白銀あくあ、策に溺れるのは師匠の影響。
「ところで小雛先輩、その髪はどうしたんですか?」
小雛先輩は俺からプイッと顔を背ける。
なんてわかりやすいんだ……。
どうせ小雛先輩の事だから、またドライヤーもせずに寝ちゃったんでしょ。
全くもう。俺がいないと髪のお手入れもできないなんて、本当にどうしようもない人ですね。
「別にいいでしょ。ほら、これはこれで可愛いじゃない!」
まぁ、可愛いか可愛くないかの二択で言えば、はっきり言って可愛い。
性格は一旦横に置いといて、見た目だけなら腐っても女優だ。
それに加えて小雛先輩は小顔で童顔、小柄な体型だから、ふわっとしたヘアスタイルとの相性は普通に良い。
毛先が細く、髪質が柔らかいから、ポニーテールが揺れた時もふわふわしてて可愛いし、なんなら顔ごと小雛先輩の髪の中に埋めてクンカ・クンカーしたくなるくらいだ。
「はいはい。可愛い可愛い」
「ちょっと! なんか、他のみんなに言う時と比べて褒め方が雑くない!? いくら相手が私だからって、もうちょっとちゃんと褒めなさいよ!!」
小雛先輩は俺の前でくるりと回転する。
もしかして、これはもっと褒めろという合図なのだろうか。
って、小雛先輩!? 俺は周囲をキョロキョロすると、慌てて小雛先輩の体を抱き寄せる。
「な、何よ?」
俺は少し慌てたそぶりを見せる小雛先輩の耳に顔を近づける。
「小雛先輩、服にタグがつきっぱなしです」
「はへ? あっ……」
小雛先輩は自分の着ていた服にタグがついている事に気がついて顔を真っ赤にする。
仕方ない。文化祭を楽しむより、まずは近くの教室でハサミを借りるか。
「小雛先輩、ここの教室でハサミを借りましょう」
「え、ええ、そうね」
俺たち2人は外の看板を良く見ずに教室の中に入る。
「いらっしゃいませー」
「あ、あくあ君! ……と小雛ゆかりぃ!?」
教室に居た生徒達が集まると、何やらコソコソと話し出した。
お、おーい! 俺たちはただハサミを借りに来てですね……って、あれ? 全く話を聞いてない……。
「ま、ままままさかこれって、文化祭デート!?」
「いやいや、相手が小雛ゆかりだよ? 流石にそれはないでしょ」
「デートなら影からサポートしてあげなきゃと思うけど、相手が相手だから正直わからないよね」
「そうそう。相手がカノンさんとか、アヤナちゃんとか、もっとわかりやすい人ならいいのに」
「恋愛未経験の私達に、相手が小雛ゆかりなのは判断が難しすぎるよ……」
「流石に小雛ゆかりだからないでしょ」
「相手はあのあくあ君だよ? 学校に居る全員が恋愛対象なのに、小雛ゆかりだけ対象外なんてないでしょ」
「「「「「た、確かに」」」」」
「それじゃあ、とりあえずサポートする方向で……」
「「「「「賛成!」」」」」
みんなして一体、何を話し合っているのだろうか。
あのー。俺たちはただハサミを借りにきたんですけど……。
俺がそうやって声をかけようと近づいた瞬間に、みんなが一斉にこちらを向く。
「それじゃあ、小雛ゆかりさんはこちらにどうぞ」
「えっ? あ……ちょ!」
10人くらいの生徒に囲まれた小雛先輩は、カーテンで区切られた奥のスペースに無理矢理連れて行かれる。
なんかよくわからないけど、とりあえず任せておいていっか。
てか、ここ何のお店? 食事をするところでもないみたいだし、なんかの展示をしてる場所でもない。
俺が周囲をキョロキョロすると、小雛先輩が消えたカーテンが少しだけ開く。
「あら。声がすると思ったら、あくあちゃんじゃない。こんなところでどうしたの?」
「あっ、母さん……ってぇぇぇえええええ!?」
俺は乙女咲の制服を着た母さんを見て、その衝撃で黒板まで吹っ飛ばされる。
くっ、まるで全体攻撃を2回喰らってしまった時と同じくらいの衝撃だ。
俺だって只の制服姿だけならこうはならなかったが、ある部分が大きすぎてボタンが外れ掛かっているのは反則だろ!!
「あくあちゃん。大丈夫?」
乙女咲の制服を着た母さんが俺に駆け寄ってくる。
くっそ〜。なんで俺の母さんはこんなにも制服が似合うんだ。
制服姿が似合う若いお母さんとか最高すぎるだろ。
俺じゃなかったら子供の将来が完全に歪んでたぞ。
その点、俺は元々のストライクゾーンが広いから問題ない。
俺は母さんに、今回、色々と協力してくれた小雛先輩にお礼がしたくて文化祭を誘った事を伝える。
「そ、それで……母さん、その制服姿は……?」
「あっ、ごめんね。お母さん、年甲斐もなく乙女咲のブレザータイプをレンタルしたんだけど。サイズが小さくて色々と……んんっ」
母さんは、パツパツになったシャツを隠すようにブレザーのボタンを閉じようとするが、大きいものがより強調されるだけでボタンは全くと言って良いほど閉じなかった。
「って、やだ。もう! お母さん恥ずかしい!!」
よく見たら、スカートも短ぇじゃねぇか!!
くっ! 可愛くて綺麗なお母さんが好きな息子でもいいですか!? と全世界に向けて言いたくなる。もう、俺、こんなお母さんならマザコンでもいいや……。
「ごめん。あくあちゃん。お母さんには無理そうだから、もう一つの制服に着替えてくるね。それと小雛ゆかりさんの事も私達に任せておいて」
「あ……」
母さんはそう言って、再びカーテンの奥へと消えてしまった。
も、もしかして、もう一つの制服ってセーラー服のことか!?
乙女咲は去年、生徒会長だったなつきんぐが最後の仕事で、今年から学校指定の制服をブレザーとセーラーの二択にする事を生徒投票で決めた。
制度の応援演説に駆り出された俺がブレザーとセーラー、その両方の魅力を熱く語った事が少しは影響してくれたのだろうか。あまりにも演説が熱くなりすぎて、1時間を超えたところで真っ赤になった杉田先生に全力で止められたっけ。
確か、学校の先生が着る制服の良さを熱弁していたタイミングだったのをよく覚えている。
そんな事を考えていると、カーテンの向こうからセーラー服を着た母さんが出てきた。
「あくあちゃーん! やったー、今度はちゃんと着れたよー!!」
ふぁぁぁああああああああ!
俺はセーラー服を着た母さんの衝撃で黒板まで吹っ飛ばされる。
くっそー。毎回、2回攻撃で全俺に効くのはいくらなんでも反則だろ!!
俺が腕をプルプルさせながらなんとか起きあがろうとすると、カーテンの奥から更なる追加攻撃が飛んできた。
「あっ、あくあ君。きてたんだ」
「あ、あくあ君……」
かなたさん!? それに貴代子さんも!?
セーラー服を着たかなたさんが俺に抱きつく。
うおっ、おっ、おっ、おっ、あまりの衝撃に俺の腕がああああああああ!
天真爛漫なかなたさんとは対照的に、ブレザー服姿の貴代子さんは顔を赤くして手をもじもじさせながら体を左右に振る。最高かよ……。
そんな事を考えていると、さらにその奥からもう2人のママが出てきた。
「なんで私がこんな格好を……」
「いいではないですか。こんな機会、滅多にないのですから」
よしみさん!? それにフューリア様ぁぁぁあああああ!?
俺の体が腸捻転を起こしたみたいに、空中でグルグルと回転しながら黒板に吹き飛んでいく。
くっ! 俺はピストル如きに撃たれたくらいじゃ筋肉で受け止めて死なない自信があるけど、今のは間違いなく即死レベルの攻撃だったぞ。
それくらいフューリア様のブレザー姿は衝撃的だった。ツン要素が高いのも個人的に最高だ!!
ていうか、よしみさん!? よく見たら、セーラー服小さくない!?
ヘソチラどころかお腹がガン見えじゃないですか!! 風紀委員と生徒指導の先生に絶対止められるやつですよ!!
「ほら、ゆかり! あなたも恥ずかしがってないで出てきなさい」
「ちょ、ちょっと、何するのよ!!」
よしみさんは、奥に手を伸ばすと、小雛先輩の腕を掴んで表に引き摺り出してきた。
お、おぉう……。俺は小雛先輩のセーラー服姿を見て固まる。
着替えるだけにしては随分と時間が掛かってるなと思ったけど、女の子たちに爆発した髪を適当にポニーテールにしていたのも綺麗にしてもらっていたのか。みんな、ありがとな。
「ちょっとぉ!? せっかく着てあげたのに、なんか私の時だけ反応薄くない!?」
ああ、いや……うん。母さん達のは、ほら、コスプレ感があって普通にたまんないだけなんだけど、小雛先輩は普通に似合うから反応に困るんだよな。
小雛先輩と同級生のイリアさんが新一年生として、乙女咲に入学してきた事を思えば、小雛先輩が俺の後輩になる可能性もあったのかもしれない。
「小雛先輩……いや、ゆかり。今日だけは俺の事を先輩って呼んでもいいんですよ」
「呼ぶかバカ! それと私の事を呼び捨てにして調子にのんな!! いーい? あんたは一生、私の後輩なんだから、愛を込めて小雛先輩と呼びなさい!!」
うん、やっぱり小雛先輩が後輩はないな。
こんな怖い後輩、とてもじゃないけど俺には面倒見きれないよ。
「やっぱりダメ。着替えてくる!」
そう言って小雛先輩はもう一度カーテンの奥に引っ込む。
すると次はブレザータイプの制服に着替えて出てきた。
「こっちの方がまだ恥ずかしくないから、こっちにする」
いや、俺からしたらセーラーもブレザー制服も変わらないくらい男としてはクルものがあると思うんだけど、そこは黙っておこう。
男は余計な事を言うなって、師匠も言ってたしな!!
「それじゃあ、服はタグを切ってこっちで預かっておきますから、帰りにまた寄ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
俺はほっぺたを膨らませながら腕を組んだ小雛先輩へと手を伸ばす。
くっ! 怒っていてもツーンとした感じの仕草が可愛く見えるのは卑怯だろ!!
俺の事を言えないくらい小雛先輩も見た目にだいぶ助けられてるぞ!!
「小雛先輩、そろそろ機嫌を直してくださいよ。ね?」
「別に怒ってないわよ。ただ、もうちょっと他に言う事あるでしょ! って思っただけ!」
他に言う事……ああ! なるほどね!!
俺は小雛先輩の伝えたかった事に気がつく。
すみません。小雛先輩。俺とした事が最低でした。
「小雛先輩……」
「な、何よ?」
俺はキリッとした顔で、小雛先輩の肩をポンと叩く。
「スカート丈が後3ミリ短い方が俺好みです」
「ばかー!! あんたは何をどう勘違いしたら、そんなアホみたいな言葉がでるのよ!!」
あれ? 違いました?
首を傾けた俺は困った顔をする。
「そうじゃなくて、普通に、可愛いとか、制服似合ってるよとか言えばいいじゃない! もう!!」
えっ? もしかして、小雛先輩ってば、普通に褒めて欲しかったんですか!?
意外と可愛いところ……いやいや、早まるんじゃないぞ。俺!!
相手はあの小雛先輩だ。一旦落ち着いて考えろ!!
「とかなんとか言って、小雛ゆかりが普通にスカートを直してる件について」
「あれ? もしかして、小雛ゆかりって意外とあくあ君を甘やかしてるんじゃ……」
「小雛ゆかり、実はあくあ君の事、結構好き説はあると思います!」
「せっかくスカート丈を直してるのに、肝心のあくあ君が見てない件について」
「むしろ見てないタイミングだから、こっそり直してるんでしょ」
「いやいや、ツンデレか!!」
スーハー! スーハー!
よしっ! これで一旦、冷静になったぞ!!
俺は改めて小雛先輩に近づく。
「小雛先輩。さっき俺が固まってたのは、普通に小雛先輩の制服姿が似合いすぎててどう反応していいのか分からなかっただけなんですよ」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
小雛先輩はツーンと顔を背けつつも、照れたような目の動きを見せる。
くっ、演技がうまいんだから、そういうのはちゃんと隠してくださいよ!!
普段褒められてないせいか、小雛先輩は素直に褒められるとかなりちょろいところがある。
「小雛先輩、今日だけは俺と同じ学校の生徒になって文化祭を楽しんでくれませんか?」
「そ、そういう事なら仕方ないわね。ん」
小雛先輩が俺に向かって手を伸ばす。
えーと、これは手を繋いでエスコートしろってことかな?
俺は小雛先輩が伸ばした手を掴む。
「っ!?」
あ、ミスった。
普段、カノン達とデートする時みたいに指と指を絡ませあう恋人繋ぎになってしまった。
それを見た母さんとよしみさんが俺達に向かってブンブンと手を振る。
「あくあちゃん。デートがんばってねー!」
いやいや、母さん。これは別にデートじゃないですから。
だって、俺と小雛先輩ですよ。どっからどう見てもデートには見えないでしょ。
「ゆかりー! キスくらいはして帰りなさいよー!!」
「しないわよ。バカ!!」
なんだろう。すごく恥ずかしくなってきた。
教室を出た俺と小雛先輩は、お互いに無言のまま、真っ赤になった顔を隠して早歩きでその場を後にする。
「な、なんか喉が渇いてきたわね」
「じゃあ、その辺のカフェでも入ります? 俺も冷たいの食べたくなってきました」
俺は小雛先輩を連れて、近くの喫茶店をやっているお店に入る。
「いらっしゃいませ〜! あ、あくあ君。待ってたよー! 2名様、ご案内でーす!!」
俺を待っていた? どういう事だ?
小雛先輩と俺は、教室の中央にあるテーブルに案内される。
「お水です。少々お待ちくださーい」
「あ、ありがとう」
俺と小雛先輩は、出されたお水をごくごくと飲む。
えーと、肝心のメニューは……? 俺はキョロキョロしてメニューが落ちてないか確認する。
「何これ? 京都のぶぶ漬けと同じで、水飲んだら帰れって事?」
「いやいや、そんなわけ……って、え? 京都のぶぶ漬けってそんな意味で言ってたんですか!?」
小雛先輩が、あんたそんな事も知らなかったのって顔をする。
よしみさんと初めて会った時に、ぶぶ漬け食べさせてくれるって言われてたから楽しみにしてたんだけど、あれってただの嫌みだったって事!?
いやいや、よしみさんに限ってそれはないな。ただ単に、俺に美味しいぶぶ漬けを食べさせてくれようとしただけだろう。きっとそうに違いない!!
「お待たせしましたー」
「いや、俺たちまだ注文……」
俺はそこまで言葉に出して固まった。
ナンデスカ、コレ?
机の上に置かれたどでかいグラスのパフェを見て俺と小雛先輩が固まる。
「こちらカップル限定メニューとなっておりまーす!」
カップル限定メニュー……?
あああああああああああああああああああああ!
昨晩のラジオで俺にお便りを送ってくれた子のクラスってここか!!
俺と目の合った店員の女の子が優しく微笑む。
あくあ君、私はちゃんとわかってますから!
って、言ってるように見える。
いやいや。何、ファインプレーしましたみたいな感じを出してるの!?
俺はカノンとか、アヤナとかと一緒に食べに行く時にカップルメニューを出してねって言ったよね!?
「ごゆっくり〜」
あっ! 俺が声をかけるよりも先に、店員の女の子がすーっといなくなった。
くっ……俺は固まってる小雛先輩にもう一度視線を向ける。
「と、とりあえず、食べましょうか」
「そ、そうね……。って、これ、どうやって食べるの?」
う、うーん。俺は複雑な構造のパフェをじっくりと見つめる。
これって底がケーキのスポンジと生クリームになってるのかな? それをチョコレートみたいな板で蓋して、その上にフルーツとかフレーク、ムースを乗せて、チョコレートのプレートで挟んでいくつもの層にしていた。
しかも一番上のプレートにはフルーツや生クリーム、マカロンなどが今にも崩れ落ちそうなほど盛られている。
何も考えずに適当に何かを取ったら大惨事になりそうだ。
「なるほど、カップル限定パフェってこういう事か……」
つまり2人で協力してパフェを食べろってことだ。
「小雛先輩、まず、この棒のチョコレート菓子を取るからグラスを支えてくれますか?」
「わかった」
こういうのは初手が一番大事だ。
俺は小雛先輩にグラスを支えてもらって、一番上にある棒状のチョコレート菓子をなんとか生クリームの山から切り離す。
ふぅ……。まずは一つ。無事にサルベージする事ができたぞ。
「ちょっと! これだと私が食べられないじゃない!」
「わかってますって」
俺は小雛先輩の口元に棒状のチョコレート菓子を持っていく。
ほら、ここまで持ってきたら食べられるでしょ。
「ん」
小雛先輩は薄く唇を開く。俺はリップを塗ってない自然なピンク色の唇にドキッとした。
くっそおおおおお! 相手が小雛先輩だとわかっていてもドキドキする自分をぶん殴りたい。
女の子の唇ってなんでこんなにも気になるんだろう……。
「ほら、次はあんたが持って」
「はいはい」
小雛先輩、本当に大丈夫なんですか?
俺は不器用な小雛先輩の事を疑わしい目つきで見る。
しかし小雛先輩は、俺の期待を良い意味で裏切ると、棒状のチョコレート菓子を見事にサルベージした。
「はい」
小雛先輩は俺の唇に棒状のチョコレート菓子をぐいぐいと押し付ける。
ちょっと!? 食べさせてくれるなら、もう少し優しくしてくださいよ!
って思うのは俺の贅沢なのだろうか。俺は押し付けられたチョコレートのお菓子をパクパクと食べる。
「ふふん。これ、あんたに餌付けしてるみたいで悪くないわね」
そう言って調子に乗った小雛先輩はビスケットやウェハース、マカロンと言ったやたらと喉が渇くものばかりを俺に食べさせる。
「ちょ、ちょっと、待ってください。流石にこれ以上は俺の口の中が水分不足で死んじゃいますよ!!」
「もう、仕方ないわねぇ」
小雛先輩が水の入ったグラスを手に取るために手に持っていたスプーンを置こうとした瞬間、パフェの隣に同じサイズのジュースが置かれた。
「こちら、カップル限定メニューを注文された方限定で、当店からのサービスになっていまぁす! それでは〜」
いやいや、明らかにタイミング良過ぎでしょ!!
俺と小雛先輩は、二つのストローが刺さった巨大なグラスを見て固まる。
「飲まなきゃもったいないし、飲みますよ」
「わ、わかってるわよ。私もちょうど喉が渇いたなと思ってたところだったし……ふん! 結構、気が利いてるじゃない!」
小雛先輩……こういう時にも謎の負けず嫌いを発揮しないでくださいよ……。
2人別々に飲めばいいのに、なぜか俺と小雛先輩は同時にストローに口をつけると、2人で一つのジュースを無言で飲み始める。
くそぉ、謎の羞恥心で味なんかよくわかんねぇよ。
「ほら、もう喉乾いてないでしょ。あーん」
小雛先輩は強制的にスプーンを俺の口の中に突っ込む。
こんなの、俺の知ってるアーンじゃない。
俺は一番上のチョコレートを手に取ると、小雛先輩の方に差し向ける。
ほらほら、小雛先輩。まさかとは思うけど、恥ずかしがって食べられないなんて事ないですよね?
「ふんだ。あんたがこの私に喧嘩売ろうだなんて100年早いのよ!」
そう言って、小雛先輩はナッツがついた一番美味しいところだけを齧る。
「はい。優しい先輩の私が残り半分をあげるんだから感謝しなさいよ。ぷぷぷ」
小雛先輩は勝ち誇った表情をしているけど、わかっているのだろうか。
これを食べたら、その、間接……んんっ!
って、俺だけが気にしてたらバカ見てぇじゃねぇか!
俺は無心でチョコレートの残り半分を食べる。
「あ……」
何かに気がついた小雛先輩が俺からスッと視線を逸らす。
小雛先輩!? まさか今頃、気がついたんですか!?
それを見た俺もなぜかダメージを受ける。
「ねぇ、見て。あそこずっといちゃついてない?」
「いやいや。私は最初からあると思ってましたよ」
「小雛ゆかり、意外と満更でもない説」
「なーんだ。小雛ゆかりもちゃんと私たちと同じところあるんじゃん!」
「はわわ、照れたあくあ様の表情や仕草がたくさん見れて嬉しいです!!」
「これだけでも文化祭に来た価値があったわ」
「ぐへへ! 掲示板に書き込んだろ!」
あれ? なんかみんなずっとこっち見てない?
みんな、早く食べなきゃアイスが溶けちゃうよ。それに店員さんも、こっちばかり見てないで仕事して!!
周囲の視線に気がついて恥ずかしなくなった俺は、さっさと終わらせるために黙々と食べ始める。
「ちょっと、あんた。私の分まで食べないでよ!!」
謎に対抗心を燃やした小雛先輩は、俺と奪い合うようにしてパフェを食べる。
なんか俺の知ってるカップルパフェの食べ方と違う気がするけど、まぁ、いっか……。
最後も競い合うようにして一心不乱にジュースを飲んだ俺達は、さっさと会計を済ませてお店を出た。
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