日もまた、どこかであくあが女の子をチラチラ見ている〜』

『昨日も今日も明日も恋してる。次から次に誰かを好きになる!』


 さっきを超える今日一番の大きな歓声が沸く。


『普段のあくあはこんなだけど、どうかみんな呆れないであげてね』

『最近は学校の制服が夏服から冬服に切り替わって悲しいよ』


 知・る・か!!


「小雛先輩、こんな俺だけど見捨てないでくださいね」

「今すぐにでも見捨てたいわよ。このおばかーーーーーーー!」


 私の叫び声に合わせて今日一番の笑い声が起きる。

 もう! なんなのよこれ!! 最後の歌、必要だった!? 絶対にいらなかったでしょ!!

 みんなの視線が屋上を向いているうちに校庭を離れた私は、自分が着てきた私服を預けている教室に1人で向かう。

 あいつは待ってろって言ってたけど、後の文化祭は同級生達と楽しみなさいな。

 私はもう疲れたから帰るわ。メッセージアプリでもそう連絡を入れた。


「あれ? お客さんお帰りですか!?」


 って、なんで帰りのタクシーまでえみりちゃんなのよ。もおおおおおおおおおおおお!

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