ヴィクトリア、ショー対決の結末。
1Aと2Aは審査員票だけを見ると、ここまではほぼ互角の戦いを繰り広げる。
「一時期はどうなるかと思いましたが、1Aが思ったより健闘してますね」
「あっちはうちのえみりとゆかりの2人が手を貸してるからな。特にゆかりが勝負事であくあ君に負けに行くとは思えない。むしろ勝つつもりだろ……」
私とナタリアは楓の発言に強く頷く。
ここまでのランウェイを見ると、1Aはコンセプトやテーマがしっかりしてるし、何よりもモデル達の表情と躍動感がすごくいいですわ。モデルを務める生徒達に普通のファッションショーのようなウォーキングを強いるのじゃなくて、あえて日常の学生生活を演じさせる事で観客をうまく惹きつけている。これはきっと、小雛ゆかりさんの指導によるものじゃないかしら。
対して2Aは白銀あくあのゴリ押しという最強のカードを中心にテーマとコンセプトを決めて、完璧なショーを組み立てていますわ。でも、少し残念ね。
2Aにはカノンや月街さんを含め錚々たるタレントが揃っている事を考えたら、白銀あくあを中心にスポットを与えるのは少し残念な気がしたわ。
「おっ、次はくくりちゃんか……ってええええええ!?」
皇くくりさんを先頭に、1Aの生徒達がパジャマ服やルームウェアの服装で出てくる。
こ、これは一体なんですの!? 目を見開いた楓が口を大きく開いたまま固まった。
「多分、パジャマパーティーじゃないかな? ヴィクトリア様にはあまり馴染みがないかもしれませんが、日本の女子達は、お泊まりパジャマパーティーとかするんですよ。なるほど、確かにこれも日常の一つですね」
へ、へぇ……。そういえば、カノンからそういう話を聞いた事があるのを思い出しました。
話を聞いただけではピンと来ませんでしたが、なるほど……これが日本のパジャマパーティーですか……。
ピンク色のモコモコルームウェアを着た皇くくりさんは、ショートパンツから伸びるシミひとつない美しい足を惜しげもなく見せつける。
女性が、それも高貴な身分の女性がおみ足を衆人に見せつけるなんて、時代が時代なら間違いなく大きな問題になっていたでしょう。
ですが、自然体な彼女の、皇くくりさんの笑顔を見たら、そこを指摘するのは野暮というものですね。
もし、私にも友達がいたら……いいえ、なんでもありませんわ。私は首を左右にぶんぶんと振る。
「ヴィクトリア様もパジャマパーティーします?」
あ、あああああなた! 何を言ってるのかしら!?
私は楓から顔を背ける。
「ふふっ、いいですね。私でよければお付き合いしますよ」
ナタリアまで!?
私は取ってつけたような顰めっ面をすると、扇子を扇いで熱くなった顔の温度を下げる。
2人はそんな私を見て顔を見合わせると、しょうがないなあといった感じで微笑む。
もう! なんなんですの!? 2人もわたくしじゃなくてショーに集中しなさいな!!
ほら、次は2Aですわよ!!
「うぎゃあああああああ!」
「スーツ姿のあくあきゅん!?」
スーツを着た大人びた白銀あくあがランウェイに出てくる。
あ、いい……。皇くくりさんのステージも良かったけど、これには勝てない。
私と楓、ナタリアの3人は無言で2Aに一票を投じる。
一体誰が彼のパートナー役を務めるのかしら。
壇上の白銀あくあが片膝をついて舞台袖に向かって手を伸ばすと、そこに女性の手が伸びてくる。
あ、あれは、2Aの担任の……。
「杉田せんせー!?」
「マリちゃん先生、ドレス姿綺麗!!」
彼女は本当に生徒達から慕われているのね。
自分の担任していない乙女咲の生徒達からも大きな歓声が湧く。
それにしても、このスリット深めのドレス。確かデザインしたのは白銀あくあよね?
ふぅん、こういう腰とお尻のラインがしっかりと出て、胸元が開いたドレスが好みなのね。一応、覚えておいてあげるわ。そう、一応ね。決して着てあげるなんて言ってないなんだから、そこは勘違いしないでくださいませ。
「杉田先生、寿退職おめでとうございます!」
「幸せになってくださいね。杉田先生」
「杉田先生、結婚式には呼んでください!」
涙を流しながら拍手を送る先生達の集団に、杉田マリ先生はタジタジになる。
あの白銀あくあが通ってるだけあって、ここの先生達は随分とノリがいいですわね。
2Aのターンが終わると、1Aのステージに音さんが出てくる。
「エプロン姿の音さんは板についてる気がする。美味しいコーヒー入れてくれそう」
「コンセプトに学生のアルバイト事情って書いてますよ」
なるほど、どうりで皆さんファストフード店やコンビニで働いているような格好をしているんですね。
音さんは先ほどまでの格好とは違って、髪をまとめてポニーテールにすると、眼鏡をかけたエプロン姿を披露する。これでは、一目で音さんと気がつきそうにないですわね。
落ち着いた雰囲気といい、とてもじゃないけど高校生には見えません。
音さんはステージの一番先端に立つと、軽く深呼吸する。あら、もしかして何か言うつもりなのかしら?
「音ルリカです! 実家の手伝いでたまにジャズバーのカウンターに立っているので、良かったら来てください!! あ、もちろん、私が出ている時はジャズ喫茶でアルコールなしの禁煙だから、みんなが来てくれても大丈夫です!」
私は両隣に座っていた楓とナタリアの2人と顔を見合わせる。
「ヴィクトリア様に説明すると、彼女は飲酒と喫煙の疑惑で謹慎していたんです。だから、今回、自分の口からその疑惑を払拭できるような説明ができたのは良かったのかもしれません。例の写真も実際に飲酒や喫煙をしていたのは彼女じゃなくて、周りに居た人達ですから」
「ちなみに今、1億人以上がこの配信を見てます」
すごいわね。流石の白銀あくあ効果といったところかしら。
もしかしたら、そう、もしかしたらだけど、白銀あくあはこうなるのをわかっていてファッションショーの対決を受けたのかもしれませんわね。
普通ならあり得ない話だけど、あの男なら十分にありますわ。だって、困っている女の子を放っておいたりしませんもの。
音さんに続いて他の子達も自分たちのアルバイト先をアピールしていく。
ふふっ、ファッションショーの枠組みからはだいぶ外れてるけど、これもクラスメイトの子達が彼女を思っての事かしら。
1Aの面々がステージから舞台袖に戻ると、今度は2Aの舞台袖からあの男が出てきた。
「あばばばばばばばば!」
「おい、しっかりしろ!」
「ケ、ケンジャキィ!?」
「ファストフード店の制服を着たあくあ様だと!?」
「ポテートゥ焼いてる神代こと天我先輩どこー!?」
ファストフード店の格好をした白銀あくあを見て、観客席に居る人達が悶え始める。
そういえば、ヘブンズソードで剣崎がハンバーガー屋さんでアルバイトしてましたわね。
一体、今度は何をするのかしら。
奥からコート姿の鷲宮さんが出てくると、白銀あくあの前に立って普通に注文し始める。
「フィッシュバーガーのセットでサイズはS、ドリンクはホットティーで、サイドメニューはコーンスローで……えっと、それと、スマイルお願いできますか?」
「もちろん」
そういって、白銀あくあは観客席に向かってスマイルを見せる。
次の瞬間、会場が黄色い悲鳴で包まれていく。
これは反則でしょ! 私は2Aのボタンを押しかけた自分の手を、理性でなんとか押し止まらせる。
「くっ……! 剣崎には悪いけど、今回は1Aで!!」
「わ、私も!」
私と楓、ナタリアの3人は欲望と本能に抗いながら、理性で1Aに投票する。
ふぅ……。真面目な仕事モードからの不意打ちのスマイルは止めてくださいまし。心臓に悪いですわ。
2Aのターンが終わると、次は教科書を胸に抱えた祈さん達が走って出てきました。
ええっと、次のコンセプトは勉強している時の私達なのね。
よく見るとステージの先端には図書館をイメージしてか、いくつかの机と椅子が置かれていました。
「祈さんのヘアピンかわいい。留め方もかわいい!!」
「あと、筆箱とかの小物もね。勉強してる時も可愛いを忘れないのは大事です!」
服装だけじゃなくて、そういうところも可愛いを追求する日本人はすごいと思いますわ。
だからこの国は可愛いが詰まってますのね。
ステージの上で勉強を終えた音さん達は舞台袖へと戻っていく。
入れ替わるようにして2Aの舞台袖から眼鏡姿の千聖クレアさんが出てくる。
「おっ、こっちのコンセプトは図書館でお勉強デートか。いいね!」
「ふふっ、三つ編み姿のクレア可愛いわね」
先に待ち合わせに着いてしまったからでしょうか。
彼女は左右に首を振って誰かを探す素振りを見せる。
すると、後ろの舞台袖から出てきた私服の白銀あくあが後ろから彼女の目を両手で隠す。
「誰かわかる?」
「あ……あくあ君?」
きゃああああああああああああああああ!
こ、これって、白龍先生のアレじゃなくって!?
いや、あれは肩ポンだったけど、こっちは目隠しですわ。
す……好きな男性からあんな事されたら、平常心でいられなくなりそう。
観客席から地獄の釜に焼かれた人達のような叫び声が聞こえてくる。
「先生、また負けた」
「先生、敗北乙」
「やっぱり負けるために文化祭にきてるんじゃねーか」
「チケットが当選したのは壮大な前振りだったな」
白目を剥きながらステージを見つめる白龍先生の周りにいた人達が、一斉に手を合わせて彼女を拝む。
ちょっと、貴女達!? 先生はまだ死んでいらっしゃらないですわよ!!
「ごめん。待った?」
「ううん。8時間前に来ただけだから……3日と」
……ん? 今、何時間前って言った?
みんな普通に流してるけど、その後に3日という不穏なワードも聞こえて気がしましたわ。
お願いだから誰か突っ込んでくださいまし。
「祈さん、ごめん。煩悩に負けてごめん」
「こればかりは仕方ないんじゃないでしょうか」
私達3人は2Aに満票を投じる。
普通なら白銀あくあ汚い! 白銀あくあをフルに使う2A汚い! と文句を言う人が居てもおかしくありませんが、誰も文句を言う人はいないようですね。ただ、1人を残して。
「ぶーぶー! ぶーぶー!」
誰とは言いませんが、白銀あくあが出て来る度にずっとブーイングしている人が1人だけいます。
本当に2人とも仲がいいんですね。
2Aのステージが終わると、次は1Aのステージです。
「えっと、今回のターンの1Aのコンセプトは生活指導だって」
「ふふっ、なるほどね。乙女咲は私立だから比較的緩い方だけど、それでも規則がないわけじゃないですから」
1Aの担任の先生と出てきた加藤さん達は、服装について色々と指摘される。
先生が舞台袖に戻った後、加藤さん達は先生に言われた規則に抵触しないように服装の着こなしやアレンジを変えていく。
なるほど、これは乙女咲の生徒や似たような規則の学校に通っている学生達にとってはすごく参考になりますね。
1Aの加藤さん達がステージから舞台裏に戻ると、今度は2Aの舞台袖から白衣を着たペゴニアが出てきました。
えっ? どういう事ですの!? そもそもペゴニアが出るなんて聞いていません。
「ペゴニアさんは特例で学生してますから」
「ふふっ、こういうところも乙女咲のいいところなんですよ」
なるほど……って、だったらなんで白衣なのよ!?
しかもあんなにも谷間を見せつけて大丈夫なのかしら!?
「えっと、どうやら禁断のデートがテーマらしいです。多分、保健室の先生かな?」
「ああ、そういえば、当初、杉田先生にお願いしたらこのテーマで出演するのを断られたそうです」
な、なるほど。杉田先生は至極真っ当だと思いますわ。
ペゴニアは舞台袖から出てきた白銀あくあを抱きしめる。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
「先生と生徒の禁断の恋きたあああああ!」
「これですよこれ!!」
「文化祭が終わった後も先生として頑張れそうです!!」
「お前ら、ワンチャンあるぞ!」
乙女咲の先生達はすごく理性があって自制が効いているとカノンから聞きました。
だからなのでしょう。目の前の光景を見て、普段は押さえつけている欲望が放出されてすごく盛り上がっていました。
後でまた文句言う人がいるかもしれませんが、今日くらいはいいんじゃないのかしら。私だって王女をやりたくないと思った日が何度もあったもの……。
「今回は1Aかな。学生時代に生活指導の先生から廊下を走るな、前見ろって何度も言われてたのを思い出しました」
「私は2Aで。いつも私達のために頑張っている先生達が喜んでくれましたので」
なるほどね。私は……どうしようかしら。
2Aも良かったけど、ペゴニアが若干破廉恥だったのと、白銀あくあが心なしか嬉しそうな顔をしていたのが気に食わないので1Aに投票しておきます。
「1Aの次のコンセプトは休日の私達だって」
「わっ、音さんすごい!」
トップバッターで出てきた音さんは、綺麗なおへそとお腹周りをみんなに見せつける。
え、えっと、生地の丈が足りずにおへそが出てますけど大丈夫ですの? えっ? そういうファッション?
私は普段自分がしない格好だから、音さんの姿を見て少し驚く。
「カーゴパンツとの相性がいいね! 私は好きかな」
「ですね。普通に可愛い」
ステージの先端で音さんが立ち止まると、時計を見るような素振りを見せる。
すると、舞台袖から何人かの生徒達が出てきた。
ああ、なるほど。休日にお友達と遊ぶ約束をしてて、駅前あたりで待ち合わせしていたのかしら?
ふふっ、いいですわね。この光景には観客席から暖かな拍手が送られる。
あら? 小雛ゆかりさん、今、泣いていませんでしたか? 私の気のせいかしら……。
「これは1Aかな」
楓、それは貴方達の大好きなフラグってやつじゃないのかしら?
1Aの人達がステージの上から舞台裏に戻ると、2Aの舞台袖から3人の男達が出てきた。
「うぎゃああああああああああああああ!」
「2Aが本気出してきやがった!!」
「あくあ君、黛君、とあちゃんのトリプルコンボを惜しげなく使うとかずるい!!」
「2人ずつの組み合わせで使うかと思いきや、3人同時起用ですか……これはやられましたね」
「流石にこれは大人気なさすぎる!! でも、いい!!」
「ぶーぶー! ぶーぶー!」
さっき泣いていた人のブーイングが完全にかき消されるほどの大歓声です。
白銀あくあと黛慎太郎が2人して並んで歩いている間に、猫山とあが飛び込んでくる。
素晴らしい演出ですわ。きっと、とあちゃんは2人の距離感が近すぎる事に嫉妬したのね。
私とナタリア、楓の3人は無言で2Aにポイントを入れる。
「とあちゃんのサスペンダー姿、かわわ。センスありゅ……」
「あくあ君デザインだっけ。やはり、あくあ君はとあちゃんの事が全部わかってるんだね」
「ジャラジャラジャラ」
「ガラガラガラ」
「黛君が仲間外れにしないために、天我先輩のグッズ身に付けてるの泣けてくる」
「さすがだよ。マユシン君は」
今回は音さんが勝ってもおかしくないターンでしたが、2Aは勝負に出ましたわね。
残すターンは2回。音ルリカさん、祈ヒスイさん、加藤イリアさんが2回ずつ出てきたという事は、次はくくりさんかしら?
あ、やっぱりそうみたいですね。見慣れた着物姿のくくりさんが舞台袖から出てくる。
「さすがはくくりちゃん様。着物姿の高貴さが違う」
「おおう。流石にこれはレンタルだよね?」
「流石に着物は縫えないでしょ」
確かに学生には無理でしょうね。でも、1人だけできそうな人に心当たりがあります。
私はステージの後ろから顔を出してこっそりと見ている彼女へと視線を向ける。
「ぐへへ」
ほら、やっぱり。
あの女、本当に何者ですの……。
華族六家とかがどうでも良くなるレベルで、スキルがありすぎますわ。
この前、地球が滅んでも白銀あくあと森川楓は生存できるかって謎の検証番組をこの国の国営放送でやってたけど、その中の1人にあの女も加えておいた方がいいですわよ。
ステージの先端に出たくくりさんは、みんなの顔をぐるりと見渡す。
「あの日、あの時、あのお方が全てをぶち壊してくれる日まで、私の日常に自由はありませんでした。ですが、今は違います!!」
くくりさんは、みんなが見ている前でスッと着物を脱いで、中に着ていた可愛い私服を見せる。
ああ、なるほど。見えないところにマジックテープを使ったりして、ワンタッチで脱ぎ着ができるようにしていたのね。くくりさんの私服が若干、地雷系に見えますが、そこはスルーするとしましょう。
ステージの裏から出てきたクラスメイト達が手を広げてくくりさんを出迎える。
いいシーンですわね。観客席からも暖かな拍手が送られる。
さぁ、続く2Aはどうするのかしら。ここから自分達の流れに戻すのは難しいですわよ。
わたくしがそんな事を考えていると、2Aのステージの裏から大きなエンジン音が聞こえてきました。
「何これ?」
「あ、バイクの音じゃない?」
「って事は!?」
ステージの左右から現れた2台のバイクに大きな歓声が沸く。
1台は白銀あくあだとして、もう1台は誰が乗っているのでしょう?
シルバーのかっこいいバイクから降りてきた女性はヘルメットを脱ぐ。
「アヤナちゃんだ!!」
「うぇっ!? ショートカットのアヤナちゃんやばぁ」
「すご。カッコ良すぎでしょ」
「やっぱ、顔いいとショートカットの破壊力がすごい」
「レザーのビタビタライダースーツすごく似合ってる!!」
「ファスナー使ってびたびたにしてるんだね」
「ていうか、腰から太もものところだけ透けてて紐で結んでるのえっちすぎでしょ」
私は手元の資料に目を通す。
なるほど、今回のテーマはツーリングデートなのね。
「実は免許とりました!」
月街さんが取得した免許証をみんなに見せると、大きな歓声が沸く。
なるほど、それでシルバーのバイクを買ったのね。私と楓、ナタリアの3人がニヨニヨした顔をする。
「これは甲乙つけ難い。ただ、今回は衣装のインパクトとウィッグとはいえショートカットが衝撃的だったアヤナちゃんかな」
「私はくくりちゃんで。彼女が中々クラスに馴染めていなかった事が少々気になっていたのですが、さっきの演出を見る限りは今後に期待という意味を込めて」
2人は私の顔を見る。
ちょっと、2人ともいつも私より先に投票して、私に採択を委ねるの狡くないかしら?
とはいえ、私の回答は決まっています。
ファッションとしては月街アヤナさんの着ているライダースーツが良かったですが、ショーとしてはくくりさんのも悪くありませんでしたわ。
だから今回は彼女の未来に期待して、1Aとくくりさんに一票を投じたいと思います。
「いよいよ、次で最後ですね」
「2Aのトリはわかってますから。1Aが何をするのか注目ですね」
最後のターンで1Aの生徒達、全員が出てくる。
彼女達は手に持った小道具を使って、ステージの上でそれぞれが何かの作業を始めました。
これは、一体……?
「1Aのコンセプトは、文化祭の準備だってさ」
「なるほど。最初から最後までテーマに沿って学校生活を中心に構成したのですね。これは素晴らしいです」
準備が整ったのか、ステージの上で何かを作った1Aの生徒達は床に置いていた何かを全員で持ち上げる。
【今日は私達と2Aの先輩達によるファッションショー対決を見に来てくれてありがとうございました! 1年A組全員より】
なるほど、ショーの最後となる仕上げをステージの上でやったのですね。
私や楓、ナタリアの3人は観客席に混じって大きな拍手を返す。
1Aの生徒達は舞台袖に戻らず、ステージの上から2Aのステージを見つめる。
すると、手を繋いでカノンと白銀あくあの2人がゆっくりとした足取り出てきました。
「ちなみに2Aの最後のテーマは、結婚しても出産してもデートだそうですよ」
「なるほど、これが嗜みちゃん大勝利ってやつですか」
ゆったり目のワンピースにヒールの低いスニーカー。
出産後のカノンの事を考えた良い服装ですわ。
しかもスニーカーは白銀あくあと同じメーカー、同じタイプ、同じ色合いなのがいいですね。
白銀あくあも気取った格好じゃなくて、こっちの方が普段の彼っぽくていいと思いますわ。
2人はステージの先端でみんなに手を振ると、舞台袖から出てきた2Aのクラスメイト達に優しく出迎えられる。
「皆さん。今日は俺達2Aと1Aのみんなのファッションショー対決を見に来てくれてありがとう! 最後はカノンと一緒にタキシードとドレス姿で歩いたらどうだろうって意見もあったんだけど、あえてこういう形にさせてもらいました。それと俺達2Aと1Aのみんなが着た衣装は、この後から学校内の教室に展示されるので、明日来る人はそちらを楽しんでもらえたらと思います!! もちろん、投票は明日の分まで有効なので、皆さんガンガン投票してくださいね!!」
なるほど、ここで結果が決まるわけじゃないのね。
2Aと1Aの面々はお互いに健闘を称え合うエールを送り合うと、それぞれのステージの舞台裏へと戻っていく。
それじゃあ、私たちもそろそろ……って考えていたら、司会を務める生徒が私達の方に近づいてきました。
「それでは最後に、審査員の方から一言もらえますか?」
そう言って、司会の女生徒は私にマイクを手渡す。
それを見た楓とナタリアが、どうぞとばかりに頷く。
あ、貴女達、まさかとは思いますが、こうなるのを見通して私をセンターにしていたのですか!?
全くもう! 仕方ありませんわね!!
「どちらのショーもすごく良かったです。その中でも1Aは日常の私達というテーマに沿って、統一感のあるコンセプトで流れを構成していたのが良かったと思いますわ。2Aは白銀あくあという最大の武器を使って、彼を中心にうまく構成していたと思います。衣装として印象に残っているのは、1Aが最初に見せた音ルリカさんのファッションと、2Aの月街アヤナさんが着ていたライダースーツの2つでしょうか。衣装だけじゃなくて音ルリカさんのピンク色のツインテールもすごく良かったですが、月街アヤナさんのショートカットがすごくカッコよくて見惚れてしまいそうでした。1Aのデザイナーである伊坂千歳さん、2Aのデザイナーである白銀あくあさん、どちらも特色が出ていてよかったと思います。改めて1Aと2Aの皆さんには、素晴らしいショーをありがとうございましたと言わせてくださいませ」
とまぁ、こんな感じでよろしいのではなくって?
楓が私の隣で「いよっ! さすがは審査委員長!」などと言って持ち上げてくる。
ふん! 全くあなたもあの女に良く似て調子がいいんだから。
わ、私はそんな言葉ひとつで簡単に絆されたりするような軽い女じゃないんですからね!!
ほら、お腹空いてるんでしょ? 今日は私が特別に奢ってあげるから、着いてきなさいな!! もちろん、ナタリアもね。
私達3人は審査員席から退席すると、残り少ない文化祭を楽しむために屋台が並んでいる場所へと向かう。
こうして無事に乙女咲高校の文化祭、1日目が無事に終了しました。
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