猫山とあ、僕の心のチャイムを鳴らした君。
本日2度目の更新になります。今日はあともう1回更新します。
Twitterアカウントにて当日の更新予定日を掲載しています。
※ヤンデレ(これでもまろやか)注意報。
僕の名前は猫山とあ。
今年度から私立乙女咲学園に入学した男子生徒の一人だ。とは言っても、大多数の男子生徒と同様で、名義上学園に在籍してるだけで実際に学校に行っているわけではない。学校側の配慮で授業はオンラインで受けられるし、僕はそれでいいと思っていた。
でも……そんな僕だって最初から引きこもりだったわけじゃない。小学生の頃は普通に学校に通っていたし、その頃は友達だっていた。きっかけは中学生になった時……初めて教室に入った瞬間、僕は女の子たちの視線に、少しの違和感を覚える。当時、無知だった僕は残念ながらその違和感の正体には気がつかなかった。もし、あの時に、その違和感の正体に気がついていれば、僕も彼女もあんなことにはならなかったのかもしれない。
「とあくん、ごめんね……こんな夜遅くまで手伝ってもらって」
その日、僕は学校で友達だった繭子ちゃんと二人きりで、資料をホッチキスで止めていた。
繭子ちゃんはクラスの学級委員長を務めるなど頭も良くって運動だってできて、クラスの中でも飛び抜けて美人さんだったのをよく覚えている。
「ううん、繭子ちゃん一人じゃ大変そうだったし、僕たち友達なんだから気にしなくていいよ」
繭子ちゃんと友達になったのは小学生の時だ。僕が一人でいた時に、繭子ちゃんが声をかけてくれたのが友達になったきっかけだったと思う。繭子ちゃんは面倒見が良くてすごく優しくて、僕たちはすぐに仲良くなった。
「ありがとう、とあくん!」
花が咲いたような繭子ちゃんの優しそうな笑顔。でも僕は、なんだかその時の繭子ちゃんの笑顔が少し怖くって身震いしてしまう。繭子ちゃんの顔を見ると、なぜか目からハイライトが消えていた。
「……ねぇ、とあくん、さっきのことだけど、3年生の先輩に何か言われてなかった?」
昨日、僕は落とし物を拾ってそれを職員室に届けた。繭子ちゃんが言っているのは、その後に教室にお礼を言いにきてくれた先輩とほんの一言二言会話した時の事だろうと思う。僕がそのことを説明すると、繭子ちゃんの顔から感情が抜け落ちていく。
「チッ……ババアの癖に、人のものに手を出してんじゃねーよ」
「えっ?」
何を喋ったのかよくは聞こえなかったけど、舌打ちする繭子ちゃんの姿を初めて見て僕はびっくりする。
「ううん、ごめんね、なんでもないよ」
笑顔でゆっくりと僕の方に近づいてくる繭子ちゃん。僕はそれに合わせて少しずつ窓際へと後退りする。
「あ、えっと、ごめん。僕、もう帰るね」
なんだかわからないけど、すごく怖くなった僕は教室から出ようと荷物を手に取って駆け足で出入り口のあるところへと向かう。しかし、繭子ちゃんはそんな僕の手首を掴んで地面に押し倒した。
「あーあ、気づいちゃったかなぁ? でも、まぁいっか、私も、もう限界だったし、いいよね?」
繭子ちゃんは、床の上に仰向けになった僕の体の上に馬乗りになると、シャツの上に着ていたセーターを教室の床に脱ぎ捨てる。そしてシャツの首元を止めていたリボンの先を摘んでするりと解くと、白いシャツのボタンを上から順に、プチ、プチ……と、ゆっくり丁寧に一つずつ外していく。その時の繭子ちゃんの顔は無表情で、目が据わっていてすごく怖かった。
「ま……繭子ちゃん、何してるの?」
「んー? あれー? とあくんって、もしかしてまだそういう事知らないの?」
繭子ちゃんは急に機嫌が良くなったのか、再び笑顔になる。でもその笑顔はどこか歪で、言い知れない気持ちの悪さに僕は気分が悪くなった。
「ねぇ……とあくんは女の子の体を見て変な気持ちになったこととかある? 女の子の事を考えて夜眠れなくなったりとか……体が熱くなったりしたことない?」
僕はブンブンと左右に首を振った。
「はぁはぁ……そっか、そっかぁ、それじゃあとあくんは全部初めてなんだね。やっぱりとあくんって、私と結ばれる運命だったんだ。大丈夫、私が女の子と男の子の違いを1から10まで全部教えてあ・げ・る」
繭子ちゃんの言葉で、僕は学校で習った保健の授業を思い出す。この時、僕はまだ子供だったから、繭子ちゃんがそういう目で僕を見ていたなんて全然気がつかなかった。
「あ……こんなこと言うと、とあくんは繭子が初めてじゃないんじゃないかとか心配になっちゃうよね? 大丈夫だよ、繭子はちゃんと初めてだから安心してね」
同級生の他の女の子より発育の良かった繭子ちゃんは、この時点で体つきも大人の女の人みたいだった。
「はぁはぁ……はぁはぁ……もう、無理。だからいいよね? とあくんは横になってるだけでいいから、あとは全部、繭子がしてあげるから、ね? ね? とあくん、大好きだよ。小学生の頃からずっと、大好きで大好きで、あの頃からずっと、とあ君のことばかり考えてるの。でも、とあくんは酷いよね。こんな繭子の気持ち弄んで……ねぇ知ってる? 昨日、二人で手繋いで帰った時、あの手で繭子が何したかわかる? もちろん、今朝も手を繋いで学校に来たけど、繭子昨日から手を洗ってなかったの。ふふっ、ごめんね、繭子ちゃんと責任取るから。とあくんはもうお外に出なくてもいいんだよ。繭子がとあくんのことを一生養ってあげるから、とあくんはお部屋の中で繭子とイチャイチャしてくれるだけでいいから、ね? 大好き、大好き、ずっとずっと繭子だけのとあくんにしてあげるね」
僕は体を捩ってなんとか繭子ちゃんの拘束から抜け出そうとする。
でもダメだった。女子と比べても体の小さかった僕と、早熟な繭子ちゃんでは、体の大きさも力の強さもまるで歯が立たない。
繭子ちゃんは僕の手をリボンできつく拘束すると、近くにあった教卓の足に縛り付けて固定した。
助けて! 助けて! 助けて!
僕は涙を流しながら心の中で助けを呼ぶ声を叫び続けた。
そんな時、誰かが教室の扉をガラリと開ける。
「猫山!! 大丈夫かっ!?」
教室に入ってきたのは担任の先生だった。
「夢園ぉっ!! お前、何やってんだ!!」
担任の先生は繭子ちゃんを僕から引き剥がす。教室の中に他の先生達も入ってくる。
先生方は僕の姿を見ると、すぐに拘束を解いてくれて下半身を隠すように上着をかけてくれた。
「邪魔すんなよババア!! 行き遅れのブサイクのくせに、私ととあくんのハッピーを邪魔してんじゃねーぞ!!」
「何がハッピーだ! 猫山の顔をよく見てみろ夢園!」
繭子ちゃんは僕の顔の方へと視線を向ける。見たことのないような鬼の形相から、媚びた顔へと変化していくまゆこちゃんが怖くなった。
「あ、あ、ごめんね、とあくん。今度はババアの邪魔にならないところ……私の部屋でしよ? 大丈夫、家族には口止めするから。ね? とあくんは嫌かもしれないけど、あいつら誰ともお付き合いしたことないから、とあくんの事をちょこーっと貸してあげたら、きっと黙っててくれると思うんだよね。繭子だって他の雌に、私のとあくんを貸してあげるのは嫌だけど、お互いに我慢しよ? ほら、愛は障害が多い方が燃えるっていうし、お互いに愛の力で乗り越えよ」
繭子ちゃんは……ううん、彼女は一体何を言っているんだろう?
僕は彼女の言っている言葉の意味がわからなくて、顔を背けた。
「おい! こっち向けよとあ!! 元はと言えば、オメーの方から先に誘ってきたんだろうが!! 純粋な乙女の心を弄んでんじゃねーぞ!!」
彼女の態度が急に豹変する。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「謝るくらいなら、一回でいいから私と付き合えよコラ! そっぽ向いて純潔ぶってんじゃねーぞ!!」
ひたすら謝る僕を彼女は訳のわからない言葉で罵倒する。
担任の先生はそれを阻止しようと彼女の頬を叩く。
「夢園!! 何言ってんだ馬鹿!!」
「うるせえババア、体罰してんじゃねーよ!」
「いいから早く来い、お前はこっちだ!!」
外からパトカーのサイレンの音が聞こえる。
複数の先生たちが、暴れる彼女を拘束して教室の外へと引きずっていく。
すると彼女は態度をころりと変えて、甘ったるい声で僕に言葉を吐き捨てる。
「あ、あ、ごめんね、とあくん、さっきのは嘘、嘘だから。ごめんね。本心じゃなかったの。とあくんは、まだ大人になってないからわからなかったんだよね。大丈夫、繭子待ってるから、とあくんが大人になったら今度こそ二人でイチャラブしよ。おい! こら!! 優しくしてやってんのに無視するなよ! とあ! ほら、こっちむけよ!! いいか、お前は私のなんだからな。それまで他の女のものになるんじゃねーぞ!! とあ!! と、とーっ、トアアーッ!! トアーッ!!」
繭子ちゃんは先生たちに連れて行かれた後、警察の人たちによって逮捕される。
目撃者がいたために、被害者である僕からの証言もなく裁判は僕抜きで行われた。
病院に運ばれた僕は、検査を受けて帰宅する。病院にいた家族は青ざめた顔で僕を待っていた。
どうやら帰りの遅い僕を心配した家族が、学校に連絡してくれたおかげで僕は助かったらしい。
僕は女の人が怖くなって、家に帰るとすぐに部屋の中に引きこもった。
あの時は、毎日毎日、ベッドの中で泣いていたと思う。
そんな僕の事をずっと優しく見守ってくれていたのが家族だ。そっと何も言わずただそばに寄り添ってくれていたお母さん、そして妹のスバルは、毎日毎日ドア越しに僕に声をかけてくれていたのを今でもよく覚えている。
そしてもう一つ、暗い部屋の中、僕に希望を与えてくれたのは、画面の向こうにいたVtuberのお姉さんだ。
どうしてあの時、女性に対してまだ恐怖を抱いていた僕はその配信を見ようとしたのか今でもわからない。
でも……多分、このままじゃだめなんじゃないのかと思ったのではないだろうか。
僕はそのVtuberのお姉さんの配信を見て、あの頃の繭子ちゃんとの楽しかった時の記憶を思い出したのだ。配信を見ていて涙が出る。どうしてこんなことになったんだろうと後悔もした。でもどうしようもできなくって、でも画面の前で歌って踊るVtuberのお姉さんの姿を見たら、あの事件より前の、繭子ちゃんとの楽しかった頃を思い出してしまう。
これが僕がVtuberにはまって、自らがVtuberになったきっかけだったと思う。
「お母さん、スバル……僕、まだ学校に行くのは怖いけど……一応、乙女咲に在籍してみようと思うんだ」
乙女咲への進路を示してくれたのは、あの時、僕を助けてくれた担任の先生だった。
中学の担任の先生は、乙女咲でクラスの担任になってくれる杉田マリ先生とは学生時代の同級生らしい。
杉田先生は、初めて会った時、僕のタイミングでいいから学校においで、でも、いつかは来てくれる事を待っているからと言ってくれた。この先生の元なら大丈夫かもしれない。僕は乙女咲に進学を決めた。
高校に入った後も相変わらず外に出ようとしたら怖くなって震えてしまう。そんな中、杉田先生は僕の家に何度もプリントを持ってきてくれた。
そんなある日、僕にとって運命の日が訪れる。
「あ……えっと、猫山君のクラスメイトの白銀と言います。猫山くんにプリントを届けにきたんですが大丈夫でしょうか?」
僕の運命を変えたもう一人の人物、同級生、白銀あくあとの初めての出会いだった。
次回更新は23時です。
本気のヤンデレバージョンが見たい人はノクターンへどうぞ。お勧めはしません……。




