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雪白えみり、デートって何すればいいんですか?

 あ、あくあくあくあ様と私がデートォォォオオオオオ!?

 予期せぬ事態に私は心の中で慌てふためく。

 あくあ様の事だから、文化祭では普通にカノンとデートすると思っていた。

 くっ、完全に油断してたぜ。こうなったら、隣に居るりんも巻き込んだろ!


「そ、それなら、りんも一緒にどうですか? 実は、こいつも結構裏で頑張ってまして……」

「もちろん! 文化祭は人数が多いほど楽しいしな!」


 巻き込まれたりんが珍しく焦ったような顔をする。

 すまねぇ、りん。あくあ様と一緒にお化け屋敷に入ったら、私の右手が何するかわからねぇんだ。

 だからもし、私の右手が勝手にあくあ様に対してご無体を働こうとしたら全力で止めて欲しい。

 そんな事を考えていたら、ポケットに入れていたスマホが振動する。

 くっ、こんな忙しい時に、いったい誰だよ!?

 私はポケットからスマホを取り出すと、メッセージアプリの通知を開く。



 検証班のグループ。


 乙女の嗜み@中年のあくあも良い……!

 えみり先輩、私の代わりに楽しんできて。

 あっ、もちろん後で話を聞かせてね。2828。



 こ、こいつぅぅぅううううう! 完全に謀りやがったな!

 あれか。お前の箪笥の中にあったお気に入りの穿き慣れた子供っぽい下着を、私がこっそりと大人なランジェリーに変えた事への仕返しか!?

 いや、あの呑気なカノポンが箪笥の中の下着が変わってても私の仕業だと気がつくわけがない。

 そもそも私が隠した子供っぽい下着は、そういうのをカノンに穿かせたい趣味のペゴニアさんの手によって元に戻されてた。定期的にカノンの部屋に忍び込んで、愛用している下着の毛玉を勝手に綺麗にしている時にちゃんと確認済みだ。


 はっ!?


 それともこたつを出していた時に、シロの振りをしてあくあ様と一緒にカノンの足を……くっ、絶対に気がついてないと思ったのに!!



 検証班のグループ。


 乙女の嗜み@中年のあくあも良い……!

 全然知らないんだけど!?

 何やってるのよ。もおおおおおおおお!


 乙女の嗜みさんが貴方をキックしました。



 あれ? どっちも違ったのか……。

 てへっ! 色々とバレちゃったけど、ま、いっか!

 今まさに恥ずかしがってるカノンを想像しただけで白米が何杯も食えそうだ。

 私はスマホをポケットにしまうと、固まったりんの背後から肩を揉む。


「ほら、りん。リラックスリラックス」

「あ、う、うん」


 あくあ様はりんが落ち着いたのを見て、私たち2人の方に手を伸ばす。


「よし、それじゃあ行こうぜ!」


 私とりんは、あくあ様の手を取る。

 ほんの一年前まで、男性が女性に対して手のひらを向けたら、無言でお金を差し出す事への合図だったんだがな。

 いやあ、時代も変わったもんだ。

 周囲をよく見ると、男性枠の抽選チケットで当たった男性達が女の人と手を繋いで歩いているのが見える。

 おっ、あの人は彼女と文化祭でデートかな? あっ、あの母親と手を繋いでる中学生の男の子は、乙女咲への進学を希望してて見に来ていたりして。それじゃあ、あそこの家族で見に来ている人達は。子供の進学先として乙女咲を検討しているから雰囲気を見るために文化祭に来てるのかもしれないな。

 やっぱりあくあ様はすげーわ。私は隣に居るあくあ様の顔をジッと見つめる。


「ん? えみり、どうかした?」


 私の視線に気がついたあくあ様が少し恥ずかしそうにする。

 くっ! 普段はカッコよくて強くて頼り甲斐があるのに、時たま見せる子供のようなあくあ様と、純粋なあくあ様が堪らない。

 どうか、あくあ様はずっとそのままで居て下さいね。


「そういえば昨日さ。あく丸と散歩に行って帰ったら、シロにすごく嫉妬されちゃってさ……」

「ああ、シロはどこかのお姫様に似てヤキモチ焼きだから」


 私の返しにあくあ様とりんの2人が笑みを溢す。


「でも、シロのヤキモチはどちらかというと小雛ゆかりさんに似てる理不尽さがあるで候……」

「「それはある」」


 急速に真顔になった私とあくあ様の言葉が重なった。

 ああ、やっぱり、あくあ様と私はいつだって同じなんですね。


「でも、シロとあく丸は仲良いよな。今日だって向き合って寝てたし」


 違うんです。あくあ様。

 聖あくあ教が開発したワンニャン翻訳機によると、ご主人様であるあくあ様に可愛がってもらうために、お互いが監視して牽制しあってるだけなんですよ……。

 ちなみにこの手の翻訳機の精度を疑う奴がいるが、すでに精度の方は実証済みだ。



 シロ

 やば、ホゲゴリラさんだ。

 パワーで頭をガシガシ撫でられないように、大人しくしとこ……。


 あく丸

 このオーラは間違いなく百獣の王。

 まさか我ら動物の王が、ゴリラから進化して人間に紛れていたとは驚いたなぁ。



 楓パイセンの前で急に大人しくなって、絶対服従のポーズを決めた2匹を翻訳した結果がこれだ。

 私はこの結果を見た瞬間に秒で真顔になった。

 楓パイセンはお腹をみせたシロとあく丸を見て、こいつら、私を舐めてるのか? と言っていたが、完全に逆である。

 やっぱり動物は本能で生物学的に誰が最強なのかちゃんとわかってるんですね……。


「おっ、あそこ人多いな」

「行ってみますか?」

「ああ!」


 私とあくあ様、りんの3人は人だかりができていたところへと向かう。

 って、野球? どうして、文化祭で野球?

 私は近くにあった看板に視線を向ける。


【野球部のエンドレス野球】


 エンドレス野球って何?

 私達はルールを書いてる看板へと視線を向ける。



 ・試合時間は文化祭開始から終了まで。

 ・審判と守備で足りないメンバーは野球部のメンバーやOB、監督や助っ人達が入れ替わりで務めます。

 ・基本的に負けているチームに経験者を入れるので、経験者は自己申告してください。

 ・最終的なスコアと、赤チームと青チームどちらが勝つかを当てた人には、郵送で何か送ります。

 ・参加してくれた人には野球部特製スポドリのサービス。熱中症に気をつけて文化祭を楽しんでね!



 へぇ、面白そうな事やってるじゃん。

 私はあくあ様とりんの背後に回ると、受付の方に向かって背中を押す。


「せっかくだから2人とも1打席くらい参加してきたらどう?」

「えみりがそう言うなら」

「わかったで候」


 私達が受付に近づくと、それに気がついた周りの観客達から歓声が沸く。

 ええっと、今、負けてるのは赤チームか。赤チームが2アウト満塁でって、絶好のチャンスじゃん!!

 なるほど、グラウンドの周りに居た人達はこの大事な場面でバッターとしてもピッチャーとしても出たくなくて固まって見てたのか。


「無理無理、私、あくあ様とか抑えられる自信ないって!!」


 野球部のエースと思わしき子が首を左右に振る。

 まぁ、普通に考えてそうだよな。楓パイセンとあくあ様とイリア辺りは、バットを振った時の音からして明らかに他と違うもん。前にあくあ様が特大ホームラン打った時も、カキーンなんて軽い音じゃなくて、車にぶつかった時みたいな破壊音を出していた。


「じゃあ、俺がピッチャーやろうか。バッターはりんちゃんでどう?」

「わかったで候」


 野球部のみんなは小柄なりんを見て不安そうな顔をする。

 チッチッチッ、小熊ベアーズでセンターやショート、セカンドを守っているりんは、打率3割5分前後を推移している巧打者ですよ。しかも足が速いから内野安打でも二塁まで行くし、盗塁がとんでもなく上手い。

 この見た目に騙されちゃダメです。

 監督ヅラをした私は、りんに近づく。


「りん。あくあ様はきっとストライクゾーンの内から外に出て行くボールでバットを振らせてカウント稼ぐつもりだ。それと、インコース攻めから中に入ってくるボールに注意しろよ。あくあ様はノーコンパワーの2人と違って制球力があるから普通に入れてくるぞ。落ち着いて当てていけ」

「が、頑張るで候」


 りんはブカブカのヘルメットを被ると、打席へと向かう。

 唯一の救いは、あくあ様のチームのキャッチャーが私じゃない事か。

 野球には、フレーミングと呼ばれるボール球でも捕球の仕方でストライクに見せるキャッチングの技術がある。

 小熊ベアーズでキャッチャーを務める私は、こういう審判を騙す小手先の技がめちゃくちゃ得意だ。

 私が妊娠で外れた後のあくあ様のストライク率が下がっているのを見ると、キャッチャーを務める野球部の子次第だが、りんにもチャンスはあるだろう。


「プレーボール!」


 止まっていた試合の再開を告げる審判の言葉に、増えた人だかりが大きな歓声を上げる。

 まずは初球……高めの甘い球だ。やった!!


「くっ!」


 ああ、惜しい。ファールボールだ。りんの打った打球が右に転がる。

 すっぽ抜けたわけじゃなくて、高めに狙ったスライダーだったか。

 変化に対応しようとしたりんは、あくあ様にバットを泳がされたな。

 基本的に高めの配球は狙い球だが、狙って投げた威力のあるボールはなかなか打ち返せない。

 続く2球目、りんはしっかりとボールの軌道を見極める。


「ボール!」


 よーしよしよし! これでカウント1−1だ。

 頑張れよ。りん。

 続く3球目、あくあ様はインコースの外から中に入ってくるスイーパーでカウントを稼ぐ。

 ちょっとちょっと! 今、明らかにボールでしょ!!

 うちのりんが振ってなかったんですから。間違いないって!!

 監督ヅラをした私は、試合を止めて審判に近づく。

 毎試合退場して罰金もらってる小熊ベアーズのなんとか監督なら必ずこうやって抗議したはずだ。


「いやいや、さっきのはストライクじゃなくてボールでしょ!!」


 私はわざとらしくキャッチャーの前で手を使って枠を作って見せた。

 それを見た外野から笑い声が起きる。


「それネットで見た」

「小雛ゆかりと同じ事やってて草」

「えみり様、モノマネうますぎ」

「表情どころか身振り手振りも完コピなのウケる」

「エンターテイナーすぎ」

「あくあ様、めっちゃ笑ってるじゃん」

「バッターのちっこい子、チャンスだぞ! 頑張れ!!」


 私は審判の子にウインクして合図を送る。

 すると審判の子はすぐに理解したのか、私を退場処分にした。


「去って行く時の姿も一緒じゃん」

「まだ文句言ってて草」

「こーれ、小雛ゆかりです」

「なお、小雛ゆかりはこの後、罰として町内会でボランティア清掃やらされました」

「流石にえみり様もそこまでは真似無いでしょ」


 いやいや、明日、私、普通に掃除しますよ。

 そこをSNSにあげるまでがネタです。

 やるからには完璧にやらないと。

 ネットの外に出た私はグラウンドの様子を見守る。


「ボール!」


 よーしよしよし! カウントはこれで2ボール2ストライク。

 私の纏った小雛パイセンのオーラが、ゾーンギリギリのくさいボールをストライクじゃなくてボール判定に持って行った。やっぱり困った時には小雛パイセンなんですね。

 その後、りんは3球続けて厳しいコースのボールをカットしてファールで粘る。


「ふぅ」


 速いペースで豪速球や変化球を投げていたあくあ様は、ここまでの文化祭の疲れもあってか軽く呼吸を整える。

 続く8球目。あくあ様は集中した表情でボールを投げた。


「あっ」


 あくあ様が完全にやらかした時の声を出す。

 指のかかりが緩かったのか、回転の少ないボールをりんが丁寧に捉える。

 丁寧に打ち返したりんの打球がファーストの横をすり抜け、ライトの横を転がっていった。

 なんとかライトが拾ってホームに返球するも、2塁と3塁に居た2人が帰塁。1塁は3塁に進み、打ったりんは2塁に進塁する。一打逆転、よくやったぞりん!

 それにしても、りんは普通に前の走者を追い越しそうになって戻る足の速さはヤバすぎだろ。

 やっぱ、りんを塁に出しちゃダメだわ。


「うわっ、やっちまったぁ! みんな、ごめん!」


 あくあ様はみんなに謝る。

 それに対して、駆け寄ったみんなが気にしないでと励ましの声をかけた。

 りんが打った事で勇気が出たのか、お客さんの1人が「こんな機会、滅多に無いから」と次の打席に立つ。

 しかし、ここはあくあ様が意地を見せて、なんとかお姉さんを抑えて3アウトにする。

 その裏、ピッチャーマウンドを降りたあくあ様が打者のお姉さんとハグして、運営さんに近づく。


「せっかくだから、同点にして帰っていい?」


 まさに有言実行。初球でホームランを打ったあくあ様はスコアを同点にして大歓声に包まれる。

 もはやこれには私もりんも真顔で拍手しました。やっぱ、あくあ様はパネェわ。

 あくあ様はスコアを当てた人のプレゼント用に、使ったバットやグローブ、ボールにメット、帽子にサインを書く。

 ほう……野球部の皆さんは、抜かりがないですね。仕方ない。私が監督ヅラで退場した時に被っていた備品の帽子にもサインを書いておきますか。ついでにイマジナリー小雛監督のサインも真似て書いておこっと。

 一瞬、いらないって言われたら、どうしようかと思ったけど、野球部の皆さんは喜んで受け取ってくれた。それと、備品の帽子に勝手にサインしてごめんね。後でバイトして、新しいの送っとくから……。


「ごめん、えみり。待たせた」

「いえいえ。私は2人の活躍が見れて良かったですよ。りん、お前、良く打ったなー」


 私は戻ってきたりんを揉みくちゃにする。


「えへへ。褒められて嬉しいで候」


 ほれほれ、可愛いやつめ!

 私とりんが戯れる姿を、あくあ様が優しい目で見つめる。


「2人とも。外が少し暑くなってきたし、中に入ろっか」

「はーい」


 校舎に入って歩いていると、カラオケの出し物をしているクラスがあった。

 目の前を歩く私達を見つけた生徒達が期待の眼差しをこちらに向ける。

 しゃーねぇ。お姉さんが高校生達の期待に応えて一肌脱いじゃいますか!

 まぁ、心の中じゃ、私はいつだって剥き出しなんですけどね! ぐへへ!


「あのー、せっかくだから3人でなんか歌っちゃいませんか?」

「うん、俺はいいよ」


 さすが、あくあ様。わかっていらっしゃる。

 その一方で、りんが焦った顔をしていた。

 どうかしたのか?


「せ、拙者、若者の歌はちょっと……」


 いや、りん。お前も十分に若いだろ……。


「それじゃあ、3人で歌える曲にする?」

「いいですね。せっかくだから3人でeau de Cologne歌っちゃいます? おっぱい大きい人のパートは私に任せてください!!」

「ははっ、相変わらずえみりは面白いな。じゃあ、俺はアヤナのパートで!」

「じゃ、じゃあ、拙者がふらんさんのパートで……」


 りんは平たい胸の上に手を置くと、少しだけ悲しげな表情を見せる。

 そういえばこいつ、あく丸が大きなお姉さんにばかりデレデレしていたのをみて悲しい顔をしてたっけ。

 ほらほら、そんな事よりパーっとカラオケ歌ってみんなで盛り上がろうぜ。


「ずきゅん♡ ずきゅーん♡」


 萌え萌えソングの時のあくあ様のノリが良すぎて吹き出しそうになった。

 ちゃんと振りまでアヤナちゃんのパートを完コピしてるの流石です。

 私は撮影をお願いしてた生徒からスマホを回収するとネットに投稿した。

 すると、すぐにコメントがつく。



 白銀カノン@新人ママさん。

 えみり先輩、ナイスです。

 あくあ、誇張表現してたらアヤナちゃんに怒られるよ……。

 それと、りんちゃんの声、綺麗だからもっと聞かせて。


 桐花琴乃@仕事中。

 はわわわわ! ありがとうございます!

 休憩時間に癒されました!!


 月街アヤナ@文化祭きてね!

 ちょっと待って! 私、こんなぶりっ子見たいな感じでやってないもん!!

 明らかに誇張表現でしょ!!


 白銀あくあ@文化祭で会おう!

 いやいや、どっからどう見てもアヤナでしょ。

 特に、32秒あたり、自分の才能が恐ろしくなるぜ……。


 小雛ゆかり@劇が終わったら学校から追い出されたんですけど!?

 アヤナちゃんの方が、もっと可愛いに決まってるじゃない!! 


 城まろん@二日酔い。

 わ、私も、そんなおっぱい揺らしたりしてません……。


 ラーメン捗る@文化祭潜入成功。

 何言ってるんですか?

 まろんさんなら、もっと揺らしてますよ!!


 来島ふらん@今日のシロちゃん当番。

 りんちゃんさん、歌上手いんだからもっと堂々と歌ってください!!

 ふらんパートを担当するなら、まろん先輩とアヤナ先輩のパートを歌う人には負けたらダメです!!

 たとえ、それがあくあ様やえみり様であっても絶対です!!


 森川楓@迷子。

 おい、そんな事よりも学校の中で迷ったんだが、どうしたらいい?



 私はくくりにメッセージを送ると、迷子になってる楓パイセンをお願いする。

 あいつなら、大人組の姐さんや阿古さんよりしっかりしてるから大丈夫だろ。

 そもそも一緒に来たはずなのに、最初の段階で居なくなって今までどこに行ってたんですか。

 もう、変な事件も全部終わっちゃいましたよ。


「えみり、りんちゃん。みんな、アンコールって言ってるから、もう2、3曲、歌っていこうか」

「はい!」

「うう、わかったで候」


 私たちはその後、あくあ様のソロと、私とあくあ様のデュエット、りんとあくあ様のデュエット、私とりんのデュエットで4曲も歌ってしまった。

 カラオケが終わった私達は渇いた喉を潤すために、カフェをやってる教室で少し休憩する。


「へぇ、ここのカフェ。あくあ様がメニューを考えたんですね」

「ああ、去年、俺たちもカフェやっただろ? だから、それを参考にしたいから相談させてくださいって後輩達に言われちゃってさ」


 後輩の1年生に頼られて嬉しかったのか、あくあ様は少し照れた表情で嬉しそうに話をする。

 あくあ様、ごめんなさい。あくあ様が今まさに飲んでる、生徒のお母さんが搾った牛乳を使ったあくあ様専用ミルクコーヒーのミルクの出荷元が気になって、あくあ様の話が全く頭の中に入ってこないんです。

 しゃあねぇ。私も後輩が頑張って作った真夜中のラブシロップティーで飲んで心を落ち着けるか。これも一体、何のシロップなんでしょうね。ぐへへ!


「拙者、普通の温かい緑茶でお願いするで候」

「はい」


 りん、何でお前は置きに行くんだ? 私は珍しく真剣な顔つきをする。

 この流れは、担任の先生が頑張って作った熟成蜂蜜ホットケーキを注文して、ホットケーキ好きのお前が美味しそうに食べる流れだろ!! 全く、熟成された蜜だなんて、どんな蜜を使ってるんだ。けしからん!!

 私とあくあ様は追加で頼んだホットケーキを半分こする。

 うん、名前が怪しかったけど、普通に美味しいし特段変な味はしなかった。

 喫茶店を出た私達はブラブラと歩きながら色々と見て回る。

 へぇ、ここの教室の展示物は面白いな。乙女咲高校に入学してからのあくあの歴史をまとめてあるのか。

 え? 前日祭の時に一番乗りでカノンが来てた? やっぱりトップヲタは違うな。私は心の中で掲示板民の代表に拍手を送る。


「おっ、あそこに俺のフォトスポットがあるみたいだぞ」

「あっ、本当だ。って、カノン!?」


 等身大カノンの看板なんてよく許可が降りたな。

 ぐへへ。せっかくだからいっぱいイタズラしちゃろ!

 あくあ様は自分の看板と一緒に写真を撮ってSNSに上げる。

 え? どっちがかっこいいかって?

 そんなの、もちろん本物に決まってるでしょ!

 小雛なんとかさん以外はみんなそう答えた。

 せっかくだから、私もカノンと一緒に撮ってあげたろ!!

 私はりんに、カノンの看板の抱いた私の写真を撮ってもらう。



 雪白えみり@文化祭マンキツ中。

 みんな、ごめん。実は私、不倫してるんだ……。


 白銀カノン@新人ママさん。

 ちょっとぉ!? 人を巻き込むのはやめてもらっていいですか!?


 白銀あくあ@文化祭で会おう!

 な、何だってぇ〜!?

 はぁはぁ、そそそそその話、詳しくお願いできますか!?


 ヴィクトリア@今日だけJK。

 あなたは何で少し嬉しそうなのよ……。


 桐花琴乃@仕事中。

 えみりさん、冗談とはいえ、仕事中に心臓が止まりそうな投稿をSNSにするのやめてもらっていいですか?


 森川楓@迷子卒業。

 くくりちゃんと合流した。助かったよ。えみり。



 やべっ! 姐さんのこれはガチモードだ。

 私はダイレクトメッセージで冗談が過ぎましたと平謝りする。

 すると姐さんから「嘘ですよ」とすぐに返信があった。

 全くもう。姐さんはああ見えてチャーミングなんだから。

 後、楓パイセン、そういうのは裏で言ってくださいよ。検証班のグループチャットがあるでしょ!

 あ……そういえば、私、さっき嗜みを弄って検証班のグループをキックされて見れないんだった……。

 って、嗜み、あいつ! SNSの方まで私の事をブロックしやがった。ちくしょー!! 後で総理直伝のスカートめくり土下座して解除してもらお。ぐへへ!


「それじゃあ、そろそろフィナーレのファッションショーがあるから。えみり、りんちゃん。また後でな」

「はい、あくあ様!! うちの1Aも負けませんよ!!」


 昨日の友は今日のナンタラってやつだ。

 あくあ様やカノンには悪いけど、やるからには1Aが勝たせてもらいますよ!!

 私はりんにショーがよく見えそうな穴場スポットを教えると、ショーの準備をしているであろう1Aの教室へと向かった。


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https://x.com/yuuritohoney

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